教官   作:takoyaki

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外伝78です!!

寒くなってきましたね!


てなわけで、どうぞ


「ニヤニヤニヤニヤ、気持ち悪いですよ」

 「どこに?」

 不思議そうに首を傾げるスカーレット。

 「後夜祭だよ」

 「は?何で?」

 ルイーズは、背中で咲く花火をチラリと一瞥すると、再びスカーレットに向き直る。

 「後夜祭はね、文化祭を頑張った人への報酬なんだよ」

 少しだけ懐かしそうに答えるルイーズは、更に続ける。

 「君は、文化祭が嫌いだそうだけど───」

 「いや、待てよ。あたしがいつそんなこと言った」

 「君、体育の時間で言ったじゃあないか。『お前も文化祭嫌いなのか?』って」

 スカーレットは、少しだけ嫌そうな顔をする。

 「『お前も』ってことは、誰か他に嫌いな人がいる。とは言え、何だか様子を見てると君に友人はいない。というか、クラスから孤立している。となれば私以外に文化祭が嫌いな人は限られてくるよねぇ?」

 スカーレットは、ルイーズの指摘に大きくため息を吐く。

 自分の小さなわだかまりをさらりと言い当てられスカーレットは、何とも言えない表情になっている。

 ルイーズは、そんなスカーレットを見ながら続ける。

 「何か間違ってたかい?」

 「腹が立つくらい全部当たりだよ。つーか、当たり前だろ。毎年押し付けられてたんだから」

 「まあ、でもだ、それでもだ、行っておいで」

 「んだよ。そうすれば文化祭が好きになるとでも言うつもりか?」

 「まさか。そんな都合良く行くわけないだろう?」

 花火がもう一度上がる。

 「でもね───────」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 「ったく、なんで行かなきゃいけねーんだよ」

 ルイーズへの愚痴をぼやきながら、スカーレットは、夜、すっかり暗くなった校庭への道を歩いていた。

 ルイーズとベイカーは、切り裂きジャックを引き渡さなければならないので、今スカーレットは、一人で向かっている。

 「あの野郎、適当なこといってやがったら────」

 そう悪態を吐く、スカーレットの瞳に後夜祭の光景が飛び込んできた。

 大きなキャンプファイヤーが校庭の中央にあり、その周りを男女が二人一組で踊っている。

 夜、暗くなった校庭を照らす光は、中央のキャンプファイヤーだけ。

 その炎から広がる柔らかい光が、二人一組で踊る男女を照らしていた。

 (すげぇ……………)

 自分のような人間は、あの光の当たるところには入れない。

 それは、とうに自覚している。

 だから、わざわざ出ようとは思わなかった。

 いや、今もルイーズに言われたから来ただけだ。

 

 

 

 

────「後夜祭はね、文化祭を頑張った人への報酬なんだよ」────

 

 

 

 

 

 「なるほど、これは、確かに報酬って言うのがぴったりだ」

 ちょっとだけ、悔しそうに笑いながらスカーレットは、そう溢した。

 自分達に嫌がらせをしてきた生徒会。

 そんな生徒会が作り上げた景色は、見事だ。認めたくはないけれど。

 

 

 

 ────「でもね、この───」─────

 

 

 

 

 ルイーズの言葉に頷きかけたとき、カップルが目にとまった。

 「アレは、確か………」

 日中、スカーレット達の喫茶店に来たリッパーの友人とリッパーの思い人だ。

 

 

 

 

 ─────「よ、夜にやる、キ、キンプファイヤーでけりをつけようと思う」─────

 

 

 

 

 リッパーの言葉が思い出される。

 リッパーは、彼女を踊りに誘うと言っていた。

 だが、リッパーと踊っていないと言うことは、

 (断られたのか…………)

 スカーレットは、思わず拳を握り締める。

 分かっていたことだ、報われないことぐらい。

 今日見た、スカーレットでも分かったのだ。

 リッパー自身が誰よりも分かっていたのだろう。

 だから、『けりをつける』という表現を使っていた。

 (それでも………少しぐらい、奇跡が起こって欲しいと思うだろ………)

 胸が痛む。

 ルイーズに殴られたからではない。

 「っくそ!!」

 スカーレットは、自分のくせっ毛をかき回すと、目の前の光景から目を離し、走り出した。

 (ほっときゃいいんだ。この先、生きてりゃフラれることなんて山のようにある。報われないことなんか、腐るほどある!)

 そんなことより、この光景を瞼に焼き付けておきたい。

 (でも、あたしは、あいつの秘密を知らないとは言え、利用した!!あいつの覚悟を知った上で、『頑張れ』って、応援した!!何より!!)

 スカーレットは、ぎりっと歯を食いしばり、更に足を進める。 

 断られたのなら、教室に帰りそうなものだ。

 しかし、リッパーは、言っていた。

 彼女の好きなのは、彼の友人への笑顔だと。

 ならば、見ているはずだ。でも、灯の当たる場所にはいない。

 離れず、かと言って近すぎないそんな暗闇の中を探す。

 

(私は、あいつの友達(ヽヽ)だ!!ここで走らなくていつ走る!!)

 

 

 

 

 

 「いた」

 

 

 

 校庭の大樹の根元にリッパーは、膝を抱えていた。

 突然現れたスカーレットにリッパーは、目を丸くする。

 よく見ると泣き腫らしたように真っ赤だ。

 「スカーレット……………なんでここに?」

 そう言われてスカーレットは、言葉に詰まる。

 今になってリッパーを心配して探したのが恥ずかしくなってきた。

 「…………転校生に後夜祭見てこいって言われたんだよ」

 「なら、別にここに来なくても」

 「あーもう!うるせぇな!!いいだろ、別に!!」

 スカーレットは、無理矢理誤魔化してリッパーの隣に腰を下ろした。

 リッパーは、少しだけ場所を譲る。

 「………………断られたのか?」

 「………うん」

 リッパーは、静かに頷く。

 

 

 

 

 

──────

 

 

 『…………えっと、踊りに誘う(それ)って、そういう意味だよね?』

 『うん』

 『…………私、彼氏持ちだよ?』

 『分かってる。全部分かってる。だから、せめて、一曲だけ、踊って欲しい』

 『……………出来ないよ』

 『あいつは、それぐらい許してくれるよ』

 『ううん。違うの。誰かに許して貰うとかじゃなくて、私が私を許せないの』

 『……………自分を許せない?』

 

 

 

 

 

 『うん。私は、あの人の恋人で幸せなの。その幸せに応えるには、せめて誠実じゃなくちゃいけない。だから、リッパーのお誘いには乗れないの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 「────ってさ」

 「真っ直ぐな女だな」

 スカーレットの感想にリッパーは、寂しそうに笑う。

 「おまけに告白されたときは戸惑ってたくせに断れる時は、一切戸惑わないってのもスゲぇな」

 「う、うん。やっぱり、彼女は素敵な人だよ」

 そう答えてリッパーは、炎の廻りで踊っている、二人を見る。

 「ぼ、僕なんかの告白を誤魔化しもせず、からかいもせず、真摯に応えてくれた」

 スカーレットもつられるように二人に視線を移し、そして、少しだけリッパーの横顔を盗み見る。

 リッパーは、少しだけ笑っている。

 悲しそうにそれでいて嬉しそうに。

 そんなリッパーの笑顔を見たスカーレットは、大きくため息を吐く。

 「ガラにもねぇこと言うぞ」

 そう前置きをしてスカーレットは、口を開いた。

 「………………あたしはさ、家族に幸せをもらえなかった。学校では、ろくな目にあっていないから学校でも幸せをもらえなかった。もらえないから頑張ってみたけど、幸せを手に入れることも出来なかった」

 スカーレットは、真っ直ぐ前を向いたまま言葉を続ける。

 「人並みの幸せって奴には、とんと縁の無い生活を送ってきた」

 自分より不幸な人は、確かにいるだろう。

 それぐらいスカーレットだって分かっている。 

 じゃあ、自分に人並みの幸せがあったかと聞かれれば首を横に振ってしまう。

 「だから、幸せそうな人は、羨ましいと思ってきた。楽しそうな人は妬ましいと思ってきた」

 そこまで言ってスカーレットは、隣のリッパーの方を見る。

 「でも、お前は、違う。お前は、自分以外の幸せを喜べる素敵な奴だ。だから、『僕なんか』って言うなよ」

 スカーレットの言葉にリッパーは、目を丸くする。

 そこまで言ってスカーレットは、恥ずかしくなったのか、少しだけ不機嫌そうな顔になる。

 「んだよ」

 「………い、いや、もしかして、慰めてくれたの?」

 「んなわけねーだろ…………いや、まあ、それもあるんだけど」

 はっきりとしない事をブツブツと言った後、スカーレットは、立ち上がり手を差し出す。

 差し出された手を見てリッパーは、首をかしげる。

 

 

 

 

 

 

 

 「あたしと踊ってくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 リッパーは、一瞬何を言われているか分からなかった。

 そんなリッパーに構わずスカーレットは、続ける。

 「誰かが幸せそうに笑ってんのを遠目から見るなんてゴメンだ。そんなことするぐらいなら、あたしは、あたしで幸せになってやる」

 「え、えっと」

 戸惑うベイカーとは、対照的にスカーレットの少しだけつり上がった瞳は、揺らがない

 「だから、あたしと踊ってくれよ」

 「そ、それ、僕でいいの?」

 「女同士で踊るわけにいかねーだろ」

 「い、いやだからって、キャンプファイヤーで踊るって、その暗黙の了解で、その告」

 「あーもう!うるせぇな!!深い意味なんかねーよ!!幸せそうな奴を見るのがやだって話だ!!それに」

 スカーレットは、泣き腫らしたベイカーの瞳を改めて見る。

 「後夜祭は、文化祭頑張った奴の報酬なんだよ!!報酬貰うべき奴が、んなツラしてて良いわけねーだろ!!」

 ルイーズからの受け売りをそのまま口にするスカーレット。

 そう、受け売りだ。

 でも、今、その言葉がリッパーの胸にストンと落ちた。

 スカーレットの顔は、夜でも分かるくらい真っ赤になっていた。

 リッパーは、顔を伏せ、そして、差し出されたスカーレットの手を取った。

 「………………い、いいよ」

 手を取られたスカーレットは、更に顔を紅くしながらもニヤリと八重歯を見せて笑う。

 「そう来なくっちゃ!!」

 スカーレットは、リッパーの手を握り返し、キャンプファイヤーの灯りへ走り出した。

 徐々に近付くその灯りにリッパーとスカーレットの体温は上がっていく。

 灯りに照らされる場所まで出ると、ちょうど曲が変わるところだった。

 「今更だけど、お前、踊れる?」

 「い、一応、練習したし………スカーレットは?」

 「それなりには」

 そんな会話をしていると、別の曲が始まった。

 始まったのだが……………

 「おい、テメェ、何で女のステップ踏んでんだ?全然踊れねーんだけど」」

 「え?こ、こう言うのって、男とか女とかあるの?」

 きょとんとした顔で尋ねるリッパーにスカーレットは、困ったようにため息を吐く。

 そして、そんな彼女を見てリッパーが、あわあわとしている。

 戸惑った様子のリッパーを見て、スカーレットは、吹き出してしまった。

 「くくく、いや、いいよ。ちゃんとエスコートしてやる」

 スカーレットは、そう言うとリッパーに合わせて踊り出した。

 先程のギクシャクした動きはどこへやら。

 二人は、軽やかに炎の廻りを踊り出した。

 灯りを背負い、リッパーをエスコートするスカーレットの顔を見て思わず息を呑んだ。

 「……あんだよ?キツイか?」

 リッパーは、首を横に振る。

 

 

 

 「スカーレットって、綺麗だなぁって思って」

 

 

 

 

 

 一瞬、スカーレットは、何を言われているのか分からなかった。

 そして、徐々に理解するにつれて、顔が赤くなっていく。

 スカーレットの顔は、湯気でも出るんじゃないかと、思うほど熱く、赤くなっていた。

 顔の熱を感じながら、今、言われた台詞が頭の中を駆けめぐる。

 (……………アレ?こいつ、今、つっかえずに言った?)

 今まで、ずっと、スカーレット相手には、つっかえながら喋っていた。

 リッパーは、距離の近い相手には、つっかえずに喋る事が出来る。

 だからこそ、スカーレットは、それが不満だった。

 でも、今、確かに普通に喋った。

 「いいのかなぁ、僕なんかがこんな間近で見てて」

 完全に無意識なのだろう。言った本人は、全く気が付いていいない。

 スカーレットは、顔を赤くしながらも頰が緩むのがおさえられない。

 「言ったろ、僕なんかって言うなって」 

 ぐいっとリッパーの手を引っ張り、自分の側に引き寄せる。

 

 

 

 

 

 「まあ、でも、光栄に思えよ」

 

 

 

 

 

 

────「でもね、この文化祭までの日々が忘れられない宝物になるよ」─────

 

 

 

 

 

 ルイーズの言葉を胸にスカーレットは、心の底から楽しそうに踊り続けた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 「いやぁ、青春だねぇ」

 ルイーズは、両頰を両手押さえながらニヤニヤと笑っている。

 「ニヤニヤニヤニヤ、気持ち悪いですよ」

 隣に座っているベイカーは、ぐったりしながらそう返す。

 因みに右手は包帯で固定されていた。

 まあ、銃を暴発させたのにこの程度で済んだのは、ルイーズの手袋のお陰だろう。

 「というか、俺達ここにいていいんですか?後処理とか、ジランドさんへの引継ぎとかやらなくていいんですか?」

 「仕方ないだろう。私がいるだけでいらない諍いが生まれるんだから」

 「あぁ。だから、あの二人がやっているんですね」

 クイーンとエラリィが処理をしているのだ。

 ベイカーは、大きくため息を吐いてキャンプファイヤーの近くで踊るスカーレットとベイカーを見る。

 「『でもね、この文化祭までの日々が忘れられない宝物になるよ』ですか…………」

 「ん?どうしたんだい?」

 「それは、経験談ですか?」

 「まあね」

 「暗黒と言われた学生時代だったくせに?」

 「うるさいなぁ。それでも忘れられない宝物なんだよ」

 ルイーズは、片手で頬杖を突き直すと、目の前に広がる景色に目を向ける。

 「あんなに限られた時間で、限られた予算で、限られた力で頑張って、それでも、ちゃんとご褒美があるなんて、文化祭ぐらいさ」

 ルイーズは、ムンと伸びをする。

 「宝物ような素敵な思い出ってさ、未来に踏み出す力になるんだよ」

 ベイカーは、きゅっと自分の腕を握り締める。

 「少なくとも、私は、そのお陰でここにいる」

 腕を摑んでいた手を放し、ベイカーも目の前の景色に目を向ける。

 「素敵な思い出ですか…………」

 目の前では、男女がそれぞれペアになって踊っている。

 それを見ていたベイカーの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。

 「……………て、あれ?もしかして、踊ったんですか?」

 「踊ったよ~」

 「…………………誰と?」

 「クイーンと」 

 「……………………」

 「彼女、丁度文化祭の最中に別れてて、相手いなくなってたんだよねぇ」

 懐かしむようにいうルイーズにベイカーは、ため息を吐いて頭を押さえる。

 「因みに私は、男のステップも女のステップも出来るよ」

 「それは、自慢できることなんですか?」

 「さてね」

 

 

 

 

 《さあ!!最後だ!!盛り上がって行こうぜ!!》

 

 

 

 

 

 

 キャンプファイヤーに照らされた夜空に生徒のアナウンスが流れる。

 「最後だって」

 「ですね」

 ルイーズは、階段から立ち上がる。

 「こんな格好して、ここで男女二人ってのも不審がられちゃうしね」

 左手を胸の前におき、右手を差し出す。

 「私と踊ってくれないかい?」

 ベイカーは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 本当は、スカートの裾を摑むモノじゃないかとか、

 後処理をしている面々もいるのにそんなことしたら怒られるとか、

 別に今日までなんだから不審に思われてもいいんじゃないかとか、色々言いたいことはあった。

 「一番頑張りましたもんね、ご褒美が欲しいって事でしょう?」

 「流石、察しがいいね。後、それは口にしない方がポイント高いよ」 

 ベイカーは、立ち上がり、ルイーズの手を取る。

 「いいよ。踊りましょう────アイリーン(ヽヽヽヽ)

 これが、今の状況で出来るベイカーの精一杯だ。

 「って、聞いてますか?」

 余りにも反応がないので、ルイーズの顔を改めて見る。

 ポカンとした顔の後、徐々に赤くなっていき、そして、とても嬉しそうな笑顔になった。

 その見たこともない笑顔に今度は、ベイカーの方が固まってしまう。

 「よし!!行こう行こう!!」

 ルイーズは、そう言うとベイカーの手を握り返して、校庭まで走り出した。

 徐々に校庭に向かっていくルイーズの背中を見る。

 

 

 

 

 

 

 (あぁ、これは、良くない。きっと良くない。なんて言うか、まずい)

 少しだけ早鐘を打つ何かを感じながら、ベイカーは内心でため息を吐く。

 少しだけ頰が熱いのは、きっと炎に近付いたからだ。

 多分、勘違いだ。

 きっと、気のせいだ。

 だから、大丈夫。まだ、大丈夫だ。

 「どうしたんだい?」

 「………別に。ただ、ちょっと、己の軽率な言動に後悔しているところです」

 「ふうん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台は、終わり演者達は、踊り出す。

 

 

 

 

 

 学園を照らす炎に見送られながら、ローウェル・ヒュラッセイン学園の文化祭は、幕を閉じた。  

 






もうすっかり文化祭シーズンでもなくなりましたね………反省です。

でも、後悔はないぜ!!


では、また外伝79で( ̄∇ ̄)

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