七色のドリフト使い(再制作予定)   作:独田圭(ドクタケ)

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いつの間にかお気に入り件数が80件を突破していた事についてww

どうも久々のDoctor Kです。

ここのところスランプで執筆が全く進まなかったのでしばらく放置していたら、評価増えてるわ、バーに色付くわで勝手にてんやわんやしてました(笑)。

いやぁ、今年一番のビックサプライズですなぁ(笑)。

誰が評価したのか確認していたら匿名で評価1付けられてました…

誰だコンチクショウ!!







…という事で最新話です。



第21話 ライバルは神出鬼没

 

……最速とは何か?

 

走り屋をやってるならば誰もが目指す領域。最速の座を手に入れる為に最速の走り屋に挑み、勝利し最速の称号を手に入れる。まさに絵に描いたサクセスストーリーだ。

 

……では最速とはどういう事か?こういう単純な疑問程明確な答えは以外と出ない。

 

アリス「……」

 

アリスもその例に漏れず先程から自問を繰り返していた。

 

アリスがこの疑問を抱く様になったのは走り屋の世界に関心の無い上海がこの疑問をアリスに問うた事が発端となった。

 

以来、アリスは暇になった時は答えを模索する毎日を過ごしていた。堪りかねて一度は母に聞いてみたが……

 

アリシア「……さぁねぇ〜。ママはそんな事考える前に最速になっちゃたから分からないわ。」

 

と言い全く当てにならなかった。そして今……

 

パルスィ「私が知る訳ないじゃない、妬ましいわね。」

 

パルスィにも同じ事い聞いたがバッサリ切り捨てられた。彼女なら何かヒントをくれるのでは無いかとGARAGE WaterBridgeにやって来たが空振りに終わったようだ。

 

アリス「パルスィなら何か知ってると思ったのになぁ〜……」

 

パルスィ「第一私は走り屋じゃないんだし、それを私に聞くのはおかしいと思わなかったわけ?」

 

言われてみれば確かにとアリスは思う。こう言ってはパルスィに失礼だが、走り屋でない彼女に答えられる質問とは到底思えない。

 

パルスィ「そんなに答えが知りたいなら走りの中で見付けなさい。他人の言った事なんて当てにならないものよ。自分で得たもの、それが答えよ。」

 

私から言える事はそれだけよとパルスィは締め括った。

 

パルスィの元に来ただけでも充分な収穫があったとアリスは思える。

 

自分の答えを信じる、

 

パルスィの言った事はあまりに単純明快な事だったが、答えを急ぎ過ぎたアリスはその事がすっぽり抜け落ちていた。

 

やはり単純な疑問程その答えは解りにくいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、秋名山へとやって来たアリス。

 

パルスィから背中を押されたのもそうだが、うだうだ考えているより走りの中で答えを見つける方が自分の性にあっている。

 

パルスィ「……何で私まで付いて来なきゃいけないのよ。妬ましい……」

 

秋名に居たのはアリスだけではなくパルスィも居た。口ではそう言ってるがアリスの要求を二つ返事で了承し付いて来たのだからパルスィも割と乗り気なのかも知れない。

 

アリス「嫌だったら断れば良かったじゃない。」

 

パルスィ「夕飯奢るからって言われて断りきれる程人間出来てないわよ。」

 

……訂正、パルスィは乗り気だったのではなく単に食べ物に釣られただけであった。だがそれ以外にもパルスィが付いて来たのにはもう一つ理由がある。

 

それはディーラーのオーナーとしてアフターパーツの点検及び動作確認の為である。

 

特にアリスのS2000は装備してるパーツが多い。いくらアリスとは付き合いが長いとはいえディーラーの常連客である以上、客のニーズに合わせてパーツを改良していかなくてはならない。

 

先程パルスィは他人の意見は当てにはならないと言っていたが、それはあくまでプライベートでの話。仕事の場で人の意見を無視して独断で事を進めるのは愚の骨頂、商売人として失格である。

 

パルスィを隣に乗せて車は走り出す。今日はダウンヒルではなくヒルクライムを攻める。走りに集中しようとしていた矢先……

 

パルスィ「……何か悩み事でもあるの。」

 

と言われてアリスは思わず固まった。隠していた訳ではなかったが出来るだけ悟られない様に努めてはいた。

 

ここのところ……厳密には昨日からアリスは霊夢とギクシャクした関係になっていた。

 

昨日、蓬莱の立場を巡って霊夢と口論になって以降、まともな会話は無く互いにどこかぎこちない。その場で謝りはしたものの溝は埋まらず一夜明けてもその仲は改善されていない。

 

パルスィに勘づかれた以上隠し続けるのは野暮だと思ったアリスはその事をパルスィに打ち明けた。他人の与太話に全く興味の無いパルスィの事だから関係ないと切り捨てるだろうと思っていたが……

 

パルスィ「……下らな過ぎて妬ましいわね。」

 

予想の斜め上を行く辛辣な返しだった。自分から話を振っておいてその反応はあんまりではないかとアリスは思う。

 

アリス「パルスィ、下らないって言い過ぎだと思うけど…」

 

パルスィ「大体、お互いに謝ったならもう問題は解決してるじゃない。それを何でいちいち引き摺るのか私には良く分からないわ。」

 

アリス「……」

 

ぐうの音も出ない。パルスィの言う通りアリスと霊夢は互いに謝罪を交わして終わりになっていた筈である。

 

ところが1日経っているのにその仲は一向に修復されていない。

 

一体自分はどうすれば良いのだろうか。走りに集中するどころか益々思考の渦に溺れていく一方である。

 

バックミラーに一台の車のヘッドライトが近付いている事に気付いたのは沈んだ気持ちのまま車を流していた時だった。

 

パルスィ「……一台後ろから来てるわよ。」

 

アリス「分かってる。」

 

気持ちを切り替えてペースを上げるアリス。コーナーを立ち上がった時、アリスは相手の正体に気付いた。

 

アリス「(このエキゾースト、それにコーナーを脱出する時のこの加速、まさか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GT-R!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「(待ちわびたぜ、この時が来るのを。)」

 

前を走る無限エアロの白いS2000を見て口角を吊り上げるこの男は妙義ナイトキッズのリーダー中里毅。

 

中里はアリスとのバトルの機会を虎視眈々と窺っていた。

 

妙義での交流戦の時には良い経験になればと思いアリスの相手を慎吾に譲ったが、本当は中里自身がバトルをしてみたかった相手が今目の前に居る。

 

こうなると中里が取る手段は一つしかない。

 

中里「アリス・マーガトロイド、お前とは一度バトルをしてみたいと思ってたぜ!!」

 

吼える中里、そしてそこからのフルスロットル。中里のR-32はあっという間にS2000の背後にへばり付いた。

 

アリス「何よ!!そこまでムキにならなくて良いじゃない!!」

 

これを見たアリスは中里の行動に少々苛立ちながら更にペースを上げる。ここで忘れてはいけないのがアリスは今ヒルクライムを攻めているという事。

 

上りではパワーとトラクションで勝るGT-Rが圧倒的に有利。これではいくらアリスでも勝ち目は無い。

 

だがここは秋名山。毎日の様に走り込んでいるアリスにとっては自分の家の庭みたいなもの。例え相手がGT-Rといえど総合的な速さでアリスは中里を凌駕する。

 

だからといって中里が下手という訳では断じて無い。ここ最近の彼は自身の欠点だった感情任せなムラッ気のある走りを見つめ直し、現在少しずつではあるが安定感のある走りを見せつつある。

 

パルスィ「……あら、よく見ると後ろのGT-R、ナイトキッズの中里の車じゃない。」

 

アリス「良く分かったわね。」

 

パルスィ「彼の車も私のディーラーで仕上げているのよ。分からない訳が無いわ。この間もまた私に板金頼んできたし。」

 

アリス「またって……あの人そんなに板金頼んでくるの?」

 

パルスィ「少なくとも年に一回は必ず来るわね。まっ、ウチからしたら儲かるから良いんだけど。」

 

それは少し多過ぎるのではないのかとアリスは思う。

 

パルスィと呑気に話をするアリスだがそれでも速い。後ろの中里はアリスがまだ本気を出していない事に気付いてはいたがそのあまりの速さに次元の違いを感じていた。

 

中里「(…予想以上の速さだ。こちとら冷や汗ダラダラもんの全開だってのに。)」

 

アリスの走りの何処が凄いのか、かつてドリフトをしていた中里には分かる。

 

彼女は本物のドリフトを知っている。ドリフトはまずコーナーの入り口でブレーキングをし、次にステアリングを切ってリアタイヤを滑らせ、そしてカウンターを当てる。

 

ここで重要なのは以前アリスが魔理沙に言った様にステアリング操作はあくまできっかけ作りにしか過ぎないという事。下手なドライバーはこれを理解しておらず必死にカウンターを当ててわざわざアンダーステアを出してしまっている。

 

それに必要以上にカウンターを当てるという事はその分抵抗が増す事になり、結果車速の遅いドリフトになってしまう。

 

上級者ともなればターンイン直後の安定期から立ち上がりにかけてはステアリング操作はほとんど行わずアクセルワークだけでクリア出来る。当然アリスもその1人。

 

更にアリスみたくドリフトを極めた走り屋であるならば、ステアリング操作はコーナー進入時の車の姿勢作りに行う程度で後はステアリング操作を一切行わない。

 

ヒルクライムバトルはダウンヒル以上にリアタイヤを酷使する。特にアリスのS2000は後輪駆動な為、リアタイヤの熱ダレを避ける為にもドリフトの多用は避けたい筈。

 

それなのにアリスはドリフトを止める気配を一切見せない。それは何故か?

 

その答えはアリスのドリフトにあった。コーナーに進入する時は思いっきり突っ込んで派手なドリフトをかます。そして荷重がリアに移る立ち上がりでは出来るだけタイヤのスライドを抑えて立ち上がる。

 

こうする事でリアタイヤの発熱を抑え、熱ダレを軽減させる事が出来る。派手な見た目の割にはタイヤに優しいテクニックなのだ。

 

中里「(…速い!上りなら行けるかと思ったがとんだ見当違いだったな……)」

 

結局中里は最後までアリスを捉える事が出来ず、そのままヒルクライムバトルは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中里「…参ったよ、完敗だ。」

 

もし妙義でバトルをしたとしても恐らく同じ結果になっていただろうと思いながら中里はアリスに話し掛けた。

 

が、中里の言葉に反応したのはアリスではなく……

 

パルスィ「アンタまさかアリスに勝てるとでも思ったの?その過剰な自信が妬ましいわね。」

 

中里「水橋の嬢ちゃんに言われるとぐうの音も出ねぇや……」

 

パルスィのあまりに辛辣な言葉にガックリと肩を落とす。

 

過去に何度もパルスィに車を直してもらった借りがある為か、中里はパルスィに対して頭が上がらない様子。

 

そんな両者の関係など詳しくは知らないアリスはパルスィにまぁまぁと宥めながら話に割って入る。

 

アリス「中里さんはこの秋名に何か用事があって来たの?」

 

中里「まぁ強いて言えばお前と秋名のハチロクに会いに来たのさ。」

 

アリス「私と拓海くんに?」

 

中里「あぁ。俺はお前ら2人が気になって仕方がないのさ。ただ速いだけじゃなく見る者を魅了する何かを持っていると俺は思う。」

 

それが何かを確かめる為に夜な夜なこうして秋名山に出没しているのだと中里は言う。

 

だが、結局収穫は得られていないんだとか。

 

パルスィ「そんな事する暇があったら赤いEG-6のドライバーとさっさと仲直りしなさいよ。」

 

中里「慎吾の事か?心配無用だ。アイツもここのところ変わってきたからな。」

 

パルスィ「別に心配なんかしてないわよ。」

 

アリス「……」

 

慎吾の名を聞いて思わず眉を顰めるアリス。

 

妙義でのバトルで愛車のS2000にバンパープッシュをお見舞いさせられたからか、アリスは慎吾に対してあまり…というより全く良い印象を持っていない。

 

中里「以前までのアイツは勝つ為ならどんなラフな手段も選ばない卑劣な奴でな、良い腕を持っているだけに勿体ないと思っていたんだ。それが変わったのはスピードスターズと交流戦をした時だ。」

 

パルスィ、アリス共に中里の言葉に興味を持つ。特にアリスに至ってはあの慎吾にどういう心境の変化があったのか気になる様子。

 

中里「あの時慎吾はアリス・マーガトロイドとバトルをして手も足も出なかったんだ。特にアリスのS2000にバンパープッシュをして以降はな。その事については俺からも謝るよ。すまなかったな。」

 

アリス「いえ、もう終わった事なので…」

 

中里「話を戻すが、それ以来アイツはアリスの腕を褒めちぎるんだ。他人を褒める事なんてまずしないアイツがな。」

 

あの交流戦は慎吾と中里にとってとても良い経験になったに違いない。自身のレベルアップを図る意味でも、そして妙義ナイトキッズというチームを一つにする意味でも。

 

現状維持に満足するのではなく、更に上の領域を目指す事が速くなる上で最も重要な事だと中里は改めて思い知った。

 

中里は最後にスピードスターズはとのリターンマッチを宣言して秋名山を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルスィ「私達もそろそろ帰りましょうか。」

 

アリス「そうね。」

 

パルスィのパーツのチェックは特に大きな問題点も無く終わり、中里も帰った為、やる事も無くなった2人は山を下りる事にした。

 

帰りのダウンヒルを軽めに流しのんびりと車を走らせる。この時のアリスは本気で攻めるつもりは毛頭無かった。

 

バックミラーに映るベッドライトの光に気付くまでは……

 

アリス「…もぉー、今度は誰なのよ。」

 

中里の時と同じようなデジャブな展開にアリスはまたかとうんざりとした表情をしつつも気持ちを切り替えて少しペースを上げる。

 

ペース的には今の所七割程度で相手の出方を窺っている。それで相手が付いて来れないようであれば興醒めも良いとこである。

 

しかし、後ろを走る車はアリスの後ろにピッタリとくっついて離れない。どうやら並の走り屋ではないようだ。

 

パルスィ「…後ろの車、中々やるわね。」

 

アリス「私に煽りをくれたんだからあっさり離されてハイ、おしまいじゃあシラケるわよ。」

 

パルスィ「…妬ましい。」

 

自信に満ちた発言をするアリスだが、これは決して驕りなどではない。

 

事実、この秋名山でアリスと互角の腕を持つ走り屋はチームメイトの拓海を除けば誰1人として存在しない。確かな経験と理論に裏付けされた走りは他の追随を許さない。

 

もしアリスの腕を持ってしても敵わない相手が居るとしたら……それは恐らくアリスの母、アリシア・マーガトロイドだけかも知れない。

 

ヘアピンでツインドリフトへと移行した際にアリスは相手の車を確認してみた。

 

特徴的なベッドライト……そして夜の闇に染まり不気味な雰囲気を醸し出しながらも華麗な四輪ドリフトを決める青いエボⅨ。

 

アリス「(青いエボⅨ……まさか!?)」

 

それを見た瞬間、アリスはこの車の持ち主が誰なのか気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「約束通り、リベンジを果たしに来ましたよ。……七色のドリフト使いさん。」

 

アリスの二つ名を口にし、ほくそ笑むこの少女。一体何者なのか……読者の皆は既に見当が付いているであろう。

 

そう、この少女は群馬エリア屈指の四駆の使い手にして碓氷峠最速の座に君臨するインパクトブルーのもう1人のエースドライバー。

 

奇跡のエボ使い……東風谷早苗その人であった。

 

先の発言から察するに、どうやら早苗はアリスとのリベンジマッチをしに来たと思われる。

 

早苗は秋名山に来るのは初めてである。それでも勾配のキツイ秋名のヘアピンをいとも容易くドリフトで駆け抜けて行く様は流石の一言。

 

4WDのドリフトは一見簡単そうに見えて実はとても高度な技術を要する。

 

4WDスポーツマシン(GT-R、ランエボ、インプ等)でドリフトを決める為には2つの条件をクリアしなければならない。

 

まず第一に、進入スピードが高めである事。スピードを落とし過ぎると返ってドリフトが続かないからだ。

 

次に車が滑り出したらアクセルを全開にしてドリフトのコントロールはステアリング操作一本で行う。アクセル全開且つゼロカウンターの四輪ドリフトになって初めて4WDドリフトが完成するのだ。

 

この時気を付けなければならない事は、FRの車と同じ様にアクセルを踏む量を調節してカウンターを当てようとすると強烈なタコ踊りに見舞われてしまう恐れがあるという事。特に走り屋初心者が4WDドリフトを試みる際によく陥りやすいミスなので注意するように。

 

その点早苗は上記の条件をクリアしており、更にジムカーナ経験者という事もありコーナーを回るスピードも段違いに速い。流石は奇跡のエボ使いと呼ばれるだけあって、その技術は卓越してると言える。

 

アリス「…間違いない。あのエボⅨ、東風谷早苗の車ね。」

 

そうと解ればこっちも全力で攻めるとアリスはアクセルを踏む足に力を入れる。東風谷早苗というドライバーは半端な速さで逃げ切れる程ヤワな相手ではない事はアリスもバトルを通じて重々承知している。

 

アリスはドライビングに全神経を集中させる。それに気付いたパルスィはバトルの水を差さない様に黙って見守る事にした。

 

勝負は秋名名物、5連ヘアピンへと差し掛かる。アリスがこの秋名でバトルをした時、何時も決まってこの5連ヘアピンで勝負を決めてきた。

 

だが今回は違う。この日のアリスは5連ヘアピンを勝負所と見てはいなかった。

 

低速コーナーの処理が抜群に上手い早苗を相手にヘアピンで勝負を仕掛けても振り切れない事は目に見えている。

 

ましてや先のヒルクライムで中里と壮絶なバトルを繰り広げていたのでタイヤに余裕がある訳ではない。早過ぎるスパートは逆にタイヤを痛め付ける結果になり、仕舞いにはここ一番の場面でタイヤが踏ん張ってくれず相手に遅れを取る可能性も否定できない。

 

そんなカッコ悪い事はキャラ的にも出来ないアリスは5連ヘアピンではタイヤを温存し、終盤の中高速区画でアタックを仕掛けると決めていた。

 

早苗「(コーナーが速いアリスさん相手にヘアピン勝負はキツイですね……

 

…となると仕掛けるポイントはラストの中高速セクションになりますかね。)」

 

奇しくも、アリスの狙いは早苗の狙いと全く同じだった。

 

5連ヘアピンでは両者共に特に大きな動きはなく、バトルは最後の中高速区画へと入る。

 

依然として前を走るアリスの後ろを早苗がピタリと張り付いたまま離れない状態が続く。

 

先に仕掛けたのはアリス。ゴールまでの距離とタイヤのグリップの残り具合を考えスパートするなら今しかないとギアを上げる。

 

アリス「(頼んだわよ……私のS2000!!)」

 

早苗「(!!…やはりアリスさんもここで仕掛けてきましたか。)」

 

対して、アリスの走りの変化にいち早く気付いた早苗もランエボの瞬発力を活かして一気にペースを上げる。

 

迫り来るコーナーを慣性ドリフトで駆け抜けるアリスと早苗。ライン取りもコーナリングスピードもとても理想的だ。

 

パルスィ「……っ!!(…流石に横Gがキツイわね。)」

 

あまりの横Gの強さにパルスィは顔を歪める。

 

秋名山の下りのラストは比較的勾配が緩く、コーナリングスピードの高いコーナーが続く。だからそれほど横Gは掛からないだろうと踏んでいたがアリスにはそんな常識は全く通用しない事をパルスィは改めて思い知らされた。

 

因みに余談だが、峠を攻めるアリスの横に座った者は必ず悲鳴の一つや二つは出るとアリスの友人達の間では有名である。上海然り、魔理沙然り、果てはあの霊夢ですらアリスの横には乗りたくないと言う程アリスの走りは親譲りのグレイシーっぷりを見せている(アリス本人は無自覚)。

 

ところがパルスィと蓬莱は怖がる素振りを全く見せない。パーツの点検等でアリスの横に乗る頻度が多いからか、乗ってりゃ嫌でも慣れるとパルスィは言う。

 

そして蓬莱に至っては怖がるどころかむしろ楽しいとあっけらかんとした表情でそう言い放ったとか(これを聞いた上海曰く「頭がオカシイ」との事)。

 

蓬莱「蓬莱のどこがオカシイって言うのよ!!」

 

上海「全部。」キッパリ

 

蓬莱「ぶーぶー。(# ̄З ̄)」プンスカ

 

……閑話休題。

 

この最後の中高速区画で早苗はアリスとの差を痛感していた。

 

低速コーナーでは気が付かなかったが、この区画でハッキリと解る事が一つ。

 

アリスの突っ込みが速すぎる。

 

今でこそ立ち上がりの加速の差を利用して付いて行けてはいるもののオーバーテイクは厳しい様子。当たり前だが、前に出ないと勝負に勝った事にはならない。

 

アリスの前に出る為には彼女より速い突っ込み且つよりワイドなラインを描く必要がある。

 

そこで早苗は次の複合コーナーで一か八かの大博打に打って出た。

 

2つのRを結ぶ複合コーナーの入口、このコーナーは道幅の狭い峠道で唯一3車線になっておりラインの自由度は高い。

 

そこを早苗はなんとノーブレーキで突っ込んだのだ。

 

アリス「…なっ!?」

 

もはや暴挙とも言える早苗の行動にアリスは思わず声を上げる。

 

そんなスピードでは4WD特有のアンダーステアが出て絶対に曲がる筈がないと思っていたアリス。

 

だが次の瞬間…

 

早苗「行っけぇ!!」

 

ダァン!!

 

なんと早苗はイン側の歩道を強引に乗り上げる手段を取った。そして勢いそのままにアリスのS2000に並ぼうとエボⅨの鼻面をこれまた強引に捩じ込む。

 

アリス「嘘でしょ!?」

 

バックミラーでその一部始終を見ていたアリスは常識を逸脱した早苗の走りに目を丸くするしかなかった。だがそれ以上に、早苗の意地と執念を見た様な気がした。

 

コーナーでの安定感を高める為に車高を極限まで下げているアリスのS2000では絶対に真似出来ない芸当を見せアリスの横に並んだ早苗。

 

両者並んだまま最終コーナーへと差し掛かる。このコーナーは高速コーナーが続く最終セクションの中では比較的コーナリングスピードの低いコーナーとなっている。

 

ブレーキングのタイミングはほぼ同じ。ライン取りはアリスがイン側にいる分若干有利。対する早苗はアウトからアプローチしなければならないのでかなり苦しい。

 

早苗「(流石に苦しいですか……でも、立ち上がりの加速でぶち抜く!)」

 

コーナーを立ち上がってアリスのS2000が頭一つ抜け出す。しかし早苗も負けじとランエボの加速力を活かして並びかける。

 

早苗「(ゴールはすぐそこ。お願い…間に合って!!)」

 

ゴールラインを過ぎるまでにほんの少しでも前に出る事が出来れば自分の勝ち。早苗は最後まで己の勝利を信じ、渾身の力を込めてアクセルを踏み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…だが僅かに届かず、アリスのS2000が先にゴールラインを通過しバトルは終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス「…まさかあそこまで追い詰められるとは思わなかったわ。」

 

車を降りて開口一番、アリスはボソリとそう漏らした。

 

紛れもなく本心から出た言葉だ。決して東風谷早苗というドライバーを侮ってた訳ではなかったが、まさかここまで縺れたバトルになるとは思ってもいなかった。

 

ましてや早苗は秋名山を走るのは初めてであるにも関わらず自分と互角の勝負を演じてみせた事がアリスにとって一番の驚きであった。

 

勝った気がしないというのはまさにこの事だろうとアリスは思う。

 

早苗「でも結果は貴女の勝ちで私は負けです。そんなに落ち込む事は無いと思いますよ。」

 

勝負の世界では結果が全て。どんな内容であろうと勝てば勝者、負ければ敗者として扱われ、その中間は得てして存在しない。

 

早苗「だから、もっと胸を張っていて下さい。でないと……私が満足しちゃうじゃないですか。」

 

敗者に出来る事は、次の戦いに備えて気持ちを切り替える事。勝者のアリスには断固たる姿勢を貫いていて欲しい。それが自分のモチベーションになると早苗は信じているからだ。

 

早苗「それで、話は変わるんですけど…」

 

早苗がアリスの元にやって来たのにはリターンマッチをやる以外にも別の目的があった。どうしてもアリスの耳に入れておきたい情報があったのだ。

 

早苗「アリスさん、次の遠征の相手は決まっていますか?」

 

アリス「遠征相手?…まだ決まってないわ。」

 

地元秋名山でなら咲夜とフランとのバトルが次の日に控えているが、ホームページには今のところ書き込みは無い。

 

早苗「この頃栃木エリアで不穏な動きを見せている走り屋チームがいるって情報をキャッチしたんですよ。その事をアリスさんに知らせようと思って。」

 

早苗曰く、その走り屋チームはメンバー全員がランエボに乗っているチームで栃木エリア最速の座に君臨する走り屋チームなのだとか。

 

そのチームの名は……

 

アリス「エンペラー……」

 

早苗「エンペラーのリーダーとは走行会やジムカーナの会場で良く会うんですよ。エボ乗りという共通点もあって良く話したりするんです。」

 

同じ車種に乗ってる者同士だと何かと共感する点も多い。早苗は一度エンペラーのリーダーに勧誘されたらしいがその時は既にインパクトブルーに入っていた為断ったんだとか。

 

アリス「でもそのエンペラーって言うチームが不穏な動きを見せているってどういう事?」

 

早苗「私が掴んだ情報だと、何でもエンペラーは群馬エリアへと侵攻する準備を進めているようです。目的は群馬エリアの制圧と赤城レッドサンズとのリターンマッチだそうです。」

 

ここまで聞いたら早苗が何を言いたいのかアリスにも理解出来た。

 

つまるところ早苗はエンペラーから名指しで挑戦を申し込まれる可能性があるから準備しておけと言っているのだ。

 

アリスと拓海が加入してから連勝続きでスピードスターズもここのところ評判が高い。そんなチームをエンペラーが放っておく筈がない。

 

ナイトキッズ、インパクトブルー、そしてスピードスターズは間違いなくエンペラーの標的になるに違いない。

 

しかし早苗は何故その事をわざわざアリスに伝えに来たのか。

 

早苗「実を言うと、この間碓氷峠でエンペラーの偵察隊と遭遇してしつこく絡まれたんですよ。向こうがバトルする気満々だったので仕方なく付き合ってあげましたよ。

 

…まぁ、私と真子さんで軽く捻りましたが。」

 

アリス「……」

 

パルスィ「妬ましい……」

 

それはその偵察隊とやらに同情するしかない。

 

アリスとほぼ互角の腕を持つ早苗と真子に無謀にも挑み、そして案の定返り討ちに逢った偵察隊は今頃エンペラーのリーダーに説教されている事だろうとアリスは顔も知らない偵察隊に心の中で合掌した。

 

早苗「もしアリスさんがエンペラーとバトルする事になった時は私達インパクトブルーも応援に来ます。だから絶対に負けないで下さい!」

 

早苗にとってアリスはただのライバルなんかではない。同じ女の走り屋同士という事もあってか仲間意識も強い。

 

いつか自分が負かす相手だからこそ、他の誰にも負けて欲しくはない。早苗はそんな想いを込めてアリスに激励を入れた。

 

アリス「…分かったわ。その時が来たら全力で迎え撃つわ。」

 

そしてその想いはアリスに確かに伝わっていた。

 

パルスィ「…あら、アンタの車バンパー割れてるじゃない。」

 

別れ際、パルスィは早苗のエボⅨのバンパーが割れている事に気が付いた。ディーラーを営む者として放っておく訳にもいかなかったパルスィは帰ろうとしていた早苗を呼び止める。

 

早苗「あぁ……やっぱりそれなりの代償はありましたねぇ。」

 

恐らく先程の複合コーナーで早苗が歩道を乗り上げた際に割れたものと思われる。早苗の言う通り、やはり代償は大きかった。

 

パルスィ「だったら帰りに私のディーラーに寄って行く?」

 

早苗「良いんですか!?」

 

パルスィ「どうせこんな時間までやってるディーラーなんて何処にも無いわよ。それにその格好のままで碓氷に帰るのも恥ずかしいでしょ?

 

10分程度で直してあげるわ。」

 

早苗「はい!ありがとうございます!!」

 

こうして早苗はパルスィのディーラーで車を修理して貰う事になった。

 

そしてその手際の良さに感動した早苗はGARAGE Water Bridgeの常連客の仲間入りを果たす事になるがそれはまた別の話。

 

パルスィ「アリス、そろそろ帰るわよ。

 

…夕飯奢る約束、忘れないでよね。」

 

アリス「…ハイハイ。」

 

余談だが、結局アリスはパルスィとそれに便乗してきた早苗の夕飯を奢る羽目になったとか。

 

【完】

 

 




本文中の複合コーナーのくだりはあくまで独自の設定です。

確かあのコーナーはガードレールがあった様な気がしましたが、早苗の走り屋としての意地を見せる為にもガードレールを取っ払う必要があったとです…

エンペラーの登場フラグは絶対に必要でした。

早苗をジムカーナ経験者にしたのも京一との接点を持たせる為の設定です。

さて、次回の投稿はいつになる事やら…

ではまた。





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