久々に短い期間での更新です。そういえばこの前初めてユーノスレを覗いてみたところ、これを連載し始めた頃に読んでくださっていた方がいて、作品名が出ていたのが物凄く光栄でした!
ですが、その直後から更新が停滞気味になってしまったので、きっと読んでくださった方を失望させてしまったかもしれません……。
こんなことなら、ちゃんとストックをいっぱいためておくべきだったなと痛く後悔しました。
ですが、最近は割と読んでくださる方が多いのでうれしい限りです。
そんな気分のまま、ストック分を一本投下します。
シリアス気味に仕上げたつもりですが、あまりうまくはないかもしれません。
おまけに、バトル待った無しなタイトルを付けて書いた割に、書いていくうちにバトルが無しのまま一区切りがつき、書きあがったというなんとも不思議な結果に……。
しかし、ここらはアインハルトとの邂逅の終結であり、この『ViVid編』の本格的な指導となるとても重要な部分なので、出来るだけ全力で書き上げた当時のままの気分で駆け抜けたいと思い、早めの投稿となります。
では、どうぞ!
目を覚ましたその場所は、全く知らない天井が広がっていた。
ひどく驚き、辺りに視線を向けようとした。
一体、ここはどこかと、少女は自身の周囲を見渡す。
すると、
「目、覚めた?」
そう声が聞こえてきた。
驚いて声のした方向を振り返ると、優しげな蒼天と翡翠の瞳が、此方を覗き込んでいた。
「身体はもう平気?」
その優しげな笑みを、少し悪戯っぽく変えて……彼は少女にそう訊いた。少女はあたふたと答えることができずにいる。
「え、えっと……その」
そんな曖昧なつなぎの言葉が漏れ出し、早く答えないと――という気ばかりが焦ってしまう。そんな軽くパニック状態に陥った彼女を見て、それを察した彼は――。
「あ、いきなりじゃ状況把握しづらいよね? 昨日、あの後倒れちゃった君を僕が連れてきたんだ。僕の家に」
取り敢えず、状況を説明してみることに。
大方の状況を伝えると、少女は驚きを残しつつも経緯を理解したようである。それを見て、彼はとりあえず第一段階は済んだと判断し、次の話――というか、まだ聞いていなかったからだが――。
「じゃあ、自己紹介でも……今の僕の名前も、君の名前や事情を教えて欲しいし」
と、いった。
「な、名前ですか……?」
そんな風にいきなり話を振られて、予想外の質問に戸惑い、思わずそう聞き返してしまった少女だが……そんな彼女の様子を、少年はさほど気にせずに、彼女の聞き返しに応えた。
「うん。ハイディ・E・S・イングヴァルトとは聞いたけど、E・Sのところが分かんなかったから……あ、一度名乗って貰ってるのに、重ね訊きは失礼だよね。じゃあ、改めて――」
少年は、そう言って少女に微笑みながら自身の名を名乗る。
「フライハイト・スクライアです。よろしくね、お姉ちゃん」
「お、おねっ……!?」
あぁ、それは一人っ子の
「お姉ちゃんのお名前は?」
そう訊かれ、彼女は――
「あ、アインハルトです。アインハルト・ストラトスと言います」
つい流されるように答えてしまった。
あっ、とアインハルトが思ったのもつかの間。
ふむふむ、とハイトは納得するように頷きながら、
「アインハルト・ストラトス……成る程、それでE・Sなんだ」
といった。
「え、えぇ……」
ほーん、と納得のバイトに戸惑うアインハルト。彼の意図が読めない、というより……何だか懐かしい様なマイペース感である。
それがどことなく自身の内に残る記憶と重なる。
昨夜の時と同じく、とても温かで……優しい日々の記憶と、それはつながった。
それと共に、部屋のドアが開く。
「ハイトくん、お友達は起きましたか?」
「あ、ソフィお姉ちゃん。うん、起きたよ。ね、ハルお姉ちゃん?」
「は、はい…………っ!? あ、貴女は――ッ!」
アインハルトの視線が急に鋭くなる。どうしたのかとハイトは一瞬思ったが、怒りと恐れが入り混じっているような、そのものすごい剣幕を浮かべるアインハルトを見て、ハイトは昨夜の戦いの際に交わした言葉の端橋を思い出し、「あ……」と呟き、その剣幕の理由にようやく気づいた。
そういえば、彼女は知らないのだ。
ソフィがすでに正気に戻っているのも、シュティレがユーノをマスターにしてついているのも、彼女がハイトの姉の一人であることを。
そうこうしている間にも、ベッドから跳ね起き、ソフィに拳を向けようとしているアインハルトの前にハイトはすぐさま立ちはだかり、言った。
「まって! ソフィお姉ちゃんは、もうあの時とは違うんだ!」
ハイトが必死でソフィを庇おうとしたのを見て、アインハルトも拳を一旦収める。その視線は鋭いままであるが、止まってくれたことにホッとしつつ、
「ねぇ、ハルお姉ちゃん、大丈夫だよ。あのね? ソフィお姉ちゃんは――」
そういって、ハイトはアインハルトにこれまでのことを話した。
《皇帝》と、それにまつわる負の遺産の終わりを。そして、そこから始まった――一つの自由の物語を。
過去の柵もはなくなり、ソフィを縛っていた呪いも消え失せ、皆が新しい日々を生きているのだ……と、そうハイトはアインハルトに告げた。
それに対する彼女の反応はというと……先ほどまでの警戒は完全に消え、どちらかと言えば悲しげなものだった。しかしそれでいて、どことなく嬉しくもあるような……複雑な表情だった。
その心情を完全に察することは出来ないが、ハイトはアインハルトが自分のことを気にかけてくれていたのだろうことだけは、確かに感じ取っていた。
「そう、なんですか……」
アインハルトは少しうつむき、そうつぶやいた。それは、新たに知った事実の確認でもあり、自分自身が呑み込み切れない分を、咀嚼しているかのようでもあった。
そして、そのうつむいた顔を上げると、ソフィに向かって頭を下げ非礼を詫びた。
「先ほどは、軽率に拳を向けてしまい……申し訳ありませんでした」
彼女の謝罪に、ソフィは「いえ……大丈夫ですよ」といい――そしてそこからさらに、ソフィはまだ頭を上げていないアインハルトへ向けて、そっと言葉を紡ぐ。
「もう頭をあげてください。貴女は、何も悪いことはしていないのですから……」
「ですが……」
アインハルトはそれでもと言い淀む。そんな彼女に、ソフィはそっと語り掛ける様に言葉を紡ぎ始めた。
「かつての私の犯した過ちを思えば、先程の反応は当然です。ですが、貴女は矛を取りながらも、しっかりとそれを収め、私たちの話を聞いてくれました。感謝こそすれ……それどころか、寧ろ謝罪をするのは私の方ですから……」
そういってソフィはアインハルトに頭を下げると、
「あの時は本当に、申し訳ありませんでした……。ごめんなさい」
と、謝罪した。
「い、いえ……その……こちらこそ……!」
アインハルトは慌てて、そんな風にしどろもどろになってしまう。そんな二人をみて、ハイトは「とりあえず……謝り合うよりまずは、自己紹介をした方がいいんじゃないかな?」といった。
「それもそうですね……『あの時』も、今も、私は名乗ってすらいませんでしたね……。では、改めて――初めまして、私は、ソフィ・スクライアです」
ソフィは過去を悔やむ様に、少し悲しげな表情をした後、頭を上げ、澄んだ声で今を生きる自分の名を名乗った。そこへ、自身のこれまでのことも踏まえ、少し語った。
「嘗て、《皇》に仕えていた者――でした。先程の通り……今は、一人の人間として、お父様やお母様方、そしてこの子たちと共に生きる道を選ばせていただいています。かつての罪が消えたとは思っていませんし、そう簡単に許されるものでないのも承知の上ですが……」
ソフィは、アインハルトをまっすぐに見据えると、
「それでも、その罪を精一杯償いながらでも……今度こそはちゃんと、向き合って生きて行こうと誓っています」
自身の決意を述べた。
それを聞き、アインハルトはソフィの決意が偽りなど微塵もないものであることを確信した。まがい物の気持ちでは、決して語れぬ重みが込められた言葉だった……という事を。
しかし、だからこそ――。
「…………」
アインハルトは、そこから先――どうすればいいのか、何といえばいいのか、分からなくなり口をつぐんだ。
その場に、しばしの沈黙が流れる。
アインハルトはその沈黙にしばし浸るように、意識をおぼろにする。その間、彼女の脳裏にはいくつかの
しかし、その根底は考えるまでもなく単純明快なものでしかなく、詰まる所それは――自身が、一体何をしたかったのか? という考えに帰着する。
子供の様に世の理に込められた何かを探していた。
そこには、悲しみや後悔、或いは喪失感や怒りの様な混然としたもの同士を、自らの内に同居させながらも、ずっと……探していたのだ。
されども、その疑問の根底に至るまでの理由と同様に、その更なる根底となるものもまた、非常に明瞭なものであり、「自身が何をしたかったのか?」という問いかけはそのままに、その元々の想いの形を取り戻していく。
――成したかったことは何か?
どこの誰よりも強くなることだ。
――何故それを成したいのか?
もう二度と失いたくないからだ。
そう、もう二度と……
だからこそ、強さを求めた。
今度こそ、失わないように。
誰かに手を差し伸べることができないなんてことが無いように……
そのために、この時代でも拳を握った。
だが、実際はどうだろうか?
決起し、亡霊の如くこの時代の強者たちを打ち倒し続けた。
自分の力――強さが、そこに宿っていると証明するために。
そうして、何人もの強者たちを下してはきた。そうして得た勝利こそが、己が強さを物語るのだと……そしてそうすることで、自身を高めいているのだと――それ故に、強く在れていると、思っていた。
しかし――。
『弱さは、罪……過ち、か……。確かに僕も、時にはそう思わなくもなかったけど……それでも、圧倒的な強さにも意味があったとは思えない』
そうして、巡り合った。
『何よりも――それを教えてくれたのは、君たちだったじゃないか』
再び、この世で……。
そうやって、求め、目指した『道』は、既に最強ではなくなっていて……。時を超え、再び巡り合った友の手によって、いつの間にか歪んでいた『過ち』は打ち砕かれた。嘗て、暗がりに佇んでいた彼を少しだけ光に誘えたときと同じく、今度は逆に……いや、寧ろ〝また〟というべきだろうか……彼によって、歪になっていた志と縋りついていた柵は、断ち切られたのだった。
……そう、いつも『救われている』のは、自分の方だった、
大切だと思っていた誰しもが、自分よりも『強い』から……誰も、守れなかった。守るどころか、隣にいる事さえ、出来はしなかった。
『弱い』自分では、守る側に立つことは出来なかったのだ。
そうして、いつでも残され――大切な人たちが守り抜いた場所で、願った世界で、名を馳せた。譲り受けた力で、……守った。
誰も守り抜けなかった後悔だけを残し、その身はその地で枯れ……その地で朽ち果てた。
だが、散ったはずの命は、再び生を受ける。
いくつもの時代に、その命は再び輪廻した。
蘇るようにして、怨念の様にして、探し続ける道へとその足を踏み出した。
胸を締め付けるその痛みと、身をよじるような後悔を感じながら、探し始めた。しかし、見つからない。答えなど、どこにもなかった。……いや、それは違うのかもしれない。本当の答えとは、真実とは、元から自分の内に刻まれているのかも知れなかった。
それが、歪んでいたというだけで……ずっと、ともにあったのかもしれない。
だがそれに気づかないまま、自らはめた歪んだ枷と、後悔に曇った心を柵の鎖で縛り付け、永久に消えない自責にさいなまれ続ける道を選び続けていた。
なんと、愚かだろうか……。誰かを守りたいはずの心は、いつの間にか己の志を遂げるためだけの独りよがりへと変わっていたのだから。
何もできない自分、それが嫌だと思ったからこそ……強くなりたかったというのに、その願った〝強さ〟という憧れにも似た象徴は、いつの間にかその輝きをひどく濁らせ、そしてそのイメージを歪めていた。
そんな考えの渦に巻き込まれていく少女だったが、
「ハルお姉ちゃん」
ふとかけられた声で我に返る。
パシパシと目を瞬かせながらも、少女――アインハルトは、その光を取り戻した瞳を、先程の声を発した少年――ハイトの方へと向ける。
「もう、大丈夫だよ」
ハイトは優しく語りかける。
「そんな風に、辛いことを一人で抱え込まなくても、いいんだよ?」
そういったハイトにつづき、
「私がこんなことを言うのも、なんともおこがましくはありますが……アインハルトちゃん? 人は、間違う生き物です。その想いの根底が、善でも悪でも……時にそれは狂おしいほどの狂気を生み、そして想いを抱いた者を歪ませてしまいます。ですが、そうした過ちを犯してしまっても、やり直すことができます。こんな私でも、そうする道を選ばせてもらいましたから。貴女なら必ず……私などよりも聡く尊い、何よりも強い一歩を再び歩めます」
――絶対です、とソフィはそう優しくアインハルトに言った。
「ですが……私は……」
アインハルトは、絞り出すように、先ほどまでの悶々とした自問自答を含めた心境を語り始める。
「私は……そんな風には強く在りませんでした。いつでも、どんな時でも、守られてばかりでした。どれだけ願っても、目指しても、志しても、決して届かない頂に……大切だと思った人たちはいってしまった。隣に立つことも、守り切ることも、止める事も……何も、出来ないんです……ッ! この手が、この体が、いつだって最強であれるのならば……必ず、守れると…………今度こそ、手を差し出せると……っ! そう、思っていたのに……!! 私には……何も、何一つとして、成すことは出来なかったんです……!!」
――私が、弱いから。そうアインハルトは言った。
「だから、今度こそ……ベルカのどの『王』たちよりも強く、この世界での最強であれるのなら、と……幾多の世界を、この『
嗚咽が混じり、アインハルトの美しい碧と紫の瞳からは涙がこぼれ、目元から頬を伝い落ちていく。熱を持ったその雫は、少女の白い肌を、目元から順に赤く染めていく。嗚咽と共に、微かに震える様な声は、アインハルトの心の痛みを、二人により強く伝えた。
しゃくりあげる様に語られる心情。一人の少女が、嘗ての王だった少年の残した想いの重さや悲しみを受け止めていたが故のそれらはまるで、そのか細いような、弱々しいような響きとは裏腹に……どこか、悲鳴の様でさえあったように思えた。
ソフィはまるで弱っていくかのような、そんなアインハルトを抱く手を少し強め、いった。
「……その道は、いくらでもあります。貴女が、その胸の内に持つ想いを本当に失わない限り」
優しい声で、その涙の根源を諫める。柔らかに身を包み込む絹衣の様に、ソフィの温かさがアインハルトへと浸透していく。
「……私、は……っ」
しかし、それでもアインハルトの声は、やはりどこかか細くて……。でも、いや、だからこそ――そんな彼女にハイトはいう。
「なら――一緒に探そう?」
「え……?」
「分からなくなったら、足を止めてもいいし……辛いなら、僕たちがいる。前は出来なかったことだけど、今度は違う」
ハイトはアインハルトに手を差し出す。
「この
――だから、もう寂しくなんかないよ! と、ハイトはアインハルトに向かっていった。
アインハルトは、その向けられる記憶よりも温かく穏やかな笑みと、差し出された手に戸惑う。だが、それもやがて、かたくなだった心と共に溶けていくように……おずおずと、その手に手を伸ばす。
そして、手と手を取り合い……アインハルトは思った。
(…………温かい)
と。
そこには、確かに彼がこの世界――時代でつかんだ幸せが内包されていた。
漠然とだが、そう感じ取った。
加えて、記憶にあるよりも悪戯っぽく、どこかほんわかとした雰囲気の少年を見て――少女は、この時代での始まりの階段に足を掛けた。
『王』だった少年の悲しみは、完全ではないにしろ解きほぐされ……少女はどこか強張っていた
差し出したかった手に、再び手を差し出されたけれど……それも、悪くないのかもしれないと思う。自分は、まだ、弱いから。
ただ、それに伴う認識は、ほんの少しだけ変わっていて――。
「本当に、いいんでしょうか……?」
「もちろん♪」
弱いことをただ後悔するよりも、迷いのない、その声と……少年の見つけた、新しい何かを知りたくなった。かつて、あの『シュトゥラ』の城の庭で過ごした日々のような時間を、また過ごせるなら……きっと、その答えの行先を、一緒に見られるのかもしれない。
――肩を並べて、今度こそ……最後まで共にあれるのかもしれない。
そんな想いが、少女の中に生まれる。いや、元々あった願いだったのかもしれない……だが、少なくとも……この時、この瞬間において、少女は――ただの『記憶の亡者《迷いし亡霊》』ではなくなっていた。
そう思えたことに、特別な根拠はない。
とはいえ、仮にその理由を問うのだとすれば、それは……。
あの煙に満ちた戦乱の渦巻く世界の空の下で、寂しげに、そしてどこか悲しそうに影を背負い続けていた少年の姿の光景と、今目の前にいる少年の姿が重なりあって、そこに有ることを感じたからかもしれない。
それは――。
(……あなたは、得られたのですね。求めていた、温かな日々と……安らかな平穏を)
決して揺るがない、愛を――きっと彼はこの時代で見つけたのだろうと。
嘗て、迷っていた少年が、この時代で何かに至った。そのことが、彼女を動かしたのかもしれない……。
――――こうして、この日……『覇』の定めを負った一人の少女は、新たな一歩を踏み出したのだった。
「――あ、でも倒した相手にはちゃんと謝ってね?」
「は、ハイ……(しょぼん)」
「そうですね、ちゃんと謝罪は致しませんと」←昔壊した無限書庫とか、倒したマフィアさんとかに謝罪経験あり(その際、彼らに惚れられたりもした)。
そんな訳で、後日謝罪に伺ったところ……アインハルトの強さにほれ込んだファンが続出することになったりしたことは内緒だ。加えて、再び彼女と対戦するためにSAに熱が入ったり、アインハルトのファンクラブ(非公式)が発足したこともまた余談である。
* * *
少年の手を取った少女は、その彼とその姉に案内され朝食に招かれることに。招く、と言っても所詮家のリビングまでの移動に過ぎないが、結構広めの家なので移動には少々手間がかかるのも事実。
これは、そんな移動中の会話風景である。
「そういえば、ハルお姉ちゃんは『諸王』に――『聖王』、『冥王』にも会いたかったんだよね?」
ふとそんなことを聞かれ、アインハルトは一瞬びくりと驚いたが、すぐに元に戻りその問いかけに応えた。
「え、えぇ、そうですが……」
そう答えると、先ほどまであまり気づかなかったが、思ったよりも――正確には、自分よりは頭半分くらい目線が下にある少年は、にっこりと笑いながら「だったら、きっと……」と少しもったいぶったようにして、
「きっと、びっくりするよ?」
と、続けて言った。
どういうことだろう? とアインハルトは思ったが、その疑問の答えは、すぐに出ることになる。
「此方ですよ」とソフィに手招きされ、リビングの入り口に彼女と一緒に入ると、食卓の方から元気な声が聞こえてきた。
「あ、お姉ちゃん、それにハイトくんも。やっと来たんだ。ごはんもう出来てるよ~?」
「ふふふ、ごめんなさい。ヴィヴィオちゃん、ちょっと話し込んでしまった物ですから」
そういって、ソフィが〝ヴィヴィオ〟と呼んだ少女に視線を移すと……アインハルトの目に、鮮やかな金髪と、輝かんばかりの翠と紅の瞳が飛び込んできた。
それを見て、少し言葉を失う。
「あ、こんにちは。ええと……」
「アインハルトちゃんですよ、ヴィヴィオちゃん」
「じゃあ、改めて……初めまして、アインハルトさん!」
浮かべられた満面の笑みは、もしかしたら横に立つ少年の記憶よりも深く鮮明に残っているかもしれない。あの、硝煙に覆われていた世界の中でも、決して輝きを失わなかった……その笑顔だけは。
記憶に焼き付いたイメージと、今目の前にある光景が重なる。
なるほど、驚くかもしれないというのは、こういう事だったのか。そうアインハルトは悟るが、そんな思考はそのあたりで打ち切られる。
姉と弟以上に友好的な少女は、「どうぞどうぞ」とアインハルトの手を引きつつ、食卓へと招き入れる。招かれた食卓には、アインハルトを含めた四人の子供たちのほかに、三人の大人たちがいた。
「なのはママ、フェイトママ、ユーノパパ! みんな来たよー」
そういって、ヴィヴィオが声を掛けた三人は、そんな元気な娘とそんな彼女に引っ張られるようにしてやって来た子供たちに「おはよう」といって笑顔で迎える。そのままアインハルトも含めて食卓に着くと、明るい栗色の髪の女性が「本日の朝食は、オムレツとハムエッグ、それとミネストローネでーす♪」とにこやかに料理を振る舞って行き、ハイトやヴィヴィオより幾分明るめの色彩をした金髪の女性は「おかわりもあるから、いっぱい食べてね」とアインハルトも含めて子供たちに向けてそう促したのだが、
「…………(オロオロ)」
アインハルトは、どうにもこのフレンドリーすぎる雰囲気にちょっと困惑気味である。
そんな彼女を見て、末娘とその弟と同じ翠の瞳をした男性が苦笑しながらアインハルトを落ち着かせるか、なだめる様にして「たはは……。賑やか過ぎて、ちょっとびっくりしたかな?」というと、栗色の髪の女性は「賑やかなことはいいことだよ? ユーノくん」といって、「そうだよ、ユーノ。賑やかなくらいがちょうどいいんだから」と金髪の方の女性もその言葉を引き継ぎ、ユーノと呼ばれた男性に言った。
それを受けて、「まぁそうだけど、でも初めてだとやっぱりびっくりしちゃうよね?」といたずらっぽく返す。その様子が、どことなくハイトに似ていると思った。
加えてユーノは、二人に押され気味ながらも自己紹介がてら、女性二人の名前と自身の名前、そして子供たちの名前も含めて、改めてアインハルトに伝えた。
ユーノのフルネームは『ユーノ・スクライア』。先ほど、ソフィが言っていた名字と同じだとぼんやり思い出していると、二人の女性の名前も告げられる。
高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
かなり有名な名前だ。ミッドの人間なら、多少なりとも聞いたことがあるであろう、その名前は――嘗ての『JS事件』において、ミッドの壊滅を防いだという最強のエースたちのものだった。
しかし、こうしているだけなら、普通の母親にしか見えないものだな……と、アインハルトはふとそんなことを思った。
続けて、子供たちの名前をユーノはいう。
ソフィ・スクライア。
フライハイト・スクライア。
高町ヴィヴィオ。
意外なことに、此方も名字が異なる。先ほども、有名な名なので少し薄れてはいたものの、少しは思っていたことだ。どういうことなのか、というか聞いてもいいものなのか釈然としないので、アインハルトは聞くのを躊躇ったのだが……家庭の事情のかはさておき、少なくとも目の前にいる人たちはとても穏やかに幸せそうであった。故に、そんなことは些細な問題なのかもしれないとアインハルトはその答えを語られるまで待つべきと判断した。
そして、名乗ってもらったのでアインハルトも名乗ることに。
「えっと……ハイディ・E・S・イングヴァルト。E・Sはアインハルト・ストラトスと。普段はこちらの方が主です……」
名前を聞き、良い名前だねとか、古代ベルカの方関連かぁのようなことがさらりと、わちゃわちゃと聞こえたが、はっきりとどうとも言えないのでちょっとポカーンとしていると、ユーノがアインハルトについて興味津々ななのはやフェイトを諫めつつ、子供たちも落ち着かせながらも、「ははは……。まぁ、そうだね。みんなの言う通り、せっかく来てくれたわけだし……ゆっくり、気兼ねなくくつろいで行ってね」と言った。
そんな風に、なのはとフェイト、それに娘たちに押される様子は、どことなく柔な感じを持ったような青年だが……だからといって、押されてすぐに体制を崩すわけでもなく……どこかほんわかしているけれど、何というか隙の少ないような……なんだか、ちょっと不思議な感じの雰囲気を纏った男性だとアインハルトは思ったが――ユーノはそれを警戒心につなげるような雰囲気などは皆無で、寧ろ落ち着くくらいの空気を纏った彼にそういってもらい、先程から戸惑いだらけではあるけれど……アインハルトは「はい。ありがとうございます」と、既にもうだいぶ薄れた緊張が完全に抜け落ちていくのを感じながら、そう返した。
そうして、一同揃い「いただきます」の合図とともに朝食が始まった。
並んだ料理を一口、口に運ぶと……その美味しさに感動したような感覚を受けたアインハルトは、「とてもおいしいです」と自然と口から言葉が漏れた。そんな彼女になのはとフェイトは「ありがとう」と返した
「ウチのママたちは世界一だよ~」などとヴィヴィオが言ったりして、ハイトが「うんうん」となんだか小動物っぽく頷くのを見て、とても和やかだなあとアインハルトは思った。
(温かい人たちだ……)
ほんの少しだけ、口元が緩みそうになる。
笑み――とまではいかないかもしれないそれは、少女自身がそれを自覚する前に消えてしまった。それに対する自覚もなく、故に消えてしまったことに対する認識もなかった。だからこそ、知らないことが……未だ心の枷を外しきれないのかもしれない。
――始まりはしたけれど、全てを決着させたわけではないから。
誰も知らないまま、その無意識な行為はそれを包み込む温かさの内に溶けていく。しかしいつか、本当にそれが融解したとき……その包み込む温かさの内に、また一つの温かさの器が生まれるのやもしれぬ。
そんなとき、
「そういえば……聞きそびれていたけど、アインハルトは昨日どうしてハイトに抱えられてきたんだっけ?」
ぴしりっ、と空気が凍り付いた様な音がした気がした(約二名を覗いてだが)。
「ふ、ふぇっ……!? か、抱えられて……ですか?」
アインハルトは、顔を赤くしながら恐る恐ると言った感じに聞く。
「うん。昨日いきなりハイトが気絶した女の子抱えてきたからびっくりしたなあ……」
息子への信頼故か、さしあたって気にしていないユーノは何気なく言うが……というか、ハイト本人も気にしていなけれども……女性陣の反応はというと――。
「――女の子をお持ち帰りするとか、いつからそんなふしだらなことになっちゃったの? ママは、そんな子に育てた覚えはありません!」
ぷんぷんと擬音が付きそうなほどに、「私、怒ってます」な雰囲気のなのは。
「えっと、ええとね? ハイトもアインハルトもまだ子供なんだし……その、何というかあんまり…………ふ、ふしだらなことはしない方が……(もにょもにょ)」
強く言えない所為かどこか語尾が尻すぼみ気味になっていくフェイト。
「駄目ですよ、ハイトくん。女の子には優しくしませんと……そういえばこの前もノーヴェさんを蹴り飛ばしたとか何とか――(くどくど)」
女の子には優しく、を語りだすソフィ。
「…………」
無言のヴィヴィオ、ある意味彼女が一番怖い。
……逆に、その当事者でありながら疑問符を浮かべ平然としている人の方がある意味では恐ろしいのかもしれないが。
「……(かあぁぁぁっ)」
どういうことなのかさっぱりわからないけれど、とりあえずよく考えてみればアインハルトがここにいるのは隣にいる少年に連れられてきた以外にない。つまり、気絶してからここまで連れてこられる間は……とはいえ正確な場所は分からないため、どのくらいの距離かはさておき……ハイトに抱えられてきたという事になるわけであり、それを自覚したアインハルトは顔を真っ赤にしてしまった。
「……ハイトくん?」
「なぁに、お姉ちゃん?」
毒気皆無の同様無し。かえって怒りすらそがれてしまうようなその声に、ヴィヴィオは少々面喰いつつも、
「……アインハルトさんに何をして、どうして連れてきたのかをまだ聞いてないよ?」
取り敢えず目いっぱい恐い(つもりの)顔でヴィヴィオはハイトに聞いた。
「ん―……、まずね? 帰り道でノーヴェと歩いてたら、ハルお姉ちゃんが勝負したいっていうから相手になって、それで倒して――」
「「ストォォォ――プッッッ!!」」
「?」
どうしたの? とでも言わんばかりにハイトは首をかしげて語りを制止した母親たちを見る。
「ハイトってば、アインハルトちゃんを倒しちゃったの!?」
「というか、そもそも何で戦うことになっちゃってるの!?」
訳が分からないよ、とでも言いたげなママンズにハイトは何気なく語りを進めていく。
「だって勝負だし……辛そうなハルお姉ちゃん見てたら、助けなきゃって思って……その、つい」
ついって……!? と驚く母親たち。というかマジモードとの切り替えが早すぎる。そろそろハイトは集中力が切れてきたらしく、先ほどまでのシリアスモードはどこへやら……すっかり
どうやら、彼は高揚しやすく冷めやすい質らしい。
「それで、倒れちゃったハルお姉ちゃんを道にそのままにするわけにもいかないから、抱えて連れてきたの」
さらりとそんなことを言う。まったく気に求めていないかのようにそう言われたアインハルトは、ちょっとばかり面白くない。……そういえば、なんだかこんなやり取りが前にもあったような――と、アインハルトはかつての彼に何の感慨もなしに弄ばれた女性たち(『黒』と魔女猫)の記憶と時間を越えて
あの時も、彼女らのことを特に恥ずかしげもなしに弄んだ(本人たちの談)彼は、時代を越えて尚……まったくと言っていいほど鈍感であった。――《皇》の血を引くのを自覚すると、鈍感になる特殊な体質なのだろうか?
まぁそれはともかく、ハイトの語りは続いていく。
「事情は大体そんなこところだけど……戦いになった理由も説明するね」
「理由?」
ユーノは少し不思議そうな顔をする。格闘技をやっている息子たちと戦いというから、てっきりこの前のノーヴェのような感じかと思っていたのだが、先程のことを聞く限り……どうやら二人はストリートファイトをしたことが分かる。
そこに、何か理由が有るのは明白と言えば明白ではあるが……。
「どういうこと何だい?」
「……それについては、私の方からお話しさせてください」
「アインハルトさん……?」
少し重たげに言うアインハルトに、ヴィヴィオは少し不思議そうな声を上げる。
「――私は、ハイトさんに勝負を挑みました」
そうして、アインハルトが語りだした。
先程、一区切りがつくまでのこれまでを。そして、これまで縛られていた記憶と共に。
――時を超え、彷徨い続ける亡霊の様に突き動かされ続けた、これまでを。
――その元となった、幾多の戦場を越え、『覇』を成した『王』の記憶を。
――そして、悠久の時を経て……再び出会った『王』と《皇》の戦いを。
――『ベルカ』の地にあったもう一つの物語が、
「――――以上が、私が戦った理由です……」
そうして、アインハルトはこれまでを語った。
戦いの理由を……至った結論を。
「そっか……」
なのははそういって、少し寂しそうな表情をしたが……しかし、それでも優しい瞳はそのままに、なのははアインハルトに言った。
「これまでと、これから……。色々あってもきっと、楽しくなってくると思う。一人じゃ無いなら……必ず」
微笑みと共にそう告げる。すると、フェイトも――
「辛かった記憶は、そう簡単に消えるものじゃないけど……それでも、前を向いて歩き出せたなら、きっとこれからは、楽しいことがいっぱい増えると思う」
優しく、言葉は紡がれていく。
「そうだね。二人の言う通り、きっと楽しい思いでもいっぱいできると思う……。アインハルト、これからハイトたちとも仲良くしてあげてくれるかい?」
「……はいっ」
そうユーノに告げられたアインハルトは、しっかりと強く頷き返す。
すると、そんな彼女に「アインハルトさん」という声と共に、ヴィヴィオが話しかける。
「私は、ハイトくんとは違ってオリヴィエの記憶は持っていません。……でも、私もアインハルトさんと仲良くなって、これからの思い出を作っていきたいと思いました。ここで話を聞いただけの私ですけど……これから、仲良くしてもらえますか?」
真っ直ぐな、その言葉。記憶の中のオリヴィエと、重なるその姿。
違う、重ねるべきではないはずだと……思う。
ヴィヴィオ自身が言った、オリヴィエとは違うと。それは、先程自身が感じたことや、行き着いた答えとほぼ同じことだ。記憶に突き動かされるだけでは、何も掴めない。そのことを、ようやく知った。
だからこそ、
「――はい。こちらこそ、よろしくお願います……!」
もう一度、始めるために……手を差し出す。
少しだけ気恥ずかしいその感覚は、久しく忘れていたものだったようにも思えるし、ずっと共にあったようにも思える。
ただ、分かることは……これからは、きっと『覇王』としてだけでない自分が始まるという事だけだったが――今は、それだけで十二分以上であることは、疑いようもない事であるのだから……。
この日、この時をもって――再び、『王』達の手は交錯する。
……あの時、《皇帝》の手を取って『闇』の内から引き出した『聖王』と『覇王』の定めが、この時代でも再び交わるのだった。
ヴィヴィオとアインハルトが手を取り、アインハルトが一歩踏み出したようにヴィヴィオやハイトもまた一歩を踏み出した。
友となり、そしてまた先へと進んでいく。
――――そして、幾つもの新たな物語が、ここから本当に始まっていくのだった……。
* * *
次回、『旋律が告げる、お楽しみの予感 ――サプライズアタック――』