Fate/SAKURA   作:アマデス

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作者「すまない…感想でヘラクレスの『射殺す百頭』は変形しないとの指摘を受けた…それに伴い6、7話を微修正した、すまない…話の大筋は全く変わっていないのでチラリと覗いてくれるだけで構わない…本当にすまない…」

アチャクレス「すまない…レディ桜がメインの小説なのに感想欄で私の事ばかり言及されてすまない…」

桜「すまない…主人公なのにヒロイン(先輩)を寝取られてすまない…」

竜殺し「すまない…持ちネタをパクられてすまない…」


前半メイン、後半おまけの情報整理。1万文字近くおまけ扱いってのもどーなの。


8話 魔力供給(とおまけ)

「……………えーっと……すまん、もう一回言ってくれ。出来れば具体的に何をすればいいのか、それをする事によって何がどう解決するのか懇切丁寧に………い、いや!!やっぱり、ちょっと、なんか、駄目だ!桜も居るし…こう、上手く言えないけど絶妙にぼかした感じで…」

 

 

 先輩が凄い早口で何事かを捲し立てている。

 無理矢理感情を押し殺して機械的に喋っているかと思ったら、急に顔を真っ赤にして慌て始める。

 私は、何も反応出来ない。

 

「マスター、私と、セックス、して、ください」

「ド直球150㎞っ!!!」

 

 ああ、言ってしまった。

 自分の耳か頭がおかしくなってしまったんじゃないかと、何かの間違いじゃないかと思っていましたけど、やっぱりそういう事でした。

 

「魔術師の、爪や、骨や、髪や、血…肉体は、魔術の触媒として、大きな、作用を、持っ、て、います…特に、精液は、魔力の、塊、なんです…それを頂ければ、一先ず、消えずに済むと……」

「そっ、そうなのか桜?」

「ひへ、えっ!?」

 

 目の前の現実を否定したくて呆然としていたら先輩に話を振られてしまった。

 一瞬で顔に血が昇る。

 先輩も直ぐに不味い事を聞いてしまったと気付いた様で目を泳がせていた。

 

「す、すまんっっ!!い、今のは決してセクハラとかじゃなくてだな!」

「あ、や…だ、大丈夫ですよ先輩。ちゃんと分かってますから……あの、先輩…キャスターさんの言ってる事は、本当ですから、その…」

 

 羞恥で段々と声が尻すぼみになっていく。

 そうだ、今は個人の感情を優先している場合じゃない。

 現状それしか方法が無いのだから、キャスターさんの、()いては先輩の為に、ここは私情を殺さなくては。

 確りしなさい間桐桜!魔術師なんですから高々性交くらいで一々動揺してはいけない。

 そもそも私なんて十年前とっくに処女を───

 

 ───ウン、ベツニイマハワタシノコトナンテカンケイナイデスネ。

 

 

「キャスターのマスター。心中お察ししますが、今は一刻を争います。一先ず貴方の家か桜の家か…どこか落ち着いて()に入れる場所に行きましょう」

「こ、事って…」

「!あ、私の家は不味いです!兄さんが既に帰って来ている筈なので…」

「では、決まりですね」

 

 そう言ってキャスターさんをお姫様抱っこするライダー。

 ライダー、貴女は人を抱える時絶対それじゃないと駄目っていう自分ルールでもあるの?

 あれよあれよと進んでしまった話に先輩は顔を赤くしたまま「えぇー…」と声を絞り出していた。

 

 私も同じ心境です先輩。

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 嗚呼、果たしてこれは現実なのか───。

 

 

「マス、ター。此方は、何時でもOK、ですよ」

 

 我が家たる武家屋敷の一室、畳敷の和室の中心に布団が一組敷かれている。

 その布団の上で自分と向かい合っているのは、約一時間程前に召喚した(知り合った)人物。

 風邪でも引いているかの様に苦し気に息を切らし、だがその紅潮した頬と濡れた瞳が恐い程の色気を漂わせている。

 

「な、なぁ…本当に、するのか?」

「今更、止められても、私はこの、まま、消えるだけで、す…ふふ、大丈夫ですよ、これは、お互いに、合意の、上で行う、作業…謂わば、人命救助、の、様なもの、なん…ですから」

 

 未だに覚悟の決まらない俺を情けないと呆れるでも嘲笑するでもなく、キャスターは努めて冷静に、それでいて此方を安心させる様に微笑んでくれた。

 喋るのと並行して上着を着崩す。

 シュルリシュルリ、と軽い音と共にキャスターの肌が少しずつ露になっていく。

 清楚な面持ちと火照りを放つ汗の浮かんだ体、対極的な二つの相乗が俺の理性を溶かして─────不味い、ここで既にいっぱいいっぱいだ。

 

「ご、ごめんキャスター!いや、状況は理解してるし問題は俺の個人的なものでしかないってのも自覚してるんだけど…キャスターは、その、俺とでいいのか?」

 

 そうだ、そこを勘違いしてはいけない。

 キャスターは言った、これは人命救助の様なものだと。

 人の命が懸かった行為、冷静さと正確さが求められる、真剣に取り組まねばならないもの。

 だがそれとこれとは別の問題であるのも事実で。

 他に選択肢が無いからこそやらざるを得ない、仕方の無い行為を無理矢理キャスターに強いる訳だ。

 要するに、キャスターが俺と()()事を本心では嫌がっているのなら。

 我を忘れて目の前の女性に溺れるなんて事態には決してなる訳にはいかない。

 そこに()()を差し挟む余地は無いのだ。

 

 そんな俺の、男特有の臆病さからくる確認(予防線張り)に。

 

 

「…()()()()、優しいですね、マスターは」

 

 変わらず、微笑みで以て応えた。

 此方の全てを包み込む様な、慈愛に満ちた聖母の如きその表情に、己の矮小さを突き付けられているようで。

 

「…違う、こんなのは、優しさなんかじゃ…」

 

 

 

 ヂクリ、と。

 

 

「っぃ!?」

 

 キャスターの認識する自分を否定する言葉を吐こうとした次の瞬間、右腕に突然何かに刺された様な痛みが走った。

 何事かと反射的に目をやるとそこには──

 

「──虫?」

 

 蜂みたいな黒い虫が止まっていた。

 どうやらこいつに刺されたらしい、そう認識するや否や反対の腕でその虫を払おうとするが──

 

 

 グ ニ    ャ  リ

 

「────── あ   れ ?  」

 

 

 体が、熱い。

 頭が、重い──違う、フラフラと。

 座って、いる事も、出来ない。

 平衡感覚が。

 酔った──酒──違う──虫──毒──?

 

 

「心配しなくて、いいんですよ。貴方に、抱かれる事を、()()忌避する筈、無いんですから…でも、そうやって、口で言っても、貴方は本当に、優しいですから、遠慮しちゃいますよね」

「きゃす、た、ぁ…?」

 

 体が動かない。

 キャスターが何かを喋りながら(にじ)り寄ってくる。

 口元が、淫靡に歪んでいる。

 

「ふふ、ですから、少し、ズルをさせて、もらいました…普段は、こんな事する、必要も、無いん、ですけど…どうせなら、マスターも、気持ち、よくなってください…ね…?」

 

 パサリと、キャスターの肢体を覆い隠していたものが全て取り払われ、床に落ちる。

 目が離せない。

 息が加速度的に荒くなる。

 キャスターが俺の手を引く。

 触れる。

 柔らかい。

 きもちいい。

 もっと。

 もっときもちよくなりたくて。

 もっともっともっと─────

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 落ち着かない、どうにも落ち着かない。

 いや、私自身は普通に平静を保てているのですが…。

 

 桜。

 私のマスターたる少女は、どうにもそうではないらしい。

 先程から、具体的にはキャスターとキャスターのマスターが共に屋敷の一室に入っていった直後から様子がおかしくなり始めた。

 頻繁にお茶を飲む。

 何度も立ち上がって二人の入った部屋に近付こうとするも直ぐに思い直した様に元居た座布団の上に座り直す。

 座っているとあっちこっちに視線を泳がせる。

 頭を抱える。

 意味も無く髪を弄る。

 リボンを弄る。

 手をしきりに開閉する。

 モジモジと足を擦り合わせる。

 体全体でそわそわし始める。

 自身を落ち着ける様にお茶を淹れて飲む、と先程からループの繰り返しだ。

 明らかに平静を欠いたその様子は、端から見ている此方の注意を否が応にも惹き付ける。

 これではリラックスしようにも出来ないというもので。

 

 というか、あの、あれです。

 ムラムラします。

 

 なんですかあの小動物の様な、可愛らし過ぎる有り様は。

 コロコロ変わる表情といじらし過ぎる仕草が、ありとあらゆる一挙手一投足がジリジリと私の背筋から尾骶骨の辺りを刺激してきて、思わず肩がビクビクと跳ねてしまう。

 これが聖杯から与えられた知識にあった『萌え』といったものなのでしょうか。

 今の桜を見ていると、どうにも興奮するというか、腹部の奥で今にも爆発しそうな、不完全燃焼生殺し的な何かが渦巻いて、でも決して不快ではなくて──。

 

 ああ、もう、はい。

 兎に角、ムラムラします。

 

 私は普段、魔眼を封じる為にバイザーで目を覆っているので外界の認識は主に聴覚、嗅覚、触覚、魔力知覚の四つで行っています。

 その為、他のサーヴァントよりもそれらの感覚が鋭く、そうでなくともサーヴァントなので常人より身体能力は遥かに優れている。

 なので、よーく感じてしまうのです。

 

 キャスター達の、行為を。

 

 襖越しでも良く判る。

 荒い息遣い、肉と肉がぶつかり合う高い音、女の嬌声、男の唸声、独特の生臭さ…もう、直接ダイレクトに視界に収めているのと変わらないレベルで二人のまぐわいを感じてしまって。

 それも滾ってしまう要因の一つでしょう。

 

 ああ、不味い。

 このままでは自分の本能に呑まれてしまいそうだ。

 いざとなったら、行為を潤滑に進める為のサポートとかでっち上げて二人の間に乱入するのも手ですが、今、私の目の前には(極上の餌)が無防備に転がっている。

 据え膳なんてものじゃない、これは最早拷問に等しいです。

 目の前でこれでもかと云わんばかりに御馳走を見せ付けられて、でも決して自分はそれを口にする事が出来ない。

 巫山戯るな、こんなものは鬼畜の所業です。

 ああ、襲いたい襲いたい襲いたい、桜を襲いたい。

 せめて血を吸わせて欲しい。

 桜も桜ですよ、あんな、これ見よがしにセックスアピールをしてきて。

 それじゃ殆ど誘っている様なもの───

 

 

 

 ───いや、もしかして本当に誘っているのでは?

 

 

 想い人が自分以外の女と寝るなんて、ましてや目の前でおっ始めるなんて恋する乙女として黙っていられる筈が無い。

 だが魔力供給という大義名分を持ち出されては止める事も出来ず。

 そうだ、なら自分も魔力供給のサポートという大義名分で参戦して相手より自分の方が上等な女だという事を知って貰おう。

 でもいきなり部屋に突撃しては空気が死んでなんか色々うやむやというか微妙な雰囲気になる可能性大だし、何より発情した色ボケ女だと思われてしまっては本末転倒。

 そうだ、ならライダーから言い出して貰おう。

 経験豊富そうなライダーからの申し出なら二人も大して怪しまないかもしれない。

 

 

 なるほど…こういう事ですね桜っ!!

 

 流石は我がマスターです、ピンチをチャンスに変える…正しく起死回生の策をこんな短時間で思い付くとは。

 であればサーヴァントとして私も貴女の期待に応えねばなりませんね。

 大丈夫ですよ桜、たとえ貴女が私に罪を着せて出汁にしようとしているのだとしても、この身はサーヴァント。

 昨夜の誓いを違える気は毛頭ありません。

 そもそも私は反英雄、寧ろそういった役回りは臨むところですとも。

 

 ですから先ずは私が桜に色々とご教授して差し上げねばなりませんね。

 ふふふ、大丈夫ですよ桜、貴女の見立て通り私は経験豊富ですから。

 何からナニまでたっぷりねっぷりと詰め込んであげます。

 ですがあまりもたもたしていると二人が行為を終えてしまうかもしれませんからね、手っ取り早く実践教習という事で───

 

 

「ねぇ、ライダー?」

「───はい、どうしましたサクラ」

「ライダーって、伝承ではポセイドンと…………あの……そういう事した経験、結構あるの?」

 

 

 唐突に。

 桜が声を掛けてきたと思ったら、そんな質問をされてしまっていた。

 私は何食わぬ顔で返事をする、その裏で大いに動揺する。

 え、何故ですか桜、何故その様な事を?

 ──これは、まさか。

 

「…ええ、そうですね。ギリシャ…に限りませんが、神々は気が多いですからね。其れ等から加護を受けた人間達の価値観も、今の時代と比べて随分奔放だったかと」

 

 焦るな、冷静になりなさい私、まだそうだと確定した訳ではないでしょう?

 まだ聖杯戦争は序盤も序盤、ここで下手な博打を打って信頼関係に皹を入れる訳には──

 

「じ、じゃあ、それって大体、終わるまでにどれくらいの時間がかかるの?」

「どうでしょうね…やはりそこは個人の体力や辛抱強さもありますが…雰囲気次第で幾らでも延長戦が始まりますからね。取り敢えず1時間は見ておくべきかと」

「い、1時間………よし、じゃあ、それまでに準備しておかないと」

 

 ──あ、これはキマシタね。

 半ば勢いだけの理論で妄想爆発させてましたがこれは完璧に来たでしょう。

 勝機ですね、ふふふ、まさかこんなに早く貴女を味わえるとは夢にも思ってませんでしたよ桜。

 ご心配無く、あのマスターとの関係は私が完璧に取り持って差し上げますから。

 さあ、私に全てを委ね──

 

「二人が直ぐにお風呂に入れる様に、お湯を沸かしておかなくちゃ……?どうしたのライダー?机に頭を打ち付けて」

「いえ、何でもありませんよサクラ」

 

 勝機でも何でもなかった。

 というか、お湯を沸かすって、ぇぇ…。

 懸想している殿方が他の女と睦み合っているというのにそれでいいんですか桜。

 

 いや、先程の様子からして心の内は穏やかではない筈だ。

 きっと、生来の優しさとか引っ込み思案な所とか、魔術師として二人の行為の理を肯定しなければいけないとか、色々な思いが複雑に混ざり合って桜の中を駆け巡っているんだ。

 これは、少々時間を懸けねば落ち着かない案件ですね。

 桜も自己分析でそう判断したのでしょうか。

 

 取り敢えず、自分はもう大人しくしておきましょう。

 いや、内心では大忙しでしたが外面的にはずっと静かに座ってるだけでしたけどね私。

 

 

          ∵∵∵

 

 

 それから約2時間半経ってキャスター達は部屋から出てきた。

 キャスターは戦闘直後の、今にも消えそうになっていた薄い気配等微塵も感じさせず、その総身に魔力を滾らせていた。

 あと顔が凄く艶々していた。

 マスターの方も艶々していたが、頬はゲッソリと痩けていて、その表情は罪悪感でいっぱいの様子だった。

 

 

          ∵∵∵

 

 

「………ふぅ、御馳走様。ありがとな桜。少し落ち着いた」

「いえ、これくらいしか出来ませんから」

 

 あの後、行為を終えた二人をお風呂に入れた──無論一人ずつ順番にです。第2ラウンドを勃発させる訳にはいかない──私は、先輩に食べて貰う為の料理を作っていた。

 既に深夜と言って差し支えない時間だったので、あまり重くなく、それでいてエネルギーをキッチリ得られる料理を自分の脳内レシピから見繕うのは難しかったですが、作らない訳にはいかなかった。

 大分搾られたのでしょう、今にも栄養失調で倒れそうな程に(やつ)れた様子の先輩をただ放っておくという選択肢は無かった。

 お皿を下げながら想像する。

 どれだけ盛り上がったのかは知りません…というか知りたくもありませんが、キャスターさん、もうちょっと自重してください。

 

「…先輩、よっぽど気持ち良かったのかな」

 

 いけない。

 落ち着けた筈なのにまた心がざわつき始める。

 先輩が、直ぐ近くで、自分以外の()と。

 その事実が悲しいような、恥ずかしいような、怖いような、妬ましいような、気になるような──色々と冷静には程遠い感情が混ざってごっちゃになって、身動きが取れなくなる。

 別に恋人同士という訳でもないのに、とっくに初体験なんて終えてる癖に、性に関する事柄すら神秘の探求の手段にする魔術師の癖に。

 こうして自分に言い聞かせるのは何度目だろう。

 確りしなさい間桐桜。

 今はそれを気にしている場合じゃない。

 先輩もライダーもキャスターさんも私も、みんな無事に生き残る事が出来たんだから。

 今はその幸運を噛み締めよう。

 そして、今後の為にどうするか、それのみに思考を割くんだ。

 

 

 

「さて、それじゃあ、何から話しましょうか」

 

 食器を洗って片付け終えた私が居間に戻ると、キャスターさんがそう切り出した。

 …何から話し合えばいいんでしょう?

 改めて考え始めると、色々纏めなきゃいけない情報が多くて混乱してしまいますね。

 ええっと…先ずはやっぱり──

 

「でしたら先ずは、キャスターのマスターに現状を把握して貰わなければなりませんね。桜が一応説明はしましたが、緊急を要する場でしたので端的な事柄しか伝えていない。詳しく情報を得なければ、正確に事情を把握していなければ話し合いどころではないでしょう」

 

 私が口を開こうとした瞬間、ライダーが懇切丁寧に、私が言おうとした事と完全に同じ事を言ってくれた。

 …ありがとうライダー、代わりに言ってくれて。

 え?別に怒ってないよ?先を越されて拗ねてるなんて事ないよ?頬が膨らんでる?気のせいだよ?

 

「コホンッ…それでは改めて、今この街で何が起こっているのか、先輩に説明したいと思います」

「ああ、頼む。只でさえ今日は驚きのバーゲンセールだからな」

 

 本当にその通りだと、私も思う。

 先輩が魔術師だと判明したり、アインツベルンのサーヴァントがヘラクレスさんだったり、そのヘラクレスさんが不死身の再生能力を持ってたり、キャスターさんと先輩が…ゴニョゴニョしたり…兎にも角にも驚愕の連続だった。

 其れ等を確り整理する為にも先輩に説明しないと。

 

「さっきの戦闘中にも言いましたが先ず──先輩は魔術師同士の殺し合いに巻き込まれたんです。聖杯戦争という、文字通り聖杯を求めて戦う、七人の魔術師(マスター)と七騎の英霊(サーヴァント)の争いに」

「聖杯、戦争…」

「はい。この冬木の地には、万能の願望器である聖杯が眠っているんです。聖杯は、自らを手にするに相応しい人を選定する為に、七人の魔術師に令呪と呼ばれる聖痕を宿します。令呪が宿った魔術師はマスターと呼ばれ、サーヴァントを召喚、使役し聖杯戦争に参加する権利を与えられるんです」

 

 先輩は改めて自分の左手に刻まれた、今は残り二画になった令呪を神妙な面持ちで見詰める。

 ここまでは大丈夫そうだと判断して説明を継続する。

 

「そして選ばれたマスターとサーヴァントは互いに殺し合い、最後に残った一組の前にその姿を現すんです。それが聖杯戦争、聖杯を手に入れる為、選ばれる為に競い合う降霊儀式なんです」

 

 一先ず概要をなぞった私は先輩の反応を待つ。

 こういった説明をする時、此方が一方的に、且つ一気に全てを話してしまっても、聞く側は情報量が多過ぎて頭に入らないだろう。

 だから少しずつ情報を小出しにして相手に考えさせ、相手が考え至った疑問を此方が補足する形を取れば確り覚えられる筈だ。

 先輩は腕を組んで暫く唸っていたが、やがて最初の質問が飛んできた。

 

「なあ桜。冬木に聖杯が眠っているってのは、本当なのか?」

「はい、それは紛れも無い事実です。その証拠として、聖杯を巡る戦いは今回で5度目だって聞いてます」

「っ、こんな、こんな戦いを、既に四回も行ってきたっていうのか!?」

 

 心底信じられないといった様子の先輩。

 他人の不幸を心の底から悲しみ、また他人の幸福を偽り無き真心から喜ぶことの出来る、本当の意味で優しい先輩だからこそショックは大きいのだろう。

 こんな剰りにも頭おかしい狂った次元で繰り広げられる命のやり取りが、遥か昔から自分の住む街で行われてきたのだから。

 

「ですが、その過去四度の戦争において、聖杯を手に入れられた人は一人もいないそうなんです」

「…なんだよそれ?聖杯の持ち主を決める為の戦争で聖杯を手に入れた奴がいないなんて、とんだ矛盾だぞ」

「それが単純に最後まで生き残れば良いと云う問題ではないみたいで…聖杯が降臨する期限は決まっていて、最後まで勝ち残ったけど時間切れだったとか、参加者が全員相討ちになって勝者が出なかったとか、降臨した聖杯がそもそも未完成だったとか…ハッキリとした事は伝わってないんですけど」

 

 そう、お父様もお爺様もその辺りの具体的な事は何も教えてくださらなかった。

 過去の聖杯戦争において、どの様な参加者がどの様に動いたかというのは断片的に記録が残っているのですが、最終的な戦争の顛末や聖杯の行方等はどうにも明確な情報が無いのです。

 聖杯戦争による神秘の漏洩を防ぐ為に魔術協会と聖堂教会の隠蔽班が其れ等の記録を取っている筈なのですが…元参加者の親族である私や姉さんにそういった情報が殆ど回ってこないのは一体どういう事なんでしょうか。

 どうにもきな臭いものを感じてならない。

 

「どうにも胡散臭い話だなそれ……そもそも聖杯って、あの、聖人の血を受けたっていう、最高位の聖遺物の事だろ?そんなものが、こんな極東の島国に眠ってるって時点でとんだ与太話だな」

「あはは…ですよね~…正直私もそう思ってます」

「え?」

 

 私の本音に先輩だけでなくライダーも訝しげな反応をする。

 私は苦笑しながら話を続ける。

 

「冬木に眠っている()()()()()()()()()が、先輩が述べたものと同一の()()かと言われたら、ちょっと首を捻らざるを得ないですね。そういう意味では私も半信半疑です」

 

 きっと姉さんもそう考えている筈だ。

 でも、この冬木に根を張る魔術師にとって、()()()()()()()()()()のだ。

 

「でも、実際にこうして英霊(サーヴァント)の召喚という、一魔術師では到底不可能な法外の奇跡が起こっていますから。真贋は兎も角、この冬木に最高位の聖遺物に匹敵する()()()が在るというのは間違いないんです」

「う~む、なるほど……じゃあ、二つ目の質問なんだが、そもそもサーヴァントっていうのは、一体どういう存在なんだ?使い魔とは聞いたけど、あんな出鱈目な強さを持ってるし、第一…えーっと、なんだ、上手く言えないけど使い魔っぽくないというか」

 

 おっといけない、そういえばその辺りの説明も省いてしまっていました。

 ヘラクレスとかメドゥーサとか、かなりメジャーな名前なのでなんとなく分かって貰えていたかと思ったけど、やっぱり事前知識/zeroでは見当もつかないらしい。

 まぁしょうがないですね、1を知って10を理解しろというのは酷な話です。

 

「サーヴァントというのは歴史に名を遺した過去の英雄が死後に祭り上げられ、精霊の域にまで昇華された人を越えた人…つまり英霊という存在です」

「過去の英雄…」

「そうです、伝説上の存在である英雄の魂を呼び出し、再現、固定化するという聖杯の奇跡ですね。呼び出すのは聖杯のシステムで、呼び出した後のサーヴァントを現界させておく魔力を提供するのはマスターなんです」

「魔力の提供……っぁ」

 

 チラリとキャスターさんを一瞥した先輩が気まずそうに顔を赤くする。

 それに釣られる様にキャスターさんも頬を染めて…ってあああああっ!!もう!!駄目です駄目ですそういうの!此方まで恥ずかしくなってきますから!

 

 

「な、なるほど!マスターが魔力を供給しないとサーヴァントはこの世界に存在出来ない。だからあんな出鱈目な戦力を持っててもマスターに逆らう様な事は出来ないと」

「そ、そうです!まぁ一介の魔術師が英霊を従えるにはそれだけじゃ到底足りないので…その為にこの令呪があるんです」

「これか…そういえばさっきキャスターに言われるままに、令呪による命令?ってのをやったけど…」

「令呪は先述の通り、マスターに選ばれた証である聖痕なんですが、同時にサーヴァントを縛る三回限りの絶対命令権でもあるんです。サーヴァントの行動を抑制したり、場合によっては自害させる為のものです」

「自害って、随分物騒だな…」

「仕方がありませんよ。仮にサーヴァントに裏切られたり敵対行動を取られたら、私達人間は為す術も無く殺されるだけですから。それを防ぐ為の処置なんです」

 

 理解は出来たが納得はいかない、そんな表情の先輩の為に一つ付け足す。

 

「ですがさっき先輩がしたみたいに、サーヴァントの意志に沿う形の命令を下せば令呪の魔力で能力をブーストしてサポートする事も出来るんです。サーヴァントと確り信頼関係を築けば、宝具と並んでこの上無い切り札になるんですよ」

 

 そう言いながら私は隣に座っているライダーの手を取る。

 ライダーも微笑みながらそれに応じてくれた。

 それを見て先輩も表情を綻ばせてくれた、が、直ぐに表情を苦いものに変えてしまう。

 

「聖杯戦争のルールとシステムは大体分かったけど…納得いかないな。いくら万能の願望器を手に入れる為だからって、他のマスターとサーヴァントを全員殺さなくちゃいけないなんて…そんな凄いものならみんなで分け合えばいいのに」

「それが出来るに越した事は無いんですけど…聖杯を手に出来るのは一人だけと決めたのは他ならぬ聖杯ですからね。主催者兼スポンサーには逆らえないのが世の常です」

「なんだそれ」

 

 やっぱり今の説明では先輩は表情を変えてくれない。

 ジョークとしてはちょっと落第だったかな?

 

「でも先輩、マスターを全員殺さなきゃいけないっていうのはちょっと違いますよ」

「え?でも、殺し合いだって…」

「この地に現れる聖杯は霊体なんです。霊体は同じ霊体にしか触れられない、だからサーヴァントが必要なんです。要は自分が従えている者以外のサーヴァントを全員脱落させればいいんです」

「!そうか…!じゃあ、マスターだからって桜が殺されたり、俺と桜が殺し合わなきゃいけない様な事にはならないんだな」

「いえ、そう単純な話ではないのですよ、キャスターのマスター」

 

 安堵した様子の先輩にライダーが不意討ち気味に口を挟んだ。

 ちょっとだけ驚いてライダーを見ると、私に申し訳なさそうな表情を見せて先輩に向き直った。

 

「貴方も先程見たでしょう、サーヴァントの圧倒的な強さを。人間の魔術師では到底打倒は不可能、同じサーヴァント同士でも破り難い強敵です。ですがそんな存在にも唯一にして決定的な、共通の泣き所があります」

「共通の泣き所…?………あっ」

「理解いただけましたか?」

「ああ…サーヴァントはマスター無しでは存在出来ない、だからマスターを殺した方が早いって事か」

 

 そう、そういう事なんです先輩。

 この聖杯戦争のシステムの厭らしい所はそこだ。

 

「それに加えてですね先輩、マスターを失ったサーヴァントは同じ様にサーヴァントを失ったマスターと再契約して戦線に復帰する事が出来るんです。パートナーを失ったからと云って、それは決して脱落した事とイコールにはなりません。ですから後顧の憂いを断つ為に、マスターもサーヴァントも諸とも消してしまおうとする人の方が絶対に多い筈です」

「…こっちに殺す気が無くても、相手が見逃してくれるとは限らないって訳か」

「その通りです。ですから手を組んだ相手ならまだしも、敵に対して殺す事を戸惑ってはならないかと」

 

 先輩の言葉に追い討ちをかける様にライダーが付け加えた。

 厳しく冷酷な意見だが、それは先輩の、延いては私の為の忠告だというのは明らかで。

 

 でもねライダー、きっと先輩は──

 

 

「……それでも、俺は…出来れば敵を、いや、人を殺したくなんかない」

 

 

 ──先輩は、それくらいじゃ曲がってくれないんです。

 

 先輩の言葉にライダーの雰囲気が僅かに剣呑さを含んだものに変わったのを感じる。

 それはそうだろう、確りと理屈を理解した上で、最適解に辿り着いた上でそれを選択しないというのは、無駄な感傷や拘りによるものに他ならないからだ。

 ましてや命の懸かった事象に対して、こんな甘い事を言われては、大なり小なり心が波風を立てるというものです。

 少ししてライダーが再度口を開く。

 

「そうですか、では貴方は自分が敵に情けをかけたせいで桜が命を落としても構わないというのですね?」

「なっ…!違うっ!何でそういう話になるんだよ!」

「そういう話だからです。キャスターのマスター、貴方は中々に()()()人間です。これまでの人生における安全な日常とはかけ離れた、命の危険すら伴う状況に置かれても、パニックに陥らないだけで無く冷静に頭を使って状況を理解する事まで出来ている。だというのに、その上でその様な愚かな結論に至る様では、危機感が足り無さ過ぎると言わざるを得ません。貴方がその様な有り様では、いずれ桜にも危害が及ぶのは自明の理。先程は一時的に共闘態勢を敷きましたが、貴方がその考えを改めないのであれば、今後はその限りではありません」

「っ、ぐ…」

 

 淡々と、でも確かな怒気を含んだライダーの言葉に押し込まれる先輩。

 ライダーは尚語りを止めない。

 

「それだけではありません。仮に貴方が手心を加えたせいで敵を取り逃がした場合、無関係な一般人にまで被害が及ぶ可能性があります」

「──なんだって?」

「実力で劣るマスターやサーヴァントが取る手段において、最も定石(ポピュラー)なのは()()()()()()()事です」

「な、に…?」

「我らサーヴァントは一部例外を除き、その殆どが過去の人間、即ち人間霊です。そんな私達が魔力を補給する手段は、マスターからパスを通じて魔力を受け取るか、人間を襲って無理矢理その魂を喰らうかの二沢に限られます。マスターから得られる魔力だけでは勝てないと判断すれば、より充実した戦力を得る為に()()()()()()()に手を出すのは当然の帰結では?」

 

 魔力の運用に長けたキャスターなら分かりませんが、と、キャスターさんの方を一瞥しながらボソリと付け足したライダー。

 でもそんなライダーの呟きが聞こえない程に、先輩は余裕を無くしている様だった。

 何かを堪える様に眉間に皺を寄せたその表情は、3年の付き合いがある私でも初めて見るくらいに険しく、激しいもので。

 

 少し、恐い。

 キャスターさんは、そんな先輩の隣に座りながらも、何も言わない。

 

 

「そんな…そんな馬鹿げた話があるかっ!!」

「ですが事実です。戦術や相性の問題で撤退せざるを得なかったならまだしも、手加減された上で敵わなかったのだとしたら、相手も相当に切羽詰まる筈。桜や貴方は例外ですが、基本的に魔術師とは傲慢で他者を見下し、周りを省みない外道ばかりです。ましてや賞品は万能の願望器、どれ程の犠牲を出そうと形振り構わない暴挙に出る者は必ず現れるでしょう」

 

 それは違う。

 いや、ライダーの言っている事は正しいけれど、それは殆ど杞憂で終わるだろう事例だ。

 高々人間一人の魂を喰ったところで得られる魔力は少量、神秘の秘匿を第一にして絶対の掟とする魔術師が、人に見られる危険を冒してまでその様な事をする可能性は低い。

 人払いの結界を張ればその点は安心だが、当然魔術を使うのだから魔力を消費する。

 魂喰いで得られる魔力と人払いの魔術で消費する魔力の差を鑑みれば剰りにも効率が悪いとしか言えないでしょう、正しくハイリスク・ローリターンというやつだ。

 ましてや聖杯戦争に参加するのは、御三家は元より魔術協会から派遣されてきた生粋の魔術師達、この程度の事が解らない人等居る筈も無い。

 故に魂喰いなんて愚行を犯す人は早々居ない筈なのだ。

 

 ライダーもきっとそれくらいは分かっている筈。

 それでもこうして尤もらしく語るのは、先輩を諫める為に他ならない。

 キャスターさんもその部分を指摘せず(だんま)りを決め込んでいるのは、やはりライダーと同じ理由なのでしょうか。

 

「理解頂けましたか?敵を見逃せば見逃す程、人を殺したくないという貴方の願いとはかけ離れた結果が待っているのです。貴方のその想いが、単純な善意によるものなのか、それとも人を(あや)めたくないという臆病風からくるものなのかは私の知るところではありません。ですが、より多くの命を保証したいというのなら、私の述べた事を努々お忘れ無きよう」

「………」

 

 先輩は只管押し黙ったまま。

 何か、何かを言ってあげたい。

 先輩には何時だって笑顔で居て欲しい、そんな辛そうな顔をしないで欲しい、先輩の想いは人として正しいものだって認めてあげたい。

 でもそれは許されない。

 私は魔術師なのだから。

 神秘の探求者として、聖杯戦争の参加者として、常に合理的な判断を下せる自分でいなくちゃならない。

 こんな未熟な私をマスターと認めてくれたライダーに報いる為の、それが最低条件だ。

 何より、この闘争に先輩を巻き込んだのは、他ならぬ私なのだから。

 ライダーの言葉は、聖杯戦争を生き残る為に必要な心構えを説いたものなのだから。

 

 だからお願い先輩。

 どうか、どうか───。

 

 

 

「嫌だ」

 

 

 

 ───────。

 

 

「そんなのは、嫌だ」

「なっ…!?」

「先輩…?」

 

 言い切った。

 先輩は、ライダーの言葉を十全に理解して、目の前の現実がどれ程に悪辣なものか思い知って。

 その上で。

 前を向いて。

 堂々と、そう宣った。

 

 

「ライダー、だったよな?あんたの言いたい事はよく分かった。この戦いが、甘い事を抜かしてられない程に厳しいものだって事も。独り善がりの行動で、命を救ったつもりが逆により多くの命を奪う結果に繋がるって事も」

「ならば──」

「でもっ!!それでもっ!!相手を殺す事でしか全てを解決出来ないなんて、絶対に間違ってる!」

 

 先輩は叫ぶ。

 自分の想いは間違っていないと。

 

「こんな狂った戦争、何としてでも終わらせなきゃいけない。何としてでも犠牲を出す訳にはいかない。その為には、非情な決断を下さなきゃいけない時も来るかもしれない。でも、(はな)から他の手段を諦めて相手を殺しにかかるなんて事はしたくない。不確定な未来の可能性に足を取られて、目の前の確かな命を切り捨てるなんて、そんなのは駄目だ」

「───」

 

 

 頬が熱い。

 動悸が激しい。

 何でこんなにも動揺しているんだろう。

 先輩の優しさはずっと近くで見てきた筈なのに。

 先輩の綺麗さはずっと近くで感じてきた筈なのに。

 

 まだ、自分は先輩の事を解り切っていなかったんだ。

 それが、こんなにも、胸を高鳴らせるなんて。

 

「先輩…」

「…口先だけの決意なら、誰でも垂れ流す事は出来ます。具体的な対抗策が無ければ──」

「策ならありますよ」

 

 

 ふわりと。

 風が人と人の隙間を通り抜ける様に。

 

 きっと、全てを(はか)っていたのだろう。

 今この時、この展開を待ってましたと云わんばかりのタイミングで。

 キャスターさんが口を開いた。

 

「要は見逃したマスターが他のサーヴァントと再契約する事を防げればいいのですから。私の魔術ならそれが可能です。聖杯のシステムとマスターを繋げている魔術的リンクを()()()事で再契約という申請(アクセス)自体を封じてしまえばいいんです。敵サーヴァントを取り逃がすという事態も、2体1の状況なら、ましてや機動力に優れるライダーさんが居るならまず起こりません」

 

 唖然としてしまう。

 今の私は口を開きっぱなしの間抜けな表情を晒しているのだろう。

 それ程までにキャスターさんの語った策は常軌を逸していた。

 聖杯のシステムに、間接的にとはいえ干渉するなんて真似、現代の魔術師には到底出来ない。

 そもそもそんな発想が出てこない。

 これが、魔術という分野で英霊に至った人の見ている世界なのか。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。何故手を組む事を前提にして語っているのですか。大体あのアーチャーには私達二人がかりでも精々互角がやっとだったではありませんか」

「ヘラクレスさんレベルのトンデモサーヴァントがそう何体も居るとは思いませんし…そもそもあのクラスの大英雄なら下手な魂喰いなんて行う必要すら無いでしょう?」

「それは…確かにそうですが…」

「ライダー、貴女は今自分で(おっしゃ)ったでしょう。二人がかりで漸くヘラクレスさんと互角だと。聖杯戦争は最後まで勝ち残った者が優勝のバトル・ロワイアル。ならばどう転んでも最終的に、何時かはヘラクレスさんを倒さなければなりません。サシで勝ち目が無いのなら、誰かと手を組むのは絶対条件。即興でしたが、一度は共闘した仲ですし、マスター達も親しい御様子。お互いに裏切りを警戒する必要は殆ど無いでしょう。同盟を結ぶのに、現時点でこれ以上の優良物件がありますか?」

 

 ニコリと、小首を傾げながらキャスターさんはそう締め括った。

 ライダーは何かを言おうとしているけど、キャスターさんの言葉を否定出来る要素が思い付かないようで戸惑っている。

 

 キャスターさんが語った事は、ただの()()()だ。

 至極当然の結論を述べただけで、現状に何らかの変革を(もたら)す様なものではない。

 ただ一つ()()(くつがえ)しただけで、それを通してしまった。

 

 何故だろう、この論法、何処かの誰かさんに凄く似ている気がする。

 

「キャスター、要は俺達と桜達が協力すれば犠牲者を出さずに済むかもしれないって事だよな」

「はい、きっと、出来ます。お互いに守り合えば、必ず…」

「…よし、なら、俺の腹は決まった」

 

 先輩が顔を上げる。

 その決意と正義感に溢れた瞳が、対面の私を真っ直ぐ射抜いた。

 

「桜、ライダー。俺達と、手を組んで欲しい。正直、俺は殆ど役に立たないだろうけど、それでもじっと隠れて戦争の終結を待つなんて事はしたくない。いや、出来ない。だから街の人達を守る為に力を貸してくれ。等価交換になるかは分かんないけど、桜は絶対に俺が守るから」

「先輩…」

 

 胸がいっぱいになる。

 常人では決して至れない、どう考えても益の無い行動理由。

 先輩のその在り方に不安が募る。

 

 けど、それ以上に──憧憬の熱が私の全てを満たしていった。

 

「…あー、あれだ。何なら囮とか盾とか、幾らでもやるぞ?っていうか逆にそれくらいしか出来ないよな俺、ははは…」

「っ!な、駄目です絶対に!」

 

 呆けて何も答えない私の態度に焦ったのか、先輩がそんなふざけた事を抜かしてきた。

 全く、全くもう!!ほんとーにこの人は!

 確信した、この人は聖杯戦争中、絶対に目を離しちゃいけないタイプの人だ。

 薄々解ってはいた事だけど、再確認。

 何があろうと、片時も傍を離れてやるもんか。

 

 私の返答は決まった。

 というか最初から変わってはいなかったのだろう。

 ライダーには何の相談も無しで申し訳無いけど、こればっかりは譲れない。

 

「ウフフ…分かりました、よーーく分かりましたよ先輩。此方としても願ったり叶ったりです」

「さ、桜…?」

「改めまして──先輩、キャスターさん。そのお話、受けさせて頂きます。私達と同盟を結びましょう。間桐家の当主として、一度結んだ盟約は絶対に違えないとここに誓います。ええ、絶対に、絶対に遵守しますとも。この戦争中、何があろうと片時も傍を離れませんから。よろしくお願いしますね、セ・ン・パ・イ?」

「…お、おう」

 

 

 今朝からの葛藤は何処へやら。

 既に腹は決まった。

 何が起ころうと絶対に先輩を守り抜く、そして絶対に勝ち残る。

 生殺与奪、自らの手で命のやり取りを行う、そんな覚悟、魔術師となったあの時からずっと持っているんだ。

 戸惑いは消え去った、遠慮なんてもう無い、容赦なんて言葉はウチの蟲さん達の餌にしてやりましたよ。

 大英雄ヘラクレスが相手?超☆上☆等!

 

 間桐桜、全力全開ですっ!!!




士郎・メドゥーサ(あれ?桜ってこんなに怖かったっけ…?)

桜ちゃん、再びアクティブロッサムモードへ。

今回は前半5000文字の魔力供給云々で全力出し切った感がある。全年齢とR-18の境目がワカンネ。取り敢えず士郎君は爆発しなくていいからさっさと桜ちゃんとくっ付けばいいと思うんだ。さもないとライダーさんに持っていかれるぞ。ライダーさんは何時でも桜ちゃんを狙っています。

魂喰いとかキャスターさんの契約阻止の方法とかは完全に私の妄想です。型月における魔術理論云々はアバウトに済ますに限る。細けぇこたぁいいんだよって事ですねきのこ。

士郎君はいざって時は人を殺す覚悟を決められる男の子ですが、そのいざまでがかなり遠いという印象。取り返しが付きそうなところまでは自分の身を犠牲にしてでも突っ走っちゃう(自分が死なないとは言ってない)。なのでライダーさんの意見には反発させました。ひょっとしたら原作士郎くんと性格乖離しちゃってるかもしれないけどご容赦を。

次回も状況整理で終わるかもしれませんがどうかよろしくお願いいたします。それでは。
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