※ ※ ※
……オーケー、落ち着いて考えてみよう。
さっきの
まず、この三人は強くなるための旅が目的だと言っていた。
で、その根本にあるのはコイツらを束縛しようとした父親への反発――ここまでは問題ない。
いや、あるっちゃあるんだが……お父上には是非とも頑張ってほしかった。トラブルメーカー達を外へ出さない的な意味で。
そこから、
『父親>コイツら=駆け出し冒険者』
という図式が成り立つ。
オマケで、
『コイツら=駆け出しの冒険者>越えられない壁>オレ』
というのも成り立ってしまうのだが、これはそこらにある落とし穴へポイ捨てる。この公式は覚えてもテストには出ねぇぞ。
んで、コイツらが駆け出し冒険者なら、ベテランと呼ばれてる連中はもっと強いということだ。
問題はコイツらの父親なんだがなぁ。
「なぁ、お前らの父親って元冒険者とかか?」
「現役だけど冒険者じゃないよー。地方領主っていうのかな? 力ずく系」
聞けば、さそり蜂を殴り倒していたドーターからそんな答えが返ってくる。
……おい、魔法使えよ。
って、領主かよ! それだと部下とかが追ってくるんじゃねぇか? 力ずく系ってのは、まぁ納得した。
にしても、“あんなの”を引き起こす娘でも勝てない領主か。どの地方なのかは知らねぇが、それくらいじゃないと治められないってんなら、随分物騒なトコもあったもんだ。
そういや、ドーターとストエビも見事な体術を身に付けていたな。つまり、最低でもあれくらい出来ないとダメ、と。
それにしても昨日のことだというのに、遥か昔のように感じるなぁ。
ま、いいや。
シスとストエビは従姉妹で似た境遇と言っていたから、おそらく似たり寄ったりな状況なんだろう。
それで、いくら荒事への対応に長けた地方領主だといっても、さすがに旅慣れたベテラン冒険者より上ってことはないだろうな。
まぁ、百歩譲って確率上はあるとしてみれば、
『ベテラン冒険者≧領主>コイツら=駆け出しの冒険者』
こうか? オレの立ち位置は海へ(ry)
ここに、オレの親父こと勇者オルテガと魔王バラモスを入れる。
ただ勇者といっても、ベテラン冒険者とそれほど大きな違いがあるとは思えねぇんだよなぁ。
つまり、最終的なオレの図式はこうだ。
『魔王>勇者≧ベテラン冒険者≧地方領主>コイツら=駆け出し冒険者』
オレの立ち位置(ry)
なにやら酷い図式が出来てしまった。
こうしてみて、改めて魔王の凄さが分かった気がする。
だが、オレに倒せというのはちょっとどころかかなり無理がありすぎだろぉ。
ついさっき魔法使いの集団に襲われたんだが。
ん? いや、冒険者に襲われたワケじゃない。野盗に近い冒険者崩れっていうか、ストエビ曰く『魔王に魂を売った』連中だ。
それで話を戻すが、そいつらの使うメラの小さいこと。シスの使ったメラが人間の頭くらいのサイズだったのに対し、そいつらのは拳大だ。
駆け出し冒険者にもなれないことに絶望して、魔王に魂を売ったのかもしれねぇな。ただそこまで弱いと買った魔王としても使いにくいから、こうしてアリアハン大陸でウロウロさせてるんだろ。
いかに小さな火の玉であっても、相手がオレみたいな駆け出し以下の一般人にとっては脅威である。
オレはそんなメラすら使えねぇしな。
ちょっと憂鬱に思い、大きくため息を吐き出す。
それがソイツには気に入らなかったらしい。
ダン、と苛立たしげに床を踏み鳴らす。
「うっとお、しい。ため、息を、吐くな」
「うっせぇ。お前らにオレの気持ちが分かるか」
「わか、るか、ぼけ」
八つ当たり気味に言ったオレに、ストエビはシンプルかつストレートな表現で返してきた。
今は小休止中。
誘いの洞窟の地下一階は魔物もいない例の壁だけのフロアだった。
そして現在探索中の地下二階は、細道と落とし穴で構成された迷路である。
そう、落とし穴だ。
今が小休止で、ココにいるのがオレとストエビだけといえば……あとはわかるな?
さらに言えば、周りを見ない猪娘が落ちたのは一度や二度ではない。
幸いにも落差は余りない作りで、最初は合流のため全員で飛び降りていたんだが、大きな怪我をすることはなかった。
その内にストエビが落ち飽きて、真面目なシスだけがドーターを追っている。
ま、彼女にもかなりキているものがあったようだ。ついさっきシスが飛び降りた直後に、水に落ちたネコの絶叫みたいな悲鳴をドーターが上げていたからな。
思いっきり踏んだ。ってか真上に落下したんだろ、アレは。
ジャリ、ジャリ、と砂を踏み締めながら、壁にもたれて座っていたオレの隣にストエビが並ぶ。
他の二人もそうだが、コイツも服装は昨日と変わっていない。
赤味の強いオーバーニーソックス。それと裾の短い黄色のフード付きローブの隙間から、暗がりにも鮮やかな白い肌が横目に映る。
ストエビは顔の前面を覆う布を煩わしげに片手で引き下げ、同時に頭のフードも後ろへずらした。
ドーターと同じ、整い過ぎて怖いくらいの美少女顔が現れる。
ただし、人生を楽しく謳歌中ですというのが溢れているドーターと比べると、コイツはかなりキツい。
切れ長のツリ目から繰り出される視線は相手を射抜くよう。焦げ茶色の瞳は力が満ち溢れ、口調も、纏う雰囲気さえも尖っている。
ブンブンと頭を左右に振れば、その度にツインテールに結われた茶色の髪が跳ねる。
そうして不機嫌そうにフンと鼻息を漏らした彼女は腕を組み、壁にもたれた。
頭上から刺すような視線を感じるから、どうせいつものように見下ろしてやがるんだろ。
「自分、だけ、弱い、のが、気に、なる、か?」
「………………」
「たた、かい、を、見て、から、よう、すが、へん、だった、しな」
「……区切って言うな。てきぱき喋れ」
クソ! コイツ、よく見てやがったな。
いいだろう、といつもの邪悪さしか感じない笑い声と共に言う。
「今まで強くなる必要がなかったから弱いのだろう? そんなお前と、あたし様たちを一緒にするな」
「………………」
「あたし様には目的が、獲るべき目標がある。そのためにあたし様は強くなり、強くあらねばならない。あたし様を支配しようとする奴に抗うため、誰にも指図されないためにも」
なるほどな。コイツなりに目標があり、そこへ至るために努力しているってワケか。
そういう意味では、今までのオレにそんなものは無かったんだろう。
言われて、流されて。今もガキみてぇな言い分を掲げて逃げて。
大義名分の名を借りた逃げ口上。
“ガキみてぇ”じゃなくてまんま子供だな。何も持ってない、背伸びしていきがってるだけの子供。
親父を探すと言っている横で、自分の逃げ場所を求めている。自分が危険な目に遇いたくないがために、親父を利用しようとしている。
…………情けねぇ。
知らず、血が滲むくらいに拳を握り締めていた。
「悔しいか?」
「…………ああ」
「ならば、強くなれ」
「………………」
「お前は今、弱いことを自覚した。弱かったことを認識した。ならば、強くなれる。弱い自分が見えているなら、そんな自分自身を踏み潰せばいい」
なんだ……?
ストエビの声が、オレの身体の隅々にまで伝わるような感じ。
極上のベッドで眠ってるかの如き心地好さ。
「臆病者? 気にすることはない。心が弱いというのであれば、それは心も強くなれるということ。お前は強くなれるんだ」
“ドクン”と、心臓が高鳴る。
「……強くなれるのか? オレでも」
なれるさ、と壁から背を離してオレの方へ向き直りながら、ストエビは言う。
見上げた先の顔に浮かんでいたのは――いつもの悪辣さではなく、慈母の微笑みだ。
まるで黄金のような輝きを放つ彼女の瞳から、オレは目が離せない。
「あたし様が、お前を強くしてやる」
そんな彼女の背中側、通路の向こうから人面蝶が一匹飛びかかってくるのが見えた。
「あたし様は何もしようとしない弱い奴は嫌いだが」
オレの方へ視線を向けたまま、彼女の左脚が風を切って跳ね上がる。
赤。
「強くなろうと努力する弱いヤツは好きだ」
弧を描いた後ろ回し蹴りはまるでお手本のような優美さで、壁に叩き付けられてサンドイッチ状態の魔物がジュエルへと変わる。
オレは流れるように宝石を拾い上げ――
「クロウさーん! ストエビちゃーん! あっちに階段があったよー!」
「――――――ッ!?」
洞窟中に響き渡ってそうなバカデカイ声にオレはハッとし、手にしていたジュエルを取り落とす。
オレは……今、何をしてたんだ……?
頭の中が霞がかったようにボンヤリしている。
ドクドクドクドク、と心臓も早鐘を打っていた。
「チッ……! あと少しだったものを」
ボーッとしていたオレの耳はストエビが何か言っていたのを聞き漏らした。
手早くフードと布で元通り顔を隠したストエビは、壁から脚を下ろして不機嫌極まると言いたげな鋭い舌打ちをする。
赤。
“強くなれる”
グッとジュエルを握り締めたオレの頭には、ただその言葉だけが残っていた。
ドーターとシスはオレ達のそんな様子に不思議そうにしていたが、
「あ、クロウさん。これあげるー!」
「あん?」
タタタ、と駆け寄ってきたクロウがオレに何かを差し出したのを受けとる。
それは二人が倒したのであろう、数個のジュエルだ。
「クロウさん、光り物好きだよね?」
「オレをカラスみたいに言うな!」
失礼な発言をしたヤツの頭に、ビスッと手刀を落としておく。
固かった。思ってたより詰まってるのかもしれん。
「あはは。いたーい」
「せめて痛そうに言え。楽しそうに言うな」
握り締めていたジュエルを小袋の中へ入れると、オレ達は呆れた様子で待つシスと合流した。
と、一人動いてないのがいる。
「ストエビ、どうした? 急がねぇと、ドーターに置いて行かれるぞ」
今はシスに首根っこ掴まれてるがな。
「なん、でも、ない」
ストエビは言うや否や、オレを追い抜いていく。
ただ僅かな時間、ヤツは確かにオレの隣で足を止めた。
「また機会はある」
何かを言ったんだが、声が小さ過ぎて聞こえない。
既に前の二人と合流してやがる奴に、追い付いたオレは訊ねる。
「今何か言ったか?」
どうせなら、いつもの不遜な態度並みに大きな声で言ってくれませんかねぇ?
だが問いに、鼻で笑って返された。
「この、なか、で、弱い、のは、お前、だけ。あたし様、は、平気」
やっぱりコイツとは相容れそうにないな。
ひとが気にしてることをナイフで抉った上に塩を塗り込む真似をしやがって。
「お前はいつか絶対に泣かしてやる」
「くくく。やって、みろ。たの、しみ」
「いいなぁ、二人とも楽しそうで――――グエッ!?」
「はいはい。足元を見ないと首が絞まりますよー?」
「も゛、も゛う゛し゛ま゛っで ま゛ずー」
※ ※ ※
そうして、前から後ろから襲ってくるモンスターを(オレ以外が)蹴散らし、辿り着いた地下三階。
三本に枝分かれしていたた通路の、ラスト。
二本の外れを引いて歩かされたことへの腹いせに粉砕された扉の奥に、それは姿を現した。
青い、神秘的な光の渦。
通称、旅の扉と呼ばれるモノだ。
他の場所に設置されている扉と繋がっており、瞬く間にそこへ運んでくれるそうだ。中には遥か遠方の地と繋がっていることもあるという。
本当にあったんだな。
つまり、ここの扉だと――
「はよ、いけ」
初めて見た光の渦の余韻に浸る暇もなく、真後ろからは感情の欠片も無さそうな平坦な声。
尻を蹴り飛ばされて、渦に倒れたオレの視界が急速にボヤけていく。
あんのガキ、いつか絶対に泣いて謝らしてやる!
※もともと他の小説の合間に思い付いたことをツラツラと書き連ねていただけのため、ストックはここまでだったりします。
需要がありそうでしたらまた書くかもしれませんが、今はここまでです。
冒険の書に記録しますか?
rァ はい
いいえ