教官   作:takoyaki

50 / 97
外伝50です


色々なものがひと段落してきました………




てなわけで、どうぞ


「君のお父さんが聞いたら泣いちゃうよぉ〜」

「とまあ、そんな話さ」

ルイーズは、アイフリードとの話を終えると、そう締めくくった。

「へぇ、それじゃあ、教官はそのアイフリードさんのためにリーゼ・マクシアに行こうとしているんですか?」

ベイカーの言葉にルイーズは、首を横に振る。

「違う違う。お姉さんのためじゃなくて、()がお姉さんに会うため」

ルイーズは、真っ赤なベレー帽をくるくると指で回す。

「それと私自身、物語の世界を見たいから」

欲望と約束、ルイーズの胸にはその二つが刻み込まれている。

鎖というより、ルイーズにとっては誇りなのだろう。

「ま、そう思って研究所に入ったんだけどねぇ………」

ルイーズは、そう言って淋しそうに笑う。

ベイカーは、そんなルイーズにかける言葉が見つからない。

あの話が本当ならルイーズは、策略にはまって夢を断たれたことになる。

「君は、優しいやつだなあ」

「へ?」

戸惑うベイカーに構わずルイーズは優しく笑ってベレー帽をピアノの上に置く

「ま、結局、あのお姉さんが何者なのか分からずじまいさ」

「『謎のお姉さん』ですか…………」

「そゆこと」

そう呟くエラリィにルイーズは、指をパチンと鳴らす。

エラリィは、クイーンとベイカーに目配せをする。

その視線のやり取りを見てルイーズは、不思議そうに首をかしげる。

「どうしたんだい?」

ルイーズからの質問に少し迷った後、エラリィが口を開く。

「教官、そのアイフリードさんは、どうして教官の名前を知っていたんですか?」

「?カバンに名札が貼ってあったから」

「でも、名札にはヴォルマーノとしか書かれていませんよね?」

ベレー帽がピタリと止まる。

クイーンが隣で頷く。

そう、あのリビングにあったカバンについていた名札にルイーズの名前はなかった。

「私たちの学校の名札は苗字だけです。名前の方は名札に記載されません」

「名札に名前はない………となると、お姉さんは、何処で私の名前を知ったんだろう?」

ルイーズの質問にベイカーは、首を横に振る。

「逆です。名前(丶丶)は知っていた。でも、教官の()を知らなかった」

「??」

「アイフリードさんは、恐らくモーリスさんかリーフさんにルイーズの現在の写真を見せてもらった」

「なんのために?」

「ルイーズに会うためですよ」

クイーンは、ルイーズを真っ直ぐ見据えていう。

「昔別れた時は、小さくて今どんな顔になっているか分からない。だから、アイフリードさんは、ルイーズに会うためにモーリスさんかリーフさんに当時のルイーズの写真を見せてもらった」

「いや、でも私に会いたい人間なんて………」

「いるじゃないですか、一人だけ。ルイーズの記憶にないだけで、確実に一人、別れた人間がいる」

ルイーズの目は険しくなる。

クイーンは、それに構わず続ける。

 

 

 

 

 

 

「十年前、ルイーズをリーフさん達に預けた女性です」

 

 

 

 

ルイーズは、思わず息を飲んだ。

「アイフリードさんは、」

三人は、口をそろえる。

 

 

 

 

 

 

「「「母親なんじゃないですか?」」」

 

 

 

 

 

 

 

ルイーズは、三人の結論を聞いて目を丸くする。

エラリィが続ける。

「赤ん坊の教官をリーフさん達を預けた時、その女性は十五、六歳。

教官がアイフリードさんと出会ったのは十歳。

そして、アイフリードさんは二十五歳。年齢としては、何もおかしくないです」

ルイーズも頭の中で年齢を数える。

確かに年齢の辻褄は合う。

今度はベイカーが引き継ぐ。

「アイフリードさんの腕には傷跡が無数にあったといいましたよね?普通の図書館司書である限り、そんな傷跡がつくわけがない。つまり、それは誰かにつけれたことになる。となると、問題になってくるのは誰にいつ付けられたのか?」

ベイカーは、そこで言葉を切ると指を二つ立てる。

「まず『誰』ですが、間違いなく乗り込んできた男です。乗り込んだモーリスさんの『娘に刃を向けてニヤニヤ笑ってじゃない!!』と言うセリフから、その男が教官の父親でしょう。

次に『いつ』です。これは、教官と出会う前、いや下手をすれば生まれる前からかもしれません」

ベイカーは説明を終え、隣のクイーンをちらりと見る。

クイーンは、自分の刀の柄を二回叩いて口を開く。

「流れを整理します。

アイフリードさんは、配偶者から日常的に暴力を振るわれていた。

このままでは、自分だけでなくルイーズまで危ない、そう思ったアイフリードさんは、まだ赤ん坊のルイーズを連れて逃げます」

「逃げているうちに産んだという可能性は?」

隣で聞いていたエラリィが口を挟む。

するとクイーンは、首を横に振る。

「子どもを身籠って逃げるのは、難易度が高いと思いますよ」

「いや、子どもを連れて逃げるのだって………そうか」

エラリィは、途中まで言って押し黙る。

「そう、子どもを連れて逃げるのも無理でした。だから、モーリスさんとリーフさんに預けた」

クイーンは、目の前でベレー帽を大切そうに持っている友人に対し更に続ける。

「そして、それからその相手の男から逃げる続け、十年の月日が流れた頃、アイフリードさんは、ルイーズに会おうと思った。理由は恐らく辞令でしょう」

「??」

隣で聞いていたベイカーは、首をかしげる。

クイーンが眉を上げる。

「ベイカー、今回、私たちのトリグラフへの異動命令、どのぐらい前に来たかんでしたっけ?」

「え?二週間………あ!」

「私たちでさえ、二週間前。ということは、少なくともアイフリードさんもその近辺で辞令をもらっているはずなんです」

「教官の本の返却期間は二週間、そっか………!」

「そう、異動すること知ったアイフリードさんは、せめて異動する前に自分の娘に会いたかった。けれども、子どもを捨てていった自分では今更お母さんなんて名乗る資格はない、そう考えたのでしょう」

「だから、偽名を名乗った。そして、職場の人間にも説明をして名札を作り変えてもらった」

エラリィの補足にクイーンは、こくりと頷く。

「そして、あの男がいつまた追ってくるか分からないので、アイフリードさんは、身元をくらませて別の地へ旅立ったんです」

クイーンは、最後にそうまとめた。

三人のそれぞれの話を黙って聞いていたルイーズは、しばらくして口を開く。

「なるほど、謎のお姉さんの正体は、そういうことなわけだ」

「まあ、証拠はないですけどね」

「それは、まあ仕方のないことさ」

申し訳なさそうにいうクイーンにルイーズは、そう応えると黒い箱のふたを開けた。

「やっぱり、それは…………」

「そ、ピアノだよ」

ルイーズは、白い鍵盤を叩く。

鳴り響くその音を聞いた瞬間、ルイーズは、苦笑した。

「流石に調律はしてないよね」

「…………調律って?」

不思議そうにベイカーは、隣にいるエラリィに尋ねる。

エラリィは、白衣のポケットに入れていた手を出して腕を組む。

「ピアノの音を合わせること………と言えばいいかな?」

「??」

「ドの音を弾いたらドの音が出るように調整することだ」

「……………それって当たり前のことじゃないの?」

ベイカーの言葉にルイーズがデコピンする。

「いてっ」

「誰かの当たり前は、誰かの技術と知識によって成り立っているんだよ」

諭すようにそういうとルイーズは、ピアノの蓋を閉じる。

「調律しないとね、ドの音弾いてもレの音が鳴ったりするんだよ」

「へぇ………知らない世界です」

「君のお父さんが聞いたら泣いちゃうよぉ〜」

ルイーズは、戯けながら言うと本棚から楽譜を引っ張り出す。

その楽譜の表紙を見てをベイカーは、ため息を吐く。

「……………なるほど、つまり、あの時……名前を聞いた時、教官は私の父親のことを知っていたんですか?」

「そうだよ。まあ、顔を見たの初めてだったけどね」

特に何てことなさそうにルイーズは、ベレー帽をくるくると回し始めた。

「まさか、身近なところでこんなことになるなんてねぇ。人生わからないもんだよね」

肩をすくませると椅子から立ち上がった。

「何気なく話が進んでるんですけど、私達、知らないですよ。ベイカーのお父さんがどうかしたんですか?」

クイーンの質問にベイカーは、楽譜を指差す。

「俺の父親は、ピアノの演奏者だったんです」

ベイカーの回答にクイーンは、目を丸くする。

「嘘!!そうだったんですか!?」

「へぇ。初耳だ」

エラリィも少し意外そうに頷いている。

「因みにベイカーは、弾けるんですか?」

「いや、俺は弾けないです」

「聞けば喜んで教えてくれたと思うけどねぇ」

ルイーズは、呆れたようにそう吐き出して肩をすくめる。

その後、ビシっと指をクイーンに突きつける。

「さて、クイーン。証拠がないと言ったけれど、たしかめる方法はあるよ」

「へ?」

思わずクイーンの口から間抜けな声が出た。

「じいちゃん達に聞けばいいんだよ」

ルイーズは、そう言って立ち上がると部屋を出る。

その素早い行動にあっけにとられていると、ルイーズは扉からひょっこりと顔を出す。

「ほら、君たちも来たまえ」

そう言ってちょいちょいと手招きをする。

エラリィとクイーンは、少し戸惑った後ルイーズの後に続いた。

ベイカーは、渡された楽譜をぼんやりと見ていた。

「ベイカー!行くよ!」

「へ!?は、はい」

ルイーズにもう一度声をかけられたベイカーは、楽譜を置き慌ててルイーズの後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

追いついたその時、ルイーズが耳元の髪の毛をいじっているのが目に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、もう今まで何度も見たルイーズが考えている時の癖だ。

 

 

 

 

 

 






謎解き回でした!!


ではまた外伝51で
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。