七色のドリフト使い(再制作予定)   作:独田圭(ドクタケ)

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イヤ、本当に申し訳ない。

約1ヶ月程放置してしまった事を深く反省しています。←土下座

中々ストーリーが思い付かずに気分転換として読み専の方にまわっていました。何個か面白い小説があったので集中的に読んでたらこんな事に・・・

さて、今回はギャグ要素無しで頑張ってみました。




第16話 vs早苗(前編) 崩れない均衡

 

金曜日の夜、碓氷峠に集まったギャラリーはインパクトブルーと秋名スピードスターズの交流戦が始まるのを今か今かと待ち構えていた。

 

レベルの高い走り屋達が密集している碓氷峠で特にずば抜けた実力を持つインパクトブルーと今や絶賛売り出し中のスピードスターズとの一戦は開始前にも関わらずギャラリーのテンションは最高潮に達しようとしていた。

 

勿論ギャラリーの殆どはインパクトブルーが勝つと信じていた。だが中にはもしかしたらと思う人間も少なからず居た。

 

何故そう思う人間が居るのか?答えは以前のナイトキッズとスピードスターズの交流戦の結果がそれを物語っている。あの時も妙義山に集まったギャラリーの誰もがナイトキッズの勝利を信じて疑わなかった。だがナイトキッズは地元という有利な要素がありながら蓋を開けてみたらスピードスターズに完膚無きまでに叩きのめされたのだ。そんな前例があるからこそ、有利不利でで勝敗を決め付けるのは早計では無かろうか、そんな風に思う人が少数だが存在している。

 

もう1つ理由を挙げるとすれば、ギャラリーの大半はスピードスターズにはとても優秀な人物が指揮官を務めているのだろうと思っていた。だが事実は違う。

 

池谷は特別頭が良い訳でも突出した能力がある訳でも無い。只バトルの行く末を黙って見守っているだけに過ぎない。

 

だが何も頭の良い人物が優秀な指揮官になれるとは限らない。三國志で例えるなら劉備玄徳が良い例だろう。彼は王族の末裔という事以外はごく普通な青年に過ぎなかった。だが彼の周りには関羽を始め、張飛、趙雲、馬超、黄忠といった所謂五虎将軍と例えられたとても優秀な将軍と諸葛亮や鳳統といったとても優秀な参謀が居た。

 

恵まれていたと言われればそれまでだが、彼がこれ程優秀な人材に恵まれたのは彼の人望の厚さによる物が大きかった。だがそれだけでは無い。

 

適材適所という言葉があるのはご存知だろう。簡単に言えばその人の能力に合った役割にその人を振り分けていくという意味だが、劉備はまさに【それ】だった。自分が出来ない事、役割を出来る人に割り当てる。簡単な事の様に思えるが、自分の程度を良く理解し尚且つ仲間の能力を理解して信頼していなければとても出来ない。それが出来た彼だからこそ魏や呉といった強国と互角に戦う事が出来たのだろう。

 

池谷の場合もそれに当て嵌まる。自分は頭も良く無ければ技術的に優れている訳でも無い。だが池谷には人を見る目があった。

 

博麗霊夢をチームに誘った経緯を思い出して欲しい。彼は霊夢を【ドライバー】として幾度となくスピードスターズに誘った。だが霊夢は当初チームに入る気は全く無かった。それでも折れずに何度も霊夢と話しているうちに彼女が頭脳明晰だという事を知る。ならば彼女をドライバーとしてでは無く【戦術参謀】としてチームに誘った方が良いのでは無いのか、そう思い始めた頃にアリスと出会った。アリスの技術の高さとセンスの良さにいち早く気付いた池谷は彼女をドライバーに抜擢した。その後池谷は霊夢に「戦術参謀としてチームに参加しないか?」と持ち掛けた。霊夢はそれに承諾したという事だ。

 

しかし霊夢は面倒事をとても嫌う性格の持ち主である為、そう言った話には先ず乗らない。では何故霊夢は池谷の話に乗ったのか?

 

霊夢はスピードスターズに入る事を決めた理由として「興味を持ったから」と言った。つまり霊夢にそう思わせるだけの【何か】が池谷にはあった。それが人を惹き付ける物なのか、それとも別の物なのか、それは池谷本人にも分からない。

 

只、1つだけ言える事は池谷のこうした姿がある意味でチームリーダーとしての【あるべき姿】なのでは無かろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタートラインには2人の少女が睨み合っていた。

 

片や青いエボⅨに乗り【奇跡のエボ使い】と呼ばれ自他共に認める群馬エリア随一のランエボの使い手、東風谷早苗。

 

もう片や【七色のドリフト使い】と呼ばれ、多種多様なドリフトで人を魅了する最速のドリフト使い、アリス・マーガトロイド。

 

暫く黙ったまま視線を合わせていた2人であったが、その沈黙を破ったのは早苗の方だった。

 

早苗「・・・東風谷早苗です。宜しくお願いします。」

 

ペコリと頭を下げて礼儀正しい口調で自分の名前を告げる早苗。だがその口調とは裏腹に早苗の表情には好戦的な笑みが浮かんでいる。

 

アリス「アリス・マーガトロイドよ。今夜は楽しいバトルにしましょう。」

 

対するアリスも早苗と同じ様な表情を浮かべている。唯一違う所があるとすれば、早苗とは違ってそこまで好戦的な表情では無いという所か。

 

2人はそれ以上の言葉を交わさず黙って車に乗り込んだ。尚、碓氷峠は道幅が狭い為インパクトブルーの方針でバトルは先行後追い方式を採用する事にした。その際、1本目のポジションをアリスが選ぶ事になったが彼女は後追いを選んだ。アリスはその時、後追いを選んだ事に特に意味は無いと言っていた。

 

アリスは自分の愛車に乗り込むと直ぐに霊夢を呼んだ。作戦内容を確認する為である。

 

アリス「霊夢、今回の作戦は?」

 

霊夢「まぁ負けない様に頑張りなさい。」

 

アリス「・・・それだけ?」

 

まさかの頑張れという一言しか無かった為に、思わずアリスは唖然とする。幾らなんでもそれは作戦とは言えないのでは無いかと思うと同時に少し投げやりなのではとも思った。アリスがそんな風に思っている事を知ってか知らずか霊夢は言葉を続ける

 

霊夢「・・・冗談よ。只アンタが入れ込み過ぎているんじゃないかと思ったから肩の力を抜いてあげただけよ。」

 

どうやら先程の霊夢の発言には彼女なりにアリスの緊張を解す意味合いがあったらしい。戦術参謀というのは只作戦をドライバーに伝えるだけが仕事では無い。ドライバーが最高のパフォーマンスが出来る様にドライバーを気遣う事も彼女の仕事の1つだ。

 

霊夢「じゃあ今から作戦の内容を説明するわ。話す内容は2つよ。先ず1つ、アンタはこのコースを詳しくは知らない。そのハンデを逆手に取る事。それともう1つ、勝負は【下り】で相手の車は【ハイパワーなターボ車】よ。この意味を考えなさい。」

 

アリス「・・・分かったわ。」

 

霊夢の説明は具体的とは言えなかったがアリスは口を挟まず黙って霊夢の話を聞いていた。頭の良い霊夢ならより詳しく説明する事も出来ただろう。だが敢えてそうしなかったという事は、「後は自分で考えろ」と遠回しに言ってるんだろうとアリスは思った。

 

作戦をそのままドライバーに伝えるのでは無く、バトル攻略のヒントしか与えず後の事は自分で考えさせる。そうしてドライバーの駆け引きの幅を広げる。それこそが霊夢の狙いだった。

 

霊夢の狙いなど当然知らないアリスは今さっき霊夢が言った事を心の中で復唱しながら車をスタートラインに並べた。その時助手席側のドアからノックの音が聞こえた。

 

蓬莱「アリスさん、隣・・・良いですか?」

 

ノックをしてきたのは蓬莱だった。これからバトルが始まるというのに彼女は横に乗って一体何をしようというのか?

 

アリス「あのねぇ蓬莱、もうバトルが始まるのよ。この間の時とは違うんだから自重しなさい。」

 

この間というのは東京から来た2人との追いかけっこの事を指している。アリスにとってアレはバトルでは無く単なる遊び・・・というよりかはお説教とも言いべき物だった。その時も蓬莱はアリスの横に乗っていた。だが今日のバトルはあの時とは勝手が違う。その為、アリスは蓬莱の要望には難色を示した。

 

・・・どうせまた変なリクエストをしてくるに違い無いと、この時アリスはそう思っていた。

 

しかし、蓬莱の口から出た言葉はアリスの予想とは全く違う物だった。

 

蓬莱「・・・それは解ってます。霊夢さんと池谷さんに言われたんですよ。横に乗って来いって。」

 

アリス「霊夢と池谷さんが?」

 

何故その2人の名前が出てくるのか?アリスは蓬莱の意図が解らず首を傾げた。

 

蓬莱「今回は【チームの仕事】として私を隣に乗せて下さい。」

 

この言葉を聞いたアリスは蓬莱が言わんとしている事を理解した。蓬莱は池谷と霊夢の指示によってアリスのナビゲート役をするつもりなのだ。要はラリーでドライバーのサポート役的ポジションを蓬莱がするのだ。

 

これは池谷と霊夢が2人で話し合って決めた事だった。アリスは寄り道をした代償で碓氷を上りと下りの1本ずつしか走れなかった。故にアリスの頭の中には漠然とした全体的なコースの情報しか無かった。コースの情報が不足していれば、ここ一番の場面でどうしても後手に回ってしまう。その事を懸念した霊夢が池谷に相談して話し合った結果、その解決策として先に現地入りして各コーナーの特徴を調べた蓬莱にアリスの横に乗って色々とアドバイスをしろ、と命令したのだ。

 

蓬莱「それにアリスさん、隣を見て下さい。」

 

言われた通り横を見ると、なんと早苗の横にも誰かが乗っているではないか。早苗の横に乗っていたのは、インパクトブルーが誇る最強の参謀、沙雪であった。

 

遡る事数分前、早苗が車に乗り込むと同時に沙雪も横に乗って来た。その沙雪の行動に早苗はキョトンとしていた。というのも早苗がバトルする時は基本的に沙雪が隣に乗る事は無い。逆に真子の時は隣に沙雪が乗っている事が多い。

 

特別真子の運転が下手という事では無い。というより寧ろ車をコントロールする技術に於いては早苗にも匹敵する実力を真子は持っている。

 

 

 

 

 

では何故沙雪は早苗の隣には乗らないのか?

 

 

 

 

 

答えは簡単、単純に【その必要が無い】からだ。

 

確かに真子は技術的な面に於いては早苗と同等だが、真子の走りはモチベーションの高さが生命線となっている。絶好調の時は手が付けられない程の走りを見せるが、そこから少しでも外れると泥沼にはまってしまう。それを防ぐ為に沙雪が隣に乗って真子のメンタルケアをしているのだ。

 

対して早苗の場合はモチベーションという物はあくまでオマケに過ぎず感情1つで自分の走りが左右される事は無い。というより感情の変化を理論で抑えていると言った方が正しいか。

 

早苗はプロへの意識が強い。自分がプロのドライバーになる為には感情に左右されない走りを身に付ける必要がある。そう考えた早苗は感情を抑え付ける手段として正確な理論に裏付けされた走りを身に付けるに至った。

 

つまり早苗にとって理論とは自分の走りの美学だけでは無く、感情をコントロールする手段でもあるのだ。

 

だとしたら、何故今回のバトルで沙雪は早苗の横に乗る事にしたのか?

 

・・・それは、沙雪が今まで通りのやり方では通じないという事を本能的に察したからだ。

 

沙雪から見てアリスの走り屋としての実力は未知数な所が多かった。技術面、メンタル面共に優れている事は周知の事実だったが沙雪が気になったのはアリスの走りの本質が読めない事だった。

 

感覚派と呼ぶには走りにムラが無く、かと言って理論派なのかと聞かれればそれも違う気がすると沙雪は思っていた。故に沙雪はどっち付かずで独特なスタイルを持つアリスの走りを不気味に感じたのだ。

 

兎に角、走り出せば何らかの情報が掴めるだろう。そう思った沙雪はアリスの走りの本質を見極める為、早苗の横に乗る事にしたのだ。

 

只1つ誤算だったのはアリスが後追いを選んだ事だった。通常慣れないコースでこの様な形式のバトルになった場合、先行を選んだ方が1本分余分に練習出来るというメリットが発生する為大抵の走り屋は先行を選ぶのが普通である。だがアリスは後追いを選んだ。余程の自信があるのか、それとも只単にこのルールのメリットを知らないだけなのか。

 

早苗「・・・じゃあ、スタートします。」

 

早苗の言葉を聞いて沙雪は考えるのを止めた。早苗はインパクトブルーが誇る2枚看板の内の1人なのだ。いかなる強敵が相手でも簡単にやられる程ヤワじゃ無い。それに今回は隣に自分が居るのだ。負ける要素が何1つ見当たらない。沙雪は自信に満ち溢れた表情でスタートに備えた。

 

この形式のバトルではゆっくり走り出した後、第1コーナーを立ち上がったのを合図に全開走行に入る為、チームの誰かがカウントを取る必要が無い。何時もカウントを取っていた霊夢もこの時ばかりは思案顔で見守っていた。

 

早苗のエボⅨが走り出すとアリスのS2000もその後に続く。ゆっくりとした走りで第1コーナーに向かう両者の車。やがて第1コーナーを立ち上がると2台の車はアクセルを全開にした。

 

蓬莱「スタート直後はタイトなS字コーナーが連続で続きます。S2000の旋回性能を活かした高いアベレージスピードで進入して下さい。」

 

蓬莱の指示に従って出来るだけ車速を落とさずにコーナーに進入する。そして次の切り返しではノーブレーキで突っ込み、あり得ないコーナリングスピードでクリアして見せた。余りに速いスピードに蓬莱も少しばかり顔を歪める。

 

今まで何度もアリスの隣に乗ってその走りを見てきた蓬莱であったが、ここまで本気のアリスの走りを見るのは初めてだった。

 

ふと隣を見ると険しい表情でステアリングと格闘しているアリスの姿があった。その姿からは余裕など微塵も感じられない。こんな表情のアリスを見るのも初めてだった。

 

アリスは現在苦戦を強いられていた。それもその筈、碌に走り込みも出来ていないまま半ばぶっつけ本番という形でバトルに挑んでいるのだ。もう少しじっくり走り込みが出来ていれば霊夢の作戦を基に細かい部分のシミュレーションを組み立てる事も出来たが準備不足が祟ってそれも出来ない。

 

こんな事ならせめて自分だけでも釜飯を後回しにして走り込みをするべきだったとアリスは自分の軽率な行動を後悔した。

 

とはいえ、もうバトルは始まってしまったのだ。今更後悔した所で失った時間は取り戻せない。それはアリスも解っていた。

 

だが、解ってはいても早苗にペースを握られているこの現状を打開する術を持ち合わせていない。その事実がアリスをイラつかせていた。

 

アリス「(ここで離されたら絶対追い付けない。意地でも喰らい付いていかないと。)」

 

早苗に追い縋るべくアリスは早苗より厳しいラインでコーナーに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

だがその時・・・

 

蓬莱「先輩!!インに寄せ過ぎです!!」

 

アリス「えっ?・・・!!」

 

気付いた時にはもう遅かった。突然S2000が外に投げ出される様にアウトへと膨らんでいく。一瞬何が起こったのか解らなかったが直ぐに起こった出来事を理解した。

 

あのコーナーのイン側には砂が浮いていたのだ。それに気付かずインをデッドに攻めた所為でタイヤが砂に乗ってしまいラインを外してしまったのだ。

 

必死の操作でどうにか立て直したアリスであったが、そのおかげで早苗との差が少し開いてしまった。

 

アリス「蓬莱!!そう言う事はもう少し早く言いなさいよ!!」

 

蓬莱「何を言ってるんですか。イン側砂が浮いているんで気を付けて下さいって私は言いましたよ。」

 

アリス「・・・えっ?」

 

アリスは怒りに満ちた表情で蓬莱に詰め寄ったが蓬莱の言葉を聞いた途端、熱くなっていた頭が一気に冷やされた感覚になった。

 

実はコーナーが迫っていた時、蓬莱は砂が浮いている事をアリスに知らせていた。だがアリスはその時自分の思考に溺れていた為に蓬莱の忠告を無視してコーナーに突っ込んだのだ。

 

蓬莱「・・・何の為に私が居ると思ってるんですか?もっと私を頼って下さいよ。1人で抱え込まないで下さいよ!!」

 

アリス「・・・ゴメン。」

 

それは蓬莱の悲痛に似た叫びだった。自分の憧れの象徴であるアリスは走りに対する気持ちは熱く、だけどそれを表には出さず淡々と仕事をこなすその姿に蓬莱は憧れていた。だからこそ、何時になく取り乱しているアリスの姿を見るのは嫌だった。

 

蓬莱「・・・すいません。生意気な事を言い過ぎました。」

 

アリス「良いのよ。蓬莱のおかげで目が覚めたわ。」

 

冷静さを取り戻したアリスはここからこの差をどう埋めるかを考える事にした。相手は自分と同じかそれ以上の実力を持つ走り屋である。そう簡単には差を縮められないだろう。仮に差を詰めたとしてもゴールまでに相手の前に出なければ意味が無い。

 

霊夢の2つのアドバイスの意味を考えてみるが、イマイチ明確な答えが浮かんで来ない。

 

アリス「早速貴女に助言を求めるけど、エボⅨとの差を埋める為にはどうすれば良いかしら?」

 

故にアリスは蓬莱に助言を求めた。蓬莱は少しの間考えた後に口を開いた。

 

蓬莱「・・・今の所、エボⅨと先輩との間にはコースの熟練度という大きな差があります。現状では追い付くのでは無く、離されない走りに切り替えた方が得策だと思います。」

 

アリス「言い方を変えるならそれしか策が無いという事ね。」

 

蓬莱「【今の所】はですよ。碓氷の最難関のコーナーのC-121に差し掛かるまでにこのコースのリズムを掴めていれば勝機は充分にあります。」

 

C-121・・・タイトなコースで知られる碓氷峠の中でも特に難しいとされるコーナーである。C-121は碓氷峠のちょうど中間地点に位置し、このコースの最大の見せ場であると同時にクリアするにはかなりの技量が要求される為、地元の走り屋でもクリア出来る人間は極僅か。かのドリキンが碓氷を走っていた時もクリア出来たのは彼を含めても数えられる程度の人数しか居なかったという。

 

そこまでにアリスが早苗に追い付いて、且つコースのリズムを掴んでいれば早苗に勝つ可能性は充分にあると蓬莱は言う。

 

厳しい事には変わりないが勝ち目が無い訳では無い。そう・・・相手が同じ人間である以上、勝負事に絶対など無いのだ。

 

蓬莱「(だけど、こればっかりは先輩の走り屋としてのセンスに賭けるしか無いんですよね。)」

 

蓬莱の思考能力を持ってしても未だ活路を見出だせないでいるが蓬莱の表情に焦りは無い。何も出来なくても我慢の走りで後ろに付いていれば必ず隙が出る筈。そう信じて蓬莱はアリスに指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、前を走るインパクトブルーの2人は必要最低限の事しか喋らず巧みな走りで後ろのS2000を牽制していた。

 

沙雪「次のコーナー、インベタグリップで!!」

 

早苗「はい!!」

 

沙雪が的確な指示を送り、早苗がそれに応える。2人のコンビネーションは抜群で互いが信頼しあっている事を窺える。流石は碓氷最速を自負するだけあってその走りには隙が見当たらない。アリスが苦戦するのも納得である。

 

早苗はチラリとバックミラーを見た。そこには少し距離を置いて付いて来ているS2000の姿があった。

 

早苗「(・・・何かを仕掛けて来る気配を感じない。アリス・マーガトロイド、貴女は何を考えているんですか。)」

 

早苗はこうして頻繁に後ろの様子を確認しているが、何も仕掛けて来ないアリスの走りを見て不気味さを感じていた。アリスがミスした直後、焦ってペースを上げてきてくれれば儲け物だと思っていたが、落ち着いて(実際は少し違うが)追い掛けて来るアリスに驚きを通り越して気味の悪さを抱いていた。

 

沙雪「(早苗の調子は絶好調なのよ。それなのに、これだけのハイペースに付いて来るなんて・・・何て奴なの。)」

 

アリスの走りを不気味に感じていたのは早苗だけでは無かった。沙雪もまた同様に、と言うかそれ以上に後ろのS2000の走りにプレッシャーを感じていた。バトルはもうすぐ中間地点に差し掛かる。沙雪は次の一手を打つべきだと考え、早苗に話し掛けた。

 

沙雪「早苗、もうすぐC-121だからね。勝負を賭けるわよ。」

 

それを聞いた早苗は横目で沙雪を見ただけで何の反応も示さなかった。それはまるでもう少し具体的な説明は出来ないのかと言わんばかりの表情で。そんな早苗の心情を知ってか知らずか沙雪は言葉を続ける。

 

沙雪「あそこは入口から出口まで流しっぱなしで行くわよ。ガツンと1発、アンタの力を見せ付けてやりましょう!!」

 

早苗「そう言う事ですか。・・・わかりました。」

 

早苗は口ではそう言ったが内心ではそう簡単に勝負は決まらないだろうと確信していた。確かにC-121は自分が最も得意としているコーナーではある。あのコーナーを全開ノーブレーキで突っ込んでドリフトしながらクリア出来る自信がある。だが同時にこの勝負は最後まで縺れる事を予感していた。

 

早苗の頭の中では既に別の事を考えていた。何処で勝負を仕掛けるべきか、そのポイントを探っていた。

 

仕掛けるのが早過ぎても遅過ぎても失敗する。早ければゴールまでタイヤが持たないが逆に遅いと振り切れない。それに仕掛ける時は常に自分の心に余裕を持っておかなければならない。そうでなければ作戦は破綻する。

 

だが早苗には理論を用いて感情を抑える事が出来る。それ故に自身の精神状態についてはそれ程重要視していない。

 

唯一不安要素があるとすればアリスの走りの本質が未だ掴めていない事だ。

 

早苗「(感性に任せて走るタイプじゃなければ理論に裏付けされた走りをする訳でもない。・・・まるで得体の知れない何かを相手している気分ですね。)」

 

一言で言うならアリスの走りは空気のようだと早苗は思う。確固たるスタイルがあるようで実は無色透明。何色にも染まる事の無い走りをするアリスを見て早苗は違和感を拭いきれないでいた。

 

早苗「(・・・とにかく、今は考える事に集中しないと。)」

 

常に思考を巡らせる事は早苗が峠を攻めるうえで最も重要視している事である。相手の車の状態はどうか、それに対して自分はどういう走りが出来ているか等、早苗にとって考える事は相手の弱点を知るだけでは無く自分の走りを客観的に見れる事にも繋がるのだ。

 

普通考えると言っても精々相手のクセや欠点を探るだけであって自分の走り、況してや地元の峠を攻めているならコースの事など先ず考えない。

 

だが、それでも早苗は考える事を止めない。余程自分の走りに自信があるのか、それとも・・・

 

 

 

 

 

C-121はタイトなコーナーが続く碓氷峠の中では比較的Rの大きい高速コーナーの部類に入る。その特徴として入口から中間に至るまでは道幅が広く逆に出口は極端に狭い。高いスピードを維持したまま進入する事がクリアするコツだが進入スピードが高ければ高い程出口の狭さに恐怖を感じる。大抵の走り屋は此所で怖じ気づいて途中でスピンしたり、最悪クラッシュしたりする。つまりその恐怖心に打ち勝った走り屋のみがゴールまで辿り着く事が許される言わば関門の様な場所なのだ。

 

そのコーナーが目の前にまで迫って来た事によりテンションが最高潮に達した沙雪は早苗に向かって大声で叫ぶ様に声を上げた。

 

沙雪「対向車無し!!早苗、派手に行くわよォ!!」

 

早苗「・・・はい。」

 

対照的に早苗は静かに返す。正直やかましいと思ってしまったが沙雪がハイテンションなのは何時もの事なので諦めた。

 

一方後ろのS2000も、

 

蓬莱「来ました。此処は全開ノーブレーキで突っ込んで下さい。」

 

アリス「了解。」

 

此方は両者とも落ち着いた口調で上記のやり取りをしていた。

 

2台の車がC-121に進入する。早苗もアリスも共にノーブレーキで突っ込み、そこから4輪ドリフトに移行し、中盤の道幅の広いポイントを抜ける。そして終盤の道幅の狭いポイントに差し掛かるが2台の車はクリップにピッタリと付いて1ミリ足りともラインを外す気配を見せない。

 

・・・その様子を見ていたギャラリーは後にまるで2台の車がシンクロしているようだったと語っている。

 

S2000とエボⅨの2台は一度も車の挙動を乱す事無く見えない糸に引っ張られるかの様にC-121を抜けていった。

 

早苗・沙雪「「!!」」

 

何事も無く立ち上がったアリスのS2000を見て早苗と沙雪は目を見開いた。特に沙雪の驚きようは半端では無かった。

 

早苗も一瞬驚きはしたが直ぐに立ち直ったかと思うと直後には歓喜の笑みを浮かべていた。早苗は未だ動揺している沙雪に声を掛けた。

 

早苗「・・・予想はしていましたがまさか1発でクリアするとは、やはり相手にとって不足は無いですね。」

 

沙雪「・・・アンタ、妙に落ち着いているわね。」

 

早苗「巫女という職業柄、常に冷静な判断を要求されますので・・・」

 

沙雪「はぁ・・・勝手に取り乱した私が馬鹿みたいじゃない。」

 

深い溜め息を吐いた沙雪だが直ぐにその表情は強気な笑みへと変わる。それに釣られるかの様に早苗の笑みも深まっていった。

 

一方アリス達の表情には笑みは無く、睨む様な視線で前を走るエボⅨを・・・というより正確にはコースの先を見ていた。

 

蓬莱「・・・問題は此処からですね。相手が何時仕掛けて来るか、その見極めが重要です。」

 

アリス「準備は出来てるわ。かかって来なさいって感じね。」

 

心の準備は出来ていると言うアリスに蓬莱は「頼もしいですね。」と返す。スタート直後にはあった焦りの表情は今はもう何処にも無かった。

 

だが蓬莱は念の為にアリスに釘を差す。

 

蓬莱「ですが此方が仕掛けるポイントはまだ先ですのでそれまで喰らい付いて行かなければいけませんよ。」

 

アリス「・・・分かってるって。」

 

蓬莱の忠告にアリスは苦笑いを浮かべる。全く蓬莱は心配し過ぎだと心の中で肩を竦めた。

 

 

 

 

 

両者の思惑が交錯する中、バトルは終盤に差し掛かる。

 

アリスはこの均衡を崩す事が出来るだろうか?

 

後半へ続く・・・

 

【完】

 

 






ギャグ要素無しで頑張ってみた結果、まさかの10000文字越えという事になりました。←Σ(・ω・ノ)ノ

おまけに決着シーンまで行かないという始末・・・

という事でアリスと早苗のバトルは前後編に分けたいと思います。

でも次回は決着シーンを書こうか茶番回にしようか迷ってるんですよねぇ~。

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