教官   作:takoyaki

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外伝82です!!
遅くなりました!!


てなわけで、どうぞ


「おい、そのゴミを見るような目やめたまえ」

 「さ、紅茶だよ」

 「あぁ、さんきゅ」

 スカーレットの前にルイーズの淹れた紅茶が置かれる。

 「さて、一から説明してもらうぞ、クイーン隊長」

 「え?私ですか?ルイーズじゃないんですか?」

 エラリィに睨まれたクイーンは、身を震わせながら問い返す。

 「あぁ、今の一言で分かりました。やっぱり、教官が噛んでるんですね」

 「そだよ~」

 能天気に手をひらひらっと振るルイーズ。

 この状況にベイカーのボルテージがマックスに辿り着く。

 「いつもいつもいっっっっつもいってますけど!!今回も言いますよ!!何考えてるんですか!!」

 腹の底から吐き出した言葉にルイーズは、両耳を押さえる。

 「仕方ないだろう?この子、切り裂きジャックに片足突っ込んでるだよ?保護しなきゃ、どうなるか分かったもんじゃあないし…………」

 「建前は分かりました。本音は?」

 「この子の家庭環境が、褒められたものじゃあないから取りあえず保護したかった」

 ルイーズの言葉にベイカーは、うっと、言葉に詰まる。

 「だったら、もう少し準備が欲しかったんですけど!!あんな綱渡りの交渉、もう二度としないですからね!!」

 「それをフラグというんだ」

 「るさいです!!」

 エラリィに掴みかかろうとするクイーン。

 エラリィは、ひらりと躱して、ルイーズの方を見る。

 「それで?教官。『保護したかった』と言っていましたよね?なのに、新しい隊員ってどういうことですか?」

 「よくぞ聞いてくれた!」

 ルイーズは、自慢げに胸の前に手を置く。

 「軍で家庭から保護するってのは、まあ、認められてないんだよ」

 「まあ、ちょっとお門違いですからね」

 「だからこそ、私は、切り裂きジャックから保護って名目でいったわけ」

 「それで上手くいくんですか?」 

 「そこで、クイーンの出番さ」

 話を振られたクイーンは、大きくため息を吐きながら、指を二つ立てる。

 「使った制度は二つ。一つは、推薦制度」

 「推薦?」

 「簡単に言うと実力のある一般人をスカウトする制度です」

 そう言ってクイーンは、推薦書を取り出す。

 「多少渋い顔はされたのですが、まあ、軍としても切り裂きジャックの手がかりですからね。保護する理由があるなら、それに飛びつかざるを得ないって訳です」

 隣で聞いていたベイカーは、推薦書を覗き込む。

 推薦書は、小さな字でびっしりと書き込まれていた。

 「………………これ、隊長が全部書いたんですか?」

 「ルイーズに添削してもらいながらなんとか………」

 ベイカーは、ジトッとした目をルイーズに向ける。

 「自分の言いだしたこと、人にさせて恥ずかしくないんですか?」

 「おい、そのゴミを見るような目やめたまえ」

 ルイーズは、ベイカーから推薦書を奪い取り、指をさす。

 「少なくとも隊長以上でないと、推薦の権限がないの!!だからクイーンでないとダメなんだよ!!」

 「じゃあ、教官が作って隊長の名前で出せば良かったじゃないですか」

 淡々というベイカーに隣で聞いていたエラリィの頰が引きつる。

 「お前、どうしてさらっとそういうこと言ってしまうんだ?」

 クイーンは、呆れながら補足する。

 「書いた推薦書について、隊長は色々と質問されるんです。だから、私が書いた方がいいんですよ」

 クイーンは、紅茶を飲みながらクッキーに手を伸ばす。

 「なるほど、それはわかりました」

 二人の説明を聞いたベイカーは、スカーレットの方を向く。

 「学校はどうするの?そもそも学生は、軍に入れないでしょう?」

 ベイカーの質問に対し、スカーレットは、紙を一枚渡す。

 「…………『卒業証書』?って、はあ?!まだ、十六歳じゃなかった!?」

 目を剥いているベイカーにルイーズが自分を指差す。

 「お忘れかい?飛び級って制度があるんだよ?」

 ルイーズの飛び級も十六歳からだ。

 そんなルイーズとスカーレットを見比べて首を傾げる。

 「教官程、優秀には見えませんけど…………」

 「るせぇな!!自覚してるよ!!」

 スカーレットがつり目を更につり上げながらベイカーに怒鳴る。

 提出物を持ってこなかったりしていた、スカーレットに飛び級(それ)が適用されるとは考えにくい。

 ということは?

 ベイカーは、クイーンに視線を向ける。

 「まだ、何か事情があるんですね?」

 ベイカーの質問にクイーンは、うなずいてテーブルに置いてあるクッキーに手を伸ばし、真っ二つに折る。

 そして、右手にあるクッキーを見せる。

 「スカーレットは、切り裂きジャック相当の実力者。軍としては、何としても欲しい訳です」

 そう言って今度は左手のクッキーを見せる。

 「ただ、スカーレットは、切り裂きジャックと関わりの深い不良生徒。学園としては、何としても手放したいん訳です」

 「なら、退学にさせればいいんじゃないんですか?」

 「ベイカー、どうしてそういうことをさらっと何のためらいもなく言うんですか…………」

 クイーンは、呆れている。

 なんだかんだ言いつつも、ルイーズに大分毒されているようだ。

 「とはいえです。ベイカーの言うようにはいかないんですよ。何せ、その切り裂きジャックが学園長と教師。学園の不祥事を生徒にも負わせるのは流石に世間体が悪い。そんな風に退学させてしまえば、それこそスカーレットからどんな報復があるか分からない」

 切り裂きジャックとしての報復だけでなく、学園の不祥事わを押し付けられて退学させられた、と吹聴されれば、学園の名誉にかかわる。

 「おまけに、スカーレットの家は結構良家だしねぇ」

 ルイーズは、ニヤリと笑う。

 家庭に問題があろうと、いや、だからこそ泥を塗られるのは避けるだろう。

 と言うより、家のネームバリューがある場合は、可能な限り何としても穏便に済ませたい訳だ。

 「そんな訳で、両者の利益が合致したので、『飛び級による卒業』という形を取ったわけです」

 クイーンは、説明し終えると大きな欠伸をした。

 「卒業したあとの先も決まっていれば学園としても飲みやすいしな」

 エラリィの言葉にクイーンは、ぐったりしながらクッキーを二つ口に放り込む。

 「本当に大変だったんですよ。飛び級による卒業が決まっているから、推薦制度を使えるのか?推薦制度が決まっているから飛び級による卒業が使えるのか?その二つを調整するの!!」

 「いやぁ、お疲れ!」

 ポンと肩を叩くとクイーンは、キッと眼光を鋭くしてルイーズの胸ぐらに掴みかかった。

 「誰のせいだと思っているんですか!!アイディア出すだけ出して!一番大変なところ全部私に丸投げして!!」

 「あ、それ!あたしも言いてぇ!!リッパーのおかげでどうにかなったけど、危うく生徒会達に負けるとこだったんだからな!!」

 二人揃ってルイーズに掴みかかり取っ組み合いの喧嘩が始まった。

 「……………賑やかになるな」

 「そうだね」

 二人はそんな三人を見ながら、紅茶飲む。

 (って、うん?)

 ベイカーは、首を傾げる。

 「そういやぁ、リッパーのことはいいの?」

 「は?って、うおおお!!」

 「ぎゃあっ!!」

 ベイカーの質問に気を取られた二人は、ルイーズに近くのソファへ投げ飛ばされた。

 スカーレットは、衝撃に顔をしかめながら起き上がる。

 「…………つつ。いいも悪ぃも仕方ねーだろ。こうでもしねーとあたしは、ここにこれねーし。リッパーは、完全に一般人だから巻き込む訳にはいかねーしよ」

 くせっ毛を手櫛で整えながら、スカーレットはそう答えた。

 「ま、別れはすましてきてある。今更落ち込まねーよ」

 「そっか…………せっかくダンス踊ったのにもったいないね」

 「まあ、それは……………って、ちょっと待て」

 隣で聞いていたルイーズは、顔を押さえてため息を吐く。

 「お前、なんで知ってんだ?」

 「だって見てたし」

 「~~~~~~!!」

 「うわっ!!何すんの!!」

 スカーレットは、顔を真っ赤にして、今度はベイカーに掴みかかった。

 ルイーズは、呆れたように肩をすくめる。

 「ベイカーのデリカシーのなさはヘビー級だよねぇ」

 「ルイーズの一番弟子でしょう?どうにかしてください」

 「えぇ~、うーん」

 ルイーズは、そう言いながらスカーレットを後ろから羽交い締めにしてベイカーから引き離す。

 そんな光景を見ながら、エラリィは、首を傾げる。

 「どうかしたんですか?エラリィ?」

 「いや、なんかスカーレット、ベイカーに対して遠慮がないなと思って」

 「誰よりも余計なこと言ってるからでしょう」

 「………それもそうだな」

 エラリィは、納得する。

 「まあまあ、積もる話もあるだろうけど、取りあえずは、自己紹介したまえ」

 スカーレットは、そう言われるとぶすっとした顔から一応、いつもの顔に戻す。

 

 

 

 

 「そんな訳で、今日からクイーン隊に配属になった、スカーレット・スヴェント(ヽヽヽヽヽ)です。よろしく」 

 

 

 

 

 

 それを聞いた瞬間、エラリィとベイカーは、口に含んでいた紅茶を吹き出した。

 

 

 

 

 「あっぶないなぁ!!私に紅茶かかるところだったよ!!」

 何とかよけたルイーズは、食ってかかる。

 「スヴェント家ってガチ名家じゃないか!軍部にもジランドさんとか親族の人結構いるぞ!!」

 「まあ、おかげでなかなかの後ろ盾を得ることも出来たわけですけど」

 クイーンは、ため息を吐きながらぐったりとした様子で答える。

 「おい、ベイカー!!謝罪は!!ごめんなさいは!!」

 ルイーズがしつこく迫るが当の本人は、固まったままだ。

 そんなベイカーを見て流石のルイーズも眉間にあったしわが消える。

 ベイカーは、ゆっくりと震える指をスカーレットに向ける。

 「スヴェント………スカーレット………スカーレット・スヴェントって、まさか……………!」

 「あぁ、覚えてたのか?それとも思い出したのか?」

 スカーレットは、そう言って不機嫌そうに自分の腰に手を当てる。

 

 

 

 

 

 「そういうこと。あたしは、お前の妹ってことだ」

 

 

 

 

 

 今度はベイカー以外全員紅茶を吹いた。







はい、そんな訳でございます!!
遂に出たぞ!妹キャラ!!
つり目と何度も書いていたので分かる人には、バレていたかも知れませんが…………
まあ、口調はあんなだし、性格も相当面倒くさくて可愛げが少ない子ですが、見守っていただけると幸いです!
ではまた、外伝83で!!

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