Fate/SAKURA   作:アマデス

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今回作者の性癖丸出しで草ぁっ!!!

取り敢えず文句・批判は読了後に感想でお願いします(巧妙な催促)


19話 独り善がりの堕とし方

 バキンッ、と。

 鎧が砕ける音。

 

 パタタッ、と。

 鮮血が地面に落ちる音。

 

 ズシャリ、と。

 人が派手に倒れ()した音。

 

 

 ジャングルジムの如く全方位へ立体的に張り巡らした鎖を足場とし、スピードを保つどころかどんどん加速して縦横無尽に跳び回るライダー。

 そんな彼女にあらゆる方向から激しく攻め立てられていたセイバーは、遂にその背中を土で汚す事になった。

 

 右斜め上から流星の様にダイブして来たライダーの杭剣で鎧ごと肩を深く抉られ、勢いに圧されて地面に倒される。

 すかさず跳ね返って来たライダーが空中で車輪の如く縦回転し、運動エネルギー( 破壊力 )を増した踵落としでセイバーの頭を潰そうと襲来。

 当然黙って死を受け入れる程セイバーは大人しくも腑抜けでもない、直ぐ様五体を跳ね起こして離脱する。

 

 

 クレーターが出来た。

 

 怪力のスキルを惜しみ無く使用した踵落としは、今の今までセイバーが横たわっていた場所に巨大な穴を形成した。

 ライダーが身に秘める魔力の余剰波で一瞬閃光を伴ったその一撃は本当に流星が降って来たかの如く。

 

 セイバーは再び両足で(しか)と立ち上がり剣を正眼に構える。

 必殺の一撃を躱されたライダーはゆらりと立ち上がってその対面へ。

 訪れる静寂、攻防が激しくなるにつれて段々と無口になっていった二人、先程までの激しい戦闘音が止んだ今この場に発生する音は皆無だった。

 

 いや。

 僅かにだが、確かな、無視出来ない音がある。

 

 セイバーの呼吸音だ。

 その吐息は平時の澄んだものとは違う、フルマラソンの後のそれより尚荒く、余裕の欠片も無いもの。

 

 マスターである凛の魔力の枯渇、範囲内の者の魔力を奪い取るライダーの結界型宝具、全てのステータスを1ランク低下させる石化の魔眼、昨夜ランサーに心臓(炉心)を破壊された事による出力の低下、十数分前ライダーに貫かれた腹部の重傷。

 泣きっ面に蜂どころではない、最早現界を保てている事すら奇跡と云える程にセイバーは打ちのめされ、ステータスは本来のそれと比べ低下し切っていた。

 対しライダーはセイバーを含めた四人から奪い取った潤沢な魔力で己を強化した絶好調状態、カタログ上のパラメーターのみならヘラクレス(アーチャー)に届きかねない勢いだ。

 既に大勢は決している、ここから更に時間が経つ毎にセイバーは不利に、ライダーは有利になっていく。

 この戦況を覆すにはセイバーに対して有利に働く何等かの外的要因が必要不可欠だが、ライダーの結界に囚われている以上期待は薄いどころか皆無、そもそも自分と自分のマスター以外は全員敵の戦争(サバイバル)において一体誰が助けに来ると云うのか。

 

 結論、セイバーはとっくに詰んでいた。

 

 ライダーはそんなセイバーの有り様を冷ややかに、酷薄に見据える。

 四方八方から短剣で斬り裂き、突き刺し、鎖で打ち払い、削ぎ落とし、四肢で殴り付け、蹴り付けた。

 ありとあらゆる悪条件に押さえ付けられたセイバーは直感(レーダー)が其れ等に反応しても体がついていかず防御も迎撃も出来ない為体(ていたらく)、辛うじて急所は外すが完全に躱す事は叶わず浅い傷を負ってしまう、直ぐ様目で追うも加速し続けるライダーを視界に収める事すら困難、そうして次の瞬間に来ると察した攻撃をギリギリで去なす…そんな無限ループから脱する事が出来なかったセイバーは最早傷を負っていない場所を見付ける方が難しい程の満身創痍、完全に生殺し状態だった。

 この戦闘を()()()()と称し、出来る限りセイバー達を痛め付ける事を望んでいたライダーはそんな状況を善しとし、(わざ)()()を長引かせた。

 遊んでいると云っていいライダーのスタイルだったが相手に付け入る隙は一切与えず、連撃の一瞬の間に鎖の範囲外から逃れようと駆けるセイバーに瞬時に追い付いて蹴り飛ばし、再び中心に戻すというこれでもかと云う程の厭らしさ。

 

 

 そんな絶望の中にあってセイバーの瞳は────死んでいなかった。

 額を斬られた事による顔全体を紅く染め上げる出血、極度の疲労で重たくなる目蓋、死人の表情に等しいそれ────けれど瞳の中の光だけは消えない。

 それは(すなわ)ちまだ希望を捨てていない───勝てると思っている事の証左だった。

 

 それがライダーは気に食わない。

 

 

 

 だから目を抉ってやる事にした。

 

「っひ───」

 

 お互い完全に停止していたzeroの状況からの、突然の十割。

 コンマ1秒にも満たない一瞬で自分の懐に飛び込んで来たライダーに対し、やはりセイバーは反応()()出来なかった。

 短く上げた声は悲鳴ではなく、脅威を感じた肉体が反射的に身を強張らせた事により肺が縮んで押し出された空気。

 

 眼球に向かって一直線に突き出された釘剣を首を曲げて回避、し切れず頬を斬られた。

 そのまま止まる事無く突進の勢いのままに自身のすぐ横を通り過ぎていくライダーの背に向けてセイバーは剣を振るう───

 

「げっ!?」

 

 ───事は出来なかった。

 突然意識外から何かに思いっきり引っ張られ体のバランスを崩した為だ、それも首を支点としてである。

 

 それはライダーの髪だった。

 

 怪物、メドゥーサの長髪が蛇の如く蠢いてセイバーの首に巻き付き、そのまま駆け抜けるライダーの勢いにセイバーは引っ張られた訳だ。

 碌に踏ん張る事も出来ず潰れた声を上げて再び地面に引き倒されたセイバーはそれでも再度手を突いて即座に起き上がろうとして───それすらも叶わなかった。

 片腕が何かに引っ張られ無理矢理背中の方に捻り上げられている。

 やはりと云うべきか、その正体はライダーの武器である鎖だった。

 

(トリックスターめ!)

 

 十数分前に右腕を折ってやったのだ、使えるのは左腕のみだと云うのに今だ健在のその魔技にセイバーは内心で悪態を吐いた。

 予想外の拘束にとことん翻弄され、最適の行動を取れず藻掻く事となってしまったセイバー。

 そんなセイバー(獲物)が晒した隙はライダー(狩人)にとって充分過ぎるもので。

 俯せに倒れているセイバーの背に()し掛かったライダーは残る片腕も背中に捻り上げ鎖で拘束してしまった。

 

 自分より圧倒的に余力を残している相手に、俯せで倒れている背中に伸し掛かられ、両腕を後ろに拘束され、更には首に凶器を突き付けられている。

 

 正真正銘、今度こそ、完全なるチェックメイトだった。

 

 

 ─────それでもセイバーの瞳は死なない。

 

 ここまで来ると最早怒りや憎悪より呆れの方が勝った、只の小娘の意地っ張りではないかとライダーは鼻を鳴らす。

 

「───改めて問います。命乞いをする気は」

「………無い゛、です」

 

 掠れた声で返すセイバー。

 その如何にも苦し気な様子がライダーの悪意に(まみ)れた嗜虐心に拍車をかける。

 

「愚かな。この期に及んで騎士の誇り…いえ、自らの性分を優先しますか。そこは恥も外聞も捨てて慈悲を乞うべきでしょう。か弱い村娘の様に泣きじゃくって、目尻を下げ、瞳を濡らしながら、ごめんなさい、助けてください、お願いだから殺さないで……ああ、是非とも貴女の口から直接聞いてみたい」

 

 鼓膜が溶けるのではないかと錯覚する程の湿度と粘性を持った声がセイバーの耳元で垂れ流される。

 空気に酔った悪女の淫蕩さをこれでもかと漂わせるライダーにセイバーは変わらぬ様子で返した。

 

「……簡単な話ですよライダー」

「?」

「仮に立場が逆だったなら、貴女は命乞いをしますか?」

「────」

「ね…?しないでしょう…?…メドゥーサ、貴女の性質は中々に悪辣で厄介ですが…根本的な部分で英雄なんです。どんな反英雄もきっとそれは変わらない、縦えどれだけ歪んだモノでも、己の信じる、愛する何かの為に皆戦っている。貴女は無論、私もです」

 

 今正に自分を追い詰めている相手に向けるには剰りに不自然な程穏やかな声色と微笑みを携え、セイバーはそう語る。

 態とらしく看破した真名を口にして。

 

「ここで命乞いをすれば、成る程確かに、相手の気が変わって生き(ながら)える、また戦えるチャンスを万が一にも得る事が出来るかもしれない……でも、それをやってしまったら、もう()()()()()()()()()でしょう?打算を秘めた、本心ではない言葉でも、口にすれば人は揺らぐ。折れた心を癒すには、長い時がかかってしまう。今戦えなければ意味が無い────だから、命乞いは出来ません」

 

 今にも意識が落ちそうな半開きの瞼の奥に光を宿したままセイバーは締め括る。

 

 その光は綺麗だった。

 

 

(また、人の心ですか)

 

 精々話し合っていたのは十数分程度だろうに、存外あの二人から受けた影響は大きい様だ。

 或いは根っ子が元々そういう(たち)で下地があったのかもしれない。

 

 

(ああっ、クソ)

 

 ()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 

 お前達が()()()()だから私が()()()()いるんだろうが。

 

 そうやって前向きに頑張れば全て好転するなんて餓鬼の考えだ、周りを見ない者に未来は無い。

 そうやって空気を読まず暴力的な光を放つ英雄(馬鹿)が居るから周囲の影が濃くなる、負債を背負わされる者が居る。

 いい加減にそれを学べ人間共、自分達が見たい所しか見ないから、何時まで経っても進歩出来ない。

 自分に都合の良い考え方しかせず、不都合を無視するから、其処()で止まったまま腐っていく事しか出来ない──────ッッ!!

 

 そんな、説教染みた、()()()()()かの様な己の思考に気付いてライダーは心底反吐が出そうになる。

 そんな考えはいらない、自分は反英雄(怪物)、煩わしいものを殺し、壊し、脅かし、凌辱し、蹂躙する、他ならぬお前達がそう在れと望んだのだから。

 スイッチを再度切り換える、ドロドロとした悪意を容赦も遠慮も無く解き放つ。

 

 責め方を変えよう。

 

 

「───でしたら続きをしましょうか。愉しませてください」

「…!」

 

 チャリ、と鎖の鳴る音を聞いてセイバーは体を強張らせた。

 これ以上痛め付けられたら、出血箇所を増やされたら愈々以(いよいよもっ)(脱落)は必至だろう、結界の効果で全身の血を根刮ぎ奪われて終わりだ。

 だが痛み(刺激)を感じられる内はまだ起きていられる、気を失ったらそれこそ最悪だ、逆に今は相手が直ぐに自分を殺さず追い詰める事に夢中になっているのをラッキーだと思うべきだ。

 兎に角、今は耐えろ────そうポジティブに自分に言い聞かせる。

 

 

 

 だがそんなセイバーを突如として襲ったのは苦痛ではなく──────快楽だった。

 

 

「ぅ     ? んんっ  ???」

 

 ぷつっと、首筋に何かが刺さる。

 弾ける様な小気味の良い音と共に一切の不快感無く何かが私の体に痕を付けた。

 予想と全く違った刺激に精神どころか肉体もまともな反応が出来ず停止する。

 

 そして数瞬の後にその硬直は圧倒的な快感の濁流に呑まれた。

 

 

「ひっ!?ぎ、あっ」

 

 ゾルルルッ、と。

 自分の中から猛烈な勢いで何が吸い出された。

 その際の摩擦の様な感触が神経を焦がし、脳を溶かす。

 気持ちいい、心地好い。

 暴力的で極まったそれのせいで全身の筋肉が硬直と弛緩を小刻みに繰り返す。

 腰の跳ねが止まらない。

 

「らい、だっ……ぁぁぁっ」

 

 吸血。

 直ぐに分かった、ライダーが自分の首に牙を突き立て、より直接的に魔力を奪いに来たのだと。

 そうセイバーは()()()する。

 

「んぅ、ぐっ!ふ、う!!────はぁぁっ!」

「────ぷぁはっ」

 

 歯を食い縛って刺激に耐えようとするセイバー、暫くしてライダーは彼女の首から牙を抜く。

 牙から僅かに血を滴らせながら短く息を吐くライダー、それとは対照的に激しい快感(刺激)から解放された事により緊張が途切れたセイバーは荒い息を繰り返していた。

 

 そんなセイバーの前髪を乱暴に掴んでライダーが上を向かせる。

 

「ぅあ」

「……ふふ、随分と、()()()いますね」

 

 未だ俯せに倒れるセイバーの背中に馬乗りになったままのライダー、故に頭を上向きに引っ張られた事で逆海老反り状にされたセイバーの顔をライダーは斜め上から覗き込む。

 

 その表情は、半開きの瞼から僅かに濡れる目を覗かせ、これまた半開きの唇から溢れる一筋の唾液と熱い吐息、血行が促進した紅い頬と、弛緩し切ったもの。

 

 実に分かりやすく発情した牝の表情だった。

 

 

「良い、実に良いですよ、そういう顔が見たかった───さあもっと啼きなさい」

「う゛う゛!」

 

 再度同じ場所にライダーは牙を突き立てる。

 それと同時にセイバーの喘ぎ声も再生され始めた。

 

 漸くセイバーはライダーの行動目的を正確に把握する。

 彼女は痛みではなく快楽という手段で自分を(なぶ)りに来ているのだと。

 

(性格悪過ぎでしょう!)

 

 そこまでして自分が苦しむ姿が見たいか、弱々しく許しを乞う無様な姿が見たいのか。

 セイバーは一周回って感心する様な呆れる様な何とも云えない気分になる。

 だがこれはある意味本当にチャンスかもしれないとセイバーは思い直す。

 ここまでしてくる以上、私が弱味を見せるまでほぼ絶対に殺そうとはしない筈だ、責め方が苦痛によるものでないならば多少長く体も保つ。

 皮肉にもこの圧倒的に不利な状況が、逆襲の恐れが皆無の現状がライダーの慢心をこれでもかと誘っている。

 大丈夫だ、いける、()()()が終わるまで自分が折れなければ良い話。

 

 そうやって理性で自身が現状やるべき事を定めたセイバーだが。

 

 

「はぁっ、ん、く………んぐっ、ぅ……ああっ、ぃ、ゃぁ、だぁ…!」

 

 肉体(本能)の制御はまるで出来ていなかった。

 いや、そもそも本能とは制御出来ないから本能なのだ、生命の原初にそう在れと刻まれた(かたち)

 仮に人間に第二要素()第三要素(精神)も無かったとしたら、それは植物や機械と変わらない、刻まれた()()()()を実行するだけのモノとなっている。

 本能とはそういうものだ。

 

 だから縦え、嘗てブリテン島を治めた一騎当千、万夫不当の騎士王でも抗える道理は無い。

 

「ん む────    ぇ るぉ」

「ひああっっ!!!」

 

 ライダーが牙を突き立てたまま、舌でセイバーの首の傷口を(ねぶ)った。

 突然の、火傷しそうな程の熱にセイバーは何度目か分からない悲鳴を上げる。

 

 セイバーの反応から味を占めたライダーは積極的に舌で傷口を弄っていく。

 べったりと舌の腹を押し付けてゆっくりと唾液を塗り付ける、舌の先端だけでトントンと叩く、そこから繋げて舌全体を波打たせながら先端で傷口をほじくる様に、小刻みにチロチロペロペロと舐め弄る。

 

 淫靡に過ぎる舌技にセイバーは急速に昂らされていくが、同時に感じる切なさも許容範囲を越えそうで。

 爆発が近い。

 だがそこを越えてしまったら命乞いしてしまうのと結果は同じだ、()()()()()()()()()

 もっと欲しいと浅ましく強請(ねだ)売女(あま)に成り下がってしまう。

 

 力関係の分かり切った、口での抵抗しか選べなかった。

 

「ライ、ライd───んんっ!!ぁ…ぁ…………ライダー、もうっ、ふ、こ、らぁ…!」

 

 余計なものまで吹き出ない様、慎重に懸命に声を抑えて何とかライダーの名前を呼ぶ。

 呼ばれた本人は正に御機嫌と言っていいテンション。

 

「もうっ、もう………や、めなさい…!」

「頼み方が違いますよ」

 

 牙を抜かず刺したままでもごもごとライダーは応える、そんなこそばゆさすらも今のセイバーには(たま)らない。

 

「命乞いはっ、したくないと…!」

「大層な気概ですが、過ぎてしまえば滑稽なだけですよ」

 

 再びライダーは牙を離した。

 そして再びセイバーの前髪を掴んで上を向かせる、今度は先程よりもより上に。

 セイバーが苦し気に、切な気に呻く。

 

「ん、ぅあう」

「ああほら、今の貴女の表情、鏡が在ったら見せてあげたい…いえ、写真に撮って残しておいてあげたいくらい美しい」

 

 ライダーがセイバーの目尻に溜まった雫を舐め取る。

 今は眼帯を外している灰色の双眼がその甘美を感じ取ったのに合わせて愉しそうに細められた。

 

「今の貴女を見て一体誰が貴女の真名をアーサー王等と看破出来るでしょう。娼婦か奴隷という呼び名が実に似合っています」

「ふ、ふ…でしたら、貴女が私の主人とでも言うつもりですか…?」

「まさか────私は反英雄(怪物)です。生け贄に捧げられるのは古来より見た目麗しい美女と相場が決まっているでしょう?」

 

 灰色の瞳、愉悦と悪意に満ちたそれに獣性が混ざる。

 冷たいのに何故か魅力的な熱を伴った魔性の抗い難さ、人を死に誘う蠱惑。

 

「少し前に言ったでしょう?貴女の亡骸を見て絶望に潰されたあの娘をどの様に料理するかが愉しみ、と…単に貴女を殺すだけでは意味が無いのですよ。心の底から恐怖、後悔、諦観に沈んだ貴女達を見せ付ける事で────()()()()()()()()()()()でしょう」

 

 

 桜を魔術の世界から遠ざける、その為に邪魔者を殺し、その死に様を利用する。

 実に反英雄らしい、歪みながらも真っ直ぐな愛の突き通し方。

 

「だからほら、早く諦めてください。魔力の枯渇、全身の傷、出血多量…もう息をする事すら辛いでしょう?助けてと一言懇願するだけでその苦痛の全てが終わるのですよ。ええ、優しく殺してはあげません。じっくり…たっぷりと時間をかけて………()()()()()()()()()()()

 

 一転、先程までの悪意と憎悪を微塵も感じさせない、ぞっとする程優しく艶やかな声色でライダーはセイバーに語りかけた。

 首筋の噛み傷を再び、だが今度は(いと)おし気に舐めながら。

 

 ここまで必死に耐えてきた辛酸の全てが甘露に変質したかの様な、極上の掌返し。

 俗な言い方をすれば、ツンデレ、上げて落とすならぬ、堕として上げる。

 散々痛め付けられた上での、このギャップの前では百戦練磨の勇者でも堕ちようと云うもの。

 

 

 だが。

 

 

「ああ…なら、やはり命乞いは出来ません、ね…私は、騎士(英雄)です、か、ら…貴女を、倒して…(生け贄)を救わなければ」

 

 騎士王は折れない。

 折れていい理由は無いから。

 

 

「……はぁ…思わず溜め息が出てしまいますよ。まぁ別に私は構いませんが。まだまだ愉しめると云うのなら拒む理由はありませんし、ね…?」

 

 艶やかな声色を保ったまま鈴の様に囁いて語尾を鳴らす。

 淫魔の如き雰囲気を一切の惜し気無く振り撒くライダーから再開の気配を感じ取ってセイバーの背筋が僅かに震える。

 

「…ふふ…期待していただけているのなら結構。ええ、お望み通り、確りと御期待に沿える様尽力させていただきますとも」

 

 最早ぞくぞくするという表現ですら安く感じる程の、甘過ぎる囁き。

 耳元でダイレクトに響くそれにセイバーの脳は融け堕ちる寸前────そしてライダーの言う通り再びあの快感を得る事に期待してしまっている本能(自分)が確かに居る事もセイバーにとって辛い責め苦だった。

 

 

「貴女の次は遠坂凛……ご心配無く。貴女同様、きっちりと堕とし切ってから甘く殺して差し上げます。だから遠慮も憂いも無く、私の下で足掻いて───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰を殺すって?ライダー」

 

 

 

 

 

 時が止まった様に感じた。

 月並みな表現だが、そうとしか言い表せない程の絶対零度がライダーの背後から放たれた。

 

 

「……………さ………く、ら」

 

 

 凍り付いた総身を必死に解凍して、漸く紡ぎ出した言葉がその三文字。

 

 蛇に睨まれた蛙ならぬ、魔王に睨まれた怪物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分程前。

 慎二とバーサーカーの襲撃を凌いだ桜達四人はお互いの現状報告、情報交換をしながら遠坂邸(の跡地)に蜻蛉返りすべく走っていた。

 

「……話を纏めると、要するにライダーの暴走の原因は姉さんのうっかりカリバーの可能性大だと」

「はい、彼女があそこまで怒り狂う理由は、現状マスターである桜さんの命に関わる事以外考えられませんから」

「…そ、そうだな。ライダーの奴、マスターとサーヴァントとか、そういう立場抜きにしても桜の事気に入ってたみたいだし、うん…」

「…………………………」

 

 

 桜とキャスターは淡々とした温度を感じさせない声色で、士郎はこの場に居づらいとでも言いた気に若干動揺した声色で話を進める。

 

 凛は全身全霊を以て押し黙っていた。

 私は空気だから意識しなくていいわよ無視して勝手にやっちゃってお願いします、と云った感じにキャスターの腕の中で死体の様に静止していた。

 

 

「姉さん」

 

 

 だがそうは問屋が卸さない。

 何処までも自然体、故に抑揚が無く()みた声。

 その冷然とした雰囲気に刺された凛は分かりやすく肩を跳ねさせた。

 端から見て完全にビビっている。

 暫く寝たふりをしていたが、目を閉じていても分かるプレッシャーに徐々に追い詰められていき、やがて観念した様に薄目を開けてビクビクと()の方を見遣った。

 

 

 桜は笑顔だった。

 

 ニッコリと。

 

 ただし蟀谷(こめかみ)に青筋が幻視出来るタイプのやつである。

 

 凛は泣く寸前だった。

 

 

「後で、お話ししましょうね?」

「ハイ」

 

 承諾以外の選択肢は無かった。

 罪を犯した以上罰は受けなければならないのである。

 

 

「…でも、多分それだけじゃない」

 

 今一緊張感が有るんだか無いんだか分からない空気を改めて引き締める様に、眉根を(ひそ)めた思案顔で士郎が新たに意見を発した。

 

「桜もマスターなら、俺やキャスター以上に理解してるだろ?確かにライダーは感情的になりやすい面もあるけど、基本的には理知的で合理的な考え方が出来る奴だ。()()()()になる直前まで同盟を結ぶ事の必要性はちゃんと理解してた…筈だ」

 

 あの憎悪を滾らせた姿を思い出して自身の言葉に若干自信を持てないのか、士郎は言い淀むが、尚語り続ける。

 

「なのに、それ等を一切合切放り投げる様なあの暴走の仕方は…切っ掛けは遠坂の奇襲だったかもしれないけど、それだけじゃとても納得出来ない」

「ええ、ええ、至極マスターの言う通りだと思います。あの十数分の僅かな離脱の間に、ライダーさんの考えを根本からひっくり返してしまう何かがあったのは間違いないかと」

「…桜、何か心当たりは無いか?」

「………ごめんなさい。さっきも言った通り、私ずっと意識を失ってて…先輩のお(うち)で目が覚めた時、既にライダーは居ませんでしたから」

「そうか~…」

 

 士郎の意見にキャスターが同調するも、一緒に居た桜ですらその原因の見当すら付かない有り様だ。

 皆が揃って首を傾げる中、再度キャスターが口を開く。

 

「────『同盟を組む事は最早関係無い』」

「え?」

「『桜は聖杯戦争に参加すべきではなかった』、『魔道を歩む限り桜は幸せになれない』……ライダーさんが述べた言葉です」

「…?何ですか、それ…一体どういう…」

「さて…それは四人全員が思っている事です」

 

 記憶に新しいライダーの言葉も、やはり桜には意味が分からない様だ、続けてキャスターが言葉を紡ぐ。

 

「どちらにしろライダーさんの目的は、桜さん、貴女の身の安全、命の保証、総合的に見て貴女を守る事だと思われます」

「…はい」

「それが何故、聖杯戦争そのものを放棄するかの様な暴走に繋がるのかは今の所分かりませんが…きっと、今のライダーさんに言葉を届かせる事が出来るのは、貴女だけです」

 

 正直あの様子ではそれも怪しいですけど、と小声で付け加えられたキャスターの言葉は桜に確りと届いていた。

 

 その上で桜は腹を括る。

 (いな)、正確には腹はとっくに括っていた。

 キャスターと先輩と姉と。

 自分の大切な人達の命を背負うと、覚悟を新たにする。

 

 暫くして遠坂の敷地、屋敷に続く山道に差し掛かった、ライダーの張った結界が不気味な紅色に輝いている。

 結界の範囲外ギリギリで四人は一旦足を止める。

 

「さて、兎にも角にもライダーさんに会うにはこの死の結界に再び突入しなければならない訳ですが…」

「大丈夫です、ライダーから教えて貰ったレジストの魔術は石化の魔眼に対するものだけじゃありません、この結界のものも把握しています」

 

 でも、と桜は付け加える。

 

「…()(まで)ライダーと魔力ラインが繋がっている、マスターである私が結界で吸収した魔力を同様に受け取る事で効果を打ち消す…要するにプラマイ/zeroにする為のものです。私以外の皆さんに施しても意味は無いでしょう」

「…!じゃあ!」

「はい、結界内には私一人で───」

「待ちなさいっ…!!」

 

 

 桜の言葉を遮る者が一人。

 最早誰か等、態々(わざわざ)述べる迄も無い。

 

「駄目よ…許さないから…!」

「姉さん…」

 

 キャスターの肩に手を掛けて上半身を起こしながら必死の形相で凛は喋る。

 

「単独行動なんて危な過ぎるわ…貴女ライダーに無理矢理意識奪われたって言ってたじゃない…!今のライダーは(たが)が外れてる…貴女の行動を封じる為に、四肢の()れかを奪うくらいはしてもおかしくない…!」

「だったら尚更です。私ですら安全は保証出来ないのに、まともに動けない姉さんがのこのこと出向く訳には───」

「それでも行くのっ!!」

 

 

 精一杯の、大声。

 叫ぶだけで精一杯。

 それでも凛は己を曲げない。

 

「…っ…!……もうっ、離れ離れは懲り懲りよ………お願いだから、一緒に居させてぇ…!」

 

 今度こそ、凛は泣いた。

 まるで駄々っ子だ。

 客観的に見た己の幼稚さ等、優雅(家訓)とは程遠い無様さ等もう嫌と云う程に自覚している。

 それでも行って欲しくなくて。

 もう自分の目の届かない所で()に傷付いて欲しくなくて。

 

 ほんとーに、しょーがない。

 

 

 

「……何で私の周りの人は、こんなにも過保護な(優しい)んでしょうね」

 

 溜め息を一つ吐いて、そんな仕様(しょう)もない姉に、桜は笑いかける。

 

「姉さん」

 

 何時もと同じ、咲き誇る花の様に眩しい笑顔を浮かべて、凛の片手を両手で包む。

 

「大丈夫です。必ず、必ず戻ってきますから。言ったじゃないですか、後でお話ししましょうって。文句とか説教とか────お礼とか、色々言いたい事あるんですからねっ」

「…桜」

「───先輩、キャスターさん、姉さんをお願いします」

「…ああ、気を付けて行けよ桜」

「はい、此方は任せてください」

 

 

 二人の返事を聞き届けた桜は駆け出し、結界の奥へと消えていった。

 

 一人の少女の嗚咽だけが、三人の間で響く唯一の音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで結界内に突入した桜は、向かう先の状況も把握する為、ライダーと視覚───だけでなく聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった五感の全てを共有(リンク)させ──────色々と聞き逃せない台詞を耳にしてしまう。

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

「もう一度聞くわライダー。─────────誰を、殺すって?」

 

 

 何故此処に。

 驚愕で思考が止まり、呆然と後ろを振り向く事しか出来ないでいる従者(ライダー)に、主人()は冥界の底から響かせているかの如く冷たい声色で問い掛ける。

 たっぷりと間を空けてからライダーが口にしたのは質問への答えではなく疑問だった。

 

「…………………何故、此処に?」

「貴女を探しに来たに決まってるでしょう」

「…何時からそこに?」

「たった今。まぁ会話の内容は五感の共有で全部把握してるけど」

 

 疑問系に疑問系で返すライダーを桜は咎める事無く淡々と質問に答えていく。

 今の桜の格好はライダーが最後に衛宮の屋敷で見たのと全く同様の、ボロボロの薄着一枚、格好だけなら何とも弱々しい雰囲気だ。

 

 だがその総身から放たれる気配は─────何と云うか、こう、()()

 もう怖いとか怒ってるとかそういうのの先にいっちゃってる、取り敢えずヤバイ。

 

「……いえ、あの…違うのですサクラ」

 

 そんな重さに押されてライダーは思わずそう口走っていた。

 まるで浮気現場を夫に見付かった妻の如く。

 

「た、確かに、遠坂凛を、貴女の姉を殺すと言いましたが、それもこれも、全て貴女の為で…」

「私の為」

「は、はい………ですからこれは、決して遊んでいた訳ではなく、とても重要な作業の一つで…」

 

 

 

「ふーん。

 

意識の無いマスターを一人、何の防御措置も無い屋敷に放置して、無抵抗の女の子を性的に虐めるのが貴女にとって重要な作業なんだ。

 

ふーん。

 

マスターの身の安全より自分の趣味を優先する事の方がよっぽど大切な事なんだ。

 

ふーん。

 

私がこの世の誰よりも尊敬してて大好きで超愛してる()を惨殺して(あまつさ)えその死体を私に見せつけるのが楽しみなんだ。

 

ふーん。

 

 

 

ふーーーーーーーーーーん」

 

 

 

 

 ライダーは全力でその場から逃げ出したかった。

 

 何かもうヤバイ。

 ムリ。

 普段優しくて超良い娘な分、キレたらヤバイ。

 

 桜を魔道に誘う全てを破壊し尽くすという決意は揺らいでいないが、その最大の障害が桜自身という禅問答の様な展開。

 単純に力尽くでどうこうしていい問題ではないのだから後手に回らざるを得ない…というかまだ何の準備も出来ていない状況で桜本人と()ち合う等想定外なのだ、復帰が早過ぎる根性有り過ぎる、流石我がマスター半端ねえ。

 

 半ば現実逃避気味にそんな思考を繰り広げるライダーは何とかこの場を切り抜けようと考えが纏まらないながらも口を開く。

 

 

「え、えと、さく───」

 

 

 

 

 

 爆発した。

 吹っ飛んだ。

 

 何が?

 

 爆発したのは、セイバー。

 吹っ飛んだのは、ライダー。

 

 

「─────  う  くっ! ?」

 

 ライダーは宙で滅茶苦茶に振り回される五体を何とか制御しようと藻掻き、下に目を向けた。

 腕の拘束を引き千切り自身の聖剣(得物)を腰溜めに構えるセイバーがそこに居た。

 

 何の前触れも無い、突然の逆襲、ライダーの心中は驚愕と疑問で埋め尽くされる。

 

 

 ─────己の絶対的優位を信じて疑っていなかったライダーには見当も付かない事象だろうが、セイバーがやっていた事は至極単純。

 魔力の節約と貯蓄である。

 (マスター)の魔力の枯渇、結界の影響等でまともに魔力を得る事が出来ないセイバーは、攻撃、防御、機動、傷の回復と云った戦闘の際の魔力の放出を最低レベルまで下げて極力消費を抑えていたのだ。

 そして竜の心臓(魔力炉心)が産み出した魔力を己の内に只管溜め込み、一発逆転を狙う。

 文章にすれば、それだけの事。

 

 だがこれはまともな供給が得られない中、最後まで諦めず粘り続けたセイバーの勝利と云える。

 

 

 

(だが、甘い!)

 

 セイバーの全身から放たれた爆発に等しい魔力放出で上空に吹き飛ばされたライダーだが、まだ己の優位性が失われていない事を確信する。

 確かに拘束は解かれたが、まだお互いの魔力の絶対量の差は歴然、ここから短期決戦で私を仕留めるのは至難の技だ。

 何より、()()()()()()()()()()()というのが間抜けに過ぎる。

 

(来なさい!)

 

 ライダーは短剣を自身の首に()てがう。

 血を触媒とした魔方陣で己の子である天馬(ペガサス)を召喚する為だ。

 足場の存在しない空中なら身動きが取れないとでも思ったのだろう、馬鹿め、寧ろ空中戦は私の独壇場だ───

 

 

 

 

「風よっ!!」

 

 

 ───それは致命的な失策だった。

 

 セイバーはライダーが地上に降って来た瞬間を狙う───等と云う事はせず、解放した風王結界(インビジブル・エア)を推進力として文字通り疾風の如く飛んで来た。

 

 待つな、攻めろ。

 この土壇場で、遂に十全の働きを見せた直感(スキル)、セイバーはそれに従い自身の身を宙に投げ出す。

 

 ライダーは未だ五体を振り回された状態で左手に短剣を持ち自身の首に当てている、右手は折れたままで動かせない。

 迎撃等出来る筈もなかった。

 

 

 一閃。

 残る魔力の大半を込めた聖剣の一刀。

 その一撃はあっさりと、無防備なライダーの腹部に吸い込まれ、深々と斬り裂いていた。

 

「ぎ    ぃ あ゛あ゛あ゛!!?」

 

 ドサリと、地に墜ちたライダー。

 スタリと、軽やかに───と云うには随分とふらついているが、それでも両足で確りと着地したセイバー。

 

 勝敗は明らかだった。

 手負いの獲物を前に舌舐めずりをし続けていた怪物、何れ程の逆境に置かれ辛酸を舐め続けても絶対に諦めなかった英雄。

 この結果は必然だった。

 

 

「ぅ、ぁ……ぐ、ふ」

「ライダーっ!!」

 

 脱落して(死んで)もおかしくない程の重傷だが、幸い奪った魔力は有り余っている、それ等を傷の治癒に当て始めたライダーに桜が必死の表情で駆け寄る。

 それはどう見てもライダーを心配しているが故のもので。

 先程までライダーに対しあれだけの怒りを見せつけていたと云うのに、やはり本質的な部分は何処までも慈愛と善性に溢れている。

 

 そんな少女だからこそ、護りたいとライダーは思うのだ。

 

 

「っ!ライダー、待って!」

 

 桜の制止を聞く事なく、ライダーは霊体化して消えていった。




今回はこれアカンなぁ…。

シリアスとギャグとエロスの整合性がまるでとれてねぇ!ほんと、何か気付いたらライダーさんがセイバーさん襲ってたわ。っていうか前も同じ様な事言ったぞ私。←12話


ライダーさんが完全にエロス要員になった。桜ちゃんの時といい、ライダーさんが女の子苛めてる場面はヤバイくらい筆がすいすい進みます。作者の性癖駄々漏れで草生えますわ。

っていうか女の子苛めるのに夢中になって最終的に逆転されるとかライダーさんのポンコツ化が著し過ぎる。

つーか

ワカメ「命乞いでもしてみろよ!」
ライダー「命乞いでもしてみては?」

まさかのムーブ被りですよ。

いやほんとライダーさんに罪はありません、悪いのは全部作者です、ほんますいませんorz

こ、これからだから。ライダーさんは今後もっと格好良い場面きっとあるから(震え声)





っていうかこれ夜に投稿した方が良かったかな。
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