だんだんと暖かく……というより、暑くなってきましたね
てなわけで、どうぞ!
「こ、ここだよ」
ルイーズとスカーレットは、そのままリッパーの家に案内されていた。
何でも画架なら家にたくさんあるので、どれがいいか選んで欲しいとリッパーが頼んだのだ。
と言うわけで二人は、今、リッパー玄関前に立っている。
立っているのだが……………
「君んち、もしかして金持ち?」
ルイーズの見上げるリッパーの家はまさに豪邸だった。
クイーンの家を彷彿とさせるその家にルイーズの口から思わず口笛が漏れた。
「お前の親、何の職業やってんだ?」
「え、えーっと」
リッパーがどう答えようか迷いながら玄関の扉を開ける。
「やあ!お帰り!リッパー……………」
よく通る声とともに出迎えてくれたのは五十代ぐらいの男性だ。
にこやかな笑顔とともに現れたが、ルイーズとスカーレットを見てピシリと固まった。
「か、母さん!!リッパーが女の子連れてきた!!」
そう言うと奥の部屋に引っ込んだ。
「そんな!!」
「驚いたでしょ!?」
「ええとても。あなたが遂に幻覚を見るようになってしまったなんて………」
「いや違うんだ!!君も疑うなら見てくるといい!!」
そんな声が玄関にいるルイーズ達の耳に入ってくる。
「なんか、大騒ぎだよ」
「……………」
ルイーズの言葉に対し、リッパーは、顔を真っ赤にして俯いていた。
そんなやりとりをしていると、がちゃりと扉が開き、女性が現れた。
恐らく男性より、五つ程度年下だろう。
ルイーズとスカーレットを見て目を丸くした後、両目を擦る。
「これは驚きね…………」
「だろ!?」
「集団幻覚だなんて…………昨日のシチューにマジックマッシュルームでも入ってたかしら?」
「昨日のシチューにキノコはなかったよ」
「なら、ケーキに」
「ケーキにキノコなんて入れないからね!!」
「うるさぁーーーーい!!」
ほっとけばいつまでもやっていそうな二人をリッパーが似合わない大声で止めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「と、というわけで、僕の父さんと母さん」
「リッパーの父です!」
「母です」
客間に通された二人は紅茶をご馳走になりながらリッパーから紹介を受けた。
「で、こっちが、スカーレットと、えーっと………」
「アイリーンです」
名前が出なくて、戸惑っているリッパーの代わりにルイーズが自己紹介(偽名)をする。
「リッパー、招く方の名前ぐらいちゃんと覚えなさい」
リッパーの母が、静かに嗜める。
「は、はい」
「い、いや、私は、つい最近転校してきたばっかなので、覚えてなくても仕方ないかな…………と」
「え?転校してきたばっかの子をもううちに連れてきたの!?」
「リッパー、私いつも言ってますよね。美人局には気をつけなさいと」
ルイーズの頬が引きつる。
そんなルイーズの横でスカーレットが首をかしげる。
「美人局って何だ?」
「後で辞書で調べなさい」
ルイーズは、ため息を吐く。
リッパーの母は、落ち着いた声で続ける。
「最近転校してきたばかりの女の子を連れ来るなんてリアリティがないわ」
「美人局は、リアリティがあるんだ………」
リッパーは、引きつり笑いを浮かべながらため息を吐く。
そんなリッパーの脇をスカーレットがつつく。
早くしろという催促だ。
「まあ、その話はおいとくとしてさ、」
「いや、置いとかないでよ。否定してよ。違うからね」
美人局ではないが、偽物の学生ではある。
「いーから、お前は黙ってろ!話が進まねー」
「ちゃんと終わらせてくれれば私だって黙ってるよ!!」
ルイーズの頬を引っ張ってそう言うスカーレットに対しルイーズも負けじと頬を引っ張る。
そんな二人に気圧されながら、自分の両親に目をやる。
「あのさ、父さん」
「何?」
「使ってない画架、貸してくれない?」
「いいけど、何に使うの?」
「えっと──」
「待った。そこから先は責任者の私から話す」
スカーレットは、説明しようとするリッパーを遮って事の経過を説明する。
最後まで聞き終えると、リッパーの父は少し顎を引く。
少し、思案しているようだ。
しばらくして、こくりと頷く。
「いいよ。貸してあげる。ただし、条件が二つ。一つ、看板合わせとかはやっていいけど、持ち込みは本番当日にして欲しい。君たちの話の通りなら、迂闊に持って行けば壊されてしまうからね」
もう一つ、と更に続ける。
「無償では貸さない」
「ちょ、父さん!!」
目を丸くするリッパーに構わず、リッパーの父は続ける。
「出来るだけ付け入るところは、なくしておくべきだよ。ヘタすれば平等でないと言われてしまうからね。ちょっとした、消耗品なら目立たないけど、画架は流石に目に付くよ」
リッパーは、ぐっと押し黙る。
「───いくらですか?」
スカーレットは、残りの予算を考えながら尋ねる。
「100ガルドでどう?」
「へ?」
「おや?中々大金かな?」
「い、言えそんなことは………」
「よし、それなら、交渉成立だね」
リッパーの父はそう言うと自分の後ろにある引き出しから領収書を引っ張り出す。
そして、金額を書き込む。
「宛先は君たちのクラスにしておくよ」
そう言って慣れた手つきで書き上げると、スカーレットに領収書を渡す。
スカーレットは、慌てて100ガルド渡す。
「毎度。それじゃあ、僕のアトリエにたくさんあるから好きなの持って行ってよ」
「……………アトリエ?」
ルイーズが首をかしげる。
「もしかして、君のお父さん………」
「うん、画家だよ。因みに母さんは、小説家」
ルイーズは、ばっとリッパーの母親を見る。
「えぇ。そうよ」
「あの、それじゃあ、さっきのリアリティがないとか、そう言うのは………」
「だってそうでしょう?何度同じ展開を見たか分からないわ。それなら、美人局のほうが幾分かマシよ」
(やっべぇ………想像以上に変な人だ)
ルイーズは、バレないように頬を引きつらせる。
そんなルイーズの反応など気にもとめず、リッパーの母は、紅茶の入ったカップを置く。
「リッパー、あなたは残りなさい」
「え、なんで?」
「食器の片付けもせずに席を立とうとしているのかしら?」
有無を言わせないその口調にリッパーは、こくりと頷き、台所へと向かった。
「それじゃあ、僕たちだけでも先にアトリエに行こう!」
リッパーの父に促されルイーズとスカーレットは、アトリエに向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわぁ!」
リッパーの父に案内されたアトリエは、画架に置かれたキャンパスと絵の具が無数にあった。
壁には額に入った賞状が所狭しと飾られている。
「いやぁ、汚いところで申し訳ない。キャンパスがある画架以外ならどれでも好きなの持っていっていいよ」
「あ、ありがとうございます!」
スカーレットは、お礼を言って、物色し始めた。
ルイーズも後に習ってお礼を言い、程よい大きさのモノはないかと探す。
作成中の絵に触れないように気をつけながらなので、微妙に神経を使う。
「ん?」
そんな事をしている中、ルイーズの目に賞状が目に入る。
「………『感謝状』?」
ルイーズは、首をかしげる。
壁一面にある賞状は、表彰状だと思っていた。
だが、よくよく見ると感謝状と書かれている。
感謝状の発行元は、孤児院が主だ。
「僕は、これでも募金をしていてね。募金すると、感謝状と募金証明書がもらえるんだ」
リッパーの父は、そう答える。
「感謝状、飾るんですね」
「そりゃあ、人にお礼を言われれば嬉しいもの」
当たり前のようにそう答えるリッパーの父。
感謝状に書かれている金額は、それこそ桁違いだった。
「どうして、募金なんて?」
「知らないの?募金すると税金大目に見てもらえるんだよ」
「でも、募金額が丸々返ってくるわけじゃあないでしょう?」
ルイーズの言葉にリッパーの父は、腕を組む。
「………知りたい?」
「まあ」
「なら、クイズを出そう!」
リッパーの父はそう言って、近くにある書きかけの絵を持ってくる。
「この絵を百万ガルドで売るにはどうすればいいと思う?」
「ふむ」
「おーい、ルイーズ。本来の目的忘れんなよ。あたし達クイズにしにきたんじゃねーからな」
「完成させる!!」
「ぶっぶぅーちがいまぁす!!」
「赤の他人ぶん殴りたいと思ったの久々なんだけど」
思い切り馬鹿にしたように返すリッパーの父。
ルイーズの額に青筋が浮かぶ。
「あ、あたし、ちょっとトイレ」
面倒くさいことになる前にスカーレットは、一旦アトリエから出る。
「正解は、『百万ガルドで買ってくれる人を連れてくる』です!」
リッパーの父はパチパチとセルフ拍手をする。
しばらく拍手をした後、リッパーの父は真面目な顔になる。
「芸術作品の値段に原価とかそんなモノはない。単純に買いたいと思ってくれた人が払ってくれた金が価値であり、値段なんだ」
「値段の提示はしないんですか?」
「買ってくれなきゃゼロだよ」
リッパーの父は物思いにふけるような顔で椅子に座る。
「僕の絵も最初は誰も買ってくれなかった。でもね、ある人が価値を付けてくれた。おかげで今、こんな生活をすることが出来る。ま、今でも売れなかったりするんだけど」
ルイーズは、いつの間にやら聞き入っていた。
「孤児院に寄付しているのはね、いつかそこの子達が大人になったときに僕の絵に価値をつけてくれるかもしれないからさ」
「未来への投資って訳ですか」
「そういうこと」
ルイーズは、肩をすくめる。
「なるほど、感謝状を飾っているのは、覚悟と期待って訳ですね」
ルイーズの言葉にリッパーの父は目を丸くする。
「だってそうでしょう?この感謝状の分だけ貴方の絵を見る人がいる、それは期待であり、覚悟でしょう?」
ルイーズのその言葉にリッパーの父は、柔らかく笑う。
「よくそこまで分かったね。人付き合いの苦手なリッパーが連れてきたにしては、随分賢いお嬢さんだ」
『お嬢さん』という言葉にルイーズは、若干の罪悪感を覚えつつ、肩をすくめる。
「賢いつもりでしたけどね、どうやら、私も少しだけヤキが回ったようです」
◇◇◇◇◇◇◇
(うーむ…………もう少ししてから戻るか)
トイレから出てきたスカーレットは、悩みながら歩いていた。
(廊下広いな…………)
ついでに言うなら少しだけ迷子になっていた。
迷いながら歩いていると話し声が聞こえてくる。
「────リッパー、あなたどうしてクラスの出し物なんかに真剣に協力してるの?」
リッパーの母の声だ。
スカーレットは、慌てて壁に張り付く。
「それは……………」
「どうせ、どっちかの嘘泣きに騙されていつの間にやら協力することになったのでしょう?」
「え!?アイリーンから聞いたの!?」
「聞いてないけど分かるわ」
(あいつ…………!!)
どうしてリッパーが急に参加しだしたのかようやく分かった。
スカーレットは、思わず頭を抱えた。
そんなスカーレットの事などつゆ知らず、リッパーの母は続ける。
「別に参加するのは、理解出来るのだけれど、何故、そこまで真剣に参加しているのか分からないわ」
「??」
「話によれば、貴方が画架を使うことを提案したらしいじゃない」
「??」
「まだ、分からないの?看板が壊された時点で画用紙なりなんなりでやればよかったのに、どうして自分からこんな手間のかかる方を選んだの?」
そう、嫌々やっているのなら、看板が壊れた時点で特に何かする必要はなかった。
仮に画架を使うことになったとしても、ルイーズやスカーレットから話が出るのならまだ分かる。
だが、リッパーが提案したのだ。
無理矢理参加させられたにしては些か積極的過ぎる。
「スカーレットの壊された看板ね、凄く丁寧だったんだ」
母の質問にリッパーが答え始める。
「勿論、父さんや僕に比べれば下手くそだけど」
(あの野郎!)
「でも、妥協がなかった。自分の実力の中で最高の仕事をしていた。凄く頑張ったことが分かった」
握り締めた手が開かれる。
「僕は、父さんと母さんの息子だ。
父さんが膨大な時間をかけても絵が売れなかった所も見ている。
母さんと編集さんが何時間も何日も打ち合わせして書いた本が、売れずに返本されたことがあるのも知ってる。
努力は報われない事があるのを知っている。
頑張ってもどうにもならないことがあるのを僕は、知っている」
驚いたことにリッパーの言葉には、いつもの聞き辛さがない。
だが、スカーレットは、そんなことよりももっと別の事が気になっている。
いつも暗く教室の隅にいるはっきり言えば気味の悪い男子だ。
そんな男子の言葉をどうして聞き入っているのか。
「だからせめて僕は、頑張ってる人の味方でいたい。頑張ってる人を笑う人の味方にはなりたくない」
そんな男子がどうして自分の欲しい言葉をくれるのか。
スカーレットには、分からなかった。
思わず力が抜け、へたり込む。
視界が歪むのが分かった。
(ちくしょう…………どいつもこいつも…………)
スカーレットは、吐き捨てるように呟く。
今は立ち上がれない。
アトリエに向かうにはもう少しだけ時間が必要だ。
そう、少しだけ、もう少しだけ。彼女たちなら待ってくれると信じて。
─────────
「ん?なんか物音しなかった?」
「さあ?ネズミじゃないの?」
「ネズミ?」
リッパーは、首を傾げる。
そんなリッパーに母は、いたずらっぽく笑う。
「負けず嫌いで頑張り屋の雌ネズミってところかしらね」
リッパーは、更に首を傾げた。
そう言えば今更ですが、シャザムと名探偵ピカチュウ見てきました!!笑って笑って大変でした!!
ついでに言うならコナンの映画も見てきました!!
一言で言うならやべぇって感じですね
ではまた、外伝65で( ̄∇ ̄)