四月!!
新社会人の皆さん、無理しないよう、頑張ってください。
決して、無理だけはしないように!!
てなわけで、どうぞ
「さて、今日から文化祭準備だ!」
時は、流れ数日後。
壇上でスカーレットが、黒板をコンコンと叩く。
黒板には、喫茶と書かれていた。
因みにメニューはクッキーと紅茶とコーヒーである。
まあ、教室で料理を出すのにこれ以上のクオリティは、求められない。
「文化祭の夜はキャンプファイヤーもある!しかし、日中を彩るのは、各クラスの出し物!!ってなわけで、今日の放課後から準備するから、残れる奴は残ってくれ!」
スカーレットの言葉に対し、ルイーズが手を挙げる。
「なんだ?転校生」
「普通に今ここで出欠席とらないのかい?」
「とらねーよ。ここで、出れないというには、抵抗があると思うからな」
「……………ふーん、分かった」
ルイーズは、何とも言えなさそうな表情で頷く。
「んなわけで、放課後待ってるぜ!以上!!」
◇◇◇◇
放課後。
「案の定すぎるだろう…………」
教室には、スカーレットが一人残って看板を作っていた。
スカーレット以外のクラスメイトは誰もいなかった。
ルイーズの独り言にスカーレットは、驚いたように振り返る。
「転校生…………」
「そうだよ」
夕日に染まる中、スカーレットがもくもくと切り分けた板が並んでいる。
「マジで手伝いに来てくれたのか?」
「手伝いってか、作業だろう?だって、このクラスの出し物なんだから」
「……………ははは」
スカーレットは、乾いた笑みを浮かべる。
ルイーズは、あくまで潜入捜査をしているだけだ。
だから、いずれここから出て行く。
ならば、深入りすべきでない。
だが、普段の様子からは見られない、その小さな姿を見て、ルイーズの口からポロリと零れた。
「君、クラスで孤立してるのかい?」
看板にペンキを塗る手を止めるスカーレット。
「君が学級委員長になったのも、本当に君の意思かい?」
ルイーズの言葉にスカーレットは、少しだけ困った顔をする。
「………………つまんねー話だぞ」
一言、そう前置きをしてルイーズの方を振り返る。
「学級委員の立候補を募ったんだけどよ、やっぱり誰もやりたがらなかった。んで、仕方ねーからあたしが、立候補したってわけ」
スカーレットは、馬鹿馬鹿しいというふうに口角をあげる。
「そしたらよう、クラスの連中、何て言ったと思う?」
「目立ちたがりのでしゃばり女ってところかい?」
即答するルイーズにスカーレットは、思わず吹き出した。
「大正解。なんだ?お前もそう思ってたのか?」
「言われたことある」
淡々とそう返すルイーズにスカーレットの頬が引きつる。
まさかの返しに言葉が詰まっているスカーレットにルイーズは、続ける。
「それで?どうして、君はそれでも作業を続けているんだい?」
スカーレットは、再びペンキで看板を塗り出す。
「だって、結局、押し付けられたことだろう?それをどうして君一人でやっているんだい?」
ただの木目だったものが、黒色に変わっていく。
「あいつらは、あたしの失敗を望んでる。だから、意地でも失敗しない」
そう言い終わると板は綺麗な黒色に変わっていた。
「そんだけのつまんねー意地だ」
ルイーズは、そう言って色を塗り終える。
「うっし、どうよ!」
そう言って自慢げに見せるそれは、ムラ一つない綺麗な色に塗りつぶされていた。
「色ムラもダマもないし、綺麗だよ」
「だろ?後は、もう少し飾り付けをして文字を書けばいけると思うんだよ」
「でも、それなら黒板買ったほうが早いと思うけど」
「そんな金はない」
「世知辛いねぇ。というか、木とペンキだってタダじゃあないだろう?」
「去年の余り物だからな」
スカーレットは、そう言って大きめの布を投げてよこす。
「なんだい?これは?」
「布」
「見ればわかるよ。そうじゃなくて、何に使うんだい?」
「うちは喫茶をやるんだ。テーブルクロスだよ。裾の処理してないからしといてくれ」
よく見ると布の裾の処理がしてないためほつれ始めている。
「…………分かった。ミシンどこだい?」
「家庭科室にあったはずだぞ」
「了解」
ルイーズは、渡された布を手に持って家庭科室に向かった。
ルイーズの頭の中には、エラリィが持ってきてくれた校内図が広がる。
「…………そう言えば、どっち?家庭科室って確か二つあったろう?」
「どっちって…………そっか、お前、転校生だったな」
「そだよ〜」
スカーレットは、迷った後、刷毛をペンキの缶に突っ込み立ち上がる。
「仕方ね〜………一緒に行くか」
「助かるよ」
作業を中断し、スカーレットはルイーズを連れて家庭科室1に連れて行った。
家庭科室に入るとそこには楽しそうに談笑している切り裂きジャックの候補者、ハレとハーブがいた。
二人が入ってきた姿を見たハレ達は二人ともは、気まずそうに目をそらす。
「おや、君達、何でここに?」
「い、い、や、だって手芸部だから」
「なら、このテーブルクロスの裾の処理やっておくれよ」
「いや、私達忙しいし………」
(さっきまで談笑してたくせによく言うねぇ)
ルイーズは、内心で馬鹿にしたように笑う。
だが、その感情は決して表に出さない。
相手を完膚なきまでに叩きのめしてやらせる事だってルイーズなら出来る。
しかし、それでは後々しこりを残す。
「ごめん!それじゃあ三十分だけでいいからやっておくれよ」
両手を合わせ、頭をさげるルイーズに二人は、困ったように顔をあわせる。
「いや……………三十分は………」
「列車もあるし…………」
「なら、十分だけでいい。これから、十分ならまだ列車もちょうどいいのがあるよ」
二人はちらりと時計を見る。
「いいけど、そのかわり準備時間も込みでいい?」
「いいよ!もちろん!!」
ルイーズは、言うが早いか、速攻でミシンを二人分用意した。
針に糸を通し、もう後は縫うだけだ。
「「……………」」
その迅速な準備に声を失う二人。
研究者兼技術者として入ったとしても軍人であるルイーズ。
彼女にとって素早い準備は、訓練済みだ。
「うーむ、一分ロスだ。けどまあ、まだ九分ある!頼むよ二人とも!」
ルイーズは、そう言うと自分の分のテーブルクロスをミシンにかける。
ミシンをかけるテーブルクロスに目を向けながら、スカーレットに話しかける。
「さあ、君は君の仕事をしたまえ、スカーレット」
「お、おう」
スカーレットは、戸惑いながらそう返すと部屋から出て行った。
小気味好い音ともにテーブルクロスの裾の処理をしていくルイーズ。
ベイカーには、遠く及ばないまでも、ルイーズだってそれなりには出来る。
「あのさ、アイリーンさん」
スカーレットが出ていくのを確認するとハーブが声をかける。
「ごめん。作業終わってからでいいかい?十分ってあっという間だから」
暗に口を動かす暇があれば手を動かせと告げるルイーズ。
「いや、この時間は計算しなくていいよ」
「だったら尚の事終わったらにしてもらえると嬉しいな。私喋りながら作業するの苦手なんだ」
大嘘である。
ルイーズは、ペラペラ喋りながらも平気で作業をする。
そんな嘘を吐きつつ申し訳なさそうに笑って作業の手を止めるルイーズにハーブは、ごめんと謝り自分の作業に戻る。
それからしばらく、カタカタという音が響く。
やがて、約束の時間がくると三人は、徐々に手を止める。
その中でルイーズだけ、処理を終わらせた。
「よし、出来た!!二人ともありがとう」
「あ、うん」
「いいよ」
「何か奢ってあげたいけど、私の財布じゃあなぁ………」
財布を見ながら考え込むポーズをとるルイーズ。
「あのさ、それより」
ハーブの方が口を開く。
「どうして、スカーレットを
ハーブの質問にルイーズは、一瞬だけ固まる。
「……………手伝う?」
「うん」
「……………どうしても何もクラスの出し物だろう?
「でも、スカーレットが中心にいるんだよ?」
かぶせてくるハーブにルイーズは眉をひそめる。
そんなルイーズに気づかずハーブは、更に続ける。
「あのでしゃばりのスカーレットだよ?先生に媚を売ってるいい子ちゃんなんだよ?だから、みんな────」
「君たちが彼女にどんな被害を受けたのか、私は知らない。もし、被害を受けたのなら、それはかわいそうだ。同情しよう」
今度はルイーズがハーブにかぶせるように続ける。
「でも、まだ私は被害を受けていない」
ルイーズは、そう返すと二人からテーブルクロスを受け取る。
「だから、アイリーンさんも被害を───」
「私は自分に被害が出るまで彼女を嫌わない」
先ほどの余所行きの愛想の良さはどこへやら、いつもの眠そうなたれ目を険しくし、二人を睨む。
「私が彼女を嫌いになる理由は、私だけのものだ。決して君たちに押し付けられるものじゃあない」
怒鳴っているわけではない。
だが、その普段の様子からは掛け離れた圧力に二人は思わずたじろぐ。
ルイーズと二人の間にいやな沈黙が降りる。
その沈黙の中、ルイーズは空気を読まずに欠伸を一つする。
そして、欠伸をした時に出た目元の涙を拭おうとする。
しかし、眼鏡に当たったので、眼鏡の隙間から目元を拭う。
「まあ、そんな訳さ」
肩をすくめて戯けたようにそう付け足し、手をひらひらと振る。
「それじゃあ、二人とも
ルイーズにそう言われた二人は、少しだけ戸惑いながら家庭科室を後にした。
二人の縫ったテーブルクロスを見る。
下手ではない。
だが、雑だ。
「………気に入らないなぁ」
ルイーズは、そう呟くと残りの裾を直した。
カタカタとミシンの音を響かせていると、家庭科室にスカーレットが入ってきた。
「よう、どうだ?」
「後、三十分もあればどうにかなるよ」
「……………そうか」
しばらく沈黙が降りた後、スカーレットが再び口を開く。
「…………手伝ってくれてありがとな」
スカーレットがそう言った瞬間、ルイーズのミシンの音がうるさくなる。
「……………気に入らない、あぁ、その言葉は本当に気に入らない」
「は?」
ミシンを止めることなくルイーズは、そう返す。
「お礼を言ってんだけど」
「どいつもこいつも『手伝う』って言うんじゃあないよ」
ルイーズは、テーブルクロスを一枚縫い終える。
「私は君を
布をミシンにセットし、ルイーズはスカーレットを眠そうな、とても真剣な目で真っ直ぐ見る。
「クラスメイトとして
ルイーズのその言葉スカーレットは、思わず固まってしまった。
そんなスカーレットに構わずルイーズの作業は進んでいく。
「手伝いってのは、相手の仕事を自分の出来る範囲でやることを言うんだ。だから、せめてこの言葉は役割分担が出来てから出るべきだ」
ルイーズはカタカタとミシンの音が響く。
「少なくとも君一人に全てを押し付けている状態で出るべきじゃあない」
テーブルクロスがもう一つ出来上がった。
出来上がったテーブルクロスをスカーレットに投げる。
慌てて受け取るスカーレットに対し、ルイーズは、腰に右の拳を置く。
「やるぞ、スカーレット。どうせ私も明日からクラスのはみ出し者だ」
彼女達の望む答えを口にしなかったどころか、言い返した。
少なくとも好意的には接してくれないだろう。
「意地でも成功させてやろうじゃあないか」
それは、そうと、なーんか、微妙に時期はずれになってしまいましたが、気にしない、気にしない!
…………お願い、気にしないで