※ ※ ※
「……………………」
あー……なんでこうなるのかねぇ?
オレは手で耳を塞いだ姿勢のまま、壁に向かってヤンキー座りをしている最中だ。なに、表現が古い? んなこと知らねぇよ。こんなのはふいんき(何故か変換できない)が伝わればいいんだ。
そうだな。現実逃避も兼ねて、こうなった経緯を話そうか。
朝食を終えたオレ達は《レーベ》を出て、《ロマリア》への道があるという誘いの洞窟を目指し、真っ直ぐ東へ向かった。
ただ歩くのもなんだから道中に話を聞いたりした結果、ドーターら三人は特に目指している場所なんかはないらしい。あえて言うなら強くなることで、それが叶うならどこだっていいそうだ。
武者修行ってヤツか? 三人とも戦士どころか魔法使いだけどな。
それならどうして魔物が弱いアリアハン大陸に来たんだって話になるが、それを聞くとなんでもアリアハンのルイーダの店が一番初心者向けだから、と。
……言うのは建前で、本当のところは手配を間違えた挙げ句、適当に飛び乗った先がここだったんだそうだ。
最初に先の説明をしてくれたのはシスなんだが、その後でドーターがコッソリと今のを教えてくれた。
普段はアレコレ気を回してくれるシスだが、時々こういうミスをやらかすらしい。ドジッ子だったのか。
そうそう、モンスターとも初めて戦った。
……いや、アレを戦ったと言うべきかは甚だ疑問ではあるんだがなぁ。
少なくとも、彼女たちがオレなんかより遥かに強いことは分かった。
襲ってきたモンスターは多岐に渡る。いずれも彼女たちの敵ではなかったが。
乗っているドクロ(骸骨の頭、シャレコウベな)をぶつけてくる、
ゾンビに騙されたスライムが毒の沼に浸からされたことで生まれた変種、バブルスライム。スライムだがオレ的には可愛くはない。
生意気に二本足でも歩けるようになったデカイだけのカエル、フロッガー。とりあえずキモイ。
その名の通り、
さそりと似た形状の針付き尾を持つ、さそりばち。
ちなみにバブルスライムの毒の沼に……の所はストエビが語った内容だ。スライムよりゾンビの方が賢いのかとも思ったが、本人たちとしては普通に気持ちいいから誘ったらしい。
やはり脳まで腐ってるゾンビの話を真面目に聞いては駄目だな。
ストエビの話ではあったが妙に納得してしまった。
……あん? 戦闘そのものはどうなったか?
さっきも言ったがコイツらの敵ではなかった。
ざっとこんな感じか?
【まもののむれがあらわれた!】
【どうする?】
rァ たたかう!
「いっくよー、ギラ!」
【ドーターはもえさかるギラを吐いた!】
【まもののむれに平均三十五のダメージ!】
【ドーターたちはまもののむれをたおした!】
クロウは十四ジュエルを拾った。
ちなみにジュエルってのは魔物を倒した時に出る宝石のことだ。これを道具屋なりルイーダの酒場なりに持っていけば、相応のゴールドに換金してくれる。
ストエビ曰く、「魔物とは魔王が金や宝物なんかを媒介に呼び出したもの」らしい。
……とまあ、閑話休題だったが、戦闘は毎回こんな感じだぜ?
もちろん、最初は目を疑ったさ。
口からギラ。どうみても火炎放射です。本当にありがとうございました。
もちろん聞いたさ。
「おい、ドーター」
「なにー?」
「なんだ今のは」
「ギラだよ?」
「お前は口からギラを吐くのか?」
「えー……? みんなやってたけど?」
なん……だと?
聞けば、彼女の周りにいた魔法使い達はみんな口から吐いてたそうだ。いっそのこと大道芸人に職を変えれば良いと思う。
全くもって疑わしいが、本当かどうかを残る二人に視線で問えば――返ってきたのは肯定だった。ナニソレ?
「くくく。事実は、物語よりも、奇なり」
そう言うと、見ていろとばかりにストエビが前に出た。
【まもののむれがあらわれた!】
【どうする?】
rァ つぶす。
「死ね、ヒャド!」
【ストエビはつめたいヒャドを吐いた!】
【まもののむれに平均二十一のダメージ!】
【ストエビたちはまもののむれをたおした!】
クロウは十一ジュエルを拾った。
どうだ? と言わんばかりにふんぞり返る姿に、オレは自分の中の常識が崩れ去っていく音を聞いた。
変だ……。魔法ってのは手とか杖の先から飛んでいくモンだった筈なんだが。
実際、子供の頃に魔法使いの爺さんが使うのを見たときはそんな感じだった。
この数年で変わったとでも言うのだろうか?
しかし、あの時に爺さんが使ったのはメラだ。同じ魔法ならどうだろう?
「メラ……ですか? クロウさんの意図がよく分かりませんが」
オレの頼みに首を傾げながら、シスが前に出る。
よし! (比較的)常識人なシスなら……!
【まもののむれがあらわれた!】
【どうする?】
rァ ほろぼす。
「めら」
【シスはメラを唱えた!】
【シスはメラを唱えた!】
【シスはメラを唱えた!】
【それぞれに平均三十三のダメージ!】
【シスたちはまもののむれをたおした!】
クロウは十六ジュエルを拾った。
さすがはシスだ。きちんと指先から魔法を……なんて言うと思うか? 今、何をしたんですかねぇ……、この人。
なに? 今は初心者魔法使いでも同時に三つ唱えるのが流行りなの? 冒険者はこれが普通なのか?
オレが思ってたより、冒険者の敷居はかなり高い。
オレは勇者どころか、駆け出し冒険者にもなれないようだ。
オレがショックを受けていようがお構いなしに、足は動き続ける。
そしてオレ達は目指す洞窟の近くにあった、小さな建物――
ほら。洞窟の目の前にあるここなら、《ロマリア》に行くためのヒントがあるかもしれねぇしな?
ただ生憎と扉には鍵が掛かっていたんだが、「この程度なら楽勝だ」と進み出た奴がいる。
「くく。アバカム(物理)」
明らかに握り潰したようにしか見えなかったストエビの魔法で、オレ達は中へお邪魔させてもらった。
魔法使いどもはもっとマトモな魔法を研究しろ、と言いたくなった瞬間だ。
まあ、そうして何故か青い顔をした住人から得た情報がこの三つ。
・誘いの洞窟は特殊な壁で封じられており、それを壊すためには<魔法の玉>が必要である。
・で、その<魔法の玉>は《レーベ》に住む人物が持っているが、会うためには<盗賊の鍵>が必要。
・鍵は《アリアハン》近くのナジミの塔にある。
面倒くせぇ……。
つまり、スタートまで戻らないといけないワケだ。
ただ、塔は確か陸地が繋がっていない小島に建ってる。つまり、侵入経路が他にあるから、それを探さなくてはならない。
重ねて面倒くせぇ。が、仕方ない。行かないと進めないワケだしな。
――と、思っていたんだがねぇ……。
「まぁ、念のため洞窟も見るだけ見ていろみましょうか」
「うんうん! もしかしたら誰か通ってるかもしれないしねー」
「くくく。魔法の、玉は、トロルが、ミスリル、を、掘る、のにも、使う」
ドーター。それはタイミングが良すぎるだろ。
ストエビ。お前はさっきからどこでそんな怪しげな情報を仕入れてるんだ。
オレは半ば引き摺られる形で、誘いの洞窟に足を踏み入れた。
と言っても、入ってすぐに行き止まりだったがね。
叩いたりして熱心に壁を調べ始めた三人組へ、ここで見張りをしてるらしい爺さんが<魔法の玉>を使うように言うんだが……ま、聞かねぇな。
オレはさっさと取るもの取りに行きたいんだがね。
で、十分くらいか?
オレが焦れ始めた頃にシスが壁から離れた。
ようやく諦めたか――
「いけそうですね」
――――は?
「クロウさんは離れてて下さいね」
「いや、何する気だよ?」
「何するって、通るのに決まってるでしょー」
「くくくく。その、通り。離れ、てろ」
ほら見ろ。
爺さんも、やってみなさいと笑ってるぞ。
きっと、他にもいたんだろうなぁ……。
爺さんとオレが壁から反対側――つまり入り口の方に離れると、三人が壁の前に横に並んだ。
シスを中心に、ドーターとストエビが左右に並ぶ。
三人ともが変なポーズを取るものだから、隣で爺さんが孫を見るような目をしてる。いっそ、可哀想なものを見る目でもいい。
「いくよ、三位一体!」
「今よ、魔力を一つに!」
「くくく。いい、ですとも」
「「「イオ」」」
凄まじいまでの爆音が辺りに轟き――――それが収まった時には、大きく口を開けた壁があった。
「お、おお、おぉおお……ここ、腰が、腰がーっ!」
無理もないが、驚きのあまりに爺さんが腰を抜かしてしまってる。
オレだって現実逃避したいわ。
オレにどや顔を向けている三人娘から、そっと目を逸らす。
そして、冒頭へ。
「どうしてこうなった」
シス「この魔力」
ドーター「究極まで高めれば!」
ストエビ「ビッグバンも引き起こす!」
クロウ「サンクチュアリに帰れ!」