教官   作:takoyaki

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外伝74です。



てなわけでどうぞ


「君達より頭を使うのに慣れてるだけだよ」

 「ルイーズ・ヴォルマーノは、アイリーン・アニーミと名乗っている」

 切り裂きジャックは、そう告げる。

 打ち合わせ通り、軍に告発書を送ってしばらくすると、潜入捜査をするという事前通告が来たのだ。

 

 

 

 ────ルイーズ・ヴォルマーノ────

 

 

 

 切り裂きジャックの狙っている得物だ。

 難しい事は、分かっている。

 それでも、あたしの望むものを手に入れるためにはやらなければならない。

 あたしは、出来るだけルイーズにフレンドリーに接し、信頼を出来るだけ勝ち取ろうとした。

 向こうだって潜入捜査をしているんだ。あたしの誘いを断ったりするわけがない。

 あたしは、用意してきた容疑者候補を適当に話した。

 ルイーズは、引きつり笑いをしながら全員の名前を聞いていた。

 取りあえず、これで五人の容疑を晴らすまでルイーズは、いることになる。

 そのうちにいくつか、布石をうっておかねーとならねー。

 リッパーをけしかけたのもその一つだ。

 秘密のない人間なんていない。

 だから、お前の秘密を知っていると書いておけばいいかと、思って適当にやっといたら、マジでその通りに動きやがったから万々歳だな。 

 まあ、そんなわけで、それなりにルイーズ達にプレッシャーをかけることは何とかなった。

 そして、そんな日々を過ごしながらも無視できないイベントが近付く。

 そう、文化祭だ。

 クラスメイトに押しつけられた、学級委員長としての立場から決して逃げることは出来ない。

 そして、あいつらはあたしの失敗を望んでいる。

 なら、あたしは、失敗出来ない。

 あいつらがあたしの居場所になりえないならせめてあいつらに負けるわけにはいかない。

 案の定、誰も文化祭準備には来なかった。

 一人を除いて。

 『案の定過ぎるだろう…………』

 ルイーズは、自分の予想が当たったことに呆れたようだった。

 正直に言えば、あいつが来るとは思わなかった。

 文化祭準備にかこつけてサボってるクラスメイトに話を聞くのが一番効率がいいからだ。

 いくら制服が似合っててもルイーズは、二十二歳だ。

 勘づかれていたみたいだったから、あたしがクラスで浮いている話をした。

 それでも動こうとしないルイーズにあたしは、テーブルクロスの処理を任せた。

 まあ、頼まれたルイーズは、家庭科室を知らなかったからあたしが案内したんだけどな。

 そしたら、そこにはクラス準備に来ねークラスメイト(あたしがでっち上げた容疑者候補)が二人もいた。

 ルイーズは、二人を丸め込んで自分の作業に協力させた。

 その鮮やかな手腕にポカンとしているとルイーズに自分の作業をやってこいと言われた。

 あたしは、作業に戻るフリをして教室の中の会話に耳を澄ませた。

 ルイーズの約束した時間が終わるとハーブがルイーズに尋ねる。

 『どうして、スカーレットを手伝うの?』

 『……………手伝う?』

 『うん』

 『…………どうしても何もクラスのだしものだろう?クラスメイト()協力(ヽヽ)しない道理はない』

 『でも、スカーレットが中心にいるんだよ』

 ああ、この流れは知ってる。何度も経験してきた。

 最初は、優しくしていた奴らがこの台詞を聞いた瞬間からあたしを避けるようになり、そして嘲るようになる。

 『あのでしゃばりのスカーレットだよ?』

 うるせぇ。

 『先生に媚びを売っているような』

 媚びを売っているのは、先生じゃねーよ。お前らなんだよ。

 『いい子ちゃんなんだよ?』

 いい子ちゃん(そう)だと思っているならあたしを受け入れてくれよ。認めてくれよ。

 『だからみんな────』

 『君たちが彼女にどんな被害を受けたのか、私は知らない。もし、被害を受けたのなら、それはかわいそうだ。同情しよう』

 ルイーズの言葉が聞こえてきた。

 正直、もう、後の展開はさっき言ったように読めていたから早く教室に戻ろうとした。

 『でも、まだ私は被害を受けていない』

 あたしは、その時耳を疑った。

 『だから、アイリーンさんも────』

 そして、あいつは、一生、あたしが忘れられない言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 『私が彼女を嫌いになる理由は、私だけのものだ。決して君たちに押しつけられるものじゃあない』

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉があたしの耳を打った。

 なんだ、それ。

 なんだよ、それ。

 そこは、絶対嫌いにならないとかじゃねーのかよ。 

 つうか、お前、潜入捜査に来てんだろ。最下層の女庇ってクラスメイトと溝深めてんじゃねーよ。

 あぁ、なんだ。簡単だ。あいつがあのルイーズ・ヴォルマーノかよ。

 超余裕じゃねーか。簡単に殺せる。

 「────────」

 視界が歪む。

 ああ、神様ってのは、本当に意地が悪い。

 今更、そんな言葉をよこしやがって。

 しかも、あたしの欲しい言葉を伝えるのが、ターゲットなんて、本当にいい加減にして欲しい。

 教室からあいつらが出る気配がした。

 慌てて隠れてやり過ごすとしばらく待ってから家庭科室に入る。

 目は大丈夫な筈だ。

 ちゃんとさっき誤魔化してきた。 

 軽く挨拶をした後、本題を口にする。

 『…………手伝ってくれてありがとな』

 あたしがそう言った瞬間、明らかに不機嫌そうにミシンを鳴らし始めやがった。

  『……………気に入らない、あぁ、その言葉は本当に気に入らない』

 『は?』

 あんな言葉言った後とは思えないトーンが出て来やがった。

 訳も分からずあたしは続ける。

 『お礼を言ってんだけど』

 『どいつもこいつも『手伝う』って言うんじゃあないよ』

  縫い終えたテーブルクロスをどかし、新しい布をセットする。

  「私は君を手伝って(丶丶丶丶)なんかない」

 あの、普段の眠そうで、そして、とても真剣な瞳でルイーズはあたしを睨み付ける。

 『クラスメイトとして協力(丶丶)しているだけだ』

 ああ、そんなこと言ってくれるんだ。

 『手伝いってのは、相手の仕事を自分の出来る範囲でやることを言うんだ。だから、せめてこの言葉は役割分担が出来てから出るべきだ』

 どうして、もっと早くに言ってくれなかったんだよ。

『少なくとも君一人に全てを押し付けている状態で出るべきじゃあない』

 もう、後戻りなんて出来ねーんだよ。あたしは。

 

 

 

 

 『だからせめて僕は、頑張ってる人の味方でいたい。頑張ってる人を笑う人の味方にはなりたくない』 

 

 

 

 だから、あたしは、もう戻れねーって言ってんだろ。 

 ちくしょう…………どいつもこいつも…………今更、あたしの欲しい言葉言いやがって。

 もっと早くに言えよ。

 あたしは、もっと早くからその言葉が欲しかったんだよ。

 あたしを認めてくれる言葉を。

 あたしを救ってくれる言葉を。

 あたしを叱ってくれる言葉を。

 今更畳み掛けてくんなよ。

 あたしは、もう引けねーんだよ。

 

 

 後悔してももう、襲い。

 時間は、過ぎてく。

 ルイーズが、文化祭当日に容疑者候補を見張ろうと言いだした。

 ルイーズやあたしが見張らない奴らは多分、ルイーズの隊の人間がやる。

 切り裂きジャックに伝えたらお前がやれと言われた。

 『ま、待ってくれよ。その日は文化祭なんだ!』

 『それが、どうした?お前は、居場所が欲しいんじゃなかったのか?』

 『でも』

 『忘れるなよ。お前をここまでにしたのは、切り裂きジャックだ。でなければ、お前は命を絶っていた』

 『…………』

 否定は出来ない。

 親は、あたしを見てくれず、クラスからいじめられていたあたしに逃げ場はなかった。

 追い詰められたあたしがそのまま屋上からダイブしてもおかしくなかった。

 居場所とは呼べなくとも逃げ場を用意してくれた切り裂きジャックを裏切ることは出来ない。

 当日、あたしはルイーズを襲撃した。

 ヘンテコなぬいぐるみをしていたお陰でどこに居るか一発だった。

 これで殺せる、そして、文化祭も壊れる。

 《あぁ、久しぶりだな》

 いつもより低い声音。ああ、なんて、つまらない結末なんだ。

 《忘れるものか。あの時、私の目の前で体温を失っていく母の姿を忘れたことなど一度たりともない》

 そう思っていたのに、ルイーズの奴、のってきやがった。

 あたしの投げる短剣は、全てキャッチし、逃げる。

 そして、本気の殺し合いを寸劇に変えやがった。

 あいつは、あたしの小さな意地を守ってくれた。

 あたしが、大切にしたかった日々を守ってくれた。

 でも、多分ここが失敗だった。

 その出来事が決定的となって、ルイーズは、あたしを追い詰めた。

 もうここでやるしかない。

 幸い、あいつにあたしは馬乗りになっている。

 後は、もうこの短剣を振り下ろすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ポタリ、ポタリとルイーズの顔に水滴、スカーレットの涙が落ちる。

 「だから言ったろう、君には無理だって」

 「うるせぇよ…………今更、あたしは戻れねーんだよ」

 スカーレットの振り上げた短剣は、震えていた。

 「お前、どうして、もっと早く出会ってくれなかったんだよ。お前、どうしてもっと早くにあの言葉をくれなかったんだよ」

 「あの言葉…………もしかして、君、あの時外にいたのかい?」

 ルイーズの言葉にスカーレットの手から短剣が床に落ちた。

 「そうだよ……………あたしは、ずっと、欲しかった。あたしを見てくれる人が、認めてくれる人が、あたしがここに居てもいいと思える居場所が。あたしはずっとずっと欲しかった」

 スカーレットは、ルイーズの胸倉を掴む。

 「それが、どうしてお前なんだ!どうしてリッパーなんだ!!どうして切り裂きジャックじゃないんだ!!」

 スカーレットの涙は止まらない。

 「君は、まだ誰も殺してない。だから、戻って来られるよ」

 胸倉を摑まれながらもルイーズは、穏やかにスカーレットに話しかける。

 「…………今さら、無理だ。あたしは、切り裂きジャックに命を救われてる。裏切れない」

 「……………なら、どうするつもりだい?」

 「……………………だよな。そういう話になるよな。あたしは、お前を殺したくない。でも、切り裂きジャックは裏切れない。どん詰まりだ」

 スカーレットは、胸倉から手を放す。

 「そんなに難しい事や無理な事を願ったつもりはねーんだけどな…………あぁ、結局、あたしに生きることは向いてなかったってことだな」

 力なくそう言うとスカーレットは、先程床に落とした短剣を手に取る。 

 「あたしは、あの時、こうするべきだった」

 そして、それを自分の喉に突きつける。

 「じゃあな、転校生。楽しかったぜ」

 そう言うと真っ直ぐに短剣を自分の喉に突き立てた…………筈だった。

 

 

 

 

 

 

 「何言ってるんだい。お楽しみはこれからさ」

 ルイーズは、短剣が喉に突きつけられる前にスカーレットの手首を摑む。

 そして、それを横倒しにして、スカーレットの態勢を崩し、馬乗りから逃れた。

 「絶対やると思ったゼ………全く、思春期の女の子は直ぐ死にたがるんだから」

 ルイーズは、短剣を奪い取り入り口に向かって投げる。

 「出てきたまえ、いるんだろう?」

 ルイーズの言葉に見覚えのある仮面を付けた切り裂きジャックが現れた。

 「仮面なんか、今更意味ないだろう?先生?」

 ルイーズがそう言うと切り裂きジャックは、ゆっくりと仮面を外す。

 仮面の下から出て来たのは、ルイーズの潜入したクラスの担任だった。

 その男は、懐から取り出した銀縁メガネをかける。

 「………………いつから、気付いていた?」

 「そんだけ、外で殺気だしてれば、流石に気付くよ」

 「そっちではない。いつから私が切り裂きジャックだと気付いていた?」

 「スカーレットに襲われた夜」

 ルイーズは、にべもなく言い切る。

 「あの襲撃を成功させるには、スカーレットの居るクラスに私が潜入しないといけない、私がスカーレットの隣に座らないといけない」

 真っ直ぐに目の前の男を睨み付ける。

 「あり得るかな?たまたま、私が潜入したクラスにスカーレットがいた。たまたま、スカーレットの隣になるなんてことがさ」

 「なるほど」

 「そういうことさ。それらの決定権のある人間が仕組んでいると考える方が自然だろう?」

 ルイーズは、更に続ける。

 「流石だな。頭だけは良く回る」

 「君達より頭を使うのに慣れてるだけだよ」

 ルイーズの馬鹿にしたような返答に切り裂きジャックは、肩をすくめ他後、ルイーズの後ろで涙を流しているスカーレットに視線を移す。

 「それで、スカーレット、お前は何をしている?」

 「あたしは………」

 「私は言ったはずだ。『ルイーズ・ヴォルマーノを殺せ』と」

 「でも…………!!」

 「裏切るつもりか?あなたに逃げ場を与え、力を与え、救ったのは、誰だ?」

 「先生だ…………でも!!」

 「なるほど、言うことが聞けない、と?」

 言うが早いか、切り裂きジャックは、スカーレットに躍りかかった。

 迫り来る刃。

 スカーレットは、諦めたようにソレを受け入れる。

 

 

 

 

 

 「おい。私の話がまだ終わってないんだけど」

 

 

 

 

 

 ルイーズは、切り裂きジャックから繰り出される刃、レイピアを摑んでいた。

 「なるほど、『レイピア』の切り裂きジャックか………君、あの館にいたね?」

 (う、動かない!!)

 「さて、スカーレット。この男はこう言ってるけど、君はどうする?」

 「……………あたしは」

 「君が欲しいのは、逃げ場かい?」

 「………違う……でも、例え、間違っていてもあたしをあの時助けてくれたのは、切り裂きジャックなんだ!!そんなワガママ言えない!!」

 「いいさ。君の偶のワガママぐらい聞いてあげるよ。叶えてあげるよ」

 スカーレットの口が震える。

 言ってもいいのだろうか?

 それは、恩を仇で返す、そんな行為ではないだろうか?

 

 

 

 

 「だって、正しく(ヽヽヽ)生きてきた君には、それなりのご褒美が必要だろう?」

 

 

 

 

 

 ルイーズの言葉。

 スカーレットの瞳から再び大粒の涙がこぼれ落ちる。

 「正しくなんかねーよ!!結局、最後の最後は、お前に、お前達に刃を向けた!軍服も盗んだんだ!!」

 「ああ、それは、悪いことだ。それはしっかり私が後で叱ってあげよう。でも、それとこれとはまた別さ」

 そう言いつつもルイーズは、決して先程の言葉を取り消さない。

 「いいのかよ…………あたしの行動は、誰かに媚びを売るためのものだったんだぞ」

 「そう悲観するものでもないさ。君は、確かに正しい行動をしている」

 「何を………根拠に、んなこと」

 「だって、吐くべき嘘を吐かなかったろう?」

 ルイーズは、レイピアを握る力を更に強める。

 「覚えているかい?私が君に襲われた後クラスに戻ってきたときの質問を」

 「…………質問?」

 「『まあまあ、それよりスカーレット、リッパーに動きはあったかい?』って言ったんだ。そしたら、君は、『いいや、何も』と答えた」

 「言った…………でも、それが───」

 どうしたと続く前にルイーズは、言葉をかぶせる。

 「君は、私の質問にこう答えるべきだった。『リッパーならしばらくいなかった』と」

 そう、あの時、ベイカーが確認しなければ、リッパーだけが残っていたのか分からなかったのだ。

 そして、それはスカーレットが知り得ることではない。

 だから何も知らないスカーレットは、アリバイのない最大の容疑者としてリッパーを仕立て上げるようと行動するはずなのだ。

 「正直、私は君はそう答えると思っていた。だから、それようの反論材料を用意していたんだ」

 しかし、スカーレットはリッパーに罪を着せるための嘘をつかなかった。

 「さあ、スカーレット」

 スカーレットの涙は止まらない。

 目の前にある、願い、恋うてきたものが、目の前にあるのだ。

 「でも……………それでも………」

 だが、スカーレットを『恩』が縛り付ける。

 「君のその正しい生き方を学んだ本に、友人を悲しませる事が正しいと書いてあったかい?」

 スカーレットがハッと顔を上げる。

 「私は、君が自分の幸せを願ってくれないと悲しいよ」

 物心ついた時から選んだこの生き方は、今のスカーレットを形作っているものだ。

 「スカーレット。君には願う権利がある、義務がある、そして、私には叶える力がある」

 だから、それに背く生き方を今更選べない。

 「さあ、スカーレット、口にしたまえ。願いも欲望も、そうしなければ叶わない」

 スカーレットは、ギュッと唇を引き結んだ後、口を開く。

 言え、

 叫べ、

 怒鳴れ、

 汚く、

 惨めに、

 みっともなく、

 腹の底から、

 心の底から、

 地の底から、

 

 

 

 己の願いを叩きつけろ!!

 

 

 

 「あたしは、居場所が欲しい!!切り裂きジャックの逃げ場じゃなくて、お前達との居場所が欲しい!!」

 

 

 

 

 

 

 「よしきた!!」

 ルイーズは、レイピアを握る手に力を込め砕いた。

 (こいつ!!この時のためにずっと加減していたのか!!)

 レイピアの切りさきジャックは、舌打ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままルイーズは、レイピアの切り裂きジャックに向かって拳を振り抜いた。

 レイピアの切り裂きジャックは、ルイーズの拳を大きく下がって躱す。

 そして、もう一つのレイピアを懐から取り出し、スカーレットに向かって再び突進した。

 真っ直ぐ向かってくる切り裂きジャック。

 そんな切り裂きジャックを前にルイーズは、獰猛に歯をむく。

 「来たまえ!!アホ弟子!!」

 次の瞬間、扉が蹴り飛ばされ、人影がスカーレットと切り裂きジャックの間に割って入った。

 

 

 

 

 「ナイスタイミング」

 

 

 

 人影───ベイカーは、十手で切り裂きジャックのレイピアを受け止めていた。

 







役者が揃ってまいりました!


ではまた外伝75で
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