Fate/SAKURA   作:アマデス

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なんか思ってたより騎桜の絡みが長くなって話の区切りも文字数も丁度良い感じになったんで前回の続きとして投稿。


これから朝一でHF3章、五回目観に行ってきます。ひょっとしたら貴方の隣の席に私が座ってるかもしれません。


25話 ライダー「キテマス」桜「コナイデ(震え声)」 後編

 午後2時ちょっと過ぎ。

 

「只今、戻りました~…」

「おかえり、遅か……た、な?」

 

 昼食をとっくに食べ終え、そろそろ洗濯物を取り込もうかと思っていた矢先、漸く桜が帰ってきた。

 …のだが、その表情も声も異様な程疲れ切っており、髪も服も若干乱れていたりと、なんと云うかもう、文字通りへろへろな有り様だった。

 

「…何があったんだ?」

「…全力で、抗ってきました」

 

 大方の予想は出来ていたが一応尋ねてみると、主語を省いた端的な言葉が帰ってきた。

 俺が首を僅かに傾げると桜は自身の右側の空間をジトッ、と()め付ける。

 すると虚空に粒子(エーテル)が集まり始め、数瞬の後に人型を取る。

 ライダーだ。

 

 つまりは、そういう事らしい。

 

 

「…昼飯まだだよな?作ってあるぞ」

「ありがとう、ございます」

 

 一言お礼のみを述べて桜は屋敷へ上がるとヨタヨタフラフラと居間に向けてゆっくり歩みを進めていった。

 

「大丈夫ですか桜、確り」

 

 どの口が言ってんだとツッコミたくなる様な台詞を吐きながらライダーが桜の肩を支える。

 

 

 そして桜はライダーに触られた瞬間、その手に思いっきり噛み付いた。

 

「あいたぁーーー!?」

 

 予想外にして容赦の無い攻撃を喰らったライダーは英雄らしからぬ素っ頓狂な悲鳴を上げて手を引っ込める。

 対する桜は肩を怒らせながら「フシャーッ」と怯えた猫の如く自身のサーヴァントを威嚇していた。

 

 こんな桜、初めて見るぞ。

 きっと遠坂だって見た事無いに違いない。

 一体何をやらかしてきたんだライダー。

 

「さ、桜。一旦落ち着け。な?」

「フーッ、フーッ」

 

 別段喧嘩に発展しそうで不味いという空気でもないが、それはそれとして放置はアカンだろうと桜に落ち着くよう呼び掛ける。

 そして肩に手を置いて軽く押しながら居間へ連れて行く、ライダーは後ろから心做しかしょんぼりした様子で付いて来た。

 

 

 

 

 

 

 

そして約30分後。

 

「御馳走様でした先輩」

「御馳走様でした」

「はい、御粗末様」

 

 温め直した昼飯を二人に振る舞い、今は食器を片付けている。

 普段なら桜が並んで一緒に皿洗いをしてくれるのだが、今は少しでも距離を取りたいのだろう、ライダーが自分の分の食器を持って台所へ入ってくると素早く脇を抜けて再び居間の机に座ってしまった。

 ライダーも桜の向かい側に正座する。

 未だに肩を怒らせ対面の存在の一挙手一投足を見逃すまいと警戒している桜とは裏腹に、ライダーは肩を縮こませて桜から目を逸らしている。

 眼帯しているから判らないが、多分情けない表情になっているんじゃなかろうか。

 

 

「……………サクラ………あの、そろそろ怒気を鎮めて頂けると助かるのですが」

「どの口が言ってるのよこの無礼者」

「ぐ…虚数属性のせいですか…怒りの感情が物理的な圧になって襲ってきますよ」

 

 そうぼやきながらライダーは溜め息を吐く。

 

 

「そんな…お風呂にお邪魔したりベッドに押し倒そうとしたくらいで」

「いやそれは駄目だろ!」

 

 皿とスポンジを持ったまま勢いよくツッコんでしまった。

 普通に犯罪行為だった、何やってんだこの変温動物。

 

「ライダーおま…いや…ええ…?」

 

 だが説教と云うか注意と云うか、続く言葉が出てこなかった。

 本当にライダー、お前どうした。

 初めて会った時から桜の事を大切に想っているのは見ていて判ったが、今のこいつはもう、ベクトルがおかしい方向を向いてる気がする。

 つーか、あれだ、周りへの気遣いがほぼほぼ無くなっている。

 

「……何があったんだよ」

「午前中にも似た様な事を述べましたが、色々と開き直ったのですよ。この戦争中、桜とその周りの事に関してはもう我慢しないと決めたのです」

「貴女の場合、開き直ったじゃなくて曝け出したの方が正確な気がするんだけど」

 

 険しい顔で皮肉とも文句ともつかない言葉を溢す桜。

 そんな桜にライダーは向き直り─────次の瞬間とーん、と机を軽く飛び越えて桜の直ぐ近くに降り立った。

 

 ビクゥッ!と全身を跳ねさせた桜は直ぐ様距離を取ろうと───立ち上がる前にライダーが桜の両手を掴んで畳の上に押し倒した。

 

 

 何の脈絡もなくっ、直球で襲いに行った…!

 

 

「原始人か!!」

 

 我ながら中々の暴言が飛び出たなと頭の片隅で思いながら直ぐ様二人を引き離そうと駆け寄る。

 

「ぃ……っ、やあああ!もう…もーーー!!」

「こらライダー!やめろって!桜本気で嫌がってるぞ!」

 

 子供の癇癪の様に全力で怒声を上げながらジタバタ抵抗する桜。

 どう見ても本気の本気で嫌がっている、いい加減にしろと怒りと嫌悪感を爆発させている。

 普段大人しくて我慢強い後輩をここまでの有り様にしているライダーの所業に流石に俺も義憤を覚える、マジで何してんだライダー。

 だがサーヴァントを力付くで退かすなんて事が半人前魔術師の俺に出来る筈も無く、ライダーの肩と腕を掴むも押す事も引く事も出来ずに居た。

 

 そうこうしている内にライダーが桜に顔を近付ける。

 桜も押し倒されたまま顔を逸らさず真っ直ぐに自身の使い魔を睨み付け、お互いに至近距離で見詰め合う形に。

 片方は眼帯しているが。

 

 

「サクラ」

 

 相も変わらぬ、低く澄んだ美声。

 

「私は昨夜伝えた筈です」

「っ…だから、そんな簡単に返事は───」

「そちらではありません。もう一つの方…───私は、貴女の現状に納得いっていないと」

 

 

 桜が目を見開く。

 抵抗の動きは何時の間にか止まっていた。

 

「…今更、そんな事言わないでよ…私の事、守ってくれるって言った癖に」

「ええ、守り抜きます。この身は貴女の守護者(サーヴァント)ですから。その誓いを違えるつもりはありません…ですが、だからこそ、貴女の事を考えれば考える程…傍に居れば居る程…苛立ちが増していく」

 

 ギリィ、と音が鳴ると同時にライダーの手の握りがキツくなった。

 手首を掴まれている桜は僅かに顔を顰める。

 

「貴女の才能(ちから)も、我慢強さも、責任感も、慈愛に満ちた心根も……貴女の強さを構成する全てが気に食わない。そんな不要なモノが在るせいで貴女にどんどん傷が増えてゆく」

「不要、なんかじゃ」

「不要ですよ。不要に決まっています。少なくとも私はそう信じてやまない」

 

 芯の通った声色。

 ぶれる事のない一念が総身に宿っている。

 ライダーは片手の拘束を外し桜の頬を撫でる。

 

「サクラ…全て、全て捨ててください。大丈夫、私が居ます。ずっと…ずっと傍に。貴女を傷付けようとするモノ、貴女の幸せを奪おうとするモノ、この世の全ての悪を殺し尽くして、貴女を護り通しましょう。捨てた分だけ、私が貴女に与える。捨てたモノの事すら忘れてしまう程の幸福(快楽)を…その身の隅々まで、私の愛で満たして差し上げます」

 

 

 

 愛情。

 激烈な迄の、愛情。

 酷く熱く、だが根っ子は冷え込み、ドロドロとしていながら、芯は刺す程に透き通っている。

 

 ライダーは、只管に桜を想っていた。

 

 そんなとんでもないモノをぶつけられた桜は───困っていた。

 表情は変わらず顰められたままだが、僅かに目尻が下がり()()()()()、頬も普段との差異がハッキリと判るくらいには紅く染まっていた。

 

 脈有りだ。

 

 誰がどう見たってそう判断出来る、乙女の顔だった。

 

 

 

「嫌です」

 

 

 そんな自身の内に確かに萌える想いを認識しながらも、桜はライダーを拒絶した。

 捨てる事は、断じて出来ないと。

 

 数秒の沈黙の後、ライダーは何も言わずスッ、と立ち上がりあっさり桜の上から退()いた。

 

「諦めませんよ───貴女が傷付けば同じだけ傷付く者が、少なくとも此処に一人居るのだという事を、忘れないでください」

 

 それだけ言い残すとライダーは霊体化し消えてしまった。

 残された俺も、俺以上に桜も、呆然と座り込む事しか出来ないでいる。

 暫くしてポツリと、俺は言葉を溢す。

 

「ライダー……ガチだなあれ」

「……そうですね」

 

 単純に、それだけが俺の感想だった。

 ライダーが桜の内に何を見ているのか分からないが、ただ只管に桜が大事で、真剣にその幸福を願っているのだと。

 桜もそれを解っているから、拒絶はしても突き放す事をしないでいる。

 

「…部屋、暑くないですか先輩」

「頬っぺた紅いぞ桜」

 

 俺が指摘すると桜は自分の頬に両手を当て、そのまま顔を隠すと恥ずかしそうに俯いてしまう。

 可愛い。

 

「…何で、あんなにも…私の事想ってくれるんでしょうか」

「さぁ…そればっかりはライダーに聞かないと判らないけど…少なくとも桜は基本人に好かれる娘だよ。俺だってそうだ」

 

 正直な気持ちを告げた俺を桜が見上げてくる。

 あ、ヤバイ、ミスったか。

 

「っと、悪い、気持ち悪かったな」

「いっ、いいいえ!いえ!………ぁぅぅ

 

 蚊の鳴く様な呻きと共に再び俯いてしまう桜。

 なんかもうとっくにキャパオーバーって感じで。

 現在は聖杯戦争に備えた休息時間の筈なのに自身のサーヴァントのせいでどんどん消耗していくと云うのも本当におかしな話だ。

 メドゥーサめ、昨夜の大暴走と云い、反英雄の面目躍如だぞこりゃ───なんて実に皮肉めいた事を思ってしまう。

 在り来たりでも、兎に角フォローせねばなるまい。

 

「ごめん、こんな事しか言えないけど…取り敢えず、焦る必要は無いさ桜。少しずつ、少しずつで良い。自分の中の正直な気持ちを探し出して、ライダーの気持ちにどう応えるかを考えるんだ」

「…いえ…もう返答は決まってるんです…さっきと同じ…でも、ライダーは絶対に納得してくれないんです」

「だからこそだ。納得して貰える様に、より素直な言葉で、言葉だけじゃ無理なら行動で。桜は優しくて、何でも受け容れちゃうからさ。それは間違いなく桜の長所だけど、時には思いっきり拒絶してやるのも大切で重要な事だと俺は思う」

「私、そんな聖人君子じゃないです。嫌な事は、嫌ってハッキリ言いますよ?」

「そりゃそうだけど、桜はそうやって拒絶する時も、拒絶された相手の痛みとか悲しみとか、余さず感じ取って背負っちゃうだろ。そういうの、見てて結構分かるもんなんだ。根っ子の人の善さがどうしようもなく滲み出てて、分かっちまうから、皆桜の事が放っとけなくて、見てる内に好きになっちゃうんだ、きっと」

 

 

 ─────ああ、そうか。

 自分の中で考えを整理しながら喋っている内に、気付いた。

 

 

「うん、きっとそうだ。ライダーもそうなんだよ。桜の尊さを知ったから、キツい事ばっかり背負うんじゃなくて、もっと我が儘になって欲しいんじゃないかな」

「…私は、充分我が儘です。先輩のお家に通って来たのも、姉さんと仲良くしたいのも…」

「足りてないんだよ、我が儘度がさ。そんな細やかなもので満足してたら人生損だ」

 

 そう言って笑いかけてやる。

 うーむ、何だかなぁ。

 

「なーんか喋ってる内にライダー側になりそうな気分だ」

「ま、ちょ、先輩!!」

「いやだってさ…うん、桜はもっと我が儘言うべきだ。良い娘過ぎるのは逆に痛々しい」

「本当に勘弁してください先輩…!只でさえライダー制御不能なのにブレーキ役が減ったらもう…!」

 

 本気で縋る様な目を向けてくる桜の姿に何等かの衝動が湧いてくるのを感じる。

 いかん、確りしろ、俺は先輩だ、後輩の信頼を裏切るな。

 

「まぁ、兎に角あんまり気負うなよ桜。大丈夫だ、自分でも言ってただろ?一人じゃないって。遠坂が居る、ライダーが居る、セイバーが居る、キャスターが居る、勿論俺だって。欲張って背負い過ぎるなよ、それぞれの荷物を少しずつ背負って手を引っ張り合いながら進むのが仲間ってやつだ」

 

 

 少々臭過ぎるだろうか。

 でも本当にそういうもんだと思う。

 人間何事も抱えられる量には限度がある、幸福も悲しみも欲張り過ぎた奴は潰れるもんだ。

 

「……ありがとうございます、先輩」

「これくらい気にするな。なんたって俺は先輩だからな」

 

 そう言うと桜はくすりと笑ってくれて。

 ───うん、皆この笑顔を見たくて頑張ってるんだ。

 

 

「じゃあ私そろそろ荷解きしてきますね」

「ああ、俺も手伝った方が良いか?」

「いえ、先輩は家事の途中ですよね?自分の事優先してください」

「んー、でも家事を済ますなんて家主として当然の事だしな」

「もう…先輩、そんなに女の子の荷物が気になります?」

 

 そう言って困った様に、されど此方をからかう意図が有り有りと感じられる愛嬌の在る笑み。

 うわ───駄目だな、そんな顔されたら、色々不味い。

 

「…すまん、デリカシーが無かった」

「ふふ、割と何時もの事じゃないですか。気にしてませんよ~」

 

 そう言い残して桜は居間から出ていった。

 そうだよ、そう言えば桜はああいう奴だった。

 意外とお茶目と云うか悪戯好きと云うか。

 (からか)いが成功して気分が良いのか、随分と軽やかな足取りで跳ねていく桜を見て苦笑が漏れる。

 ま、こういうやり取りもケアの内かね。

 そんな感じに独り()ち、さあ家事を再開しようと腰を上げて、ふと思った。

 そう言えば桜、手ぶらだったが荷物はどうしたのだろうか。

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 私は自室として宛がわれた先輩の御屋敷の一室に入るとぶわりと()()()()()()()()

 部屋の床面積の半分程まで広がった影の中からヌヌヌ、と荷物を浮上させた。

 

 

 虚数世界。

 私達が生きて存在する実数世界とは反対の位相に在る世界。

 存在する物質の質量が全て虚数であり、時間が未来から過去に向かって流れるという、何もかもが真逆の場所。

 そんな時空間の一部を私の領域として支配(占有)し出入り口を創る事で、某21世紀の猫型ロボットが有する四次元ポケットみたいな事が出来る。

 これ本当に便利なんですよね、今回みたいに大量の荷物を運ぶ時とか最高です。

 

 とは云え、何でもかんでもほいほい入れられる訳ではなく。

 先に述べた様に虚数世界は実数世界とは世界の法則自体が全く異なっているので、そんな場所に実数側の物体を無造作に突っ込んだら法則(ルール)の違いによる歪みで存在が保てなくなり意味消失を起こしてしまう。

 昔お気に入りの人形を入れておいたら何時の間にか跡形も無く消えてしまっていて泣いた事や、初めて出入り口を創れた際に嬉しさのあまり何の準備も無く飛び込んで普通に死にかけたりした事がありました。

 

 私の様な虚数属性使いは虚数世界への干渉(アクセス)権を持った潜航者(ダイバー)と言われていますが、飽く迄魔術回路の属性が虚数というだけで肉体等は普通に実数側の人間(存在)()()()()へお邪魔する事が出来てもお邪魔した後無事で居られるかどうかは別の話。

 人は息を止めて一時的に水中に潜る事が出来ても、その間は呼吸をする事が出来ないのと同じ事。

 人が宇宙や深海を冒険出来るのは最新技術による宇宙服や潜水服で確り身を固めているからに他ならない、生身で突入したらそりゃ死にます。

 

 なので虚数ポケットへ物を入れる時は先ず虚数の法則(テクスチャ)を物に張り付け、ですがそれのみだと虚数時間法則によって物の時間が巻き戻ってしまい実数世界側へ戻した際に経過した時間の積み重ねの矛盾によって結局意味消失してしまうので、その物の時間概念を観測宇宙から記録宇宙のモノへと一時的に変更して時間の流れに囚われない存在へと切り替えてから収納しているのです。

 

 そんな感じで、安全に運用する為には滅茶苦茶手間隙を掛けねばならず、微妙に融通が利き辛いのが虚数属性と云うものでして。

 この属性の魔術研究が現代に至ってもイマイチ進んでいないのは、そう云った危険性による所も大きい、これは封印指定も納得です。

 まぁ一見便利な物の様でも、その実利便性を保つ為には物凄く繊細な技術が必要となるのはどんな物でも同じ事ですが。

 

 ─────そんな慎重さと確実性が求められる危険な作業の最中だったと云うのに、ライダーは只管ちょっかい掛けて(襲い掛かって)きて…全くもう!

 魔術の行使と荷解きを始めたからか、間桐邸でのあれこれを連想して(思い出して)しまい、怒りと───羞恥(喜悦)が再燃する。

 

「…本当に………何でなのかなぁー…」

 

 ぼふっ、と目の前に積まれた私服の山に顔を(うず)めながらそう漏らす、柔軟剤の良い香りが鼻腔に広がり、湯だった頭を多少は鎮めてくれた。

 

 ライダー・メドゥーサ。

 ギリシア神話の女神が一柱。

 何故彼女は、あれ程迄に自身を想ってくれるのか。

 

 気持ちは嬉しい、嬉しいに決まってる。

 でも困る。

 だって、だって、まだ出会って三日目なんですよ?

 それで何であそこまでいくのか、戸惑いが心も体も鈍らせる。

 

 取り敢えず、ふぅぅぅ、と深呼吸。

 記憶を整理してみる事に。

 

 

(そういえば、一目惚れって告白されたっけ)

 

 昨夜の会話を思い出す。

 外見がドストライクとか言ってた。

 顔立ちとか髪とか褒められて、あとスタイルが最高とか、滅茶苦茶力説してた。

 

 そこに関しては異論は無い。

 いや、ライダーのあれはちょっとあれだったが、(間桐桜)が美少女だというのは間違いない。

 何故なら私はお父様とお母様の娘で、遠坂凛の妹なのだから。

 そんな私が可愛くない訳が無い、客観的に見て私の容姿が優れていると云うのは紛れもない事実です、そこは謙遜しません。

 

 だからこそ、解らない。

 

(内面も外面も含んだサクラの全てを好いている───か)

 

 誠実で丁寧な心優しい在り方。

 魔術の腕も立つ理想のマスター像。

 外見だけで好きになった訳じゃないと、彼女は何度か宣言してくれた。

 

 いっそ見た目だけに対しての好意だったら解りやすかったのに。

 そうじゃないと言われてしまっては途端に意味が解らなくなる、対応に困ってしまう。

 

 私はそんな大層な人間じゃないんだ。

 

 

(これ迄何度も何度も、失敗してきた)

 

 お爺様を殺めた事。

 先輩が魔術師だと見抜けなかった事。

 先輩の死───実際は生きていたけど───に動揺して錯乱し、ライダーに暴言を吐いた事。

 それが原因で意識を奪われた際に私の過去をライダーに知られ、彼女の暴走を招いた事。

 

 聖杯戦争が始まる前からも、始まってからも、私は至らない事ばかり。

 

 本当に私が優秀な魔術師なら、お爺様が死ぬ事はなかった、先輩の秘密を見抜けていた。

 本当に私が誠実な人間なら、魔道に背を向けて遠坂へ逃げ帰ろうとしなかった、先輩に嘘を吐いてまで屋敷に入り浸ったりしなかった、不干渉の条約を破って姉さんと交流したりしなかった。

 本当に私が優しい心の持ち主なら───ライダーが暴走する事はなかった───キャスターさんも、セイバーさんも、先輩も、姉さんも、誰も傷付く事はなかった。

 

 何もかもが、未熟に過ぎる。

 先輩もライダーも、誰も彼も、私を買い被り過ぎているんだ。

 どうしてこんな私を好いてくれ等とほざけるだろうか。

 

 

『その未熟さがまた良いのです』

「そういえばそんな事も言ってた…」

 

 

 思い出した。

 んでもって無垢な花を手折り好みの姿に生けるとか、なんかそんな感じの事言ってた。

 

 思い出した。

 思い出して、体が震える。

 え、何?要するに調教しがいがあるって言いたいのライダー?そういう意味で全部捨てろとか言ってきてるの?

 

 一つ思い出せば連鎖的に思い出す。

 

『貴女のこの可憐な身の隅々まで快楽で()たし、下らぬ(しがらみ)も何もかも…(とか)して差し上げます』

『捨てた分だけ、私が貴女に与える。捨てたモノの事すら忘れてしまう程の幸福(快楽)を…』

 

 

 思わず頭を抱えた。

 

 これ迄の言動から既に判っていた事ではあるけれど。

 ライダー、彼女はSかMかで云ったら間違いなくSだ、もうバリタチです。

 …召喚当初の控え目で相手の主張に合わせる姿勢も彼女の一面の筈だ、多分一辺倒ではなく逆もこなせるタイプだとは思う、けど…。

 ついでに述べるなら彼女は伝承にてポセイドンとも関係を持っている(愛を結んでいる)、本人も認めていたがビアン寄りのバイセクシャルだ、ありとあらゆる面で両刀とか半端無い、厨ポケも真っ青です。

 流石はギリシャ系列の女神と云った所か、一度懸想した相手に対する執着は群を抜いています、その()が愛情でも憎悪でも。

 

 考えれば考える程頭が重くなる様な気分。

 ヤバイ、怖い、怖過ぎる。

 

 でも感じるのは恐怖のみならず。

 胸の内に芽生える甘く淡い熱も確かに感じていて。

 

 それでも、それだけで、彼女の全てを受け入れられる程に、私はお気楽でも包容力がある訳でもない。

 ─────いや、そもそもそれ以前に。

 

 

「私、そんな簡単にまっさらになれる女じゃないんだよライダー」

 

 この身は既に穢れ切っている、間桐の色に染まり切っている。

 無論、私はそれに嫌悪を懐いてはいない。

 この穢れこそが神秘を求め、獲続けた、軌跡の(あと)にして、間桐を背負った魔術師としての誇り。

 十一年間、絶え間無く積み上げてきた私の一部なんだ、捨てる事は出来ないし、捨てたくない。

 どれだけ漂白剤で洗い流そうと、最早決して落ちる事の無い頑固な汚れ。

 ごめんねライダー、酷い言い方だけど、高々三日前に知り合ったばかりの他人にどうこう出来る代物じゃないんですよこれは。

 

 

「我が儘だなぁ」

 

 ポツリと、呟く。

 我ながら、呆れた頑固さ、我の強さ。

 それ等でずっと踏ん張って来た。

 

「我が儘、なんですよ?」

 

 再度、まるで確認するかの様に呟く。

 今それに応える人は勿論居ないけど。

 

 

 

 ───────そう。

 

 私は、我が儘なんだ。

 

 魔道を歩み続けるのは、義務でも何でもなく、ただ姉さんに褒めて欲しいと云うのがなによりの理由で。

 一度はそれすらも捨てて家族の元に逃げ帰ろうとして。

 柳洞寺で無理を言って養蜂をさせて貰っているのも。

 神秘の秘匿を第一とする魔術師の癖に学校で友人を大勢作っているのも。

 不可侵の条約なんて知らないとばかりに姉さんと仲良くしているのも。

 家事を教えて欲しいなんて理由で先輩の御屋敷に三年も通い詰めているのも。

 

 姉さんを愛しているのも。

 先輩に恋しているのも。

 想いに応えられない癖に───それでもライダーに傍に居て欲しいと思うのも。

 

 全部、全部全部全部。

 恥知らずで、身勝手な、私。

 

 

 

『何故貴女は自分一人で苦痛を背負おうとするのですか!』

『貴女が傷付けば同じだけ傷付く者が居る』

 

 ライダー。

 

 

『変に気を遣う必要無いの。そんな風に気負ってたらこの先の人生色々保たないでしょうに』

『何でもかんでも自責に転嫁するのはやめなさい』

 

 姉さん。

 

 

『お前は何でいっつもそうやって自分のせいにするんだ。お前が悪いなんて、周りの奴は誰一人思っちゃいない』

『キツい事ばっかり背負うんじゃなくて、もっと我が儘になって欲しいんじゃないかな』

 

 先輩。

 

 

 皆、そう言ってくれた。

 我慢ばかりするなと。

 もっと我が儘になれと。

 

 周りの人、皆が皆こう言うんだ、端から見て私はさぞかし健気で可哀想な女の子に映るのでしょう。

 でもやっぱりそれは違うと私は思う。

 魔術の基本は等価交換、端から見れば傷付いてばかりに見えたとしても、私は傷付いたのと同じ分だけ確かに得ているものがある。

 寧ろ得てばかりだ、失ったものなんて何も無い───奪ったものなら山程だけど。

 それに見合うだけのものを私は未だ差し出せていなくて。

 だからこれは我慢じゃなくて、当然の代価で。

 至らない私がより先に進む為の糧としなければならないもので。

 

 

 

 我が儘になれと云うのなら─────そう。

 幸福も愛情も、償いも贖いも─────『大切なものを全部抱えていたい』と云うのが、私の我が儘だ。

 

 

 

「重っった…」

 

 既に何度も思ったけど、我ながら本当に…。

 でもこの重みに、しんどさに嬉しさを感じているのは確かなんです。

 突き刺さる痛みと伸し掛かる苦しみのお陰で、私は確かに生きて前に進めているのだと陶酔する事が出来る。

 

 嗚呼。

 ライダーの言う通り。

 私はどうしようもなく、誤魔化しようもなく、マゾヒストなんだ。

 そりゃライダーのアプローチにドキドキする筈です、滅茶苦茶相性良いんだ私達。

 まさかとは思いますが縁で召喚出来たのってそういう要素も絡んでるんでしょうか?聖杯は仲人だった?余計なお世話過ぎますよこの野郎。

 

 

「欲張って背負い過ぎるな」

 

 さっき先輩に言われた言葉。

 

「もっと我が儘を言うべきだ」

 

 これも。

 

 我が儘になれと言う癖に、背負うなと言う。

 私にとって、それは余りにも矛盾した難解な言葉なんですよ先輩。

 それを矛盾でなくせるのは、きっとライダーの言う通り、魔術師としての私を全て捨て去った時だけだ。

 

「凄いなライダー…」

 

 彼女が度々口にする口説き文句は、私の性質を完璧に理解しているが故のものだったんだ。

 三日前に知り合ったばかりの他人?

 とんでもない、ライダーはその三日で私の本質をとことん見抜いているじゃないか。

 

 そっと両手を胸に当てる。

 心臓の鼓動が普段より大きくなっている。

 次いで頬。

 やっぱり普段より熱くなっている。

 

「好きになっちゃったな」

 

 意外な程簡単に、素直な肯定の言葉が出る。

 もうライダーは私の中で先輩と姉さんに次ぐ程に大事な存在になっている。

 え?いや同列ではありませんよ?あの御二人は私の中で完全にカテゴリーが別枠なので。

 まぁ、兎に角、好きだ。

 

 ゴロン、と荷解き作業を一旦止めて床に仰向けに寝転がる。

 はぁ、色々考え過ぎてるなぁ、現実逃避したってしょうがないんだから仕方無いけど。

 

 ふと顔を横に向ける。

 そこには、多分今後必要になるだろうと家から持ってきた物───眼鏡が転がっていた。

 

「考えてばかりいてもしょうがない、か」

 

 再び起き上がって、荷解き再開。

 じっと頭で悩んでばかりいてもどうしようもない。

 取り敢えず、保留。

 明日。

 明日、勝負に出よう。

 丁度用事も有るし。

 

 一人静かに決意を固めて、私は只管手を動かすのでした。




そんな感じの後半でした。

ライダーさんはもうガッチガチのガチで桜ちゃん狙いにいってますし、なんか桜ちゃんも満更じゃなくなってきてるし…やっぱ、こう…重てぇ百合を…最高やな!


ライダーさんの第一目標は20話のラストの通り桜ちゃんをパンピーにする事ですが、余裕があれば自分も受肉して一生桜ちゃん捕まえときたいとか考えてます。
桜ちゃんこれ優勝したらアカンのとちゃうか…()


虚数に関しては相変わらずの捏造設定。
事件簿で虚数属性の魔術師はアクセス権を持ったダイバーとか虚数空間は次元ポケットで入れたものは時間にも空間にも囚われないよ的な事書かれてたらしいですが、幾ら属性が虚数でもそんなほいほいノーリスクで色々出来たら苦労しねーよな、そもそも魔術っつー概念自体リスクの塊だしな、と思ったんでこうなりました。
FGOでもあれ、ゼロセイルの危険性が述べられてますからね。潜る時も浮上する時も死ぬ可能性あるとかやってられませんよ。

因みに桜ちゃんが説明してた収納方、あれ空間自体の時間概念を記録宇宙のモノへと切り替えるという手っ取り早い手法も有りますが、空間そのものの法則に干渉するという規模の大きさ故にかなり燃費が悪いので、よっぽどの大荷物でなければ本編での手法を桜ちゃんは採ります。


ついでの比較。

上述の危険性故に、桜ちゃんは対ヘラクレス戦で十小節の呪文を長々と詠唱して虚数世界に士郎君とライダーさんと一緒に逃げ込みました。

ですがキャスターは一瞬で展開して士郎君と凛ちゃんを宝具から守っています。

その辺から二人の練度の違いを感じ取っていただけたら嬉しい。



なんかもうマジ皆に好き勝手喋らせてると全然話進まねぇな!!のんびりでええんやで、と仰ってくださる方、また次回もよろしくお願いします。
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