さて、そんな本編投稿ですが、今回もちょっと時間の都合上前書きのみとなります。キャラ紹介纏めといて何いってんだって感じですが、そのあたりはご勘弁を。
あと、アンケートの方はまだ受け付けてますので、2/26までの間でしたらお気軽にどうぞ。現在ご意見の方は一件頂いており、セインを模擬戦に参加させる可能性が濃厚と言ったところですが、もう少し考えるつもりではいます。あと、セインの能力をどう生かすかも結構思案のしどころな気もします。
さて、毎度毎度長ったらしい前書きですが、今回はこんなところです。
それでは、合宿編の本編第一話をどうぞ!
『カルナージ』――無人世界であるこの地は、ハイトやヴィヴィオの住む世界『ミッドチルダ』の首都である『クラナガン』から臨時次元航行船でおおよそ四時間ほどで着くところにある。ミッドとの時差は平均で七時間。年間を通して温暖な気候が豊かな大自然の恵みを運ぶ、とても穏やかな世界である。
「うふふ」
そして、そこに住む一人の儚げな印象の少女が――。
「ふはははははっ! みなさま、まとめてドーンとおいでませぇぇぇ~~~っ!!」
……。
…………。
………………。
……………………いた筈、何だけどなぁ。
ルーテシア・アルピーノ、十四歳――近頃ちょっとばかり元気な女の子である。
「カ・ン・ペ・キ!!」
でも、元気なことはいいことである。
ともかくそんな訳で、訪れる予定の皆は彼女とその家族の皆様の待つ、『カルナージ』を目指して早速動き出していたのだった。
* * * 『いざ出発、異世界旅行』
リオ、コロナ。そしてアインハルトとノーヴェを乗せたスクライア家の車は次元航行船の発着場である『次元港』へと向かう。
次元港へと到着すると、そこには青と橙の髪をした二人の女性と合流した。
「こんにちは~!」
「こんにちは」
「久しぶりだね。スバル、ティアナ」
「はい。お久しぶりです、なのはさん!」
「本当にお久しぶりですね」
親し気に挨拶を交わす二人となのはを見て、アインハルトはちょっと戸惑い気味に三人の顔を見る。
そんな彼女にノーヴェが説明をする。
「あの二人は青い方があたしの姉貴で、スバル・ナカジマ。それでその隣がスバルの親友のティアナ・ランスター。ちなみに、二人とも管理局員で、なのはさんの教え子」
「そうなんですか……!」
アインハルトは少し驚く。なのはたちの名前を聞いたときに、あの『エースオブエース』と『元機動六課』の人だというのは知っていたが、この前ハイトに(気絶したまま)連れてこられた起き見た限りだと、完全に家庭的な母親にしか見えないので……正直なところ、そういったことを完全に失念していた。
「ははは、まぁ驚くかもな? 普段のあの人達しか見てないならさ。でも、ハイトもそうだけど……皆スイッチ入るとすげぇから、気合入れとけよー?」
悪戯っぽく言うノーヴェだが、未だ実感のわかないアインハルト。
まぁしかし、そういったことはともかくとして……。こうしてそろった一同は次元船に乗り込み、目的地である次元世界『カルナージ』へと向かって行った。
そして、座席に着いた一同は移動時間である四時間ばかりをそれぞれの過ごし方する。
読書、睡眠など、色々な過ごし方をしながら時間を潰し、そして一同は『カルナージ』の地へと降り立つのだった。
「「みんな、いらっしゃ~い♪」」
華やかで満面の笑顔でやって来た皆を出迎えたのは、紫髪の美人母娘。一見すると姉妹にすら見えるその二人は、『ルーテシア・アルピーノ』とその母親である『メガーヌ・アルピーノ』である。
「こんにちはー」
「お世話になります」
「たびたびどうも」
保護者代表としてなのは、フェイト、ユーノが挨拶をする。
「いえいえ~♪ みんな来てくれてうれしいわぁ。食事もいっぱい用意したからゆっくりしていってね」
「「「はい!」」」
メガーヌの言葉にうなずくと、子供たちはルーテシアと「久しぶりだね~」とにこやかに挨拶を交わしている。
するとそこへ、
「お久しぶりです」
「お疲れ様でーす」
そう言いながら薪を抱えたエリオとキャロがやって来た。
「エリオお兄ちゃん、キャロお姉ちゃん! 久しぶり~!」
「久しぶりだね~」
ハイトとヴィヴィオが二人が来たことにはしゃいでいると、まだちょっと場について行けていないアインハルトにフェイトが説明する。
「紹介するね。私たちの家族、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエだよ」
二人がよろしく、というと隣からルーテシアがニヤッとしながらこう言い添える。
「一人ちびっ子がいるけどー、私たち三人みんな同い年」
「ななな、なんですと―!?」
1.5㎝も伸びたのに―っ! とキャロが怒りルーテシアをポカポカと涙目で叩く。その様子は、完全に駄々をこねるお子様にしか見えない。というか、寧ろ身長はヴィヴィオ達とほぼ同じ……アインハルトにはギリギリ抜かれてしまっている。
そんな三人のやり取りを見て少しポカンとしてしまったり、ルーテシアの召喚獣であり家族でもある『ガリュー』にアインハルトがびっくりして攻撃しようとしてしまったりなど……何やかんやと色々あったが、とにかく一通りの準備は済んだ。
「さて、大人の皆さんはお昼前にトレーニングでしょ? 子供たちの方はどこか遊びに行く?」
「んー、まぁまずは〝川遊び〟かな……。お嬢も来るだろ?」
「うん」
「よっしゃ、アインハルトもこっちこいよ」
「は、はい」
そうして一同は早速と言わんばかりに動き始める。
なのはが、
「じゃあ、着替えてアスレチック前に集合だね!」
と言い、元六課一同+ユーノは『はい/うん!』と元気よく答える。
するとノーヴェもまた、
「全員水着に着替えてロッジ裏に集合だな!」
と子供たちに呼びかけると、『はーいっ!』とこちらも負けず劣らず元気に返事をする。
そんなみんなを見て、メガーヌが「それじゃ、合宿開始ね♪」というと皆は腕を突き上げるようにして、
「「「おーっ!」」」
と、声を上げた。
こうして……合宿が、ついに本格始動したのだった。
* * * 『ウォーミングアップ』
ホテル・アルピーノのロッジ裏にある川にて。
「「「やっほーッ!!」」」
ばっしゃーん! という音と共に、大きな水しぶきが迸る。
それに伴い、きゃっきゃっという声を発しながらそのしぶきをあげた少女たちが戯れを始める。それを見ながら、少しばかりいつくしむような視線を送るノーヴェとソフィ。そんな二人の隣で少しばかり戸惑ったような面持ちのアインハルトと、既にだらーっと河原でリラックスモードに入っているハイトの姿があった。
ハイトは全く持っていつも通りの通常モード、そんな彼に呆れるノーヴェと苦笑するソフィ。
ヴィヴィオたちも慣れているらしく、もうこれは自発的にくるまで待とうという方針に入っているらしく、アインハルトの方に「アインハルトさんも、どーぞ!」と声を掛ける。それを聞いてもまだ躊躇しているアインハルト。そんな彼女の背をノーヴェは少し押してやる。
「行って来いよ。御指名だ。ただ、あのチビ共の〝遊び〟は……存外ハードだぜ?」
にやり、という言葉がぴったりくるような表情でノーヴェがそういうと、ソフィも「一緒に行きましょうか?」と手を差し出してくる。「で、では……」といって、おずおずとソフィに手を伸ばし、彼女と共に皆の元へと向かう。
そうして〝遊び〟に参加することにしたアインハルトだったが――。
(……あれ? 速い……っ!?)
何か、妙な感じがする気がした。そんな彼女の様子に、ノーヴェは満足そうに「お、もう気づいたか……?」と呟く。
アインハルトは少しずつだが、その違和感に気づいていく。
(…………皆さん、元気いっぱい……というか――)
競争、ボール遊び、シンクロ、遊泳。
それのどれもが、選手のするような本格的なトレーニングでは無い。……無いのだが。
(……元気、過ぎるというか……)
確かにどれも、〝本格的〟というにはほど遠いのに……皆の動きは〝速い〟し、自身の動きはどことなく〝遅い〟様に感じる。だが、そのどれもが鍛えているアインハルトには別段ついていけないという程ではないが――それでも、
アインハルトに蓄積されていくその〝疲れ〟……それがだんだんと蓄積されていく。
なのに、ヴィヴィオたちはちっとも疲れた様子がない。あくまでも、楽しそうに〝遊んで〟いる。
その違和感に気づいてから数十分後、アインハルトは一時離脱を余儀なくされた。
少し上がった息を整えつつ、一旦岸に上がり寝ているハイトの傍にへたり込んだアインハルトにノーヴェとクリス、そしてリーがタオルと飲み物をもって傍に来る。
「はははっ。さしもの『覇王』様も、チビたちの元気には敵わないか……にしても、コイツはまだ寝てんのかよ」
「…………」
そんなハイトへの苦笑交じりに、どことなく悪戯っぽいノーヴェの問いかけだが……アインハルトはどちらかというとまだ少し驚きのような感じが強く、どことなく上の空のような気分であった。しかし、たった今結果として感じているこれは、確かな確信として彼女の中に入ってきていた。
「やっぱし、あんま水の中は経験がないか?」
「……体力には、少しは自身がある方なのですが……」
「いやいや、大したもんだと思うぜ?」
ノーヴェにそういわれても、なんだかそうとは思えない。そんな風にどことなく不満そうな感じのアインハルトにノーヴェは自身の経験も交えて少し語る。
「あたしも救助隊の訓練……ああ、姉貴のスバルに付き合って受けたことがあってさ? で、そこで知ったんだけどさ。水の中で瞬発力を出すには、また少し違った力の運用が必要なんだよなー」
力の運用の違い……。知っていたはずだけれど、どことなく失念していたという事だろうか。
「という事は、ヴィヴィオさんたちは……」
「あぁ、かれこれ週二くらいか。プールで遊びながらトレーニングしてっからな……」
「……トレーニング、ですか……」
ノーヴェのその言葉を受けて、アインハルトはぽつりと呟く。
確かに、水中では通常よりもかなりの負荷がかかる。そこで体を動かすには通常よりも力がいるのだが……短時間、或いは瞬間的になら、それほど難しい事でもない。しかしそれを持続させるには持久力が要求されてくる。
動き続ける限り、負荷はずっとかかり続ける。その状態でそのままの動きを維持するのは半端に鍛えられた
結局、負荷状態で通常通りに動き回るというのは、言うだけなら容易いが……実際にそれを行おうとするのは難しいのだ。これを克服するのであれば、地道な努力の積み重ねが必要であり……今のアインハルトは、ヴィヴィオ達がそれをしているのだという事をまざまざと見せつけられたかのような気分だった。
「まぁあいつらはそんな遊びを通してだけど、柔らかくて持久力がある筋肉が自然と出来てるんだ」
ノーヴェは何気なく言うが、アインハルトは寧ろ今目の前にあるこの事実に真剣な顔をする。正直ここに来たのは、ハイトのあのメッセージに言いくるめられたからではあるけれど――きっと勉強になると思うよ?――あの言葉は大げさでも誇張でもなく、寧ろアインハルトの中に残っていた疑念を粉々に打ち砕いた。
自身の認識不足を痛感する。ここへ来てからこんな風に学ぶことというか、ハッとさせられることばかりだ……、とアインハルトは甘い認識を改める。端的に言えば、この『合宿』をなめていたと自覚したのだった。
「どーだい。ちょっとは面白い経験だろ?」
そういわれ、アインハルトは是非もなく頷いた。しかしそんな彼女を見て笑っているものが一人……。
「――やっぱり来てよかったでしょ?」
いつの間にか起きていたらしいハイトがちょっとからかうようにいう。だが、実際その通りなので何とも言えないアインハルトはちょっとばかり頬を羞恥に赤く染める。
「っていうかハイト、お前もそろそろ行って来いよな――って、そうだ! アインハルト、ちょっと面白いもん見せてやるよ」
そういって笑うノーヴェは、「ハイトも」と言って彼をヴィヴィオ達のところへ行かせると、水の中にいる格闘型の四人に――ソフィとルーテシアは
「四人とも、ちょっと〝水切り〟やって見せてやってくれよ!」
その声に、
「「「はーい!」」」
――と元気に返事を返す三人と、ちょっとだけ語感弱めの一名が川の中で正拳突きの構えをとる。
「水切り……?」
この流れがよくわからないアインハルトは、少々不思議そうな顔をするが……
「なぁに、ちょっとした御遊びさ。おまけで打撃のチェックもできるけど、な?」
ノーヴェがそう説明するが、今一つイメージがわかない。だが、そんな彼女の疑問は直ぐに晴れることに。
「えいっ!」
「たあぁっ!」
「いきますっ!」
「せいっ!」
四人の撃ち出した拳の衝撃が水面を突き進みながら、その表面を割って――いや、
それを見て、アインハルトはこの〝水切り〟の意味を大体理解できた。
先程のヴィヴィオたちの様子を見ていた限りでは『拳の正確さ』を競う限りでは、ヴィヴィオが一番の様に見えた。
だが、そのことに感心するよりも……自分もやってみたいという気持ちが先行する。
そんなアインハルトの心情を読み取ったかのように、
「アインハルトも格闘技強いんでしょ? 試しにやってみたら?」
ルーテシアがそう勧めると、ソフィもまた「そうですね。アインハルトちゃん、やってみませんか?」と言ってきた。勿論、やりたくてうずうずしてたようなアインハルトは一も二もなく頷いた。
「――はいっ……!」
早速持っていたタオルとカップをクリスとリーに返し、再び水の中へ入る。
先ほどまでヴィヴィオたちがやっていたのを思い出しながら、拳を構える。
(水中じゃ大きな踏み込みは使えない……。なら、抵抗の少ない回転の力で……出来るだけ柔らかく――)
――打ち抜く! と、勇みながらアインハルトは拳を撃つが……。
彼女はなった拳は、ドッパァーン! と水面に
「あれ……?」
「すごーい!」
「水柱、五メートルくらい上がりました!」
ヴィヴィオたちはアインハルトの立てた水柱にはしゃぐが、これでは本当に只の水柱でしかない。
今一つ分からないといった感じで、アインハルトは自分の拳を少し見つめる。
……何だか、イメージと違う。
それが、彼女の〝水切り〟をやってみた率直な感想だった。
(前に、進んでいなかった……)
どうしてかわからない。しかし、明らかにアインハルトの放ったそれはヴィヴィオたちのそれらとは異なっていた。
戸惑っている彼女に、ノーヴェが解説に入る。
「お前はちょいと、初速が速すぎるんだな……」
ノーヴェはアインハルトの前に立つと、大まかにコツを説明する。
「初めはゆるっと脱力して、途中まではゆっくり。インパクトに向けて鋭く加速。これを素早く、かつパワーを込めてやると――」
そういって撃ち放ったノーヴェの鋭い蹴りが、流れを真っ二つに断ち切り川の底をさらした。
それを見て、アインハルトは純粋に凄いと感じ、自分もあそこまでいきたいと強く思った。すぐさまノーヴェの言っていたことを反芻し、自身の動作のイメージを修正しながら……再びその拳を撃ち放つ準備を始める。
(構えは脱力……インパクトの瞬間へ向けて加速。それまでの途中はゆっくりと――)
最後の瞬間だけ、全力で打ち抜く! そうやって放った拳は先程と同じくらいの水柱を立てる。だが今度は、アインハルトの放った拳の衝撃波は、ほんの僅かながらも……少しだけ
それを見たアインハルトは、
「……! も、もう一度やってみてもいいですか?」
と、続行を決意。
そんな彼女を周りも止める気はないらしく、ヴィヴィオも「どーぞ、どーぞ!」とむしろ自分も続けることを決めたらしい。そんな訳で、ばしゃーん、ばしゃーん! と続けざまに拳を撃ちまくっていた二人を見て、ハイトも珍しくやる気になったようで半ば挑戦的に川の流れに逆らうように立ち……拳を撃つ準備を始めた。
普通、流れに逆らって正確な拳を撃ちぬくのは至難の業なのだが……。
スパーンッ! と小気味いい音を立てて、ハイトの拳は流れを突き抜け僅かであるが流れの中を突き抜けていった。
一同は唖然とし、やる気になった彼の出鱈目さを少しばかり再認識した後……すぐさま負けず嫌いな二人がハイトと同じ方向で〝水切り(逆流れ)〟をやり始めた。しかし、ハイトに比べると二人は悪戦苦闘している。元から脱力状態が主みたいなハイトはこの動作が思ったより得意らしく……回数を重ねるごとに制度が上がり、同時に威力も増していく。
そんな子供たちの様子を見て、やれやれと苦笑するノーヴェ。
結局、そのあとハイトが川の底をさらしたあたりで二人――もちろんヴィヴィオとアインハルト――の方がギブアップとなって幕切れとなるのだった。
* * *
子供たちが川で遊びつつ、ちょっと悪戦苦闘(主に二人)している頃。大人たちは一同揃い踏みでアスレチック場にて基礎トレをやっていた――。
「アインハルトちゃんも楽しんでくれてるといいんだけど……」
「まぁ、ヴィヴィオたちもいますからきっと大丈夫ですよ!」
「そうだね、それにノーヴェ師匠もついてくれているんだしね?」
「えへへ、有難うございます。妹が褒められるとあたしも嬉しいです!」
「もうすっかりいいお姉ちゃんだね、スバル」
そんな事をにこやかに話しているなのは、スバル、そしてユーノの三人だが……。
「にしても、大丈夫ですかね……?」
「そーだね……」
「うーん、みんなー! もうちょっと休憩時間増やそうかー?」
なのはの声を掛けた先――というか三人の視線の先には、既にどう見てもバテバテのフェイト、ティアナ、エリオ、キャロがいた。
「だ、だいじょうぶでーす!」
「ば、バテて、なんか……ないよ……?」
「あははは……」
「はぁ、はぁ……」
エリオはまだそこまででもないが、フェイトとティアナの消耗はどう見ても運動不足の結果にしか見えない。
「……フェイトもティアナも、結構模擬戦とかしているって話だったんだけどなぁ」
高ランク魔導師の陥りやすい罠、デスクワークの増加による弊害の結果ともいえる。前者なら、戦闘時は身体能力を引き上げられるし、デスクワークは平和な時に内勤に回る戦闘魔導師のあるあるパターンの最たるものだ。
まぁ、それは置いておくとしても――。
「……僕としては、なのはよりも運動のできないフェイトっていうのが、未だになんとなく信じられない気分だなぁー?」
「むー、ユーノくんそれってどういう意味!?」
なのはは心外だと言わんばかりの顔をユーノに向けるが、ユーノの方は事実だと言わんばかりに続ける。
「いや、だって……なのは、運動苦手だったじゃない。苦手どころか、すごく運動音痴だったし」
「そ、そんな昔のことなんかいいじゃない!」
なのはが少しばかり顔を赤くしながら反論していると、
「せんせー、なのはさんって運動苦手だったんですか?」
と、スバルが意外そうな顔をして聞いてくる。
「うん。魔法で身体強化してたから魔法戦はすっごく強かったんだけど、一般的な運動は本当に壊滅的で自転車に乗るのも――「ストォォォ――ップ!!」――分かったよ、ゴメンゴメン。ちょっとからかいたくなっちゃってね」
「もう!」
そんな仲睦まじいやり取りを傍でやられて、その上会話からの若干のはみだし状態ではなんとなく面白くない。とりわけそれが、憧れの人二人なら尚更だ。
しかし、
「まぁ、冗談はさておき……。うーん、とりあえずフェイトとティアナだけでも回復魔法かけておこうかな。このままじゃ二人とも結構しんどいだろうしね」
そういってから「シャマルさんがいたらもっといいんだけど、まだ仕事だもんなぁ……」と八神家ご一行が仕事の都合上来れなかったことをなんとなくぼやきつつ、下に降りていくユーノ。そんなつぶやきと、なんだかフェイトとティアナに甘いユーノになのはとスバルはどことなく面白くない気持ちになった。
そうこうしている内に、ユーノは既に下へ降りており……二人の傍によると回復魔法をかけるよ、と言って手をかざす。
「それじゃあ行くよ、二人とも」
「す、スミマセン。ユーノ先生……」
「ご、ゴメンね。ユーノ……」
「大丈夫だよ。でもそういえば、さっきさ。二人がなのはに負けているの見てちょっとだけおかしかったから、なのはの事少しだけからかって怒られちゃったけどね」
苦笑しながらユーノは優しい笑みを浮かべる。
そんな笑顔にキュンと来てしまいそうな二人だが、その前にいくつかこの状況において言いたいことがあった。
「――っていうか、あたしたちとしてはなんでユーノ先生が割とぴんぴんしているのかが一番謎なんですが……」
「うん、うん(こくこく)」
絶対、現役執務官の私/あたしたちが管理局一のインドア勤務の総合司書長より体力不足なわけがない。そう確信をもって思った二人だったが、……よくよく思い出して欲しい。
そもそもユーノがどういった出身なのか、を。
「あのねぇ二人とも。僕はこれでも一応、放浪の民〝スクライア〟の出なんだけど?」
「「あ……っ」」
遺跡発掘などが本職の一族出身。最近仕事の影響でインドア派になりがちとはいえ、そもそもがアウトドア派であるユーノ。加えて、クロノらの現役執務官の訓練にもついていける程度の実力は今でもある。いかに区分的には『結界術師』とはいえ、ユーノも空戦魔導師の部類でもあり、なのはやフェイトみたいな
……さらに言えば。『シュティレ』以外誰も知らないが、ユーノもちょっとした
まぁ、そんなことをつゆ知らぬ二人はならいっそのこと、今度遺跡発掘の護衛でもさせて欲しいと言ってくる。ユーノも賑やかなのは望むところだが、あまり危険なところだと遺跡に関しては素人の二人を……って、さほど素人でもないか……ということを思い出した。二人の勉強をみていた頃、歴史や自身の体験談などを教えたことがあるのでそこまで素人でもない。
加えて凶悪犯罪を取り締まる執務官の二人なら、遺跡のトラップもそこまで脅威でもないかなとユーノは判断し、「今度休みが合うなら行こうか」と二人の提案を了承する。
そんな三人の様子がなのはとスバルはますます面白くないので、どこからかメラメラと嫉妬の炎が燃え上がり始めてしまったりもしたが……とにかくようやく回復した二人を伴い、一同はアスレチックでのトレーニングを再開し、メガーヌからのお昼ご飯の知らせが来るまで訓練に勤しむのだった。
* * * 『ランチ&リラックスタイム』
メガーヌからのご飯のお知らせを聞き、大人たちは子供たちより一足先にロッジに戻り料理の準備を手伝ったりしながらしばし休憩の前準備を行っていた。
「あらー、ユーノくん意外とお料理上手ねぇ~」
「そうですか? まぁ、割と発掘とかで野外料理はしていたので、こういうのなら多少は出来る……っていう程度ですけどね」
意外な料理の腕に、メガーヌが感心しているがどことなくそんなやり取りが引き続き面白くない女性陣だったりするのだが……より正確には、本人たちにその気がないので怒るのはお門違いであるということを悟ってしまっている以上追及できないのが正しい現状への認識であるといえる。
さて、そんなところへメガーヌに呼ばれた子供たちが戻って来たのだが――。
「……だ、大丈夫かい?」
「も、もちろんだよ。パパ……!(プルプル)」
「アインハルトも、大丈夫……?」
「……平気、です……っ!(プルプル)」
どう見ても大丈夫そうに見えない。
何だか妙に小刻みに震えている娘とその友人をみて、ユーノはちょっと頬を引きつらせた。
いったい何がどうしたというのかと思ったが、彼の疑問はすぐさま氷解する。
「こいつら二人でずーっと、水切りの練習やってたんですよ」
ノーヴェの説明にユーノは「なるほど……」と苦笑を浮かべる。そんな父の様子にヴィヴィオは恥ずかしそうにして「あぅ……」と小さくなっている。そんな姉たちとは裏腹に、ハイトの方はいつも通りにのほほんとしている。
そんな弟の様子にヴィヴィオがどことなくジト目になっているのを見て、なんとなく親たちは状況を察したのだった。
「まぁ、何があったかはともかくとして……よしっ! 出来上がりですよ~」
「はーい、お待たせー!」
そういって料理が完成し、テーブルの上に続々と並んでいく。
子供たちは目を輝かせ、並んでいく皿の料理を眺める。外での食事ということで、地球でいうところのバーベキュー的な料理がどんどん焼き上がりよそわれていく。
大体のところは用意が終わり、一区切りがついた。一同はテーブルに着き、手を合わせる。
それを見計らい、メガーヌが「それじゃ、今日という良い日に感謝を込めて……」というと、皆もまた、
「「「いただきます!」」」
と元気な声がそろい、お昼ごはんが始まった。
皆それぞれ一口ずつ料理を口へ運んでいく。すると、「おいしー!」という声が湧き上がっていく。
「すっごく美味しいねー、ティア!」
「そうねー。うわぁ、これ美味しい……!」
物凄い勢いで料理を平らげていくスバルの横で、ティアナもパクパクと食べていく。
「あ、これ凄く良い……」
「えっへん♪ 自慢のソースですから!」
その傍らではフェイトとメガーヌがちょっとした料理談義を醸していたり、
「ヤッバいな、これ超うめぇ!」
「ノーヴェ、そんながっつかなくてもまだまだあるから安心していいよ~?」
「いやいやお嬢。こういう時は一気に食っとかないとスバルに取られっからな! それに、エリオもいるし」
「あー、確かにそうかもね~」
「はい? どうかしました?」
「あはは……あ、エリオくん。ついてるよ?」
「あ、ありが――「(ひょいっ)とれたよー♪」――ってキャッ、キャロッ!?」
「ふぇ? エリオくん、どうかしたの?」
「いや、そっ、その……どうとかじゃなくて! えっとその、あぁー! もうッ!!」
「???」
「ありゃ、見せつけてくれちゃってまあー……(じとり)」
これまたスバルと同等の勢いで料理を平らげていくノーヴェを窘めつつ、その傍らでどことなく(?)甘い雰囲気の時空を発生させてるエリオとキャロをちょっと不満げに見ているルーテシアがいたり、
「はい、あーん」
「ええと……なのは、ちょっと恥ずかしいんだけど――」
「ゆ、ユーノ……こっちもその、あーん……」
「――フェイトまで……何考えてるのさ、二人とも」
「まぁまぁ、固いこと言わないの。別にいいじゃない♪」
「そ、そうだよ。特に深い意味はないから! 寧ろ明確なくら……な、何でもないよ?」
「…………時々、二人が分からなくなるよ」
なのはとフェイトがユーノになんかを差し出していたり、
「うふふ、みんな楽しそうでよかったわ~♪」
メガーヌが皆を微笑ましく見守っていたり、
「コロナコロナ、これすっごい美味しいよー!」
「ホントだぁ! あ、じゃあリオ。こっちも美味しいよ?」
「おぉー!(キラキラ)」
「ねぇねぇ二人とも、こっちも美味しいよ! あ、ハイトくんとアインハルトさんもどうぞ!」
「ありがとー」
「あ、ありがとうございます……」
「あらあら、仲がいいですねぇ~♪」
わちゃわちゃと楽しそうにじゃれ合っているヴィヴィオたちをみて、ニコニコと微笑んでいるソフィなど……皆それぞれ楽しく昼食時間を過ごしていく。
その後もスバルたちの食べっぷりに驚く子供たちや、それに伴って追加を作り出したなのはたち、それを受けてさらに盛り上がった雰囲気のままに完全にお祭り状態になってしまうのだった。
「「「ごちそうさまでした!」」」
それからしばらくして、皆のお腹が満足げに膨らみを増した後。再び手を合わせ一同はちゃんと行儀よくごちそうさまをした。そのまま片付け作業に入っていくのだったが、大人組(正確には+エリキャロ)に関しては教導官殿より「片づけ終わって少し一休みしたら、陸戦場集合ねー」とのお達しがあったので、どうやら午後も訓練は続いていくようだ。
ちなみに、そのお達しに若干二名(執務官組)は少しばかり心持が重くなってしまったりもしたが……そこは訓練である以上に、彼女らはれっきとした
さて、そんなこんなでお片付け開始である。
大人たちが調理器具を片付けている合間に、子供たちは食器を手分けして洗い始める。
「ヴィヴィオさんたちは、いつもあんなふうにノーヴェさんにご教授を?」
「あ、いえ。そんなに〝いつも〟ではないんですが……私は最初、スバルさんに格闘技の基本だけは教わってたんです。それでそのまま独学でやってたら、ノーヴェが声を掛けてきてくれて……」
ただ、我武者羅に『努力』を続けていたあの頃――。
『何だ、その動きは。そんなんじゃ、体壊すぞ』
始まりはそんな感じだった。
辿るべき道も知らず、強迫観念にでも駆られるかのようでもあるだろう。
――強くなる。
その言葉の意味を、誤解したままに進もうとしていたようなものだった。
でも、そんな少女を支えてくれる人たちがいた。
「それから時間を作っては、コーチしてくれて……。そのあとハイトくんが加わってきて、リオやコロナも一緒になって、そんな私たちのことを見てくれるようになって……優しいんです、ノーヴェって」
受け取ったやさしさの温かさが、とてもうれしかった。だから、自然と笑みがこぼれる。そうやって思い出されるのは、二つの記憶。辛くて、痛くて……でも、どうしようもない嬉しさと、温かさ。そして幸せを手に入れたそれぞれの日――ヴィヴィオが、本当の意味で始まったときの記憶。
それは、世界を揺るがす『ゆりかご』の内で母の温もりに飛び込んだ時……。
世界を虚無の内に帰す『静寂の城』で苦しみ、父の温もりに包まれた時……。
――居ちゃいけなかったはずの自分を、二人は真っ向から受け止めてくれた。
『私の大事なヴィヴィオだよ……!』
『大丈夫、ちゃんと……傍にいるからね』
そう、だから……だからこそ、決意したのだ。母との約束、それがいくつもの思いを重ねながら、自分の中で大きくなっていた。それ故の焦りが生じていたが、それをまたノーヴェに抑えてもらった……。
そうしてまた思い出した。
――――ゆっくりと、自分のペースで大きくなってね……。
そう願ってくれた父の言葉を。
そうして、また決めた。
焦らず、少しずつ……自分の全力で、『強く』なっていくことを……。
それらをかいつまんでアインハルトに語ると、彼女は「――わかります」と答えた。彼女もまた、短いながらもノーヴェやハイトの優しさに触れたからこそ、分かるのだろう。でも、彼女は同時にまた、少し寂しそうで――。
「私は、これまでは……ずっと
ぽつりとつぶやく。ただ、それを口に出してみることで、アインハルトもまた少し思い出す。そして感じている、少しだけ変わった己の心を……。
「でも、もう一人じゃないですよね?」
ヴィヴィオがそういうと、
「……はいっ……!」
アインハルトもそう答える。
でも。
(少しずつでも、一緒に歩めたら……)
互いに違うからこそ、互いに高め合う。足りないからこそ、補い合う。至らないからこそ、至るまでの研鑽を重ねる。
共に歩むこと――共に探すということは、そういう事でもあるのだから。
「辿る道は少し違いますが……これからも、懇意にさせて頂いてもいいでしょうか?」
「はい、もちろん大歓迎です!」
そんな風に言いながら、二人の少女はまた少し絆を深める。
はるか遠い時代からの絆は、現世の偶然により絡み合い……必然の出会いを経て、紡がれていく。
二人はしばしの間穏やかに見つめ合いは、ハイトの「すっかり仲良しだねー、お姉ちゃんたち」の声を聞いて双方が我に返るまで続くのだった。ケラケラと笑うハイトのことを少し恥ずかし気に睨むが、ハイトは全然意に介さず笑い声こそひっこめたものの、笑みを消すことなく二人を見続け、結局二人の方が根負けすることになるのだった……。
しかし、ヴィヴィオとアインハルトは皿とスポンジ片手にそんなお喋りをしながらも、手を動かしていたらしく二人の手に渡った皿の数々はしっかりと洗い終わっていた。こういうあたり、彼女らはとても良い子たちであるといえる。
さて、そんな風に絆を深め合った後……子供たちも食休みに入る。
ハイトはふらふらと向かった先の原っぱでお昼寝を始めていて、その傍らに何故かアインハルトとヴィヴィオが座る(まぁ、いってしまえばお目付け役である)。
ソフィはルーテシア、リオとコロナの三人と一緒にルーテシアの書庫の方へと向かった。ソフィはユーノから預かっているルーテシアへのお土産の本を渡すのと、かねてからハイトやノーヴェが考えていた、アインハルトに古代ベルカ関連の歴史書を見せてあげることの準備を始めていた。
ルーテシアもかなり持っているが、ハイトはユーノに頼んで『無限書庫』の方からも何冊か用意してもらうことに成功していた。とはいえ、時間があまりなかったのでユーノが用意できたのも一〇冊程度らしいが……それでもかなり充分であることに検索したユーノ本人は気づいていない(頼んだ当人であるハイトは父がお願いを聞いてくれたことに喜ぶだけで、すごいかどうかの判断はしていなかったが)。
ソフィたちが書庫でそんな準備をしていた頃、ヴィヴィオとアインハルトはすやすや寝ているハイトの傍らで座りながら……頬を撫でる風の奏でるメロディーにしばしの間、耳を傾けていた――。
* * * 『途切れ途切れな記憶の欠片』
『覇王』、イングヴァルト――嘗て、『ベルカ』を統べたという王。
その血族の始まりにして、もっとも有名な者と言えば……それは一人。
初代『覇王』――クラウス・G・S・イングヴァルト。ベルカの天地に覇を成した王、それが彼だ。
ルーテシアの家の蔵書と、ソフィがユーノから預かってきた本。
それらを突き合わせながらルーテシアとソフィ、リオとコロナたちは『覇王』の足跡を辿っていく。
捲られていくページ。
はるか遠い天地を統べた王の物語を、少女たちは読み解いていった……。
丁度その頃、風の音を聞きながら安らかに眠るハイトの傍らで微睡んでいたヴィヴィオとアインハルトもまた、『覇王』の物語……その『記憶』を少し訪ねていた。
「前に、記憶を引き継いでいると言いましたが……私は、『覇王』の人生全てを鮮明に引き継いでるわけではありません。途切れ途切れの断片の様になっているそれを繋ぎ合わせると、その記憶が私の思い出として思い出させるというだけなんです」
記憶を受け継いだ所謂〝先祖返り〟な状態であるが、体質や記憶の一部を引き継いでも、それらすべてが克明に思い出せるとは限らない。ただ、大まかに残っているそれが、今の自分の記憶と共に『自分の記憶』として己の内に残っているというだけだ。
「ですが、そうしてつなぎ合わせると私は私の記憶としてそれを思い出せます。彼の思い出は、そのまま私の思い出でもあるんです……」
アインハルトはそういうと、少し遠くを見つめるように視線を飛ばす。彼女の瞳の奥で、目の前に広がる緑あふれる穏やかなその景色と……記憶の中にある煙と炎にまみれた古代ベルカの戦乱が互いに反発しあうようにして入れ替わり続ける。
「乱世のベルカは、悲しい時代でしたから……」
誰しもが平和を望みながらも、それを手にするには争わねばならないという矛盾を孕んだ時代。いくつもの国が生まれては滅び、そして支配されては奪い返す。殺伐とした、常に剣吞な国同士の関係は、とてもではないが……簡単に覆せるようなものではなかった。
故に、どうしても力が必要だった。
互いに互いを思いあうべきだと知っていても、結局は諍いの中で殺し合う。
「そんな時代に、短い生涯をかけた『覇王』としての彼の記憶と……たくさんの、心残り」
それらが、アインハルトの中にある。クラウスの救われなかった心が、未だに残り続けているともいえる。
それを聞き、アインハルトの表所が曇ったのを見て、ヴィヴィオも少し沈んだように目線を落としたことに気づいたアインハルトは、少し慌てながら何も悲しい事ばかりでもなかったと告げる。
「辛い記憶もですが、彼の幸せな記憶もまた……私の中にしっかりと引き継がれています。例えばオリヴィエ――聖王女殿下との記憶とか……」
そういうと、ヴィヴィオは少し嬉しそうに――
「オリヴィエと仲が良かったんですよね?」
という。どうやら、前にハイトの思い出していた記憶や、ここ最近聞いたことから彼女はそれを知ってたらしい。
アインハルトもまたそのことを察し肯定する。
「仲が良かったというのは少し違うかもしれませんが……。少なくとも、私の中にある記憶では彼と彼女はともに笑い、ともに武を目指す者同士だったのは確かです。始まりは少しばかり剣呑としたものでしたが、その輪は少しずつ広がって……いつしか二人の周りには大切なつながりがたくさんできていました」
ハイトのことを見つめながらそういったアインハルトの表情は、心なしかいつもより穏やかに見える。無表情気味な彼女としては珍しいかもしれない、とヴィヴィオはなんとなく思ったが……別にアインハルトは感情が薄いというより、あまり表に出さないだけなのだろうという事はここ数日の付き合いで分かり始めてきたので、その考えを少し改めるべきかもしれないというところで帰着した。
少しだけ暗い思い出を語らう二人。だが、二人がそんなことを考えている間にも、風は自由に……どこか辛く苦しい思い出など吹き飛ばす様に吹き抜けていくのだった。
「――オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。有名な『最後のゆりかごの聖王』である彼女は、クラウスと
リオが書いてある一文を読み上げると、
「でも、生きた時代そのものが違うって説もあるんだよね?」
と、コロナも疑問の声を漏らす。
そんな二人に、
「うん。でも、この二人の関係については歴史学者の中でも諸説あるけど……」
ルーテシアはそう言いつつソフィに視線を送る。
「ええ。ですが、私の中にある記憶やハイトくんやアインハルトちゃんにある記憶から言えば、二人はとても仲が良かったですね。それこそ、いつか誓いを交わして子を成すのだろうと思えるくらいには」
「それって恋人だった……ってことですか?」
「うーん……たぶん、違うよね?」
「そうですね。明確に恋人という訳ではありませんでした」
「大体の記録によると、オリヴィエは留学っていう名目で国交のある『シュトゥラ』の『覇王家』に送られたみたいだね。ただ、オリヴィエは生まれこそ〝ゆりかご〟の正統王女だったけど……王位継承権は低かったみたいだから、何方かというと人質交換だったんじゃないかな?」
「そうですね……。幼い二人は、そうして出会ったと聞いています」
「せ、戦国時代の人質ってあれだよね? 歴史小説とかによく出てくる……」
「裏切ったら人質を処刑するって……」
「そうそう、そういうの」
「ですが、始まりこそそうだったのでしょうけど……二人は、本当に仲の良い間柄だったと思いますよ? 少なくとも――」
ソフィは自分の記憶の中にある光景を思い出す。
醜い心で生きていたあの頃の自分の目に映るそれは、今の自分の目で見ると美しいものでしかなく。なぜあの時気づけなかったのか、という後悔も湧き上がるが……それでも、言葉にするなら、あの二人は本当に仲睦まじかった。
それだけは、疑いようもない。
「――二人の間に、確執はなかったですし……そこから加わっていた《もう一人》とも、とても友好な関係を気づけていましたから」
ソフィのその言葉に、皆「そうだったんだろうなぁ」と納得の笑みを浮かべる。
二人、いや本来はもう少し多いけれども……彼ら彼女らの絆は、時代を経ても簡単には途切れず、幾度となく巡り合っていくのだろうと誰しもがそう思えるほどであったという――。
ヴィヴィオにアインハルトはオリヴィエのことを語った。ハイトが最近まであまり思い出していなくて聞けなかったからか、それとも家族以外の人から聞くのが新鮮だったからかはわからないが、ヴィヴィオはアインハルトの語るオリヴィエのことを興味津々と言ったお持ちで聞いていた。
曰く、魔導のとても強い人だった。武の道にも秀で、それでいて思いやりを失わない。太陽のような明るさと、花のような可憐さを併せ持ち……まさに、理想の『王』たる器そのものであるような人だったと。
「彼女の存在は、『覇王』にとって……また彼ら彼女らの周りの者たちにとって、まさしく道標のような存在でした」
そう、彼女の笑顔は……いつだってあの時代を生きた者たちにとって、心のよりどころだったといえる。どこまでも優しく、正しく、可憐でいて尚強い。
途方もないほどに、彼女は人々を導き、絆を紡いでいった。
――しかし、結局それを守り切ることは彼女自身にも、盟友たちにもできなかった。
『魔女』は行方知れずに、《皇》は消え去り、『聖王』は死に、『黒』は姿を見せず、『覇王』だけが残され、その命は短くもベルカの天地に轟くことになった。
「彼だけが、あの戦乱の内で最後まで残り……色々なものを失い、そして最後はオリヴィエを定めのままに失ってしまいました。皮肉ですが、そうした喪失があったからこそ……彼はベルカという時代とその地に、名を刻みました」
「私には、『ゆりかごの定め』のことしか実感としては分かりませんけど……それでも、クラウスが悲しかったのと、寂しかったのだけは……分かる気がします」
ヴィヴィオのその言葉に、アインハルトはこくりと頷く。ミッドチルダであの『JS事件』を知らない者はほとんどいない。世界が滅ぼされる寸前と言ってもいい危機を抱えた、『聖王』の血を汚すようなあの事件は。そして、その事件で苦しめられた一人の少女のことも。
「……そうですね、途方もない悲しみを背負った彼は、結局本当に望んだものは手に入れることができませんでした」
「本当に、望んだもの……ですか?」
「はい」
彼が本当に欲し、且つ望んでいたものとは――。
「彼が望んでいたのは、〝本当の強さ〟です。大切なものを、二度と失わないような……そんな力を」
「本当の、強さ……」
「〝覇王流〟が決して弱くないことを証明すること――それが彼から受け継いだ、私の悲願でもありました」
そう、だった。
我武者羅に強さを求め、意味をはき違えてしまう程に執着した望みだった。
孤高で、ただ圧倒的なだけの力は強さではない。
まして、力のないことは罪ではない。
誰かに寄り添うことも、誰かと心を通わせることも、大切な強さの一つであることを……この時代で再び思い出した。
「ですが、この時代でハイトさんと巡り合ったことで……独りよがりのままでは、本当の強さ足りえないことをようやく思い出しました」
それはかつて、ただ圧倒的な強さだけを持ち……自分の中が空っぽだった一人の迷子に、自分と彼女が伝えたかったものであり、あの時代の中で紡いだ絆の形そのものでもあったともいえるだろう。
「だから、私は彼の悲願の形を正しいもののまま見ることができるようになりました」
そういったアインハルトの顔は……表情こそ硬いものの……とても穏やかなものだった。だからこそ、ヴィヴィオは微笑みながらこう言った。
「よかったですね」
と。
そんなヴィヴィオの笑みにつられ、アインハルトの心はとても暖かくなる。この感じは、ずっと前にも感じたことがあるものであり……それを感じさせてくれたのは、まぎれもなくこの場にいる『聖王』と《皇》だった。
(幾つ時代を経ても、二人の本質は変わらない……)
いつの世でも、周りを変えていく力を持つ者たちなのだという事を、アインハルトは自身の中にある『覇王』共々、しみじみとそう思った。
「……なんだかすみません。自分の話ばかりで」
「いえいえ。私も、ご先祖様のこととか聞けて嬉しかったですから」
ニコニコしているヴィヴィオを前にして、アインハルトはどことなくこの先に話題に困る。
別に少しくらいまた風の音に耳を澄ませていてもいいのだが、なんとなく話し終わった直後なためか少しばかりその沈黙が痛い気がする。というか、なんとなく自身の語ったことが微妙に気恥ずかしいような気もして、人見知りがちなアインハルトはどうにも微妙な空気を感じている気がした。ヴィヴィオの方は暗い過去の辛い記憶の話も聞いたけれど、ハイトや自分がアインハルトの支えのようなものに成れたらいいなと思っているので、それほど沈黙が堪えるような気はしていない。
加えて、彼女は割とこういう静かな雰囲気も嫌いではない。大好きな父と弟、それに姉と自分が司書をしている『無限書庫』での業務などもしているためか、ヴィヴィオは割とシーンとした雰囲気は結構好む方だった。
風の音はどことなくすっきりしたような今の気分にはちょうどよく、どことなくのほほんとし始めた彼女は ……アインハルトの方の心境が少しばかり気まずいというのに全く気付けなかった。
(なにか、この雰囲気を引き継げるような話題は……)
色々と思案してみるが、結局なにも浮かばない。やはりハイトとは違い、まったく本人という訳でもないヴィヴィオ相手だと少し困る。嫌いだとか苦手だとかではなくて、ただふれあいの時間がまだ短いというだけのことだが。
しかし、アインハルトはおしゃべりが得意な方でないと同時に生真面目なため、どうもこういう状況だとオロオロすることになってしまうことが多い。どうしたものかと思っていても、何の案も浮かばないのは相変わらず。現状、唯一アインハルトとヴィヴィオのどちらとも平然と語らえるハイトは助け舟を出すこともなく夢の中。
さて、どうする……。
(……どうしよう……)
そんな風にアインハルトが百面相(心の中でだけども)をしていると、思わぬ助け船がやってきた。
「おー、ここにいたのか」
「あ、ノーヴェ~」
「うっす。って、ハイトはまたおねんねかよ」
ハイトの傍にしゃがみ込み、「うりうり~」と頬をつつくノーヴェの姿は、なんだか悪戯好きの少女のようだ。
「あ、そうだ。お前ら暇なら向こうの訓練見に行かねぇか? 丁度スターズチームが模擬戦始めたとこだからよ」
「模擬戦、ですか?」
「おう。一見の価値ありだぜ?」
にしし、と言った感じの笑身を浮かべながらノーヴェはまだあまりなじみのなくちょっとだけ不思議そうなアインハルトに向けてそういった。
そうして、三人はハイトを起こし、書庫にいるソフィたちにも声を掛け、模擬戦をやってる練習場へと向かって行ったのだった。
* * * 『高揚していく心』
四人はソフィらとも合流し、練習場へ向かう途中でアインハルトはなのはたちを初めて見たとき、本当にあの有名な『エースオブエース』なのかと思ったことについて「とても家庭的な方々で、ほのぼのとして戦いをされるようには見えませんでした」と思ったことを言うと、確かにそうかも、と皆口を揃えてそう言うが――
「でも、ママたちはバリバリやってますから……見たら、普段とのギャップにもっとびっくりするかもですね」
と、ヴィヴィオが言ったので……アインハルトはどんな感じなのかいまいちイメージがつかめないまま練習場へと歩を進めていった。
そして――。
「……凄い!」
まず漏れ出してきたのは感嘆の言葉。
聞くだけとはまた違う、本物の戦闘魔導師たちの模擬戦の迫力はすさまじいものだった。自身の予想を超えたその光景に、驚きと同時に感動を抱いたアインハルトだった。
それにしても、
「あれは――アルザスの飛竜!?」
「キャロさん、竜召喚士なんです」
「で、エリオさんは竜騎士でー」
「フェイトママが空戦魔導師で、執務官をやってます!」
ヴィヴィオたち三人娘順にそう紹介していき、アインハルトは午前中までの様子と現在とのギャップに驚かされっぱなしである。
「ちなみに、ルーちゃんも召喚士ですよ? 主な戦闘スタイルは純魔法戦型――
「えっへん♪」
「…………!」
凄い、というのをとにかく痛感した。
だがそれ以上に、自分がとてもワクワクしていることにアインハルトは気づいた。
――――あの人たちと戦ってみたい、と純粋に思った。
(あの人たちに、私の拳がどこまで届くのかを……確かめてみたい)
うずうずと湧き上がってくる衝動をこらえながら、そういえばユーノの姿が見えないことにアインハルトは気が付いた。
「そういえば――ヴィヴィオさんのお父様は……?」
「あ、えっとユーノパパならあそこで結界の構成のチェックとかをしてます」
言われてみれば、確かにビルの上でフィールドを見渡しながら何かをしているユーノが見える。
「結界術師というと――」
明日の模擬戦には参加しないのだろうか、とアインハルトは聞こうと思ったが……だったら訓練に参加している意味がないだろうし、とそこから先を何というべきか少し迷った。
するとそんな彼女の心境を察したのか、ソフィが答える。
「お父様は戦闘型ではないですが、十分戦える方ですので前は参加しましたが……きっとお父様の性格と、今回は人数の都合上参加を辞退される可能性がありますね」
結界を張る役はするだろうけど、とソフィはまとめた。
確かに結界に関してはきっとユーノはやるだろうとアインハルト以外は思った。何せ、なのはとティアナがいるので砲撃の撃ち合いだと周りに被害を出しそうだ。いかに制限が掛かっているとはいえ、少し間違えば地形くらいは簡単に変わる可能性はある。いなかったら訓練だし仕方ないかなで済ませるだろうが、その場にいれば話は別というのが人間の心理だろう。
というか、全開の模擬戦では『八神家』一同も参加しており、砲撃合戦になりそうだったのでユーノとシャマルが結界を担当した。
加えて、人数的に事態というのも結構ありそうな話だ。そもそもの性格からして、ユーノは積極的に戦場に出るタイプではない。出たら出たで戦うだろうし、決して強くないという事もないが……周りがオーバーSばかりなので、どちらかというと自信を低めに見積もりがちなユーノは、きっと参加しない方を選ぶだろう。
「えー、そんなのやだぁ! 明日こそはユーノパパのシールド破るって決めてるのにぃー!」
不満そうに言うヴィヴィオ、その隣のハイトも同様にこくこくと首を縦に振る。
そんな可愛い反応をする妹/弟たちにソフィは苦笑しつつも、とても微笑ましそうにして――
「まぁ、そのあたりはお母様たちが何か考えているらしいので心配はいらないと思いますよ?」
――そう二人を宥める。
やはり人数合わせの不都合をなくすのなら、やはり追加要因を――という事だろうか? そんなことが頭に浮かぶが、その真意は明日になってみないと分からない。
さて、話題がユーノの傘下について流れた後もしばらく模擬戦は続いており、念入りなトレーニングを見て、アインハルトはふと「管理局の魔導師の方々は、皆さんここまで鍛えておられるんでしょうか……」というと、ノーヴェがそれについてこう答えた。
「まぁ、そうだな……。それぞれ形は違っても、〝命〟を扱う現場にいることは変わりないからな。力が足りなきゃ何も救えねーし、自分の命だって守らなきゃならねぇからな」
「ノーヴェもスバルさんと一緒に救助訓練一杯やってるもんねー?」
そう言われ、「うるせぇなぁ……」と照れたようにいうノーヴェを見て、みんなそれぞれ全力で挑んでいるんだという事が分かる。
そこに生じる闘気に当てられたアインハルトを見て、ヴィヴィオとハイトはそんな彼女にこんなことを申し出た。
「あーいうのを見せられると体動かしたくなりますよね~」
「よかったら……相手になるよ?」
「! お願いしますっ」
そういって、三人は見学を抜け……森の少し開けた場所で、一本撃ち合うことになった。
最初は、ヴィヴィオとアインハルト。デバイスを持っていないアインハルトに、ハイトのリーが彼女に防壁を展開することで(かつて〝譲渡〟の影響で、アインハルトとヴィヴィオにはハイトの魔力波長の片割れが備わっているため、多少制度は落ちるが同調できる)、通常の撃ち合いを可能にし……二人の撃ち合いが始まっていく。
何合か撃ち合ううちに、アインハルトはあることに気が付いた。
「はっ!」
「ふっ!」
ヴィヴィオは弱くはないが、かといって取り立てて強いという感じでもない。『大人モード』を使っている訳でもない今は、拳の威力は彼女くらいの年齢のSA選手なら標準より少し上くらいと言ったところだが――。
「!」
バッ! と、アインハルトの攻撃を巧みに躱していく……そう、彼女は相手の攻撃に対する
「ふッ!」ズガッッ!
良い目を持っている、とアインハルトはそう思った。さらに、ヴィヴィオの中にあるSAを楽しむ心が撃ち合うごとに伝わってくる。少し前なら、相手としては選ばなかったかもしれない。これは、自分が偏見を持ち嫌っていた〝遊び〟の色が強い。しかし、この合宿を一日しか体験していないが、それでも分かる。
――楽しんで、それで強くなってく。
これが、ヴィヴィオたちの強さである。それがアインハルトにはひしひしと伝わり、先ほどまでの高揚は収まるどころかむしろ高まっていく。
久方ぶりかもしれない。いや、実際は『あの夜』に一度感じたが……これまで遠ざけて来た感情のせいか、妙に新鮮に感じる。
――互いに高め合うからこそ、『楽しい』のだと。
そうしてヴィヴィオとの撃ち合いがひと段落した後、ヴィヴィオは息を切らせながら地面にちょこんと座りこんだ。
「ハイトさん。次、お願いできますか?」
「ハルお姉ちゃん、良いの? そんなに直ぐでも……」
「すぐだからこそ……かもしれません」
「……そっか、じゃあやろう」
とはいえ、リーは今アインハルトに貸したまま――となるとだ。
「クリス、力を貸してくれる?」
「(こくこく!)」
任せろ! とでも言わんばかりにクリスはハイトと融合する。
「じゃあ、準備は出来たし僕とまた勝負だね」
「はい。今度は……勝ちます!」
互いに武装こそしていないが、これはある意味であの夜の再戦ともいえる。アインハルトにとってのリターンマッチ。ハイトにとっては勝利したというタイトルを賭けた
「では、行きますっ!」
アインハルトの拳が放たれ、その一撃をハイトは紙一重でかわし引くことなくアインハルトに超近接の一発を入れる。その衝撃にアインハルトは吹き飛ばされてしまう。
「くっ……!?」
「まだまだ、行くよ……っ!」
次から次へとくりだされる連続攻撃。たたかみけるその乱打を抜けようと、アインハルトも合間を見定め攻撃を加えようとする、しかし、ハイトはその攻撃を仰向けになってかわし、そのまま倒立に体制を変えたかと思うとカポエラの様にして回転蹴りを繰り出していく。
「せあっ!」
「くっ……はあっ!」
アインハルトとハイトの組手はそのまま続いていき、二人は『あの夜』の勝負を思い出すかのように――ひいては、あの頃の記憶を呼び覚ます様に技を繰り出し合っていく。
とても、楽しそうに……心躍らせるひと時である様に。
――――二人は夢中で、時間を過ごしていった。
「――で、結局ずっとやってたのか?」
「うん」
「えへへ~」
「はい」
ずっと夢中で組み手を続けていた三人をノーヴェとソフィたちが呼び戻しに来た頃、大人たちもトレーニングを終え……日中の疲れを癒す為に、『ホテル・アルピーノ』名物、自慢の天然温泉大浴場へと向かうことに。
「アレ? そういえば……ママたちは?」
なのは、フェイト、ユーノの姿が見えないことに気づいたヴィヴィオがそういうと、隣を歩いていたエリオとキャロが、
「少し残って練習の仕上げだって」
「まだ飛んでるんじゃないかな?」
といった。
そんな会話をしながら一同はホテルへ戻り、大浴場へ向かう。ちなみに、エリオとハイトは後入り予定。ただ、連れてかれそうにはなった(主にキャロとルーがエリオを。ハイトはそういったことに抵抗がなく、エリオさえ連れていければハイトも自動的におまけでついてくるから)。
まあ、そんなこんなで大浴場にて――。
「あぁ~……、すっごい、いい湯加減」
「ですねぇ~♪」
ティアナとキャロがそんな声を漏らす。
その隣ではスバルとノーヴェが互いに背中を流し合い、その向こうではルーテシアがここに初入りのリオやアインハルトを案内している。
「あっちの岩づくりのとこが熱めのお湯で、あっちの滝湯は温めだからのんびりつかりたいときにオススメだよー」
「「滝湯!?(きらりーん)」」
ヴィヴィオとコロナはルーテシアの新たな改装部分に目を輝かせながら、新しくできた滝湯を堪能しようとする。
「結構おしゃれでしょ?」
「「うんうん!」」
そんな感じに皆が楽しみながら温泉を堪能する。
しかし、この温泉を含めた施設を作ったのを「お遊びレベルだからねー。あ、これ設計図♪」と、設計図片手に言ってのけたルーテシアに『いやいやいや!!』とスバルとノーヴェが全力否定したりもしながら、お風呂タイムは続いていく。
「皆が笑顔になってくれると嬉しいんだけど――ひぁっ!?」
「ん? どーした、おじょ――ぃッ!?」
「ノーヴェ? ――やんッ!?」
その時、温泉につかっていた皆に何か変な感触が走る。
「な、何かいる……?」
そんな呟きを誰が発したのかを確かめるよりも先に、その感触を与えてきた『何か』は次々と新たなターゲットへと迫っていく。
「ふぇっ!?」
「ひゃッ!?」
ティアナとキャロも被害に合い、「なんだか、ぬるっとッ!?」した感触に当てられ湯船の外に逃げ出す。
「な、なんかいるッ!!」
「ルーちゃん、温泉の中で何か飼ってたりとか……?」
「……してたら、先に言うんだけどねぇー……」
「そりゃそうか……」
温泉に住むようななんか珍しいペットでもいれば、そりゃ紹介するだろう。
そんな騒ぎはヴィヴィオ達の方にも伝わり、一体何事かと思っていると彼女らにもその『何か』の魔の手が忍び寄る。
「はわわッ!?」
「きゃっ!?」
恐れ知らずのその『何か』は、まさかの『覇王』にさえ挑戦する。
「~~~ッ!!」(ズパァッ!)
『――ッ!?』
「あ、できた……」
アインハルトの水切りに驚いたらしく、その何者かが飛びのくのが見えた。
だが、その『何か』はまだ懲りないらしく……最後のターゲットにリオを選び、彼女に照準を定め向かって行く。
そしてついに、その何かは姿を現す――
「がぉ――っっ!」
――まではよかったのだが。
《Emergency.(緊急事態)》
リオのデバイスである『ソルフェージュ』が彼女の身に迫り来る脅威を感じ取りリオを護るべくある魔法を発動させる。
「うひゃッ!?」
その『何か』――否、『誰か』は唐突に膨れ上がる魔力と、それに伴い迸る稲妻に驚きの声を上げる。
だが、それ以上に唐突なセクハラをかまされたリオの羞恥は計り知れないようで……悲鳴を上げながら『大人モード』を発動し、バリアジャケットを纏った彼女はその『誰か』の腕をひっつかみ放り上げながら全力の蹴り技をかます。
「〝絶招・炎雷炮〟!」
紫電迸るその蹴り上げは、その『誰か』――水色髪のシスターで、元・『ナンバーズ』のセイン・ナカジマを遥か上までふっとばした。
ちなみに、そのままリオのところへ集まるヴィヴィオ達は大丈夫かとリオの心配はするが、セインのことは心配してくれなかったらしい。
――まぁ、自業自得なのでそこは仕方ない。
加えて、
『何だ、やっぱりセインか……』
誰の反応も、完全にこいつくらいしかいないなという呆れを多大に含んだものだったことから察するに、セインがこういった行動に出るという事をなんとなく予期していたのだという事が分かる。
その後、結局お説教タイムに突入し……妹からは「こんなのがあたしより年上だなんて泣けてくるぜ」と呆れられ、姉からは「もー、駄目だよ。こんなことしたら」と優しくしかられ、その隣でティアナとルーテシアに「セクハラも犯罪」「
「何だよぉーっ! ちょっとみんなを楽しませようとしただけじゃんかよぉ~~ッ!!」
といいながら、床をゴロゴロと転がり本人が駄々をこね始める始末……「ケガをしないように気を付けてた」「これでも聖王協会のシスターだぞ」「皆楽しくやってんのにあたしだけ差し入れ渡して帰るんじゃ切なすぎる」とじたばたしながら言い訳を山のように並べ、次々と駄々をこねる。
そしてその極めつけは――。
「自慢じゃねーがっ、あたしはお前らほど精神的に大人じゃねーんだからな!!」
と、半ば逆切れ状態に開き直る始末。
結局、そのあとリオにとりあえず謝ろうね? とキャロに諭されリオに謝って仲直りした後、ルーテシアに「今日の晩御飯と明日の朝ごはんを作る」という条件を提示され、セインは晴れてめでたく即時帰宅しなくてよくなった。
喜んでセインはその条件をのみ、皆に「上がったら早速、美味しい夕飯作っちゃうからねー」と自信満々に宣言する。
彼女の名誉の為注釈しておくと……彼女は料理が非常に上手で、普段から先ほどの様な〝悪ふざけ〟――もといお茶目――が過ぎることもあるが、基本的に素行不良なこともしない優しいシスターである。
「あ、そうそう。ルーお嬢様、ここのお湯少しもらって帰ってもいい?」
「? いいけど、急にどうしたの?」
「イクスの身体を拭くのにね。眠ったままでも温泉気分を、ってね♪」
「なるほど……うん。きっと喜ぶよ!」
そうしてわだかまりもなくなり、一同は和やかな温泉タイムに。
「それにしても、リオも『大人モード』使えるんだ」
「はい。ヴィヴィオたちとか、アインハルトさんのとは少し方式が違うんですけど……一応同系の身体強化魔法です。格闘魔法戦様に、自分で組んでみました!」
ティアナの質問に、先程の『大人モード』のことを語るリオ。加えて、先程の戦いについてスバルが興味をそそられたようにリオに先程使った技について質問する。
「凄い蹴りだったけど、さっきのSA?」
「ウチの実家の方の格闘技なんです。小さいころから習ってて」
「へぇー!」
みんな感心したようにリオを見る。そんな中、キャロがふと思い出したようにリオに尋ねる。
「そういえば、リオは変換資質持ってるの? 電気と炎、両方出てたけど……」
「一応、両方……です」
「「「えぇ――っ!?」」」
みんな驚く。性質変換の資質を持つ魔導師はまれであり、持っていても一つだけが普通。だが、まさか二つ持っているとは……と皆驚きの表情を浮かべる。
リオの素質、そしてヴィヴィオやハイトに触発されて作り上げたらしい『大人モード』。
「本当は明日の練習会で初披露するつもりだったんだけどね……あたし初参加だし」
「前回ははやてさんたちが凄かったんだよ、みんな大活躍で!」
聞きなれない名前にもだが、アインハルトはリオの口にした〝練習会〟という言葉に少し疑問符を浮かべる。
「練習会……」
「ハイトくんから聞いてませんでしたか? 明日、大人組含めた全員での総当たり模擬戦です」
ソフィのその言葉に、アインハルトはハイトのメッセージに書いてあった『模擬戦』という単語を思い出す。
「……その、戦えるんですよね? ――ヴィヴィオさんのお母様方と」
「ええ。明日の試合は、二組に分かれてのチームバトル。互いのチームを全滅させるまでが勝負です」
「勿論ママたちには最大出力に
「いってみれば……純粋な戦技と、戦術の試合――勝負という訳です」
「全力の……勝負……」
その言葉に、アインハルトの心は震える。湧きたつ。どうしようもない程の熱量が、胸の内からあふれ出していく……。
(あの凄い人たちと、闘える……!)
浮かんでいく、昼間に見た教導の光景の数々。迸る魔力光、飛び散る火花……そこに宿る、燃え盛るような闘志。
あそこに、自身の拳は果たして届くのだろうか? その答えは、否だ。
(届くかどうかじゃない……届かせるんだ!)
本当に強くなるために、あの光景の中にでも立てる様に。――研磨し合え、切磋琢磨の果てに待つ景色を見るために。
この時代での、自分の形を探すために。
先駆けの一歩は、既にもう踏み出している。
この高揚を、拳に込めて闘おう。高ぶる熱情を力に変えて。
「敵チームになっても、負けませんよ」
「――――望むところです」
明日への闘志は、皆の心と体に宿っていったのだった。
* * * 『決戦前夜』
訓練場の傍の丘。夜風が舞い、月光の冴えわたるその場所で、三つの人影が夜闇に佇む訓練場を見渡している。
「それ、明日の組み合わせ?」
「うん。ノーヴェが作ってくれたの」
そう言って、なのはは手に持ったそのチーム戦のポジションの割り振り表を隣に立つユーノとフェイトに見せる。
「へぇ……綺麗に割り振ってあるね。これだと、同ポジション同士のマッチアップが増えそうだね」
「そうだね……皆強くなってるだろうから、頑張って」
ユーノは自分の名前のない表を見て、そういった。どうやら最初から辞退することの有無をノーヴェに伝えていたらしい。
そんな彼になのはとフェイトはなんとなく不満そうだが、
「……うん。〝頑張ろうね〟?」
「うん。頑張ってね、二人とも」
にこにこと笑っている彼の知らないところで、なのはとフェイトはちょっと念話を使いこんな会話をする。
《ユーノってば……》
《まぁ大丈夫だよ。ホントのチーム表、フェイトちゃんも確認しといてね?》
《うん。でもいいのかな……なんだかちょっと悪い気も》
《いいの! ユーノくんってば積極性が足りないんだもん。いっつも私たちの方の模擬戦参加してくれないのに、クロノくんのお誘いは受けてるし……》
《そういえば…………なんだか、ちょっと腹立ってきたね……》
《だからこそのサプライズなの。明日のびっくりしたユーノくんが目に浮かぶようだよ》
《ふふふ、悪い気もするけど……私たちのお誘いに乗ってくれないのが悪いんだもんね》
そんな会話をしている二人の表情は、まるで悪戯好きの少女の様で……丁度アインハルトにあのメッセージを送って、ヴィヴィオにサプライズを仕掛けたハイトとどことなく似ていたという。
《油断大敵だよ、ユーノくん――》
《今回の旅行のサプライズは――》
――――二段構え、何だからね!
そんな二人の思惑などつゆ知らず、ユーノはそろそろ戻ろうかなどと呑気なことを言っていた。そんな彼に笑顔で答えた母親二人だが……彼女たちのその笑顔は、悪戯の的中を待ちきれないちょっとばかり子供っぽい高揚感を隠しきれていなかったが、当の標的であるユーノが結局それに気づくことは残念ながらなかったという。
* * * 『行間』
「ありがとうね~。エリオくん、ハイトくん」
助かるわ~♪ とメガーヌは嬉しそうに二人にそういった。
女の子たちが入っている間、二人はメガーヌの明日の仕込みの手伝いを手伝っていた。
「いえ、女の子たちはお風呂長いですから」
「別に一緒でもよかったのに……」
「だ、駄目だよ、ハイトっ! 流石にそれはキツイってば……」
「???」
「あらあら~」
分かってないハイトに、思春期真っただ中のエリオ。そんな二人の掛け合いを見て微笑むメガーヌ。傍から見れば完全に親子状態である(フェイトあたりが聞いたら対抗心を燃やしそうだが)。
さて、そんな二人の元へ外から戻って来た大人たち。
「あ、二人とも明日の手伝いかい? えらいねー」
にこにこと二人の方へ歩み寄ってくるユーノに、ハイトはなんとなく聞いた。
「ねぇ、ファータ。さっきエリオお兄ちゃんがキャロお姉ちゃんとルーお姉ちゃんに『お風呂入ろっ♪』って言われてたんだけど、そのあと『駄目だよそれはキツイ』って言ったたんだけどどう思う?」
「えぇ……っ!?」
返答に困るユーノ。というか普通は困る、すんごく困る。
「えっと……。それは、その……」
それでも律儀に答えようとするユーノ……やはり彼もどこか抜けている様だ。
「あ、それなら私と一緒に入りましょうか~?」
「「はいっ!?」」
メガーヌさんの衝撃発言、勃発である。
「ちょ、それは……」
「あら、ユーノくんもエリオくんも、こんなおばさんとじゃやっぱり嫌かしら?」
「いや、寧ろ並んでるとルーのお母さんというよりお姉さんという言葉があっていると思う程ですけど――ってそうじゃなくて! そ、そんなの駄目に決まってるじゃないですか!!」
「さすがに、二人はともかく僕の年齢だとそれは大分犯罪のような……それに――」
なんとなく過去の苦い記憶がよみがえる。昔、無理やり女湯に連れ込まれたことがある(いろんなじじょうもあったし、フェレットモードだったけど)ユーノとしてはもうあの惨劇だけは正直遠慮したい。
「うーん……あ、じゃあ女装して――」
「「何故に、女装っ!?」」
正直ツッコミが追いつかない。そろそろ助け舟出してもらえないだろうかとユーノとエリオはなのはとフェイトを見るが――
「メガーヌさん! 一緒に入るならまず私達からですよ!」
「そうですよ! 大体、最近は一緒に入ってくれないエリオと母親である私より先に一緒なんてずるいです!」
「「突っ込むとこそこ!?」」
そんな掛け合いが始まり……その後五分と立たないうちに、次々と上がって来た子供組も加わり、さらにもっと混沌とした状況になることをここに記そう。
ちなみに――結局エリオは上がって来たキャロとルーテシアを加えたアルピーノ親子、フェイトに引っ張りだこにされることに……。ユーノはなのはに狙われ、もう少し後にしとけばと後悔するすっかり温まった青と橙の視線にさらされ……ハイトは着の身着のまま流れに身を任せるのだった。
「「「大人しく一緒に入るの!!」」」
『勘弁してください!!』
――こうして、ちょっとばかり方向性を間違えた高揚を伴いつつ……決戦前の夜は更けていくのだったとさ。
ちゃん、ちゃん♪
* * *
次回、『試合開始 ――マッチアップ!!――』