※ 予約投稿の時間を間違えていました。申し訳ございません。
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「――というわけで、わたし達は旅に出たんだよー」
アレコレすったもんだはあったものの、オレは……オレとおかしな小娘三人組は日の沈みかけた頃に《レーベの村》へ辿り着いた。
片付け作業を始めている店を尻目に、オレ達は真っ直ぐに宿屋を目指す。
カウンターのオッサンから部屋の鍵を受け取り、二階に上がればオレの顔を見るなり何かを言いかけたガキの口に飴を押し込んで、中に入る。
しかしあの子供。オレは念のため変装していたのにそれをたやすく見破るとはな、侮れねぇ。逆立ってる髪を下ろしただけじゃ、ダメか?
部屋は、いわゆる村の宿屋らしいシンプルなもの。
料金は朝食付きの二人部屋が二つで八ゴールド。比較するなら、《アリアハン》だと同じ内容で二十ゴールドだっけか? 利用したことないからうろ覚えだ。自宅あるし。
ドアから見て奥に長い長方形の作りとなっており、夜の帳が下りた窓を挟んだ両サイドに備え付けタイプの少し固いベッドが二つ。入り口横の空いた所には丸テーブルと椅子が二つ置かれている。
……風呂? ねぇよ。希望者にはタライが渡されるはずだ。間違っても、頭に落とすもんじゃねえ。
そして今はお互いの話をってワケだ。もちろん当たり障りの無い範囲で、な。
ベッドの一つにはオレ、反対側のにドーターが腰かけてる。シスはオレの横まで椅子を引っ張ってきたんだが、態度が最悪な約一名についてはテーブルでふんぞり返っていた。椅子じゃなく、テーブルに座ってるんだ。
どこまでも態度悪ぃ。
「ふーん、親への反発ね」
オレは干し肉と水を口にしながら、話し終えたドーターに相槌を打つ。
そうそう、意外にもアチラを代表して話をしたのはドーターだった。
話をするのはシスだと思ったんだが。三人組のリーダーがドーターなのだろうか? 確かに仲間を引っ張っるという意味では良いのかもしれない。シスは手綱を引く方が似合いそうだ。
おっと閑話休題ってな。話の腰を折ってすまんね。
親からは毎日のようにああしろこうしろと言われ、こちらの要望は頑として受け入れてくれない。……まあ、よくある話だな。
それでいい加減頭にキたドーターは従姉妹の二人――シスとストエビな――に相談。すると二人も似たような境遇だということで、めでたく飛び出しパーティの結成と相成ったそうな。
もっとも、今の話がホントかどうかは分からない。確かめる術なんてないし。
まぁ、当たらずとも遠からずってトコかね。ドーターのヤツは作り話とか苦手そうなイメージがあるし。
これがシスだったら作り話だと思うだろう。
しかし……意外だ。それなりに真面目そうなシスとはな。作法なんかもきっちりしていたが、そういう所にはそういう所なりの苦労があるんだろう。
あ? ストエビ? こいつの環境は劣悪だ。容易に想像がつくし、納得もできる。
実はこの子には大変悲しい物語が! とか言われたところで、オレはなんとも思わねぇぞ。コイツには昼間、散々やられたし。
もしかしたらシスは適当に話を合わせただけで、お目付け役代わりで一緒にいるのかもな。放っておけない的に。まぁ、ドーターを一人にするのは不安だし、ストエビは論外。トラブルしか起こさねぇだろ。
オレも三人には、適当に話を作って既に聞かせてある。要約すれば、親の期待が重すぎてってな。
ま、きっと信じてはいないだろう。コイツらはオレの名を知っていた。
アリアハンの勇者オルテガの息子である、オレの名を。
世界を旅したというオルテガの名ならともかく、他の国にまでオレの名が知られてるとは思えねぇ。十年以上前だしな、親父の旅。
ってことはだ。この三人はアリアハンでオレの名を知ったということになる。
つまり、オレが『何を期待された呼び方』をされてるかも知ってるのだろう。
「それで、クロウさんは」
気が付けば、不安そうな顔のドーターが目の前にいた。
服を摘まむな、伸びる。
「あ?」
「冒険に行く? わたし達と一緒に」
行かねぇと言ったら町の人にオレの居場所をバラすってか?
「もちろん、わたし達はクロウさんが逃げ出さなくなった事情とか詮索しない」
もう知ってんだろ。
「くくく。だって、こち、らも、似た、よう、な、もの、だし、ね」
邪悪に笑うのが一人。
いや、それより気になることが。
ソッチには詮索されたくない事情があるのか。冗談でも王族にケンカ売ったとかは止めてくれよ、追手的に。
てか、お前と一緒にするんじゃねぇ。オレは普通に家出をしただけだ。お前は絶対にナニかしたろ?
ついでにいちいち区切って言うな。てきぱき喋れ。
コイツはツッコミ所が多すぎて困る。
「あー……」
にじり寄ってくるドーターから離れようと腰を浮かせかけたところで。
「はい、そこまで」
ここまで静観していたシスがパンパン手を叩いて、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「でもシスー」
「だ め」
少し不満そうな様子のドーターを笑顔で瞬殺。
目が全く笑ってない。
こえー……。母さんも怖いが、シスも甲乙つけがたい。
ドーターも、まるで正面しか向けませんとでも言いたげなムーンウォークを披露しながら、元の位置へと下がっていく。
「無理矢理はダメ。だから今晩ゆっくり考えてもらって、クロウさんには明日の朝、食事の席で聞かせてもらいましょう?」
「はーい」
うん……? あれ、絶対に結論出せって言われた?
今度は素直に頷いたドーターはそのまま部屋の出口へ。ドアノブに手をやり、
「クロウさん、おやすみ」
「あ、ああ、おやすみ?」
つられて返せば、嬉しそうな表情と共にドーターは部屋の外へ。
「では、私もこれで失礼しますね。クロウさん、明日の朝にまたお会いしましょう」
「お、おう、また明日」
それとなく明日の朝を強調された気がする。
シスは椅子を手早く元の場所に戻すと会釈を一つ、踵を返した彼女も颯爽と出ていってしまった。
……で。
「くくくく」
どうしてよりによってコイツがここに残ってるんですかねぇ?
相変わらず悪い表情のまま笑うコイツは、そのうち何かやらかして牢屋へ入れられるんじゃなかろうか?
罪状:顔が悪い。
……うーむ、これだと意味が違う。素顔はいいわけだから、笑い顔が悪い、なのか?
こっちでもワケが分からんな。
テーブルから下りたストエビは、何を思ったかオレの前で仁王立ちになる。
立ち状態ならオレの方が高いが、座ると逆になる。どっちにしろ、コイツは見下すような目をするんだろうが。
「くく。逃げる、つもり、だった?」
………………。
「窓、二階、程度は、平気でしょ」
……読んでやがった。
「やったこと、あるし」
「あるのかよ!」
思わずつっこんだ。そしてヤツがより一層悪く笑ったことで、オレはハメられたことに気づいた。
「やっぱり」
「チッ!」
今回の舌打ちはオレ。
「ちなみにドーターは寝相がとても悪い。だからシスが一緒なだけ。あたし様がこっちなのはそれだけの理由。逃げたいなら、勝手に逃げればいい」
「どんだけヒドい寝相だ、そりゃ……って、お前普通に喋れるのかよ!?」
しかも“あたし様”か。
「喋れないと、誰も言ってない」
ああそうかよ。
やっぱりコイツとは合わない、それを再認識する。
「本当に、逃げても良いんだな?」
「好きにしたらいい」
念を押して聞けば、ストエビは興味なさげに自分のベッドへ向かい始める。
よし。そうとなれば善は急げだ。
ストエビの気が変わらない内に逃げよう。
オレは荷物をまとめ、窓枠に手をかけて――。
「ただ」
「ん?」
「誰も邪魔しないとも言ってない」
――ああ、そうかよ!
微笑みでも浮かべていそうな優しげな声と、首に触れる柔らかな何か。
しかしそれを覚えていることは出来なかった。
直後にオレの意識は闇に落ちていたからだ。
「――――からは逃げられない」
楽しげな誰かの呟きに、しかし答える者はいない。
そして。
――――その日、オレは夢を見た。
※ 明日(19日)はお休みします。次話は21日、いつもの19時半に投稿予定です。催促にキラーマシン大隊でも来れば20日にズレるかもです。