どらごんくえすと惨――オレと彼女達の冒険譚   作:ショウマ

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勇者は仲間を呼ばれた

 

 

「クロウさん、一緒に冒険者になろう?」

 

  【しかし逃げられなかった!】

 

 地面と面会してる(キスじゃねぇ)オレに、彼女は楽しそうに声を弾ませてそう繰り返した。

 

 回り込まれたとかそんなチャチなもんじゃねぇ。

 何を言ってるのか分からない? 安心してくれ、オレにも分からん。

 

 勧誘→だがことわる→逆方向に全速ダッシュ→オレが地面に倒れてる(いまここ)

 

 ワケわかんねぇ……。

 

 一瞬、体が浮いたような気はしたんだが。

 

「なぁ、おい?」

 

「ドーターです」

 

「ドーターさんや、今、オレは一体どうやって捕まったんだ?」

 

「ヒミツ」

 

 まあ、そうだろうな。言えば対策されるかもしれねぇワケだし。

 

「ではでは、そういうことなので一緒に――」

 

「だがことわ――」

 

 倒れた状態からノータイムでクラウチングスタートの構え→駆け出す瞬間に襟首を掴まれる→首が締まったかと思えば担がれる感じ→空が見える(いまここ)

 

「――いきましょー」

 

「――る?」

 

 伝わるかどうかは知らねぇが、ここまで一秒もかかってない。お互いに言い切ってないしな。

 

 素晴らしく腰の入った投げだった。友達連中はおろか、アリアハンの兵士達よりも上手い腰投げだったんじゃねえか?

 

「魔法使いにしてはえらく力強いな? アンタ」

 

「日々、鍛えてるから?」

 

「疑問で返されても答えようがない」

 

 ジト目で見てやれば、こいつはオレの上で楽しそうに笑いやがった。

 

 あん? そう、コイツはオレの腹の上に座ってる。

 

 重くはない。てか、きちんとメシを食ってんのかってくらいに軽い。

 

 コイツの着ているローブが丈の短いモノなら中身が見えたかもしれねぇが、生憎と長いタイプだ。その上でしっかりと裾を押さえてやがる。

 

 えらく適当な感じなのにしっかりガードは硬いあたり、堀で泳ごうとしていた世間知らずなお嬢様と感じたオレの勘は間違っていないのかもしれない。

 

 大きいとも小さいとも言えない胸元では赤い石のはまったペンダントが、笑い声に合わせて揺れている。

 

 ヒビ一つ入っていない白磁の陶器のような手足は、数メートルの距離を一瞬で詰めたり、軽々とオレを投げ飛ばしたとは思えないほど細い。

 

 ちなみに、オレは標準体型だ。痩せすぎでもなく、太りすぎてもない。同年代くらいの女の子に投げられたのは、これが初めてだ。

 

 鎧は着ていない。銅の剣こそあるが、服は旅人用の軽くて丈夫なヤツだ。荷物は背負い袋の中にあるが、片手でも余裕で持てるくらいしか入れてない。余り多いと嵩張って、魔物に襲われた時に不便だしな。

 

 かといって、軽々と投げられたのはちょっとばかしショックだった。

 

 顔も目鼻立ちの整った、文句のつけようがない美少女。少なくとも、これまでの十五年――明日には十六だが――の人生で、ぶっちぎりの一位獲得は間違いない。

 

 金というよりは淡い黄色の髪はストレートで肩甲骨辺りまで。見れば、頭のてっぺんには自己主張の激しい毛が一本、ピンと立っている。

 

 アホ毛ってヤツか? なんか納得した。

 

 こうして笑っていれば本当にお嬢様。着飾れば姫様と言っても通用しそうだ。中身はちょいと残念ポイがな。

 

「――ん。クロウさん? どうしてあたしを見てタメ息なんか吐くのですか? そろそろ答えを聞かせてほしいのですが」

 

 本当に残念だ。

 

「いや、さっきから答えてるだろ? ことわる、と」

 

「『はい』か『イエス』でお願いします」

 

「選択肢がねぇぞ、オイ!」

 

「あははー」

 

「気楽に笑うな! この、バカ娘!」

 

「あ〜……、パパと同じこと言う」

 

「心底お前のオヤジさんに同情したくなった」

 

 むぅ、と不満げに唇を尖らせる姿に、オレは胸中で名も知れぬコイツのオヤジに合掌しておく。苦労してそうだ。

 

「ま〜、それは海に投げ棄てて」

 

「投棄すな。回収しろ」

 

「だって――」

 

「ドーター」

 

 まだまだ何かを言いかけたのを、別の声が遮った。

 

 また、女のようだ。

 

「あ、シスー!」

 

「まったく、話が、すすまない」

 

「ストエビちゃんも」

 

 女が二人、いつの間にかオレ達の横に佇んでいた。

 

 二人ともが、ドーターと似た格好をしている。つまりはローブ姿だ。

 

 ただ、細々とした部分に違いがある。

 

 例えば、ドーターに説教中の――シスと呼ばれてた方だ――は紫色だが、大きく押し上げた胸元で揺れるペンダントの石は紫。

 

 ドーターをノーテンキタイプとするなら、彼女はしっかり者なお姉さんといったところか? やはり非常に整った顔立ちなのだが、その雰囲気から美少女というよりは美人って方がしっくりくる。

 

 髪は青のショートカットなんだが、彼女にもアホ毛がある。なんか意外な感じだ。

 

 それからもう一人、こっちをジッと見下ろしてるヤツが着てるのは黄色だ。しかし他の二人と違って、コイツのローブは裾が太ももくらいまでしかない。その癖、派手な赤い靴下――ニーハイソックスってヤツだ――を履いているから、白い肌が際立って見える。

 

 もうちょっと前に来てくれませんかねぇ? 見えそうで見えない、絶妙な立ち位置。

 

 顔はフードで隠れているから分からねぇが、よく見れば少しばかり頭頂部が盛り上がってる気がする。たぶん、コイツにもアホ毛があるんだろう。

 

 どこかで見たような気がすると思ったら、オレが町から出るチャンスを作ってくれた旅人だった。オバチャンの注意を引いてくれたヤツな。

 宿屋に向かったはずなんだが、親しげに名前を呼んでいたことから、コレ(ドーター)の仲間なんだろう。

 迎えに来たのかどうかは知らねぇが、出来ればいまだに座ってるのを引き取っていただきたい。

 

「クロウさんにきちんとお話はしたの?」

 

「まだ勧誘中だよー。もうすぐOKがもらえそう」

 

「断ってんだろ!」

 

 オレとドーターを交互に見たシス……シスさん――彼女はさん付けしておこう――は困ったような表情を浮かべた後、オレに向かって一つ頷いた。

 

「どうせまた無理強いしたのでしょう? 選択肢のないことを」

 

 おお! ちゃんと伝わ――

 

「そういうのはきちんと『はい』か『いいえ』で答えられるようにしてから、『はい』と言うまで永遠に聞き続けないと!」

 

 ……ってねぇのかよ! いや、伝わった上でか?

 

 どっちにしろコイツもダメなヤツらしい。さん付けは無しにしよう。

 

「なるほどー!」

 

「お前も『なるほどー』じゃねえよ! けっきょく選択肢がねぇじゃねえが!?」

 

「「それは火山に投げ棄てるとしてー」」

 

「棄てんな! 変なモンを放り込んで噴火でもしたらどうするんだ!?」

 

「だい、じょうぶ」

 

「あん?」

 

 三人目――ストエビちゃんとやらが口を開いた。

 

 フードをずらし――茶色のツインテール、やはりアホ毛があった――て、

 

「聞くつもり、最初から、ないから」

 

 ニタァ、とその美少女顔にとても悪そうな笑みを浮かべて。

 

 オレはドーターを押し除けて逃げ出した!

 






口と態度は悪くても、悪にはなりきれない勇者でした。

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