「どうしてこうなった?」
そう自問自答しない日はない。ちなみに自問自答と言ったが、答えが得られたことはない。
難問すぎて?
惜しい、が違う。
出てきた答えを認めたくないから。出る前に、それを放棄する。
得る前に棄てるんだからノーカウント……なんて、詭弁だな。
『あの日』は、きっとタイミングが良すぎたんだ。問題は、それが『誰にとって』ってことだが……。
さて? 当事者であるオレにも分からんよ。
考えるために詳しい話を聞かせて欲しい? そうだな、いつかまたここへ来れたら教えてやるよ。
こうやって見つかっては連行される、オレに命が残ってたらな。
※ ※ ※
「冗談じゃねぇってんだよ、まったく」
その日、《アリアハン》の城を守るように張り巡らされた堀から顔を上げたオレ。まるで盗賊のように素早く、かつ慎重に辺りの様子を窺う。
もちろん、そんな技術はないから気持ちだけだ。
気分も大事だろ?
キョロキョロと、何度も視線を往復させる。
……あ? なんでコソコソ隠れてるのかって?
そりゃ簡単な理由だ。
『見つかりたくないないから』に決まってんだろ?
おっと。誤解はしてくれるなよ? 別に犯罪をしたわけじゃない。むしろ、オレは被害者だ。
事情……? 悪いが今は見ての通り、ちぃっとばっかし取り込み中なんだ。
また今度な。
よし、誰もいない。
「よっ、と」
辺りに
小道を抜けて、酒場のある建物の裏に転がるようにして飛び込む。
そこらに置かれている壺や樽、街路樹に身を潜めながら歩み寄り出口――外と繋がっている門の様子を見てみる。
「あのオバチャン、また立ち話してんのかよ……」
顔馴染みのオバチャンが箒を片手に、井戸端ならぬ道のど真ん中会議をしていた。朝から夕暮れまでだって平気なほど話は長いわ、なによりそこを通る人の邪魔だろ、オイ。
この間は道具屋の前で話し込んでいたため、店のオッチャンが実に迷惑そうにしていたのを覚えている。注意したところで口では勝てないし、何よりマグマにヒャドだ。聞きゃしねえ。
つまり。
「最悪だ」
さっきも言ったが、オレは今誰にも見付かりたくない。そして誰にも怪しまれずに外へ出たい。
時間は昼を少し回ったところだが、ぐずぐずしてたらすぐに夜が来てしまう。
夜は魔物の動きが活発になり、獰猛性が増す。だから、それまでになんとしてもここを出なくてはならない。
あ? 出てどこに行くのかって?
まずは《レーベ》だな。
知らないか? ここ、《アリアハン》の北に位置する小さな村だ。
オレはあの村に行ったことがないし、念のために変装もするつもりだ。まず、バレないだろう。
と言っても、このアリアハン大陸にある城下町はここだけだし、村と言えるのもその《レーベ》だけ。
細々と漁をしている集落なんかもあるが、そういった所は何かあった時がヤバい。防衛力だって低いだろうから逃げるに逃げられない。
いや、まてよ?
「今日もいい大漁だべ、大王イカがたくさんだ」
「それなら今日のメシはイカ尽くしにすべか」
みたいな会話の出来る漁師ばかりなら……うん、いねぇな。てか、大味すぎて喰えそうにないんだが、アレ。
ま、いいや。
その後は、時たまこの大陸にやってくる商船に乗るつもりだ。
もっとも、商人だけにタダでは乗せてはもらえないだろう。大抵は金か、人夫……ああ? 労働力のことさ。肉体的な、な。で、条件を聞く。
ん、なんでそんな面倒な手間をするのか? おいおい、今時珍しい人だな、アンタ。この大陸は閉ざされているからさ。だからそうでもしないと、ここから出られないんだよ。
後一つ、他の方法もあるにはあるが……今のオレには実行不能。だからこのプランしかないってワケだ。
これで分かったか? 堀で泳ごうとしてた世間に疎いお嬢様?
いや、どうして分かったって、オイ? 普通、声で分かるだろ。
オレにもアンタが着てるような、顔までスッポリ隠せるフードコートがあれば……かえってバレるか。
とりあえず、目下の問題はあのオバチャン……お?
「チャンスか?」
見れば、オバチャン達が外から来た旅人らしきヤツと話していた。
ソイツも横にいるのと良く似た感じの、顔までスッポリなフードコートを着ている。
コッチの奴は淡緑で、向こうは黄色だが……どっかで流行ってんのかね?
オバチャンと旅人は二言三言と言葉を交わし、連れ立って通りを歩き始めた。
おそらく宿屋までの道案内をオバチャンが買って出たのだろう。善意という名の好奇心で。……逆か? ま、どっちでもいいさ。
ソウッと大通りに顔を出せば、遠ざかるオバチャン達以外に他の人影はない。
しかし見張りの兵士もいないが、いいのかね?
なんにしても、
「今しかない」
オレは長い長いかくれんぼの果て、ようやくアリアハンを飛び出した。
※ ※ ※
「……で、いつまでついてくる気だ? アンタ」
オレは城下町から少しばかり離れた場所にある木立にもたれ、腰にぶら下げていた水袋を口に含む。
疑問をぶつけた相手は堀から一緒の、それからずっとついてきていた人物。
「えっと。あ、ちょっと待ってね」
そいつはモタモタと、お世辞にも慣れてるとは言えない手付きでフードを下ろし始めた。
が。
……下ろすだけで手間取るって、どんだけ不器用なんだよ、オイ。
「あ、あれ? 外れない」だの、「ウグー!」だの。
途中、勝手に死闘を始めやがりました。
オレが多分に呆れを含んだ視線を何度も向けたことに気付いているのかは分からないが、コイツが「お待たせしました」と言うまでに十分かかったことを、ここに記す。
って、ホントに時間かかりすぎだろ。急いでるんだぞ、オレは。
待っている間、幼い頃からの習慣である素振り――母親に持たされていた銅の剣――をしていたオレは中断し、嘆息と共に振り返った。
「全く、ようや……く?」
自分でも、口元が呆けるのが分かる。
「わたしはドーターと言います。職業は、ま……魔法使いです」
そこには目の覚めるような美少女が一人。
何故かビリビリに裂けて落ちている布切れを後ろ足に蹴りながら、ソイツ――彼女は笑顔で、その白磁のような手を差し出す。
「わたしと一緒に冒険者になろうよ? クロウさん」
「だが、断る!」
オレは脇目も振らず、脱兎のごとく逃げ出した。
※このお話は、妄想とネタの提供でお送りしました。
次回の放送は(きっと打ち切り)