およそ2ヶ月に及ぶ連載。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
「ううううぅぅぅぅぅ………」
戦いが終わった次の日の朝、イリヤは自室で頭を抱え込んでいた。
「うぅ…まさか勢いとはいえあんなことやっちゃうなんて…紡にどんな顔して会えばいいか…」
「いっやー、イリヤさん! 昨日のことですか? いや〜しかし大胆でしたねぇ! あそこまでがっつりいくなんて!」
悩むイリヤをからかうようにルビーがふよふよと空中を浮遊する。
「やめて!これ以上私を追い込まないで!!」
イリヤはもう半分泣き出しそうな顔をしていた。
「おいイリヤ…起きてるか…?」
「ひゃいっ!?」
と、そこにドア越しから聞こえた紡の声にイリヤは驚いて跳ね上がった。
「な、なんつー声出してんだよ…入るぞ…」
紡はドアを開け、イリヤの部屋に入った。
「お、おはよ…紡…」
「あ、あぁ…おはよ…」
イリヤは顔をそらしてそう言い、その顔は少し赤くなっていた。
紡も同様だった。
「セラがご飯出来たから呼んでこい、だってよ…」
「あ、うん…わ、わかった…」
普段なら何の滞りも無く出来る会話も、その日はお互いにぎこちなかった。
「じゃ、じゃあ俺行くな…」
「あ…ま、待って!」
イリヤは部屋から出ようとしていた紡を呼び止めた。
その声は少し震えている。
「あ、あのね…そ、その…」
イリヤは自分の拳を握った。
「つ、紡…その…ごめん…、勢いとは言え…あんなことしちゃって…」
顔を真っ赤にしながらそう思い切ってイリヤは言った。
「…はい?」
「え?」
「なんだよ…そんなことだったのかぁ〜…」
イリヤの想像とは裏腹に紡は「自分の思ってたこととは違う」といった表情で溜息をつき、肩を落としていた。
「ちょっ…そんなことって…! ていうか何か別のこと思ってたの!?ていうか何その反応! 思い切って言った私がバカみたいじゃない!」
イリヤは手足ばたばたしながら紡に猛抗議した。
「い、いや…俺はてっきりあんなことしたから恥ずかしくて話しにくいのかと思ってた…」
「そ、それもあるけど…」
イリヤがそう言い終わると、紡はイリヤの頭に手を置いた。
「あのな…イリヤ、俺は別に気にしてないよ。何ていうか…そ、その…あ、あれだ…」
「?」
イリヤが疑問の顔を浮かべていると、紡はコホンとひとつ咳払いをして照れ臭そうに口を開いた。
「俺だってな…そのだな…あんな行為…普通じゃ受け入れられねえよ…だ、だけどな…、"イリヤならいいか"って…そう思っちまったんだよ…」
「えっ…」
思いもしなかったその発言。
イリヤと紡の間に少しの沈黙が訪れた。
「そ、それって…」
「…っだぁ〜! もう恥ずかしいっての!! はいもうこの話はおしまいな、さっさと降りてこい!!」
「あっ…」
紡は照れ隠しをして階段を降りていった。
イリヤは…迷いが消えた顔で少し笑いながらその後ろ姿を眺めていた。
「あの…イリヤさん」
「はい…なんでしょうか紡さん」
「その状況は…一体なんなんですか?」
「それは…私にもわかりません…」
俺とイリヤは"いつも通り"学校に入った。
ただ…"美遊が俺たちの腕に抱きついている"という点以外は。
「おい美遊、いつまでくっついてんだ」
「…? 私なにかおかしい?」
美遊は曇りなき気持ちのいいくらい澄み切った瞳で俺の方を見つめてきた。…俺の左腕にくっつきながら。
「み、美遊…これはなに…?」
「なに…って、2人は私の友達。だからもう離さない」
「………」
「………」
俺とイリヤは「これは何を言ってもダメだ」という諦めの表情で顔を合わした。
まぁ…少し過剰な気がするけど俺たちのことを大切に思ってくれてるならいいか…。
…なんて思ったのも束の間だった。
「…おい、お前ら一体どうしたんだ…?」
俺とイリヤと美遊が教室に入るや否やいつもの4人が俺たちを見てザワついていた。
まぁ…こんなのを見たらな…。
「おいおいおい、お前らいつの間にそんな仲になったんだ!?」
「イリヤちゃん…美遊さんとケンカしてたんじゃ…」
「ほうほう…これはこれは…」
勝手な憶測が横行する。何だか…少し疲れてきた。
「べ、別にそういう訳じゃ…つ、紡! なんとか説明して!」
「お、俺かよ! 俺だってわかってねえよ…」
「で? どうすんの?」
俺たちがやり取りをしていると雀花が口を開いた。
「「はい?」」
その発言を聞いた俺とイリヤは同時に同じことを言う。
「いや、だから紡はイリヤと美遊、どっち選ぶかって聞いてんの」
「は?」
いやいやいや、いきなり何を言い出すんだこいつは。
その発言の意味が俺はまったくわからんぞ。
「ちょっ…雀花!? 何言って…!」
イリヤは慌てていた。
「あ〜〜確かに」
それに那奈亀も続いた。いや確かにじゃなくて。
「いや、確かにじゃねえよ!」
「んで、どうすんの?」
雀花がそういうと全員が俺をじっと見つめて注目していた。
何なんだ…この空気…絶対答えなきゃいけないような…。
なぜか美遊も顔を赤くして照れ臭そうにしていた。
「ク、クッソ…」
こうなったら…。
「あ、俺トイレ!」
俺は一気に逃げるようにトイレへ駆けて行った。
後ろからは「ズコーーー!」という古い表現の声が重なって聞こえていた。
ただ…。
イリヤだけはその中でただ1人、浮かない顔をしていた。
「はぁ……」
俺はベッドの上で少し体を伸ばした。
何だか今日は疲れた。過去最高に疲れた。
「ま…寝て忘れるとするか…」
電気を消し、目を閉じた。
「んっ…」
少し眠りについていたが、自分の上に何かいるような違和感を感じ目を覚ました。
俺の体の上に…イリヤがいた。
「イリヤ…?」
暗くてよく見えなかったが、その表情は少し沈んでいるように見えた。
「ごめん、紡…どうしても聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと…?」
そう言うとイリヤは俺の肩に両手を置いた。
「紡…朝の質問の答え…どっち?」
予想もしてない言葉だった。
「なっ…」
急なイリヤの問いに俺は混乱していた。
まさか…イリヤがあの質問の答えを気にしているなんて思ってもいなかったからだ。
「イリヤ…何言って…」
俺がそう言ってもイリヤの俺を見据える瞳は真剣だった。
「…お願い」
どうしたんだ…イリヤの奴…。
そんなにムキになるような話でもないだろうし…今日のイリヤはどこかおかしい。
「そう…だよね、答えられないよね…」
俺が考え込み、沈黙を続けているとイリヤがそう言った。
「だよ…ね、ドジで頭も良くないし…私なんて…。美遊は頭も良くて運動も出来て…紡とお似合いだと思う」
「なっ…」
俺がグダグダ考えている内に、イリヤは俺が答えにくい理由を自分の中で結論付けていた。
はっきりしない…俺のせいで。
「だ、だいじょうぶだよ! 私も応援するから、ね!」
一見すると本当に何も気にしていないような発言に見える…。
その"目に浮かんだ涙"さえなければ。
なんでイリヤは涙を浮かべているんだろう…。
イリヤの発言は心からのものだ、それは間違いない。
だけど…じゃあまさか…。
「じゃ、じゃあ私もう行くね! 寝ようとしてたのにごめんね…」
イリヤは俺に背中を向けた。
その背中は…寂しさを背負っていた。
「イリヤ!」
その背中を見送ってしまえば…もう戻れない気がした。
「紡…?」
その時、俺は決意した。
「少し…昔の話をさせてくれ」
少し息を飲んだ。
そして…口を開いた。
「昔…俺は内気だった。その性格のせいでいつも1人で誰とも話せもしなかった」
そう、あの頃…何をしても上手く行く気がしなかった。
「そんな時だよ…1人の女の子が俺に声をかけてくれたのは」
そんな俺に「遊ぼう」って言ってくれる人がいた。
「その子はいつも真っ直ぐで…友達思いで…その子と何年も過ごす内に俺は気付いちまったんだ…」
そう…俺は…俺は…。
「好きになっちまったんだって…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのことが…」
イリヤは呆気に取られた顔をしていた。
「イリヤ…俺はお前のことを愛してる」
俺は、ありったけの気持ちを込めてそう言った。
「世界中で一番…」
紛れもない、自分の気持ち。
ようやく言えた…ようやく伝えることが出来た。
「うわああああああ!!」
イリヤは感情が爆発し、俺に抱きついてきた。
「ほんとは…嫌だったの…!私は紡のことが大好きで…! だから…誰かのところに行って欲しくなくて…」
「イリヤ」
俺は泣き止まないイリヤの肩に手を置いた。
「今度は…ちゃんとしよう。お互いの気持ちを込めて…」
俺がそう言うとイリヤは涙を拭い、表情を戻した。
「うん…」
俺とイリヤは唇を重ねた。
今度は魔力供給なんかじゃない、お互いの気持ちを確かめる為の…。
「つ、紡…その…ね」
イリヤは照れた顔をして話しかけたきた。
「そ、その…今日だけ…今日だけでいいから…一緒に…」
そう言うとイリヤはベッドで横になり、俺の手を握ってきた。
「あぁ…」
朝、ごく普通の俺たちが過ごす朝の風景。
一緒にご飯を食べ、準備をし、玄関のドアを開ける。
「「行ってきまーす!!」」
「あら…今イリヤさんと紡さん、手を繋いでいませんでしたか?」
セラは少し不思議そうに疑問の顔を浮かべた。
「そうだったか? まぁ、仲が良いのはいいことじゃないか」
「そうそう、セラ気にしすぎー」
自分の支度をしながら士郎が、寝ぼけ眼をこすりながらリズがそう言った。
「…そうですね」
セラは少し笑顔を浮かべていた。
「ねーねー、なんで日直って朝早くに行かないといけないの? 理不尽じゃない?」
「俺に言うなって…」
普通の朝…だけど、いつもと違うのは…。
「さ、行くぞイリヤ!」
俺はイリヤの手を握り、走り出した。
「わっ! ねぇ、紡…」
イリヤは少し改まって俺の方を見た、そして…。
「大好き!」
そう言った。
「…あぁ、俺もだよ」
俺はスピードを上げた。
「さ、ダッシュで行くぞ! お前が寝坊したせいで遅刻ギリギリなんだからな!」
「わわ…そうだった!」
俺の第一の人生は、不幸な形で幕を閉じた。
そして今過ごしている第二の人生…それはこれからどうなるかわからない。
だけど…今握っているこの手は俺の人生を紡いでくれる気がしていた。
この手は俺を導いてくれるし、俺もこの手を守りたい。
そう…かけがえのない存在なんだ。
〜Fin〜
また…どこかで会いましょう!