Fate/SAKURA   作:アマデス

12 / 36
エミヤ「くそっ…!あんな野獣どもの巣窟に居たらあっという間に喰われてしまうぞ!」
トーサカ「その野獣にはあんたの嫁も含まれてるけどね」
エミヤ「お前の妹でもあるだろうが!」


おそらく今年最期の投稿。皆様、毎度ご愛読ありがとうございます。今後もよろしくお願い致しますorz


10話 イチャイチャイチャイチャイチャイチャ 後半

 忽然と姿を現した虎もとい藤村先生。

 一体何時の間に?ライダーもキャスターさんも対応が追い付いていない様子からして、サーヴァントである二人に気取られる事なく家に上がったようです。

 神出鬼没にも程がある。

 時々こういう風に、下手な魔術よりもよっぽど神秘的なんじゃないかという事を天然でやってのけるのが藤村先生なのだ。

 …一生懸けてこの人を()()し続ければ根源への足掛かりとか掴めるんじゃないかな、なんて最近は半分本気(割りとマジ)で考えている。

 無論、個人的にも倫理的にも論理的にも常識的にもやる気/zeroですが。

 そうこうしている内にライダーとキャスターさんは慌てて私の陰に隠れながら霊体化した。

 

「お、おはようございます藤村先生!」

「うん、おっはよー!あれ?おっかしーなー、桜ちゃん今誰かと話してたよね?」

「え、ええっと…」

 

 近寄って来た藤村先生が疑問を呈す。

 上手い誤魔化しが思い付かない…どうしよう、もしライダー達の事がバレたら、藤村先生が巻き込まれる様な事になったら、私は勿論先輩が悲しむ事に──

 

「ん?っていうかそれ…え?寝間着?え?何で私のお古着てるの?」

 

 とか頭を悩ませてたら今度は私の格好が気になったようです。

 流石は藤村先生、フィジカルだけでなくメンタルも常にフルスロットル停車知らずだ。

 ですがこれは好機、今の内に先生の興味を他に移してしまおう。

 まぁ、今から私が言おうとしている事は明らかに藪蛇なのですが。

 ごめんなさい先輩、心の中で先んじて謝っておく。

 

 

「実は昨夜から先輩のお家にお泊まりしていまして」

「ああーなるほど、だからかー。桜ちゃんが家に泊まったのってこれが初めてだもんね。大丈夫?窮屈じゃなかった?ごめんねー、まともな用意も無くて」

「いえそんな、十分でしたよ。部屋と布団の用意とか先輩も何時も以上に気を回してくれて」

「おーそっか。まだまだ子供かと思ってたけど士郎もちゃんと成長してるのねー。その辺(女の子に対して)の気配りもちゃんと出来る様になったか」

 

 うんうんと、したり顔で頷く藤村先生。

 物言いが完全に我が家でのそれだが、藤村先生にとって先輩のお屋敷はそれ同然の居場所なのです。

 藤村先生は何時だって周りの人に元気(と天災)を与えてくれる、その姿を見ているだけで自然と体がポカポカしてくるのだ。

 

「よし、それじゃーさっさと士郎を起こして早く朝御飯にしよう!あ、でもその前に着替えた方がいいよね?私士郎に朝食の用意させながら待ってるから桜ちゃんはゆっくり身嗜み整えてねん」

「そんな!駄目です!私はお泊まりさせて貰ってる立場なんですから、直ぐに着替えて台所に…」

「えー?もー、三年も一緒に過ごしてるんだからそんなの気にしなくていいと思うんだけどなー」

「藤村先生が気にしなさ過ぎなんですよ。男の人は結構デリケートなんです。あんまり無神経だと本格的に行き遅れちゃいますよ」

「んなあぁーっ!!?言ったなこやつめー!そんな生意気な事言う娘に士郎は渡さないんだからねー!一から花嫁修行をやり直せーーい!!」

「はなよっ…!朝から何を言い出すんですか先生!」

「喝ーーーっっ!!!えーい黙れ黙れぇぇーい!全く、あんた達二人は何時まで保護者()の事をやきもきさせれば気が済むってのよーっ!三年間もの間あんた達の展開する天然ラブコメ空間に私がどれだけ精神削り取られてきたか分かってんのかー!!イチャイチャイチャイチャと乳繰りあって、あれで付き合ってないとか何の冗談よ!そんなに見せびらかしたいか!行き遅れ女教師を嘲笑うのがそんなに楽しいかーーーっ!!」

「ん、なぁ…!?」

 

 こ、この人はなんという…!!

 私が何時先輩と乳繰り…そんな、人を馬鹿ップルみたいに!

 

「も、もうっ!!何々ですか!そんな謂れの無い文句を…!そっちがその気ならこっちにも考えがありますからね!藤村先生、今日は三食共ご飯抜きです!」

「え、ちょ、な、は、はああぁぁーーーーーーっっっ!!!!!」

 

 今までで一番声大きい!

 

「何よそれー!?百歩譲って朝だけならまだしも、三食ぅぅぅーーー!!?そ、そんなの最早拷問よ!過剰罰則だわ!減刑を申告しまーす!」

「聞く耳持ちませんっ!今日一日先生には親しき仲にも礼儀ありという言葉を確りと心に刻み込んで貰います!」

「うえーん、桜ちゃーん。ごめん、ごめんってばー。謝るからほんとそれは勘弁してよー。死んじゃうー、心身共に枯れ果てて虎の毛皮になっちゃうー。って誰がタイガーよコラーっ!!」

「言ってませんよ!」

 

 寝室へ戻ろうとする私の腰に縋り付いて藤村先生()が猛る。

 それに取り合わず部屋へ戻ろうとして。

 

 

 

「───っていうか何で士郎ん家に泊まってるのよーーーーーっっっ!!!!?」

「え、今更!?」

 

 

 一瞬静かになったと思ったら再びの大ボリュームで絶叫した藤村先生。

 というか反応が遅すぎます、最近はお笑い芸人でもそこまで露骨なノリツッコミはしません。

 ライダーといいキャスターさんといい藤村先生といい、何故朝からこんなに疲れなければならないのか。

 体育の授業の後の様にすっかり覚醒し切った五体を持て余しながら、私は溜め息を吐いた。

 

 

          ∵∵∵

 

 

「いやーん、おいしー!何だか何時もより美味しいんじゃないんこれ。もー、用意が終わってるなら始めからそう言ってくれれば良いのにー。桜ちゃんのいけずー」

「い、いえ…すみませんでした、アハハ…」

「…っ!これは…………一体どんな下拵えを…」

 

 あれから約半刻の後、私のカミングアウトに荒れ狂った藤村先生を先輩と二人で何とか鎮めて、只今朝食の真っ最中です。

 先輩がメインの肉じゃがを咀嚼しながら真剣な顔付きで味付けについて分析している。

 ノンストップで箸と口を動かし続ける藤村先生の言葉に私は曖昧に応える事しか出来なかった。

 

 何故ならこの朝食を作ったのは私でも先輩でもなく────キャスターさんなのですから。

 

 藤村先生を誤魔化すのに結構な時間を要してしまった為、学校に遅刻しないように朝は軽めでいこうと先輩と話して台所に入った私達が見たのは───既に調理され、後は盛り付けるだけの状態になっていた料理の数々だった。

 驚く私達に霊体化したままのキャスターさんが話し掛けてきて、早朝に料理を終わらせておいた旨を伝えてきた。

 此処で既に驚かされましたが、いざ食事を始めると更なる驚愕に襲われました。

 

 美味しかったんです。

 美味しかったんです(大事な事なので二回言いました)。

 すっごく美味しかったんです。

 高々家庭料理と侮るなかれ、その味は完全にプロの料理人のそれと同等、或いはそれ以上の次元でした。

 一体下拵えにどの様な手法を用いたのか、調味料の組み合わせ、火を通すタイミングetc…その味は私はおろか先輩よりも数段上、キャスターさんが私達にとって未知の技量を有しているのは明白でした。

 

 これ程までの料理の腕前を持っているなんて、一体キャスターさんは生前何をしてきた英雄なのでしょうか。

 よくよく考えればキャスターさんはまだ誰にも、それこそマスターである先輩にすら真名を明かしていないのです。

 

 …やっぱり、少しはキャスターさんの事を警戒するべきなのかな?

 ついさっきまで似た者同士とか先輩のサーヴァントがキャスターさんで良かったとか言っていた癖に、早くも前言撤回しかけている自分に呆れてしまう。

 でもしょうがないじゃないですか。

 昨夜は先輩と魔力供給(意味深)、今朝は先輩の部屋で誘惑紛いの(からか)い、そして今は私と先輩の料理タイム(聖なる儀式)を先んじて潰すという…最早異性として先輩の事を狙っているんじゃないかと疑うしかない行動を重ねているのです。

 おまけに容姿も魔術の腕も料理の腕も、今のところ判明しているスペックは全て私より上。

 まぁ英霊さんに現代の人間が敵わないのは当然と云えば当然の事ですし…魔力供給(意味深)については完全に結果論、他の事も悪気があった訳では無いのでしょうが…それにしたって、ここまでくると流石に私も警戒せざるを得ない。

 胸に燻るものを感じながら食事を進める…こうしてあれこれ考えている間も私は箸を一瞬も止める事なく食事に没頭していた。

 悔しい、でも(美味しく)感じちゃう(ビクンビクンッ)。

 

 

「御馳走様ー!それじゃー私先に行くからねー!二人共遅刻したら許さないわよー!」

 

 三人で只管御飯を掻き込んだ結果、ものの十分以内で完食。

 藤村先生は直ぐ様食器を片付けると学校に向かってしまわれた、相変わらず(せわ)しない。

 

「ったく、相変わらずだな藤ねえは」

「そうですねー。何で常にああやって全力で活動し続けられるのか不思議です」

「そりゃ藤ねえだからだろ」

「………嗚呼、ごめんなさい藤村先生。ここで先輩に対して反論を捻り出せない私は駄目な生徒です」

「無理して藤ねえの味方する事はないだろう間桐君。覆しようのない現実を受け入れるのは決して間違っちゃいない」

「他ならぬ先輩にそんな事を言わせるとは…流石ですね藤村先生、略してさすトラ」

「藤村と書いてトラと読むのは止めてやれよ」

 

 お互いに巫山戯た軽口を言い合いながら私と先輩は食器を片付ける。

 

 ───変わらない、な。

 

 

「変わりませんね」

「ん?」

「いえ、お互いに魔術師だって分かった(秘密を明かした)のに、こういう日常は変わらないんだなって思って」

 

 そう、多少(?)の変化はあったが、今までの、この尊い日常が失われた訳ではなかった。

 その事が何よりも嬉しい、自然と頬が緩むのが分かる。

 

「……そうだな。それはきっと、今までの俺達の関係が偽物なんかじゃなかったって事さ」

「お互いに相手を騙していたのにですか?」

「騙してたって云うよりは、明かす必要が無かったってだけの話だろ。実際俺、桜に嘘吐いた事は一度も無いしな」

「…ごめんなさい、私結構な頻度で先輩に嘘吐きまくってました…」

「うぇ?あ…あ~、そっか。その左手のもそうだよな」

 

 私のカミングアウトを聞いた先輩が、苦味を堪えて無理矢理繕った様な笑顔を此方に向ける。

 ああ、今更だけれど、判っていたけれど、改めて罪悪感に押し潰されそうになる。

 

「でも、桜は俺が魔術を知らない一般人だと思っていたから、俺を危険に晒さない為に嘘を吐いて()()()んだろ?」

「そうですけど…先輩に嘘を吐いちゃった事には変わりありませんし」

「嘘を吐かない奴なんて居ないさ。人はみんな本音と建前を使い分けて他人との折り合いを付けていくんだ。別に嘘そのものが絶対に悪いものだなんて俺は思わないぞ」

「…でも先輩は嘘なんて吐いた事無いじゃないですか。先輩の誠実さに比べたら私なんて天の邪鬼レベルの詐欺師ですよ」

「い、いや、俺の場合は、あれじゃないか?嘘を吐く理由も場合も必要も無かったってだけで…誰かに対して後ろめたい事してる自覚も無いし、さ…」

「………………」

 

 あ、ヤバイ、涙出そうになってきました。

 なんかもう先輩が綺麗過ぎて尊過ぎて、自分の汚さが余計浮き彫りになっていく様な感覚に襲われて。

 んもう、我ながら気分の浮き沈みが激しいな、情緒不安定ですか全く。

 

「と、兎に角だな桜!他人を思いやって吐く嘘は決して間違っちゃいないんだよ。確かに潔白じゃないかもしれない。まっ更じゃないかもしれない。綺麗じゃないかもしれない。けど、尊い筈だから」

 

 ───尊いか。

 他ならぬ先輩にそう言われてしまうなんて。

 

「…でも、報せない方が相手の為だって、勝手に決めつけてしまうのは正しいとは言えないんじゃないでしょうか。何も知らないのと、知った上でどんな決断を下すかは、全く違うものですから」

「う、う~ん…そう言われるとなー…」

 

 お皿を持ったまま腕を組んで真剣に悩み始めてしまった先輩がおかしくて笑いが漏れてしまう。

 私が少しそれっぽく感情表現するとこれなんだから。

 先輩は何時もそうだ、ちょっとした冗談にも常に真剣になって、自分がからかわれているという事にも中々気付かない。

 そんな可愛らしいところも、私が好きな先輩の一面です。

 

「ン、フフフ…もう、何時まで悩んでるんですか先輩」

「あれ…?…おい桜、お前ひょっとしてまた…」

「はいは~い、何時もの冗談ですよ~。ほんとにもう、先輩はからかいやすくて可愛いですね~」

「…お前という奴は全く…」

 

 先輩はそっぽを向くと皿洗いの続きを始めた。

 先輩は拗ねるとよくこういう子供っぽい仕草をする。

 弓を射る時の凛々しさとは180°印象の違う顔、どちらも甲乙付けがたい。

 きっと私は先輩の百面相を見ているだけで一日退屈せずに過ごせるんだろうな。

 

「でも、先輩の言う通りですね。お互いに嘘が有ったのだとしても、それでこれまでの全部が否定される訳じゃないですよね」

「…ああ」

 

 

 偽物なんかじゃない。

 そうだ、お互いに隠し事が有ったのだとしても、これまで積み重ねてきた日々が全て崩れ去って無かった事になる訳じゃない。

 交わした言葉と、そこに込められていた想い。

 先輩へのこの想いは紛れもない本物なのだから。

 

 

 

『すいません、私いい加減我慢の限界なんですけど…ライダーさんはどうですか?』

『貴女に同調するのは癪ですが、ここは敢えて同意させて貰いますよキャスター』

「どわっ!?」

「きゃっ!」

 

 先輩の相槌で一旦会話が途切れると、待っていましたと云わんばかりに。

 ライダーとキャスターさんがそれぞれ自分のマスターに背中から抱き着いた。

 

「お、おいキャスター!いきなり何するんだ!危ないだろ!皿洗ってる最中なんだぞ!」

「聞く耳持ちません。さっきから黙って見ていればなんなんですかちょっと。口から溢れた砂糖で窒息死するかと思いましたよ」

「同感です。全く以て同感です。フジムラ…と云いましたか、あの女性は?彼女の事を心底尊敬しますよ私は。いや、最早崇拝の域に達していると言っても過言ではありません。こんな蜂蜜にプリン投入したかの様な甘ったるい光景を年がら年中見せ続けられるなんて軽く発狂ものですよ。どうやって正気を保っているのですか彼女は」

「もう殆どテロと変わりませんよこれは。精神的テロ行為です。しかも本人達には自覚無しというのがより凶悪さに磨きをかけています。犯罪すれすれですよほんと。これはマスター達にはキツーイお仕置きが必要かと思うのですが、どうですかライダーさん」

「同感です同感です同感です、超同感ですとも。という事で早速実行」

「え、ちょ、何を…ひゃっ!?」

 

 何やら不穏な空気が漂い始めたのを感じて二人に話し掛けようとした矢先、痺れる様な感覚が背筋を貫いて全身に伝わった。

 

 というかライダーに胸を揉まれた。

 それも両手で、グワッシと効果音が付きそうな勢いで鷲掴みにされた。

 そのまま豪快に揉みし抱かれ…って、ちょ、まっ!痛い痛い痛いっ!!

 

「ちょっと、ライダー!なにっ!?ダイレクトにダイナミック過ぎない!?」

「ダイナミックなのは桜の胸ですよ。ふむ、やはり実際に触れてみるとこれは中々…私に優るとも劣りませんね」

 

 したり顔で私の胸を品評しながら揉みし抱くライダー、その手付きがやたらと巧みで、絶え間無く電撃が私の体を走り抜ける。

 体に力が入らない…!持っていたお皿を落とさないよう、半ば放り出す形で流しに置く。

 

「こ、ぉらあ…は…ライ、ん……ぐぅっ!も、いい加減にぃ………っふはぁ!!」

 

 我慢しようとすればする程、硬直した五体がぎこちなく跳ね上がり嬌声が漏れる。

 ライダーめ、ここまで大胆なセクハラをかましてくるとは、さっきにも増して調子に乗ってますね、後で絶対に仕返ししてやる…あっ、駄目、もう、本格的に腰が抜けて…!

 

「せんぱっ、み、ぁい、でぇ…!」

 

 ガクガクと脚を震わせ嬌声を挙げながら崩れ落ちる、そんなはしたない姿を先輩に見られたくなくて、必死に懇願する。

 その声が、途切れ途切れに震えて、上気した頬と潤む半開きの瞳が、言葉とは裏腹に男性を誘い、媚びるものになってしまっている。

 自分の中のまだ冷静な部分が、今の自分の状態をそう分析していて、余計に羞恥心が沸き起こる。

 もう嫌だ、何でこんな事に…!

 割りとマジで涙腺が緩み始めましたが、幸いにも先輩は此方を見ていなかった。

 というか気にする余裕が無かったみたいです。

 

「おいキャスター!や、やめろって!当たってる、色々当たっちゃってるからさぁ!!」

「当ててるんですよ。もう、これくらいで動揺しないでください。昨日はもっとべったりと、それこそ溶け合いそうな程に絡み合ったじゃありませんか」

 

 

 私と同じ様に自分のサーヴァントに後ろから抱き着かれている先輩は、上擦った声でキャスターさんに離れるよう懇願していた。

 キャスターさんはそれに取り合わず更に先輩に絡み付く。

 顎を先輩の右肩に乗せ、左腕は胸板、右腕は腰をそれぞれ縦断しており、右足を同じく先輩の右足に巻き付けて両足の間に挟み込まれる様にして下半身全体で密着、胸に至っては最早ひしゃげていると表現していいレベルでむぎゅっと押し付けている。

 こちらも大概ですが、向こうも多分に性的な絡み方をしていた。

 体感的にも視覚的にも羞恥心が加速度的に増していきます。

 

「っ…!…ぁぁ~、くそ、何度も同じ話題でからかいやがって。何時まで言い続けるつもりだそれ!?」

「それはもうこの戦争が終わるまでずっとですよ。からかわれるのが嫌なら早く慣れてくださいな」

「こんなの一生かけても慣れないだろ…!」

「ふふ、ちょっとした事で直ぐ動揺してくださるそのお姿も可愛らしくて良いですが、やっぱり男性はどーんと構えてこっちの全てを受け入れてくれるくらいの包容力が欲しいところですねー」

「悪かったな…こちとらまだまだ初なガキだよ」

「あ、そういう開き直りは感心しませんね。そんなんじゃ自分を慕ってくれている人も知らず知らずの内に遠くへ逃してしまいますよ」

 

 そう言ってキャスターさんはチラリと此方を一瞥した。

 今のは…キャスターさんなりの激励?発破を掛けているつもりなのでしょうか。

 何となく然り気無く感を出そうとしている様ですが、それはあからさま過ぎますよキャスターさん。

 

「という事で。マスターには確りと男を磨いて貰わなければ。これから約二週間、覚悟してくださいね」

「いやどういう事だよ!?~~~勘弁してくれっ!」

 

 先輩の悲痛な叫びが虚しく響き渡る。

 未だにライダーに弄ばれている(というかもう殆どペッティングみたいになってる)私も同じ心境でした。

 

 …改めて思う。

 やっぱりキャスターさんの事は警戒すべきだ。

 というかここまで来ると最早ライダーも警戒対象である。

 真名が判明していないとかそれ以前に、色々とこの二人はフリーダム過ぎます(主に性的に)。

 言葉遣いや態度等、自分達の事を主人として大切に思ってくれているのは分かるのですが、同時に距離感が近過ぎてこっちの身が持たない。

 例えるならティラノサウルスにじゃれつかれている様なものです、軽くのし掛かられるだけで此方は致命傷だ。

 信頼はしている、親しみも感じている、ぶっちゃけ大好きです。

 でもお願いだからもうちょっと自重して欲しい。

 英霊という、良くも悪くも規格外な存在を従えている事実、それを昨夜の戦闘とは違う日常面で思い知った私でした。

 

 

 ────そんな感じで英霊二人に散々玩具にされたせいで時間は既に部活遅刻ギリギリ、私は自身の肉体に強化を施すと先輩の手を引いて全力ダッシュで学校に向かいました。

 …オリンピック選手をも凌駕する速度で走ったせいでやたら目立ってしまったり、先輩が失神しかけていたり、よくよく考えたら先輩はどの部活にも所属していないのだから一緒に連れていく必要は無かったと学校に到着してから気付いたりしました。

 

 取り敢えずライダーとキャスターさんには必ず報復しようと心に決めました。

 

 

          ∵∵∵

 

 

『続いてのニュースです。昨日の午前9時頃、冬木市新都内のホテルの一室で、成人男性の遺体が発見されました。検証の結果、遺体に争った様な外傷は無く、毒殺されたものと診られています。部屋の鏡には紅い口紅で『死の世界にようこそ(Welcome to the world of death)!』という一文が書かれており、警察はおよそ一ヶ月前から続いている毒殺事件と同一犯と視て捜査を進めています。この一連の事件は既に市民の間にも知れ渡っており、一部ではこの毒殺犯の事をメアリーさんと呼び都市伝説扱いする声も───』

 

 

 台所で騒ぐ桜達四人が、このニュースに気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

「おーい衛宮」

 

 昼休み。

 午前の授業が終わりを告げ、生徒が思い思いに過ごそうと席を立ち始める。

 自分も持参した昼食に手を付けようと机の上に弁当箱を出した時、昨日と同じく教室を訪れた美綴が声を掛けてきた。

 

「美綴か。今日は早かったな」

「へへ、まぁね。同じ轍は踏まないってやつよ。あんたも昨日みたいに昼飯食いっぱぐれたくないでしょ?」

 

 昨日の悉く行動が遅れた経験から、今日は早めのそれを心掛けた様だ。

 兵は拙速を尊ぶ…うん、何とも、美綴には似合う諺だと思った。

 昼飯についてはついでだろうが、嬉しい気遣いだ。

 

「ああ、助かるよ。んで、用事もやっぱり昨日と同じか?」

「勿論!で?昨日あれから桜とはどうだったの?」

「おっと、その話題には俺も興味がある。交ぜて貰っても構わんな?」

 

 やはり話の内容も昨日と同じく桜についてだった様だ。

 話を聞き付けた一成も近くに寄って来る。

 だが俺としては美綴の質問に答える前に言っておかなければならない事がある。

 

「美綴、それに答える前に言わせて欲しい事がある」

「ん?何?」

「お前昨日、何で桜一人残して帰ったんだ。調子が悪いって事にはとっくに気付いてただろうが」

 

 そう、昨日桜を一人だけで残して部員を帰らせてしまった事だ。

 桜本人が望んだ事とはいえ、あれだけ調子を崩した状態で一人だけにしてしまうというのはあまりにも迂闊に過ぎる。

 校内とはいえ万が一があるのだ。

 部長として、一つの集団の長としての責任を美綴が自覚していない筈がないのだが、それでもこれは突っ込んでおくべき事柄だ。

 

「何!?美綴、貴様一体どういうつもり──」

「あー待った待った、今ここで無駄に騒いでも昨日の二の舞でしょ?ちゃんと説明するからさ」

「無駄とは何だ、全く貴様にしろ遠坂にしろ我が校の女子は何故こうも…やはり貴様らは一度寺に来い!しかるべき説法というものを──」

「おい落ち着け一成。今大事なのはそこじゃないってば」

 

 いつも通りと云えばいつも通りの二人を宥めながら美綴に早く話を始めろと視線で訴える。

 すまんな一成、お前が普段から溜め込んでるものの重さは文字通り重々承知しているつもりだが、今はこっち優先だ。

 

「んまー簡潔に言えば…衛宮の事を…信じてたから?かな?」

「「はぁ?」」

 

 何時もとは違って随分と歯切れの悪い美綴の物言いに、俺と一成は揃って声を挙げてしまう。

 そんな俺達の反応に美綴は若干頬を染めてやけくそ気味に喋り出した。

 

「いや…だからさぁっ!私だって一人で残してくのは不味いと思ったんだよ!でも桜の奴平気です大丈夫ですの頑固一点張りでさ。もう私じゃどうしようもないなーって、情けないけどそう思っちゃったもんだから…後は、衛宮に任すしかないかなーって。ごめん、要するに丸投げ」

 

 最初は照れながら、でも段々と、最終的には心底申し訳なさそうな様子で美綴はそう言ってきた。

 一成は口を噤んだまま、どう裁くかはお前が判断しろとでも言いたげに目線を寄越してくる。

 今の話を聞いた俺としては、何ともこそばゆいというのが正直なところだった。

 要するに美綴は無責任に桜の事を放り出したのではなく、俺に任せるのが桜にとって最善の行為だと考えたという事だ。

 

「そっか…まぁ美綴なりに桜の事真剣に考えてくれてたのは分かってた。あと、俺の事信用してくれてたのも嬉しい、ありがとう。取り敢えず、そういう事なら俺から何かしら文句は無い、というか言えないかな」

「はぁ…なんというか、衛宮はやはり衛宮だな」

「ああ、いつもの衛宮だ」

 

 そう呆れながら苦笑する一成と、それに同調する美綴。

 …普段仲の悪い友人二人が笑いあっているという歓迎すべきシチュエーションの筈なのに、何故か俺は釈然としなかった。

 

「でもあんまり桜の事だけ特別扱いするなよ。その内余計なやっかみを受けるぞ」

「あはは、大丈夫だよ。なんたって()()桜だよ?ましてや部内において人望の塊みたいなあいつに限ってそれは無いさ」

 

 まぁ俺としてもそこは同感だった。

 

「んじゃ、話を最初に戻そうか。結局あれから桜とはどうだったの?」

 

 

 そう仕切り直した美綴の言葉に、俺は一瞬だがどう答えたものか迷ってしまった。

 なんせ昨日の桜の不調の原因は、結局のところ聖杯戦争という()()()()に関するものだったのだ、馬鹿正直に話す等以ての外である。

 幸い、勘の良い美綴も俺のほんの一瞬の逡巡を嗅ぎ付けた様子はない。

 適当にぼかして伝えるのがベターだろう。

 

「あぁ…ちゃんと落ち着いて話し合って、お互いに(わだかま)りは無くなったよ。桜も元気になってくれたし…っていうか一周回ってハイになった感じだけどなありゃ」

「ふむ?要領を得ないが…問題が解決したのならば良かったではないか」

「ほーん、そっか。まぁ確かに今日の朝練の時は昨日より全然調子戻ってたしね」

 

 一成は少々俺の言い回しに引っ掛かった様だが、美綴は顎に手を当てて虚空へ視線をやりながら記憶を思い起こすと、納得した様な言葉を紡いだ。

 その言葉に俺は安心する。

 

「そっか…良かった。やっぱりもう、すっかり元気になったんだな桜は」

「おいおい何だよその言い方。ちゃんと話し合ったって言った割りには自信無さげじゃん」

「いや、ひょっとしたら俺の事気遣って空元気してるのかもって、ちょっと思ってたから。なんせハイだったからな、相当にハイだったからなウン」

「お、おう…まぁそりゃ無いんじゃない?桜ってそういう演技出来る娘じゃないでしょ」

 

 

 桜に対する美綴のこの評価はこの学園のほぼ全員に共通した認識だろう。

 だが残念だったな美綴、桜はあれで結構な演技派だという事が今朝判明した。

 

「さて、そんな感じだが、他に何かあるのか?」

「いや、そんだけ。桜が復調してくれたならそれだけで十分だよ。うん、細かい事は聞かないでおくからさ、これからも我が部のホープを宜しく頼むよ」

「俺はもう弓道部じゃないんだがなぁ」

 

 此方が腹に一物抱えている事を見抜いたのかどうかは分からないが、美綴は深く突っ込まずに話を切り上げてくれた。

 その後の無遠慮な注文でプラマイ/zeroだが。

 

「なら戻ってくればいいじゃない。怪我なんてとっくに治ってるんだし、そうすれば正真正銘四六時中桜の事見てられるでしょ。うん、それがいいよ!ほれほれ、丁度此処に生徒会長様がいらっしゃるんだしさぁ、さっさと入部届け出せほら出せ」

「やめんか!」

「はは、何時も通りなのは美綴もじゃないか」

 

 心配しなくても、弓道部とか関係無く桜の事は確り守るつもりだ。

 喩えこの先、どんなに激しい闘いが待っていようとも。

 

 

 

「おーい衛宮君、間桐さんが呼んでるよ」

「へ?」

 

 クラスメイトに呼ばれ振り向くと、教室の中に入るか入らないかという絶妙に控えめな位置に桜が佇んでいた。

 俺と視線が合うと小首を傾げて微笑んでくれる。

 

「おお?噂をすればってやつか?」

「ほれ、行ってやれ衛宮。幸いまだ弁当は広げていまい」

「ああ、間が合って良かった」

 

 俺は弁当の袋を片手にぶら下げて桜の下へ向かう。

 見ると桜も弁当を持って来ている、何時も通りお昼の誘いに来たというところだろう。

 聖杯戦争なんていうとんでもない厄介事に巻き込まれてしまったが、美綴にしろ俺にしろ桜にしろ、何時もと何も変わらない。

 何時もと変わらない日常を送れているという事が、こんなにも愛おしい。

 

 

「こんにちは先輩」

「ああ、桜。昼の誘いか?」

「はい、今日も良いお天気ですし、屋上でどうですか?」

「おう、いいと思うぞ。遠坂も誘うか」

 

 

 ───この時の俺はどうしようもなく馬鹿だった。

 何時もと何一つ変わらない日常、ある意味で麻薬にも似た中毒性の心地好さ、それにヤラレた頭はどこまでも能天気だった。

 

「──いえ。先輩、聞いてないんですか?今日姉さん、学校を休んでます」

「──え?」

「兄さんも、今日は学校に来てないみたいですね」

「あ、ああ…でも慎二が学校をサボるのはよくある事だろ?」

「…そうですね……そうだと、いいんですけど」

 

 どこか不安そうに俯く桜。

 そんな桜の様子に、俺も焦燥に似た何かに追い立てられている気分になる。

 

 日常が、皹割れていくような───

 

 

「──先輩、今屋上に人払いの魔術を施しています。そこで、確りと話しましょう」

「…あぁ」

 

 顔を上げた桜が耳元でそう囁いてきた。

 

 

 

 戦禍は、既に俺達の(よりどころ)に染み込んでいる。

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

「姉さんと同盟を結ぼうと思うんです」

 

 

 高校と呼ばれる、現代の教育機関の一つに類する建造物。

 その屋外で始まった聖杯戦争に関する話し合いは、我がマスターである桜の決意に満ちた一言で幕を開けた。

 桜の言葉はある程度予想されていたものなのか、キャスターのマスターはそれを聞いても大して表情を変えなかった。

 だが事前情報の無い私には何の事だか解らない、霊体化を()()解いて桜に疑問を投げ掛ける。

 

「サクラ、姉さんとは誰を指すのでしょう。というか桜には姉が居たのですか?」

「うん、居るよ。遠坂凛姉さん、私が世界で一番尊敬してる人。今はちょっとした事情で名字も住む所も違うけど、それでも私のお姉ちゃんなの」

 

 

 私の質問に対して返ってきたのは、とびっきりの笑顔だった。

 図らずも鼻血が出そうになりました。

 質問に答えるだけでこんなにも喜色満面になるとは…余程そのリンという姉の事が大好きなのでしょう。

 

 妹、か……やはり私と桜は、意外と共通点が多いようだ。

 

「そっか…遠坂も魔術師だったんだな」

 

 ふと、どこか上の空といった様子でキャスターのマスター…ああもう、いちいち面倒ですね、これからは坊やと呼称しましょう。

 坊やはそうポツリと呟いた。

 

「なぁ桜。桜が養子に行った理由って、やっぱり魔術に関する事情だったのか?」

「はい、実はそうなんです。本来魔術師の家系は一子相伝なので、子供が二人以上産まれた場合、片方は魔術と関わらず一般人として育てられるのが普通なんです。でも私達のお父様は両方を魔術師として育てたかった様で…そこで長年盟約を結んできた間桐の家に、私は養子として出されたんです」

「サクラは、元々は間桐の家の産まれではなかったのですね」

 

 私の、誰に向けたわけでもない呟きにも桜は丁寧に首肯で応えてくれた。

 少々の驚きと呆れを感じる。

 有り得なくはないが切っ掛けやヒント無しでは考えもしない事実、世の中にはそんなものありふれているが、それでも意外なものは意外だ。

 相も変わらぬ魔術師の愚行に、私の魔物としての厭悪(えんお)が鎌首を擡げるが、理性を以てその感情を押さえ付ける。

 心の底から慕う家族と引き離されて尚、陰る事のない美しきその人間性。

 桜のこれまでの人生を一切関知しない私が、外野から身勝手に憤りを撒き散らす等、桜に対する侮辱以外の何物でもないのだから。

 

 

「だ、大丈夫ですよ先輩。確かに戸籍の上では家族じゃなくなって、同じ家に住む事も出来なくなっちゃいましたけど、全然歩いて会いに行ける距離でしたし、間桐の家の人も好い人ばかりでしたから。私、寂しいなんて思った事全然ありませんでしたよ?」

 

 突然桜が坊やを宥め始めたので何事かと思って見たが、どうやら坊やも私とほぼ同じ事を考えていたのでしょう、その表情からは憤りや憐れみといったものがありありと感じ取れた。

 折角私が抑えたのに貴方がそんなあからさまでは意味が無いでしょうが。

 己の気遣いを台無しにされた事に対する若干の当て付けを込めて、少々キツめに坊やへと突っ込む。

 

「他人の貴方が当の本人に気遣われてどうするのですか。容易く内心を読まれるのは未熟な証拠ですよ」

「む…悪かったな、あんたと違って顔を隠す手段の無い俺には難しかったよ」

 

 あ、カチンときました。

 それを言ったら戦争なんですよ。

 

「好き好んでこんな野暮ったいモノ着けてる訳じゃないんですよ。お望みとあらば今すぐ外して差し上げますが?」

「わわ、ちょ、駄目よライダー!先輩只でさえ昨日石化しかけたんだから。これ以上影響受けるのは不味いわ!」

 

 私の言葉に身振り手振りで過剰に反応する桜。

 可愛い。

 全く、ほんの冗談だというのに素直なんですから。

 いや、というよりは坊やを心配するが故の慌てようでしょうか。

 妬ましいですね、絆されかけた心がまた少し(すさ)む。

 

「マスターに止められては仕方ありません。精々サクラに感謝してくださいよ坊や」

「誰が坊やだ!大体あんたに言われなくても桜には日々感謝しっぱなしだよ」

 

 …ふむ、桜がこの坊やに懸想している理由が少し解った気がしますね。

 なるほど、こうも素直にストレートな気持ちをぶつけられてはときめくのも致し方無しでしょう。

 まあそれと同時に弄り返してやりたくもなるのですが。

 

「っていうか…その…養子の事だけじゃなくてさ…」

 

 ?

 再び俯いて歯切れ悪く言葉を紡ぐ坊や、誰も口を挟まず待つ姿勢になる。

 少しして意を決したのか坊やは桜に向き直った。

 

「さっきみたいな言い方するって事は、遠坂もマスターなんだよな」

「はい」

「っ、桜は、それでいいのか?要するに、この聖杯戦争では、姉妹同士で殺し合わなきゃいけないって事じゃないか!」

 

 姉妹同士で殺し合う。

 その言葉に、少なからず私の中で揺れ動くものがあった。

 私の場合は一方的な虐殺だったのだけれど。

 

「あ~…まぁ、ルール上はそういう関係になりますよね。でも昨夜話した通り、最低限の勝利条件はサーヴァントを倒す事ですから。私は姉さんを殺す気なんて微塵もありませんよ先輩」

「それでもサーヴァントの方が暴走して殺しに来るかもしれないだろ?ライダーはそんな事しないと思うけど…遠坂の召喚したサーヴァントが碌でもない奴だったら不味いじゃないか!」

「…もしそうなったとしても、たぶん私は後悔しませんから」

「は?」

「──姉さんになら私、殺されてもいいかな~なんて」

 

 

 この発言には流石に私も面食らった。

 困った様に笑う桜の顔の輪郭が、急激にぶれたような錯覚に陥る。

 愛するものに殺される事を、字面だけなら美談に見えるが、実際には後悔と絶望に押し流され己の全てを見失う羽目になるそれを。

 分かっているのですか桜、その意味を。

 

「あ、いや!勿論好き好んで殺されたいって訳じゃないですよ!?ただ、なんでしょう…養子に出された私が、只一つハッキリと、姉さんと繋がっていると感じられるものが、魔術だったんです。私が頑張れば頑張る程、努力すれば努力する程、姉さんもきっとそれ以上に頑張って努力しているんだって。直接目には見えないけど、私には分かるんです。それはきっと、姉さんも同じで…魔術に向き合っている時、私達はお互いに通じ合えているんです」

 

 目を閉じて、穏やかにゆっくりと言葉を紡ぐ桜。

 誰も口を挟まない。

 

「だから、自分から進んで殺されたいなんて毛頭思ってませんけど、寧ろこれからもずっと姉さんと一緒に居たいと思ってます。けど、もしこの聖杯戦争で命を落とすなら、その相手は姉さんがいいってだけです。あの人ならきっと、最後の瞬間まで私の事を見てくれるから。私の死すらも糧に変えて、生涯歩み続けてくれると信じてますから」

 

 

 

 その独白には、万感の想いが込められている、ように感じた。

 お互いに愛し合っていると確信しているからこその、覚悟。

 最後まで目を逸らさずにいてくれる筈だという、姉への全幅の信頼。

 

 ───最期の瞬間には、己の姉妹達すら補食対象としてしか見えていなかった私には耳の痛い話だ。

 

 この少女の聖杯戦争へと懸ける()()は、決して軽くはない。

 ですが、こう…なんでしょう、ちょっとあれな…具体的に例えるならギリシャの女神達の様な雰囲気が──

 

 

「…ひ、引きましたか先輩?」

「……………イヤ、ソンナコトナイゾ」

 

 おずおずと尋ねる桜に、坊やはたっぷり間を空けた後片言で答えた。

 だから反応が正直過ぎますって、そんなんじゃ本音が駄々漏れですよ。

 

「アハハ…気を使ってくれなくても大丈夫ですよ。正直自分で喋ってて『うわ、私重過ぎ』って思っちゃいましたから」

 

 ハハハと乾いた笑いを垂れ流すマスター二人。

 先程から一言も喋らず霊体化も解かないキャスターが若干困惑している気配を感じる。

 今朝の件といい、どうやら私とキャスターは性質が似ているらしい。

 

「と、兎に角話を元に戻しましょう。その遠坂という人と同盟を結ぶという話でしたよね?」

「そ、そうですそうです!早く話し合わないと昼休み終わっちゃいます!」

 

 キャスターの助け船にすかさず桜が乗っかる。

 

「今私達二組が同盟を結んでいる理由は、主に三つです。一つは単純に私と先輩、マスター同士が顔見知りだから。二つ目はマスター殺しをしたくないという先輩の望みを叶える為。そして三つ目、これが一番重要ですが、対ヘラクレスさんの為の戦力を保持する為です」

 

 桜が指を三本立てて一つ一つ確認していく。

 それぞれ異論は無いようで、頷く等小さな反応を示すのみ、それを認めた桜は話を続ける。

 

「ですが、正直今の戦力だけではヘラクレスさんには敵いません。実際、昨夜も殺される寸前でしたし…」

 

 昨夜の事を思い出したのだろう、桜の表情が苦いものになる。

 昨夜、アーチャーのマスター…確かイリヤスフィールと云ったか、あの娘が気紛れを起こさなければ間違いなく私達はリタイアしていただろう。

 キャスターに至っては魔力不足で放っておいても消える状態にあったが。

 

「なので、戦力をもう一組増強したいと思うんです。姉さんなら裏切られる心配も無いですし、ヘラクレスさんの事を伝えて理由を確り説明すれば必ず協力してくれる筈です。組み合わせとしても、高い白兵戦能力で前衛をこなせるセイバー、機動力を活かして遊撃出来るライダー、後方支援に長けたキャスターさんでバッチリです!これなら最低でも()()()()()()筈で──」

「ちょっと待ってくださいサクラ」

 

 今の話の中に無視出来ない情報があった。

 

「何故姉が召喚したのがセイバーだと判るのですか?まさか本人から教えて貰った訳でもなし」

 

 そう、桜があまりにも自然体で話を進めるので一瞬疑問に思えなかったが、何故会った事のない相手のクラスがセイバーという前提で話を進めているのか。

 これは戦争での生き残りを懸けた重要な話し合いだ、もし桜が憶測で話を進めているのならサーヴァントとしてキッチリ釘を指さねばならない──

 

「セイバーですよ」

「…?だから何故──」

「姉さんがセイバー以外を喚ぶ筈ありませんから」

 

 

 確信に満ちた声だった。

 ある意味狂信的とも云える断言だった。

 剣士のサーヴァント(セイバー)は『最優』と呼ばれるクラスである。

 自分の姉がその最優を引き当てられない筈がないと、理屈もへったくれもない、まるで子供の思い込みの様な言い分だ。

 だけれど、桜のその真っ直ぐな瞳が、無条件で此方にそれが事実なんだと信じ込ませてきた。

 

 

「…なるほど、分かりました。確かにその組み合わせなら相当に相性が良いでしょう。単純に参加人数の約半分が一つの勢力になれば脅威はグッと減るでしょうし」

「それに桜さんがここまで言うんですから、きっとその遠坂さんはよっぽど信用出来る人なのでしょう。そういう人と組めるのなら願ったり叶ったりなんじゃないですかマスター?」

「ああ、そうだな。遠坂の事は俺も桜を通じてある程度知ってるから。きっとあいつなら背中を預けても大丈夫だと思う」

 

 三人が三人とも桜の意見に肯定的だった。

 それに面食らったのは当の桜本人のようです。

 

「え…あの、提案した私が言うのもなんですけど、反対意見とかは…?」

「ありませんね」

「ええ、特に否定すべき点もありませんし」

「セイバー云々の部分は…?」

「桜さんが断言するのならそうなんでしょう」

「右に同じく」

 

 私達の全面的な肯定姿勢に桜は首を傾げて「あれー?」と呟いている。

 可愛い。

 話が手っ取り早く纏まったんですから喜ぶべき事だと思いますがね。

 

「私としてはもっと意見を交換し合って深く綿密に作戦を立てていくものだと思ったんですけど…え~…こんな簡単に決まっちゃっていい、のかな?」

「桜さんは、自分の考えに自信が持てないのですか?」

 

 キャスターが桜に一歩近付く。

 無意識の内に脚に力が入る。

 未だキャスターの事を全面的に信用していない私としては、その一挙手一投足に必要以上に警戒をする他ない。

 

「い、いえ、そんな事は…」

「大丈夫ですよ」

「っ!ぅわ…」

「なっ」

 

 

 キャスターが桜を抱き締めた。

 思わずその後頭部に向けて投擲しそうになった短剣をギリギリのところで下ろす。

 キャスターは我が子を慈しむ様に桜の頭を撫でながら、その豊満な胸に桜の顔を収めて語り出す。

 

「努力、してきたのでしょう?お姉さんと同じ所を目指して、頑張ってきたのでしょう?だったら、大丈夫ですよ。貴女がお姉さんの事を、本当に大好きだって、よく分かります。貴女のお姉さんは、こんな序盤で致命的なミスを犯す様な頼り無い人なんですか?」

「そんな!そんな事ないです!」

「でしょう?なら、そんなお姉さんを目指してきた貴女が、失敗する筈がありません。まだまだ自分を信じられないというのなら、周りの人を、自身の家族を想って頑張りましょう」

 

 優しく、優しく、只管(ひたすら)優しくキャスターは桜を肯定する。

 全身全霊を以て慈しみを溢れさせる、その白い姿は僅かに神性すら内包している様に見える。

 無論錯覚なのですが。

 

「実際桜さんの提案は理に適った、至極全うで妥当な策です。簡単に決まっちゃった事が不安なのでしょうけど、何も間違ってないんですから。心配する事ないですよ。慎重に行きたいのは分かりますけど、一つの事柄に思考を雁字搦めにされては状況に付いていけなくなっちゃいますよ」

「はい…はい」

「よし。ではそういう事で、よろしいですか皆さん」

 

 桜に代わってキャスターがそう締め括る。

 坊やと私は(おもむろ)に頷いた。

 というか何時まで桜を抱き締めているんですか貴女。

 

 そんなこんなで聖杯戦争会議はまさかの休み時間半分以内で終了、残りの時間は昼食となった。

 桜と坊やがまた糖分過多空間を展開したのでおかずを横から強奪する等して妨害に奔走しました。

 桜の姉を訪ねるのは、あの大河という女性に夕飯を与えて家に帰した後という事になった。

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 ───そう。

 相手の為だ、なんていうのは只の言い訳だ。

 結局、自分にとって都合の良い方へ周りを誘導しているだけ、その罪悪感を見て見ぬ振りをする為の免罪符が欲しいだけ。

 

 私は沢山の嘘を吐いている。

 これはいけない事だ。

 許されない行為だ。

 自分自身に突き刺さねばならない咎だ。

 決して逃げる事も、目を逸らす事すらも許されない。

 許されるのは耐える事だけ。

 間桐の名を背負う者────その宿命を違える事(なか)れ。




ちなみにワカメは麻婆に拉致られた模様。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。