Fate/SAKURA   作:アマデス

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「えいえい」
「エタった?」
「エタってないよ」


半年かけてようやっとモチベーション回復しました。何とか来年の春、HF最終章公開迄には『SN編』を完結させたいですね。まぁほぼ無理でしょうけど()


18話 シスコンとシスコンとシスコンと

 間桐慎二さん。

 間桐家に引き取られた私に出来た義理の兄。

 彼の事を一言で表すなら……そうですね、私にとっては『護るべき人』でしょうか。

 

 先ず初対面の人には大概嫌われるタイプの人種です。

 規律を重んじ、不公平を嫌い、女性には基本的に優しい…と此処までなら素晴らしい人格者なのですが、それらの言動の根本が 無 駄 に 高いプライドからきているので、周りの人には強制するくせに自身ではそれを示さないという…なまじ多才なのも相まってどうしようもなく鼻持ちならない…端的に言ってうざったい人なんです。

 おまけに何だか妙に気難しくて素直じゃない。

 いちいち文句を付けなければ人と会話出来ない呪詛(のろい)でも埋め込まれているんじゃないのかってくらいに、皮肉のスペシャリスト。

 その語録だけで皮肉版国語辞典とか発刊出来そうな勢い、まだ慣れてなかった頃は本音と建前の区別に難儀したものです。

 

 余談ですがそんな兄さんの在り方を『あれが慎二の味だから』『付き合ってけばその内慣れる』で済ませてしまう先輩の器の大きさもとい底の抜け方もどうしようもないものがある。

 

 他にも食べ物の好き嫌いは激しいし、物を出しっぱなしにして散らかすし、直ぐ怒鳴るし、此方(こっち)の注意は全然聞いてくれないし…あ、でも前に私の部屋にノックせずに入って来た時、問答無用で鼻にストレート決めたらそれ以降絶対ノックはしてくれるようになりました、()は偉大ですね。

 といった感じで諸々駄目人間な我が兄ですが…(たと)えどんな人物であろうと私の中で彼の立ち位置は『絶対的庇護対象』から揺れ動く事はありません。

 

 

 何故なら彼は、()()()()()()だから。

 

 衰退の一途を辿っていた間桐の血筋は彼の代で完全に途絶え、その役目を終えました。

 魔術回路保有数/zero。

 そのどこまでも神秘を否定し、現実を突き付ける数字が彼の絶対。

 だから私の中の兄さんは不動で、弱者で、ちっちゃくて、面倒で、ほっとけなくて、当たり前だった。

 

 ────だから。

 だから。

 

 

 兄さんが敵になるという状況を、私は本当に、想像すらした事が無かったんです。

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 地べたに両手と両膝を突いたまま、呆然と、私は何も出来ずに居た。

 

 目の前の光景に意味の解るものが一つもなくて。

 愈々以(いよいよもっ)て頭がイカれてしまったのだろうか。

 それ以外なら一体何なの、そうじゃないと説明が出来ないじゃないかこんなの。

 

 

 

「…ふ、ふ、ふふふ、ふふはっ、ひっ、はっ!ひはははははははははははっ!!!何だよ?何だよ何だよ!?その顔!如何にも鳩が豆鉄砲って感じだなオイ!最高のショーだよこれは。桜お前ピエロの才能あるぜ!良かったなぁっ!お前みたいな愚図にも一つくらい取り柄が有るって分かったじゃないか!」

 

 手で顔を押さえて哄笑(こうしょう)した後、大仰な身振り手振りで私の事を(なじ)る兄さん。

 それとは対照的に、鈍器を持ったまま棒立ちで静かに兄さんの傍らに控える──────サーヴァント。

 

 何も出来ない。

 私は、何も出来ない。

 

「くっ、ふぅ…どうしたんだ?喋っていいんだぜ?ほらもっと笑いを獲れよ、何とか言ってみろよ桜ぁっ!!」

「………何を、してるん、ですか…兄さん」

 

 やっとの思いで絞り出した声は、まるで凍えた様に、これでもかと震えていた。

 兄さんの嘲笑がより深くなる。

 

「はぁ?何してるだって?聖杯戦争だよ。こうしてサーヴァントを連れてるんだ、それくらい解るだろ?馬鹿かお前」

 

 聖杯戦争、サーヴァント。

 何で知っているの。

 その単語の意味が解っているの?

 何でっ、貴方が()()()()にいるのっ!!

 

「そうじゃなくてっ、何で兄さんが聖杯戦争に参加しているのかって事ですっ」

 

 生唾を飲み込んで無理矢理呼吸を促した喉で必死に問い掛ける。

 そんな私の問いに兄さんは更に口角を上げた。

 最早ニヤケ面とかそんなものじゃない、口裂け女呼ばわりされても文句は言えない程の吊り上がり方。

 

 

「何で…?…くぅ、ぐ、ふ、なぁんでぇ!?はぁーーはっははははっ!!!当然じゃないか!始まりの御三家に名を連ねる間桐の後継者だぞ僕は!!その僕が聖杯戦争に参加して何がおかしい!?」

「は?」

 

 自分でも吃驚(びっくり)するくらい低い声が漏れた。

 この状況の意味不明さに対する困惑や怖気が急激に冷えて、それらとは別種の熱が一気に上がってくるのを感じる。

 諸々の疑問は既にどうでもよくなっていた。

 いやよくはない、よくはないけど!物事には優先順位がある!

 そんな事を言われて黙っている訳にはいかないんだ!

 

「っ、ふざ、巫山戯ないでください!間桐の当主は私です!貴方を後継者にした覚えはありません!」

「…はぁ?」

 

 

 急に静かになった。

 私の言葉を聞いた兄さんの口角が下がり、それとほぼ同時に今まで昂りに昂りまくっていた兄さんの気勢が一気に鎮まる。

 まるで嵐の前の静けさの如く───

 

 

「ふっ   っ   ず ぁ けんな ああっ   !!!!!」

 

 

 ───。

 爆発した。

 兄さんが、爆発した。

 勿論比喩だけど、これは、比喩じゃない。

 

「巫山戯んな…巫山戯んな巫山戯んな巫山戯んなぁっ!!!それは全部此方の台詞なんだよぉ!!」

 

 アスファルトを踏み砕かんばかりの勢いで地団駄を踏みながら兄さんが吼えた。

 見たまんま、獣の咆哮と云った感じに。

 

「桜ぁ…!お前ぇ、舐めやがって…!何様のつもりだぁ!!何時までも人の事見下してんじゃねえぞ!!遠坂から間桐に売られて来た不要品の分際で…!貴方を後継者にした覚えはないぃぃ!?」

 

 何時もの三倍は激しい癇癪、確たる憎悪に染まった双眸が私のそれに合わさる。

 

「あ゛あ゛あ゛!!本当に…本当になぁ!どれもこれも全部僕の台詞で僕の役目なんだよ!何でお前なんかがっ、妹なら妹らしく(目上)に従ってろよ糞が!!」

 

 そこまで言って漸く兄さんの怒号は治まった、明らかに一時的なものだけれど。

 額に汗を浮かべながら肩で息をしている、何れ程のアドレナリンが分泌されればここまで激しい様相に成り果てるのか。

 

 兄さんは明らかに正気じゃない、それはもう一目瞭然でした。

 ほんとこれ、ちょっと、一体全体何があったって云うんですか。

 ライダーといい兄さんといい、本日は暴走'sデイなのか。

 

「ああ…はは、まあいいさ。こんな(まか)り間違った事今日で終わらせてやるんだからな」

 

 幾分か落ち着いた兄さんはそう言うと手に持った本───明らかに魔導書の類いを開く。

 魔力の奔流でパラパラとページが何枚も捲れ、溢れた魔光が兄さんの顔の影を濃くする。

 それに合わせてサーヴァントが鈍器を持つ手に力を込めたのが判った───不味い、来る。

 

「さあ聖杯戦争だ、殺し合おうぜ桜。どっちが真に魔道を受け継ぐに相応しいか決めようじゃないか」

「っ!兄さん待っ───」

「やれぇバーサーカー!!」

 

 此方の返答を待たずして兄さんが己のサーヴァント(使い魔)に命令を下した。

 バーサーカー(狂戦士)が唸り声を上げて突っ込んで来る。

 

 

「ウウウウアッ!」

 

 先端がほぼ完全に球形のメイスを両手で振り上げて向かってくる、白いドレスの少女。

 その敏捷値はD、ライダーのそれに比べれば遥かに良心的なスピードですが、そんなものは何の慰めにもならない。

 そもそも人間とサーヴァントでは立っている次元自体が違うんだ、縦えランクが最低値(E)だとしても常人の数倍は軽く超していると思った方が…いや、それでもまだ甘いくらい。

 兎に角正攻法では防御も回避も(まま)ならない、ならば当然用いるのは魔術(変化球)────!

 

 

Tod Studenten(声は静かに) , Mein Schatten(私の影は) , Rtype(回り巡り) , Fangen(捕らえられた) ,

Unter Räumlich der Regel(  世界を覆う  )

「!ギィ」

 

 ───よしっ、(しの)いだ!

 

 私が修めている魔術の中で最も使い勝手の良いものの一つ、自身の影を実体化させて自由自在に操る魔術。

 それによって足下の影、及び()()()()()等の()()()()()()()()を多分に放出した。

 硬度を調節して粘性のそれに近いものとした影をバーサーカーの武器と五体に覆い被して勢いを殺し、私の前方2メートル程の位置に檻状、網状にした影を配置、旋回させて弾く様に、受け流す様にバーサーカーの攻撃を()なした。

 

 人間()じゃサーヴァントに勝てないなんて事は重々承知の上です、それこそ先刻、先輩に対しサーヴァントの強大さについて講釈を垂れたのは私なのだから。

 でも戦において想定外の事態に直面するのはざらだという事も分かっているつもりです。

 例えば今のこの状況の様に、サーヴァントとタイマンを張らざるを得なくなるとか。

 

 だからこそ想像力の及ぶ限り対策は怠らなかった。

 今やって見せたこれもその一つ。

 自分より速く動けて、尚且つ一撃で命を奪い去る存在の攻撃を(かわ)す方法の用意、練習。

 生半可な覚悟(おもい)で聖杯戦争に参加した気は全く無い。

 

 一先ず首は繋がった、まだ敵が此方の守備を崩せていない今の内に此処から離脱する準備を───

 

 

「ヴイイイイイ!!」

「!?ぅえな、ちょっ」

 

 ───とか思ったのも束の間、バーサーカーに纏わり付かせていた私の影が瞬時に消されてしまった。

 

 いや違う、消されたんじゃない。

 間桐の私には解る。

 これは吸収だ!

 

 ライダーとは系統が異なっているっぽいが、この女の子も相手の魔力で自身を強化するタイプ!

 

Anfang(セット)!」

「ア゛ッ!」

 

 

 

 喰らった。

 跳ぶ。

 転がる。

 

 転がりながら体を捻って即座に立ち上がる。

 セーフだ、殴られたお腹が若干痛むが骨は折れてないっぽい。

 

 咄嗟に一小節の魔術障壁を展開して防御、同時に後ろに跳んで衝撃を可能な限り殺した。

 生半可な魔力量ではまた吸収されて無効化される可能性が有った為、我武者羅に魔力を弾き出した甲斐があった、一小節の簡易な障壁で防げるかは賭けだったけど十二分の結果を手繰り寄せる事が出来た。

 

「ぁぁ…畜生」

 

 自然と悪態が漏れた、先輩の前では万が一にも口に出さない様な汚い言葉。

 でも自分に向けた罵倒ならこれくらいが妥当だろう。

 対魔力のスキルを持たないバーサーカークラスだからと油断した。

 一体何回目だ、いい加減学習してよ、サーヴァントの凄さはとっくに身に染みている筈でしょうに。

 この痛みは授業料ならぬ補習料だ、今みたいなラッキー、十回の内に一回あるかないか、偶々その一回が最初に来ただけです。

 こんな幸運はもう二度と来ない、運命の女神様の最終通告だと思え、気を確り持つんだ。

 

 

「ふ、ははは!どうだ思い知ったか!これが僕の、正統なる間桐の力さ!」

 

 受けるばかりで攻めない私に気を良くしたのでしょう、再び大口を開けての哄笑。

 お腹は痛いし、見当違いも(はなは)だしい言葉に言い返すのも億劫だ。

 お腹を押さえて苦し気な表情になっているのだろう私を見て兄さんの舌は更に滑りを増していく。

 

「全く以て不様だなぁ桜。碌に戦いにもなってないじゃあないか。力も足りなきゃ頭も足りてないよ、()()も持たずに手ぶらで出歩くなんて、戦いってもんをまるで分かっちゃいない」

 

 ───そしてポロリと。

 聞き逃せない情報を御丁寧に寄越してくれた。

 チャンスだ、今の兄さんは油断し切っている、このまま問答を続ければ情報を引き出せるかも。

 

「…何故、私とサーヴァントが別行動を取っている事を知っているんですか?」

「はっ、お前のと違って僕の()()は優秀……いや、いいや!迂闊なお前と違って僕は用意周到なのさ!情報収集は常に怠っていないだけの話だよ。こんな事魔術師にとっては基礎の基礎さ!」

「じゃあ、私が今こうなっている理由も把握出来てるんですよね?」

「当たり前だろう?()()()サーヴァントに不意討ちを喰らってズタボロになりながら逃げたって()()()()けど?」

「……はい?」

「はっ、妹が馬鹿なら姉の方は屑だね。元とは云え血を分けた実の姉妹を問答無用で殺そうとするんだから。癪だけど桜、お前ウチに貰われて正解だったと思うよ?彼奴(あいつ)と家族続けてたら何時捨て駒にされてたか分かったもんじゃない」

 

 後半、兄さんの言葉は殆んど頭に入ってこなかった。

 

 私達を不意討ちしたのは、姉さん?

 

 

 じゃあ。

 じゃあ。

 先輩を殺したのは、姉さん?

 私が死にかけたのも、姉さんのせい?

 

 姉さんが…?

 姉さんに、え、いや……姉さん、の…?

 姉、さん、姉さん、に、ぃ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だっ!!!!!!」

 

 嘘だっ!!!!!!

 

「ふ、ふざ、巫山戯るのも大概に…!いい加減にしてくださいよ兄さん!!そんな事ある訳ないじゃないですかっ!!そんな、テキトーで、あの人の、デタラメを!」

 

 自分でも支離滅裂な言葉を口走っていると判る。

 信じられない。

 信じられるかそんな事!

 

「…何だよ。何自分の事殺しかけた奴の事庇ってんだよ!意味分かんねーし!そんなに遠坂の事が好きなのかよ畜生!」

「好きに決まってるじゃないですかっ!!姉さんは、あの人は何時だって格好良くて、凄くて!私の憧れ(ヒーロー)なの!姉さんがあんな酷い事する筈ない!」

「馬鹿が!魔術師なんてどいつも屑だろうが!妹だからって殺されないとか考え方が甘過ぎるんだよぉ!」

「違います!」

 

 違わない。

 本当は違わないけど、確かに姉妹だからって考えも半分くらいあるけど、それだけじゃない。

 

「姉さんは誇り高い人なんです。あんな軽々しく無抵抗な相手を殺すなんて、そんな、詰まらなくて、小さい事絶対しません!!」

 

 

 確かに魔術師は皆外道です。

 死の側に自らを置き、人の道を外れた()()です。

 必要なら他者の命を奪うどころか、いざとなれば自分の魂だって研究材料として消費する求道者(キチガイ)達。

 必要なら殺す、私だってそうする。

 きっと姉さんだって。

 

 でも求道者と殺人鬼は違う。

 だからこそ無駄で無意味な事はしない。

 根源という途方もない地平線のそのまた向こうを目指す私達に道草を食っている様な暇は無い。

 

 不必要な事はしない。

 あんな終わらせ方をするのなら、そもそも姉さんは聖杯戦争に参加しなかった筈だ。

 

 だから!

 

「だから!姉さんを悪く言わないでください!」

「……~~~っ!」

 

 

 こんなに大声を出したのは何時ぶりだろう。

 いや、1時間くらい前にライダーに対して思いっきり怒鳴ったっけ、思い出したら凹んだ。

 肺が酸素を求めて過呼吸を促す。

 キツイ、色々と。

 キツイ。

 本当に、ああ、もう、色々とエグイ。

 

 ライダーと喧嘩して、兄さんに訳の分からない事をされて、姉さんの事を酷く言われて──────先輩が死んで。

 

 十数分前の、先輩の屋敷で固めた決意は揺らがない。

 揺らがないけど、もう心身共にボコボコのボロボロで。

 人生には幸福と不幸が平等に存在すると何処かで聞いた事がある気がするけれど、だったらこれは今までの人生が()()()()()()()ツケなのか。

 魔術の基本は等価交換、与えられてきた分を返せと云うのなら文句はありませんけど、せめてタイミングは選ばせて欲しい、こんな一遍(いっぺん)に取り立てられたら素寒貧です。

 

 

「…だから何?お前のシスコンっぷりとか、そもそも本当に遠坂がやったのかとか、今はそんなのどうでもいいんですけど!!?」

 

 そんな私の内心の泣き言は当然通じず。

 憤りで声を震わせながら再び兄さんは吼える。

 

「今重要なのはこの状況そのものだろうが!お前を追い詰めてるのは僕だ!確り目の前の相手をっ、僕の事を見ろよ!此処に居ない奴の事なんか気にしてないでさあ!!」

 

 (うるさ)い、姉さんの話を悪く振ったのはそっちのくせに、問答無用で襲い掛かって来たのはそっちのくせに。

 

「ほらっ、命乞いでもしてみろよ!額を確り地面に(こす)り付けてさ!殺さないでください、サーヴァントが来るまで待ってくださいって!僕も本当はサーヴァント同士の戦いが観たいんだよ。こうやってお前が一人の時を狙ったのも適当に甚振(いたぶ)ってやりたかっただけさ。本来ならこんな事するまでもないんだからな!」

「─────」

 

 

 こんの。

 

 

「笑わせないでください」

「な、に」

「さっきから一体何を(はしゃ)いでるんですか兄さん。魔術は、聖杯戦争は遊びじゃないんです。相手を甚振ってる暇があるなら、投降を促す暇があるなら!その時間をもっと有意義に、効率的に使いなさい!そんな甘ったれた認識で背負える程魔術の家門は軽くないんです!」

 

 覚悟なんてものは微塵も(いだ)いて来てはいないんだろう、矮小さが透けて見えて呆れや面倒臭さが私の感情の大半を占め始める。

 アマチュアがプロの試合に乱入しても失笑を買うだけなのに、これだからプライドだけが肥大化した人種は疲れる。

 目を合わせていれば判るでしょう兄さん、私が貴方を歯牙にも掛けていないって。

 

 だって家族なんですから。

 

「……~~っ!そうかよ、分かったよ!ならお望み通りに殺してやる!サーヴァントも居ないくせに調子に乗りやがって!潰れてから後悔しろ!」

 

 戦況としては圧倒的に優位に立っている筈なのに、やたら切羽詰まった表情で殺意を露にする兄さん。

 

 でももう遅い、離脱の準備はさっきまでの会話の最中に、とっくに終わらせている。

 

 間桐に貰われてからこれまでの人生、兄さんには決して魔術の世界に足を踏み入れさせなかったどころかそれらの存在を知られる様なミスも犯さなかった、秘匿は完璧だった筈だ。

 それなのに、現に兄さんはサーヴァントを連れて、聖杯戦争のマスターとして此処に居る、仮にも家族である私に対しての憎悪と害意を振り撒いて。

 その辺りの事情を詳しく聞き出しておきたかったけど、姉さんの事を持ち出されてもうアウトだった。

 半分以上自分の失策だけどやってしまったのだから仕方無い、とっとと逃げさせて貰おう。

 兄さんなんかに構っている暇は無い、早くライダーの下へ行かなくちゃ。

 

「行けバーサーカー!四肢だ!動けなくしてから引き裂いてやれ!」

 

 兄さんの物騒な指示を聞き流しつつ呪文を唱え───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の妹に」

「───え」

 

 

 

 ───聞きなれた声。

 

 

 

「ぬ ぁにして くれてんのよっっ!!!!」

「は、ぶぁはあっ!?」

 

 

 

 視界に飛び込んでくるのは紅い衣、舞い乱れる(ふた)つの黒髪。

 

 突然の乱入者、正体なんて判りきってる。

 

 

 我が愛しの姉であるところの遠坂凛姉さんが助走を付けた全力パンチを兄さんの横っ面に突き刺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きに決まってるじゃないですかっ!!姉さんは、あの人は何時だって格好良くて、凄くて!私の憧れ(ヒーロー)なの!姉さんがあんな酷い事する筈ない!」

 

 

 

 遠くからそんな叫びが聞こえた。

 内容を理解した瞬間、一周回って吐きそうになるくらいの、深く熱い高揚感が全身を満たして。

 同時に彼女の期待を悉く裏切ってしまっている自分に対する嫌悪感がぐあっと燃え上がった。

 

 桜の声だと気付いた衛宮君がキャスターに声のした方に向かおうと指示を出す。

 それに頷いたキャスターに相変わらずお姫様抱っこされたまま私も付き従う事に。

 

 うぼあー、私も行かなきゃいけないのかー。

 こんなズタボロの負け犬同然の醜態を桜に見せる羽目になるのかー。

 心中で盛大に項垂れるが当然二人には通じないっつーか仮に通じたとしてもじゃあ行くの止めましょうとは絶対ならないだろう、んな馬鹿な事を言っていられる様な段階はとっくに過ぎている。

 せめてもの抵抗として両手で顔を覆うが、視界を断つ寸前キャスターと目が合う。

 全くしょうがないなぁ、と云った感じの苦笑を返された、いっそ殺せ。

 そんなこんなで(二人が)走る事数十秒、桜の声が大分クリアに聞こえる距離に差し掛かったと同時に桜以外の誰かの声も聞こえてきて。

 

 慎二?

 何で?

 魔術師じゃない彼奴が聖杯戦争開催中の夜の街(この期間のこの時間帯のこの場所)に桜と一緒に居る理由が分からない。

 疑問解消に努める為、手を退()けて視界を回復させる。

 

 

 私達の10メートル程先の道路で向き合う二人。

 体のあちこちに火傷の様なものを創った状態で、ボロボロの薄着一枚を纏いながら立ち尽くしている桜。

 そんな桜に対してサーヴァントをけしかける慎二(糞野郎)

 

 

 

 脊髄反射だった。

 

 私を抱えるキャスターの肩に手を、腹に足を掛けて半ば踏み台とし己を前方に吹っ飛ばす。

 ライダーの結界を抜けた事で気休め程度だが楽になった体に鞭を入れて無理矢理魔力を捻出する。

 流動の魔術を下半身のみにかける、受け身とかは考えない、顔から盛大に地面に突っ込む覚悟で只管加速だけに集中した。

 拳を引く、照準は此方に気付かず棒立ちしているボケナスならぬボケワカメの横っ面。

 

 

「人の妹に」

 

 

 取り敢えず死ねコラ。

 

 

「ぬ ぁにして くれてんのよっっ!!!!」

「は、ぶぁはあっ!?」

 

 

 決まった。

 会心の一撃、クリティカルヒット。

 間抜けな声と云うか音を漏らしながら盛大にぶっ飛ぶ馬鹿。

 ザマーミロ、()を傷付ける奴は私に処刑されるって宇宙誕生以前から法律で定められてんのよ。

 

 

「っ!アアアアッ!」

「!姉さん!」

「遠坂!」

 

 突然の狼藉者から(マスター)を守ろうと桜に向かっていたサーヴァントの少女が(きびす)を返して此方に跳んで来た。

 ある意味では狙い通りだ、9割方衝動的特攻だったけど、敵の注意を桜から私に移せたらという考えもちょこっとあって。

 成功したのはいいけど問題は防御の手段が皆無という事ね、とっくに限界を超えて衰弱しきっていた肉体から無理矢理魔力を絞り出したせいで、再び指一本動かせない状態になってしまった。

 駆け抜けた勢いのまま体が前のめりになり、足が縺れる。

 顔からすっ転ぶのとサーヴァントにぶん殴られるの、どっちの方がマシかな、なーんてぼんやりと考えて。

 

「おっと!」

「ィイイ!」

 

 結果的にどちらも味わう事は無かった。

 私を追い越して前に出たキャスターが桃色に輝く魔力障壁で敵サーヴァントの鈍器(ハンマー)を受け止めてくれた。

 少し遅れて地面に倒れそうになった私の体も実体化させた影でふわりと優しく受け止めてくれた。

 全く、ほんの数十分で一体どれだけの借りを作っちゃってるんだか、安堵と自嘲で思わず苦笑が漏れる。

 

「姉さん!大丈夫ですか!?」

 

 魔術と鈍器で撃ち合うサーヴァント二人の横を素早く抜けて桜が私の下にやって来る、桜に抱き抱えられると同時に影の実体化が解けた。

 

 ─────違和感を覚えた。

 あれ、今の影の魔術は、キャスターがやったものじゃ、ない?

 

「っ、そんな、何で、こんなに魔力が欠乏して…っていうか、嘘、何で……先、輩」

「桜っ、良かった無事…じゃないけど生きてたんだな」

「先輩……せんぱい」

 

 駆け寄って来た衛宮君を見て呆然と、次いでくしゃりと顔を歪めて目に涙を溜める。

 

「さ、桜!?」

此方(こっち)のっ、台詞でず…!わ゛だ、私、先輩が、死んじゃったと思って…悲しくて…苦しくて…う゛、ううううう」

「…ごめん、心配かけた」

 

 ボロボロと溢れる(たま)の様な涙が抱き抱えられている私の胸に落ちてくる、衛宮君は桜に視線の高さを合わせるべくしゃがみこむと申し訳なさそうに謝ってその俯く頭を撫でた。

 

 私を心配してくれて、衛宮君の無事に安堵している───演技なんかじゃあ、断じてない。

 衛宮君の言った通り、そしてライダーの自白通りだった様だ、先の襲撃は桜の意思とは関係無いライダーの独断専行だったって訳ね。

 その事に安堵と嬉しさが湧く反面、後ろめたさがヤバイ、ライダーの暴走の原因はほぼ間違いなく私のうっかりカリバーだから。

 取り敢えず状況が落ち着いたら正直に謝ろう、最愛の妹に対してこんな罪悪感を抱えていたら胃に穴が空く日はそう遠くない。

 

「せんぱい…せんぱいぃぃ…」

「…さ、くら……」

 

 泣き続ける桜の目元を全身全霊を懸けて動かした手で拭う、それで漸く私の方を向いてくれた。

 

「っ、ねえ、さん」

「泣くのは、後……私はいいから、今は、貴女に出来る事を───」

「おわあぁ!?ちょ、何ですかこの人!魔力根刮ぎ吸い取られるんですけど!?」

 

 何時までも私を抱えて離そうとしない桜に行動を促そうとしたのも束の間、キャスターのテンパった悲鳴が聞こえた。

 それとほぼ同時に鈍い打撃音。

 

「どぅが、ぁは!」

 

 生々しく潰れた、いや、()ねた嗚咽を吐いてキャスターが私達の直ぐ近くまで跳び転がってきた。

 魔力を吸収(魔術を無効化)された事により、まともな防御が出来ず殴り飛ばされたんだ。

 ライダーといい、今回のサーヴァントはそんなんばっかか、魔術師泣かせもいいところね。

 

「キャスター!」

「ぐ…大丈夫です、まだ、もうちょっといけまs」

「ハアアアア!」

「っ!ぬ、あああっ!!」

 

 衛宮君(マスター)への強がりを言う(ひま)も与えない敵の猛襲、それをキャスターは何と素手で、身一つで迎え撃った。

 魔力を吸い取られるだけの魔術攻撃より素手の方がマシという判断なのでしょうけど、幾らなんでも無茶が過ぎる!あんたライダー戦でとっくにボロボロじゃないのよ!

 

「あ゛あ゛!」

「ム゛ア゛ン!」

「ッッッ!?ぎ、い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 再び鈍い打撃音。

 敢えて土手っ腹で敵の鈍器を受け止めて抱え込む()()()()()()、そんなキャスターの判断を嘲笑うかの様に鈍器(メイス)から雷電が迸った。

 

「キャスタアアアッ!!」

「キャスターさん!!」

「…っ!」

 

 悲痛な絶叫を上げるキャスター、衛宮君と桜も叫び声を上げる。

 私はそれすら出来ない。

 畜生……~~~っっっ!!!嗚呼っ、クソッ!こんなにも自分に腹が立つなんて初めてだっ、こんな、こんな、援護すら出来ず寝てるだけなんて!

 

 狂おしい程の悔しさと怒りでおかしくなりそうな中、キャスターが振り向いて此方を見た。

 明らかに痛みを(こら)えた、歪な笑顔。

 そしてウインクを一つ。

 

 ────────だからっ、止めてってば。

 泣きたくなる。

 

 

「───宜しいんですか?此方にばかり気を取られて」

「───っ!!」

 

 如何にもと云った感じで悪どく笑いながらそう言ったキャスターは掌を敵サーヴァントの後ろに───道の端でフラフラともがいている慎二に向けた。

 実に分かりやすい演出に当然相手は察する。

 察した以上は攻撃を中断してマスターの下まで下がるしかなかった。

 流石魔術師(キャスター)、巧い。

 

「キャスター…!」

「へ、へへ…これくらい、へっちゃらですよ。私を殺したいなら今の万倍は持って来いって感じです」

 

 服が所々焦げ、肩から煙を出しながらもそう言ってのけるキャスター。

 本当に、この娘は強い。

 

 暫くサーヴァント二人が睨み合う中、やっと慎二が立ち上がった。

 明らかに私の鉄拳のダメージが残ってる、フラフラだ。

 中途半端にタフな奴め、すぱっと気絶してた方がよっぽど楽でしょうに。

 

 

「……っ!ぅ、ぁ、くそ…!遠坂お前ぇ…!」

 

 迫力の欠片も無い弱々しい眼差しで必死に睨みつけてくる、声はいまいち出ないので中指を立ててやった。

 

「っ!くそ、くそっ!おいバーサーカー!何もたもたしてるんだ、さっさとあいつらを殺せ!」

 

 他ならぬ自分が居るせいで自身のサーヴァントが自由に動けないという事も解らないのか。

 何で彼奴がサーヴァントなんて連れてるのかは知らないが、衛宮君以上に無能なマスターなのは間違いなさそうね。

 

「慎二…」

 

 消え入りそうな声で慎二の名前を呼ぶ衛宮君。

 その表情は警戒心と哀感の()い交ぜになった切ないもので、眉根が小刻みに震えていた。

 

「な、んだよ衛宮…はっ、お前のサーヴァント、キャスターだったか?まるでボロ雑巾じゃないか!三流魔術師のくせに調子に乗るからさ。これは()()なんだ、半端者は引っ込んでろよ!」

 

 尚も口汚く相手を罵る事を止めない慎二。

 そんな兄の、友の姿を見て、二人の顔に浮かぶのは同情以外の何ものでもなかった。

 

 あーくそ、体が動けばボッコボコのグッチャグチャにしてやるってのに。

 

 

「やれバーサーカー!宝具だ、宝具を使え!彼奴等に()()力を見せ付けてやれ!」

「っ、ウ、ウウウアアアッ!」

 

 そう言った慎二の持つ魔導書から紫電が迸り、それに合わせてバーサーカーの魔力も徐々に昂っていく。

 この馬鹿、人払いの結界も張ってないってのに、見るからに派手なやつをぶっ放そうとしてる!

 

「姉さん…!」

 

 私を抱える桜が体の向きを変えて私を庇う体勢になる。

 あーもう、何やってるのよ馬鹿、私の事はいいからさっさと逃げるべきでしょ。

 

 でも一番馬鹿なのは、桜が庇ってくれているという事実に心底嬉しくなってしまっている自分だ。

 

 嗚呼、我ながら、シスコン此処に極まれり。

 

 

「っ、仕方ありませんね。マスター、此方も宝具で迎撃します。もしもの時は令呪二画目の使用も覚悟してください」

「あ、ああ、分かった。頼むキャスター」

 

 キャスターが前に出る。

 完全に撃ち合い、純粋な力比べの構図になってしまった、二騎の魔力が暴力的な迄に膨らみ続ける。

 もう腹を括るしかないのか。

 

 

 

 

 

 ストン、と。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 いよいよ爆発する、と云った感じになる寸前、キャスターとバーサーカーを結んだ対角線上、丁度その中間辺りに、黒い影が降って来た。

 漆黒の外套、そこから僅かに覗く褐色の肌、そして其れ等とは真逆の純白な髑髏を模した仮面。

 

 

 暗殺者(アサシン)──────!

 

 何故、此処に。

 

 

「───慎二様、お退きください。これ以上の戦闘は危険かと」

 

 慎二様。

 低く澄んだ、寧静(ねいせい)の声色。

 しっとりと濡れたそれは確かに今そう言った。

 

「な、何でだよ!?もうちょっとで勝てるだろうが!今から宝具で彼奴等を殺して───」

「敵の宝具の効果はまだ未知数です。今暫く情報収集に徹してからでも遅くはありません」

「知るかそんな事!どう見たって弱り切ってるだろうが!此処でやらずに何時やるって───」

「我がマスターは今此処で全てを決する事を望んでおりません」

「~~~っ!!」

「ご理解ください」

「………ちっ!バーサーカー!もういい、終わりだ!」

「────……イイィィ」

 

 数秒、これでもかと歯を食い縛っていた慎二だが、魔導書を乱暴に閉じると己のサーヴァントにそう指図した。

 バーサーカーもそれに大人しく従い放電を収めた。

 慎二は背を向けながらも目線だけは此方に残して勝ち誇った様な、それでいて忌々しげに表情を歪めて捨て台詞を吐いていく。

 

「おいっ、お前ら…今回だけは見逃してやるからなぁ、首洗って待ってろよ!」

 

 それだけ言って走り去る慎二、付き従うバーサーカー。

 残されたのは、アサシンのみ。

 安堵感と緊張感が絶妙に混じり合った空気が流れる。

 

 

 

「何故、貴女のマスターはあんな三流以下の人と組んでいるのですか?」

 

 暫くしてキャスターが口を開く。

 上手い具合いの質問内容だと思った。

 マスターは誰だとか、何が狙いだとか、そういうストレートで黙殺されそうなものよりは相手が口を滑らせそうな切り口。

 

「……」

 

 

 でもアサシンは一言も発する事無く。

 数瞬の後跳び去ってしまった。

 

 

「…何だってんですかもう」

 

 大きく息を吐いたキャスターのぼやきは、きっと私達全員の心情を代弁していた。




はい、という事で大変長らくお待たせいたしました。各話の投稿日時を見ていただければお分かりになると思いますが私の執筆モチベーションは異常に浮き沈みが激しいです。今回は一週間程で書き上げたのですがこのペースも何時まで保つ事やら。


皆さんお待ちかねのワカメ!ワカメでございます!今回は顔見せで終わりましたがきっと彼はこれからが本番だぜ!

フランちゃんのガルバニズムって何気にキャスタークラス相手には鬼畜使用だと思う。実体の無い魔力って解釈次第では大分有効範囲広いよね。

とっくにご存知でしょうが、この作品の遠坂姉妹はお互いの好感度カンストブッチギリです。もっとだ…もっとイチャイチャしろ…!

ワカメを唆したのは一体誰なのか、まぁ消去法で考えれば答えは明白…つーか10話の後書きに書いてあったわ()


さて、そんなこんなで幕間ではなく本編でした。
無事合流できたマスター陣、あとはセイバーとライダーの回収作業だ。
んでもってその後は消耗した凛ちゃんに桜ちゃんが魔力供給だオラァッ!!!!!

あ~濃厚な姉妹百合が書きたいんじゃ~





P.S
一昨日ようやっとHF二章観てこれました。死ぬかと思いました。細かい感想はその内活動報告にあげます。
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