忘れ去られた、もう一人の王   作:形右

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 *最初に投稿したほう間違っていました。直して、投稿しようとしていたら、なんだかタイトル付けのあたりでそのまま投稿しちゃってました。
 誠に申し訳ありません。それに気づいてもう一度手直しを加えました。


 では改めまして、お待たせいたしました。過去編第三話です。


 武器の説明にはまだ至っていませんが、いくつか自分で考えてきた特製の伏線と言えるほどではありませんがにおわせてみましたので、少しでも「こんな感じかな?」とか「こうじゃないか?」なんて想像していただけるようなものになっていれば嬉しいです。


 後、今回過去編なので過去に絡む人物が何人か出てきます。


 それでは、過去編第三話をどうぞ。

 *誤字等修正と、少々加筆しました。7/12



安らかな時、破滅の始まり ――高揚と嫉妬――

 幼き少年は、二人の手を取る――それは、なんてことない事だった。

 幼き少年は、二人の名を呼ぶ――それは、どうってことない事だった。

 

 ――しかし、それが……新たな道を、作り始めることとなる。ただそれは、決していいことだらけではないということを、まだ誰も……知らない。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

「な、何ですと!? い、今の発言、お気は確かですか!? アブソルート様!!」

「勿論だよ。その上での発言だよ……。何か異論でもあるかい?」

「大ありですとも!!」

 それは、《皇帝》の居城での出来事だった。

 アブソルートの『たった一言』の――その発言で、王宮にいる家臣たちは動転し、王宮は大騒ぎである。

「何か問題でもあるの? 『シュトゥラ』を、取らないというだけで」

「大ありですとも! あそこは『覇王』の血族の修める土地、『聖王』ほどではないとはいえ、あそこも十分に厄介……いえ、勿論貴方様にとっては羽虫も同然かもしれませんが、邪魔なのは確かなのです!」

 今、あそこを取らずして……いかがなさるおつもりなのですか!? と、そういった家臣の代表者――アブソルートにとっての所謂『爺や』の様な存在――の発言を皮切りに次々と反対の意見が飛び交う。

 しかし、アブソルートはそんな家臣たちに対し、淡々とした口調でこういった。

「別に、僕は君たちを裏切るつもりも、亡ぼす気もないよ。ただ、僕は〝外の世界〟というやつに興味がわいた。〝友人〟というものが、どういったものなのか――知りたくなった」

 その発言に、家臣たちはギョッとする。

 我らが《皇》が、我々に牙を向けるかもしれない『きっかけ』にもなりかねないような発言をしたからにほかならない。

「何か勘違いをしている様だから言っておくけど……。僕は、少し疲れたんだ。だから、国盗りはもう終わりにしたい――というのが正直なところではある…………とはいえ、それでは僕を生み出した君たちの理由が消えてしまうし、育ててくれた家臣を捨てるようなことは本位じゃない。だから、国盗りをしろというなら――やるよ。でも、少しだけ…………休みを与えてはくれまいかと言っているんだ」

 その答えに家臣は絶句した。

 自分という『存在』の理由や生み出されたわけをそのままに淡々と受け入れて、そのうえで自分の意志を問うとすると同時に家臣たちへの義理を果たそうとするだなんて……これが、《皇》足る者の〝器〟、ということなのだろうか? という事実と、その心構え――本来の『意志』とでも言うべきものを、まざまざと見せつけられ、家臣たちは目の前の幼き少年に、その意味を考えさせられるほどであった。

「それで、お願い……できるだろうか……?」

『――――ッ!?』

 今度は、「お願い」と来た。

 こんな器を見せつけられては、家臣たちも頷かざるを得ない。

 結果、なし崩しにアブソルートの「願い」は、家臣たちに聞き入れられた――。

 

 ――内たった一人を除けば、であるが……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 少女は、生まれたときからそこに仕えていた。

 何ということもなく、疑問を抱く余地すらない程度に、そこにただ仕えていた。

 規模は大きいが、所詮それは魔法で作り出した『空間』に過ぎないそこで、ベルカの創始者だという《皇帝》とやらの子孫たち――彼女の仕えるべき〝主〟達は、日夜研究のようなことを行っていた。

 正直、子供の目から見てもまともとは思えなかったが……彼女は特にそれらの事柄に疑問を抱くことはなかった。

 ――それは何故か?

 簡単だ。

 ――彼女が〝優秀〟であるから。

 ただそれだけである。

 聡明である彼女は、『仕える者』としての心構えの下で、仕えるべき主たちの下にただひたすらに『仕えた』。

 それが、彼女にとっての〝当たり前〟であるから。

 しかし、そんな時だった。

 

 彼女の冷め切ったような、乾いた様な『心』を揺さぶる《皇》が生まれたのは……!

 

 その《皇》は幼かった。自分よりも二つ、三つばかり年下の姿であった。

 

 しかしどこまでも天賦の才に溢れた、神の申し子とでもいうべき程の『力』を秘めていた。その片鱗を少し垣間見た時――《皇》誕生の瞬間、天が裂けた――彼女は、この《皇》に身を捧げることを決めた。

 僅か、に生まれたのが三年ほど下の〝幼な子〟に対して、である。

 しかし、それは間違いではなかった。彼女の目は、既にその王の才能の深淵にまで届いていた、というものもいるほどだ。

 

 しかし、幼き《皇》を支えるためには――彼女もまた、幼すぎた。

 

 そこで彼女は、自らの体を変える。もっと……美しいこの御方の傍らにいるにふさわしい『女』であるために、体を大人に変えていく。

 そんな幼き《皇》を支える〝母〟であり〝姉〟であり、そして――何よりも〝一人の女〟であるような【唯一無二の存在】になるためにと……。

 

 

 

 ベルカに生を受けた、幼き王の『才』に魅入られた、これまた幼い少女の――時をまたぐまでにいたる程の『崇拝』は……ここから始まったのだった……。

 

 ――故に、その知らせは彼女の心を大いにかき乱した。自らが、仕えるべきだと確信した皇が……、操を立てるとまで決めた主が……。

 

 今、どこの馬の骨とも知れないぽっと出の新参者に奪われんとしている。

 

 それはどうしても許せないことだったが、自分はあくまでも『仕える者』。過剰なまでの『崇拝』まではともかく、主の自由を束縛する権利は自らの『心構え(プライド)』が許さなかった。 

 どうしようもない嫉妬は、日に日に積もるものの……それを表にやすやすと出すほど、彼女は愚かではなかった。

 あくまでも、彼女は自分の本分はわきまえているつもりであったからこそともいえる。

 

 ――しかしそれでも、そんな日々は次第に不満による嫉妬の心を加速させていくのだった…………。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

『シュトゥラ』の、イングヴァルトの居城にて――。

 

「手合わせ?」

「ああ、手合わせをして欲しいんだ」

「……別にいいけど」

 最近ともになったこの王子と、その隣でニコニコと笑みを絶やさない王女の二人だが……。この二人、どうも格闘技好きらしくアブソルートがここを訪れると、よく二人は組み手をしている。

 そして、本日クラウスがアブソルートとって合わせがしたい、と言い出した。

 正直そんなに気乗りもしないが、べつに断るようなことでもないのでアブソルートは了承する。

「……手合わせ自体はいいけど、怪我しないようにね」

「フフ、分かっているよ。天下の皇帝陛下と手合わせできるなんて、またとない機会だ。それでなくても、友人としてアブソルートの強さに対しての敬意を忘れるほど愚かではないさ」

「……ならいいけど」

 敬意なんて程大げさではないかと思うが、べつに向こうが気を抜いてけがをしない程度の心持ならそれでいい、とアブソルートは早速体をほぐし始める。

 それにクラウスも習い、準備運動をした後……二人は対峙する。

 審判はオリヴィエが務めることにしている。

「両者、準備はよろしいですか?」

「「勿論」」

「それでは、試合――開始!」

 オリヴィエがそう告げた瞬間、両者は地面を蹴り一瞬で距離を詰める。鼻先が触れそうなほどに接近した二人だが、先に攻撃を仕掛けたのは――意外なことにクラウスだった。

「はあッ!!」

 クラウスの拳がアブソルートに迫る、だが――。

「…………」

 すっ、と自然すぎる動作でアブソルートはその交錯の瞬間を駆け抜ける。

「なっ……!?」

「なるほど……悪くない打ち込みだね、クラウス。でも……それでも、――まだまだ、だね」

 そういうと、アブソルートは再びクラウスとの距離を一瞬で詰めると、拳を打ち込もうと懐へと飛び込んだ。それをクラウスはガードしようとして腕を交差させるが――捲然に迫っていたはずの拳が消えていた。

「どこに……、――ッ!?」

 迫っていたはずの脅威が消え去ったような錯覚を抱いた瞬間、腕のガードの内側からの衝撃を受けた。

 アブソルートは消えたのではなく、拳に視線を集中させることで、自分から注意をそらしていたのだった。そしてその隙をつき、身をかがめて腕の内側に蹴り上げを加えたのだ。

 そしてその勢いのままにクラウスを後退させ、自身はその蹴り上げの勢いを利用して空中でバク転をしながら着地する。

「へぇ……」

 結論から言えば、クラウスは倒れなかった。

 完全に不意を突いたかと思ったのだが、クラウスはどうにか踏ん張ったらしい。

「凄いな……やはり『皇帝』、だ……」

「完全に隙をついたと思ったんだけど……、よく耐えたね」

「当然。僕だって王のはしくれだからね…………このくらいでは、へこたれてなんていられないさ」

「……いいねぇ」

 少しだけ、アブソルートの口角が、上がる。

「今度は、こちらから行く!」

 今度はクラウスが独特のステップで一気に距離を詰める。

「覇王家の流派独自の歩法……か」

 独特の歩法で迫るクラウス。そしてそれを黙って待ち構えるアブソルート、それを幸いとばかりに素早い動きで攻めるクラウス。

「でもさ…………その程度なら、まだ足りない。このベルカでは、きっと王たる証――『武』には足りない」

 その瞬間、正確にはクラウスの拳がアブソルートに届こうとしたその瞬間だった。

「――ッ!?」

 クラウスは、その刹那にアブソルートの蒼と翠の瞳の青い側だけが……〝輝いた〟かのように見えた。それは比喩でもなんでもなく、本当に瞳が光を帯びた様に見えた。

 その瞬間、アブソルートの足元に高速で展開される蒼天の魔法陣。

「――裂空掌――」

 蒼い嵐のような拳による拳速が、空間を断ち切るかの如くクラウスの体を突き抜けたかのようにさえ見えた……凄まじき一撃――だが。

「? ――これは……」

 アブソルートの拳を、クラウスはどうやったのか……いや、相当に無茶な駆けの末の成功だろうが――とにかく〝止めた〟。

「捕まえましたよ、アブソルート……」

「無茶なことを……」

「フフ、何せ『皇帝』陛下相手ですから、このくらいは〝敬意〟の範囲ですよ? 陛下」

 そう茶化しつつ、クラウスは彼の魔力光である新緑の光を解き放つ。構えをとり、自身が開発した、アブソルートの『裂空掌』と同じように、戒めを断つ拳を放つ!

「(これなら、どうだ!)――覇王・断空拳――」

 その一撃は、アブソルートに……直撃する。

「惜しい、惜しいね……」

 だが、アブソルートは今度は翡翠の瞳に光を宿し、自身の目の前に翡翠の障壁を展開している。

「――『絶対の障壁(イージス)』」

 

 

 ――絶対の障壁。それはかつて『アブソルート』が生まれるより以前に作り出された構成体が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、こと『防御』に関してはのちに生み出された『アブソルート』以上だとも言われている――検体『絶対の防壁』【イージス】にあやかってアブソルート自身がつけた技名である。その時に生み出された構成体【イージス】は確かに防御に優れてはいた。『並列思考(マルチタスク)』の方ももしかしたら『アブソルート (完成品)』よりも上ではないか? 等と今でも家臣の間ではささやかれているほどだ。

 ただ、そちらに能力を振りすぎたというか……片方の出来が良すぎたためバランスが悪く、おまけに攻撃はからっきし。そこでいっそのこと保有兵器の方でそれらすべてを賄おうとしたが、それでも良い結果は生まれなかった。この構成体はどうしても攻撃のステータスが足りないのだ。おまけに魔力量もそこまでではない。

 それでも当時はどうにかしようとかなり足掻いたそうだ。何せその当時、その時点まででは最高傑作。結果的によりベストな状態で生まれてきた『アブソルート(真の最高傑作)』の方で手は打たれたが、それでも【イージス】の出来は『アブソルート』が誕生した今でもナンバーツー。何なら取っておいて今後の『成功体』にかけて〝兄〟としておいてもいいのではないか? という話まであったそうだ。事実〝デバイス〟の作成に乗り出してみた者たちもいたが、それも合わず……権力の二分は面倒だ、と結局は〝処分〟された、という話である。

 今にして思えば、『アブソルート』の例から〝教育〟を誤らなければ『現在の状況(ベスト)』よりも『更に上の状況(パーフェクト)』に出来たのではないかという押見の声もあるが、それも結局は過去の事。

 時の流れは変えられず、アブソルート自身も生み出されたのはその【イージス】よりも最低五十年は後である。

 どう処分されたのか、なんて知りもしないが…………防御と即時構成にやたらと秀でた〝兄〟の存在というのが妙にひっかかり、こうして名を借りるに至ったのだ。

 ……そういえば、なんでも【イージス】は能力が傾いてしまったせいか瞳の虹彩異色も「蒼と翠でなく翠一色だった」とかなんとかいう話を家臣の誰かがしていた様に記憶している。

 能力だけでなく〝兄〟は血統に由来している容姿までもが、傾いてしまったのだそうだとかなんとか……。

 まぁそれはともかく、本家の方は〝全てから守る〟『防壁』からとしたらしいので……アブソルートは少し謙遜を込めて自身の技の方を〝攻撃を阻むもの〟『障壁』として技名を付けた。

 

 

 そんな過去との因縁が深いようなバリアだが、それをクラウスは知らないので、彼の認識は――ただただその構成速度と硬度に驚くだけにとどまった。

「そんな……!」

 ――あの一瞬で、障壁を展開したというのか!? なんて構築スピードだろうか……。

 おまけに――。

「くっ!? これは…………っ!!」

 クラウスの拳には翡翠の鎖が巻き付いていた。

「一つ、教えておこうか。僕は魔力量自体は精々君たちの3分の2もあればいい方、と言ったところだけど――。それでも僕が『皇帝』たる理由の神髄には、勿論王家に伝わる〝武装〟の恩恵もあるけれど……それ以上に僕の力の根幹を支えているのは、構成のスピードとそれを使って戦う技術」

 それが、彼の――『絶対』の根底。

(まぁ、見たこともない〝兄〟は、こと防御に関しては――これ以上という話だけどね……)

 そんなことを考えつつ、次の攻撃への布石を打つ。

「そして……――」

 両眼が、光を宿し、アブソルートは蒼天と翡翠。その二つの魔力光が混ざり合い、まるで鮮やかな青みがかった翠、所謂エメラルドグリーンのような色になる。

「――すべてを崩す、あの『エレミア』の一族でさえも霞ませる拳……。〝皇の崩拳――カイザー・ツェファール――〟」

 その〝兄〟とやらにはない、自身の持つ『攻撃』の術を今――解き放った。

 その輝きを纏った拳は、クラウスのがら空きになっているボディに直撃する、と言った寸前で止まった。

「そこまで!」

 アブソルートの拳が寸止めされた瞬間に発せられたオリヴィエの一声で、終わりが告げられ……攻撃が迫って来たその一瞬の間に『死』さえ覚悟したようなクラウスは、オリヴィエの終了のコールによってやっと我に返る。

 そしてアブソルートの拳が迫ったあたりを見ると、バリアジャケットが完全に砕け散っている。しかも、触れてすらいないし、衝撃波を飛ばす所謂『空拳』でもないのに、その拳が迫った瞬間辺りにある物が砕け散ってしまったかのようだった。

 アブソルートが寸止めにしていなければ、あるいはあと数センチ、数ミリでもずれていたら? と思うとぞっとする。そんな結果を目の当たりにして、クラウスは生唾を飲み込み、やっと絞り出せた言葉は――

「……参りました……」

 ――という一言だけだった。

「すさまじい試合でした。お疲れ様です、二人とも」

「うん、ありがと」

「……あの、アブソルート。さっきの技は……いったい?」

「基本的には、断空拳に近いよ。でもあれは、少し改良を加えてあるんだ。書物で見た『エレミア』一族の技とクラウスの使った『断空』の混合技……みたいな感じかな? あと、僕の特殊な体質の特性も混ぜてるんだ」

「「特殊体質?」」

 確かにベルカの王ならば、何かしらの肉体強化の固有スキルを有しているのは珍しい事ではない。だが、それがもとから何かしらの『何か』につながるように施される肉体強化の恩恵である固有スキルを技につなげる、というのもなんだか変な話であるような気もする。

「《皇帝家》のこれまでの〝才〟を無理やり詰め込まれた故に生まれた故に生まれた二面性の魔力を持つ、っていう僕だけの固有スキル。『双魔の法(デュアル・マギ)』、翡翠の絶対防御と、蒼天の崩絶の武の双方を合わせて、なににも止められない、傷つかない――断空と、破壊の神髄を僕なりに追求した結果の産物、それが、さっきの技」

「なるほど……断空の、神髄とは……」

「クラウスのも惜しいよ、でもまだ研鑽が足りていない。もっと突き詰めた先に、君の『断空』の神髄がきっとある」

「なるほど……」

 この一言と、アブソルートの指南と、そして……三人がいずれ経験することになる出来事が、真の断空拳の完成と、覇王流を『〝カイザー〟・アーツ』と称するに至らせることを、今はまだ……誰も、知らない。

 

 ――今はただ、穏やかな時が流れるばかりである。

 

 組み手を終えた一同は休憩を取る場所をどこにするかを話していたが、よくよく時間を確認してみれば、休憩の前に本日この城を訪れるオリヴィエの招いた建前上は『留学生』のような友人がここを訪れることになっていた。

 

 その人物の名は、先ほどアブソルートが口にした『エレミア』一族の末裔〝リッド・エレミア〟であった。

 

 エレミアは、黒ずくめの衣装でこの城を訪れた。馬車から降りたエレミアは、一見すると大変な〝美男子〟に見える。

 旧知の仲であるオリヴィエは勿論、クラウスも話を聞いていたためにこやかに挨拶を交わすが――。

「アレ……? ヴィヴィ様、この子は……?」

「あ、そういえばまだエレミアはまだ知りませんでしたよね。この子は――アブソルートです」

 オリヴィエが紹介しようとアブソルートの名をエレミアに教える。

「アブソルート……? どこかで聞いた様な……――ッ!? ヴィ、ヴィヴィ様? ま、まさか……」

「ふふふ、ええ。この子があの――」

「――こ、ここ、《皇帝》ですかッ!?」

「ええ、そうですよ」

 ひどく驚いているエレミア。全く動じないアブソルートとその隣で苦笑しているクラウス。しかし、アブソルートは別に『皇帝』云々についてはどうでもいいらしく、何故かまじまじとエレミアの胸のあたりと肩のあたりを見ている。

 そして唐突にエレミアの手を取る、その動作があまりにもあっさりとしていたため、エレミアもあっさりと手を取られてしまった。その事実に驚き、つい癖で攻撃を仕掛けそうになってしまったが、アブソルートはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに空いている方の手であっさりと拳を受け止めてギュゥゥゥッッ!! と握りこみ、メリメリィィィッ! なんて音がするほど握り潰しそうなまでに力がこもってしまったらしく、アブソルートは図らずしてかのエレミアの血を引く者を軽く悶絶させてしまったのだった。

「いだだだだだっっ!?」

「あ、アブソルート、強く握りすぎですよ……」

「あ、ゴメン……」

 そう言って、投げやりに手を放す。エレミアはそのあっさりとした動作と先ほどの動きに驚き、加えて握りつぶされそうになった(アブソルート的にはかなり軽め)為、もはやなされるがままである。

 ――何というか、先天的に勝てない相手だと思わされたような気分であった。

 そんな感じで自身の手を――というか正確には指を――()()()()見ているアブソルートは、一体全体何をしたいのだろうか? という疑問にエレミアの頭は埋め尽くされた。

 だが、その答えはアブソルート本人によってあっさりと看破される。

「ねぇ」

「は、ハイ……何でしょうか……?」

「あのさ、なんでそんなカッコしてるの?」

「え、あぁ、いやその……一人旅してたので、目立たない穂が夜襲に襲われにくかったのでその頃の習慣が抜けなくて……あとは、個人的に目立ちたくないからです、ハイ」

「いや、べつに色とか、そういう話じゃなくて」

 そう言って、握っていたエレミアの手と自分の手を比較するようにしてエレミアの前に出す。より正確には、()()()()()()()()であるが。

「ええっと…………?」

「まぁ、これの例外は割といるからすぐには分からないかな……。要するにね、僕が言いたいのは――」

 アブソルートはエレミアの胸に手を()()()()()、再び聞いた。

「――だから、なんで君は〝そんな〟恰好をしているの?」

「ひぁぁぁっ!!!???」

 クラウスはエレミアが何を驚いているのか分からないようだが、オリヴィエはアブソルートの大胆さと、その洞察力に対して驚くべきか、褒めるべきか、注意するべきか、を迷っていた。

 エレミアも、さすがにここまでされればアブソルートが何を言いたいのかは分かった。

 ――なんで、〝女の子〟なのに、そういう恰好をしているの? ということが、アブソルートが言いたかったことだったのだ。

「い、いい、いや、この格好は私の趣味です、ハイ! それだけですっ! それだけですからっっっ!!」

「そうなんだ」

 これで疑問は解決したとばかりに、これまたあっさりとエレミアから離れるアブソルート。そんなアブソルートの様子は、何というかこう――〝女〟としてのプライドに来るものがある。

 

 ――〝男〟だと勘違いされることはよくあった。実際自分が〝女〟だと分かりずらい容姿をしているのも重々理解している。

 

 ――でも、でもだ。

 

 あっさりと自分()の性別を看破しておいて、〝女〟である自分にこの仕打ちはいかがなものだろうか? とエレミアは正直なところ顔には出さなかったが、心の奥ではさめざめと泣いた。(その間も、クラウスだけがこのやり取りの意味が分かっていなかったことは言うまでもない)

「(ヴぃ、ヴィヴィ様~この子一体何ですかぁ!? い、いきなりこんなことするなんて……)」

 それにしても、いくら〝同じ女〟だからってこの仕打ちは、いかがなものか、と小声でオリヴィエに愚痴をこぼしながら彼女に泣きつくエレミア。だが、その時さらに驚愕の事実がオリヴィエの口より告げられる。

「(あーえっと、エレミア? この子は、――男の子、ですよ……?)」

「(………ハイ?)」

 

 ――エレミアは、その事実を飲み込むのに、たっぷりと十分間の時間を要したという。

 

 そのあと、部屋の隅で膝を抱えながら、ぶつぶつと愚痴をこぼしながらどよ~ん、とした雰囲気を背負ったエレミアをどうにかなだめ、休憩する予定の場所であるテラスへと連れだした。

 

 

 

 ――「もう……、お嫁に行けない…………」

 

 

 

 そんな感じでテラスへ移動した一同の下に、もう一人の来客が迫っていた。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 イングヴァルトの居城の庭のテラスにて――。

 

 四人は、オリヴィエが選んだという茶菓を楽しんでいたのだが、そこへもう一人の来客が現れた。

 急に、クラウスの頭に飛びついて来た猫耳の魔女っ子がいた。

「クラウス~」

「おわぁッ!? って、クロか……」

「いらっしゃい、クロゼルグ」

「オリヴィエ~……と、誰?」

「ああ、こちらは、私の友人のエレミアとアブソルートです。お二人とも、この子はクロゼルグ。この国の南部の森に棲んでいる魔女猫です」

「へぇ、よろしく」

 エレミアはにこやかに手を差し出したが、魔女猫はぷいっとそっぽを向く。その可愛げのない様子にエレミアはカチンと来たが、魔女猫はエレミアとは別にこちらへと視線を向けようとしていたもう一人に視線を向けると「あぁ―――ッ!!」と叫んだ。

「ど、どうしたんですか?」

「コイツこの前、わたしの事虐めた奴!」

「「「ええっ!?」」」

 一同はクロゼルグの発言に驚くが、肝心のアブソルートは全く覆えていないらしく、疑問符を浮かべている。

「? 君…………、誰だっけ?」

「わ、忘れたっていうのか!? あれだけの仕打ちをしておいて!」

「く、クロ。アブソルートはいったい何をしたんだ?」

「それは――」

 この間、クラウスとオリヴィエに会いに白の森の中を歩いていたとき、ついつい日差しが気持ちよく、眠気に抗えないまま少しだけお昼寝をしていたのだが……寝ている間に、突然尻尾を誰かに踏まれた。

 痛みに驚き、飛び上がった彼女だったが、その尻尾を踏んずけた犯人は全くこちらのことなど気にも留めない様子ですたすたと歩いて行ってしまう。

 そんな様子に怒って飛び出したクロゼルグだったのだが、背後から迫っていき、魔法で仕返しをしようとしたら一メートル手前まで迫ったのに、その瞬間翡翠のバリアが展開されたかと思うと、所謂『バリアバースト』の要領であっさりと追い払われてしまった。

 何よりも屈辱だったのが、その間にその犯人がこちらを見たのは、横目で一秒にも満たない一瞬であり、どうでもいいと言わんばかりにすぐまた前を向き直った挙句……情け容赦なく吹き飛ばしてくれやがったのだ。(具体的に言うと、城の外まで)

 痛いわ、屈辱だわ、腹は立つわと、容赦なくズタボロにしてくれやがったので、次会ったらボッコボコにしてやると意気込んでいたのだが、向こうはそのした仕打ちすら忘れていやがったのだ。

「――とういうこと」

「…………あのときのなんかよく分からない猫さんだったのか……」

 初めてオリヴィエとクラウスとあった日のことだったので、アブソルートはモヤモヤしたまま襲い掛かって来た相手を吹き飛ばした、程度の認識しかなかったため猫耳しか印象に残っておらず襲ってきた〝猫〟型の何かを不っ飛ばした程度の認識だったのだ。

「何だとぉ!? この、魔女を侮辱した罪、一生呪われてろぉぉぉ!」

 怒って魔法で攻撃しようとしたクロゼルグだが、アブソルートはテーブルのことをまったく考えていないその攻撃に素早く反応し、バインドでぐるぐる巻きにする。

「確かにさっきの話の限り悪いのは僕だけど、テーブルの上で暴れないの! そんなに相手してほしいなら後で相手してあげるから。だから、今は暴れないで」

「なぁにぃ!! えらそうに命令するな――「い・い・ね?」――……ハイ」

 有無を言わせぬその迫力に、クロゼルグは一瞬で大人しくなる。

「よし……。良い子だね」

 そういうと、バインドを外して宙づりになっていたクロゼルグのバンドを解き、落ちてくるのを器用に受け止め頭を撫でる。

「僕も悪かった。ゴメンね、失礼を働いてしまって」

「……別に、もういい……」

 またあっさりと素直に謝って来たアブソルートに拍子抜けし、クロゼルグも素直に謝った。

「じゃあこれはお詫びのしるしに……」

「? ……!」

 そう言ってアブソルートはポケットから何かを取り出した。それは、キラキラとした緑の宝石と銀色の金属の塊。

「見てて……」

 そうして掌の上でその二つの形を変えていく。そしてあっという間にその二つは、小さな髪飾りへ変わった。彼が書物で学んだ、別世界で発達しているという魔導技術で(アブソルートが閲覧した資料によると……どうやらその技術は、俗に『錬金術』と呼ばれることが多いらしい)金属を加工したのだ。

「よし、出来た。これを君に、お詫びのしるしってことで……」

「……いいの?」

 その宝石は『翡翠』。込められた意味は、調和や忍耐。平穏の省庁などとも呼ばれ、人に叡智を与えると言われている。また成功や繁栄の象徴でもあり、生命や再生などを司る、などと言われてもいるが…………この石をアブソルートが気に入ったのは、実は二つ理由が有る。

 一つは、自分の魔力光ともにている色彩に惹かれたこと、そうして、もう一つは――実は、これを自分にくれたのは――いつも自分の傍にいてくれた〝あの人〟が、くれて、『爺やたち』もこれを見たときは珍しくいつものこわごわとした雰囲気ではなく、「とてもお似合いですよ」と、純粋に褒めてくれたものだったから……。

 大切なものの象徴であり、アブソルートがその気に入った『翡翠』をオリヴィエとクラウスに見せたときに教えてもらった『意味』を込めて、これをこの魔女猫ちゃんに渡すのだ。

「うん。とっても、似合うよ」

「……ありがとう……」

 クロゼルグの髪にそれをつけてあげるアブソルートの姿は、二人とも金髪だからだろうか? アブソルートには失礼かもしれないが、はたから見ると――正直仲の良い〝姉妹〟にしか見えなかった。

 その光景を眺めていた一同は、その子受けを見ながらほっこりとしていた。

 

 

 アブソルートがそれに込めた思いは、『平穏の象徴』。いつまでも、この幸せな時が都合がよすぎるかもしれないけれど、それでも……ずっと、ずっと――続きますように、と…………。

 

 

 ――こうして、出会った一同は、ほんの少し悶着を繰り返しながらも、子供特有の無邪気さと純粋さで、次第に絆を深め合っていくのだった。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 こうして、流れていく『幸せな時間』。

 

 どこまでも満たされていく安らかな日々は、乾いていた少年に笑顔を与えた。

 

 しかし、同時に満たされていく少年の心とは反比例するように、少年を〝愛する〟者の嫉妬を――不満を煽っていく。

 

 そんな心の隙間は、『影の導き手(アンノウンハンド)』によって――世界が歩まんとする破滅への道を、先取りでもするかのように――操られていく…………。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 満たされぬ心の隙間、迫りくる影。

 

 ――取り戻したくはないか?

 

 ――〝戻したく〟はないか?

 

 ――この世界を、邪魔者を、あの方の〝輝き〟を曇らせる者たち……。

 

 ――憎くは、無いか?

 

 ――消し去りたくはないか?

 

 

 ――その為の、『力』が欲しくないか?

 

(…………欲しい……、取り戻したい……。あの、〝輝き〟を…………)

 

 

 

 ――ならば……〝私〟が力を、与えてやろう……。

 

 

 

 × × ×

 

 

 

 破滅へと進む世界、迫りくる脅威、影が誘う――呪われた〝システム〟が導くのは、無への帰還。

 

 真に世界を保つのは、そこ存在する人の〝記憶〟。命は記憶、時の流れが織りなすのは、世界や人そのもの。

 

 それが破滅するとき、崩壊し……消え去るとき。

 

 そんな時の流れに抗おうとした少年の選んだ道とは?

 

 

 

 ――忘却の都、永久の都より賜わりし『槍』の真の力とは?

 

 ――『終焉』の本当の意味とは?

 

 ――『静寂』の意味する真意とはいったい何か?

 

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか? お楽しみいただけたのであれば幸いです。


 次回以降から少しずつ武器の設定を乗せて行けるような方向で書いていけたらいいなと思ってます。

 なるべく本文中で邪魔にならない程度に載せようとは思っていますが……でも、もし本文に載せづらかったら、その時は設定の概要を書いてそれを本編の話と合わせて番外で投稿していこうと思っていますのでよろしくお願いします。


 あとは、伏線なんて程ではありませんでしたが、いくつかそれっぽく書いてみたのでそれをしっかり回収できるように頑張ります。

 後は、今回リッドやクロゼルグなんかも出してみたので画面がにぎやかになったかなぁなんて思います。



 では次回またお会いしましょう。

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