教官   作:takoyaki

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外伝48です


あったかいものが美味しくなってきましたね!


てなわけで、どうぞ( ´ ▽ ` )ノ


「ま、まだ二十五です…………」

「やあ、こんにちはルイーズ」

「こんにちは」

図書館に来たルイーズを出迎えたのは、いつもの通りのアイフリードだった。

あまりにもいつも通りなので、てっきりあの出来事は夢だったのではないかとルイーズは、思ったぐらいだ。

だが、アイフリードのその腕に巻かれた包帯があれは現実だったと伝えていた。

「あのさ、聞いてもいい?」

「仕事中だから端的にね?」

「あの、乗り込んできた人誰?」

「…………今は、答えられないかな」

その言い方は、遠回しにその質問をを拒絶していた。

「じゃあ、別の質問」

「なに?」

「どうして、じいちゃんの名前を知ってたんだい?。まだ、会ったことなかったよね」

「それも今は無理かな」

ニコニコとしながらそう返すアイフリードにルイーズは、少し困った顔になる。

「なら、もう一個」

「なに?」

「『じれい』って何?」

そのルイーズの質問にアイフリードは、固まった。

「ど、どこで、それを?」

「この前のあの騒ぎの時に隠れた時の部屋にあったよ」

「…………………」

困ったようにアイフリードは、自身の上司に視線を向ける。

上司は、こくりと頷く。

「いいですよ。もう発表されているので、問題ありません」。

「…………………有り難うございます」

お礼を言うとアイフリードは、ルイーズに耳打ちをする。

 

 

 

 

 

 

「私ね、今日含めて後、三日でここをでていくんだ、お仕事異動って奴だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………え?」

ルイーズは、アイフリードの言っている意味がすぐには分からなかった。

「出て行くってここを?」

「まあね。元々、長居する予定はなかったし………」

そう言ってカレンダーにチラリと視線を向ける。

ルイーズもそれに倣い、あることに気づいた。

「私の本の返却日…………」

「本当だ」

アイフリードもその偶然には少し驚いていた。

「じゃあ、私の最後のお仕事はルイーズの本を受け取ることだね」

そう言うアイフリードにルイーズは、少しだけ目を伏せ、こくりと頷く。

そんなルイーズにアイフリードは、努めて明るく話しかける。

「それで、ルイーズ?今日は」

「ごめん、今日はもう帰るよ」

ルイーズは、小さくそうつぶやいて図書館から出て行った。

アイフリードは、その後ろ姿を黙って見送ることしか出来なかった。

「まあ、あなたが悪いと思いますよ」

後ろでアイフリードの上司がそう告げる。

「だって、発表があったのにあなた言わなかったでしょう?」

「……………」

「別れが辛いのはわかりますが、別れを告げてもらえないのはもっと辛いんですよ?」

上司の言葉に小さなルイーズの小さな背中を思い出す。

「…………やっぱり、良くなかったですよね」

「えぇ。仕事終わったらフォロー入れと入れときなさい」

「今からは………」

「仕事中です」

「ですよね〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

仕事の終わったアイフリードは、自分の家へと向かう。

荷物を置いてからルイーズのところへ行こうと考えたのだ。

そんなことを考えながら部屋の前まで来るとそこには体育座りして本を読んでいるルイーズがいた。

「おかえり」

「た、ただいま」

予想もしなかった光景にアイフリードは、固まってしまった。

「……………えーっと」

「早く、家に入りたまえよ。私はお姉さんの紅茶が飲みたいんだけど」

いつもより少しだけぶっきらぼうな言い草のルイーズ。

「あ、うん。待ってて」

慌てて部屋の鍵を開け、アイフリードはルイーズを部屋にあげる。

ルイーズは、リビングに座る。

アイフリードは、麦わら帽子を帽子掛けに掛け、お湯を沸かす。

しばらく沈黙が降りる。

先に口を開いたのはルイーズだった。

「あのさ、異動って、どこ行くんだい?」

「ごめんね。教えられないんだ」

「…………………」

ルイーズは、無言で睨むが申し訳なさそうにしているアイフリードを見て大きくため息を吐いた。

「じゃあ、これで今生のお別れってわけだ」

不機嫌さを隠そうともしないルイーズのセリフにアイフリードは、困ったような笑顔を浮かべた。

温度計をチラリと見ると適正温度になっていた。

アイフリードは、ティーポットとカップにお湯を注ぐ。

「で、でも、今回みたいにうっかり会うかもよ?」

「会わない可能性の方が高いけどね」

「また夢のないことを………」

「近頃の子供と違って現実との区別がつくから」

出会った頃のセリフを言われ頬が引きつるアイフリード。

そんなアイフリードに構わずルイーズは、そっぽを向いたままだ。

(って、さっきから当たり前のように進んでいるけど………もしかして)

そう、先ほどから当たり前のようにそれが前提で進んでいる。

だが、アイフリードの勘違いという可能性もなくはないのだ。

何せルイーズから聞いていないのだから。

(うん、だったら聞かなきゃ)

アイフリードは、時間になったので、カップに紅茶を注ぐ。

「あのさ、ルイーズ」

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして、私と別れるの寂しいの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それは決して聞いてはいけないことだった。

「─────!!」

ルイーズは、一瞬硬直した後、直ぐに顔を真っ赤にして立ち上がり、そのままドアに向かって歩き出した。

「あ、あの、ルイーズ、紅茶………」

「知るか!!勝手に飲んでいたまえ!!」

「いや、ルイーズが飲みたいって………」

「覚えてない!!」

そう叩きつけると、そのまま部屋から出て行った。

後に残されたのは、アイフリードと湯気の立ち上る二つの紅茶カップだけだった。

「………………また、間違えたかも……」

アイフリードの呟きは湯気とともに部屋に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

アイフリードの仕事最終日。

放課後、ルイーズは、カバンに教科書を入れていた。

今日が本の返却日。

なので、本を返そうと家から持ってきた。

「まあ、早めに返せばもう少し話せるでしょ」

あんな態度をとった手前ルイーズは、その次の日も図書館にはいかなかった。

「う………やっぱり入らない」

持ち帰る教科書が多すぎてカバンにアイフリードの航海日誌が入らない。

仕方がないので、前もって持ってきておいた手提げカバンの中に本をしまった。

そして、そのまま学校を出ていつもの通学路を歩いていた。

「ごめんなさい………って謝るべきなのかな………いや、でもなぁ」

ルイーズは、道すがら今日、アイフリードに会ったら何て言おうか悩んでいた。

だからなのだろう。

ルイーズは、気が付かなかった。

後ろからあの男子達が近づいていたことに。

「──────!!」

「へへーん、とった!!」

ルイーズが気付いたのはアイフリードの航海日誌の入った手提げカバンが取られた後だった。

リーダー格の男子がカバンからアイフリードの航海日誌を取り出す。

ルイーズは、ぎゅっと、唇を噛み締める。

「ねぇ、返してよ」

「やだよー!!だったらとってみなよ!!」

そう言って本を別の男子に投げてよこす。

投げられた男子は受け取れずに本を地面に落とした。

ルイーズは、拳を握り締める。

図書館の本を乱暴に扱うなど、ルイーズからしてみれば許されるものではない。

「下手くそ!!」

「お前がな!!」

そんなことを言いながら笑いあう男子達に構わずルイーズは、手を差し出す。

「ねぇ、返してよ。それ、とても大切なものなんだ。だから」

誠実にルイーズは、返すように頼んだ。

だが、ルイーズは一つミスを犯した。

それは、

「へぇ………これ、お前の大切なものなんだ」

その本が大切なものだと、彼らに教えてしまったことだ。

いくらちょっかいを出しても微妙にズレた反応や、予想の斜め上のような反撃にばかりあっていた男子達は、ようやくルイーズの弱みを見つけたのだ。

その男子はアイフリードの航海日誌を開き、そして、ページを一枚掴む。

次の瞬間、ルイーズはその男子を突き飛ばした。

よろめいた隙に何とか奪い取ろうとしたが、それより早く別の男子がその本を手に取った。

「あ!!」

追いかけようとするルイーズを別の男子が後ろから羽交い締めにする。

「この……!!」

「今だ、走れー!」

本を持った男子とそれ以外の男子三人が走り出した。

ルイーズは、もがくことをやめ身体を緩める。

そして、一気に力を込めて身体をひねり、後ろから羽交い締めにしている男子を地面に背中から叩きつけた。

「────っ!!」

背中に走りる衝撃に戸惑っているうちにルイーズは、走り出した。

カバンを背負っているとは思えないスピードでルイーズは、前の男子達と距離をつめていく。

「この!!」

本に手が届くその時男子の肘鉄がルイーズの顔面に当たった。

「ぅむぐ………」

思わず口から声が漏れた。

一瞬だけ、男子はしまったという表情になるが直ぐに勝ち誇った顔に戻る。

「うわ!!鼻血出てる!!」

「うわー」

「マジじゃん!!きったねー」

骨は折れていないようだが、ルイーズの鼻から赤い液体が落ちていた。

「……………私に暴力を振るったな?」

「あ?それが───」

肘鉄をした男子がその続きを言うより早く、ルイーズの拳が放たれた。

ルイーズと同じようにその男子も鼻から血を垂れ流した。

「だったら、私がやっても文句はないよねぇ?」

ルイーズはそう言って本を取り返そうとするが追ってきた男子に背中を突き飛ばされた。

突然のことに対応出来なかったルイーズは、そのまま地面に向かって倒れた。

手が出るのが一瞬遅れた為、顔を擦りむいてしまった。

だが、そんなことは些細なことだ。

ルイーズは、直ぐに起き上がるとその男子の頬に右フックを決めた。

「─────!!」

「いいから、早く本を返したまえ!!」

図書館が閉まるのは午後5時。

ここでもたもたしている時間はないのだ。

「お、お前、調子に乗るなよ!!」

そんなルイーズの腹を別の男子が殴る。

「ぐっ……!!」

思わず腹を押さえてよろめくルイーズに残りの男子達が加勢する。

集団という要素が加わり誰も止めるものはいない。

あまり社交的ではないルイーズ だが、その割には控えめではなかった。

普通クラスに馴染めない人間は、下を向く。

だが、ルイーズは下を向くことなく当たり前のように前を向いていた。

それがクラスの頂点に君臨する彼らの不満を買っていた。

「お前みたいなやつが、俺たちに謝らなかったのが悪いんだよ!」

そんなことを言われながら殴られ蹴られをされているルイーズだが、その言葉はどうでもよかった。

そうどうでもいいのだ。

 

 

 

 

 

『さて、ルイーズ。稽古に入るまえに一つ教えておきます』

『?』

『何の為に拳を握るのか、これを忘れないでください』

『そんなの殴りたいからに決まってるだろう?』

そんなルイーズの物言いにリーフは、クスクスと笑う。

『なんだ。そこは教えなくてよさそうですね』

そう言うとリーフは、もう一本指を立てる。

『いいですか、何故自分は殴りたいのか、殴らなければいけないのか?それを常に考えて拳を握りなさい』

リーフは真剣な顔でルイーズを見つめる。

 

 

 

 

 

『それが、拳を握るうえの義務であり、人を殴る責任であり、そして、戦う覚悟というものです』

 

 

 

 

 

(本を………返さなきゃ……!)

きっと事情を話せばアイフリードは、許してくれるだろう。

だが、ルイーズは許せない。

ルイーズは、自分自身を許せないのだ。

彼女のここでの仕事にシミを残すのが自分というのが許せない。

「そこをどきたまえ」

ルイーズは立ち上がる時に一人の男子の足を持ちひっくり返す。

「本を返したまえ」

そして、もう別の男子の腹に拳を渾身の力で叩き込む。

その男子は、激しく嘔吐をした。

その年齢で吐くほど殴られたことなどないのだろう。

それを見た別の男子が、リーダー格らしき男子の肩をたたく。

「ね、ねえ。もう、やめようよ、このままじゃ僕たち………」

リーダー格の男は肩に置かれた手を払う。

「うるせぇ!!分かってんのか!俺たちは、クラスでも暗くて小さな女に五人で挑んでこのザマだ!!負けるならまだしも逃げるなんて出来るか!!」

「でも!!このままじゃ僕た──」

弱気な男子はルイーズにそのまま前歯をへし折られて最後まで喋れなかった。

口を真っ赤にしながら叫んでいる。

残ったリーダー格の男子はゴクリと唾を飲み込む。

「う、うわぁああああああああ!!」

それから叫び声と共に石をルイーズに向かって投げつけた。

石はルイーズに当たる。

中にはルイーズの額を切ってもいた。

それでもルイーズは、止まらない。

「な、なんでだよ。たかが、本なんかのためにどうしてそこまで!」

「言ったはずだよ。それは私の大切なものだと。君は、君達は、いや、お前達はそれに手を出した」

ルイーズは、拳を固める。

「だから、殴る。だから取り返す、必ず!!」

そんなルイーズに向かって男子は、石を投げた。

ルイーズは、額から流れる血など気にもとめずに男子に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん………ルイーズ、こないなぁ……」

「あなたが余計なこと言ったからだと思いますけどね」

閉館時間も近づき、館内には誰もいない。

カウンターでボヤくアイフリードに館長は、淡々と返す。

ルイーズとの一件は報告事項として全部話している。

もちろん、館長が話せと強要したのだ。

「普通聞かないでしょ…………デリカシーがないにも程がありますよ」

「いや、でも……………」

「でももだってもありません」

ぴしゃりと言うと館長は、返却された本を読み込んでいく。

「とりあえず、明日返却に来たら私が受けておきますから」

「はあーい」

「いい年して間延びした返事なんてするもんじゃないですよ」

「ま、まだ、二十五です…………」

冷や汗をかきながらそう返すと図書館の自動ドアが開いた。

その音を聞きつけたアイフリードは、自動ドアの元に駆け寄る。

「待ってたよ、ルイ───」

やって来たルイーズを見てアイフリードは、言葉を失った。

服は砂と泥で汚れ、顔は血だらけ。

切り傷と痣、そして鼻血。

「ど、どうしたの!!誰にやられたの!!」

「………クラスの男子………五人で囲んできた」

遅れてやって来た館長は、目を丸くして事務室に救急道具を取りに戻った。

「あいつら…………その本を取って返してくれなかったから………」

「そういうのは相手にしなくてもいいんだよ。飽きたら返してくれるんだから」

ルイーズは首を振る。

「だって………図書館は、5時までだもの……その時までに返さなきゃ」

ルイーズは、手提げカバンから本を取り出す。

「はい………今日返却日だろう?」

その本は少し砂埃で汚れていたがページなど一つも破られていなかった。

「守ってくれたの?」

「約束………だもの」

血だらけで痛いはずだろうにルイーズは、ニコッと笑う。

それから直ぐにルイーズは、俯く。

「それと………この前はごめんなさい」

この前、というのがあのアイフリードの部屋でのことを言っていると彼女は理解した。

それからポツリと口にする。

「寂しいよ…………お姉さんとお別れするの…………」

それから床に小さな水滴が落ちる。

「でも……あんな風にあっけらかんと聞くからてっきりそう思ってるの私だけかと──────」

そんなルイーズをアイフリードは、エプロンに血がつくのも構わずぎゅっと抱きしめていた。

「お姉さん?」

「ごめん、ごめんね……でも、私だって寂しいよ…………せっかく会えたんだもの…………でも……………行かなきゃいけないんだよ………」

涙ぐみながらそう答えるアイフリードを見てルイーズは、少しだけ安心した。

ああ、そう思っていたのは自分だけではなかったと。

自分だけ別れるのが辛いというのは相手にとってその程度の存在でしかなかったということだ。

そうではなかった。

そう思えただけでも、この傷に意味があったと思える。

「そっか………………良かった」

そう思ったと同時にもうアイフリードととの別れが近いことをようやく自覚し、声をあげて泣いた。








ルイーズも最初から強かったわけではないんです。


では、また外伝49で( ´ ▽ ` )ノ
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