教官   作:takoyaki

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外伝7です!!


遅くなってしまい申し訳ありませんでした!!




てなわけで、どうぞ


「うわ、気持ち悪い。お前本当に大丈夫?」

「やれやれ、普通は女の子をおんぶするものだけどねぇ……」

「教官は女の『子』じゃないでしょ」

「それが人に助けてもらう態度かい?」

ルイーズは、イラっとしながらそう返す。

「感謝してますよ。それは、本当です」

「それはそれは」

ベイカーの言葉をルイーズは、どうでも良さそうに返す。

「本当ですって」

「分かったって」

不満げなベイカーの発言を背中で聞きながら階段を一つ一つ降りていく。

カツンカツンと靴を鳴らす音が階段に響く。

「……教官、辛くないですか?」

「別に。君ぐらいの重さなら大丈夫だよ」

「そっちじゃないです」

「?」

「教官でいることです」

ルイーズは、踊り場で立ち止まった。

ベイカーは、背負われたままルイーズの言葉を待つ。

「………正直に言えば楽しくはないかな。でもま、こういうのは慣れっこだよ」

ベイカーは、ルイーズの後頭部しか見えないため、それがどんな表情から紡がれた言葉か分からない。

「やっぱり、気付いてたんですね。今日の訓練の空気に」

「まあね。君たちより私は人の悪意に晒されたことが多いからね」

ルイーズは、何てことなさそうに返す。

その余りに自然な言葉にベイカーは、唇をぎゅっと噛む。

ルイーズは、悪意に慣れざるをえなかった。

それを思うとベイカーの胸は苦しくなった。

ベイカーは、無理やり話題を変えようとする。

「教官、あの、練習メニューの冊子のことですけど………」

「あぁ、まあ、それは気にしてないよ。渡した時からゴミ箱に捨てられる事は分かっていたさ」

再び歩き出したルイーズは、そう返す。

その言葉を聞いた瞬間、ベイカーは、目を丸くする。

「ちょっと待ってください、それ、どういうことですか?」

「?その話をしようとしたんじゃあないのかい?」

「違いますよ!!俺が聞きたいのは、あのメニューを俺以外にも渡したのかって話です!」

「うん。そうだよ」

「話戻しますよ、捨てられたってどういうことですか?」

「どういうことって言われても………」

ルイーズは、少し困ったように言う。

「そのまんまの意味だよ。私の考えた練習メニューの冊子がゴミ箱に捨てられてたんだ」

「いや、だって、凄く考えられたメニューですよね?どうして、捨てられてるんですか?」

「さあ?それは、本人に聞いてみないと何ともねぇ?」

そう言ってルイーズは、階段を降りきる。

「まあ、君みたいに一人でもやってくれる人がいれば御の字だと思っていたから別に気にしてないよ」

ルイーズは、ベイカーを廊下に降ろす。

流石に立ち入り禁止なだけあって、真っ暗だ。

「私からも聞いていいかい?」

ルイーズは、そう言ってベイカーの方を向く。

「なんですか?」

「君は、勧誘を受けていないのかい?」

ルイーズの質問にベイカーは、ため息を吐く。

「されましたよ。クイーン教官もその場にいたはずですけど、聞いてないんですか?」

「最近会わないからね」

「………クイーン教官に会わないのは、クイーン教官の評判を下げないためですか?」

「違うよ………と言っても騙されないか………」

ルイーズは、肩をすくめる。

今の時期は、教官の評判が隊の希望者に直接影響される。

そんな時期にルイーズと一緒にいるところなんて見られたらそれは、そのままクイーンの評判に関わってくる。

「今更じゃないですか?前までよく一緒にご飯食べてるのみんな見てると思いますよ」

「まあ、そうなんだけどね。上手くいけば上書きできるかなーって」

ルイーズは、苦笑いをしながら続ける。

「例えばさ、翌日にテストが迫っているとする、でもそれを思い出したのが就寝前だった」

ルイーズは、そう言って更に言葉を続ける。

「そんな時、君ならどうする?諦めてもう寝るかい?それとも少しでもいい点が取れるように完徹をするかい?」

だが、完徹は必ずしも高得点を取れるとは限らない。

せいぜい赤点を回避するのが精一杯だ。

下手をすれば赤点だって回避もできない。

「私は今、完徹の真っ最中なんだよ。無駄かもしれないけど、それでも私のやらかしたことに巻き込みたくない」

静かに告げるその言葉には、切実な思いが込められていた。

「クイーン教官は、なんか不満そうでしたよ」

「だろうね。水臭いとかいいそうだよ」

でもね、と言葉を続ける。

「彼女と一緒にやって失敗したわけじゃあない、彼女が失敗したわけじゃあない。私がやらかしたことなんだ。巻き込むのは筋が違う」

その眠そうなたれ目に意思の炎を灯してルイーズは、きっぱりと言い切った。

正しいか間違っているかは、ともかく、迷いなく言い切るルイーズは、凛としていた。

それはいいのだが………

「…………でも、クイーン教官、俺にルイーズ教官のネガティブキャンペーンやってた人を追い返してましたよ。みんなの前で」

その言葉を聞いた瞬間ギシっとルイーズは、固まった。

「…………………………それ、本当?」

「はい」

ルイーズは、徐々に動き始めるとイライラとしながら頭を掻き毟る。

「あ・の・子・はーー!!人の苦労潰してんじゃあないよ!!」

うがーっと叫んだ後、ビシっとベイカーを指差す。

「こっからは、君一人で帰りたまえ。私は急用が出来たから部屋に戻る!あ、希望部隊しっかり考えておきたまえよ!!」

言うだけ言うとルイーズは、走ってあっという間に見えなくなった。

最後の最後で微妙に締められなかったルイーズの様子に引きつり笑いを浮かべるとベイカーは、自分の部屋へと戻った。

松葉杖をつきながらゆっくりと進む。

結局、ルイーズは、ベイカーが一番聞きたいことに答えることはなかった。

だが、それでもいつかは知らなければならない、そんな気がしていた。

「あれ?ベイカーじゃねーか」

そんな事を考えながら歩いていると後ろから声をかけられた。

「おぉ、よぉ!(名前なんだっけ?)」

適当な作り笑いで適当な返事をするベイカー。

名前は分からないが、少なくとも自分達と同じ隊の人間だ。

今日の訓練の最初にベイカーに話しかけたあの訓練生だ。

その訓練生は、ベイカーの足元を見て苦笑いをする。

「災難だな、おまえも」

ベイカーは、その言葉に苦笑いを浮かべる。

「いや、自分のせいでこんな目にあったわけだし……」

「何言ってんだよ、ルイーズ教官の考えなしの訓練のせいに決まってんだろ」

ベイカーは、その言葉を聞いた瞬間、苦笑いが引っ込んだ。

「安心しろ。ちゃんとルイーズ教官のせいだって俺たちが証言したぞ」

得意気に言う男の後ろには、友人と思われる二人のが頷いていた。

「………証言って誰に?」

「教官の上官達にだよ。そこに直訴すれば正当性があれば、ちゃんと教官に罰が降りるらしいぜ」

ベイカーの視界が狭くなる。

らしいぜ、という言葉を聞く限り誰かにそれを聞いたということだ。

それはつまり、誰かがこの目の前の男に入れ知恵したということだろう。

そして目の前の男は、その意味がわかっていない。

人を傷付けた責任を負った人間がどれだけのペナルティを負うことになるかということを。

ベイカーは、知っている。過去事故を起こし、研究所を追われた人間を。

その責任がどれだけ重いかということも。

ベイカーの腹の中に沸々と何かが湧き上がってくる。

そんなベイカーに構わず目の前の男の隣に他の訓練生達も親しげに近寄ってくる。

「……ねぇ」

「なんだ?」

「怪我をしたのは、俺だよね?」

「そうだな」

「俺、お前にそんなことをして欲しいって言ったっけ?」

ベイカーの質問に一瞬ポカンとした後、すぐに笑い出した。

「何言ってんだよ!助けてやるのが隊員ってもんだろ?」

キラキラとした台詞を吐きベイカーの背中をドンと叩く。

ベイカーの我慢はそこが限界だった。

「助けてやる?利用してやるの間違いでしょ?」

和やかな笑いが一気に消えた。

「お、おい」

ベイカー自身言わなければ良かった言葉だということは自覚していた。

だが、もう堪えることは出来なかった。

「何度でも言うけど、これは俺の自業自得なんだ。何で笑いとばさないの?」

そこで言葉を切るとベイカーは、名前も思い出せない目の前の男に視線を移す。

「エラリィは、馬鹿な奴だと笑い飛ばしたよ。

ルイーズ教官は、多分心配してくれたし、色々助けてくれたよ。お前達は何をしてくれたの?」

「だから、ルイーズ教官の事を」

「うん。だから話を聞いて。この怪我は俺の自業自得なの。そして、このことを上にあげて欲しいなんて言ってない、頼んでない」

ベイカーは、ようやくルイーズの気持ちがわかった。

確かに何とも言えないほど嫌な気分だ。

口を開きついさっきルイーズの言っていた言葉を告げる。

「俺のやらかしたことに教官を巻き込まないで」

ベイカーが言い切ると目の前の男は、顔を真っ赤にして詰め寄る。

「黙って聞いていれば!!俺達はお前のため(ヽヽ)にやってあげた(ヽヽヽ)んだ!そんな言い方はないだろ!」

「何度も言ってるでしょ。そんなこと頼んでないって」

ベイカーは、そのまま言葉を続ける。

「やり方がみぐさいよ。そりゃあ、ルイーズ教官は妙な人だし、変な人だし、困った人だし、友達にいいところなんて五個もないって言われちゃうような人だけど」

ベイカーは、そう言うと目の前の男を睨みつける。

「少なくともお前達のくだらない手段のための目的にされる人じゃない」

ルイーズを貶めるには何か目的が、理由が必要だ。

貶めるという手段をするために彼らは、理由を求めたのだ。

「テメーいい加減にしろ!」

図星をつかれた男は、ベイカーを突き飛ばした。

松葉杖で歩いているベイカーは、態勢を崩す。

(やばい倒れる)

「痛」

ベイカーの背に何かが当たり、倒れることはなかった。

不満げな声の主を確かめようと振り返るとそこには、コーヒーをかぶったエラリィがいた。

「エラリィ!お前、大丈夫?」

「あぁ。俺のサンオイルスターグリーンがブラウンになってしまった」

びっしょりと緑のヒトデは、茶色になってしまった。

「いや、心配してんのそっちじゃないんだけど……」

「安心しろ。後三着同じのがある」

「うっわ、気持ち悪い。お前本当に大丈夫?」

ベイカーのそんな言葉を無視しながら目の前の男たちを睨む。

「それでこんな夜に怪我人囲んでお前達は何をやっているんだ?」

「テメーには関係ないだろ!!」

「そうだな。関係ないな。関係ないから善良な目撃者として怪我人突き飛ばしたことお前らの隊長と上の連中に報告しとく。おい、ベイカー帰るぞ。サンオイルスターの再放送がそろそろ始まる」

どうでも良さそうに言うとベイカーに帰るように促す。

「いや、一人で見てればいいんじゃん」

「テレビのリモコンが見つからない。探すのを手伝って欲しい」

「お前、本当ダメだね」

ベイカーは、呆れながら松葉杖を使ってえっちらおっちらついて行く。

「おい、待てよ!」

男は、ベイカーを追い越しエラリィの肩を乱暴に掴む。

「技術屋風情が調子に乗るなよ」

当然と言えば当然だが、暴力沙汰を起こして何のお咎めなしとはならない。

ついでに言えば怪我人を一方的に突き飛ばした彼に言い訳の余地はない。

「俺がその気になればテメーなんて今この場でどうとでも出来る」

ギリギリとエラリィの肩を握る手を強める。

そこにあるのは、

「頭を使うのが得意なお前ならどうすればいいかわかるだろ?」

「そうだな」

エラリィは、そう言うと男の手首をギリギリと握り返した。

「っあ、ぐ!」

予想外の反抗に彼は目を白黒させる。

「今すぐこの手を離せ。さもなくば」

そこで言葉を区切るときっとエラリィは、目を鋭くする。

鬼の形相とも言える表情に男は、余りの迫力に唾を飲む。

 

 

 

 

 

「ここでサンオイルスターが見たいとギャン泣きしてやる」

 

 

 

 

一瞬空気が凍りつき、ベイカーは、急いで耳を塞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









今作のライダーも面白いですね!!
謎が謎を呼んでいるのがもう、最高です!!



では、また外伝8で!!

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