忘れ去られた、もう一人の王   作:形右

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 今回から過去編を何話かにわたって書いて行こうと思います。

 基本的にこれはラス視点ではなく、主人公視点で書いていきますのでよろしくお願いします。

 



忘却の過去 ――誕生と苦悩――

 

 

 

 ――嘗て、存在した世界『ベルカ』。五千年前ほど前には既に存在していたという、次元世界。しかし、戦乱の絶えないその世界では……技術の進歩は著しいものの、平穏というときに恵まれない殺伐とした時間が流れていた。しかし、それでも世界はどうにか形をとどめていたという。

 その間にも、古代ベルカではかの【アルハザード】時代の技術を取り入れることにより、様々な強力な兵器が作り出された。特にそれが顕著になりだすのは、約千年前。人造生命体の研究を追い進めていったベルカの王たちは、その技術を以て自らの体を強化していった。それは後々に『聖王の鎧』や『マリアージュのコアの無限生成』といった王たちの子孫にまで受け継がれていく『特異体質』、あるいは『先天固有技能』とでもいうべき所謂【固有スキル】に繋がっていくことになる。

 これらは、王たちの「他人の肉体を以て魔導兵器を制御する」という狂気を推し進めていくこととなった。それらの狂気が、のちにこの戦乱を終結させる際に使われたと言われる兵器、狂気に満ちた古代ベルカにおいてすらロストロギア扱いされていた『聖王のゆりかご』や『マリアージュ』と言った兵器に繋がる。

 

 そして、そんな戦乱が徐々に激化し、ついに約三百年前……世界は滅亡への末路を辿ることになる。

 ――これは、そんな戦乱の終結という滅亡・消滅までの時を生きた……嘗ての王たちの物語。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 嘗てのベルカにおいて、最強と歌われたのは『覇王』。

 だが、その覇王も『聖王』には敵わなかったという。戦乱の終結の際、『ゆりかご』に乗り込もうとした聖王を止めらなかった。

 事実、最終的に戦乱に終止符を打つ際、最終的な王手を打ったのは――聖王。

 その後、聖王家が滅亡ののちに『カイザー・アーツ』と呼ばれる覇王独自の格闘流派・《覇王流》の大成を成し、ベルカ最強となった。

 しかし、その後そんな二人の王が繋いだ物語は、結局ベルカの滅亡で終わってしまう。最終的にベルカの王で生き残ったのは、『覇王』とそれ以前に眠りについたとされる『冥王』や『雷帝』達である。その事実は、彼らの子孫たちが現在……ミッドチルダ、あるいはその周辺世界で生きているという事実から確認されている。

 

 ――だが、まだいたのだ。

 

 もう一人、その戦乱の世に生まれ落ちた――《皇》がいた。

 

 そして、再び『聖王』の血が現代に蘇ったことに呼応するかのように、彼もまた――現代へと蘇る。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 その《皇》は、かつてベルカがその歴史を始めたばかりの頃に、その地を治め始めた……始まりの王の子孫として生まれた。かつて圧倒的な力を有していたその王家も、時代の流れと共に廃れていった。

 どんなに優れた王も、永遠に支配することなどできはしない。まして、その王家が始まりの頃にその世界を支配できたのは、たった数代の……『天才』と呼べるものがいた間だけである。

『ゆりかご』と同様に、使いこなせるものがいなければ使えない兵器の力で最初の権力を有したゆえに……それらを使いこなすことのできなかった、才薄き子孫に……統治を続けることは出来なかった。

 その後は、激化していく兵器開発の流れが、他の王をのし上げ、この王家は没落の途を辿った。

 

 嘗て、始まりの支配者ゆえに、《皇帝》という名の下で統治をおこなっていたが……それを押しのける様に諸王たちが『王』を名乗り、《皇帝》という名は……その名のとおり単なる称号――始まりに納めていただけの敗北者の証という認識の身が残り、諸王たちの眼中からは消え、浮いたものになった。

 

 しかし、そんな中でさえ……王家自体はずっと残っていた。

 

 彼らの有していた兵器は、他の者が手に納めたところで……役に立つものではない。どこまでも落ちて行った凡才のみが残る王家の者たちにそれが使いこなせるはずもなく、そんなものに興味を持つ者も、恐れを抱くものもいなかった……というより、忘れられ――〝いなくなった〟。

 

 故に、まだそれは彼らの手元にあった。

 

 だがら、その王家の者たちは諦めようとはしなかった。敗北者としてのレッテルとなってしまった称号を取りもどし、他の『王』などを排斥し……再びこのベルカを自分たちの支配下に置こうと……その半ば怨念にすら等しい――始まりの王の子孫の執念は、人造生命体の技術を使いもう一度〝天賦の才を持った君主〟を作り出そうとするところにまで及んだ。

 

 そしてそれは、ベルカ戦乱末期についに身を結ぶ。

 

 そうして生まれた、嘗ての天才たちの才を全て受け継いだ……最強の――《絶対の皇帝》が生まれた。

 

 しかし、その生まれた王は……作り出した者たちの手にすら余るほどの力を持っていた。それどころか、彼らの王家に伝わっていた兵器の力を……限界以上に引き出すほどの力――『才能』を持って生まれた。

 生み出した当初、その素質を確認した者たちは狂喜すると同時に恐れた。最悪の場合、この幼き王はベルカどころか、他の世界すら消し去ってしまう程の可能性をもっているからだ。

 だが、そのあたりの心配は杞憂ということで結論付けられた。

 

 ――それは何故か?

 

 化け物に等しいほどの力を持っているにも関わらず、この幼き王は……驚くほど純粋で、驚くほど大人しかった。

 教育係には従い、側近の声は聞き入れる。まるっきり〝ただの子供〟だったのだ。

 彼らは、幼き王を自分たちの都合のいいように『教育』しようとした。事実、王はその祖先たちの有していた才能の限りを余すところなく発揮するその姿は、まさしく『天才』の名にふさわしいものだった。

 三~四歳程度の外見で生まれたが、嘗ての王たちの才能以外には何も受け継がなかった。『記憶』も『人格』も、何も受け継がなかった。

 言ってみればその王は、赤ん坊だった。何にも染まっていない、まっさらな子供だった。

 

 しかし、言葉を教えればすぐに理解するようになり……勉学に努めさせれば、まさに一を聞いて十を知るとはこのことかと思わせるほどの知性を発揮する。

 周りの者たちはこの状態を見て、ほくそ笑んだという。これでこそ、我らが君主だと。

 

 そして、一~二年も経った頃には、既に歴戦の勇士も真っ青などに武を極め、学者を驚嘆させるほどの学を修めた。

 

 そしてついに、彼は戦場(いくさば)へと赴くことになる。始まりの闘いは、あくまでも軽いウォーミングアップ、この時の側近たちの考えからすれば、『実験』と言ってもいいものだった。

 皇帝家は支配していたころの領地のほとんどを失っているため、少し外に出ればすぐに隣国なんて言う状態であった。

 なので、側近たちは試してみることにした。我らが皇帝の力は、どの程度通用するのかについて。

 この時、まだ《皇帝》には最大の兵器は使わせなかった。あれは使用者が使用者ならば、国どころか世界すら消し去ることさえ容易い代物。そして、今代の《皇帝》はその使用者足りえる人物。

 先に『槍』だけで戦いを行うように家臣たちが進言すると、皇帝はそれに素直に従った。しかし、安心して部隊を組もうとし始めた家臣たちを皇帝は制し……こういった。

 

 ――……僕、一人でいい。

 

 その発言には、いくら自分達が絶対の自信を持って作り上げた、絶対的な力を持つ《皇帝》とはいえ「いくらなんでも……」と思ったが――

 ――《皇帝》は珍しく自分の意見を押し通した。そして…………実現させて見せた。その、無謀なはずの行動を〝完全〟に。

 そんな強すぎた幼き王――『皇帝』は――倒した相手の山の上に立ち、こんな言葉をつぶやいたという。

 

 ――つまらない、と。

 

 あまりの強さを有してしまった聡明すぎる少年は、戦いの空虚さを知った。

 この時から、少年はこの戦いの為に生み出された自分自身に対し、疑問を持つようになった。

 別に家臣たちが自分を作った目的が、嘗ての栄光への執着だろうが何だろうが、特にそこに対する思いはない。領土の拡大を、ベルカの統治を望むのはこの世界の基本原則と言っても過言ではないし、権力を求めるのは人間としては当然のことだ。

 

 ――ただ、つまらないのだ。

 

 権力や力、領地や人民を支配することに対して……「やりがい」と言えばいいのだろうか? そういったものを感じない。

 そして、争いを続ける諸王や人々が、何だかとっても無駄な事をしているように思えたのだ。

 勿論そこには、国の威信や各国の領土の事情もあるだろうし、民の為と言った感情も絡んでくるだろう。

 でも、父も母もない彼にはあまりそういった『愛情』と言ったものに疎かった。側近の一人は何だか凄く盲信的な愛を向けてくる気もするが、そういうのは違うものなのではないかと彼は思った。

 本で知識は得られても、それを実際に体験したことや感じたことが少なければ『感情』と言ったものを知るのは難しい。

 何だか自分の視界に砂嵐の様なものがかかった様な気分で日々を過ごしていた。

 戦っても、あまり楽しくはない。確かに〝勝てる〟、彼はいつでも勝者だった。でも、相手に傷を負わせて勝つのはあまり楽しくはなかった。

 そもそも、彼の使っている『槍』はどうも対象者の『命』に作用するものであり、使い方次第では永遠の命も得られなくもないものだが……その力の発動はいかに彼であっても不安定なので……今のところはもっぱら攻撃用として使われている。

 そもそもこの『槍』、素質が無ければ使えないものであるし、永遠の命なんてものが簡単に手に入るなら歴代の皇帝がそもそも死んでいるはずがない。

 何かを得るには、それ相応の代償がいるものであるのは必然である。むろんだが、それは〝今のところ〟彼にもできない。

 かの【アルハザード】より賜わりし遺物――兵器は、そう甘くはないのだ。

 

 それでも、彼は領土を広げていった。

 形はどうであれ、自分の生まれた場所や生み出した者たちに〝愛着〟とは違うだろうが、相応の情は感じている。だから、そんな『雑音』のようなものが残る思考のままに戦いを続けた。「何故、無駄な事をしているのだろうろう」という疑問を押し殺しながら、いっそのこと……すべてを消し去ってしまいたいという願望を隠しながら、戦い続けた。

 しかし、だんだんと空虚さにもし潰されていく幼い彼は……「もういっそ、ベルカなんてなくなればいいのに」とそう零すようになった。実際、彼にはそれが出来る……この世界を、民を、すべてを一つにする事さえ可能なのだ。

 そんな彼の呟きを聞いた側近の一人は……その苦悩する主の姿に益々盲信を強め、その発言を肯定するばかり。

 いい加減そんな日々にうんざりしていた。

 

 そんな彼にとある変化が生じる。何故か彼は、だんだんと戦いの際に武器を用いなくなっていった。拳や魔法だけで相手をねじ伏せることで、少しでも何かを感じ取ろうとしている様でもあり、武器を使わないことで相手に対するハンデを課している様でもあった。

 

 ――彼の心は、どこか乾いており……自分の知らない『答え』のようなものを探していた。そんな彼にある出会いが訪れた。

 

 それが、『聖王』と『覇王』との出会い。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 それは、ふらふらと外を出歩いていたときのことだった。

 こうして外を出歩くことが多くなった彼は、家臣たちが次に狙う国として狙いを定めているという『シュトゥラ』の国の中を当てもなくさ迷い歩いていた。

(…………この国も、消さなくちゃいけないん……だよね)

 街には、民の笑顔があふれており、治安は悪くないらしいことがうかがえる。

 自分の国とはえらい違いだと思った。

 元々廃れ果てた雀の涙ばかりの国だったそこには、民など残ってはいなかった。

 今は、奪った領土に住んでいた民がいるが……家臣たちはあまり『良い政治』には興味がないらしい。

 彼らの望むのは、絶対的な統制・支配。

 これまでに奪ってきたものも、滅ぼしたものも、取り戻した過去の栄光の為の踏み台程度の認識だろう。

 勿論、そこを実際に亡ぼしてきたのは彼自身だが。だが、それが間違っているとも言えない。このベルカにおいて、国同士の争いなど当たり前……幼いゆえに、まだ理解の先にある自分の信じる『信念』の様なものが無い彼には、自分を生み出してくれた家臣たちの願いを叶えることが生きる理由だった。

 そこにある『善悪』は今の彼にとってそれほど重要ではない。教わったもの、与えられたものは戦う術と膨大な知識のみ。学ぶことが苦痛だと思ったことはないが、聡明すぎる彼はどれも正しいかどうか割り切れない。

 

 何故なら、どれも正しい側面がある……から。

 

 どうしたらいいのか分からないまま、誰にも言えないまま……ずるずると流されてしまっている自分の姿に情けなさを感じていた。

 そうやって思考の迷宮を彷徨いながら、自分でもよく分からない内に森の中にまぎれこんでいたことに気づいた。

(ここ……、どこだろ……?)

 まぁ、べつに森に迷った程度でどうこうなるような玉ではない。というか、たぶん世界がひっくり返ったとしても、おそらく彼はどうにか生き残るだろうとさえ言える。

 大体、空だって飛べるのだし、この程度の森なら吹き飛ばすことだってできる。

 何だかそう考えると動くことすら面倒になり、もう何もしなくてもいいかと思った彼はその場に横になり森の静寂に身を委ねた。

 このまま、どこかに行ってしまおうか? そうすれば、もうこんな血なまぐさい戦乱に関わることもないのかもしれない。

 でも、それは…………きっと、出来ない。

 

 自分は……切り捨てることができない、弱い人間だから。

 

 彼がため息をついた、そんな時だった……。

「??? 君は……?」

 ――一人の少年と少女が彼の傍に来たのは。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 碧銀の髪の少年と、金髪の少女が、彼の傍にやって来た。

「君はいったい誰だ? ここはイングヴァルトの城の中なのだが……」

「……城……?」

「ああ」

「あぁ、じゃあ君がこの国の王……」

「いや、僕はまだ見ての通り王子だが……」

「……なんだ、つまらない……」

「……なに?」

「いや、何でもないんです……。ごめんなさい……」

「……まぁいい。で、結局君は誰だ?」

「……《皇帝》、と呼ばれているものです」

 そう答えた。

 彼には別に元から隠す気など無い。逃げればほっておくだろうし、向かって来れば戦いが一日早くなるだけだ。

 

 ――たったそれだけの違いに過ぎないのだから……。

 

「《皇帝》……だって? 今、急激に勢力を取り戻しているっていう……あの……」

「ええ、そうですが……?」

「……《皇帝》は、単身でいつも戦場に赴き、勝利していると聞いているが……。君は僕よりも年下の様だが……?」

「……そうですが、何か問題でも?」

 何を驚いているのか、と思った。別にこんな戦乱の絶えない世界に生きているのだ、年の違いが戦力の違いになるなんてばかばかしいにもほどがある。結局のところ、強者は強いから強者であり、それが才能か努力かはさして問題ではない。ただ、対峙した瞬間から、最後の闘いの終結まで立っていたものが強いのだ。

 これまで戦場において、最後まで立っていたのはほかでもない自分自身なのだから……それがいま自分が強者足り得るという事実の証明であるのだから。

「…… 君が《皇帝》だということは分かった。だが、それでその《皇帝》殿がここに何の用だ?」

「別に理由なんてない。ただ…… また一つ国を狩る前に、その光景を見ておきたかったから……かな」

 ――いや……違う、本当はそれだけじゃない。

 自分がどうしたらいいのか、その答えをくれる人を……当てもなく探していた。別にこの国でなくてもよかった。誰でもいい。なんでもいい。

 イメージというか――何だか、気恥ずかしい気もするが…………もしも何か答えをくれる人が手に入るなら、自分を導いてくれる〝兄〟か〝父親〟のような人が…………欲しかった。

「もうこの国が手に入るつもりでいるのか? 幼い見かけとは真逆に、随分と傲慢な物言いだ」

 ごうまん、『傲慢』……か。

 それを受け、何を思い返したかは覚えていない。

 でもその時、彼は自身の内にふと浮かんだその言葉を……ただ、口にした。

 

「…………それを止めてくれる人がいないから」

 

「貴方は、自分を止めてほしいのですか?」

 碧銀の少年の問いにそう答えた《皇帝(かれ)》にそう問いかけてきたのは、先ほどからずっと黙ったまま、言葉を発さなかった金髪の少女だった。

「できるものなら…………。どうしたらいいのかを、教えて欲しい……。何をしたらいいのか、僕がどうしたらいいのかを」

 何故、今自分は……明日戦う〝敵〟にこんなことを語っているのだろうか? ぼんやりとそんなことを思った。でも、口からでてくる言葉を止められなかった。

 どうしてだろう? 相手もまた、『王』だから? だったらこれまでだって、何人も倒してきた。――でも、こんなに語ったことは無い。

 それが偶々なのか、この二人だからなのか……今の彼には、分からなかった。

「一体、何を……抱えているんですか?」

「…………」

「もし、教えてくれるなら……私たちの力では、貴方には物足りないかもしれないけれど……それでも、少しくらいは貴方の力になれるかと思います」

 少女がそういうと、

「…………それに、君には仮にもここに不法侵入したのだから、そうやすやすと帰られても困る。せめてその答えを探しているという問題についてくらいは、ここで聞かせてもらいたいな」

 碧銀の髪の少年もまた、そういった。

 拒否をしてもよかったのだろうが、彼はそれをはねのけはしなかった。

 二人にそういわれ、彼はただ一言の返答だけを述べた。

 

 「分かった……」と。

 

 

 ――――始まった…………。

 

 ベルカの戦乱終結まで続く、若き王たちの物語が……そして、現代まで続いてしまった、因縁の始まりは――

 

 

 ――ここから、始まるのだ。

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか?

 過去編ということで、まずは誕生編からです。

 次回以降も過去編をしっかりと書いていけるよう頑張りますので、よろしくお願いします。
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