教官   作:takoyaki

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外伝54です



みなさま、あけましておめでとうございます!!


今年こそ今年こそ!完結させたいと思います!

ええ、まあ、どうなるかわかりませんが…………



てなわけで、どうぞ


「顔を踏まれて柔らかい表情してたら変態です」

「…………………」

ベイカーは、GHSの画面を睨み付けたままかれこれ小一時間固まっている。

「彼は何をしているんだい?」

その様子を見ていたルイーズは、隣にいるエラリィに尋ねる。

「教官が分からないこと僕に分かるわけないじゃないですか」

エラリィは、どうでも良さそうに返しながら、設計図に線を引いてく。

「それより、リリアルオーブの代用品の開発を続けましょうよ」

「一応出来たんだけどねぇ………」

そう言ってルイーズが出したのは、あのカロリーを消費する欠陥品だ。

「力自体を変換するって考え方はありだと思うんですけどね」

黒縁眼鏡を直しながらエラリィはルイーズの出したそれを観察する。

「ただ、問題はカロリーを使うってところなんだよねぇ」

ルイーズは、げんなりした顔でため息をつく。

あの時の感覚は思い出したくもない。

体は動くが徐々に腹が減り、最終的には胃の中が空っぽになる。

その状態でもう動けないというのに動けと身体は訴えかける。

この矛盾と空っぽの胃の状態で動き続けるため、気持ち悪くなり嘔吐が起きる。

そして、更に胃の中が空になる。

この負のループが繰り返されるのだ。

「よく、そんな状態で切り裂きジャックに勝てましたね…………」

「何せ、身体だけは動くからねぇ」

ルイーズは、その装置を指でつつきながらそう応える。

「とりあえず、君は開発を続けておくれよ」

「教官は?」

「これのデータをもう少しとっておくよ。そうすれば、開発をやめても後々で生きてくると思うし」

ルイーズは、机の上のその装置を手に持つ。

「よし、とりあえず、ベイカー。そこでGHSを見てるなら手伝いたま──」

先程までベイカーのいたところを見るがいつの間にやら姿がなかった。

「あれ?ベイカーは?」

「だから、なんで僕に聞くんですか。知りませんよ」

ルイーズは、ふむと考え込むとベイカーの座っていた椅子を触る。

「まだ暖かいねぇ。多分まだ近くにいるはずだ。探し出すよ!!」

「えぇー………気持ち悪いです」

「贅沢言わないから、はいかいいえにしておくれよ」

迷いなくベイカーの座っていた椅子を触って温度を確認した挙句、探し出すと言うのだ。

エラリィの言うことももっともだ。

「だいたい、探すってどこ探すんですか?」

「大して時間も経っていないし、高いところから見れば見つかるとおもうんだ」

さらりと言うルイーズにエラリィの顔に苦笑いが張り付く。

「ちなみにベイカー見つからなければ君が、私と戦うよ」

「………………やりましょう」

「そう来なくっちゃ!じゃあ、これに着替えて」

「…………これに?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ほら見たまえ、いただろう?」

「えぇ、まあ」

目の前を歩くベイカーを指差しながらルイーズが得意げに言う。

対するエラリィは、笑みが引きつらないように必死だ。

「さて、追跡しようじゃあないか」

「……………あれ?連れ戻すんじゃないんですか?」

「バカ言え、こんな面白そうなこと放置するわけないだろう!」

「………………」

「GHSとにらめっこなんて、確実に女に送る文面を考えているに違いない!!」

「………………」

「そして、その直後詰所を出たんだから、確実に女に会いに行ったか、プレゼントを選びに行ったと見るべきだ」

「………………」

「ならば、ここは冷やかし………もとい、近くで見守るべきだろう?」

(帰りたい…………)

心の底からエラリィは、そう思った。

そんなエラリィに構わずルイーズは、ベイカーを追う。

ベイカーは、紳士用品店に入る。

二人は、店を見て首をかしげる。

「女性へのプレゼントにしては、随分妙なところに入りましたね」

「デートの身だしなみでも整えに行ったんじゃあないのかい?後は、何をプレゼントするかで迷走しいるとか?」

「今の僕たちに迷走してるとか言われたくないと思いますけどね」

クマの着ぐるみに身を包んだエラリィは、同じようにクマの着ぐるみに身を包んだルイーズに絶対零度の応答をする。

そう、ルイーズはこの前掃除の時に見つけたクマの着ぐるみを持ってきたのだ。

押し切られたエラリィは、それを着てルイーズとともに尾行している。

「いいだろう?これなら、顔見られても分からないだろうし」

得意げな顔で(まあ、見えないのだが)いうルイーズにエラリィは、クイーンとベイカーの苦労が少しだけわかった。

ガラスの向こうから見えるベイカーは、真剣な面持ちで商品を見ていた。

「ところで、話は変わるけど」

「なんですか?」

「ベイカーとはどうして友達になったんだい?」

ルイーズの突然の質問にエラリィは、一瞬何を言われているか分からなかった。

「唐突ですね」

「そう?私の頭の中では繋がっているんだけど」

話が飛ぶ人間の代表のようなことを言うルイーズにエラリィの頬が引きつる。

仕切り直すように咳払いをする。

「別に、普通ですよ。たまたま部屋が一緒になったからそのうち仲良くなったってだけの話です」

「ほんとにぃ?」

「そうそうあなた達みたいな物語はありませんよ」

疑わしそうに首をかしげるルイーズにエラリィは、ぴしゃりとと言い放つ。

「だって、あの子、同期の顔と名前覚えてないし、友人の友人みたいな奴しかいないじゃあないか。なのに、君だけ名前を覚えてるんだもの。そりゃ、ほんとにぃ?って言いたくなるさ」

「別にあいつは、何かポリシーがあって名前を覚えていないわけじゃないですよ。単純に人の顔と名前を覚えるのが苦手なんです」

エラリィは、ため息を吐きながらそう答える。

「現に同部屋の僕の名前を覚えたのだって、一ヶ月後でしたからね」

「うわぁ…………」

エラリィは、ベイカーの名前を早々に名前を覚えたが、ベイカーは、全然覚えなかった。

「まあ、会った頃に比べれば、だいぶ柔らかい表情するようになりましたけどね」

「なんか、ギラギラしてたよね、彼」

ルイーズに喧嘩ふっかけて来たのが、今はもう随分昔のように感じられる。

「多分、教官がはじめに鼻っ柱へし折ってくれたおかげですよ」

「ギラギラしてたのが?」

「どうしてそっち行くんですか。柔らかい表情するようになった方ですよ」

呆れているエラリィに対し、ルイーズは、不満顔だ。(見えないが)

「えぇ〜〜…………だって、私睨まれたよ。顔踏んだら」

「顔を踏まれて柔らかい表情してたら変態です」

エラリィは、そうじゃなくて、ため息を吐く。

「負けたってことに意味があるんだと思います。そして、そのおかげでベイカーは、明確な目標を持つことが出来た」

出口の見えない強くなりたいという思いより目指すべき指針を手に入れることが出来た。

「……………どうだかねぇ。買いかぶりなんじゃあない?」

「唯一の友人の言うことが信用出来ないんですか?」

 

 

 

 

 

 

「俺にクマの友人はいないよ」

 

 

 

 

 

 

 

買い物を終えたベイカーが二人に半眼を向ける。

「教官にエラリィ、二人揃って何してんの?」

呆れ果てたベイカーではあるが、それでも律儀に訪ねてくる。

ルイーズは、軽く咳払いをする。

「『教官?誰のことを言っているんだい?僕はバス。クマさんだよ』」

「いや、そう言うのいいんで………というか、声色変えるの上手いですね」

冷静なベイカーにルイーズは、誤魔化すのを諦め着ぐるみの頭をとった。

そして、少し遅れながらエラリィも着ぐるみの頭を取る。

「ちぇー、バレちゃってつまんないなぁ…………」

「店先に何も配らずただ喋っているだけの着ぐるみがいたら、誰だって不審に思います」

ベイカーの呆れ返った声がため息と共に口から零れる。

「で、二人は、何しに来たんですか?」

ベイカーの質問にエラリィは、気まずそうに息を飲む。

(まさか、女に買うプレゼントを選んでいるところを見に来たなんて言えないよなぁ)

「君が女に買うプレゼントを選んでいるところを見に来た」

「教官、ほんとそう言うところですよ」

エラリィの葛藤など構わずルイーズは、さらりとバラした。

「女……………?ここ紳士用品を売ってるお店ですけど」

「だよな!?もっと言ってやって!!」

エラリィは、拳に力を込めてベイカーに頼む。

ルイーズは、肩をすくめてから今での経緯を話した。

その全ての話を聞いているうちにベイカーの瞳から光が失われていく。

人とはここまで表情を失うことができるだろうか?

そう思うほどベイカーの表情は死んでいた。

「ア、アレ?べ、ベイカーく〜〜ん。そんな顔しないで、お姉さん悲しくなっちゃう」

ルイーズが頬を引きつらせながら、両手を合わせる。

「…………………………お姉さん?」

「おい、喧嘩売ってんのかい?」

「教官がそう言うこと資格はないと思います」

エラリィは、隣でため息を吐く。

「それで、お前はこんなところまで来て誰にプレゼントを買っていたんだ?」

「誰かに買うことは決定なんだね」

「お前が、自分のためにこんなところ来るわけないだろ。せいぜい量販店の安物が限界だ」

エラリィに指摘されベイカーは、たじろぐ。図星だ。

流石は唯一の友人と言ったところか。

「……………父さんに贈ろうと思って」

ベイカーは、目を逸らしてそう言う。

「いや、誕生日も過ぎちゃったけど、その、教官の話を聞いたらなんか、ちゃんとお祝いしてあげたいなって思って」

照れ臭い気持ちと気まずい気持ちの両方を持ちながらベイカーは、そう答える。

そんなベイカーの話を聞きながらルイーズは、着ぐるみの頭をポンと上にあげ、そして、再びキャッチする。

「それじゃあ、謎も解けたことだし私は帰るかな」

「へ?」

キャッチした着ぐるみの頭をルイーズは、再びかぶり、エラリィの両肩に手を置く。

「それじゃあ、ベイカー、エラリィに話せるようならちゃんと話してあげるんだよ」

『何を』とまで言わないのはルイーズなりの優しさなのだろう。

「何せ彼は君の唯一の友人だからね」

「教官と一緒にしないでください」

「私と一緒のくせによく言うよ」

ルイーズは、そう言ってその場を後にした。

エラリィは、隣にいるベイカーに目を向ける。

「それで、話って?まあ、言いたくないならいいけどな」

「いいよ。別に。隠すほどのことでもないしね」

ベイカーは、綺麗に包装されたプレゼントを見ながら微笑む。

「あ、それと隊長にも説明お願いしてもいい?二度も三度も説明するのめんどくさいし」

「おい、人を伝書鳩扱いすんな」

友人の厳しい一言にベイカーは、苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「てなことがあったんだ」

「へぇ〜…………」

クイーンとエラリィは、二人で食卓を囲んでいた。

ルイーズとベイカーは、データの収集をしている。

「………………なんか怒ってる?」

「別にぃ〜………………仲直りしたのに、とくに何にもなかったくせにルイーズとお出かけして怒ってるとかそんなこと全然ないですから」

「あ、ああそう」

エラリィは、戸惑いながら引き出しからトランプを取り出す。

「ポ、ポーカーでもやる?」

「…………………………」

お出かけの約束が来るかと思っていたところに来たまさかの提案にクイーンの頬が引きつった。

(もう少し、分かりやすく言うべきでしたか………………)

「いいですけど、後でです。今ご飯中ですから」

クイーンは、そう答えて食卓にあるおにぎりを頬張る。

エラリィもそれに習い同じように食べる。

お互いが一個まるまる食べ終えた頃、クイーンが口を開く。

「今日の件ですけど」

「ん?」

「エラリィ、ルイーズに誘導されたですね」

クイーンの言葉にエラリィは、目を丸くする。

「は?な、なんで?」

「いいですか?ルイーズの方がベイカーの父親の事情に詳しいんです。だから、GHSの画面で固まってた程度ならまだわからないかもしれないですが、少なくとも紳士用品の店に行ったら分かったはずです」

クイーンに言われてエラリィは頭を傾げて今日会ったことを考える。

だが─────

「いや、教官、分かってなかったが?」

思い出すのは、あの頭の悪いセリフの数々だ。

「そんなの分かってないフリに決まってるじゃないですか」

クイーンは、そんなこと当たり前とでも言うようにそう返した。

「いいですか、整理するですよ。まず着ぐるみ着て追いかけたこと、これは悪ふざけです」

クイーンは、そう言って一本指を立てる。

「そして二つ目、エラリィに下らないことを言って、引き止めたこと、これは嘘」

「何のために?」

「エラリィとベイカーのためですね」

クイーンは、二つ目のおにぎりを食べようか迷った後、おにぎりを食べることをやめた。

「だって、こんな機会でもないとベイカー、絶対にエラリィにそんな話しないでしょう?」

ベイカーにとって父親の話は、とても意味のあるものだ。

「友人なら知っておくべきと思うですけどね」

「別に友人だからと言って全部知っておく必要はないと思うがな」

エラリィは、そう答えるとおにぎりにかぶりつく。

「男の子は淡白ですね〜」

「多かれ少なかれ、人は心に秘密を抱えて生きるものだろ?」

エラリィは、椅子に深く腰掛ける。

「それをわざわざ暴くようなことはしなくていいと思うがな」

「でも、話してもらえて嬉しかったでしょう?」

クイーンが笑いながらそう言うとエラリィは、言葉に詰まる。

「……………まあ、一人で悩んでるぐらいなら相談してもらえた方が楽だな」

そっぽ向いてそういうエラリィを見て、クイーンは、クスクスと面白そうに笑っている。

「……………なんだ?」

「別にぃ〜」

クイーンは、そう返すと両手を組んで顎を乗せて窓を見る。先ほどまでのどこかからかうような笑みは消え、どこか遠くを見ているようだ。

「………嫌なものですよ。友人が自分の知らない理由や過去で傷付くのは」

その言い方にエラリィは、片眉をあげる。

「それは、経験則か?」

「内緒です」

クイーンは、ウィンクをしてそう返した。

エラリィは、紅茶の注がれたコップに視線を落とす。

「胸に留めとくしよう」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「よし、こんなものかな」

「……………それはそれは」

ベイカーは、ぐったりしながら地面に転がっている。

ルイーズは試作品の電源を切ってカバンにしまう。

「さて、夕飯に行こうじゃあないか」

「その前に教官」

「ん?」

「あ、ありがとうございます。チャンスをくれて」

ルイーズは、目を丸くしてカバンを地面に落とした。

「う、嘘だろう?君が私にお礼を言ったのかい?あの君が!?」

「俺のことなんだと思ってるんですか!!というか、何回か言ってると思うんですけど!!」

ベイカーは、顔をしかめながら起き上がる。

「言うんじゃなかった」

そう言ってルイーズに背を向けた。

「冗談だよ〜。ちょっとからかっただけじゃあないか」

ルイーズは、そんなベイカーの背中をバシバシと叩く。

鬱陶しそうにベイカーが顔をしかめるとGHSが鳴る。

どうやら、メールを着信したようだ。

相手はピーター。

ベイカーは、少しためらった後、メールを開く。

 

 

 

 

 

 

 

『メールありがとう。プレゼントが届くのを楽しみにしています』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、そっけないメールだねぇ」

「なんで、勝手に見てるんですか」

ベイカーは、手元から覗き込んでいるルイーズを無理やり引き剥がす。

「いいんですよ、これで」

ベイカーは、そう言って小さく嬉しそうに笑っている。

「…………そっか、そうだよね」

ルイーズは、柔らかく笑って頷いた







てなわけで、新年一発目の投稿でした!
エラリィとルイーズは、微妙に絡みが少なかったなぁ、と思いこの話を書きました!


まあ、誰が相手でもルイーズには振り回されるんです………




では、また外伝55で( ´ ▽ ` )ノ

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