女王蟻と放出系と女王蜂   作:ちゅーに菌

1 / 18
女王蟻

1987年1月12日

 

新年早々……と呼ぶには微妙な日にちだが、俺は家を移すことになるらしい。ジンのいつもの唐突な世迷い言かと思えばそうではなく、俺を里親に出すとの事だ。つまりはジンとは今生の別れである。やったー!

正直、里親に預けられるのはジンの世話がなくなるため喜ばしい事だが、若干不安だ。何せこの日記を書いている俺はまだ11歳の子供だ。客観的に見ても明らかに別の意味で頭が可笑しいと思われるだろう。俺とて子供らしくありたくはあったが、環境が余りにも劣悪過ぎて己が賢くなるしか無かったのだ。まあ、ダメな時はダメな時。当たって砕けろという奴だ。

ただ、ジンの幼馴染みのところだと聞いた瞬間、一抹の不安を覚えた俺を誰が咎められようか……。

 

 

 

 

 

1987年2月1日

 

くじら島という場所に置いていかれた。家の住所だけ渡されて埠頭にポイッである。今生の別れといったなアレは嘘だ。いつか再会したら一番重い一撃を叩き込んでやるから覚悟しとけよ。

それはそうとミトさんはジンの幼馴染みだが、真人間だった。それどころかボストンバッグひとつでジンに放り出された境遇を聞くと、涙ながらに俺を家に迎え入れてくれた聖人だった。どうやらジン被害者の会の名誉会長だったようだ。誰だ幼馴染みだからヤバそうとか言った奴、ぶっ殺してやるから出てこい。

きっと清流(ミトさん)の中でブラックバス(ジン)は生きられなかったのだろう。なんでどう見ても惚れているのに妻に娶ってやらなかったんだといつか糾弾してやるからな。女たらしジン。略してオジン。

それはそうとここに来てから約半月。俺の事をどう思っているのか聞いてみることにした。するとミトさんは手の掛からない子や、力が強くて助かっている等と良いことしか言わない。流石に不信に思った俺は気を使っているのかと問う。するとミトさんは心底疲れたような顔をしてこう答えた。

 

"ジンに比べればずっとマシよ"

 

すまんジン。何も言い返せない。寧ろザマァ見ろ。爆ぜろ。土に帰れ。もうストレートに○ね。

ちなみにミトさんは歳の少し離れた姉ぐらいの年齢である。詳細はプライバシーに関わるから日記にも載せない。載せないったら載せない。

あ、ミトさんだけではなく、そのお祖母さんも優しい人でした、まる

 

そう言えばいつ見付けたか正確に覚えていないので暫く日記に書いていなかったが、部屋の窓の間近に生えている木の枝に中々デカいコウモリが住んでいる事に気付いた。よくいることから俺より先輩らしい、かわいい。

 

 

 

 

 

1987年3月20日

 

暇だ。本当に暇だ。こんなことなら通信教育での義務過程を1ヶ月で修了させてしまったのは失敗だった。

このくじら島には刺激が無さ過ぎる。と言うか同年代すら居ないとは離島ここに極まれりと言ったところか。いつか少子化で廃村になるんじゃないか。

それは由々しき事態だが俺がどうこう出来る問題でもないので最近し始めた事でも書こうか。

それは瞑想である。ジャポンのサムライやニンジャはそれをして強くなるのだとネットで知った。暇だし、俺もやってみようという試みだ。心の所作が大事なのだ。

そろそろ暇過ぎて日記に書くことが無くなって来たのは内緒である。最近、この日記はリアルタイムであった事をメモする書留のようになっている事も気にしてはいけない。

 

調べてみたらあのコウモリはオチマオオコウモリという種類のフルーツバットらしいが、虫、魚、蛙、果実、血とコウモリが食べるモノなら基本的に何でも食べ、どれが一番好きなのかと言えばフルーツなのだとか。オチマ連邦からくじら島まで飛んできたのならかなりの長旅をしてきたのだろう。と、言うわけでオチマ産のスパニッシュライムを買ってきた。あげたら食べてくれた。手で持って食べている、かわいい。

 

 

 

 

 

1987年3月26日

 

意外と日課になりそうな瞑想からふと目を開くと俺の身体をモヤモヤした何かが覆っている事に気が付いた。それを見た瞬間、初めて射○をした時のような得体の知れない恐怖を感じ、ミトさんにこれは何なのかと慌てて問うと頭にハテナを浮かべて何故か笑われてしまった。珍しく焦った様子の俺が可笑しかったらしい。ヒドイ。

それは兎も角、どうやらミトさんはモヤモヤが見えてはいないようだ。少なくともこれを寝惚けているで片付けるのは少々無理があるだろう。

何なんだろうこれは。害は全く無いので新種の病気ではないとは思うが不思議だ。何故か玉のように丸めてみると少しモヤモヤの色が少しハッキリとした球体になるので試しに窓に向けて(急に文が途切れている)

 

 

 

 

 

1987年3月27日

 

まさかスーパーポールを軽く弾くような感覚で打ったモヤモヤボールが窓を容易く破壊するとは夢にも思わなかった。

ミトさんにはバードがストライクしてきてこうなったでギリギリ誤魔化せたハズだ。それよりもこれは危な過ぎる。家での使用は控えよう。

だが、とりあえずモヤモヤボールの事をもう少し確かめる為に俺は海岸に行くことにした。ここならモヤモヤボールを幾ら投げようとも誰も困ることはないだろう。常にプライベートビーチみたいなものだしな。

午前中はモヤモヤボールを海に投げる作業をしている内にどうやらこのモヤモヤボールは、自分の意思で銃でも射つように撃ち出す事も出来ることを知った。それぐらいしか目立った成果は得られなかったが、プカプカと気絶した魚がかなりの数水面に浮いているのでこの辺にしておこう。ここでダイナマイト漁を行った奴がいるらしい。縛り首だなそんな奴は。

縛り首は勘弁なので誰にも気付かれていない間に、迅速に帰宅しようとするとふと海岸の隅に何かが夕陽を反射して煌めいたのが目に入った。

このくじら島は周囲を海で囲まれた離島のため、稀に変なものが漂流してくる事がある。この前は30年以上前の廃漁船が流れ着いてきた事もあった。まこと自然とは神秘である。

そういうわけでガラクタ集めと言うか、最早海岸の粗大ゴミ回収も娯楽の少ないくじら島で見付けた俺の趣味のひとつなのだ。そして、その半年も経っていない経験論に基づくと光るモノは良いものが多い。宝とまでは言わないが何か良いものならば庭のオブジェにでもしようかとそれを取りに行ったのは自然な流れだろう。そして俺は。

 

"白銀の卵を拾った"

 

何だかわからないが、今では最早懐かしさを覚えるとある超有名携帯アプリのガチャで排出される☆4の卵のような見た目のモノである。なんだが、そう考えるとやり直しを要求して金の卵が欲しくなるが贅沢は言うまい。

一抱えほどあるこの卵を俺は家に持って帰ることにした。

 

コウモリの名前をマコと名付けた。デカいから多分雌だろう。今日はバンレイシことカスタードアップルを買ってきて4つに割ってあげてみた。ぶら下がりながら両手で持って食べるのが、いつ見てもかわいい。最近、マコの為にやや珍しい果物を買うことが増えた気がする。

 

 

 

 

 

1987年3月28日

 

とりあえずミトさんに見付けられたら捨ててきなさいと言われるかもしれないので、秘密裏に部屋に持って来たこの卵なのだが、冷静に考えるとこれは卵なのだろうか。

大きいのはまあ、良いとしても金属光沢に近い白銀の卵等は見たことも聞いたこともない。中身も色のお陰でニワトリの卵のように日光に当てても中が透けて見えないので中に生き物が本当に入っているのかも怪しい。それに妙に重い。何と無く推し量ってみた結果、この卵は水銀の3倍近くの密度があるようだ。仮にこれが鉱物だとしても大発見ではないだろうか。

そう言えば俺はなぜこんなやたら重たい物体を軽々と持ち上げられているのだろうかという疑問も浮かんだが、とりあえずはこの卵である。鉱物だったならジンの顔面にぶつける道具に使おう。

部屋の座布団の上に置いて唸りながら撫でてみる。金属のようにすべすべである。だが、暫く撫でているとふと疲労感に気が付く。まだ午前中で家の敷地内からは一歩も外には出ていない。流石に俺がもう歳の疲れだとしたらミトさんなんかはいや何でもない。

そして不思議に思い、卵を凝視する。すると卵の周りを薄くモヤモヤが覆っているではないか。どうやら卵は俺と同じくモヤモヤ同盟の仲間だったらしい。それを何と無く嬉しく思いつつ卵と、それに触れている俺の手を良く見てみるとどうやら卵は俺のモヤモヤを吸収しているらしい。どうやらこの卵は卵の時からモヤモヤを食べて成長する生き物のようだ。

そうと解れば話は速い。やることもないので毎日モヤモヤを与えて生まれるのを気長に待つとしよう。

 

注文していた家庭用の簡単な懸垂器具が届いたので部屋に置いたら、窓からマコが入ってきてそこにぶら下がるようになった。中央に堂々といるので全く懸垂が出来ない。まあ、これはこれでいいだろう。果物の残りや糞を受ける金皿を明日買ってくることにしよう。

 

 

 

 

 

1987年3月29日

 

念のためにくじら島で俺が見付けた今は使われていない天然の防空壕に置くことにした。海を漂流した上で卵が生きているのだからかなり放置しても大丈夫だろうしな。

今日はモヤモヤボールを作って卵に与えてみる事にした。まあ、与えると言ってもグリグリと押し付けるだけだったが、それでも押し付けたモヤモヤボールは徐々に小さくなり、直ぐに無くなってしまった。まことへんないきものである。

繁々と見つめついると、卵がぷるぷると小刻みに震えているではないか。まるでもっと欲しいと催促しているようにすら見える。

その日は50個程モヤモヤボールを与えたところで俺が力尽きた。まだ足りないかと見れば卵の震えは収まっている。どうやら聞き分けの良い子のようだ。よしよし。

 

 

 

 

 

1987年5月13日

 

1ヶ月と少し程毎日モヤモヤボールを与え続けていると、卵は拾った当時に比べれば倍程の大きさになったのではないか。それに比例するようにモヤモヤボールを作れる数も日に日に増えているがそれはどうでもいい。

そして、卵の中からカチカチと何か硬いものを打ち付けるような音が響く事や、時折垂直に跳び跳ねて天井にぶつかり元いた場所に落ちてくる事が増えた。震えもぷるぷるからぶるぶるにランクアップしている。

もうすぐ うまれそう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年 月 日

 

アリだー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

傘を畳みながら天然の防空壕の外を見れば大雨が降っている。まあ、ミトさんにはちょっと田んぼの様子を見てくるというジャポンの伝統挨拶で別れたので問題無かろう。ミトさんには後で絶対大目玉喰らうが、お婆さんがフォローしてくれるハズだ…多分。

 

洞窟は真っ暗だが、いつも通りにカンテラには灯りを付けずに急な斜面を滑り降りる。この急斜面のお陰でここには人が寄り付かないのだ。

 

そう言えば日課になったこの行動もかれこれもう1年である。娯楽が無いと思っていたが、人間慣れるものだなぁ。いつの間にか夜目も夜行性生物並みに効くようになったし。

 

視覚と触覚を頼りに洞窟を進む。250m程進んだところでカンテラを灯すと、少し先にうっすらと輪郭が浮かび、何か大きな生き物がずるずると移動する音が反響する。どうやら()()は這って来るようだ。

 

『お帰りなさぁい』

 

 

その直後、俺の頭に妙齢の女性の甘い猫なで声が響いた。

 

シロアリの女王の姿を知っているだろうか。腹まではアリのそれであるが、虫でいう腹の部分が異様なまでに長く太く肥大化し、まるでアリの身体にカブトムシの幼虫をくっ付けた合成写真のような生物である。

 

こちらに徐々に近付いてくる彼女の姿がカンテラの灯りに照らし出された。

 

それはまるで遥かに強靭な外皮と外骨格を持った全高数mのシロアリの女王だった。カンテラの灯りでは照らし切ることは出来ないが、全長は数十mにも及ぶ。

 

彼女は俺が灯りの点されたカンテラを、側に設置された机の上に置いたのを確認すると、その異常なまでの巨体からはあり得ない速度で俺に迫り、見た目に不釣り合いな正確さで俺を口元の高さまで抱き上げた。

 

『待ってたのよぉ? 私の愛しい人…』

「た、ただいま"ハクア"」

 

彼女は俺をその強靭な鈎爪で抱き締めると、硬い顎の外側を俺の頬に当てて頬擦りのような事をしている。硬い、痛い、冷たいの三重苦であるが好意を無下に出来る訳もないので黙ってそれが終わるのを待った。暫くすると堪能したようで俺を地面にそっと戻す。

 

『うふふ……後3年待っててねぇ。そうしたらこの先の事をシてあげる…』

 

俺はあれか。3年後に物理的に喰われるのだろうか。ハクアのジョークはいつも非常にブラックである。

 

この巨大生物の名前はハクア。2年前に海岸で拾った卵を育てたところ産まれ、2年間で偉く立派な大きさになった。現在はこの図体で相変わらず俺のオーラで育ちながら、念について教えてくれている。

 

本人から聞いたところ種族はターム族の女王種で"リアルクィーン"等と呼ばれていたらしい。聞いた事すらない種族である。

 

だが、ハクアによるとターム族は"()()()()()()()"で、ずっと昔に彼女自身が"()()()()()()()()()()()()()()()"との事だが、そんな事があれば歴史的大発見どころの騒ぎではないので話半分以下に聞いとくのが良いだろう。ハクアは念の事は正確だが、他の事になると途端に胡散臭くなるのである。

 

今だって"水に沈めると発電する石"があればここもいつも明るく出来るのにだの、"錬金植物"で常に発光している金属を作れば明るくなるのにだの眉唾未満な事を言っている。夜目は効いても暗いものは暗いのは仕方がないが、悪かったなランプ油が少なくて。

 

そんなこんなでハクアと念の修行をしながら戯言を聞き流して2時間程経過したところでいつも通りハクアにオーラを吸い付くされた俺がいた。煮干しになったような気分である。

 

『もう行っちゃうのぉ?』

「まだオーラを搾り取る気か…」

 

ひょっとしてこれが下手な念の修行より修行になっているんじゃないかと一瞬だけ淡い期待を抱くが、別にそんなことはないだろう。

 

帰り際に名残惜しそうにしながらも小さく手を振るハクアに若干後ろ髪引かれながらも帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1989年5月16日

 

家に帰って来ると、かなり不機嫌な様子のミトさんが赤ん坊を抱いていた。

とりあえず、ミトさん…幾ら餓えてるからって他人の子を奪うのは流石にちょっと……と軽く引いたら鋭いアッパーカットを顎に貰いました。念修得したら絶対強化系だあの人。

今日の罰として飯抜きにされてお腹すいたからもう寝る。明日児童相談所か児童保護局に駆け込んでやる。

 




え? キメラアントの女王? 誰それ知らない(驚きの白々しさ)。

~懺悔コーナー~
Q:2ヶ月以上も他の小説ほっぽりだして何してんの?
A:この小説のプロット書いてました。

Q:本音は?
A:作者的三大人外キャラのジェノバ、ヴェノミナーガそして後、1体をヒロインとした小説は数年前から書こうとはしていたのですが、流石に手を付けている小説が多くなったため、自重していました。しかし、暗黒大陸の多少詳細で広大な設定が明かされ、ならば彼女をぶちこんで小説を書くしかねぇぜと思った次第でありますです、はい。

Q:で? 本音は?
A:……ダークソウル3やってました…。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。