教官   作:takoyaki

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外伝76です。


大変遅くなりまして申し訳ありませーーーん!!


てなわけで、どうぞ


「根性論ですか」

 「うぉら!!」

 エラリィは、切り裂きジャックに向かってハンマーを振り下ろそうとする。

 しかし、そんなエラリィなど気にせずクイーンが、切り裂きジャックに向かって突っ込んだ。

 普通の状態なら、ハンマーが当たること可能性を恐れて、そんな無茶はしない。

 だが、今のクイーンは普通ではない。 

 案の定、クイーンは、エラリィの振り下ろそうとする間合いの中に現れた。

 「────!!」

 クイーンに当たるギリギリのところでエラリィは、ハンマーを止めた。

 「敵前で動きを止めるとは、マヌケですね」

 切り裂きジャックは、馬鹿にしたように言うと拳を合わせる。

 「獅子戦哮!!」

 獅子をかたどった闘気が二人に襲いかかる。

 闘気の獅子は二人を机を巻き込みながら吹っ飛ばした。

 轟音と共にホコリが舞う。

 「っつつ、おい、クイーン隊長!冷静なれ!!とにかく、落ちついて─────」

 近くにいるであろうクイーンに語りかける。

 しかし、どこを探してもいない。

 「まさか…………!」

 嫌な予感がして切り裂きジャックの方を見ると、予想通りというか、何というか、既にクイーンは切り裂きジャックと切り結んでいた。

 「くそ!!」

 エラリィは、ハンマーを持つ手に力を込め立ち上がって、走り出した。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 「秋沙雨!」

 繰り出される無数の突き。

 「こんの!!」

 その突きに片っ端からルイーズが、拳をぶつけていく。

 その隙にベイカーが回り込み十手を振るう。

 ルイーズに撃ち込む突きを止め、切り裂きジャックは、床にレイピアを刺す。

 「守護方陣!!」

 「く、」

 「ぐっ、」

 地面で光る陣がベイカーとルイーズを拘束する。

 動きの止まった二人の頬を切り裂きジャックは、殴り付けた。

 二人は、派手に床を転がる。

 「なるほど、受け身を取ったか」

 ルイーズとベイカーは、殴られた瞬間、守護方陣が消えたのを確認し、大きく下がり威力を和らげたのだ。

 (…………くそ、単純に格が違う)

 ベイカーは、口元の血を拭う。

 (おまけに、リリアルオーブ持ち………)

 戦力差があり過ぎる。

 「なあ、あんた………」

 ベイカーの後ろから、聞こえる声に思わず振り返る。

 声の主、スカーレットは自分の手を握り締める。

 「どうして、逃げないんだ?逃げて、応援を呼んだ方が絶対いいだろ」

 「んなこと、お前に言われなくたって分かってるよ」

 ベイカーは、血混じりの唾を吐き捨てる。

 「そして、俺にだって分かってるんだから、教官だって分かってる」

 「だったら、なんで!!」

 我慢しきれなくなったスカーレットの語気が強くなる。

 ベイカーは、分かりきった言葉を聞きながら、黒板にまだ残っている出店用のイラストを見る。

 会議の際、ルイーズの報告は全て聞いていた。

 スカーレットがどんな思いでこの文化祭に挑んでいたか。

 スカーレットがどんな目にあっても頑張ってきたことも。

 知っているし、分かっている。

 

 

 

 

 ─────「いつか、絶対に逃げることが許されない時が来る」────

 

 

 

 

 「今がそのいつか(ヽヽヽ)だからだよ」

 ベイカーは、短くそう答えると十手を握り締め、切り裂きジャックに突き進む。

 「正面突破───じゃあ、ないな」

 正面から向かってくるベイカーとの距離を図った後、脇から出て来たルイーズに向かってレイピアを振るう。

 迫るレイピア。

 「───!!」

 次の瞬間ガクンと、レイピアが止まった。

 切り裂きジャックは、手元を見ると十手とそれに付随する紐が絡みついている。

 眉をひそめ、紐の先を追うと、そこには両手で紐を握すり締め引っ張っているベイカーがいた。

 「っつ、教官!!」

 ルイーズは、走り込んだ勢いを右足に込め床を打ち鳴らす。

 「カウント1!!」

 ルイーズの疑似リリアルオーブが光る。

 許された時間は、1秒。

 その1秒にルイーズは、今のありったけを拳に込める。

 「だあっっらぁ!!」

 その拳を切り裂きジャックの土手っ腹に撃ち込む。

 鈍く、教室に響き渡るその音は、夜の空気を揺らす。

 「────────っ!!」

 胃の中のモノが逆流する。

 思わず意識を失いそうになる切り裂きジャック。

 「っ────がぁっ!!」

 しかし、飛びそうになりそうな意識を何とか捕まえ、そして、自分のレイピアと右手を縛り付けた紐を力の限り引っ張った。

 「っ!」

 半分意識を失いかけているとは、思えない力にベイカーは、じりじりと引っ張られる。

 (耐えろ!!)

 「甘い!!」

 これで決めると言わんばかりの力で切り裂きジャックは、引っ張った。  

 「────!!」

 その力にベイカーは、耐えきれず宙を舞う。

 「ベイカー!!」

 宙を舞ったベイカーは、教室の隅に片付けられていた机をひっくり返しながら落ちた。

 「つ!カウン────」

 再び疑似リリアルオーブを起動させようとするルイーズの口を切り裂きジャックが手が押さえつける。

 そして、床に叩きつけた。

 「にゃろ、!」

 普通なら顔面が血だらけになるような一撃。

 なんとか、ギリギリで受け身を取ったルイーズは、すぐさま起き上がり、戦闘態勢を取る。

 「そこまでだ」

 そんなルイーズの目に飛び込んで来たのは、ベイカーにレイピアを突きつける切り裂きジャックだ。

 ベイカーは、忌々しそうに突きつけられるレイピアを睨み付ける。 

 (一歩で詰める!)

 その光景にも怯まず、切り裂きジャックのところまで一気に距離を詰める。

 傷付けられるより速く動く。

 レイピアがベイカーに突き立てられるより、早く。

 ルイーズの人質の救出は、それに限る。

 

 

 

 

 「それは、もう知っている」

 

 

 

 

 向かって来るルイーズの腹にレイピアの柄をぶつける。

 「ぐっ…………がぁ………」

 自分の突進を利用され、ルイーズの腹からは鈍い痛みが走り、そして、空気が絞り出されていく。

 「刀の切り裂きジャックが潜んでいた洋館の人質の救出も確か似たようなやり方だったな?」

 「……………君、まさか」

 「あぁ。刀の切り裂きジャックから聞いている」

 切り裂きジャックは、そう答えるとルイーズからレイピアの柄をどけ、代わりに膝蹴りを叩き込む。

 「うぐっ…………」

 呻き声を上げるルイーズを切り裂きジャックは、容赦なく、蹴り飛ばした。

 全力で詰めた距離を戻された。

 「教官!!」

 「おっと、動かない方が身のためだ」

 レイピアは、以前ベイカーから外れない。

 「命が惜しいと思うの?」

 「相打ちに出来るとでも思っているのか?」

 ベイカーは、歯を食いしばる。

 そう、先程からルイーズに攻撃してるときでさえベイカー相手に隙を一切見せなかった。

 (ダメだ…………一撃入れるより早く、俺の方が死ぬ!)

 悔しそうにしているベイカーを見て切り裂きジャックは、肩をすくめる。

 そして、先程の蹴り飛ばしたルイーズを見る。

 腹部に柄と膝蹴りをくらっているというのにルイーズは、ゆっくりと立ち上がる。

 そんなルイーズを見て切り裂きジャックは、ひゅう、と口笛を吹く。

 「…………驚いたな。まさか、立つとは。まあ、いい」

 切り裂きジャックは、ルイーズの手袋に視線を向ける。

 「その手袋を捨てろ」

 「………捨てなかったら?」

 「真っ赤なシャワーを浴びたいなら止めないがな?」

 目は笑わず、しかし、声音だけは優しく諭す切り裂きジャック。

 しばらく思案した後、ルイーズは、ゆっくりと手袋に手をかけた。   

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇    

 

 

 

 

 「ハァァアっ!」

 刀とサーベルが火花を散らす。

 二つの刃は、同時に離れた。

 「おい!クイーン隊長!!動きが単調になっているぞ!!冷静になれ!!」

 「剛・魔神剣!!」

 エラリィの言葉には答えず、斬撃が地面を走り切り裂きジャックに向かっていく。

 切り裂きジャックは、それを躰をそらして躱す。

 (今!!)

 躱したばかりでまだ、構えていない切り裂きジャック。

 そんな切り裂きジャックにエラリィは、ハンマーを振るう。

 しかし、その間合いに刀を振りかぶるクイーンが突っ込んできた。

 「────っ!!」

 エラリィは、ギリギリでハンマーを止めた。

 そんなエラリィに切り裂きジャックがサーベルを振るう。

 「────んの!!」

 ハンマーを垂直に立て、サーベルの一撃を防ぐ。 

 鉄同士がぶつかり合い甲高い音が響く。

 一撃を防がれた切り裂きジャックをクイーンが、柄の頭で殴り付ける。

 (態勢を崩した!チャンス!!)

 そう思い再び構え直すエラリィ。

 だが、その瞬間またクイーンが間合いに入ってしまう。

 「~~~~~!邪魔だ!!クイーン隊長!!」

 怒鳴りつけるように言うエラリィ。

 だが、クイーンは、一切エラリィを気遣う素振りを見せず、切り裂きジャックと切り結ぶ。

 (くそ!!頭に血が上ってるせいでさっきから全然、連携がとれない)

 先程からエラリィが振るおうとするハンマーの先にクイーンが、いるのだ。

 一撃を切り裂きジャックに入れられないならまだいい。

 それよりも懸念しているのは、場合によってはクイーンに一撃を入れてしまうかもしれない事だ。

 (くそ、こんな状態では、勝つなんて………不可能(ヽヽヽ)だ)

 エラリィの脳裏にその三文字が浮かんだ瞬間、ドクンと心臓が胸を打つ。

 身体が熱くなる。

 胸が熱くなる。

 (不可能、そうか、不可能なのか!!)

 エラリィの口角が吊り上がる。

 この状況で笑うエラリィに切り裂きジャックは、クイーンの攻撃を受けながら、怪訝そうな目を向ける。

 そんな切り裂きジャックの目を爛爛と輝かせた目で見つめ返すエラリィ。

 「そうか、忘れていた。僕は研究者だ。そして」 

 ハンマーを肩に担ぐ。

 「不可能に挑むのが研究者だ!!」

 切り裂きジャックとクイーンを真っ直ぐに見据え、その闘いに突っ込んだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 「不可能を可能にするには、どうすればいいと思いますか?」

 ふとした瞬間にエラリィは、ルイーズに聞いたことがある。

 ルイーズは、口まで持っていったフルーツ焼きそばをしばらく見つめて皿に戻す。

 「…………あぁ、そっか。忘れてたけど、君、研究者だもんね」

 「なんか、考え込んでるな、と思ったら、そんな事考えてたんですか」

 呆れたように言うエラリィ。

 まあ、ハンマー振り回したり、一人で切り裂きジャックと戦うことになったりと、なかなか研究者とは思えない立ち振る舞いをしている自覚もあるため、あまり強くは言えない。

 「なぜ出来ないかを突き詰め、対策を立てること」

 ルイーズは、指を一本立てそう答えた。

 「出来ない、不可能、無理、こういうものには必ず理由がある。だから、その理由を突き詰め、解決策を導き出さなくちゃいけない」

 「解決策が出なかったら?」

 「それでも改善策ぐらいは出るはずだよ」

 ルイーズは、そう答えると再びフルーツ焼きそばを食べ始めた。

 「まあ、アレだ。後は、諦めないことかな?」

 「根性論ですか」

 「最後に頼るもんなんて、運と根性ぐらいだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







空の青さを知る人よ、見てきました。
もう涙が止まらなかったです。



では、また外伝77で

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