この少年、学生で仮面ライダー!
日本の領土内にある六つの学園で構成された水上学園都市六花通称アスタリスクにある星導館学園の敷地内にてある少年が立っていた。少年の名は天霧綾斗、この学園の特待生として入学してきた者だ。今彼はあることに悩んでいた。
「どうしよう、道に迷った・・・」
予め調べておくべきだったと後悔する綾斗は目の前を同じ星導館学園の制服を着た少年が横切るのを見た。渡りに船だと思い綾斗はその少年に声を掛けてみることにした。
「あの、俺今日この学園に来たばかりなんだけど君はここの生徒だよね?ちょっと道を教えてくれると助かるんだけど・・・」
綾斗の声に少年は振り向く。その少年は綾斗と同年齢であったが精悍な顔つきをしていた。
「えっと・・・それは構わないけど、実は僕も君と同じく今日この学園に来たばかりなんだ」
「え!?君も?」
その問いに少年は首を縦に振った。
「へぇ奇遇だね。あ、俺は天霧綾斗。君は?」
少年は自身の名を答えた。
「僕は泊英志。英志って呼んでくれ」
******
英志と綾斗は入学手続きへの道すがら互いの身の上話に興じている。
「というと英志のお父さんは警察官なのかい?」
「そう、いづれ父さんの後をついで警察官になる。それが僕の夢さ」
「夢、か・・・」
綾斗は不意に顔を上げ空を眺める。
「あれ?僕変な事言っちゃた?」
「いや、変じゃないよ。夢があるっていうのがいいなって思ってさ」
「そう言われるとなんか照れるね。ところで綾斗には夢はあるの?」
「俺?俺の夢は・・・」
綾斗が言葉をつぐむ前に突然上から一枚のハンカチが彼の頭に落ちてきた。
「これは・・・」
不思議に思い上を見上げると隣にある建物の窓が開いておりそこから何やら困ったような声が聞こえてくる。
「確かはここは女子寮だったね」
「なるほどね、落としちゃったというわけか。よし、あの子に届けてくるから英志は先行ってて」
そう言い
「待って綾斗。あそこは一応女子寮だしさ、男である君が入るのは色々まずいんじゃ・・・」
「確かにそうかもしれないけどさ、上にいる彼女困っているようだしそれに落とし物届けるくらい問題ないと思うよ。それじゃ行ってくるね」
嫌な予感がした英志は止めようとするが綾斗はそのまま飛び上がって女子寮の窓に入り込んでしまう。それから数秒経ち綾斗が入っていった部屋から猛烈な炎が噴き出て英志の嫌な予感は的中し思わずため息をついた。
(だから言ったのに・・・)
「ほう、今のを躱すとは」
しかし爆風から逃げ延びた綾斗を追って炎を纏って地面に降りてくる桃色の髪をした少女を見て英志は思わず目を見開いた。
「いいだろう、少しだけ本気で相手をしてやろう」
(
英志は入学前からアスタリスクの情報を調べ全学園の実力者
「ちょ、ちょっと待って!さっきは俺にお礼を・・・」
「ハンカチを届けてくれたことには感謝している」
「じゃあ・・・」
「だが!お前は女子寮に侵入し、乙女の着替えを覗き見したんだ!命をもって償うのが筋だろう!!」
(それはちょっと理不尽じゃ・・・)
英志は心の中でそう思ったが彼女を刺激しないため口には出さないことにした。
「命ってそんな・・・」
「安心しろ、おとなしくしていればウェルダンぐらいで勘弁してやる。さぁ覚悟しろお前ら!!」
(しっかり中まで焼く気みたいだね・・・あれ?)
その時英志はユリスの言葉にある違和感を覚えた。よく彼女の目を見てみると明らかに綾斗と英志に殺意の視線を向けている。
「お前らって・・・もしかして僕も数に入れられてる!?」
「何を白々しいことを。お前もそこの覗き魔も仲間だろう」
いつの間にか冤罪を掛けられていることに英志は仰天する。そんな彼を綾斗はユリスに弁解する。
「待ってくれ!彼はたまたま同じ場所に居合わせただけで俺とは無関係で・・・」
「黙れ!仮にそうだとしてもお前を止めなかった奴も同罪だ!」
顔を真っ赤にして叫ぶユリス。どうやら彼女は着替えを覗き見された羞恥心で少し冷静さを失っているようだ。
「お前達、名前は?」
「・・・天霧綾斗」
「泊英志」
「私はユリス、星導館学園序列五位だ」
名を名乗ったユリスは制服についてある校章に触れるとそこから放たれた光が綾斗の校章に当たり二人を繋ぐ光の糸に変貌した。
「我、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは汝ら天霧綾斗と泊英志への決闘を申請する!!」
「「決闘・・・!?」」
「ああ、正式には私と天霧綾斗との決闘になるのだが一人一人相手にするのは面倒だ。まとめてかかってこい!」
「そう、そういうことなら・・・」
英志は肩の懸けたショルダーバッグを地面に下ろしそこから奇妙な形の銃を取り出した。
「生憎手持ちの武器はこれしかないけど問題ないかな?」
「ちょっと英志!?もうちょっと穏便に・・・」
「僕もそうしたいけどほら、相手にその気はないみたいだよ」
目に映るユリスはすでに自身の得物に手を当て臨戦態勢を整えている。
「ここは一度彼女と戦って落ち着かせるしかないようだと僕は思う」
「でもほら俺、剣を持ってないし・・・」
「じゃあこいつ使えよっ」
集まってきた野次馬の誰かが綾斗に剣を投げ渡したことで綾斗はため息をついて観念し構えを取る。
「我、天霧綾斗は汝ユリスの決闘申請を受諾する」
綾斗が決闘を受諾した瞬間、決闘のゴングは切って落とされる。先に攻撃を仕掛けたのはユリスの方だ。
「咲き誇れ
ユリスが剣を振るうと同時に彼女周りに形成された炎の槍が二人に襲い掛かる。
「くっ」
綾斗は槍を剣で弾くことで応戦し英志は軽快な身のこなしで槍を躱しユリスに向けて発砲する。しかし銃口から放たれた光弾はユリスの足元の近くに着弾するだけで本人には一発の命中しなかった。
ユリスは第二波としてよりスピードを上げた炎の槍を打ち出してきた。それを綾斗と英志は際どい角度で回避し続ける。そんな彼らの動きに野次馬達の歓声が沸き上がってきた。
「あの新人達、中々やるな!」
「悪くないね」
「お姫様が手加減してんじゃないの?」
「剣の奴はすごいと思うけど銃の奴はさっきから一発も当たってないぜ」
「第一なんだあれ?ドアみたいな形して変な銃だなぁ・・・」
(・・・違う)
そんな野次馬達の言葉をその場で彼らと戦っているユリスは否定した。
(奴は当たってないんじゃない、当ててないんだ)
ユリスはふと足元を見下ろすと英志の銃から放たれる光弾が彼女の周囲ギリギリに着弾しておりユリスの行動を制限していた。それだけじゃない、ユリスが半歩下がれば光弾も彼女に合わせて位置が調整されている。炎の槍の猛攻を躱しながらでだ。
(英志という男のことは気になるがそれよりも気掛かりなのは天霧綾斗、奴のことだ)
ユリスは考え込んでいた。明らかに自身が優勢のはずなのに何かがおかしい。
見極めるべくユリスは次の一手に出る。
「咲き誇れ、
ユリスの持つ剣から巨大な火球が綾斗に向けて放たれ、対して綾斗は前へと走り出す。
「(躱して接近戦に持ち込む気か、だが)爆ぜろ!」
その瞬間、火球はその場で爆発を起こしユリスは巻き上がる粉塵から顔を庇いながら確かな手応えを確信していた。
だが、
「天霧辰明流・・・貳蛟龍!!」
綾斗は剣を十字に振るうことで爆風を切り裂き一気にユリスへと肉薄しそして・・・
「伏せて!」
そのまま彼女を押し倒す。そして丁度二人がいた場所に何者かが放った矢が突き刺さった。
「お、お前!何を・・・」
突然の出来事にユリスは混乱するがすぐに近くに刺さった矢を見つけ冷静になる。
(あの光の矢、狙いは明らかに・・・だとするなら)
「どういうつもりだ」
「どうって、それは俺じゃなくて撃った奴に聞いて欲しいな」
「そうではない!何故私を・・・っ!?」
そこでユリスや周りの者達は気づいた。綾斗の手が偶然にもユリスの胸を掴んでいることに。
野次馬はその姿を茶化すように騒ぎ立てるが警官を志す英志は目を細めて目前のわいせつ容疑者を見下ろしていた。
「綾斗君、今のは一体どういう意図かな?」
「いや・・・英志、これは不可抗力で・・・ちょっと待って!まずその銃を下ろして俺の話を・・・」
「確保ー!」
「誤解だー!」
「私を無視するなー!」
容疑者を確保するべく走り出す英志に逃げ回る綾斗、さらに胸を揉まれてその上完全に置いてきぼりにされたユリスは怒り心頭で体中から炎を噴き出している。
そんなカオスな空間に手を打つ乾いた音が響き渡る。
「はいはい、そこまでにしてくださいねー」
音の鳴る方を向くとそこには金髪の少女が姿を現した。
(確か彼女はこの学園の・・・)
「我が星導館学園は、その学生に自由な決闘の権利を認めていますが、残念ながらこの度の決闘は無効とさせていただきます」
そう言い彼女は胸の校章に触れユリスと綾斗の決闘を破棄させた。ユリスは不服を顔を上げるが綾斗は下を向いてほっと一息ついた。
「最後の転入手続きがまだなので、天霧綾斗君と泊英志君は厳密には星導館学園の生徒では無いのです」
「ありがとうございます。えっと・・・」
「はい、星導館学園生徒会クローディア・エンフィールドと申します。よろしくお願いします」
学園の生徒会長はにっこりとした笑みを浮かべて挨拶をし決闘騒動はこれにて終了となったのであった。
******
「どうぞお入りください」
自称腹黒の生徒会長クローディア(ただし肌の色は白)に生徒会室へと案内された二人はそこから一望できる街の風景に思わず声を上げた。そんな二人に微笑しながらクローディアは声を掛ける。
「さて綾斗、それに英志」
手前のモニターを操作すると生徒会室が一瞬の内に街の上空を映し出した。
「我が星導館学園が特待転入生であるあなた方に期待することはただ一つ、勝つことです」
「この街に存在する六校に世界中から選りすられた星脈世代が集いその覇を競う。それが
「しかし近年、我が学園の成績は芳しくありません。綾斗あるいは英志、星武祭を制してください」
「そうすれば我が学園はあなた方の望みを叶えます」
その言葉を聞いても二人はただ頭をかくだけだった。
「うーん、悪いけど僕はあまり興味ないんだ」
「俺も同じかな」
「あらあら・・・では、どうしてこの学園に?」
クローディアの質問に先に答えたのは英志だ。
「僕にはここでなすべきことがある。それをなす為にここへ来たんだ」
「なすべきをなすが為に・・・中々面白い答えですね。所であなたはどうなのですか、綾斗?」
「強いて言えば、自分がなすべきことを探すためかな」
一人はなすべきことを成すために、もう一人はなすべきことを見つけるために、違う目的でこの学園に入った二人の特待生にクローディアは強い興味を抱いた。
「そういえばさ。さっき言っていた最後の転入手続きって何なの?」
「ああ、そのことですか。あれはですね・・・」
するとクローディアは綾斗の後ろに回り彼を抱きしめ始めた。
「「っ!?」」
「やっと・・・お会いできましたね・・・」
抱かれた綾斗もそれを横で見る英志も彼女の突然の行動に目を丸くしていた。
「まさか、これが転入手続きってことはないですよね?」
恐る恐る問い掛ける英志にクローディアは悪戯的な笑みを浮かべて答えた。
「ええ、冗談です。残念でしたか?」
「いや、そう言うわけじゃ・・・」
しかし顔を真っ赤にした英志の言葉に説得力は無くクローディアはその笑みを深めるばかり、だが何はともあれ天霧綾斗と泊英志の星導館学園での学生としての日々は始まったのであった。
*******
今日一日を終えた英志は学生寮の自身に割り当てられた部屋に入った。本来なら二人一部屋が原則ではあるが人数の関係上英志の部屋にルームメイトはおらず事実上の個室なのである。
(少し寂しいけどまあ、僕としては好都合なんだけどね)
周りに人の気配が無いことを再確認した英志はショルダーバッグをベッドに置き窓を開ける。
「お帰りハンター、トラベラー、ビルダー」
するとそこから三台のミニカー型マシン『シフトカー』であるネクストハンター、ネクストデコトラベラー、ネクストビルダーが英志の部屋に入り込み彼はそれを迎え入れる。
「さてと、もう出ても大丈夫ですよベルトさん」
『やれやれ、隠す為とはいえバッグの奥に押し込むなんて、人使いの、いやベルト使いの荒い少年だね君は』
シフトカー達に運ばれ扱いに愚痴を言いながら現れたのは中央部のディスプレイで表情を示す不思議なベルト状の機械だ。
「あ、すいません。でも腰に巻き付けたままにしておくのは怪しまれると思って・・・」
『構わないよ、我々のことはまだ知られるわけにはいかないからね。さて、そろそろ本題に入ろうか』
ベルトさんと呼ばれた機械の周りにシフトカー達が寄り添い一定の間隔でクラクションを鳴らし始める。
英志はこの意味を直接は理解できないががベルトさんには伝わっているようで彼は時折相槌を打ったりディスプレイに移る表情を変化させたりしている。
『アスタリスク各域を調査させたシフトカーの報告によると僅かながら重加速が起こった形跡があるようだ』
ベルトさんの話を聞いた英志は開けた窓からの夜景を見据える。
「ということはやはりこの街に奴らが・・・」
『そういうことになるね』
英志の目は昼間とは打って変わって鋭いものへと変わる。
何故彼らがアスタリスクに来たのか、話は今から二か月前までに遡る。
******
高校から帰ってきた英志はすぐに彼の父 泊進ノ介から大事な話があると言われそのまま彼が運転する車に乗って進ノ介の昔の職場である久留間運転免許試験場へと連れてこられた。そして進ノ介は息子を連れてドライブピットへと到着した。
「ここって確か父さんが昔仮面ライダーとして活動拠点にしていたドライブピットだね?」
「ああ、本来は立ち入り禁止なんだが今日は特別だ・・・おっと」
進ノ介がドライブピットに足を踏み入れると大量のシフトカー達が飼い主の帰りを出迎える犬のように彼の周りを旋回したり彼につっついたりしてきた。
「よう、元気にしてたかお前ら?って新顔もいるみたいだな」
『それは私が新たに開発したネクストシフトカーだよ』
進ノ介の言葉に答えるように奥からベルトの形をした父のかつての戦友クリム・スタインベルトが現れ思わず進ノ介は彼の元へと駆け寄った。
『やあ進ノ介。こうして直接会うのは16年ぶりだね』
「全くだな、一週間前あんたから連絡が来た時は本当にびっくりしたぜ」
再会を果たしたクリムは次に英志に目を向ける。
『初めまして、君が泊英志君だね。一応初対面・・・ということになるのかな?』
「はい、そうですけど。前に僕と会いましたっけ?」
『いや、気にしないでくれ。とにかくに本当の君に会えて嬉しいよ』
「それよりもベルトさん。英志にあの事を説明してやってくれ」
『ああ、そうだったね』
進ノ介から言葉をかけられクリムはベルトからモニターを投影した。
『16年前、私は自らをドライブシステムと共に封印した。だが完全に眠っていたわけではない』
『人が私の発明を正しく役立てることが出来る時代が来たか見極めるためにここから世界中の情報をアクセスしていたのだ』
『そんな折私はこんなものを発見した』
そう言いクリムが投影したのはあるオカルトサイトのいくつかの記事でタイトルはこうだ。
【怪奇!クモ人間現る】
【
【地下に潜む人間コブラの脅威】
記事の中にあるそれらの写真やイメージ絵、目撃情報を見て英志は昔から両親に聞かされていたものを思い出した。
ロイミュード
自我を持ちかつてこの星の新たな生物になろうと人類に襲い掛かった108の機械生命体。その素体となる三種の姿とモニターに写る情報が完全に一致していたのだ。
「でも確かロイミュードって父さん達仮面ライダーが撲滅したんだよね?」
「ああ、俺は確かに見届けた。あいつが、最後のロイミュードがこの世から消えた瞬間をな・・・」
そう語る父の瞳はどこか哀愁に溢れている。ロイミュードについて語る時、父も母も最後は悲しげな表情を見せていた。それについて英志は詮索をするのを控えている。
『恐らくはロイミュードのデータを得た何者かが新たに作成した新型ロイミュードなのだろう。これを察知した私はすぐさまりんなとハーレー博士に連絡を取り新型ロイミュードに対抗できる新たな仮面ライダーのボディを開発、そして進ノ介と霧子に連絡を取ったというのが経緯だ』
しかしそれなら自分を呼ぶ理由にならないのではないか、と英志は疑問に感じたがその答えはすぐに返された。
「本当は俺が変身してなんとかしたいんだが俺ももう歳だ、昔のように走ることはできない。それに新ロイミュードが発見された場所が場所だからな・・・」
『そう、噂の元となった場所は水上学園都市六花。統合企業財体が管理し治外法権領域であるあの場所には警官という肩書を持つ進ノ介が入ることは難しい。そこでだ英志、君が新たな仮面ライダーとなって六花に向かい私と共にロイミュードの調査及び撲滅に協力してくれないか』
「僕が仮面ライダーに?」
そうだ、とクリムは頷き補足説明を述べる。
『泊英志、君が両親から受け継いだのは遺伝子だけではない。進ノ介の超人的な肉体と精神、霧子の身体能力と真っすぐな意志。それらを受け継いだ君ほど新たな仮面ライダーになるのに相応しい者を私は知らない』
そしてクリムは自身を置く台座の前に止まる黒と黄色のリバーシブルカラーのシフトカーを見せた。
『これが新仮面ライダーのボディを形成するシフトネクストスペシャル。まだ未完成な部分はあるが現時点でも旧ドライブを上回る性能を誇る。君が私の提案に答えてくれるのであれば君専用に調整を施そう。どうだね?』
「でも・・・」
英志は視線を進ノ介の方に目を向ける。
「英志、これは提案であってお前が必ずやらなきゃならないことではない。断ってもいいだんぞ」
「父さん・・・」
「別にお前だけが頼みの綱じゃないんだ。お前の叔父の剛もいる。俺達としては子供であるお前を戦いに巻き込みたくはない」
俺達と表現したのは霧子も進ノ介と同じ心境であるということを表したことであろう。そして提案したクリムもまた同じ考えを持っているに違いない。
「だからさ英志・・・」
進ノ介が次の言葉を言おうとした時、英志は迷わずシフトネクストスペシャルを手に取った。
「おいおい即答かよ、もっと悩んだっていいんだぜ?」
『本当にいいのかね?提案した私が言うのも難だが命の危険が伴う大変なことなんだぞ』
「うん、だからこそ他の人に押し付けたくないと思ったんだ」
そう言って英志は手の中のシフトネクストスペシャルを見据えた。
「僕はただ、父さん達が守ってきたものを守りたい。その為に長い間努力してきた」
英志は実直で純粋で高潔な瞳をクリムと進ノ介に向けた。
「仮面ライダーを受け継ぐこと、それが僕の運命だとしら・・・使命だとしたら僕は逃げない。真っすぐ前を向いて走っていく。そう思ったんです」
「英志、お前・・・」
進ノ介は息子の背を強く叩いて笑った。
「全く馬鹿正直に格好いいこと言っちゃって、これでこそ俺の自慢の息子だ!」
クリムのまたディスプレイに写る表情を綻ばせた。
『使命、か、変わったことを言うね。よろしい、ならば協力しよう』
クリムはシフトカーの一つフッキングレッカーに自身を運ばせ英志に巻き付かせディメンションキャブが空間転移の力で英志の左腕にシフトブレスを装着させた。
『私も君の使命に協力しよう。さぁ行こう英志、私達の使命を全うするために・・・Start our Mission!!』
「はい!」
そう言い英志はベルトのイグニッションキーを捻りシフトネクストスペシャルをシフトブレスに装填する。
【DRIVE!Type!NEXT!!】
ベルトから爽快なサウンドが鳴り響き英志の体は黒に水色のラインが走る戦士のものへと変化を遂げる。
これが英志のビギンズナイトとなったのであった。
******
過去を振り返った英志は自身の3Dモニターからメールが届いていることに気が付いた。
「綾斗から、一体何の用だろう?」
メールの内容は今週末ユリスに今朝の借りの返却として街の案内をしてもらうことになったのだが英志もどうだ、という趣旨のものであった。
「ハンカチの辺りから気付いていたけど、本当にお人好しなんだね彼は・・・」
英志は予めクリムやシフトカーが集めてくれた情報があるので街案内してもらう必要はないのであるのだが、
「でも、人の好意には応えないとね」
昔から母に言われてきた言葉を思い出し英志はとりあえずメールの返信をし、今日はもう遅いので眠りにつくことにしたのであった。
******
星導館に入学してから初めての休日、英志は綾斗からのメールで指定された場所で彼らを待っていた。
そこで英志は綾斗達を待つ間モニターの写るという記事を読んでいた。
【星導館五位襲撃される】
記事によるとユリスはまた何者かの襲撃を受けていたようだ(なお、記事には最初の襲撃のことは書かれていない)
『私も独自に調査してみたがどうやらここ数週間学生達が謎の襲撃を受けてる事件が相次いでいるようだ』
クリムが英志の肩によるシフトカーを通して事件の概要を語っている。
『彼らの共通するものとして次のフェニクスにエントリーをしていることだ、そしてみなケガを負って出場を辞退している』
「やはりユリスが狙われたことにも関係があるのだろうか」
『そうだろうね、だが彼女は自分の身は自分で守ると一点張りで風紀委員による捜査が難航しているのが現状らしい』
「彼女が協力してくればある程度の進展もあるかもしれないのに何故あんなにまで拒むんだろう・・・」
そのことについてクリムは集めた情報や英志の話に照らし合わせて自論を語る。
『そのことなんだが、彼女は自分の手の中のものを守るのに精一杯なのではないだろうか、新しいものを手に入れようとすれば手の中のものが零れ落ちてしまうのではないか、そんな思いが彼女の心に渦巻いているのだと私は思う』
「手の中のもの、か」
こればかりは彼女個人の問題であり部外者である自分に入り込む資格はないと英志はうつむいた。
『どうかしたのかい?』
「あ、いや、父さんならこんな事件も簡単に片づけられるのだろうなって思ってさ・・・」
弱気な発言を聞いたクリムはシフトカーを操作した英志の耳元でクラクションを鳴らす。その音に英志はハッと顔を上げた。
『英志、君が進ノ介を尊敬するのは構わない。だが彼を上に見すぎているのはいただけないな』
『進ノ介も生きている人間だ、間違うことも出来ないこともある。かつての仮面ライダーとしての行動だってその全てが最善だったとは言い切れないだろう』
『誰も完璧ではない、だがそれは可能性でもあるのだよ』
『今の君では進ノ介には遠く及ばない。だが自分が自分である答えを見つけ出したとき君は進ノ介を超えることができるだろう』
「僕が父さんを超える!?」
『Exactly、おっと・・・もう来たみたいだよ』
そう言いシフトカーは英志の元から離れ入れ替わるように綾斗とユリスが現れた。
******
ユリスの案内の下アスタリスクの主要な建物を回った綾斗と英志は昼食をとることに決めた。
「でもどうしよう、相手は一応お姫様だし半端な店に行くのは失礼だよね」
「ごめん英志、俺あんまりお金持ってないんだ・・・」
しかし二人の懸念は意外な方向に裏切られることになる。
「・・・・・」
件のユリスはいなくなったと思えばファーストフード店の看板にくぎつけになっており綾斗と英志は近づくと彼女は顔を上げた。
「綾斗、英志、昼食はここでいいか?」
「え・・・僕達は構わないけど本当にここでいいの?」
「ああ!ここがいい」
こうして三人はファーストフード店の野外席に座った。
目を輝かせながらハンバーガーを頬張るユリスの姿に彼女が一国の姫であることに違和感を覚えながら綾斗は真剣な表情になった。
「真面目な話をいいかな?」
「何だ?」
「前にユリスが襲われた件でクローディアと話しをしたんだけど・・・」
どうやら綾斗も綾斗でユリスに心配して生徒会長と話をしていたようだ。
綾斗はユリスにしばらくの間、一人での外出や決闘を控えるように申し出るが彼女の答えはやはり否であった。
「何故私がそんな卑怯者のために自分の行動を曲げねばならんのだ」
「・・・だよね・・・」
ユリスからの答えを察していた綾斗はそこで苦笑している。
「私の道は私が決める。私の意志は私だけのものだ」
そう強固な意志を見せるユリスに後ろから近づく者達が現れた。
「ほう、勇ましいじゃねえか謎の襲撃者に襲われたってのに」
そう言って屈強な体をした男とその取り巻きの二人がユリスを囲む。男の名はレスター・マクフェイル。星導館の序列九位にてかつてユリスに敗れた過去から彼女に強く再戦を迫っているという。凶暴な性格や襲撃の際のアリバイがないことからユリスを襲った犯人と疑われている男でもある。
(とはいえ証拠がなければ問い詰めることはできないか・・・)
英志が思索にふけっていると場に変化が起きていた。
相変わらず決闘を迫るレスターだが依然として断り続けるユリスに苛立ち荒声を上げ始める。そんな中綾斗は立ち上がりレスターをたしなめる。
「なんだテメェは、テメェには用はないから失せやがれ」
「そうはいかないよ」
「あ?」
ここでレスターは初めて綾斗に目を向ける。
「ユリスが襲われた時の状況を知らないのかい?こんなところで喧嘩を売るのはあの時の卑怯者達と同類と見られても仕方ないことだからね」
綾斗の卑怯者という言葉にレスターは過剰反応を見せ綾斗の胸倉を掴む。
「この俺様がコソコソ隠れ回ってるような奴らと一緒だと!?だったらまずはテメェから叩き潰してやるよ!!」
レスターは斧型の煌式武装を展開して綾斗の手前で振り落とす。だが綾斗は身構えることすらしないでただレスターを見据えている。
その姿にレスターの怒りの目盛りは上昇していき彼を睨み付けるがこれ以上はまずいと判断した取り巻き達が宥め始めた。
「落ち着いて!レスターが正々堂々相手を叩き潰してきたことは皆知ってるから!」
「そ、そうですよ・・・決闘の隙を伺うような卑怯な真似をレスターさんがするはずありません!」
「ちっ!」
それによって頭が冷めたのかレスターは引き下がり取り巻きを連れてその場を去っていった。
******
ファーストフード店でも一悶着を抜けた三人は夕日の中公園を歩いている。
すると怒鳴り声が聞こえてきたのでよってみるとそれはレヴォルフの学生達の抗争だった。
「止めに行った方がいいかな」
「いや、奴らがそんなことで引き下がるとは思えない。それに、これは抗争ではなくて罠だ」
ユリスが言い終わったと同時に後ろから殺気を感じた英志と綾斗はすぐさま刺客の奇襲を避けた。
乱闘を装い標的を囲んで痛めつける、よくある手段だとユリスは語る。
「ユリスを狙ってたのってレヴォルフだったてこと?」
「そうとも限るまい。こいつらのようなゴロツキは金さえ積めば何でも引き受ける」
そうしている間にも刺客の一人がユリスを狙って矢を放ち彼女は正当防衛をする権利を得る。
「あの・・・流石にウェルダンにするのは止した方が・・・」
「そうそう、ミリアムレアくらいで勘弁してあげなよ」
綾斗の言葉通りユリスは刺客が身動き取れなくなる程度に抑え蹴散らし、刺客の一人を掴んで依頼主について追及を始める。
「頼んできたのはどんな奴だ?」
「黒づくめで背の高い大柄な・・・あっ!あいつだ!あいつに頼まれたんだよ!」
刺客が指を指した先には正しく証言通りの何者か複数こちらの様子を伺っていた。そしてすぐさま逃げ去ろうと森の中へ走り出すのをユリスが追跡する。
綾斗は深追いをするユリスを追うために英志は謎の襲撃者に正体を突き止めるために二手に分かれて森の中へと入っていった。
******
森の中に入ると英志はすぐに襲撃者から攻撃を受ける。矢継ぎ早に放たれる光の矢をバク転で回避すると今度は別の襲撃者が斧を振り上げる。
『ネクストトライドローン!』
三台のネクストシフトカーが襲撃者を翻弄し英志を救う。同時にシフトカー越しのクリムのコールによって森の奥から現れたのは黒い車体に水色のラインが走るスポーツカーだ。その名もネクストトライドロン。仮面ライダーとなった英志の相棒となるスーパービークルである。
そのネクストトライドロンから射出された物体を英志は反射的に掴み取った。剣のシルエットを持つその物体の持ち手はメリケンサックと銃が合わさったような形状をしている。
『かつてのライダーの武器であったハンドル剣とブレイクガンナーの特性を併せ持つ新装備だ。その名も・・・』
「ガンナー剣ですね!」
『いや・・・その、分かった。好きに呼び給え』
正式にはブレードガンナーという名前があるのだがどうやら英志が父からネーミングセンスも受け継いだようだとクリムは諦めた。
早速ブレードガンナー改めガンナー剣を構えた英志は敵の振り下ろす斧を受け止めるとその隙をついて遠距離から矢が放たれるがガンナー部分から放った光弾で矢を相殺する。今度は後ろから三人目の襲撃者が剣を構えて貫こうと突進してきてきた。それに対して英志は目の前の相手を蹴り飛ばす。前方の憂いを払拭した彼はガンナー剣を一度上に軽く放り投げ逆手になるように持ち変える。
「やぁっ!」
振り向きざまにすぐ近くまで接近していた襲撃者の剣を弾き飛ばすと英志が一筋縄では行かない相手だと判断したのか三人ともすぐさま森の闇へと消えていった。
その後綾斗とユリスとも合流するがそちらも逃げられてしまったようだ。
(とりえず退けたけどあいつらは一体・・・)
それが戦いを終えた英志の頭に過る疑問であった。
******
次の日の放課後、英志は朝の出来事について考え込んでいた。
今朝教室でユリスに声をかけてみたが返事はしたものの手に持っていた手紙に夢中だったようで上の空のような状態であった。その後放課後になるとすぐに用事があるといって学校を去っていった。その様子を見ていた綾斗のルームメイトの夜吹は昔の彼女に戻ってしまったと言っていた。
(彼女に一体何が・・・)
思案を巡らせていると視線の隅で血相を変えてどこかへ向かう綾斗の姿を見た。
その時、肩にシフトカーが乗りそれを通してクリムは急報を伝えた。
『遂に我々が警戒していたことが起きたぞ英志!巡回していたシフトカーがロイミュードの影を捕らえたのだ!』
「何だって!?」
『通信によるとロイミュードの数は三体、再開発地区に向かってるらしい』
「再開発地区・・・どこかで見覚えが・・・っ!」
英志がユリスが睨んでいた手紙のことを思い出した。一瞬だけ見えた文字に再開発地区という言葉が書かれていたことに。
そして英志の視線に今までのことが次々と映し出され、彼の脳細胞にギアが入った。
—アスタリスク各域を調査させたシフトカーの報告によると僅かながら重加速が起こった形跡があるようだ
—星導館五位襲撃される
—彼女は自分の手の中のものを守るのに精一杯なのではないだろうか
—決闘の隙を伺うような卑怯な真似をレスターさんがするはずありません
—ロイミュードの数は三体、再開発地区に向かってるらしい
「・・・繋がった」
そう言い英志は右腕に巻き付けられたネクタイを強く締める。学園へ向かう当日、父から貰い受けた長年愛用しているネクタイ、ここぞと言う時にトップギアになれると託されたネクタイを。
「ユリス襲撃の犯人はレスターの取り巻きの男だ。あいつは決闘の隙を伺うようなことをレスターはしないと言っていたけどそもそもあの記事に決闘中に狙われたなんて一言も書いていない。それを知っているのは実際に決闘を見ていた者か犯人かのどちらかになる!」
『なるほど、そして彼は確実にユリスを仕留めるために彼女を再開発地区に誘き出したということだね』
では何故それを自分達に言わなかったのか、恐らくそれは英志も綾斗も彼女にとって守るべき手の中のものに入ってしまったからであろう。先ほどの見た綾斗の行動はそれらに気づいた故なのだろう。
『だとしたらまずいことになった。シフトカーの情報を重ね合わせれば犯人はロイミュードと共謀している可能性が非常に高い。彼ら星脈世代の力は絶大の一言だが重加速に対応できないいじょうロイミュードには手も足も出せないだろうね・・・』
「このままでは綾斗とユリスが危ない!すぐにでも助けに行かないと!」
英志はすぐさま懐からクリムに渡されたネクストトライドロンキーを押してステルスモードで潜ませていたネクストトライドロンを目の前に呼び出し飛び乗った。
『こんな時に聞くのもあれなのだが、君は未成年だろ?運転はできるのかね?というか免許は?』
「大丈夫です走り方は父さんから教わってますので」
『Oh・・・進ノ介、いくら車好きだからって二十未満の子供に運転を教えていたとは・・・』
この時クリムがちゃんとした体を持っていたら頭を抱えていることは想像に難くなかった。
『まあそれはともかく今回で初めての実戦となる。覚悟はできているね』
「はい!!」
そう言い英志は腰にドライブドライバーを巻き付け、左手にシフトブレスを装着、右手でシフトネクストスペシャルを握り万全の体制を取った。
『よろしい。では行こうか、Start our Mission!!』
英志はドライブドライバーのイグニッションキーを捻る。アイドリング音に似た待機音が流れる。
「変身!」
【DRIVE!Type!NEXT!!】
声を上げると同時にシフトブレスにシフトネクストスペシャルを装填。英志の体は車内で瞬く間に黒い戦士に早変わりし前から射出されたタイヤを胸にかけることで変身の完了である。
そして戦士の姿となった英志はネクストトライドロンをフルスロットルで走らせ再開発地区へと急行した。
そのスピードは旧トライドロンを凌駕し走る姿は一般人からしてみれれば黒い風に見えてたであろう。
******
再開発地区にてすでに戦闘は行われていた。
一連の事件の犯人サイラス・ノーマンが操る自動人形によって呼び出したユリスとレスターを追い詰める。だがそれは駆け付けた綾斗によって阻まれてしまう。自動人形を次々と斬られ、クイーンと称した巨大な自動人形もまた綾斗の卓越した剣捌きと黒炉の魔剣の力によって一瞬の内に倒されても彼の表情に陰りはない。むしろその逆であった。
「どうしたんですかぁ?そんなに息を荒げて先ほどまでの威勢をもう一度見せて下さいよ!それとも僕の真の
サイラスの前に立つ綾斗は何とか息を整えながら突然サイラス呼び出した敵を見据える。
(何なんだこいつら)
目の前の二体は今までサイラスが使役していた自動人形とは明らかに雰囲気が違っていた。
片方はクモのような顔を片方はコウモリのような顔をしている。識別番号なのかその胸には『134』、『141』と書かれている。
「おらおらどうしたぁ!もう終わりかぁ!」
胸に141とナンバリングされたコウモリの怪人が綾斗に向かってパンチを放つ。それを黙って受け止める綾斗ではなくすぐにパンチを横に避けて無防備な怪人に太刀を浴びせる。
「天霧辰明流抜刀術・・・九牙太刀!」
目にも止まらぬ速さで剣を振るいさらに黒炉の魔剣の圧倒的攻撃力も加算されコウモリ怪人はあっという間にバラバラに切り裂かれる。だが・・・
「うぎゃー!・・・なんてな」
こちらを挑発するように絶叫を上げた怪人の体は一瞬の内に元通りになってしまう。
「・・・またこれか・・・!」
三度目の瞬間再生を目の当たりにした綾斗は顔を歪め額に汗を垂らす。
(まずい・・・このままだと時間切れだ・・・)
綾斗は自身が持つ強すぎる力を姉によって封印されてた過去があり。今その枷を外している状態なのだが解放状態でいられるのは僅か五分。このままでは一体も倒すことなくタイムリミットを迎え封印を解いた反動で身動きが取れなくなってしまう。そうなってしまえば完全に詰みだ。
「無ー駄無駄-!コアを破壊しないかぎりいつまでも再生するように作られてんだよ俺達はな!」
コウモリ怪人は自身の仕様を誇示するかのように叫んで脇腹を蹴り上げ綾斗は天井に叩き付けられる。
「綾斗!」
一歩離れた距離でそれを見ていたユリスは負傷した足が痛むのを無視して綾斗の元へ駆け寄ろうとするがそれを気配なく背後に回ったクモ怪人に阻まれる。
「おいおい他人の心配している場合じゃないぜぇお嬢ちゃん」
「くっ、失せろ!」
ユリスは振り向きざまに炎を怪人の顔面めがけて放ち怪人の頭は豪炎に包まれる。しかし、全くの効果がないことにユリスは仰天する。
「あーあ、せっかくのハンサムフェイスが台無しだよこれー。どう責任取ってくれるんだゴラァ!」
燃え上がった状態で豹変したクモ怪人は指から光弾をユリスを足元へと撃つ。弾が地面に触れると爆発を起こしユリスはその爆風で吹き飛ばされてしまう。
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!」
宙を舞ったユリスは飛び上がった綾斗に抱えられる形で助けられる。
「大丈夫かいユリス?」
「この状況のどこが大丈夫だというのだ・・・」
目の前には事件の元凶のサイラスがいる。彼のこちらを見る目には優越感に溢れていた。圧倒的な力を持ってるものをより強い力を借りることで蹂躙しているということは彼にとってこれ以上ない愉悦なのだろうか。
それに対し二人は強い怒りを感じるが同時に奴に一矢も報いることのできない自分達の力不足を痛感していた。
「そろそろチェックメイトといきましょうか。あなたの出番ですよ」
サイラスは指を鳴らすと後ろの柱から現れた存在に綾斗とユリスは目を見開いた。
「なん・・・だと・・・!?」
「サイラスが・・・もう一人いるだと!?」
そう、柱から現れたのはサイラスと同じ顔をした人物であった。
二人は知らないのだ。自分達が対峙しているのがかつて人類を恐怖のどん底に陥れた機械生命体ロイミュードであることに。それらが人間の顔をコピーし社会に隠れ、コアを破壊しない限り倒すことができない性質だということに。そして現代に現れた新ロイミュードがかつてもロイミュードを遥かに凌ぐ力を持っているということに。
「我々の姿を見たあなた方には死んでもらいましょう・・・このウィップの手によってね」
そういいサイラスをコピーしたロイミュードは本来の姿へ変貌する。
ドレッドヘヤーのような頭部に全身の至るところにチューブを取り付け、両腕には身長よりも長い二本の鞭を携えたロイミュードの進化体、ウィップロイミュードへと。
ウィップロイミュードが手をかざすとその瞬間周りの速度が著しく低下する。
「なんだこれは!?」
「体は思うように動かない!?」
これがコピーと同じくロイミュード全個体に持っている能力、重加速。かつてどんよりとも呼ばれた現象だ。
そしてウィップロイミュードは先ほど宣言通りしならせた鞭を綾斗とユリスの首に巻き付ける。
「このっ・・・放せ!」
「くっ・・・ダメだ。外れない!」
鞭を切ろうと腕を動かすもゆっくりとでしか動けずウィップロイミュードが常に鞭を振り回していることで二人は地面に転がり外すことがかなわない。
「我々の邪魔をしてくれたあなた方には特別な方法で殺して差し上げましょう」
ウィップロイミュードがそう言うと二人の首を絞める鞭が電流を帯び始めていく。
「僕の鞭は最大五億ボルトまで電圧を上げることができましてね。しかしいきなりそこまで電圧を上げたらすぐに死んで面白くない。ですので一分毎に電圧を少しづつ上げていくことにしましょう!さあ怯えなさい!許しを請いなさい!そして自分の焦げるの音を聞きながら死ぬのです!!」
二人は必死に抵抗するも鞭は締め付けが強まるばかりである。だが二人は決して諦めない。己が抱く信念のためにここで死ぬわけにはいかない。そう強く意識するも鞭の締め付けは増すばかりで一向に解ける気配はない。
絶体絶命
そう思われた時、彼は駆けつけた。
床を突き破り現れた一台の車から一人の戦士が出てきた。彼は止まっている時の中にも関わらず普通に動いている。
「奴は何者だ?」
「まさか、新手の敵?」
突然の乱入者に警戒していると彼は振り向きこちらに何かを渡してきた。ミニカーのようなものを付けたホルダーが綾斗とユリスの腰に装着されると二人は重加速の影響下から解放される。
「綾斗、ユリス。無事かい?」
「その声は・・・英志!?」
聞き覚えのある声に目を見開く綾斗。その問いに黒い戦士は頷く。
「お前・・・本当に泊英志なのか?」
「うん、僕は正真正銘の泊英志。そして奴らロイミュードを倒すためにここへ来た仮面ライダーだ!!」
そして英志はサイラス達と対峙するために彼らから背を向けた。その背中は理屈抜きで頼もしく見えた。
******
「泊ぃ?仮面ライダぁ?」
英志の言葉をオウム返しに呟いたサイラスは目の前の仮面ライダーと名乗った少年を見てあざ笑う。
「なるほどそうですか。あなた、泊進ノ介の息子というわけですね」
「父さんと知っているのか?」
知らないはずないじゃないですか、とサイラスはロイミュード達を制止させ挑発的な口調で話しかける。
「なんたってかつて世界の危機を救った英雄なのですから、その二人のように知らない方が不自然なくらいですよ。いやはやそれにしても僕は光栄だ。誰もが称える英雄のご子息の姿を拝見することができたのですから・・・ですがね・・・」
その瞬間、サイラスの顔が潰れた果実のように歪みだした。それはまるで屈折した彼の、いや、この街そのものを表現するかのように。
「あなたに何ができる!どれほどの力を持っているかは知らないがたった一人で何をしようというのです!このアスタリクでは誰もが敵、騙し合い奪い合うのが常であるここのおいて仮面ライダーという異分子が出てきたところでこの街の闇があなたを排除しに来るでしょう!あなたはただ闇に飲み込まれ己の無力さを思い知るだけです!!」
世界を実質的に支配する6つ企業財体が経営するこの街は謂わば彼らの戦場だ。互いが互いの裏をかき、蹴落とそうと策謀を巡らせる。利益にならないもの、邪魔になるものを徹底的に排除するこの街にとってロイミュードはどんなにリスクがあったとしても己の欲を満たすために恰好の道具として魅入られる者も増えていくのだろう。逆にそのロイミュードを撲滅しようとする仮面ライダーは敵として命を狙われることになってしまうということを英志は否定し切れない。
既存の論理が歪められたこの世界の闇の中心地において正義と悪は誰が決めるのであろうか。少なくとも一人の人間でしかない自分にそれを決める権利はないと英志は感じている。それでも・・・
「だとしても僕のやるべきことは変わらない。人の思いを踏みにじろうとするお前達を逃がさない。どんな闇が迫って来ようとも逃げたりしない・・・闇へと突っ走って闇を貫いてみせる!!」
拳を突き出し、闇へと立ち向かう覚悟を見せた英志にクリムの心が揺れ動いた。
泊進ノ介、詩島剛、チェイス。今まで自分が見てきた三人の仮面ライダーの誰にも似ていない意思を英志から垣間見たからだ。
『(どうやら君は君なりの答えに近づいているようだね)Great!たった今君は本当の意味での仮面ライダーとしてのスタートラインに立った!そんなに君に新たな名前を与えよう。闇へと突っ走り闇を貫く戦士・・・そう、君の名は仮面ライダー・・・ダークドライブだ!!』
「
『そう、君にあえて闇の称号を与えよう。闇なら闇に飲まれることはないからね。闇と立ち向かうのにはうってつけだろう?』
「そうですね、じゃあその名を受け取りましょう」
そう言い腰をゆっくり落としロイミュード達を見据える。奇しくもそれは父である進ノ介が最初の変身の際にやった構えと一致していた。
「僕は仮面ライダーダークドライブ。悪党ども、ひとっ走り付き合えよ!!」
「何をふざけたことを。あなた達やってしまいなさい!」
サイラスの発した命令により三体のロイミュードはダークドライブへと攻撃を仕掛ける。しかしそれをダークドライブは上半身を反らすことで回避しそこからカウンターでウィップを退け134を蹴り飛ばした。
「この野郎!」
134が吹っ飛ばされるのを見た141は羽を展開して飛び上がり急降下して体当たりを放とうとする。それに対しダークドライブは腕を横に突き出した。
「来いガンナー剣!」
合図に反応してネクストトライドロンからガンナー剣が射出され受け取ったダークドライブは迫り来る141を袈裟切りにする。
「グギッ!?おのれ・・・!」
141は切られた胸を抑えながら片方の手を巨大な銃器へと変形させる。
『後ろには負傷した綾斗とユリスがいる。避けずに撃ち落とすんだ』
「はい!」
返事と同時に打ち出される141の弾丸。ダークドライブはガンナー剣の銃口を弾丸に向けて引き金を引く。
放たれた光の弾が敵の弾丸にぶつかり相殺される。141は弾丸を機関銃のごとく連射するがそれもガンナー剣の弾幕によって撃ち落とされ運よく通り抜けた弾丸も剣撃によって切り裂かれる。渾身の攻撃を全て防がれうろたえる141。それが仇となった。
隙を突いたダークドライブはドライバーのイグニッションキーを捻りシフトブレスに設置されているイグナイターを押す。
【NEXT!】
ドライバーから音声が響き刃にエネルギーが流れ込み青く発光する。
「せいっ!」
ダークドライブがガンナー剣を逆袈裟状に振り上げると刃に溜まっていたエネルギーが斬撃となって飛び出し前方にいる141を両断した。
「グギャァァァァァァ!?」
綾斗に斬られた時とは全く違う絶叫を上げ141はコアごと破壊され爆散した。
「コアごと破壊しただと!?」
それを見たサイラスは目を見開く。コアさえ無事なら一瞬の内にボディを再生できる新型ロイミュードであっても心臓部であるコアそのものを破壊されれば再生できずに消滅してしまう。
「くっ・・・ここは逃げるのが得策ですね」
そう言い綾斗らによって破壊された自動人形の残骸を操作しサイラスはこの場からの逃走を図る。ダークドライブはそれを阻止しようと残骸に向けて発砲するがウィップの電磁鞭が横からそれを打ち消した。
ウィップはダークドライブが自分達にとっての脅威であるとともに数少ない仲間を殺した仇であると認識し鞭を振るう。このままではサイラスに逃げられてしまう。焦る英志だが後ろに綾斗達が動き出した。
「あいつが俺達が引き受ける!君はそのまま奴らを戦っててくれ」
「このままやられっ放しなのが性に合わんからな!咲き誇れ、
綾斗の背中の炎の翼が現れ既に空に浮上したサイラスを追って飛翔していく。サイラスは彼らに任せダークドライブは目前で火花を散らす鞭を握るウィップロイミュードと睨み合う。
「141の痛みを味わいなさい!」
「それなら君は綾斗やユリス、それに今まで襲ってきたであろう学生達の痛みを受け取れ!」
蛇のように襲い掛かる電磁鞭をダークドライブはガンナー剣を駆使して弾きもう一度イグナイターを押して斬撃を放つ。進化体のため先ほどのように一撃で倒すことはできなかったがそれでもかなりのダメージを受けているのかウィップは怒りの混じったうめき声を漏らしうずくまっている。
『今だ!』
クリムの指示通り追撃するべくイグニッションキーに捻ろうと手を伸ばすダークドライブだがその時突然後ろから伸ばされた手に捕まれ行動を中断させれらた。慌てて手の方を見るとそこには先ほど遠くまで蹴り飛ばしたはずの134が目の前にいた。
(いつの間に!?全く気配を感じなかった)
『驚いている場合じゃないぞ英志。すぐに反撃するんだ!』
悟られずに自分の後ろに現れた134に動揺する英志だがクリムの声に我に返りすぐさま手を振り回して134を投げ飛ばす。そこから宙を浮いている134目掛けて光弾を放つが何と光弾は134の体を通り抜けて天井に命中してしまった。
「どうなっているんだ」
着地した後も発砲を続けるがやはり弾は通り抜け続けるだけだ。そして優位にたった134が自身の能力を吐露し始める。
「無駄だぜ、俺には他の奴らにはない液状化能力があるのさ。だから俺にはどんな攻撃も無意味なんだよ」
先ほど突然現れたのも液体に変化してダークドライブに近づいたのだろう。
「134、自分の能力をすぐに明かしたがるのはあなたの悪い癖ですよ」
「いいじゃねえかよウィップ。俺の能力は無敵だからタネがバレても大丈夫なのさ、こんな風にな!」
ウィップの苦言を無視した134は液体状になって飛び掛かってくる。ガンナー剣から弾を放って対応しようとするが当然すり抜けられ134は目の前で実体化し飛び蹴りを放つ。咄嗟に防御したもののその威力は余波だけでコンクリートの床を抉れさせるほどであった。
「単なる能力だけじゃなくパワーも高いなんて」
『敵もそれほど強化されているという証拠だ。だが強化されているのはロイミュードだけではない、彼らもだよ』
「なにごちゃごちゃ言ってやんがんだ・・・うわっ、何だこいつ!?」
134の前に現れたのはシフトカーの一つネクストハンターだった。ハンターは自身が走った後に柵を出現させ油断していた134を転倒させダークドライブの手の元へ到着する。
『ネクストシフトカーの性能を発揮する時が来たようだな。さあ英志、今こそタイヤ交換だ』
「いつの時代もパトカーの援軍はホッとしますね」
そう言ってダークドライブはシフトブレスからシフトネクストスペシャルを外し代わりにネクストハンターを装填した。
【タイヤコウカーン!NEXTHUNTER!!】
ドライブドライバーのディスプレイが変化しネクストトライドロンからタイヤが放たれダークドライブの胸のタイヤを入れ替わった。
これがタイヤ交換、かつてのドライブと変わらぬ能力をダークドライブも持っているのである。
「はっ!」
立ち上がった134のパンチを鉄格子型の盾ジャスティスケージで防ぎバックステップで距離を取ったダークドライブはジャスティスケージを放り投げる。すると134の頭上に浮きそこから格子が射出され一瞬に内に檻が作られた。
「はんっ!だから何だと言うんだ?こんな檻液状化して隙間から抜け出してやるぜ」
「・・・」
【HUN!HUN!HUNTER!!】
檻に捕らわれても余裕の表情で液状化し脱出しようとする134を見てダークドライブはネクストハンターを三回シフトアップさせ秘められた能力を発動させる。
ジャスティスケージが檻から変化しキューブ型へとなり液体化した134を完全に閉じ込めた。
「チクショー・・・でも俺にはどんなことをしてもダメージを与えることはできねえぜ」
「そうだね。君が液状化している限りはね・・・」
「どういう意味だそれは・・・何!?体が・・・!」
134は驚愕した。突然ジャスティスケージから冷却ガスが発生し液体化した134の体を凍結させてしまったのだ。
これがジャスティスハンターから進化したネクストハンターの力。強度の上昇は当然のこと形状変化や冷却ガスなどの多機能を追加しあらゆる敵を閉じ込められるように強化されているのだ。
そしてダークドライブは動けなくなった134にとどめを刺すためにイグナイターを押した。
【ヒッサーツ!!Fullthrottle!HUNTER!!】
「たぁぁぁぁぁぁっ!」
青色のエネルギーを握りしめたダークドライブは134に強烈な拳を叩きこみ檻ごと粉砕する。ボディが破壊されたことによって出てきた134のコアもダメージに耐えきれず砕け散った。
「後は・・・」
ウィップだけ、と言おうとしたその瞬間ウィップロイミュードの鞭がダークドライブの全身を締め上げた。
「しまった!」
拘束から脱しようともがくも鞭は強く締められ緩む気配が全くない。
「よくもやってくれましたね・・・あなたもじわじわ焼き殺そうと思いましたが止めました。一気に五億ボルトまで上げて一瞬の内に殺して差し上げます!!」
宣言通り凄まじい電撃が鞭を伝ってダークドライブに襲い掛かる。強固な装甲によって今のところ英志自身には僅かなダメージしか通っていないが装甲は焦げ始め一分もしない内にボディは破壊され五億ボルトの電圧がそのまま英志に降りかかることになってしまうだろう。そうなれば終わりだ。
起死回生のために英志はクリムに問い掛ける。
「ベルトさん、あなたひょっとして逆転の一手を隠し持ってたりしませんよね?」
『何故そう思うのかね』
「父さんは言ってました。ベルトさんは胡散臭い秘密主義者だって。でもそれによって助けられたこともあったって」
『なるほど。私のことをよく知っているではないか』
「ということはやっぱりあるんですか!?」
その質問に対するクリムの答えはイエスだ。
『ああ、シフトネクストスペシャルの両面をよく見てみたまえ』
言われた通りシフトネクストスペシャルを取り出し観察すると両側にシフトブレスに装填できる部位を発見した。
『以前言ったシフトネクストスペシャルの未完成な部分だ。強力無比な力を得られるがデミリットは大きいぞ』
「イチかバチかか、でもこの状況を打破できる可能性があるのなら僕はそれにかけてみる!!」
英志は迷わずシフトネクストスペシャルを黄色の方を上に装填しシフトアップさせる。
【DRIVE!Type!SPECIAL!!】
ドライバーから音声が鳴り響くとボディが大きく変化する。体に走るラインの一部が黄色に変わり頭部も旧ドライブに近いものになった。これこそがダークドライブの切り札、タイプスペシャルだ。しかし未完成な状態で変身した故にタイヤとボディの接する部分から火花が飛び散りだす。
『この形態を維持できるのは5分間だけだ。それ以上この形態でい続ければ君自身にも負担がかかる』
「そうですか・・・それなら5分の内に僕の全力を出し切ります!」
【SP!SP!SPECIAL!!】
三回シフトアップすることによってダークドライブはウィップの元へ爆発的に加速する。電磁鞭が体を貫こうと襲い掛かるが手前に出現したバリアに触れ弾かれる。
瞬く間に肉薄したダークドライブはウィップを切り上げ宙に浮かす。その間ガンナー剣を逆手に持ち替えこぶしを握り締めた。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
メーターが乱雑するようなエフェクトをもってダークドライブは無数の拳撃をウィップに放ち続ける。
そしてラッシュの締めとして強烈なアッパーを繰り出しウィップを天井を突き破って空高く打ち上げるとダークドライブはイグナイターを押した。
【ヒッサーツ!!Fullthrottle!SPECIAL!!】
独りでにネクストトライドロンが飛翔しウィップの周りを超高速で旋回することによって青色の磁場を作り出しウィップを固定する。
続いてダークドライブも飛び上がり高速回転しながら喉が千切れんばかりの声を張り上げ強烈なキックでウィップロイミュードを貫いた。
「おのれ仮面ライダぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
恨み節を叫びながら体内のコア115を砕かれウィップロイミュードが完全に撃破されると同時にダークドライブはネクストトライドロンと共に地面へ着陸し変身を解いた。
『NiceDrive!』
初めての戦闘を終えた英志にクリムは労いの声を掛けた。
その戦いの一部始終を覗く一台のシグナルバイクの存在に気付かずに・・・
******
「ふぅーん。これがもう一人の仮面ライダー君か」
とあるビルの屋上にてクインヴェール女学園序列一位にて至高の歌姫と称される少女シルヴィア・リューネハイムはシグナルバイクから送られた映像を見て隣にいる少年に声をかけた。
「泊英志君・・・だっけ?確か君の従兄弟に当たる子なんだよね」
「まあね」
シルヴィアの問いに答える少年の着ている制服は他の誰も着用していないものであった。それもそのはずクインヴェールの男子制服なのだ。本来あるはずのない制服であるがこの少年は特別で歴代唯一のクインヴェール女学園の男子生徒である。そんな彼は前髪をいじりながらモニターに写るダークドライブの姿を見据える。
「まっ、こんな奴より俺の方が一億光年先に行ってるけどな!」
「ふふっ、ライバルが登場した割に随分余裕なのね、詩島君」
「当然、何たって俺は・・・」
そう言い詩島と呼ばれた少年は立ち上がり懐からメタリックに輝くネクストシステムの最新型ドライバー『マッハドライバー煌』を取り出し腰にセットする。そして銀色のシグナルネクストをドライバーにセットした。
「Ready・・・変身!」
【シグナルバイク!ライダー!ネクストマッハ!】
豪快な音を響かせ少年の体に銀色の装甲が覆いつくす。その重量を感じさせない程の軽快な動きで少年は高らかに名乗りを上げる。
「瞬く間に追跡!瞬く間に撲滅!その名も~・・・仮面ライダ~・・・ネクストマッハ・・・って何か長いな・・・そうだこれにしよう!仮面ライダ~・・・フラッシュ!!」
決めポーズを決めながら新世代の仮面ライダー『仮面ライダーネクストマッハ』改め『仮面ライダーフラッシュ』は街の景色を見つめる。
「ロイミュード撲滅レースに勝つのはこの俺仮面ライダーフラッシュさ!」
******
「はぁ・・・はぁ・・・!」
星導館学園生徒襲撃事件の主犯サイラスは路地裏の中で逃げ回っていた。綾斗の追撃によって飛行用の自動人形は破壊されたもののしぶとく耐えきり再起を図ろうと目論んだ彼を淡々とダークドライブが追跡する。
「くそっ!いつまで追ってくる気だあいつは!」
『生徒襲撃事件の主犯サイラス・ノーマンを発見。直ちに捕縛する』
無機質な声で迫り来るダークドライブに恐怖を感じたサイラスは懐のナイフを投擲する。それを弾くために足を止めたのを見計らって全力疾走で出口に駆け出した。路地裏から脱し人混みに紛れて逃げ延びるのがサイラスの算段であった。事実それはダークドライブとの距離を広げることによって成功に近付きつつある。逃走成功を確信し口元を歪ませるサイラスの表情は角を曲がり切った瞬間覆されることとなる。
角の先には泊英志が待ち伏せしていたのだ。
「バカな!?お前は後ろにいるはず、何故急に!?」
「答える必要はない!」
ダークドライブとして追って来ていたはずの英志が目の前に姿を現したことに仰天するサイラスの頬を英志の鉄拳が貫いた。間が抜けた悲鳴を上げサイラスは壁に衝突して気絶した。そして遅れてやってきたダークドライブが彼を拘束する。ではダークドライブに変身していた者は何者なのだろうか?それに対する答えはただ一つ、
変身者がいなくてもある程度の動きができる遠隔操作機能を活用した挟み撃ちが成功し英志とクリムは縛り上げたサイラスを見下ろす。
『所で彼の処置についてなのだが、君はどうする』
「どうするって言われても警察に・・・あ、いや、ここでは星猟警備隊っていう組織でしたっけ?」
「それなら私に任せてくれませんか?」
サイラスの処置についての相談を始めた英志とクリムの後ろから聞き覚えのある声が聞こえ振り向くとやはり視線の先にいたのは予想通りの人物であった。
「クローディア会長?」
「もう、クローディアで良いと申しましたのに相変わらずお堅いのですね英志は。まあ呼びやすいのならそのままで構いませんけどね」
そう友好的に話しかけていく姿勢とは裏腹に両手には双剣型の純星煌式武装パン=ドラが握られているのを見た英志はクローディアに警戒心を強め、ガンナー剣を取り出す。
「そんなに身構えなくてもいいですよ。これは万が一に備えて持ってきただけですので」
彼女がパン=ドラの武装を解除し戦意が無い事を意思表示したため英志もガンナー剣を下げた。
武器を下げたのを確認したクローディアは思わぬ言葉を英志に向けてかけた。
「英志、初めての実戦の勝利おめでとうございます」
「えっ?」
予想外の言葉を掛けられ戸惑う英志の横を通ってクローディアはダークドライブの前に立つ。
「お初にお目にかかりますクリム・スタインベルトさん。私は星導館学園生徒会長を詰めてるクローディア・エンフィールドという者です。この度は我が学園の生徒を救っていただいたことを深くお礼申し上げます」
『ふむ・・・我々のこともお見通しというわけか』
クリムがそう思うのは名前を呼ばれたことよりもクローディアの目線である。現在彼は空のダークドライブの腰に巻き付きボディを操作している。
初見の人間ならクリムの目を見ろと言われた場合ダークドライブの水色のカメラアイに向けるであろう。だが彼女は腰のドライバーに目を向けて話しかけている。
それはクリムの意識がドライバーにあることを知っての行動。つまり自分達の情報は既に彼女に掴まれていたのだ。
「でもどうして会長は僕らのことを知った上でこの学園に入れたのですか?」
「知っているからこそですよ。これから起こる危機に対抗できるヒーローを手元に置いておきたいというのがそんなにおかしいことですか?」
「は、はぁ・・・」
「あら、どうしましたか?こんな答えでは不服でしょうか?」
「いや、割と理解できる答えだったので肩透かしを食らったというか・・・」
「生徒の安全を守るのも生徒会長の務めですから。しかし英志、勝てたはいいもののちょっと掛け付けるのが遅かったんじゃないですか」
「えっ」
「後少し遅れていたら綾斗が大怪我を負っていたのかもしれませんのに。これは少し教育が必要ですかね・・・」
ドロドロとしたオーラを醸し出すクローディアに英志は思わず後ずさる。するとすぐに彼女はオーラを引っ込め作為的な笑みを見せる。
「冗談ですよ冗談。とにかく我が星導館学園はあなた達のサポートをしていくつもりですのでよろしくお願いしますね、仮面ライダーダークドライブさん」
そうクローディアは先程できたばかりの名前を呼んで踵を返していった。ふと顔を下ろすと足元で気絶していたはずのサイラスがいなくなっているのに気付いた。恐らくは会話の隙をついて星導館の諜報工作機関陰星の者が彼を連れ去っていったのだろう。
『この街は私達が思っていたよりも一筋縄ではいかない所のようだったね』
今日起こった一連の出来事についてクリムは一言呟くのを英志も頷いていた。
******
「あらら、負けちゃったか~。もうちょっとデータを集めたかったんだけどな~」
アスタリスクの六つの学園の中でも異色の学園アルルカント・アカデミーの研究室にてでこの事件の黒幕エルネスタ・キューネは路地裏に設置していた監視カメラからの映像を見てロイミュードの敗北を確認して落胆の声を落とす。
「ま、でもこっちが必要としていたデータは充分とれたし足りない分は他の奴から採取すればいいもんね。何たって108体もこの街に潜んでいるんだから」
エルネスタは手前のコンピュータを操作しながら近くで黙々と自身の作業に従事していたカミラ・パレートに話しかける。
「それにしてもすごいよねロイミュードって。人間の模写とはいえあんなにまで確固した自我を持つ人工生命体なんて私の夢そのものだよ。情報をくれたばなんのかさんにはお礼を言わなくちゃね」
「・・・クライアントの名前くらいちゃんと覚えたらどうだ?」
「ごめんごめん、あの人の名前覚えづらくてさ」
「全くお前という奴は・・・」
相変わらず研究対象にしか興味を向けない相方にため息をつきながらカミラはこれまでの経緯を遡る。
数か月前突然自分達の元にとある人物からメールが届いた。内容はロイミュードの精密な身体情報とそのデータを下にある3体のロイミュードの作成の依頼であった。すっかりロイミュードの魅惑の虜となったエルネスタはすぐさま受託し制作に取り掛かったのである。その最中アスタリスクに潜伏するロイミュードとコンタクトを取り何体かを制御下に置き今回の事件も進化体の戦闘データを取るための実験を兼ねていたのである。
「我々に情報を送ってきた奴は一体何者なのだろうか」
「誰だっていいよ。私は私の夢のために利用できるものを利用するだけさね。それよりも・・・」
そう言いエルネスタは研究室に置かれたカプセルに手を当てその中にいる心臓をむき出しにした赤いロイミュードを見つめる。
「彼が動いて仮面ライダーと戦うところを早くみたいなぁ」
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事件を収束させた英志は現在ビルの屋上にて夕日を見据えていた。瞳に写る街はとてもいい絵になる。叔父がいたのなら写真を一つ撮っていることであろう。
だがこの街にかつて人類を恐怖に陥れた怪物達が後105体潜んでいるのだ。
『英志、今日は始まりに過ぎない。ここから君は仮面ライダーとして多くの敵と対峙していくだろう。その中で傷つき倒れることもあるかもしれない』
『敵』と表現したのは自分達の前に立ちはだかる者がロイミュードだけとは限らないことを示してのことだろうか。英志はクリムの言葉を一字一句胸に刻み続けていた。
『だがどんな困難が立ちはだかろうとも自分が正しいと思った道を一直線に走れる強さを持ち続けて欲しい。それが私が君に対するたった一つの願いだ』
「・・・はい」
返事をした英志は手のひらにあるシフトネクストスペシャルを握りしめた。これから自分はこのシフトカーに宿った力を駆使して未知の戦いへと乗り込んでいくのだ。そう感じていると早速シフトカーの一台が重加速反応を捉えた。どうやら人気の多いところでロイミュードが暴れているらしい。
英志はドライバーのクリムと目を合わせて呟いた。
「Start our Mission」
『OK』
【DRIVE!Type!NEXT!!】
短い言葉を交わした二人は変身し彼らのスーパービークル ネクストトライドロンへと乗り込んだ。
真っ赤に燃える太陽を背中に受けて新たな仮面ライダーは走り出した。その先に何が待っていようとも彼らは足を止めたりしない。彼らを必要としている者達が居る限り。