Fate/SAKURA   作:アマデス

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HF3章、四回目観て来ました。
来場者特典3週目のクリアファイル、狙ってた遠坂姉妹が抱き合うやつ一発で貰えて大歓喜なので投稿です。


マジでライダーさんが制御不能で困る(真顔)。


24話 ライダー「キテマス」桜「コナイデ(震え声)」 前編

「じゃあ私これから二度寝するわね」

「なんでさ」

 

 

 同盟締結の後、お互いにより詳細にアーチャー、ランサーと戦闘を(こな)した際の情報を伝え合い、議論を白熱させていたら、何時の間にか時刻は午前10時前、起床から既に三時間近くは経ってしまっていました。

 

 取り敢えず一旦お開きにしようとなった所での姉さんの発言がこれである。

 

「いや何でって、私まだ魔力も体力も気力も…諸々全然回復出来てないし」

「あぁ、そっか。言われてみればそうだ。昨日の今日だもんな」

 

 そう、昨夜姉さんが私とパスを繋げて眠りに就いたのは日付が変わってから。

 起床時間から逆算して大体六時間以下しか眠れていない。

 そんなの普通の人でもちょっと寝不足気味になってしまうだろうに、況してや昨日の姉さんは心身共に消耗し切っていたのですから。

 まだまだ全然休息が足りていない、寧ろ今こうして起きているのが不思議なくらい…そういえば姉さん何が切っ掛けで起きたんでしょう?目覚ましとかは特に使っていないのですが。

 

「私、大体一日で魔力容量の半分位は回復出来るから、昨夜桜から貰った分と合わせれば、明日には全快してる筈よ。だから今日は各々休息するなり準備するなり、自由時間って事にしましょ」

「それがいいですね。何の道、拠点を此処にするなら着替えとか日用品とか礼装とか色々持って来ないといけませんし。今日中にやっちゃいます」

「ごめんね、宜しく桜」

 

 これも先の話し合いで決まった事。

 私達三騎同盟の拠点は先輩の御屋敷となった。

 

 私の家は現状敵対者である兄さんと鉢合わせになる可能性があるという事で却下、姉さんの家はそもそも物理的に消滅してしまっている。

 という感じの消去法で残ったのが先輩の屋敷だったのだ。

 そして家具諸々も殆んど吹っ飛んでしまった姉さんの為に私が手持ちの服等を貸す事になったのです。

 因みに「サイズ合うでしょうか…特に胸…」と懸念を口から溢してしまった私の頬を姉さんのガンドが掠めた。

 即土下座からの無条件降伏でしたとも。

 

 

「でしたら凛さん、私が陣を敷きますのでその内側で休んでください。その方がより早くより元気になりますよ~」

「何かのCM?うん、じゃあお願いするわ」

 

 とか思ってたらキャスターさんが姉さんに環境のブラッシュアップを申し出た。

 姉さんもその善意を素直に受けとる。

 

 ─────ふと、思ってしまった。

 いや、でも…これは流石にどうかと理性のストッパーが掛かる。

 私は拠点移しの準備、キャスターさんは姉さんのケア。

 正しい役割分担だ、今更そこに余計な波風を立てる訳にはいかない。

 ─────だと、云うのに…。

 

 

「桜?どうかしたの?」

「へっ」

 

 え───あれ、おかしい、表情には出して無い筈なのに。

 私の僅かな雰囲気の変化でも目敏く感じ取ったのか、姉さんが問い掛けてきた。

 

 え……っと……。

 い、いや、もうこの際です、言ってしまおう。

 大丈夫、何たって私は姉さんの妹だ、私達は姉妹なんだ。

 昨夜のあれこれと比べれば鼻で笑ってしまうくらいに低いハードルですよ!

 

 

「あの……やっぱり、荷物運びは明日とかに回して…今日は、姉さんに添い寝してちゃ、駄目ですか?」

「─────は?」

 

 私の提案もといお願いを聞いた姉さんは、そんな呆気に取られるという表現がピッタリの様相になった。

 

 肝が縮み上がる。

 ヤバイ。

 やってしまったか。

 

 数秒前の発言を一気に後悔し始める。

 ライダーもセイバーさんもキャスターさんも先輩も、誰も何も言わない、羞恥も感じ始める。

 

 暫くの沈黙、たっぷり間を空けて漸く姉さんは口を開いた。

 

 

「ぅ、ぇ……ぁ、っと…や、あの……え、えぇ~~?」

 

 でも、口から出たのは意味の無い音だけで。

 視線は泳ぎまくり、両手は髪を弄ったり口を隠したりと忙しなく動いている、そして仄かに朱の差した頬。

 

 誰がどう見ても判りやすく照れていた。

 

 

 

 姉、さん─────かっっわっ…!!

 

 

「………ま、待って。ちょっと待ってね、ちょっと…うん、ちょっと」

「は、はいっ」

「………」

「………」

 

 再びの沈黙。

 姉さんはそっぽを向いてしまうと、大きく数回呼吸してからもう一度此方へ向き直った。

 

「んんっ……ごめん、悪いけど却下よ桜」

 

 

 ───まぁ、当然の返答でした。

 

「あっ、いや、あのね!気持ちは、ほんと凄く嬉しいんだけど。ほら、時は金なりって云うでしょ。猶予と云うのは何物にも代え難いわ。況して今は戦争中、やれる事はやれる内に済ませなきゃね」

「…そう、ですよね。はい、その通りです」

 

 全く以て、御尤もな意見だった、反論の余地無し。

 いけないな、余りにも浮かれ過ぎだ。

 11年振りに姉さんと同じ床に入って、暫く同じ屋根の下暮らせる事になって…ああ、舞い上がっていた。

 呆れて物も言えないとはこの事でしょう、折角同盟を結べたと云うのに、いきなり駄目な所見せちゃったな。

 

「だから、()は無理だけど……えっと…また、夜、お願い出来る?」

 

 

 ───そんな風に落ち込んでいた私に、女神は微笑んでくれた。

 

 恥ずかしげに眉尻を下げたはにかみ。

 夜、お願い出来る?

 

 ───夜、お願い出来る?

 

 ああっ、そんな、駄目ですよ姉さん。

 そんなの、そんな発言、誘ってるって解釈されても仕方無いですよ。

 貴女にそんな事言われたら、私は───。

 

 

「はっ、はい!もちろn」

「待ちなさい遠坂凛」

 

 

 ───了承以外の選択等無いも同然の申し出に、待ったをかけたのは。

 

「許しませんよ、その様な事は」

「───何よライダー。いきなり割り込んできて。貴女には関係無いでしょ」

「いいえ、有ります。私はサクラのサーヴァントですから」

 

 何時の間にか私の直ぐ後ろに近寄って来ていたライダーが、私の肩に手を置きながら耳元に顔を近付けて喋る。

 憎悪───ではない、それとはまた違った姉さんへの敵意が乗った声に体が縛られ、振り向く事が出来ない。

 

「サーヴァントなら尚更でしょ。これは桜が提案してきた事なのよ。自分の主人(マスター)の意向にケチ付ける気?」

「只々盲目的に従い動くだけなら機械で事足りるでしょう。真に主を想うなら時には否定も必要なのですよ」

「ふん、なら何がそんなに気に入らないのかお聞かせ願えるかしら?」

 

 一切の容赦無く放たれる反英霊(サーヴァント)の敵意に、姉さんはこれまた一切怯む事無く相対する。

 凄い…凄い、けど、同時になんか、胃が痛くなってきた。

 何これ。

 

「今貴女が自分で仰ったでしょう。今日一日休息を取れば明日には全快だと。ならば必要以上にサクラの魔力(精気)を貪る必要は無い筈です。サーヴァントとして、マスターに無用な負担をかけられては堪らない」

「べ、別に魔力目当てでお願いした訳じゃ…」

「ならば、どの様なつもりだったのですか」

 

 ライダーの問いに姉さんは口籠ってしまう。

 そんな相手の様子に旗色良しと見たか、僅かに口角を上げてライダーが畳み掛ける。

 

「そもそもサクラは昼の間に、今から同じ床に入ろうと申し出たのですよ。だと云うのにそれを却下して、夜に、とは…それも魔力供給の必要が無いと自覚していながら……ああ、成る程───そういう目的なのですね」

 

 

 低く、粘着(ねばつ)いている様で、その実さらりと澄んだ美しい(おと)

 好色な本性を隠そうともしない、寧ろこれでもかと乗せて紡がれた言葉(邪推)に姉さんがまた顔を紅くした。

 耳元で直にそれを流し込まれた私も、思わず背筋にゾクゾクとしたものが走る。

 

「な、な、な…」

「マスターに無体を働かれる訳にはいきません。どうしても寂しいと云うのであれば、御自身の()に慰めて貰えば宜しいのでは?…まぁ実際する時、どちらが剣で、どちらが鞘になるかは貴女方の自由ですが」

「あっ、あんたねぇ!!」

「それに」

「きゃっ!?」

 

 あんまりな物言いに激昂する姉さんの言葉をライダーは食い気味に遮ると、私の体を自身の方に引っ張って寄せた。

 肩に置いていた両手は、左手を私の頭の上に、右手は胸を押し上げる様に腕ごと回されロックされる。

 ちょっ、ちか───!

 

「申し訳ありませんが…先約は私が貰っているのです。譲る気は毛頭有りませんよ」

 

 

 そんな事を(のたま)いながら、私の耳に触れるか触れないか、そんなギリギリの所まで唇を近付けてくるライダー。

 あからさまな見せ付ける言動に、姉さんだけでなくこの場の全員に戦慄が走ったのが見えた。

 

 斯く言う私も、既に、ヤバイ。

 

 

『サクラ、私は貴女が好きです』

『愛しています』

『貴女に恋をしています』

 

 

 今更ながらに、昨夜のライダーの言葉を思い出す。

 …いや、違いますね、厳密に云うなら、忘れてはいなかったけど今の今まで特に意識していなかった。

 昨夜は突然過ぎる告白だったからとか、姉さんへの魔力供給(急ぎの用事)が控えていたからとか、ライダーの態度が余りにもあんまりで冷静さを欠いてしまったからとか…ほんと、色々な要素が有り過ぎて、強引にあの場から逃げてしまった。

 兎に角余裕が無かったんです。

 でも、こうして間が空いてから、改めて言動で示されると…………。

 

 っ…駄目だ、困る、困っちゃうよ。

 

 

「っ、せ、先約って、何言ってるのライダー」

「ふふ、(とぼ)けなくて結構ですよサクラ。昨夜、私の想いは確り伝えてある筈です」

 

 マスターとして、行き過ぎたサーヴァントの言動を諌め、場を治める。

 そうしなければならないのに、どうにも拒絶の意志を示せない。

 

 正直、ライダーの気持ちは嬉しくて。

 元々嫌いではなかったし、間違いなく主従として良好な関係を築けていたし。

 そんな相手に此処まで真っ直ぐな好意を向けられたら、満更じゃないのも仕方無くて。

 

 結局中途半端に口を開いて惚ける事しか出来ず、でもそれは悪手だと即座に後悔した。

 この悪女に口を利く、文字通り口実を作らせてしまうのは。

 

「わ、私は何もっ、了承どころか、返事も」

「確かに。ですが、それでも唾を付けてあるのは事実です」

「そんなの付けられてないっ」

「いいえ、確かに付けましたよ───此処に」

 

 そう言ってライダーは、頭の上に置いていた左手を私の首に持ってきた。

 昨夜、私を気絶させる為に吸血を行った場所。

 治癒魔術をかけたから、もう痕は残っていないけど。

 それでも、確かに一度、ライダーに犯さ(奪わ)れた場所。

 嗜虐心が込められた指先が、蛇の如く私の首筋を撫でる。

 快感が走った。

 

「ライっ…!やぁ!」

「サクラ…そんなにも人肌が恋しいのでしたら、是非とも私を使ってください。ええ、必ず御満足頂けるだけの働きをしてみせますとも。貴女のこの可憐な身の隅々まで快楽で()たし、下らぬ(しがらみ)も何もかも…(とか)して差し上げます。全てを終えたら(しとね)の中にて、素直な心の内を告げてください」

 

 

 甘く、甘く、囁きながら、それでいて相手に逆らう事を許さない、ある種の強制力が込められた不思議な感覚。

 ライダーがガチ過ぎて怖い。

 

 そして囁きながら両手を絶えず動かし私の体を(まさぐ)ってくる…というかもう殆んど愛撫同然で。

 首を撫でていた左手をつつつ、と(のぼ)らせ顎の(ふち)をなぞりながら親指を唇の端に押し当ててくる。

 右手はより大胆に、胸から腰へ移すと数回擦り、次に下腹部へ持ってくると雑でありながらもそっと優しく円を描く様に撫で回す、そうしてトップスがずり上がったところで撫で下ろしそのままスカートの縁に小指をかけ…。

 

 そこまで認識して流石に手が動いた。

 嘘でしょちょっと、この状況で何処まで目指してるの!?

 

「こらっ!いい、加減にしてライダー!先輩(男の人)も見てるのよ!」

「見せ付けているつもりですが、何か?」

 

 悲鳴に近い私の叱責もまるで意に介さず開き直ってくるレイプ魔。

 当然物理的にも敵う筈無く、両手を掴んで止めようにも殆んど無意味に終わる。

 おのれ、昨夜のあれでは仕置きとして足らなかったか!

 って云うかなんなら昨日よりも更に積極的になってる気がする、もう告白は済ませたから遠慮する必要は無いとでも言いたいのだろうか、言いたいんでしょうね、何事も曝け出せば良いってものじゃないでしょうに!

 

「っ…やっ…せ、めて、TPOは弁えてよ!」

「───成る程、二人きりを御所望ですか」

 

 どうにも止まらないこの暴れ馬をなんとかしたいと思わず口を衝いて出た言葉にライダーが反応する。

 獲物を仕留めにかかる寸前の、蛇の如き鋭さが籠った声色。

 しまったと、再び後悔するも遅い、口実を得た怪物の行動とは迅速なのだと昨夜のゴタゴタで既に嫌と云う程理解している。

 

「ならば始めからそう言ってくだされば良いのに。他人への気遣いばかりでなく、もう少し自分の欲求にも素直になってくださいな」

「わああっ!?」

 

 一瞬で私の両腕を後ろに回して片手で束ね、拘束すると同時にひょいと持ち上げてお姫様抱っこされた。

 は、え、どうやってるの!?

 無駄な器用さ、と云うか妙技、と云うか神業に驚愕すると同時に本格的な危機感を懐く。

 

 ヤバイ、マジです、ガチです、本気(マジ)でライダーは私を拐って()()気だ!!!

 

「こっ、コラ!ライダー!駄目だってば!」

「嫌、ではないのでしょう?」

 

 もう形振り構わず抵抗する。

 脚を振り上げ膝でライダーの顎を狙うも普通に躱される、悔しい。

 最早これ迄か、と諦めそうになるが。

 

「待───────っっっち な   さい  よぉ!!」

 

 悠然と居間を出て行こうとするライダーに猛然と駆け寄った姉さんが、ライダーの対面に立ちはだかって私を横抱きに奪い返そうと手を伸ばした。

 

 姉さんっっ!!!(感涙)

 姉さん!ほんと、姉さん!何時だって私を助けてくれる姉さん!救済の女神!やっぱ姉さんなんですよこれ!

 

「姉の目の前で妹を拉致ろうなんざいい度胸してんじゃない!ポリス呼ぶわよこらっ!」

「拉致とは人聞きの悪い。邪魔の入らぬ所で二人っきり、主従間の愛を育もうと云うだけではありませんか」

「何が愛を育むよ!あんたの性欲が発散されるだけでしょうが!ウチの妹を娼婦扱いされて堪るかってーの!」

「───聞き捨てなりませんね。私がサクラの体だけを目当てにしていると…?私は内面も外面も含んだサクラの全てを好いているのです。腰が振れれば何でも良い下劣な単細胞と一緒くたにされるのは甚だ心外です」

「今のあんたはそれ以下よ!何せ相手の同意も得ずに無理矢理事に及ぼうとしてんだからね」

「全く…無粋な(ひと)ですね。そうやって空気を読まないからうっかり癖が治らないのですよ」

「お生憎様、私が重視するのは何時だって空気じゃなくて道理よ。大事な妹が連れ去られそうになってるのを黙って見てるとか姉として有り得ないからっ!!」

 

 

 私を挟んで姉さんとライダーが言い争う。

 間違いなく正論を言っているのは姉さんなのですが、やはりライダーはのらりくらりと受け流してしまう、ほんと開き直った反英雄は怖いって云うか色々駄目ですね。

 

 ───って云うか…!うわわっ。

 

「ちょ、ふ、二人共、そろそろ下ろして…」

 

 声をかけるも二人は言い争いに夢中で此方を見向きもしない。

 先程も言いましたが、私はライダーに両腕を抑えられたまま横抱きにされている状態、そして姉さんもそんなライダーの対面に回り込んで私の背中と膝の裏に腕を入れ横抱きのまま奪い返そうとしている、故に今の私は姉さんとライダーに二人がかりで持ち上げられているに等しい訳で。

 人の前腕*1はそんなに長くない、そして姉さんもライダーも基本ぐいぐい押していくタイプでこういう場で退くという事をしない。

 だから、二人共ヒートアップするに連れてどんどん身を乗り出して、間に挟まれている私はどんどんプレスされていって…!

 

 これは、二重の意味で堪らない。

 不安定に宙で揺れる怖さと、両側から思いっきり押し付けられる女性の体の柔らかさと甘い匂い。

 特にライダーのそれはほんとっ、質量と云う名の暴力っ…!

 

 私は先程姉さんを救済の女神と称したがどうやら違ったらしいです。

 いや、私にとって姉さんが女神だと云うのは不変の理ですが、今私が欲しいのは癒しではなく救いでして。

 先輩…は駄目だ。

 こういう女性同士の生々しい争いを男の人に何とかしろと投げるのは余りにも酷と云うかハードルが高いだろう。

 ほんとっ、誰でもいいですから助けてっ…!

 

 

「いい加減にしなさい二人共」

「だはっ!?」

「っ!」

 

 祈りは通じた。

 セイバーさんが二人の脳天にチョップを───気持ちライダーには強めに───かまし怯んだ所でキャスターさんが私を影の触手(リボン)でするっと回収してくれた。

 同盟を結んで初のサーヴァント共同作業がこれかぁ…。

 

 

「───何をするのですかセイバー」

 

 さっき迄の姉さんに対するものとは違う鋭さと冷たさ増し増しの声色でライダーがセイバーさんに詰め寄る。

 ジャラリと音を立てて、その手には鎖剣が…ちょっとちょっとちょっと!

 

「ライダーッ!駄目だよ!」

 

 慌てて駆け寄って手を握りながらライダーを諌める。

 …あ、また近寄っちゃった……ま、まあ今は気にしないでおこう。

 兎に角同盟相手に武器を向けるなんてやり過ぎもいい所だ、セイバーさんの気に障ったらどうしよう…と恐る恐る其方(そちら)を見てみるも、セイバーさんは両手を顔の横まで上げて(おど)けた様に無抵抗のポーズを示している。

 よ、余裕だ、大人の余裕。

 ライダーもそんなセイバーさんに気炎を削がれた様で鎖剣を魔力(エーテル)に戻し消す。

 

「ちょっと…セイバー、何で私まで」

「凛が言い争いに夢中になっていたからです。サクラが押し潰されて苦しそうでしたよ」

「え、あ…ご、ごめんね桜」

「いいえそんな!助けてくれようとしてありがとうございます姉さん」

 

 セイバーさんに指摘され此方へ謝ってくる姉さんにお礼を言う。

 これくらい謝る事じゃないのに。

 漸く場が落ち着く、さて、と私は隣のライダーに向き直った。

 

「ライダー、ちょっとやんちゃし過ぎです」

「つーん」

 

 真っ直ぐに見上げて叱るもライダーは顔を背けてしまう、子供か!

 しかもつーんて、口で言ってるし!

 

「あのねぇ……もう、召喚したての頃の大人で冷静沈着だった貴女は何処に行ったの?」

自制心(その者)は実家に帰りました、もう居ません」

「開き直りが過ぎるでしょ…これじゃ私が全然マスターとしてサーヴァントの手綱握れて無いって皆さんに知られちゃうじゃない。そんなに私に恥をかかせたいの?」

あんなゴタゴタの後(昨日の今日)です、今更かと思いますが」

「だから何で主犯の貴女がそんな堂々としてるの!?」

 

 因みに戦犯は姉さんである。

 

「もう…兎に角、私の申し出を姉さんが条件付きで承諾してくれて、私は異論無し。はい終わりです!終了!これ以上の展開はありません!」

「むう……………せめて私も交ぜて…」

「論外です」

 

 ライダーが相手なら最悪私は喰われても良いが姉さんに手を出したら問答無用で令呪(自害)です。

 

「はは…じゃあ今度こそ解散か?」

「はい。ごめんなさい、お騒がせしました」

 

 漸く口を開けそうな雰囲気を察して先輩が次の行動を促してくれる。

 いやほんとに漸くです、女三人寄れば姦しいとは言いますがライダー一人で一体何人分抱え込んでいるのか。

 

「それじゃあ私、早速間桐家(ウチ)に行ってきますね」

「…誰と行くんですか桜さん?」

「え?それは勿───」

 

 

 ───論、と続けようとして、凍り付いた。

 

 そうだ、昼間とは云え聖杯戦争の最中には変わりない、一人でのこのこと出歩くのは論外だろう。

 

 あれ?私、誰と…?

 

 

 姉さんと目が合う。

 

「…えっと、さっきも言ったけど、私これから二度寝しなきゃいけないし」

 

 セイバーさんを見る。

 

「申し訳ありません、私も昨夜の戦いの影響でまだまだ魔力が全快していませんので。(マスター)の警護をしながら私自身も休息を取ろうかと」

 

 キャスターさんの方を向く。

 

「ご、ごめんなさい。私も屋敷の防備の見直し、追加とか諸々やりたい事山積みで…」

「───って事は手が空いてるのは俺だけか。よし桜、一緒に───」

「駄目です」

 

 先輩の提言を無慈悲に切って捨てる。

 想い人の心遣いをばっさりいくのは心が痛むが、これはしょうがない。

 

「なんでさ」

「じゃあ聞きますけど先輩、私と先輩の二人で出掛けた先でサーヴァントに遭ったらどうなりますか」

「………デッドエンド不可避ですね」

 

 そういう事です。

 いざとなったら令呪を使えば良い?それなら最初から連れて行けば良い話ですし貴重な切り札をそんなほいほい浪費は出来ません、何の為に昨夜令呪を温存してまで頑張ったと。

 

 という訳で。

 選択肢は一つに絞られた。

 私は恐る恐る隣に佇む人物を見上げる。

 

 

「───どちらにせよ、結果は同じでしたね…

 

 サ ク ラ ?」

 

 

 そこには実にイイ笑顔のライダーが居た。

 甘ったるく名前を呼びながら、手を取ってくる淫魔に、私は全身に走る怖気(希求)を隠せなかった。

 

 タスケテ。

 

 

 

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 

 

 

 桜がライダーと自宅へ向かう(ライダーにドナドナされていく)のを見送った士郎とキャスターは、士郎の自室で座りながら向き合っていた。

 

「───で、確かめたい事って何だキャスター?」

「はい、マスターの魔術回路についてです」

 

 キャスターは目を瞑り、自身の胸にそっと手を当てながら語り出す。

 

一昨夜(いっさくや)と昨夜、マスターに抱いて頂いた際に確認したのですが…私とマスターの魔力ラインは間違いなく正常に繋がっています」

「ぅ、お、おう、そうなのか」

 

 恥ずかし気も無くストレートに告げられた言葉に士郎は僅かに(ども)るが、今は真剣に話したいのだろう、普段の様に(からか)う事はせず会話を続ける。

 

「ですけどやっぱり、これまでと同様、未だにマスターからは殆んど魔力が送られて来ないんです。道は確実に繋がっているのに水が流れて来ない…となると問題の原因はダムに在ると考えるのが定石ですよね?」

「つまり、俺の魔術回路に何か異常が起こってるって言いたいのかキャスター」

「そういう事です」

 

 我が意を得たりとばかりにキャスターが微笑み、それを見た士郎はぐ、と息が詰まる。

 やはり、どうも、衛宮士郎はこの相棒の笑顔に敵わない様だ。

 

「なので、今からマスターが魔術を使う所を私に見せて欲しいんです」

「魔術を?」

「はい。マスターの魔術回路がどの様に()()しているのか、実際に()()判断するのが一番確実ですから」

「構わないけど、そんな人に見せられる様なもんじゃないぞ」

 

 況してやキャスター(魔術師の英霊)に、そう士郎は内心で付け加える。

 この八年間、毎日欠かさず自己鍛錬を行ってきたが碌に成功した試しが無いのだから渋ってしまうのも仕方無いだろう。

 だがキャスターはそれに取り合わない、必要だと判断したから見せて貰うまでの事。

 

「構いません。切嗣さん、でしたか?お義父様に教えて貰えたのは強化だけなのでしょう?刻印も継いでいない野良さんにそこまで期待はしてませんから」

 

 そう言ったキャスターは相変わらずの笑顔だったが───何故だかその奥に嘲笑の色が含まれている様に士郎は感じて。

 キャスターの述べた事は全く以て正論だし、現に士郎はキャスターへの魔力供給すら満足に行えないへっぽこだ、期待されていないのも已む無しである。

 だがこんな言い方をされては多少なりとも反骨心が湧くのが人間と云うもので。

 

「む…分かったよ。そんなに見たいなら見せてやる、ちょっと待ってろ」

 

 そう言って士郎が自室の机から取り出したのは、カッターナイフ。

 何と無くだが、包丁やナイフ等刃物系統には魔力を多少通しやすいという事を士郎はこの八年の経験で学んでいたが故のチョイスである。

 今更、この一見大和撫子を体現した後ろに控えて主人を立てる女性の様で、その実中々に生意気な相棒を()()()事は不可能だろう。

 だが少しくらいは()()()()欲しい。

 そんな細やかな奮起を胸に士郎は、己に扱える唯一の魔術を行使する。

 

 

「同調、開始」

 

 ナイフに触れる士郎の両手に、淡い緑の燐光が回路の様な線となって走る。

 

「───基本骨子解明───構成材質解明───っ、構成材質、補強…っ」

 

 士郎の言霊に応じて光の回路が少しずつナイフに伸びていく…が、ナイフ全体に線が走った所で士郎の表情が歪み、それに伴ってバチバチッ、と電線がショートしたかの様なノイズとスパークが走り始める。

 否、かの様な、ではない。

 ナイフに魔力のラインを通す事には成功したが、そこへ継続的に魔力を流し続ける事が出来ず、所々で生じている魔力量の差による歪みが形となって表れているのだ。

 そうして十秒程の後、魔力不足でラインの維持すら出来なくなり、ナイフからすう、と光が消える。

 

 失敗。

 普段と全く同じだった。

 

「はあ、くそ」

 

 その短い悪態に込められた感情は、果たして何れ程のものか。

 結局意気込んでこの様か、と士郎は両手を後ろに突いて体を後方に傾け天井を仰いだ。

 どれくらいそうしていたか、士郎は僅かに首を動かしてキャスターの様子を窺う。

 初歩の強化もこなせないなんてとより失望させてしまったか、或いは端から期待してないと言っていたし変わらず笑顔のままなのか。

 だがどちらにせよこれが今の自分の魔術師としての限界、どんな辛口評価でも甘んじて受け入れる他無いだろう。

 そう思いながら士郎はキャスターの顔をまじまじと見詰めるが───結果は二つの予想のどちらでもなかった。

 

 

「……やっぱり、こうでしたか」

 

 

 何処か苦々し気に表情を歪めてキャスターはそう呟いたのだ。

 

「何か、原因が判ったのか」

「はい…ちょっと、有り得ない話と言いますか…いえ、ある意味予想通りではあったんですけど」

 

 キャスターの呟きに事態打開の足掛かりを掴んだのかと士郎は尋ねるが、キャスターはそれに歯切れ悪く要領の得ない言葉を返した。

 

「?つまり…どういう事なんだ?」

「いえ………すみませんマスター。今日の夜、夕飯の後くらいで良いでしょうか。もう一度魔術の行使を、今度は皆さんの前で見せてくれませんか?」

「?良いけど、どうしてだ?」

「同盟を組んでいる以上、情報の共有は徹底するべきですから。マスターがどの様な状態なのか、皆さんには直に目で見て知っておいて欲しいと思いまして…どうしても嫌と云うのでしたら引き下がりますが」

「いや、全然構わないぞ。キャスターがそうした方が良いって言うんなら従うさ」

「…ありがとうございますマスター」

 

 自分を全面的に信じてくれているマスターの言葉にキャスターは笑顔で御礼を述べると「さて」と溢して立ち上がる。

 

「それじゃあ私は予定通り御屋敷を色々と弄りますね。マスターはどうか御自由に御過ごしください。あ、でも外へ出掛ける時は私も付いて行きますから声掛けてくださいね」

「ん、分かった。それじゃあ家事でも済ませちまうかな…」

 

 そんな独り言を溢す士郎を背にキャスターは戸を開けて廊下へ出る。

 

 少し歩いて、呟いた。

 

 

 

「精々、怒られてくださいな」

*1
肘を境にした手に近い方の腕




その頃、間桐邸では、桜を押し倒してベッドインしようとするライダーと、そのライダーを蟲蔵へぶち込もうとする桜の熾烈な攻防が繰り広げられていた。
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