双月の世界、月の勝者   作:ベイカーズ

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第一話 召喚魔法

「みんな見ろ! 『ゼロ』のルイズが平民を召喚したぞ!」

「確かにあれは平民だな! しかも二人だ!」

「やっぱり『ゼロ』がまともに魔法が使えるわけがなかったんだ!」

 

 嘲りの色をふんだんに含んだ声を四方八方から浴びせられ混乱してしまう。久しく見ていない青空と芝生が眼前に広がり、そよ風が頬を優しくなでるのを感じる。だがいつまでも混乱しっぱなしというわけにもいかない。混乱を経たのなら次にすべきことは冷静になること、そして現状を理解することだ。

 

 名前、岸波白野

 性別、男

 年齢、おそらく十七

 職業、魔術師(ウィザード)

 記憶、存在

 

 自分の基本プロフィールを振り返ることができて安堵のため息をこぼす。月の表と裏で二度も記憶喪失を経験してしまっている身としては過去を思い出せるというのはそれだけで不安を取り除くに足る材料だ。

 

 しかし思い出せるのはあの戦い――聖杯戦争のことだけだ。最弱のマスターとして覚悟もできぬまま参戦し、抗い続けた記憶。瀕死、決心、戦闘の連続であったが自分のあきらめの悪さ、そして支えてくれた仲間がいたからこそ駆け抜けることができた。たとえそれしか思い出せなくても悲観はしない。悲惨で凄惨なことばかりだったが、それに負けない絆を掴んだ、忘れてはならない(忘れたくない)記憶。

 

 自身の確認が済んだのなら次は周りの確認だ。

 

 目前にそびえ立つ城を彷彿させる石造りの建物。数メートル離れたところに立ち並ぶ西洋風の容姿をした人々。その若い顔つきと皆が似た服装をしていることからここは学校か養成所のような場所なのだろう。今しがた気づいたが隣には青い服を着た黒髪の少年が自分と同じくしりもちをついている。

 

 彼も自分の状況を理解していない?

 

 挙動不審となっている様子からもその予想は当たっていると思う。とはいえ理解度は自分より上の可能性は十分にありうるが。

 

 隣の少年の次は自分を明らかに警戒している二人を一瞥する。一人は痩せた体に長身、そして頭がさみしい男。もう一人は小柄で水色の髪をした少女。今挙げた二人はこの集団の中でもとびぬけた手練れであることが視線から感じられる。視線だけで伝わるほどなのだ、かなりの修羅場、実戦を経験しているはず。このような二人が所属しているということは、ここはなにかの訓練所である可能性も浮上してきて自分の中での警戒レベルが上がる。

 

「あんたたち……誰?」

 

 そんなどこか諦観というか絶望というか、とにかく暗い声がかけられる。その声の主は高いとはいえない身長に桃色の髪をしていて、負けん気の強そうな、されど品のある顔つきが印象的な少女だった。

 

「言葉が通じないの? どこの平民?」

 

 こちらが返答しないからか、再び暗い声で問いかける少女。そんな彼女を周囲の者が嘲笑している。いまいち状況がつかめないとはいえ、少なくとも気分のいい光景ではなかった。

 

「おい、ちょっと」

 

「うるさい!!」

 

 隣の少年がなにか発言する前に一蹴した少女はコルベールという先ほどの男性にやり直しを請求している。コルベールが彼女をいさめる声を聞きながら更なる情報(マトリクス)を更新する。

 

 この風景に、自分たちが平民と認識されている現状、ミスタ・コルベールという名前。おそらくそのままフルネームというわけじゃなくミスタという敬称だろうことに鑑みるに、ここは中世ヨーロッパの貴族社会を取り入れた場所か。だがそんな風潮は既に廃れたはず。そして『召喚』『儀式』というワードを使ってるからして魔術関係。『メイジ』というのはよくわからないが会話の流れからして魔術師みたいなものか。ということは俺は別世界に来たということか?

 

 もしや自分は並行世界への移動、第二魔法を経験してしまったのだろうか。そうなるとキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが絡んでいることになるが、神秘が枯渇した世界にかかわるとは思い難い。

 

 そこで集団の後方に異形の集まりがいることを発見した。犬、猫、ネズミ、フクロウは認識できる。だけど目玉だけのヤツやトカゲみたいなヤツはいったいなんだ? 自分の経験上あんな生物はエネミーでさえも見たことがない。

 

 そこで思い至る。「召喚」「儀式」という単語に見知らぬ生物、自分たちを見下ろす人間。

 

 そばで騒ぐ声に混じって自分の考えを根拠づける言葉が聞こえた。

 

 『使い魔』

 

 あぁ、そうか。

 

 そして悟る。

 

 俺とそこの彼は召喚されたのか。

 

 召喚に関しては自分もサーヴァントを召喚したためある程度理解できたが、まさかマスターとして行動していた凡夫の自分が召喚されるなど誰が想像できようか。

 

 彼/彼女 もあのとき俺に召喚されたとき、戸惑ったのかな?

 

 否。特殊な場面ではあるが、彼/彼女 は戸惑いを一切感じさせないまさに英雄としてふさわしい堂々とした風格を現していた。

 

 自分が召喚されたということは、自分が必要とされたからだろう。

 

 ならば自分も彼/彼女 のように、とはいかずとも気丈でいよう。

 

 そう決心していると、しりもちをついていた少年が四つん這いで身を低くした状態でどこかに行こうとしていた。逃げるつもりだな。

 

 だけども桃色の少女が許さない。逃亡を阻止した彼女はしつこくもコルベールに直訴するも儀式を続けるよういさめられてしまう。

 

「感謝しなさいよ。貴族にこんなことされるなんて一生ないんだからね」

 

 その発言のあと彼女は右手に持つ杖を掲げ、少年に向かって詠唱を始めた。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

 交わされる口づけ。二人の様はとても神々しく、なにも知らない自分から見ても神聖なものであると理解できた。

 

 おそらく今ので少年はサーヴァントとして、少女はマスターとして契約が交わされたのだろう。少年の方はまったくの不同意のうえでだが。その後少年は左手を抑えて仰向けに倒れてから動かなくなってしまった。さすがに死んだとは思いたくはないがまぁ気絶だろうとあたりをつける。

 

「さ、次はあんたの番よ」

 

 そう言ってこっちを見る少女の顔は羞恥のためか頬どころか全体がほんのりと朱かった。とうとう来たかと覚悟していると気づいたことが一つ。

 

 俺もあれをやるのか……。

 

 いくら神々しかろうが、神聖であろうが、それは第三者の目から見ての話だ。いざ自分が同じようにされるとなるとどうしても羞恥がよぎる。

 

 自分の心情などお構い無しに唱えられる契りの詞。それが少し早口気味なのは早く終わらせたいからなのか、元からそうなのか。まぁ前者だろうけど。

 

 近づいてくる小さな顔。これから自分はキスされるのだと肩がこわばる。

 

 ええい、覚悟を決めろ岸波白野! お前は月の裏で既に唇を奪われているだろう! 初めてじゃないんだ堂々としろ!

 

 慣れるわけがない、されど甘美な感触を唇に残し少女(マスター)が数歩離れる。

 

 体全体とりわけ左手に溶かした鉄を浴びせられたかのような猛烈な熱を感じる。もはや熱いを通り越して激痛だ。

 

 痛みのあまり自分も意識が朦朧とし視界がどんどん空へ向けられる。倒れるのか、気絶するのか。でもこればかりはどうしようもない。いつものように意識を保とうと抗うが、なす術なく無様に倒れ伏す。

 

 どこまでも突き抜けていく青い空を視界に収め、思い出したことがある。

 

 そういや俺、しりもちついたままだった。

 

 そんなどうでもいいことを考えながら岸波白野は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 ごわごわとした感触が背にあり、なにやら言い争う声が耳朶を叩く。少しの不快感を覚えながら目が覚めた割には頭はすっきりとしており、徹夜明けにずいぶんと惰眠をむさぼったかのようだ。

 

 寝かされていた藁の上から立ち上がり口論している二人へと目をやる。

 

 うわぁ……。

 

 そこには、肩から紐を通したノースリーブのインナーという下着姿のピンク髪の露出魔(少女)と、シャツやらスカートを自身の顔面に押し付けている変態(少年)がいた。

 

 そのあまりにもあんまりな光景にほんの一瞬フリーズしていると、少女が少年に対して杖を振った。

 

 なにやら魔術を行使したようだがその結果は爆発。すさまじい爆音と爆風、黒煙を伴って襲来した衝撃に不意を突かれ後方へと吹き飛ばされる。そしてゴンッ! と重低音を脳内に響かせながら後頭部を床に強打した。かなり痛い……。

 

 痛む頭と身体を叱咤してよろよろと立ち上がる。自分以上の被害をその身に喰らった、なぜかアフロヘアーになっている少年も立ち上がると少女に詰め寄った。

 

「ちょっとばかり可愛いから遠慮してたけど、こうなりゃ力づくで……!」

 

「わかる。わかるわ!」

 

「っ! 今『わかるわ』って言ったか?」

 

「うん……」

 

 しばし見つめあう二人。どんな状況なのか理解できないし、なんとなしにいい雰囲気っぽいが事態が膠着したのなら今が好機。

 

 さぁ、俺も話に加わろう。

 

「二人ともいいかな?」

 

「ッ! あんた誰よ?」

 

「あんた誰よって、俺は岸波白野。君がここに連れてきたんじゃないのか?」

 

「キシナミ・ハクノ?」

 

 なじみのない名前なのか聞きなれないイントネーションでオウム返しされる。

 

「君の名前は?」

 

「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステイン屈指の名門貴族であるヴァリエール公爵家の三女よ」

 

 やはり貴族制度が導入されているか。しかもこの言い方。自分の家に相当誇りを持っているんだろうな。

 

「そっちは?」

 

「え?」

 

「あんたの名前よ」

 

「俺は、平賀才人」

 

「ヒラガ・サイト?」

 

 またもやちょっと違和感のある発音をするルイズ。

 

「平賀才人って名前からして君は日本人だよな?」

 

「そういうお前も日本人だよな? なあ、ここどこか知ってるか? なんで俺はこんなところにいるんだよ?」

 

「そんなの私が使い魔として召喚したからに決まってるじゃない」

 

「使い魔!?」

 

 ルイズの返答に驚愕を禁じ得ない様子の平賀。そして左手の甲を見つめている。

 

「……とりあえず情報を整理しようか」

 

 そういって自分が腰を下ろすのに倣い、平賀もその場で胡坐をかいた。ルイズはどこかに座るでもなく立ったままこちらを見下ろしている。

 

「改めて、俺の名前は―――」

 

 そうやって自己紹介から切り出し三人で情報のやり取りをした。その結果わかったことは、ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国で、この施設は全寮制のトリステイン魔法学院であること。この世界では魔術師(メイガス)の魔術・魔法とは異なる魔法が当たり前になっていること。自分たちはルイズの使い魔として召喚されたこと。日本など知らないこと。ルイズはプライドが高く短気であることがわかった。

 

「お前の言いたいことはわかった。ハルケギニアだとか魔法だとかな。どこの新興宗教かファンタジーマニアの集団か知らねえが、んな話信じられるかよ!」

 

 平賀の叫びももっともだ。魔術も魔法も体験しないままこんな状況になれば狐疑するのも当然だ。しかし、そのファンタジーを証明するものは確かに存在している。

 

「そうは言っても平賀。さっきルイズが起こした爆発はどう説明するんだ」

 

「爆発させるつもりなんてなかったんだけど」

 

「いやー、あれは、その……」

 

「あんないきなり目の前で爆発が起きたんだ。そのうえ目立った外傷もない。こんなこと現代科学で説明するのは無理だ。少なくとも俺にはできない」

 

 聞いた平賀はうーん、とうなっており未だに信じきれてないようだ。ならば、更に証拠を提示するまで。

 

「だったら平賀、あれを見ろ」

 

 自分が平賀の後ろを指さすとそれにつられ平賀とルイズは振り返る。天蓋付きのベッド、大きなガラス窓を越え、自分たちの瞳に映ったのは――

 

 

「月が二つ……?」

 

 

 そう。地球ではありえない、それどころか一つしかないはずの衛星「月」が二つ夜空に浮かび地上を淡く照らしている。

 

「そんなこと起こりうるわけがないと思うだろう。しかし現にこうして網膜に映写されている。ならばここは地球の、銀河の常識の埒外。サイエンスよりもファンタジーが跋扈する世界に俺たちは来てしまったんだ」

 

 平賀は打ちひしがれ、ルイズは不審者を見る目で自分を見ている。そんな風に見ないでもらいたいものだ。

 

 

 

 情報交換が終わり今は二人とも就寝している。ルイズはゴージャスなベッドで、自分たちは干し藁の上で雑魚寝だ。寝床に関してひと悶着あったが自分がさっさと寝ころんだら諦めた平賀もおとなしく横になり、ルイズもすぐに静かに寝息を立て始めた。

 

「なあ岸波」

 

「なんだ平賀」

 

「俺たちどうしたらいいんだろうな」

 

 平賀の声は若干の不安を隠しきれておらず、ついさっきの威勢が嘘のようだ。だがそれもなんらおかしいことじゃない。

 

「なるようになるしかない。とにかくくじけないようにがむしゃらに生きるだけさ。あと俺のことは白野でいい。仲間からはそう呼ばれてたしな」

 

「そっか。じゃあ俺のことも才人って呼んでくれ。日本人二人しかいねえけど頑張ろうな」

 

 ああ、と返事をして夜空を見上げる。SE.RA.PHで見た電子の空とは違う自然の空。幼いころの記憶のない自分にとってそれは初めて生で見る夜空で、しばし見入っていた。

 

「それにしても使い魔か……」

 

 才人が左手を見ていたことを思い出し、自分も虚空に左手をかざす。

 

 そういえば自分も気絶する前は左手が熱かったなと左手の甲を見ると―――

 

 令呪。

 

 サーヴァントに対する絶対命令権の証が刻まれていた。その形は月で刻まれたものと寸分たがわぬもので失ったはずの二画すらも戻っていた。

 

 令呪、それも三画ともあるということはサーヴァントがいる? いや聖杯戦争は終わったし、自分は使い魔として召喚された。なによりマスターであるルイズどころか誰ともパスを感じない。そうやって令呪を見続けていると、

 

 ズキッ

 

 と脳にノイズが走った。

 

 駆け巡る記憶。思いを馳せるは聖杯戦争のこと。月の表と裏のこと。そして二人(・・)サーヴァント(パートナー)のこと。

 

 ここにきてから自然に受け入れていた記憶(矛盾)に今やっと自分は気づいた。

 




 初投稿です。しかも参考文献を買うお金がなく、アニメしか見られていません。なので一人称がひらがななのかカタカナなのか漢字なのか判別できません。ご指摘のほどお願いします。
 
 不真面目とはいえいちおう就活生なので亀更新となりそうですが気にかけていただければ幸いです。
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