遅くなりました!
新年ですね!
今年もよろしくお願いします!!
「それは子どものしつけの話です!」
「ねぇ、ニュース見た?」
「見た見た。また、ウチの学園映ったよね」
楽しそうにそれでいて少し興奮しながら喋る二人を見て、スカーレットは、頰杖を突きながらため息を吐く。
どういう根回しをしたのか、スカーレットに関しては一切報道されなかった。
アレだけ鮮烈な日々だった文化祭も終わってしまえば拍子抜けするぐらいいつも通りの日常が戻ってきた。
スカーレットは、チラリと隣の席を見る。
その席には、ルイーズの痕跡は何一つ残っていない。
吹き抜ける風が、スカーレットの髪を揺らす。
「何だか、切り替えられないね」
いや、一つだけ変わったことがある。
「…………リッパー」
スカーレットの机にやって来るクラスメイトが出来たのだ。
スカーレットは、隣にやってきたリッパーに視線を向ける。
リッパーもスカーレットの隣に目を向ける。
ルイーズは、文化祭の後、ローウェル・ヒュラッセイン学園から去ってしまった。
担任が捕まったため、副担任から『親の都合』という理由で転校した。
まあ、スカーレットだけは知っている。
任務完了のため、この学園を去ったのだ。
「来るときと去るときだけ静かだね」
「まあな。マジ、いるときは散々引っかき回してたくせにな」
ルイーズ自身、潜入捜査と言うこともあって猫を被っていたのだ。最初の頃は。
まあ、我慢できずあんなことになったのだが。
「でも、楽しかった」
「……………まあな」
目元を軽く触る。
「そう言えば、スカーレット、名前、呼び損ねちゃったね」
「名前?」
「ほら、アイリーンのことだよ。ずっと『転校生』って呼んでたじゃん」
「あぁ、それな……………」
スカーレットは、引きつり笑いを浮かべる。
本名は、ルイーズであることを知ってた。
だからこそ、呼べなかった。
と言えば格好いいのだが、まあ、用は意地である。
自分は、騙されていないぞという小さな意地だ。
「………まあ、女同士にゃ色んなことがあんだよ」
スカーレットは、肩をすくめてそう返す。
「ふーん?」
そんな事情を知らないリッパーは、首を傾げる。
「あぁ、そう言えば、知ってる?」
「何が?」
「ウチのクラス、客の動員数一位だよ」
「………………まじ?」
「マジマジ」
「つーか、なんで知ってんの?お前?」
「いや、後夜祭で発表されてたよ」
「あー…………あの時か…………」
丁度ルイーズと問答をやっていたときだ。
二人にとっては朗報のはずだが、二人の顔は晴れやかではない。
「スカーレット、分かってるとは思うけど………」
「あぁ、わーってるよ」
教室の扉が開いた。
「生徒会役員です。このクラスの露店の責任者は、どなたですか?」
それまで談笑していたクラスメイトは、ピタリと静まり、スカーレットに視線を向ける。
「貴方達のクラスは、動員数一位なのに、他のクラスより売上金が少ないですよね?隠している売上金を出してください」
生徒会役員、ルイーズと押し問答した役員だ。
「言い方を変えましょう。懐に入れた売上金を出しなさい」
後ろには、スカーレットが無理矢理切り裂きジャックの容疑者にした連中もいる。
『スカーレット、反撃の時だよ』
「────ったく、くだらねぇ置き土産残してきやがったな」
◇◇◇◇
「あーあ、潜入捜査終わってしまったです~」
クイーンは、机に突っ伏しながら嘆いていた。
「何をそんなに悲しがっているんだい?」
「だって!ルイーズ、もうスカートはかなくなったじゃないですか!!」
潜入捜査の終わったルイーズは、制服からいつもの黒スーツ姿に戻っていた。
暑いのか、上着を脱ぎ、Yシャツとズボンというシンプルなスタイルでアイスキャンディーの袋を空ける。
「なんだい?この服不満?」
「いや、似合ってるんですけども!でも、私は、スカート姿が見たいんです~!!」
「うぇ~…………気持ち悪なぁ」
ルイーズは、アイスキャンディーを頬張る。
冷たく、そしてちょっとだけ嘘くさい果物の甘みを堪能していた。
クイーンは、がばっと体を起こして、ルイーズと向き直る。
クイーンの目には、先程のぼやいていた時の気の抜けた様子がない。
確実に問い詰めようという強い意志が
「まあ、それは置いといて、ルイーズ」
「なんだい?」
「何したんですか?」
「どうしたんだい、突然?」
「報告の中にあった事です」
「なんだっけ?」
「スカーレットの作った看板が壊された事です」
ルイーズは、口からアイスキャンディーを放し、シャリシャリと噛み砕く。
「ああ、アレね」
「大人げないルイーズが、それだけのことをされて引き下がるとは思えないんです」
その言葉にルイーズは、目を丸くした後ニヤリと笑う。
「流石、親友。その通り」
◇◇◇◇◇
時間は少しだけ遡る。
「さて、ここまでコケにした生徒会にはそれなりに仕返しをしてやろう!!」
文化祭前にもう一度リッパーのウチに集まったスカーレットとリッパーを前にルイーズは、高らかに宣言した。
「って、具体的には、どうすんだよ」
隣でリッパーも頷いている。
「動員数一位で赤字を出す」
「は?つーか、赤字なんて出たら、あたし達が損するだけじゃねーか」
「何故だい?」
「へ?」
「だって、生徒会が売上金を全部持って行ってしまうんだろう?なら、最初から私達に利益なんてない。そして、原材料費だけ与えられているんだ。損だってしない」
「い、言われてみれば確かに…………」
リッパーが隣で頷いている。
スカーレットは、首を傾げる。
「でも、それが、動員数一位で赤字を出すと生徒会にダメージを与えられることに繫がるんだよ」
スカーレットの質問にルイーズは、文化祭実行委員会の資料を見せる。
「いいかい?文化祭での売上は、全て生徒会に納めなくてはいけない。ここまではいいね?」
「このポイントは二つ。一つは、利益を納めろってところではないこと。
もう一つ、売上金の中には当然原材料費用も含まれているってこと」
「それ、この前も言ってたよな。だから、生徒会は損をしないって。渡した費用もちゃんと徴収出来るって」
スカーレットの言葉にルイーズは、頷き、リッパーを指さす。
「そう。さあ、じゃあ、次だ。リッパー、赤字、赤字と言うけど具体的に赤字ってなんだい?」
「え、えーっと、入ってくるお金より、出て行くお金が多いこと?」
「大正解!!それじゃあ、次、スカーレット。今、私達が文化祭で赤字を出すとどうなるでしょう?」
「どうなるって、赤字になるんだろ?」
「言い方を変えよう。私達が赤字を出すと生徒会は、どうなる?」
ルイーズの言葉にスカーレットは、ハッと息を飲み込む。
「そうか、生徒会は、原材料費用を全部回収できない!」
「そう、生徒会からお達しは『売上金を生徒会に納めること』。どこにも費用を返せとは書いていない。私達がここで赤字を出せばあの子達は、費用を回収できない」
「そうか!!それなら!!」
「ま、待って」
手を叩いて喜ぶスカーレットを止めるようにリッパーが口を挟む。
「た、確かにウチのクラスは、赤字になるかもしれない。でも、他のクラスはウチみたいなことはしないと思う」
「はっきりしねー奴だな。何が言いてーんだよ」
スカーレットの言葉にリッパーは、ギュッと自分の手を握る。
「ウ、ウチの赤字ぐらい他のクラスで補填しちゃうとおもうよ?」
「…………あ!」
スカーレットの上がっていたテンションが凍り付く。
「その通り。だから、私が最初に言ったろう?『
ルイーズの言葉に二人は、ようやく納得がいった。
「利益を出せる他のクラスには、客が流れず、売れば売るほど赤字しか出ない私達のクラスに客が流れる。こうなれば、補填出来る額だって限られてくる」
「全体で赤字は出せなくともこの文化祭の売り上げは、少なくともガクンと落ちるだろうねぇ」
「落ちなかったら?」
「その時は私達の負け」
ルイーズは、あっさりと言う。
「ただ、まあ、それを理由に生徒会が文句言ってきたら、目論見は上手くいくったってことだろうねぇ」
「え?も、文句言われるの?」
ルイーズの不吉な一言にリッパーが縮こまる。
スカーレットも少しだけ心配そうな顔だ。
しかし、ルイーズは、不適な笑みを崩さない。
「そのためのこれだろう?」
ルイーズは、再度文化祭実行委員会の資料を見せた。
◇◇◇◇
「ルイーズ!!」
「人を怒るときは、名前を呼んじゃいけないんだよ。その子が萎縮しちゃう」
「それは子どものしつけの話です!」
「何ですか、朝から騒々しい………」
ベイカーが不満げな顔つきで大広間に降りてくる。
「ベイカー!!ベイカーの担当でしょう!!ルイーズ、どうにかしてくださいよ!」
突然の言いがかりだが、もうベイカーもいい加減察することが出来るようになってきた。
「何ですか、教官また何かやらかしたんですか?」
「おい、人をトラブルメーカーみたいに言うんじゃあない」
「教官以外誰がトラブル作り出すんですか。で、何やったんですか?隊長」
「それが……………」
ひとしきり全ての説明を聞いた瞬間、ベイカーのコメカミが引きつる。
「教官、確か俺に授業しましたよね?潜入捜査の基本は、来ても去っても印象に残らないようにすることって」
「言ったねぇ。というか、よく覚えてたね。いつも寝てたくせに」
「滅茶苦茶残してるじゃないですか!!どうして自分で言ったことも守れないんですか!」
「うるさーーい!!」
今度はエラリィが大広間に入ってきた。
「任務終わりのサンオイルスター一気見タイムをじゃますんな!!ベイカー!!」
不機嫌そうなエラリィが、黒縁眼鏡を直しながら部屋に入ってきた。
ベイカーだけかと思ったら自分以外三人いる。
エラリィは、瞬時に状況を把握するとそのまま出て行こうとした。
「待て待て、逃げないでよ」
「知るか!!教官は、お前とクイーン隊長の担当だろ!!僕を巻き込むな!!」
「ちょっと、何勝手に私まで巻き込んでるんですか!!」
ベイカーとクイーンに腕を摑まれ、大広間に引きずり込まれたエラリィは、ルイーズのやらかしたことを聞かされた。
「……………散々、二人に文句言われたと思うので今更文句なんて言いませんけど、一つ質問です。具体的には、どうやって赤字を出したんですか?」
「簡単だよ。メニューの値段を全部原価割れさせちゃうんだ」
隣で聞いていたベイカーは、首を傾げる。
「そんなことするぐらいなら、壊された看板買い直して経費とした方が良かったんじゃないですか?」
「んなことしたら、ますます、金を隠したと思われちゃうじゃん。何せ、看板の材料は本来かからないもの。そんなものに金を使えば彼らの格好の餌になる」
画架ぐらいの安い値段ならともかく、流石に看板の材料は、それなりの値段になってしまう。
「でも、それ、原価割れした値段を付けたことにも色々言われと思うんですけど?」
クイーンの質問にルイーズは、不適に笑う。
「当然。その点も抜かりないさ」
◇◇◇◇◇◇
「金を懐になんて入れていねーよ。単純にメニューの値段下げただけだ」
クラスメイトが遠巻きに眺める中、スカーレットは、メニューを見せる。
生徒会役員は、目を丸くする。
「な、何ですか、これは!!全部値段が原価割れしているじゃないですか!!」
「まあな」
「こんなこと許されると思っているんですか!!」
「仕方ねーだろ。『値段が高い』ってクレームがきたんだから」
スカーレットは、大きく深呼吸をし、チラリと生徒会役員を盗み見る。
(不満そうだな…………なら)
『ポイントは、相手の負い目を突くこと。クレームが来たと言うだけじゃ弱いなと思ったら、上手に見極めて突きたまえ』
「『パンフレットにも載っていない喫茶店の分際でこの値段はなんだ!!』って、言われちまってなぁ?」
嫌みったらしく、そう告げるスカーレット。
かんに触る言い方だが、言い返せない。
「─────こ、こちらのミスのせいだと言いたいんですか!!我々は、ちゃんと開祭式の時に訂正しました!」
「あぁ。転校生から聞いてるぜ。録音されてるって言われたから訂正したんだよな?」
生徒会の役員は、黙り込む。
「まあ、あたし達も
リッパーは、スカーレットの後ろで頭を下げる。
スカーレットは、出来るだけ自分に非がないという風に虚勢をはる。
「だから、この原価割れした値段で提供し続けたと?」
『大丈夫。私達には絶対の武器がある』
「そういうこと。まあ、でも、文化祭実行委員会の資料にもクレーム対応の方法が書いてなくてさ、困ったんだよ。だから、リッパーを責めねーでくれよ」
スカーレットは、文化祭実行委員会の資料を机から引っ張り出してチラリと見せた。
◇◇◇◇
「なるほど、言いたいことは分かりました」
いつの間にやら席に着いた四人はルイーズの淹れた紅茶を飲んでいた。
もう、これ以上、言うだけ無駄だと悟ったのだろう。
「でも、教官、クレームなんていつあったんですか?」
「ないよ。そんなもの」
質問したベイカーは、さらりと返され硬直してしまった。
「……………んなの、バレるでしょう!!動員数を集計するってことは、生徒会役員がその店にいることになるんですよ!」
「そうですよ、ルイーズ。その店にいるならば、クレームの有無なんて一発ですよ」
「まあね。でも、そこが狙い目さ」
◇◇◇◇
「集計係がそれぞれのクラスに居た、クレームがあったなんて報告受けていませんよ!!」
「他のお客さんにバレねーようにやってたしな」
「そんな言い訳────」
「まあ、あんたらは、ここにいない転校生に脅されて嫌な思いしたから一切報告もせず、助けもしなかったってことも考えられるけどな?」
スカーレットのその挑発的な言い方にその役員は、顔に血を上らせる。
「そんな言いがかり、何を証拠に!!」
「だって、事実あんたらは、助けてくれなかったじゃねーか。おまけに今の様子を見ると知りもしなかったんだろ?」
ひっくり返す。
明らかにスカーレット達が捏造したことだ。
不利なその状況をスカーレットは、ひっくり返してしまった。
(どういうこと…………!私達の方が正しい筈なのに!!)
助けを求めるように後ろのスミス達に視線を向ける。
だが、後ろにいるスミスやジョン、それにハレ、ハーブでは、糾弾出来ない。
何せ参加していないとはいえ、自分のクラスのことなのだ。
だからこそ、この生徒会役員の女生徒が二人を糾弾している。
(あいつ、マジでここまで読んでやがったのかよ)
さて、いらない置き土産の後処理です!
頑張ってねスカーレット!