Fate/SAKURA   作:アマデス

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明けましておめでとうございます。

ほんとはお正月の0時きっかりに投稿して二日連続更新にするつもりでしたが全然無理でした()。

今年もこんな感じのクソ蟲更新でしょうが、見捨てず読んでいただけると嬉しいです。


【突発番外編】桜ちゃんのいく虚数海part2

「きゃああっ!」

 

 突如鳴り響いた警報、それに加えて間髪入れずに来襲した衝撃。

 マスターのお墨付きで安全だと断じられたクルージングの最中に起きた不測の事態に思わずアビゲイルは悲鳴を上げてしまう。

 桜は咄嗟にアビゲイルとマシュを護るよう抱き締めた。

 

「今度は何だ!?」

『複数の方角から本艦に小型の物体が()つかって来ている模様ー。打撃か投擲かは判別出来ませんが、これは本艦に対する明確な攻撃と見受けられますー』

「攻撃…!」

「障害物の次は、外敵ですか」

「フラグって怖いですねーほんと」

 

 キャプテンとプロフェッサーの会話を聞いたキアラとBBが呑気にそんな事を口走るが、その表情には然程余裕が無い。

 その傍らにて、桜も泣きそうな表情になりながら喚き出す。

 

「え何っ!?何ですかこれ!?ちょ、まさか本当にティアマト(お母さん)!?」

『いえー、彼の原初の女神程に強大な魔力反応は在りませんー。飽く迄今襲撃して来ているのは小が、た……………』

「…?おい!どうしたプロフェッサー!?」

『……すみませーん。たった今感知しました。小型の群れに交じって、一つでっかい反応が近付いて来てますねー』

「何だって!?」

「でかいって、()れくらいですか!」

『本艦と同等くらいですねーこれは』

 

 複数の小型と一体の大物。

 まるで群れが待ち伏せを行い、射程圏内に入った獲物に一斉に襲い掛かってきたかの様なこの状況。

 予想外にしていきなり過ぎる事態に桜は一瞬パニックになりかける…が、それは飽く迄一瞬。

 自分の腕の中に居る子供二人を見て、直ぐ様行動を開始する。

 

「プロフェッサーさん、その小型達と大型が連携している様な素振りはありますか?」

『んー…いえー、断言は出来ませんが、それぞれの動きに法則性は見られません。特に協力している訳ではないかとー』

「では、大型の内包魔力量は?」

『中々のものですが、竜種程ではありませんー。周囲の状況や地形を考慮に入れなければサーヴァント一騎でも対応可能、二騎以上なら高確率で撃破可能かとー』

「───成る程、要するに大して焦る必要は無いと」

「きゃ!?」

「わっ!」

「おっと」

 

 プロフェッサーとの会話を終え、一転、冷静になった桜はマシュとアビゲイルをキアラに押し付ける。

 

「キャプテンさん。本艦の指揮権を一時貴方へ返却します。私、ちょっと外に出てきますね」

「は!?ちょっと待て何言って…いや何する気だ!?」

「無論、戦って来るんですよ。BBちゃん、いざという時は皆さんの事、よろしくお願いしますね」

「いやいやいや待て、待って!!本気で何言ってるんだ桜!まるで一人で出撃するって言ってる様に聞こえるぞ!?」

「そう言ってますからね。大丈夫ですよ、伊達に修羅場は潜ってきてませんし───虚数世界( ここ )は私にとってホームグラウンド同然ですから!」

 

 そう言うや否や桜は自身の足下に影を展開し、するっとその中に入って(沈んで)いった。

 

 唖然とする一同。

 

 

「…普通私と役割が逆ですよね?」

「全くだよ!!」

 

 

 マスターの自覚が有るのか彼奴(あいつ)は!───BBの呟きにそうやって吼える事しかキャプテン・ネモは出来なかった。

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 所変わって、艦外。

 ノーチラス号の甲板に突如染みの様なマンホール程の大きさの影が広がり、そこから桜が上がって来た。

 

 桜は即座に敵の位置、数、特徴、それ等と並行して周囲の状況───(もと)い虚数世界の()()を把握すべく、己の全ての感覚を広げる。

 

 

(何ですかこれ、水中?)

 

 そして直ぐ様その異常さに気付く。

 常の虚数世界とは観測不能の未明領域、暑くもなく寒くもなく何も感じない、文字通り虚空に放り出されたかの様な感覚を覚えるのが虚数の世界だ。

 

 だが、今の此処は違う。

 肌に纏わり付く様な、重く、それでいて柔い流動体の感触。

 明らかに水中のそれだ。

 幸い普通のそれとは違い呼吸は問題なく行えるのは、恐らく桜の虚数属性の恩恵だろう。

 

 

 そしてそんな『虹の海』に浮かぶ外敵達。

 

 青髭(ジル・ド・レェ)の使役する海魔によく似た、蛸の如き異形。

 鋏、甲羅等を有する蟹の様な節足動物に近いモノ。

 そして極め付けは顔が魚類の様に鰭と鱗に覆われた人型。

 

 如何にも、何処ぞの創作神話のモンスター達を彷彿とさせる連中だった。

 

 

(落とし子?)

 

 外なる神の眷属、或いは劣化個体。

 桜はそう当たりを付けるが…それにしては今一()が無いと云うか、端的に云って弱そうだった。

 劣化の劣化みたいなものか、取り敢えず桜はそう結論付けた。

 

 

「正直無駄かとは思いますが、一応───直ちに本艦への攻撃を止めてください。我々に対して何等かの要求が有るのならば、出来る限りの範囲で御応えします」

 

 何事も、先ずは話し合いから。

 桜は自身の心情、そして在り方に(のっと)り、受け入れる姿勢を示す。

 

 そんな 人間 (愚かな下等生物)に対する異形達の返答は、当然の如く殺意に満ちた兇撃だった。

 

 

 

 

「───返答は受け取りました。後悔なさい」

 

 

 

 

 四方八方から迫る触手、鋏腕、爪牙───それ等を桜は自身の足下から巻き上がらせた複数の影の触手(リボン)で瞬く間に斬り捨てた。

 

 影とは、明暗(光量)の差によって平面に生じる像、要は只の視覚現象であり、実際そこに何等かの物質が生まれる訳ではない。

 つまり厚さが全く無い───魔術によって実体化させた触手(リボン)であってもそれは同じ。

 そして物と物が接する際、接する面積が小さければ小さい程より大きな力が伝わると云うのは常識だ。

 平面に映る質量を持たない像故に厚みは一切無く、だが確かに実体を持って存在している───そんな限り無く(zero)に近い薄さの断面を持った(リボン)は恐ろしく切れ味の鋭い刃と化すのだ。

 そんじょそこらの雑魚エネミーがこれを喰らって無事でいられる道理は無い。

 

 十数体もの相手を一度に、操る武器どころか体ごと始末してしまった強者の存在に(おのの)き、異形達は動きを止める。

 桜はそんな取るに足らない雑魚達を無慈悲に一瞥する。

 

 そう、慈悲は無い。

 己の大切な人達(モノ)を害そうとする輩は、(たと)え相手が神だろうが桜にとって滅殺対象である。

 

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 馴染み深い呪文(言霊)を紡ぎ、桜は自身の掌中に弓を創り出す。

 士郎()のそれを参考に編み出した即席武器の作製法───無論、士郎()のそれとは全くの別物。

 固有結界由来でも何でもない、礼装のサポートを受けて自身のイメージを形にしているだけの、普通の投影魔術の延長線。

 勿論宝具の投影(コピー)なんて反則(チート)も出来ない。

 だが魔力さえ有ればその場で幾らでも望んだ形状の武器を用意出来ると云う利便性だけでも十二分に価値は有ると考え、桜はこの魔術を編み出した。

 …夫のそれとお揃いの呪文、似た様な戦闘法で隣に立ってみたい、なんて乙女心が理由の半分近いなんて事は、当然周囲にバレバレである。

 

 桜が弓の弦に指を添えると、そこに多量の魔力が集束し、光の束となった。

 

 

「千本桜」

 

 

 そして桜は言霊を乗せ、その束を解放する。

 文字通り、千本の桜色の矢が(弾幕)となって異形達に殺到した。

 夫と姉と、三人で世界を周り正義の味方活動をする中で編み出した数々の戦闘法、その一つ。

 数だけは無駄に多い相手を一掃する際、非常に便利な技である。

 光の矢───正しくビームと云って差し支えないそれの弾幕に曝された異形達は、尽く矢に貫かれ瞬く間に全滅。

 そして異形達を殲滅して尚勢いを失わない矢群達は後ろで控えていた鯨の様な大物の体に次々と突き刺さっていった。

 

『───────ッ!!』

 

 あっという間に形勢逆転されるどころか、そのまま自身を滅ぼしかねない猛攻───桜にとっては準備運動以下の作業だが───に曝された大型は死に物狂いで反撃───全身から青白いビームを発射した。

 身体中にある起点から射出し全方位を薙ぎ払うタイプのそれは九割以上が明後日の方角に消えていったが、残りの一割程はノーチラス号に直撃するコースを突き進んでくる。

 竜種の吐息(ドラゴンブレス)程ではないがそこそこの魔力を内包したそれが直撃しては損害は免れぬと判断し───まぁそうでなくとも敵の攻撃を防御するのは当然と云う事で。

 

 

桜威熾(さくらおどし)

 

 

 桜は再び言霊により魔術を、今度は防壁を構築する。

 瞬時に展開されたそれは、薄い桃色がかかった白色の魔力()で構成された五枚の壁───桜の花弁を模した盾。

 夫の有するロー・アイアス(最強の防御宝具)によく似たそれは、ノーチラス号全体を覆い隠す為に普段の十倍程の大きさで展開され、敵が放った苦し紛れのビーム攻撃を完璧に防ぎ切った。

 

 そしてそのままカウンターを放つ。

 

 桜威熾は防壁であると同時に()()でもある。

 BBがよく使うハート型ビームの如く、五枚の魔力壁(花弁)一枚一枚から極太の魔力光線(ビーム)が溢れ、大型エネミーを蹂躙した。

 桜───と凛と士郎───は現代の魔術師でありながら保有する火力は並のサーヴァントの比ではない、その気になれば対城宝具クラスの攻撃を連発可能なのである。

 そんな(火力お化け)の砲撃をまともな防御能力の無い高々数十メートル程度の体躯の魚が耐え切れる筈も無く。

 凄まじい爆音を立てて大型エネミーは文字通り粉々になった。

 

 目と鼻の先で崩壊、散り散りになっていく敵を見届け、桜は残心。

 生来の眼の良さと魔力探知で周囲を警戒───残敵が居ない事を確認してほっと息を吐いた。

 

「状況終了、と…」

 

 

          ∵∵∵

 

 

 艦内から窓越しに戦闘の一部始終を見ていたネモがぽつりと漏らす。

 

「彼奴絶対現代人じゃないよね?」

 

 

 いや、間違いなく現代の人間です。

 …そう口に出来なかったのは、この場に居る全員が(かつ)て全く同じ所感を抱いた事があるからだった。

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

「………色々言いたい事は有るけど、取り敢えずお疲れ様。無事で何よりだよ」

 

 艦内の司令室に帰投した桜を待っていたのは実に不機嫌そうな表情と声色のキャプテン・ネモだった。

 思わず頬を引き攣らせ半歩後退(あとずさ)る桜にアビゲイルが右側面からタックルをかます。

 

「桜さんの馬鹿!心配したんだから!」

「そうですよ!マスターである貴女がサーヴァントを伴わずに単独で出撃なんて…危険過ぎます!万が一があったらどうするんですか!」

 

 本当に心の底から心配したのだろう、今にも泣きそうな顔で此方を非難してくるアビゲイルとマシュを見て、桜は困り果ててしまう。

 

「い、いやだって…虚数世界で自由に活動出来るのは私とBBちゃんだけだし…いざという時の為にどっちか片方は艦に残っておかなきゃいけないと思ったし…」

「でしたら普通私と役割が逆じゃありませんかー?マシュさんが云う様に万が一があった時、サーヴァントである私は兎も角マスターである貴女は取り返しがつかないと思うんですけど?」

「右に同じくですわ。未知の敵勢力(見た事の無いエネミー)に加えて、今の虚数世界は何等かの異常が起こっているのでしょう?幾ら虚数使いの桜さんと云えども予想外な悪影響が出る可能性は充分に有り得ます。迂闊な行動は控えていただかないと」

 

 

 ぐうの音も出ない程の正論に打ちのめされ、桜はすっかり小さくなってしまった。

 そんな桜の様子を見て、(まなじり)を吊り上げていたキャプテンは溜め息を吐くと幾分か表情を和らげる。

 

「…言いたかった事は大体言われてしまったが、こんな事はほんとこれっきりにしてくれよ。夫婦共々一人で突っ走る癖があるのはもう嫌って程解ってるけど、今回は何時もと訳が違うんだ。(ふね)の中と云う逃げ場の無い密閉空間で誰か一人でも身勝手な行動をとればあっという間に不和が全体に広がるんだ。特にそれが司令官(あたま)だった場合ね。───即ち、それは(全滅)だ。今後はそれを確り念頭に置いておいてくれ」

「はい…」

 

 完全にしょぼくれてしまった桜。

 美人のそういう姿を見てしまうと、間違いなく自分が正しい事を言っているのに何と無く罪悪感を抱いてしまうのが常人の感性と云うもので。

 だがこのままでは話が進まないと、敢えてその罪悪感を無視しキャプテンは喋り続ける。

 

 

「───で、だ。これからどう動くべきかな、僕等は」

 

 そう言ってキャプテンは司令官(あたま)に指示を仰ぐ。

 桜はふむ、と呟いて考える仕草を見せると、数秒も経たない内に言葉を発した。

 

「皆さんは、どうするべきだと思いますか?」

 

 一先ず、全員の意見を聞く、そしてそれ等を擦り合わせる。

 ディスカッション形式でいく事を決めた桜の言葉に、俯いて熟考に(ふけ)る者や周りの顔色を窺う者等、皆それぞれに思案を始めた。

 

 

「やはり…ここは一度、実数世界(カルデア)に戻るべきではないでしょうか?本来なら居る筈の無い生命体()に在る筈の無い地形(障害物)…明らかな異常事態です。それに、桜先輩の推測が正しければ、これ等は観測の収束…人為的なものである可能性が高いと…もしもこれが私達(カルデア)に対する悪意の下に行われた事なら、このまま虚数世界( ここ )に留まっているのは危険過ぎます」

「私もマシュさんと同意見です。やっぱり後輩属性同士気が合うんでしょうかね~」

 

 一番最初に意見を述べたのは、引っ込み思案な様で(意外と云えば意外)結構大胆な所のある(妥当と云えば妥当の)マシュだった。

 そして述べられた意見も実に常識的な判断(もの)、そこにBBも賛同する。

 

「今回の件が私達(カルデア)を狙ってのものにしろそうでないにしろ、一度(おか)で待ってる皆さんに伝えに行く必要があるのは間違いないでしょう。報連相は集団行動の基本なんですから」

「そうだね…一旦安全圏迄退いて、態勢を整えてから改めて調査する、っていうのが妥当な所だろう」

 

 兎に角、一旦退く。

 BBに続いてネモも賛同した安全第一の策に桜も内心で頷く。

 やはり同じ後輩属性だからか、マシュの意向は桜に合っていた。

 特にBBは───並行世界のとは云え───自分自身を元にして造られたAIなのだ、なんやかんやでその辺の、根っ子の思考回路は似ている。

 

 そんな感じでストレートに意見が纏りそうな雰囲気の中、一石を投じるのはやはりと云うかこの女。

 

 

「ふむ…成る程。確かに皆さんの言う通り、一時撤退がこの場合はベターなのでしょうが…それでは少々──────()()()()()のではありませんこと?」

 

 何を考えているのか読めない怪し気な、それでいて何処か無邪気にも感じる微笑みを浮かべて、魔性菩薩・殺生院キアラが言葉を発した。

 それを聞いたBBはうげ、と露骨に顔を顰める。

 

「はぁ~~やれやれ、これだから年中頭の中お花畑で発情期の、その癖いい歳して夢見がちな行き遅れ年増女は困るんですよね~~」

犯しますよ?

 

 

 ガチトーンだった。

 流石に言い過ぎだった。

 

 何時の間にか法衣から魔性菩薩としての衣装に変化したキアラが全く笑っていない笑顔でBBを直視する。

 なんやかんやで親密な関係であるが故に、あヤバイこれガチだ、と察した桜は慌てて二人の間に割り込む。

 

「はい駄目!喧嘩は駄目ですよ!ほらBBちゃん謝って。今のは普通に言い過ぎですよ」

「えー嫌ですー、何で私が───」

───謝りなさい

 

 

 ガチトーン、二回目。

 秩序を重んじ、相手が誰であろうと締める所は絶対に締めるカルデアのマスター、間桐桜の一言は文字通り()()

 逆らった場合、冗談抜きで地獄を味わわされるとルルハワ事件の際、骨の髄迄叩き込まれた…元い()()()()()()BBは素直に従う事を選択した。

 

「ハイゴメンナサイイイスギマシタモウシワケアリマセン」

「だ、そうですよキアラさん」

「…ふぅ…ええ、はい…申し訳ありません、此方も少々大人気無かったです。桜さんのお陰で溜飲も下がりましたし、此処は引きますわ」

「そうですね、今のはキアラさんの言い方も問題でしたよ?つまらないって何ですかつまらないって」

 

 両手を腰に当ててプンスコ、という効果音が聞こえてきそうな、何処か緩い態度でキアラと向き合う桜。

 何と無く対応の格差を感じてBBは面白くなかった。

 

「ふふ、其方(そちら)に関しても申し訳ありません。───ですが、桜さんもそう思いませんか?無難で常識的な安全策…確かに良案でしょうが、そんな山無し谷無しではドラマ性に欠けましょう?」

「リアルなんて往々にしてそんなものですよ。肩透かし喰らうしょうのないオチなんて日常茶飯事じゃないですか」

「ですが、貴女はそんな面白味の無い道とは真逆の道を歩み続けて来たからこそ、多くを得て、今此処に居るのでは?」

 

 

 するっと。

 流れる様に歩み寄ったキアラが、桜の左胸───心臓の上に手を当てる。

 そっと、指先だけで慎重に、慎重に。

 まるで砂で出来た芸術品に触れるかの如く。

 まるで相手を絶頂させ(イカせ)ない様にギリギリの所で焦らすかの如く。

 

 やがてその手は首を伝い、耳へ、そしてそこにかかる髪へ。

 長い長い、青みがかった長髪を自身の口元に持っていき、これまたそっと口付けた。

 

 桜とキアラの視線が絡み合う。

 互いに敵意は無い、だが全く剣呑さが無いかと云えばそうでもない、何処か妖しいやり取り。

 視て、触れて、()んで───睦み合いの如く(じゃ)れ付くキアラ。

 そんな実に愉し気な友人を桜はやれやれと云った具合に受け入れ続ける。

 

 

「…命の危険がある状況下で、周りを付き合わせたりはしませんよ」

「私は、構いませんよ…?貴女と涅槃(ねはん)に逝けるのなら、本望でございます」

「キアラさん貴女涅槃入り出来るつもりなんですか?」

「いいえ、全く。したくもありませんわ」

「ふふ、でしょうね」

 

 ()りにも()って、貴女が煩悩を捨てるなんて、ねぇ?

 そう嗤いながら桜はキアラの手を取る。

 指を一本ずつ相手の指の間に絡ませる、俗に云う恋人繋ぎで、やんわりと。

 媚びる様に、蕩けきった瞳を向けるも、それは一瞬だけ。

 ぐいっと桜はキアラの手を押し退ける。

 

 今此処では貴女の遊びに付き合えない、と。

 

 ふふ、残念、と欠片もそう思っていないだろう笑みを浮かべ、再度キアラは語り出す。

 

「既に何度か述べられましたが…此度のこれは人為的なものである可能性が高い…であれば、優先して考えるべきは誰が犯人かではなく、犯人の目的であると愚考致します」

「───炙り出す、と?」

 

 桜の問いに、我が意を得たりとキアラは笑みを深める。

 

「ええ、はい……皆さん、よく思い出してみてください。先程の襲撃…何だか、()()()()()()()()()()()?」

「?ぬるい?」

「ええ…仮に相手が本艦を、デミも含めてサーヴァント五騎と虚数属性使いのマスターを有する(ふね)を本気で沈めるつもりだったのなら、あの程度の戦力しか寄越さない等有り得ないでしょう」

 

 確かに、と皆が唸る。

 外なる神とは云え、下位の奉仕種族のそのまた劣化個体に、でかいだけの魚。

 碌に連携も取っていなかったこれ等だけでノーチラス号の戦力を潰せる等とは普通考えない筈だ。

 となれば───。

 

「相手の目的は僕等を殺す事じゃなかったって事かい?」

「恐らく」

 

 ネモの言葉に頷くキアラ。

 だがそこにBBが待ったをかける。

 

「んーそれだけでは判断材料が些か足りないと思いますけどね~。相手が此方の戦力を把握していなかったとか、そもそもそこまで考えられる頭が無かったとか…考えられる可能性は幾らでもありますよ」

「それは、そう、ですよね…」

「ふむ…では純粋に今起きた『事実』だけを素直に受け止めましょうか…虚数世界が普段と違う在り方に変化し、障害物が生まれたと思えば間髪入れずに敵が出現、攻撃を受けた…此処までが『事実』」

 

 そこまで言って言葉を区切ると、キアラが人差し指を立てる。

 

「そして此処からが『推察』ですが…戦に於いて敵を攻撃する際、その目的は大別して『殲滅』と『撃退』の二つだと考えます」

「…戦備を整え、作戦を立て、自ら積極的に打って出る…向かってくる敵を退け、狙った場所に誘導し、防衛する」

「ええ、そうです桜さん。今(おっしゃ)られた事は、()()()()()()()()()()()()。敵を皆殺しにする為の行動なのか───それとも敵を近付けさせない為の威嚇なのか…」

「!後者の可能性が、高い…?」

 

 

 驚愕を伴ったマシュの呟きに、キアラは鷹揚に頷いて返した。

 

「私の温いと云う所感が正しければ、そう云う事になるかと」

「流石セラピスト。心の機微には(さと)いですね」

「何を仰いますか、直接彼等と矛を交えた桜さんの方がより強く感じられたでしょう?───仲間の安全を第一に考えるのは貴女らしい…司令官としても正しいのでしょう。ですが、それで見えている機を逃しては、人理の守人(カルデアのマスター)足り得ないのではありませんか?」

 

 常の微笑みを消し、真剣な眼差しを向けてくるキアラに対し、桜はバツが悪そうに目線を逸らして頭を掻いた。

 

「先輩…」

「桜さん…」

「…桜、もう一度言っておくけど、指揮権は君にあるよ」

「…幾度となく世界を救ってきた御自身の手腕に、もう少し自信を持てばいいんじゃないですか?」

 

 子供達の何かを訴える様な呼び声、船長と分身()の後押しを受け、桜は深く溜め息を吐いた。

 

「…皆さんも大概無鉄砲ですよね…人の事言えないじゃないですか」

「君の背中を見続けてきた影響だよ。どう転んでも責任は君にあるさ」

「暴論じゃないですか、もぉ……本当に、いいんですね?」

 

 桜の最終確認。

 それに対し、揺るぎ無い瞳で応えるメンバー。

 方針は、決まった。

 

 

「分かりました…───それでは、現時刻を以て試験(テスト)を中止。虚数世界の変異の調査及び原因の究明に移ります」

 

 桜の号令に応じ、居並ぶメンバー全員が姿勢を正した。

 桜は先ず、最も頼りになると同時に最も困ったちゃんである BB (自身の分身)に目を向ける。

 

「まぁ兎にも角にも、BBちゃん。貴女の言った通り、先ずは報連相です。カルデアに戻って姉さん達に事の次第を伝えてきてくれますか」

「ええ~~、私だけ戦力外通告ですかー」

「言わなくても解るでしょ…虚数空間を自由に動けるのは私と貴女だけなんですから。ささっと報告したらさささっと帰って来てください。バリバリ働いて貰いますよ」

「労働基準法は遵守でお願いしますよ?」

「大丈夫、過労死しない程度に走ってもらうから」

「何が大丈夫なんですかそれ…」

 

 何かと自分には容赦無い母親(オリジナル)のナチュラルブラック発言に素で引いてしまうBBの反応には取り合わず、桜は残りの皆に向き直る。

 

「残りの皆さんは試験の時(これまで)と同様に動いてください。ただし変更点が二つ。先ずキャプテンさん、言われるまでもないでしょうが航行の際には障害物に注意してください。そして二つ目、今後会敵した際には皆さんにも前線に出て貰います」

「わ、私達も…?ああっ、いえ!先輩(マスター)が戦えと命じるならば是非もありませんが…その…」

「ええ、マシュの言いたい事は解ります───ですので、はい」

 

 (おもむろ)に桜が右手を横に薙ぐ。

 するとメンバー全員の体を桃紫色の光の膜が覆い、数瞬の後消えた。

 

「今、皆さんに魔術で虚数のテクスチャを張り付けました。これで艦外でも問題なく活動出来る筈です」

「え……い、一瞬で、そんなっ!?」

「…詠唱無し(シングルアクション)でそんな真似出来るならさっきもやれば良かっただろ…」

「あーあー聞こえませんね」

 

 呆れ返るネモの発言はスルーして桜は話を続ける。

 

「前衛は実の所近接格闘が一番得意なキアラさんに任せます。アビーちゃんは中距離で遊撃、私は後方からサポートしますので…マシュは、私を護ってね」

「はいっ、シールダーの本領、発揮します!」

 

 ウインクを飛ばしてきた(先輩)にマシュは張り切って応じる。

 それを受け取った桜は再びBBに向き直る。

 

「BBちゃんは私達が戦闘している間、艦内の防衛に務めてください。不測の事態が起こったら直ぐ様各ネモシリーズをフォロー出来る様に気を配っておいてくださいね」

「ほんと地味にキツそうですね…」

「出来ないとは言わせませんよ、グレートデビルちゃん?万能を謳うなら、この程度は(こな)してくれないと」

「な、何なんですかもぉー!ほんと、ちょっと、何で私にはそんな厳しいんですか!」

「母親は、娘には遠慮しないものですよ?」

「……ふんっ、教育ママ気取りなんてナンセンスなんですけどー」

 

 拗ねた様にそっぽを向くBBの、実に可愛気のある態度にニッコリと御満悦になる桜。

 なんやかんやで桜は誰に対しても割と甘々なのである。

 

 そうして和んだ空気も程々に、桜が号令をかけた。

 

「では、各員配置に就いてください!これより作戦開始です!」

『了解!!』

『了解ー。そいでもって了解ついでに報告をばー。たった今ソナーが複数の敵影を捉えました、規模は先程より大きいですね、真っ直ぐ此方に向かって来てます、約7分後には会敵しますよー』

 

 

 メンバーが揃って返事をする中、変わらずマイペースなプロフェッサーから早速報告が飛んで来た。

 各々が互いに顔を合わせて苦笑する。

 

「いきなりですか…」

「まぁいいではありませんか。どのみち、やる事に変わりはありませんでしょう?寧ろ相手方の熱烈なアプローチを盛大に歓迎しようではありませんか」

「ははっ、そうですね。では、戦闘配置へ。BBちゃんは戦闘が終わるまで待機しててください」

「ゆっくりでいいですよ~、ゆっくりで~」

「ですって、キアラさん」

「ふふっ、承知しました。では速やかに片付けて参ります。直ぐ様馬車馬の様に働かせてさしあげますからねBB」

「ゆっくりでいいって言ってるんですけど!」

 

 そんな軽口を叩き合いながら、実にリラックスした様子で桜達は艦外へ出撃していく。

 

 

 

 そして、ものの3分程で()りは着いた。

 少々規模を増したとは云え、先程桜一人に呆気無く殲滅されてしまった連中だ。

 そんな桜に比肩する、文字通りの化け物集団を相手に早々持ち堪えられる道理は無かった。

 

 これに関しては予定調和である。

 桜達のそれを狂わせたのは、エネミー群から逃げて来た二人の少女だった。

 

 

「エ、エヘヘ…あ、危ない所を助けていただいて、ありがとうございます……あの、助けて貰っておいて、ほんと図々しいお願いなんですけど…温かいスープとか頂けたり、しませんかね…エヘヘ、もう、長い事冷たい生の海産物しか、口にしていないもので…」

「ぬきゅ~~~……ここどこ…?私誰…?(おか)…?……やっと、宮に戻ってこれたの私…?」

 

 

 艦橋にて礼を述べるのは、橙の髪に麦藁帽子、そして大きな向日葵を携えた小柄な少女。

 ───そして、その背に背負われ前後不覚になっている、肚兜(どぅどう)を身に纏い、団子を二つ作って尚棚引く程の艶やかな長髪を持った、何処か妖艶な気を漂わせる少女だった。




桜威とは鎧の威の一種だぞ!

数十年に一人レベルの天才が10年以上魔術の研鑽しながら戦場でドンパチやってきたんだ。そりゃこんくらいにゃなるさ()。

と云う事で桜ちゃん無双と方針会議だけで一万字超えちゃったよ。やってらんねー。
次回からは出来るだけ巻いていきたい…ノーチラス号が桜ちゃん監修の下、虚数使用に磨きがかかっているので原作と違って未だにダメージ/zero、なので多分サーヴァントの追加召喚はしない。そこで何とかテンポ上げたい(願望)。


BBちゃんと桜ちゃんは諸に親子みたいな関係。サクラファイブは孫扱い。

キアラさんと桜ちゃんの関係は何か匂わせる程度で収めていきたい。何れは番外編とかで詳しくやりたいとは思いますが。










Q.ユゥユゥは原作に於いて主人公を天子様認定してきたけど今作の桜ちゃんに対してはどうなの?

A.大奥編で桜ちゃんの中には何が入っていると書かれていたでしょうか?
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