※モーくんはまだかっこよさにこだわりのあるお年頃です
小さな川の畔で、一本の木に添うように建てられた建物がある。
そこは一階部分が酒場になっており、二階や店の裏側が居住空間となっている大きめの家屋でもあった。
「ここに来てもう結構経ったね、カエデちゃん」
「そうだな」
そんな場所の二階の窓から朝靄の掛かる緑と水の豊かな森林を眺めているのは、短くなった赤髪を風に靡かせた女性……カエデだった。
女性と言ってもカエデはまだ13歳であるが、彼女の種族は幼少期の身体の成長が人間よりも早いディクロニウスのため、18歳程と言われても特に違和感の無い容姿をしている。
白のネックセーターに、赤のロングスカートという服装は彼女の大人の女性らしさを引き立てていると言えよう。
「でもダメだよ? モーくんに酷いことしたら。この前のザバン市の時だって結局、またモーくんを逆レイプして…」
「………………同意の上だ」
すると突然、カエデは自身の下腹部に手を当て、少しだけ表情を歪めながら声をあげる。
「んっ…」
「なんか最近お腹がチクチクするね…」
「急に住む場所を変えたから風邪かもな、私も気が緩んだか」
そう言いながらも嬉しそうで優しげな表情を意識せずにしている辺り、カエデは本当に今が幸せなのだろう。
次の瞬間、突如としてカエデの部屋のドアが開け放たれる。何かと思い、そちらを見ると二人にとって特別な人であるモーガス・ラウランがそこに立っていた。
更にモーガスは部屋に侵入し、窓の前に立つカエデの目の前まで来ると、カエデの両肩を掴み少し自分の方に引き寄せた。いつもの彼の誰にでも当たりの良く、若干飄々とした様子とは違い、非常に意思を持った瞳と行動を示し、思わずカエデは少し萎縮する。
「ど、どうしたんだ…?」
カエデは最愛の人の突然な積極的な様子に困惑5割り、疑問4割り、淡い期待1割りを持ち、頬を赤く染めて熱を持った視線を浮かべながらモーガスを見上げる。真っ白な肌に鮮血のような紅髪を持つ少女が行うその動作は、一枚絵のように幻想的で見るものが居たのならば魅力された事だろう。
「頼むカエデ! このッ…!」
そうして、モーガスが勢い良く掲げたそれを見た瞬間、カエデとにゅうは口を開けたまま固まり、暫く呆然と眺める事しか出来なかった。
その驚きようといえば、今ならば超一流の念能力者さえ遥かに超越したカエデが、一切オーラ防御が出来ない程思考が停止している言えばどれ程がわかるだろうか。
そんな事にもお構い無しにモーガスは何処か熱に当てられたかのように、溢れんばかりの意欲と確信を持った表情を浮かべながら宣言した。
「"メイド服"を着てくれッ!!!」
数秒後、青筋を浮かべたカエデが放ったベクターがモーガスを襲ったのは言うまでもない。
何故、モーガスがこのような暴挙に出たのかは2日程前に遡る。
◆◇◆◇◆◇
ふと自室の窓に目を落とすと外でゴンとシズクが遊んでいる光景が目に入った。よくみれば森の小動物が二人を遠巻きに覗いておりとても微笑ましい。
平和な光景を眺めながら、溜め息を吐いてから机に目を落とした。
そこにはびっしりとこれでもかと書かれた放出系を軸にした念能力の数々で埋め尽くされた大学ノートがあった。
端から無能力者が内容だけ見れば中学生の黒歴史ノートのようにしか見えないそれは、ここ数ヶ月間に本気で念能力を考え、まるでふと思い付いた小説のプロットや書いてみた1話だけを詰め込んだような末の遺産である。
だが、そのどの念能力も何故か作る気になれなかったので今に至るわけだ。
自分でいうのもなんだが、このノートに書いてある放出系念能力はどれもこれも使える念能力だと思う。ハクアと念の修行をし、しょっちゅうカエデのベクターを避け、ブリオンさんとガチバトルを日常的にしている間に考えた念能力なだけはあり、戦闘に特化したクセの少ない念能力の数々だ。まあ、少しでも長く戦闘時間を増やすために考えた末のモノとも言えるのでそうもなろう。
ただ、これらの念能力には欠陥がある。それも凄まじく致命的だ。
それは実戦を意識し過ぎて"インパクト"に欠けるという事である。
俺の知る他の念能力者の念能力をあげてみよう。
ハクアの爪で横一文字の斬撃を彼方へと放つ強化系&放出系念能力、地獄爪殺法。
カエデのベクターという自身の特性を強化する強化系&特質系念能力、百手巨人。
ブリオンさんの見た特質系以外の念能力をその戦闘中のみ使うことが出来る念能力、名称不明。
ネフェルトゥムの自身を操作する事で爆発的な機動力と戦闘力を生み出す恐らく操作系念能力、黒子舞想。
皆それぞれ十人十色の方向性だが、それぞれ自分の代名詞と言える確かな輝きを放っていたように感じた。
それに比べて俺の念能力はどうだろうか? ふと、これまで見てきた他者の素晴らしい念能力と比較しながら思い返してみた。
オーラバルーン
放出系なら誰でも考え付く上に名前にセンスがない。
移動弾
捻り無し。
密室遊魚
お魚さん、ウフフ。
開発中の密室遊魚を活用させる念能力
考案ハクア。
「くッッそ! 地味すぎる…!」
思わず音がでない程度に机の板を叩く程にそれは明らかであった。
念能力とは必殺技であり、自分だけの力であり、自分が歩いてきた人生そのモノの結晶と言える。その観点からすると俺の念能力は0点も良いところである。無論、ハクアが考案して開発中の密室遊魚用の念能力を入れても対して変わらない。
かといって派手なだけや、実用的なだけの念能力では俺の理想からは程遠く感じた。
そんなこんなで机に突っ伏して頭から煙を蒸かしていると、後ろから軽い衝撃を受け、それと同時に仄かな蜜の香りが鼻孔をくすぐる。
「何してるのぉ?」
俺の背に抱き着いてきたのは、俺の知る限り、最高の念能力者かつニドキングどころではない
「見ての通り念能力に悩んでるんだ。これが俺の念能力って言うものがどうしても無くてな……」
「ふぅーん…」
ハクアはそう返事しながら俺からノートを取り上げるとまじまじと見つめながら暫くページを捲る動作を繰り返す。
「最近家でたまにしてるゲームをしてたら、中に出て来た団体の言葉を借りて言うわねぇ」
2分程すると見終えたようでノートを閉じる。更に溜め息をひとつ落としてから再び口を開いた。
「"つまらないものは、それだけでよい武器ではあり得ない"わぁ」
まさに俺が考えている核心を突かれたことに驚いているとハクアは、俺を抱き締める力を少しだけ強めながら更に言葉を続ける。
「それとアナタの特徴……いいえ、ステキなところを言葉にしたのなら、"本当に誰にでも優しい"、"どんな相手にも価値を見出だす"、"善悪が併存する"あたりじゃないかしらぁ? だから念弾よりも念獣の方が向いていると思うわよぉ」
それを言われてた瞬間、俺は全身に雷光が駆け巡ったような感覚を覚えた。それと同時にカエデ、レクターさん、ジンはノーカン、ミトさん、マコ、ゴン、ハクア、シズク、ブリオンさん等々今まで深く関わってきた存在が思い浮かぶ。
「そうか……そうだったのか…」
「それからコレが一番重要なコ・ト」
「"自分の好きなモノ"を念能力にすることよぉ」
「好きなモノ?」
「そう、なんだっていいけど」
それを思い付いた瞬間から、俺はとある念能力の開発に着手したのだった。
◇◆◇◆◇◆
「以上がメイド服を来て欲しい理由です。はい」
部屋の中心に正座させられているモーガスは特に悪びれた様子もなく、その話を終えた。ちなみにカエデはに自分のベッドに腰掛けながらモーガスを見下ろしている。
「待て、どうしてそこまで飛躍した?」
「ああ、女性型の念獣を考えているんだが、真っ先に浮かんだ女性の服装がメイド服だったんだ。具現化系はイメージが大事だって言うしな。だったら放出系の念獣も似たようなものだろう。ならば念獣の服装も直感的に一番始めに思い浮かんだモノにするべきだと思ってな」
(好きなのか…メイド服…)
(好きっていうか性癖なんじゃ…)
カエデとにゅうはそう思いながらも、今は自身のベッドの上に広げられたメイド服に目を移した。
(妙に可愛いいなコレ…)
(そうだね。私こういうの好きだよ)
ヴィクトリアン調のメイド服に、現代のジャポンでよくみるようなフリフリのメイド服を合体させながら、全く気品というモノを失っていないという無駄に凝った上に洗練されたデザインである。
「………このメイド服はどうしたんだ?」
「俺の自作。2日掛けてついさっき完成した」
(クソッ……5分前の私をぶん殴ってやりたい! 四の五の言わずに着ておくべきだった!!)
(モーくんってすっごく手先器用なんだね…軽くへこむよこれ…)
ちなみにカエデという女は誰かがいる時の表情は固い上に怖いが、内面はとてもコロコロと情動していたりするのだ。
ちなみにこの家でゴンの服を作るのは、ミトではなくモーガスのお仕事である。元々器用なため、その延長線で色々な裁縫に手を出し、今ではネットに出した衣服が即売れる程度にはそこそこ名が知られていたりするが、カエデとにゅうが知るのはもう少し先のお話である。
「んっ…」
するとまた突然、カエデが自身の下腹部を押さえた。
「大丈夫かどうした?」
「いや、大したことじゃない。きっと住むところを急に変えたから風邪だろう」
「……ふむ、ただの風邪ならいいが、そうでなかったら問題だな。くじら島で風土病というのは聞いたことはないが、何かあったじゃ遅いしな。病気の症状とか最近変わったこととかを教えてくれないか?」
「ああ、わかった」
モーガスは床に正座をしたまま、カエデとにゅうが掛かっているという風邪の症状や、最近の体質の変化などについて詳しく聞いた。しかし、聞いていくにつれてモーガスの表情が徐々に変わっていた。
「………………」
何故かモーガスは硬直した笑顔のまま滝のような汗を流している。心なしか顔が青く、震えているようにも見えた。
その様子にカエデは非常に不安になる。
「どうした…? わ、私は何かとんでもない病気に掛かっているのか?」
「い、いい、いや、なんで…なんでもないぞ?」
「あらぁ?」
突然、部屋の入り口から疑問符混じりの声が上がる。カエデがそちらを見ると、面白いものを見付けてしまったと言わんばかりに口に手を当てているハクアが立っていた。
最近、何故かあまり姿が見えないため、カエデは久し振りにハクアを目にしていた。とはいってモーガスには1日置きには顔を出しているらしく、更にシズクはハクアと一緒に毎日ゲームをしているそうなので特に気にもしていなかったが。そもそも住む場所が違うため、それも当然といえよう。
住む場所といえば確保したザバン市の解体屋は、ジョネスという名であり、くじら島に連れてきてからカエデが育てようとしたのだが、ハクアが彼を見つけるて直ぐに異常な握力を見抜き、"うふふ、ちょっと借りるわねぇ。基礎は私が教えてア・ゲ・ル"等といいながら住みかに持ち帰っていた。それが1ヶ月程前の話である。
「あらあらぁ? あらあらぁ?」
「な、なんだ…?」
ハクアはカエデまで一直線に向かうと、何故かしきりにそのお腹を撫で回した。それを見た瞬間からモーガスは真顔になり、石のようにピクリとも動かなくなる。
「うふふ、お赤飯炊かなきゃねぇ」
暫くして堪能したのか撫でるのを止めたハクアは、それだけ言い残すと、微笑ましいモノを見つめるような顔をしながら、自分はお邪魔だという様子でそそくさと消えていった。何故ハクアがジャポンでも近年マイナーになりつつある風習を知っているのかという突っ込みはあるが、そんなものは顔色が蒼白を通り越し、土色になったモーガスに比べれば些細なことだろう。
「なんだったんだいったい…?」
「どうしたんだろうね?」
カエデとにゅうは首を傾げてハテナを浮かべている。そんな時、ついにモーガスが動いた。
モーガスがカエデを範囲に入れる程度の小規模な円を使用したのである。それは一般的な念能力者からしても可能な半径であったが、モーガスのそれはカエデですら一瞬とした形容できない異質な速さと、円にしてはあまりに濃すぎる密度を持っていた。戦闘のために極めたとしか言い様のないそれを、今のモーガスは400m程の半径で出来るというのだからカエデでも舌を巻いた程だ。カエデも当然円は可能で、数km~十数kmを容易に覆い尽くせるが、戦闘中に使えるかといえば閉口せざる負えない。
円を展開したモーガスは、カエデを範囲に入れながら円ごと微動だにせずにいた。それはまるでカエデの中の何かを探るために展開されたようであった。
「カエデ…にゅう…聞いてくれ」
「ど、どうした…?」
(ひゃわ!?)
立ち上がり、カエデの隣に座ったモーガスは、メイド服を着させようとしていた時以上、いや、これまでモーガスを見てきた中で一番と言っていい程に真剣な表情をしていた。そんなモーガスにカエデとにゅうは驚き戸惑う。
「お前…いや……カエデ。にゅう。お前らは…」
モーガスはカエデの肩を掴むと、自身を少し屈ませながらカエデを引き寄せ、視線を同じ高さに合わせると、静かに口を開いた。
「俺の子を妊娠している」
「え……?」
(にゅう……?)
数秒後、カエデとにゅうの悲鳴のような驚きが響き渡ったのは言うまでもない。
やったねカエデさん!家族がふえるよ!
○本作のカエデさんとにゅうさん
・カエデさん
一途、不器用、ツンデレ、ちょっとヤンデレ(当社比)。
・にゅうさん
一途、家庭的、天然、むっつりスケベ。
このカエデさん幸せそうだなぁ…(エルフェンリート本編を見ながら)
カエデさんとにゅうさんをハートフルな感じにするのがこの小説の目的のひとつです。ハートフルボッコじゃないです。ハートフルボッコじゃないです(必死)。
主人公を逆レイプした挙げ句孕むカエデさん←今ここ
これでも原作の主人公にやったことに比べたら可愛いどころか微笑ましいんだよなぁ…(染々)
カエデさんとにゅうさんが幸せになって欲しい方はとりあえずモーくんが全部悪いということにして、モーくんをロリコンとでも罵倒しておいてください(カエデさんじゅうさんさい)。
ちなみにモーくんとカエデさんの子供は、ゴン達の原作開始時から天空闘技場かヨークシンぐらいまで特にモーくん達の出番がビビるぐらい激減する予定なので、ゴン達についていく主人公その2の予定です。ディクロニウスなので残りの数年でゴンぐらいになります。