セイバーも始まっていますね。
個人的には、ゼロワンの最終回かセイバーの第一話で流れたDX日輪刀のCMが気になります。
「うー………やっと終わった」
ベイカー、エラリィ、スカーレットの三人は、研修を終え、食堂で突っ伏していた。
「お前達、何回直させんだ…………」
ベイカーとスカーレットの書き出した文書が目に余ったため、エラリィが何度も書き直したのだ。
「仕方ねーだろ。あたしは、ちょっと前まで学生だったんだし……」
「俺は……ほら、こういうの苦手だし」
「それで避けられる仕事じゃないだろ」
エラリィの言葉に二人は、バツが悪そうな顔になる。
「やあ。久しぶり」
聞き覚えのある柔らかい声にベイカーは、顔を上げる。
「ジャンさん!」
「元気だった?」
「ちょっと前まで元気だったんですけどね………」
ジャンは、どんよりとした目のベイカーの手元にある研修資料に目を向ける。
「あぁ、今日、文書研修だったんだ」
「そうなんですよ~」
「僕も苦労したよ、これは」
少し懐かしそうにそう頷くジャンにベイカーは、目を輝かせる。
「ほら見ろ!!苦労したのは、俺だけじゃないんだよ!!寧ろお前がおかしいんだ!!」
変な勝ち誇り方をするベイカーにエラリィは、半眼を向ける。
「……………誰?」
そんなエラリィにスカーレットが耳打ちする。
「ジャンさん。教官の元同僚」
「元って、研究所時代の?」
エラリィは、すっと、返してきたスカーレットに目を丸くした後、小さく頷く。
「そっか、前情報を仕入れてたのか」
スカーレットは、ルイーズの殺害を命じられていた。
だから、一般的な経緯は、聞いている。
小さく頷くスカーレットにエラリィが、耳打ちをする。
「事故の事は?」
「一応」
「じゃあ、はめられたかもしれないということは?」
「は?」
そう答えながらスカーレットは、眉をひそめる。
「二人とも、何こそこそ話してるんだよ。挨拶しなよ」
その言い草に微妙に納得出来ないが、二人は頭を下げる。
「えーっと、新入隊員のスカーレットです」
「ああ、君が噂の」
にこやかな笑顔のジャンとは対照的にスカーレットの頰が引きつる。
大分グレーゾーンとはいえ、ギリギリ違法ではない。
積極的には喋りはしないが、それでも軍では、すっかり広まっているようだ。
「相変わらず、無茶ばかりしてるようだね」
「えぇ。まあ………」
エラリィとベイカーは、深いため息を吐く。
「僕で良ければ相談に乗るよ」
「えぇ、また。お願いします」
ベイカーは、そう頭を下げるとエラリィ達にGHIの画面を見せる。
画面に表示された時刻は、帰りの電車の時刻だ。
「それでは、また」
ベイカーは、そう声をかけて軍の本部を後にした。
◇◇◇◇◇◇
「っあ~~~疲れたです」
「何ですか?教官またなんかやったんですか?」
「ちょっと!!今回は、ほとんど私は悪くないんだよ」
「あぁ、少しは教官のせいなんですね」
詰所に戻ってきてそうそう机に突っ伏すクイーンとその前で言い合うベイカーとルイーズ。
「なんかいつもより当たりが強くないかい!?なんで!?」
「くっだらない誤魔化ししてるからに決まってるでしょ!!」
「教官への苦情は後にしろ、ベイカー。話が進まない」
エラリィは、そう言いながら人数分のコーヒーを注ぐ。
「で、クイーン隊長、何があったんだ?」
クイーンは、机に突っ伏したまま口を開く。
「今度、グランツ音楽祭があることは知っているですね?」
ポツリ、ポツリと話し始めるクイーン。
言い合っていた二人もいつの間にやら席に着く。
ルイーズにベイカーは、砂糖とミルクを大量に渡す。
ルイーズは、受け取った砂糖とミルクを躊躇いもせず大量にコーヒーに入れる。
その量にスカーレットは、頰が引きつる。
「その音楽祭にルイーズが出ることになったんです」
「よーし、今回は吹き出さなかったな。成長したねぇ」
代わりに咳き込むベイカーとエラリィ。
「軍部のイメージアップというのが表向きの理由。本当の理由は、」
クイーンは、スカーレットを見る。
「切り裂きジャックをおびき出す囮です」
ベイカーは、眉をひそめる。
「まあ、そんな訳で私は特別手当を要求したんだ」
転んでもただでは起きない女ルイーズ。
「その交渉は、私がしたんですからね」
ただし、人を巻き込む。
「そこは、別に否定しないよ」
ルイーズは、ため息を吐いた後、半眼でクイーンを睨む。
不思議そうな三人にルイーズがクイーンのしでかした事を説明する。
それを否定しない机で突っ伏すクイーンをベイカーとエラリィは、驚いたように目を丸くする。
クイーンは、机に突っ伏したまま続ける。
「別に、ルイーズが特別手当を飲ませるために出した条件が使えそうだったので使っただけです」
ルイーズは、最初から無茶めな要求を三つ並べて、比較的良心的な要求を飲ませようとしていた。
だからこそ、この三つが無茶だということは自覚していたのだ。
「それで、どうなったんですか?」
「技術予算が追加される事になった。ほぼ言い値で」
その回答に三人は、何とも言えない表情になる。
「あたしのリリアルオーブ、返ってこないのか………」
スカーレットは、少しだけ残念そうに呟く。
「いや、途中までは上手く行っていたんだよ。ただ、途中で………ジランドさんが、気付いて…………」
──「交渉は、特に自分の利益を飲ませたい交渉は、相手にもそれなりにメリット、あるいはこちらがデメリットを負う必要があるんです」
「ようは、相手に『こちらにもそれなりにメリットがあるなら』と思ってもらうか、『向こうにもそれなりのデメリットがあるなら』と思ってもらう必要があるんです」
「つまり、相手にいくらかの満足感与えてやるかって話ですか?」──────
ルイーズの脳裏にベイカーとクイーンの会話がよみがえる。
「まさか………クイーン、わざと?」
その言葉と共にクイーンは、顔を上げニヤリといたずらっぽく笑う。
「わざと?」
ベイカーが不思議そうに尋ねる。
「クイーン、君は最初から、ジランドに見抜かれることも織り込み済みで、この予算の追加配当を狙っていたのかい?」
「まあ、ほとんど賭けでしたけどね」
背もたれに背中を預けながらクイーンは、続ける。
「神経を逆なでして、あの交渉をすれば、ジランドさんなら必ず気付いてくれると思ってたんですよ」
あの姑息なリリアルオーブ獲得狙った問答だ。
「誰かに教えてもらえば、まだ疑い続けたかも知れないです。けれども自分で辿り着くとその先まで考えないです。相手に勝った満足感が、それを阻害させる」
クイーンは、コーヒーに口を付ける。
「後は、ルイーズのやったのと同じ手段ですよ。姑息な手段で通そうとした無茶めな要求。それに比べれば予算の追加配当なんて可愛いモノに見えてくる」
自ら辿り着いた結論とそれに気付いた優越感。
そして、それに付随する心理。
「もちろん。これは、ジランドさんが気付いてくれないと成立しないんです」
そう、この交渉は、相手がある程度の優秀でなくてならない。
だからこそ、クイーンは、ジランドが気付いてくれることに賭けたのだ。
「いやぁ、隣の金縁眼鏡の上官が私の要求飲みそうになってヒヤヒヤしたです」
ルイーズからの無茶ぶり。
それをこなし、上官相手に更に別の要求まで通す。
「つくづく、隊長もまともじゃねーな」
「教官の親友がまともなわけないだろ」
「エラリィ、どういう意味ですか?」
「そういう意味だ」
むっとした表情のクイーンにエラリィは、肩をすくめる。
「それより、隊長。どうしてリリアル・オーブを狙わなかったんですか?」
なおも問い詰めようとするクイーンにベイカーが尋ねる。
クイーンは、コーヒーを机に置き、リリアル・オーブを懐から取り出す。
蛍光灯を浴びて輝くリリアル・オーブ。
切り裂きジャックは、全員これを持っている。
「リリアル・オーブが一つ増えたところで残りの三人が丸腰、とまでは言いませんが、リリアルオーブなしで切り裂きジャックと戦うことには変わらないんですよ」
リリアル・オーブが人数分配当されるならともかく、今回の交渉リリアルオーブに絞ってもせいぜい一つが限度だ。
「でも、予算だけあっても…………」
「そう、その通りですが、ウチの隊に至っては少しだけ事情が違うんですよ」
クイーンは、待ってましたとばかりに立ち上がる。
「ルイーズ、疑似リリアル・オーブは、カウント方式をとることで大分使えるようになったそうですね」
「まあね。少なくとも一番最初の頃みたいな吐きながら戦うってことは気をつければ大丈夫だ…………よ」
質問に答えながらルイーズは、クイーンが何を言おうとしているか分かった。
「いや、待った。君、人数分、スカーレット、ベイカー、エラリィの分作れって言うつもりかい?」
「当たり前じゃないですか」
「いやいや、無理だからね。私、その音楽祭で演奏しなくちゃいけないんだよ。君が無茶なことやったせいで相当な難易度の曲が来ると思うから、練習で手一杯だよ」
ルイーズの言葉にクイーンは、肩をすくめる。
「忘れてないですか?ウチには、技師兼研究者がもう一人いるんですよ?」
全員の視線が一斉にエラリィの方を向く。
「まさか、僕が?」
「理解が早いのはエラリィの美徳ですね」
クイーンは、そう言うとルイーズにエメラルドグリーンの瞳を向ける。
「さて。では、ルイーズ。質問です。疑似リリアルオーブの設計図は、あるんですか?」
「あるよ」
「実験の記録は?」
「もちろん」
その言葉を待っていたとばかりにクイーンは、腰に手を当て右手を向ける。
「それでは、隊長命令です」
いつものルイーズに振り回される少し、穏やかな様子はなりを潜め、まごう事なき隊長としての風格が込められた声音に一同は、居住まいを正す。
「その実験に関わる事柄全てを一週間以内にベイカーに引きつぐこと。元々一緒に実験していたんですから、そのぐらいあれば大丈夫でしょう?」
「了解」
ルイーズは、コクリと頷く。
「エラリィ。エラリィは、ルイーズから引き継ぎを受けたのち、疑似リリアル・オーブをスカーレット、ベイカー、エラリィの三人分を制作すること」
「まあまあの無茶ぶりだぞ。分かってるのか?」
顔を引きつらせながらいうエラリィ。
そんなエラリィにクイーンは。意地の悪い笑みを浮かべる。
「あれぇ~?不可能なんですか?出来ないんですか?無理なんですか?」
その言葉にエラリィは、得物を前にした猛獣のような笑みを浮かべる。
「…………上等だ。そのやっすい挑発乗ってやる」
「では、スカーレット、ベイカー、それとエラリィ。三人は、完成した疑似リリアル・オーブを使えるよう訓練すること」
「「はい」」
全員に指示を飛ばした。
クイーンは、コーヒーを一気に飲み干す。
「さあ、グランツ音楽祭!気合い入れて行くですよ!!」
クイーンだって十分変な子です。
では、また外伝90で( ̄∇ ̄)