どらごんくえすと惨――オレと彼女達の冒険譚   作:ショウマ

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だから勇者にオレはならない!

 

 

      ※ ※ ※

 

「え、ホント!?」

 

「……ああ」

 

 朝からデカい声を上げているのは、オレの正面に座っているドーターだ。

 ただでさえ寝不足だというのに、今ので余計にズキズキと痛み始めた頭を押さえながら、オレは自分でも分かるくらい不機嫌な声で答える。

 

 普段と変わらない? 気のせいだ。いつもよりテンション低いだろ?

 

 今は《レーベ》に一軒しかない宿屋の一階で、オレと件のおかしな三人組は朝食を摂っていた。

 

 一般的な四人掛けのテーブル石が3つ、狭いフロアに三角形を描くように配置されている。

 

 朝食と言っても、パンが二個ずつと産地直送が謳い文句の……その実宿の裏にある農園で収穫された野菜サラダ。それに甘い果汁と合わせた水だ。

 

 パンは少し硬いが、野菜にシャキシャキ感がある。野菜はこれがないと、食べてる気がしねぇんだよな。

 水も喉越しさわやか。今のオレには至福の時を与えてくれる。後でおかわりしよう。

 

 どうやら朝食だけをここで摂る村の人も珍しくないらしく、他の席には(くわ)なんかの農具を傍らに置いた、宿泊してるとは思えない客の姿がある。

 この時間、席は宿の外にも用意されているようで、中にはついでだからと背負い籠いっぱいの収穫物を持参してくる人もいた。

 

 もしかしたらここは宿がオマケで、こんな感じで村の共同食堂としての姿がメインなのかもしれねぇな。

 

 それが今、娯楽に飢えた人々の視線がこちらへ降り注いでいた。

 

 まあ、ココへ来てからずっとこんな感じではあったが。

 

 オレはともかく、他の三人が目立つ目立つ。

 

 黙っていれば美少女なドーターはもちろん、シスとストエビはフードですっぽりと顔を隠している。

 怪しいってモンじゃねぇだろ、オイ。

 

 さすがに食事をするために前面を覆う布は下げられてるが、おかげでそのやはり綺麗な顔が見えてしまっていた。

 

 ……おい、オッサン。手元をよく見ねえと、水をコップじゃなくて服に注いでるぞ。

 

 視線をこちらに向けたまま壁に向かって歩いてるお兄さんもいるな。

 

 中にはオレへ羨望と嫉妬が入り交じった視線を向けてくるヤツもいるが、

 

「………………」

 

 そちらを見ればみんなが目を逸らしていく。人相、そこまで悪いかね?

 

「それは厳ついサングラスのせいだと思うよー」

 

「変装は上のガキに速バレしたしな。それならコレしかねぇだろ? てか人の心を読むな」

 

「くくく。あなた、単純、すぎる、から」

 

「隣で不気味に笑うな。黙って食え」

 

 そう、オレの隣には性格がネジ曲がり過ぎて()ある種の()芸術作品みたいに()なれそうなヤツ()が座っている。コイツは食べるのが遅い。本人曰く、ゆっくり味わってるそうだがね。

 

 それでオレの正面がさっき言ったようにドーターで、その隣が早々と食べ終えたシスだ。彼女は隣で食器の扱いに悪戦苦闘しながらポロポロとこぼすドーターの世話を、無言で焼いている。

 そのうち手を出しそうだがねぇ。

 

 まあ、それだからこその席位置なのかもな。

 

 ちなみに、ドーターだけが素顔を晒しているのは昨日フードを破いたからだ。予備はないらしく、繕い物も誰も出来ないらしい。

 

 そんな状況で破いたのだから、考えなしと言うよりも、ドーターはどこまでも前のめりに突き進む性格なんだろうなぁ。

 

 落とし穴に弱そうだ。

 

「ストエビ? あなた、いつもよりも遅くない? 体調でも悪いの?」

 

「ちがう。あまり、へってない、だけ」

 

「あら、そうなの?」

 

「えー……わたし達、昨日は食糧を持ってなかったのに」

 

 おいおい……。危うく水を吹き出すとこだったじゃねぇか。

 

 食糧も持たずに旅とか、前のめり過ぎるだろ。

 

 それとも、どこかで食べるつもりだったか。

 

 確かに、夕べの打ち合わせの時に食べてたのはオレだけだったな。他人だし、部屋に帰ってから食べるのかと思ったんだが……。

 

 そういえば、その後の記憶がねぇな。気が付いたら朝だったし。

 

「干し肉、を、少々」

 

「ええーっ!? そんなのいつ貰ったの?」

 

「コイツ、の、かばん」

 

 ツイッと、ストエビは隣に座るオレを指差す。

 

 ……ォィ。

 

「こら、テメエ! 人の食糧を取るな!」

 

「くくく。あたし、様の、前で、食べるのが、悪い」

 

「反省ゼロか、この野郎」

 

 いったいどんな育ち方をしてきたんだ、コイツ。魔法使いじゃなくて、盗賊なんじゃねえか?

 

「野郎、じゃない。あたし様は、女の子。それと、邪法使い」

 

「んなことはどうでもいいんだよ! オレの食糧、きっちり買って返しやがれ」

 

「そんなの、モンスター、格闘、場で、倍、にして、返して、あげる」

 

「その言葉、忘れるなよ? 言質取ったからな」

 

 後にして思えば、オレはよほど体調が悪かったようだ。

 取られたからって干し肉程度でハッスルしてしまうなんて、我ながらチミっちいな。

 

 オレとストエビの件は今ので済んだと思ったのか、沈黙していた彼女がオレの方へと顔を向ける。

 

「それで、決心された理由についてお聞きしても? 昨日の様子だと断ると思っていたのですが」

 

「まあ、な。オレも最初はそのつもりだったんだが」

 

 シスは黙って、オレに先を促す。

 

「夢見がな、悪かった」

 

「……はい?」

 

「ほえ?」

 

 珍しく、シスが反応するまでに時間がかかった。ドーターともども、間の抜けた声を上げる。

 

「夢……ですか?」

 

「ああ。女の声で、内容もはっきりとは覚えてないんだがな」

 

 あれは精霊……だったのかね?

 

 だが、ウソだ。

 

 内容も、覚えてる。

 

 延々と質問されたかと思えば、罵倒されるは、愚痴を聞かされるは。

 

 ああ、批難もされたな。

 

 うっかりむっつり苦労人ってなんなんだ……。意味わかんねぇっての。

 

 だが――――。

 

『あなたの行動は、人の希望たる“勇者”としては正しくないのかもしれない。ただ、一人の人間としては間違ってはいません。逃げることも、生きる上で時に必要なことですから』

 

『だから、私は待ちます。あなたが決意する、その時が来るまで。それまでは、あなたの望むように、汝の為したいように為すが良いでしょう』

 

『ただし、その時までは経験を積んでも強さに還元されることはありません。それが勇者として選ばれたあなたが、逃げたことで負うベナルティです』

 

 ……知るか!

 

 勇者にはなりたくない。

 

 勇者の名は、親父にこそ相応しいんだ。

 

 オレは、オレの道を探すんだ。

 だから、他のもっと相応しい奴を探してくれ。

 オレみたいな臆病者を選んでくれるな。

 

 それでも待つというなら、いくらでも待ちやがれ。

 

「それで、チョイと世界が見たくなった。自分の足でな」

 

 最初は……逃げるためだったさ。

 

 勝手に他人へ押し付ける使命や期待という、クソみてぇなもんから。

 

 それは変わってない。

 

 ただ、親父……オルテガが勇者として何を見て、どう思ったのかを知りたくなった。

 

 それは、オレ自身が動いて確かめないと分からないことだしな。

 

 それと、親父が死んだとは思えない。

 親父が出ていった時の装備は鉄仮面とマントにパンツ一丁、オマケに武器は斧だという。

 情報源が酒に酔った母親だから微妙ではあるが、オレが勇者になりたくない、一番の理由だ。

 

 確かに勇者だ。

 

 勇気はあるだろう。ありすぎるくらいに。方向性もまるで違う気がするが。

 

 オレにはそんな勇気も、度胸もない。あってたまるか!

 

 うっかり、何かの手違いでどっかの牢屋にでも入れられてるんじゃないだろうか?

 

「ま、なんかよく分からないけど! とにかく、わたしは歓迎するよー!」

 

 悩みなんかこれっぽっちも無いと言いそうなほど明るい様子で、ドーターがオレを歓迎する。

 

「そうね……。夢見が悪いから決意する下りがよく分かりませんが……。もともとあと一人は探すつもりでしたし、私も歓迎致します。クロウさん」

 

 微妙に納得してない感じではあったが、シスはオレに深々と頭を下げた。

 

「くくくく。せいぜい、すきに、すると、いい」

 

 逆に、ストエビの奴は頭を上げる。上げるってのとは違うか。見下すためにふんぞり返ってるんだ。

 

 椅子ごとひっくり返ってしまえ。

 

「では、次の目的地なんですが……」

 

 一人、豊かな胸を持ち上げるようにして腕を組む。

 

 おいドーター、ノータイムで揉むな。オレが目のやり場に困る。

 

 オッサン、水差しがパンに注いでるぞ。

 

 壁歩きの兄ちゃんは窓から向こうへ落ちたな。

 

「クロウさんの話では、この大陸から出るには船しかないらしいですし」

 

 ……ああ、ドーターと一緒だった時にした話か。

 

 しかし。

 

「いや、あるぞ?」

 

「はい?」

 

 オレが否定してやれば、シスはどういうことかと視線で理由を問うてくる。

 

「ここから東に行くと泉があって、その近くに『いざないの洞窟』がある。で、そこの奥から《ロマリア》に行けるらしいんだが、オレは余り詳しくない。必要な資格だか、何かが要るらしいってのは聞いたことがあるな」

 

「なるほど」

 

 では決まりましたね、と早速に席を立ちながら言うのはシスである。

 

 ドーターはガタンと大きな音を立て、ストエビはヤレヤレと無駄に偉そうだ。

「行きましょう? 分からなくても、現地に行けば手がかりがあるかもしれません」

 

「うんうん。レッツゴー!」

 

 この二人はまだ分かるんだが……。

 

「ククク。資格……資格といったか。このあたし様を試そうなど、片腹痛い。目にもの見せてやろう」

 

 口調が変わってるぞ。

 

 てか、何する気だお前は?

 

 それにしても、情報を集めるのならココでも……って、ドーターの奴が既に飛び出して行ってた。

 

 しまった。コイツらは逃げてもどうせ追いかけて来るだろうからって、パーティ入りを早まったかもしれねぇ。

 

 だが、仕方ない。

 

 オーケーを伝えたのはオレの意思だしな。

 

 忘れモノが無いか持ち物を入念に確認した後、オレは三人を追いかけた。

 




 
 
 
※ 次回は『誘い(ますから来ないで)の洞窟』となります。
 
 
 
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