外伝73です
ゼロワン見ました!!
シンプルにカッコイイ!!そして、おもしろい!!
これから一年楽しみです!!
てなわけでどうぞ
─────「お前なんて」───
そんな言葉が日常的に出る程度には、家にあたしの居場所はなかった。
あたしの家は、名家と呼ぶにふさわしい家だ。
資産もあり、権力だってそれなり、歴史だって負けてない。そんな家の長女として生まれた。
あたしの家系において、家を継ぐのは、代々男子だ。
そんな訳であたしには、最初から特に期待はされていなかった。
いや、正確に言うなら婿養子を取ると公言すれば、もしかしたら………うん、やっぱりないな。こればっかりは。
何せ、あたしの母がそれだ。
婿養子をとり、事実上の当主になった。
流石に二代続けては少し、バッシングを受けてしまうだろう。
そんな訳で事実上の当主であった母はやりたい放題だった。
なにせ、当主並みの権力を持ちながら、当主としての責任はないのだ。いくらでも助長する。
そして行き着く先はこれまたお約束の不倫だ。
子どもまで作っており、あまつさえ、その子どもを父と母の子どもだと偽ってしばらく育てた。
うっすらとだが、あたしにも記憶がある。確か二つ上ぐらいだったと思う。
勿論、バレない訳がなく、大喧嘩した挙げ句、不倫相手にその子どもを押しつけ、戻ってきた。
普通なら離婚ものなのだが、父は入り婿。名家に入るということはつまり、就職と同義だ。離婚は退職を意味する。
そんな訳で、離婚もせずなお且つ、愛情はない。というまさに赤の他人以上程度の付き合いが我が家の内情だ。
そして、物心ついた頃、就学前ごろに弟が生まれた。
そう、弟だ。息子だ。つまり、男だ。
二人は、弟を大切に育てた。
この時点であたしには、もう価値なんてなくなった。
だって、そうだろう?
元々価値なんて有るか無いか大分グレーゾーンだったのに、夫婦の争いごとを知っている。このせいで更に濃いグレーになっている状態。
そこに跡取りが生まれればこれはもう、あたしに構う必要などないのだ。
まあ、幸い、食事を抜くとか暴力とかそんなことはなかった。
────「お前なんて」────と言われるだけだ。
弟には部屋が与えられたのにあたしにはないとかそういうこともなかった。
別に積極的に意地悪をされたわけではない。
単純に誰もあたしを見てくれなかった。
実害はない。
それは、今のところはってのがつく。
幼いあたしは怖かった。
もし、ここで叱られてしまえば、あたしはどうなってしまうんだろう?
それを考えない日はなかった。
それが本当に怖かった。
幸い、あたしは本を読むことの出来る人間だった。
本から「悪いこと」と「正しいこと」を学ぶことが出来た。
でも、それは所詮付け焼き刃だ。
本に書いていない悪いことをしてしまうかもしれない。
その不安が常に付きまとった。
それでも、あたしは、とあることを支えに頑張った。
そう、学校だ。
学校に行けば先生がいる。
先生が何が悪いか教えてくれる。
そして、学校に行けば、友達だって出来る。好かれてもらえる。好かれてもらえるってことは、見てくれるってことだ。そうなればそこがあたしの居場所になる。
そう思っていた。
そんな風に指折り数え、ようやく学校に通えるようになった。
学校では、みんなに好かれようと頑張った。
先生の言うことはちゃんと聞いたし、忘れ物もしなかった。
授業でだって、ちゃんと発言した。
友達だって出来た。悪いことをしている奴を注意もした。
親の顔色を伺って生きてきたあたしにとってみんなに好かれるのは、難しくない、そう思ってた。
「スカーレットちゃんは、いつも色々な人と遊んでいてよくないと思います」
そんな折、クラスの帰りの会であたしは、名指しでつるし上げられた。
つるし上げたのは、あたしが一番の友達だと思っていた奴だった。
「……………え?」
真剣に意味が分からなかった。
「毎日いつも違う人と遊ぶ、それって、その人達を大切にしてないって事だと思います。だって、大切ならそうそう簡単に遊ぶ相手を変えないと思います」
説明を聞いても理解できなかった。
「スカーレットちゃんは、いつもそうです。今日はなになにちゃんと遊ぶ日だからといって、断ったりしています。別にその人と遊ぶ約束なんてしていないのに」
更に説明されてもあたしは、当時のあたしは理解できなかった。
理解できなかったから言ってしまった。
「
まあ、今ならあたしがおかしかったと流石に分かる。
みんな仲良くなんてのは、建前だ。
そう言いつつ自分にとっての友達を探していく。
それが正しい人付き合いというものだ。
でも、あたしの中でその選択肢はなかった。
だって、先生が言ったんだ。それを守らなくては、あたしは先生に叱られてしまう。
知らなくてやった悪いことは、教えて欲しいと思っていたが、知っている悪いことを態々やる必要は無い。
でなければ、叱られて嫌われてしまうのだから。
あたしだって、その友達とずっと遊んでいたかった。
でも、先生の言葉がある以上守らなくてはならない。
だから、あたしは、それを守った。そして、それは正しい事だ。だから、誰かに嫌われることなどあり得ない。
あの時のあたしは、そう思っていた。
その後のことは、あまり思い出したくない。
あたしを名指しした奴は泣き出してしまった。
その後、あたしと遊んでくれる奴はいなくなった。
まあ、そりゃあそうだろ。
義務感だけで仲良くしてくれてた奴となんて一緒に居たくない。
いや、それだけではなかった。
遂にいじめられてしまった。
あたしのやった行動は、教師に対して媚びを売っていると取られた。
笑ってしまう。
あれは、教師に媚びを売っていたわけじゃなく、クラスメイトに媚びを売っていたってのにな。
正しい事をすれば、誰か味方になってくれる、誰かに見てもらえる。
そんなものは幻想だと言うことがようやくわかった。
でも、あたしは、正しい事をする以外にあたしを見てくれる方法を知らない。
ようやく手に入れる事が出来ると思っていた、居場所は、あたしの手から離れていった。
それでも、あたしは、通い続けなければならない。
学校を変えてほしいなど言えない。
ワガママが言えないことぐらい肌で感じている。
あたしに両親から実害がないのは、両親に迷惑をかけてないからだ。
もし、ここで学校を変えたいなどと言ってしまえばどうなるか分からない。
試しに言ってみればいいのにと言う意見もあるだろう。
でもな、言うタイミングがないんだよ。
何せ、あるべき会話がない。
あの二人は、あたしに学校生活がどんな感じなのかと聞いてこないんだ。
どの家族もそんなものかと思っていたが、クラスメイトの話に聞き耳を立てるとどうやら、そんなことはない。
まだ、それだけなら我慢できる。
だが、この会話をあたしは目の前で聞くことになる。
そう、この会話、両親と弟はしていたんだ。
しかも、あたしの目の前で。
普通するか?デリカシーがないのか、嫌みなのか。
…………多分、前者だな。
あの二人は、本当にあたしに興味がないんだ。
分かっていたさ。分かっていたけどよ、それでもあたしは、見て見ぬふりをしてきたんだ。
なのにそんな見せられればもう、見て見ぬふりなんて出来ねーじゃねーか。
あの時食ってた飯は、本当に味がしなかった。
もっというなら、それ以降、家で食べる飯に味がしたことはない。
やがて、それは家族の作ってくれた弁当にも及び始めた。
あの母親がただの義務だけで作り続ける弁当。
もう、正直あの頃は、食事だけがあたしを支えていた。
そのあたしから、食事まで取られてしまうのは、何としてでも避けたかった。
あたしは、それ以降、自分で弁当を作るようになった。
母親の作った弁当で無ければ味がするんじゃないか?と考えやってみた。
結果、予想は大当たり。
あたしの作った弁当はちゃんと味がした。
あたしは、何とか小指一本でとどまることが出来た。
そんな日々を続けていたあたしは、一人の生徒を見た。
その生徒は、何か悪さをしたようで、親まで呼び出され、教師に怒られていた。
あたしは、その光景を見て思った。
────うらやましい───
あんなに自分を見てくれる。親も先生も。
正しい事しかしないようにしてきたけど、もしかして間違った事をすれば見てくれるんじゃないのか?
そう思ったあたしは、必死に考えた。
誰にも迷惑をかけず、なお且つ叱られる方法を。
そして、あたしは、宿題を持ってこないという手段をとった。
提出物を一切持ってこなければ、流石に先生も怒るだろうし、いくら何でも目に余れば両親だってくる。
そう思ってあたしは、宿題を持ってこなくなった。
いつ、声をかけてもらえるかと内心ワクワクしながら、待っていたのを覚えている。
だが、いつまで経っても先生に怒られることもなく、親が呼ばれることもなかった。
本当に不思議だった。
同じくらい忘れているクラスメイトは怒られているのにあたしは、一切怒られなかった。
不思議に思ったあたしは、職員室に聞きに行った。
職員室の扉に手をかけた時、先生のグチが聞こえた。
先生達のグチをまとめるとこうだ。
あたしの家は名家だ。
つまり、そうそう叱るわけにはいかない。でなければ、親が何を言うか分かったものではない。
だから、宿題を全然提出物を出さなくとも何も言えない。
ああ、まただ。
また、あたしの望むものは、手からこぼれ落ちた。
そんなに難しい事は、望んでいないはずだ。
人並みに親の愛情が欲しい。
人並みにあたしを見てもらいたい。
人並みに居場所が欲しい。
努力だってしている。
少なくとも餌を待つような雛鳥のようなマネはしていない。
あたしから、挑んでいる。
なのになぜ、あたしの望むものは、手に入らない。
もう、本当に限界だった。
あたしを支えているのは、自分の作った弁当だけだった。
そんな時だ。
切り裂きジャックに声をかけられたのは。
切り裂きジャックは言った。
仲間にならないか、と。
切り裂きジャックの事は、新聞などで知っていた。
間違いなく犯罪者だ。
でも、それでも、あたしは、断れなかった。
だって、そんな事を言ってもらえたのは、初めてだったんだから。
それからは、徹底的に仕込まれた。
あたしにあっていたのは、短剣だ。
それを仕込まれた。
それからの日々は、本当に充実していた。
自分の技術を磨き続ける日々。
出口の見えないトンネルを彷徨い続けるより、明確な目標と、努力でちゃんと越えていける毎日は何物にも代えがたい日々だ。
そして、あたしの短剣の実力が上がっていくうちにイジメも気にならなくなった。
だって、その気になれば、あたしをイジメてる連中なんて、血だらけに出来るんだ。
そう思うと何だか気持ちが楽になった。
でも、それでもあたしの居場所とは思えなかった。
明確な目標とともに過ごす日々だが、それでもまだ、あたしは、切り裂きジャックとしては認めてもらえていなかった。
短剣の腕を磨き誤魔化しながらもふとした瞬間に居場所がない、と言う感覚足下から這い上がってくる。
短剣の腕が最初の頃に比べ、めきめきと上がっていき、投げた短剣が狙った的に必ず当たるようになった頃、遂にあの指令が出された。
───ルイーズ・ヴォルマーノを殺せ。殺せばお前を切り裂きジャックと認めよう。そして、それがお前の居場所だ。───
さて、続きます!!