教官   作:takoyaki

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外伝13です



最近ガツンと寒いですね


てなわけで、どうぞ


「リスがいい」

『切り裂きジャック。

正体不明、神出鬼没の殺人鬼。

ある日突然、現れ、殺害していく。

被害者は、全員刺殺。

多種多様な刃物で的確に殺害していく。

更に一度殺害した後何度も死体を切り刻むことからいつしかこの名前で呼ばれるようになった。

被害者は、女性、男性、金持ち、貧乏人、一般人、軍属、権力者と特に限定しない。怨恨の線は薄いと考える』

「ふうん…………」

ルイーズは、資料に目を通すとそう呟いた。

「ふうんじゃないですよ!!なに起きてるんですか!!教官!!」

ベイカーは、そう言いながらルイーズのベッドに近づくと資料を取り上げる。

「あぁ………」

目の前から奪われる資料にルイーズは、悲しそうな声を上げる。

「だいぶズタボロだったんですからもう少し大人しくしててください」

「いいんだよ。もう治ったんだから」

「それを判断するのは、教官じゃないです」

ベイカーは、ベッド近くの椅子に腰掛ける。

「それで、資料は?」

「残りは退院してからです」

「ケチー」

ルイーズは、頬を膨らませるとベッドの上でジタバタと動く。

「ま、いいや。それで、その後は?」

ルイーズの質問にベイカーは、手元の資料をめくる。

「教官が救出した二名及び逃げ出した一名は命に別状はないものの、衰弱が激しいため現在入院中です」

「だよね」

「あのゴロツキ達は、後に来た憲兵達が拘束、事情聴取をおこなっています」

ルイーズは、つまらなそうに自分の茶髪をいじる。

「切り裂きジャックの情報は?」

ベイカーは、首を横に振る。

「何も。ある日突然ふらっと現れて、ボスを名乗ったそうです」

ベイカーは、そう言うと資料を閉じる。

「というより、切り裂きジャックは、軍人を誘い込むのが目的だったと言ったんですよね」

「まあね」

「何のためなんでしょう?」

ルイーズは、肩をすくめる。

「兵器も持ってる、格闘術もある、技術もある、欲しがらない理由がないとおもうけどねぇ」

「それは、従う場合ですよね?」

「脅すなり、兵器なら奪うなり色々あるだろう?」

ルイーズは、そう返すと包帯で巻かれた肩を抑える。

「あいつは、リリアルオーブを持っていた。今後挑むならリリアルオーブを持っている隊長が挑まないとダメだねぇ」

ルイーズの言葉にベイカーは、ベッド近くの椅子に腰掛ける。

「でも、リリアルオーブって貴重品ですよね?何で持っていたんでしょう?」

「犠牲者の中に軍人がいた。殺して奪ったってのが、妥当だねぇ」

ルイーズは、嫌そうに顔をしかめる。

ベイカーも押し黙る。

「あんな奴をこれ以上世の中に放置しておくわけにはいかないよ。絶対に捕まえなくちゃ」

ルイーズは、拳をぎゅっと握り締める。

「それならまずは怪我を治すことですよ」

元気な声と共にクイーンとエラリィが入ってきた。

「おや、珍しい組み合わせだねぇ。一緒に来たのかい?」

「違います。たまたまばったり会っただけです」

ルイーズの言葉をエラリィは、即座に否定する。

クイーンの笑顔が一瞬凍りつくが直ぐにいつもの調子でルイーズに近寄る。

「ところで私に感謝の言葉は、ないんですか?」

「感謝って………君が連れ出さなければ切り裂きジャックを捕まえれてたかもしれないのに?」

「馬鹿言わないで欲しいです。あの状態でどうやって勝つつもりだったんですか?」

「君も知っているだろう?」

ルイーズの言葉にクイーンの顔から表情が消える。

「ほんと、戻ってきて正解でした」

クイーンは、そう言うと紙袋からりんごを取り出す。

「うさぎさんにしてあげましょうか?」

「リスがいい」

「どんな無茶ぶりですか」

クイーンは、そういいながらりんごの皮を剥いていく。

そんな二人のやりとりを見ていたベイカーは、エラリィに耳打ちする。

「あの二人って結局のところ、どういう関係なの?」

「確か、十二歳ぐらいからの付き合いだそうだ」

思いの外長い付き合いにベイカーは、目を丸くする。

「そうなの?」

「基本問題を巻き起こして職員室に呼び出されていたルイーズ教官とそれを迎えにいくあの人は、ある意味学校の名物だったぞ」

「へぇー………」

と、そこまで聞いたところでベイカーは、首を傾げる。

「何でお前が知ってるの?」

「そりゃあ、僕も同じ学校だったからな」

ベイカーは、少し固まって考え込む。

「つまり、俺以外全員顔見知り?」

「まあ、ルイーズ教官は、僕のこと知らなかったろうけどな」

「二人とも何の話をしているんだい?」

そんなベイカーとエラリィとの会話にルイーズが割り込む。

ベイカーは、肩をすくめる。

「クイーン教官とルイーズ教官の話です」

ルイーズは、その回答を聞くとつまらなそうに欠伸をする。

「なあんだ」

「優等生と問題児のコンビは目立つって話です」

「クイーンだって結構トラブルメーカーだよ」

「ルイーズには負けますよ」

ルイーズの言葉に淡々とクイーンは、返しながらりんごを切る。

それから思い出したように口を開く。

「あぁ、そうだ。どうせバレることだから先に言っておくのですが、ルイーズの今、評判最悪ですよ」

クイーンの言葉を聞いてルイーズは、首を傾げる。

「あれ?なんか評判落とすようなことしたっけ?寧ろ、『見直しましたルイーズ教官!!』って言われるぐらいの働きをしたつもりだけど」

「約束破ってたじゃないですか。逃げてきた訓練生との」

ルイーズは、腕を組んで考え、それからポンと手を叩く。

「あぁ!あったね」

「入院中の訓練生が見舞いにきた連中にベラベラ喋ってるらしいですよ」

ルイーズの頬が引きつる。

「………いや、まあ、いいんだけど………自分の評判も落ちるとおもうんだけどそれ」

余計なことをして、その辺のゴロツキに捕まったなんてことを普通は喋らない。

何せ自分のことを下げることになるのだから。

「それは、ちゃんと本当のことを喋れば、っていう前提が必要ですよ」

「あー…………そっか」

ルイーズはため息をつく。

「因みにどんな感じなんだい?」

「自分達が命を懸けて切り裂きジャックの居所を突き止めたのに功を焦ったルイーズ教官が勝手に突入して、逃がしたって感じです」

ベイカーは、目を丸くする。

「そんな訓練生のたわ言信じる人いるんですか?」

「そこに各訓練生の教官が乗ってくれば話は別ですよ」

クイーンは、りんごを組み立てている。

どうやら本当にリスを作っているようだ。

「何せ隊長就任間近ですからね。自分の訓練生の失態なんて取り返せるなら取り返したいもんですよ」

三人の内の二人はルイーズの訓練生ではない。

「ま、なるようになれってやつだねぇ」

「いや、なんでそんな平気なんですか?」

ちょっとだけ不満そうに言うベイカーにルイーズは、ベッドの上であぐらをかきながらきょとんとした顔をする。

「本当のことを知ってる君たちがいるじゃあないか」

そう言いながらルイーズは、とても嬉しそうに笑う。

そのいつも人を小馬鹿にした笑みとはまた違う笑顔にベイカーは、思わず面食らう。

 

 

 

 

 

「失礼する」

 

 

 

 

 

 

 

ノックの音でベイカーは、ハッと我に帰ると音のした入り口に目を向ける。

ベイカーの目に飛び込んできたのは、軍服に身を包んだ男二人だった。

二人の男はかつかつと靴音を立てながらルイーズのベッドに近づく。

ルイーズは、不機嫌そうに二人を睨み付ける。

「何?」

「ルイーズ・ヴォルマーノだな」

「そうだけど」

不穏な空気がルイーズと男達の間に流れる。

「今、よろしいか?」

「何もよろしくないから帰っておくれ。りんごのリスがもう少しで完成しそうなんだから」

後は顔だけだ。クイーンは、神経を張り詰めながら作っている。

「人事部のものだ。貴様に先の件の処分を伝える」

「帰れっつたよねぇ?」

ルイーズは、露骨に敵意を込めて睨み付ける。

「貴様に拒否権はない」

「じゃあ最初から聞くんじゃあないよ」

一触即発の空気が流れ出し、慌ててベイカーが止める。

「ま、まあ、教官。聞くだけ聞きましょうよ」

ベイカーがどうにかなだめ、笑顔で人事部に頭を下げる。

(なんで俺が謝ってるんだろ………)

微妙に釈然としないが、それで話が進むなら安いものだ。

「それで、処分はともかく先の件ってなんですか?」

その間にエラリィが話を進める。

「切り裂きジャックを取り逃がした件だ」

瞬間、ベイカーから作り笑顔が消えた。

エラリィは、不愉快そうに眉をひそめる。

クイーンなどいつ切りかかってもおかしくないほどの殺気を放ちながらりんごを切っている。

「ちょっと待ってください。処分って言いましたよね?なんで?」

「先ほども言ったはずだ。切り裂きジャックを逃がしたからだ」

ベイカーの声が震える。

怯えではない。溢れそうになる感情を飲み込んでいるのだ。

「ルイーズ教官は人質を救出しておまけに切り裂きジャックを見つけたんですよ」

ベイカーの言葉に男は鼻で笑う。

「人質は、潜伏した訓練生だ。その訓練生の教官が切り裂きジャックの潜伏先と目星をつけていたに志願した訓練生を忍び込ませていたんだ」

「は?」

思わずエラリィから漏れる言葉など意に返さずさらに続ける。

「潜伏の結果を伝えようとしたところ三人は、切り裂きジャックに見つかってしまった。二人は何とか一人を逃がした。このことを伝えて切り裂きジャックを捕まえるためにな」

ルイーズの顔から表情が消える。

この先が読めないわけがない。

というより、クイーンから全て聞いてたのだから大して驚かなかったというのが正しいだろう。

「そこを貴様が自分の功を焦り不用意に進入したため取り逃がした。処分が下るのは当然だ」

「いやいやいや。それは、おかしいでしょ。あんた達その噂本当に信じたの?」

我慢出来なくなったベイカーが敬語を捨てて詰め寄る。

「口の利き方に気をつけろよ、訓練生」

「ベイカー、ストップ」

「でも!!」

納得がいかないベイカーの口にルイーズは、ちょうど出来たリスの形をしたりんごを放り込む。

写真を撮ろうとGHSを取り出したクイーンは、がっくりと肩を落とす。

「それで、処分の内容は?」

そんなクイーンに構わずルイーズは、話を続ける。

ルイーズの言葉に男は一枚の紙を渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイーズ・ヴォルマーノの隊長資格の失効」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、辞令だった。

「嘘だろ」

エラリィがポツリと零す。

クイーンは、何も言わずにその光景を見ていた。

ルイーズは、紙を受け取ると目を通す。

そして紙から目を離さずルイーズは、尋ねる。

「一ついいかい?」

「なんだ」

ルイーズは、口をもごもごさせるベイカーを顎で示す。

「私のところに入隊希望をした変わり者がいるんだけど、その子はどうなるんだい?」

「別の部隊に入隊してもらうこととなる」

ルイーズにそう返すと男は意地悪く笑う。

「まあ、そんな奴一人だけだがな」

ベイカーは、拳を握り締める。

今にも飛びかかりそうなベイカーの襟をエラリィが掴み抑える。

ルイーズは、ため息を吐く。

「やれやれ、最後の最後まで君だけだったねぇ………」

隊の希望者は結局、ベイカーだけだった。

ルイーズは、そう言うと敬礼する。

「ルイーズ・ヴォルマーノ、確かに受け取りました。今後は隊長ではなく一人の隊員として精進していきます」

そう言うルイーズの表情はとても穏やかだった。

ベイカーは、悔しそうに歯噛みをする。

ルイーズは、ボロボロになりながらも切り裂きジャックを捕らえようとした。

切り裂きジャックを見つけたのも一矢報いたのも全部ルイーズなのだ。

あの三人は、余計なことをやって虎の尾を踏んだに過ぎない。

だが、それの証明のしようがない。

ルイーズが気を利かせて食堂から人を追い出したが仇となった。

ルイーズの無実を証明出来るのは、残念ながら当事者だけだ。

「こんなことって…………」

「おいおい、どうして君がそんな顔するんだい?」

ルイーズは、困ったように笑う。

「だって、犠牲者を出すことなく教官は、全員助けたんですよ!!こんなことってありますか!?」

「別に気にしてないよ。いつものことさ」

ルイーズは、そう返すと男二人を睨み付ける。

「ただし、ここにいる三人にも同じことをしようとしているなら話は別だ」

ルイーズは、りんごに手を伸ばしながら睨み付ける。

「安心しろ。貴様だけだ」

「ならい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ、本当ですね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、今まで静かだったクイーンがルイーズの言葉を遮って大声を張り上げた。

思わずビクッとする男二人。

「ルイーズは、隊長の資格を失い、私達にはなんのお咎めもなし!!そうですね!?」

「あ、ああ」

勢いに押されるように頷く。

「ルイーズ。これからは、一人の隊員として働く、そうでしたね?」

「う、うん」

ルイーズは、戸惑いながらも頷く。

クイーンは、満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「では、ルイーズ・ヴォルマーノ。私の隊で一人の隊員として働くのはどうですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイーズは、思わずりんごをポロリと落とす。

「は?」

「だって、ルイーズは隊員で私は隊長なんですから、何の問題もないですよね?」

「いやいや。君のところを希望していた隊員がいるだろう?」

「そんなのいないですよ」

「え?」

ルイーズの頭の中に自分のせいか、という考えが浮ぶ。

「だって、私が全員断ったんですから」

「…………なんだって?」

ルイーズは、思わず聞き返す。

「さっき言った話をしていたのは、私の入隊希望者だったんですよ」

置いてきぼりの面子を残しながらクイーンは、頷く。

「…………いや、だからって、全員断らなくたって」

「言ったはずですよ、ベイカー訓練生」

ベイカーの言葉に被せるようにクイーンは、答える。

「『ネガティブキャンペーンに引っかかるゴミなんていらないです』って」

クイーンは、にっこりと笑うとルイーズとベイカーの方を向き直る。

「さて、どうですか?二人共。私が隊長なら出世の見込みだってある、あんな奴らと一緒にいなくてもいい。まさにいいことずくめだと思うんですけど?」

ちょくちょく片鱗は見せていたが、この大人しいお嬢様から大きく外れた言動。

ついにここに来てとんでもない炸裂の仕方をした。

この土壇場に来ての隊員の大幅な変更。

そして、入隊を断られた隊員達の不満。

常識のある人間なら想像するだけで頭が痛くなる。

実際人事部の二人は、何とかやめさせようとクイーンに詰め寄る。

クイーンは、笑いながらそんな二人を両手で顔面を握り締める。

「……………教官」

「だから言ったじゃん。トラブルメーカーだって」

そんな光景を見ながら、ルイーズは、ちらりとエラリィを見る。

「君もどうだい?技師だって隊に入れるよ」

エラリィは、少し目を丸くした後頷く。

「そうですね。ま、隊長が許してくれればですけど」

クイーンは、少しだけ固まると頷く。

「えぇ。いいですよ。貴方なら入隊を許可しましょう、です!」

クイーンの言葉を聞いて、ルイーズ、ベイカー、エラリィの三人は、敬礼のポーズをとる。

そして、ルイーズが代表して口を開く。

「それでは、クイーン隊長。これからお願いします」

三人の敬礼を見てクイーンは、満足そうに頷く。

「えぇ。こちらこそです」

この瞬間、ここにクイーン隊が出来上がった。

人事部の二人は、これから増えるであろう仕事の量に大きくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の事を軍部は、後に大きく後悔することとなる。

 

 

 

 

 

何故、隊の結成を阻止しなかったのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それは、またもう少し先の話だ。







ルイーズの友人がまともな人なわけがないです。


では、また、外伝14で( ´ ▽ ` )ノ
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