教官   作:takoyaki

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外伝91です!



はぁー…………今週も四連休がいい……



「お、おう!まあな」

 「これって………!」

 ベイカーは、自分の持たされた封筒の中身に息をのむ。

 「僕にも音楽祭に演奏者として参加する権利が与えられたって事みたいだ」

 ベイカーの父、ピーターは、元ピアノの奏者だ。

 だが、ベイカーを育てるにはやっていけないので、十数年前に辞めている。

 ピーターは、無表情のままGHSを取り出す。

 スリーコール程鳴った後、相手が出る。

 「今、ベイカーから受け取りました…………へ?スピーカーに?分かりました」

 ピーターは、言われるままにスピーカーモードに切り替える。

 『やっほー、無事届けたみたいだねぇ二人とも』

 ピーターのGHSからルイーズの声が飛び出した。

 ピーターは、ため息を吐く。

 「どうして、こんなモノを僕に?」

 『私、実はあなたの作った曲を弾いたことあるんですよ。曲名は《最後の挨拶》です』

 「よくご存じですね。あれは、僕がよく行く店でしか配らなかったはずなんですけど………」

 『ちょっと、奇妙な縁でね。まあ、そんなわけで、一ファンとしては、是非あなたの生演奏を聴きたくなって今回こんな形を取らせて貰いました♪』

 決して穏やかとは言えない心中のピーター。

 そんなピーターに構わずルイーズは、あっけらかんとした様子で喋っているのがスピーカー越しでもよく分かる。

 「自分の欲望に忠実ですね…………」

 『別に貴方にとってもそんなに悪い話ではないでしょう?』

 「弾かなくなって何年経ったと思うんですか?」

 『二ヶ月練習出来るんだから別に問題ないでしょう?』

 「だからって…………」

 『諦めた夢をもう一度見そうで、目覚めが悪くなるのが怖いんですか?』

 「………………いいますね」

 『当然☆それでは、良いお返事を待ってます!』

 言うだけ言うとルイーズは、GHSを切った。

 食卓に沈黙が降りる。

 「あ、あのさ、父さん、断っちゃうの?」

 その沈黙の中、ベイカーがおずおずと口を開く。

 ピーターは、無言のままだ。

 「父さんが俺のために夢を諦めたのは、知ってる」

 ベイカーの言葉にピーターは、少し驚いた後、小さく、そう、と呟く。

 「でも、俺はもう社会に出てる。だから、俺のために夢を諦める必要なんてないんだよ」

 ベイカーにとって、十数年に及ぶこの日々は、本当に重荷だった。

 大切にされるたびに胸が苦しくなった。

 それを終わらせるチャンスがある。

 いや、それは正確ではない。

 少しだけ、足りない想いがある。

 

 

 

 

 「俺…………父さんのピアノを大舞台で聴いてみたい」

 

 

 

 

 

 

 父の事情も一歩踏み出せない理由も全てではないが、幾つかは理解できる。

 でも、そんなものに関係なくベイカーは、聴きたいと思ったのだ。

 叶えた夢で生きている父の姿を見てみたい。

 そんな願いを口にしたベイカーにピーターは、優しそうにそして、面白そうに笑う。

 「分かった、出るよ。二ヶ月もあればどうにかなる」

 ピーターは、そういって深く伸びをする。

 「子ども我が儘を聞いてあげるのが、親の役目だしね」

 「……………流石にもう子どもじゃ………」

 「いくつになっても………それこそおじさんになったって、おじいさんになったって君は僕の子どもだよ」

 にっこりとピーターは、笑ってそう応えた。

 スカーレットだけが、少しだけ渋い顔で二人のやりとりを見ていた。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 「あ~……どうすっかなぁ…………」

 食事と風呂を終えたスカーレットは、案内された寝室で枕に顔を埋めていた。

 使っていない部屋があるからということでベイカーとスカーレットは、別々の部屋で寝ることになったのだ。

 スカーレットにとって先程のベイカーとピーターのやりとりは、羨ましいものだった。

 賭けてもいい。

 自分と両親とではあんなやりとりは、絶対に起きない。

 そう思う反面、ベイカーの言葉を聞く限りベイカーにも苦しい想いを抱えていた事にも察しがつく。

 「……………あ~~………」

 GHSの画面を開く。

 誰かと話したい。

 だが、悲しいかな。

 アドレス帳に登録されているのは、本当に数えられる程しかない。

 「まあ、そうは言ってもルイーズに相談するか………」

 そう思ってアドレス帳からルイーズの名前を選び、通話ボタンに手をかけようとした。

 その瞬間GHSが震えた。

 驚きながら確認した画面に映し出された名前は……

 「リッパー?」

 予想外の名前に戸惑いながら出ようとした瞬間、切れた。

 「………………」

 しばらく待つが、かかってこない。

 スカーレットは、小さく舌打ちをし、何故自分が掛け直さなければいけないのかと、思いながらも掛け直した。

 (スリーコール以内に出なかったらぶっ飛ばしてやる)

 『もしもし』

 「……………」

 ワンコールで出た。

 「テメー、自分から掛けてきておいて、どういうつもりだ」

 『いや、あの…………メールしようと思ったら間違えて電話かけちゃったから急いで切ったんだ………』

 申し訳なさそうなリッパーの声がスピーカーから聞こえる。

 スカーレットは、大きくため息を吐く。

 「そうかよ…………で、なんてメールしようとしたんだ?」

 『その………元気?』

 「そのぐらい電話で言えよ!!」

 『緊張するんだよー!!女子に、異性に電話だよ!メールで済ませたいって思うのが普通でしょ!』

 実は、スカーレットも男子に電話をしているのだ。

 ようやくその事実に気付いたスカーレットは、軽く咳払いをする。

 「別に。社会人ならそんな機会いくらでもあるしな」

 嘘は言っていない。

 業務連絡だって、異性との電話だ。

 ただ、プライベートの電話は別の話だ。

 『へぇー………慣れれば大丈夫なんだね』

 「お、おう!まあな」

 素直に感心しているリッパーに若干罪悪感を感じながら、スカーレットは続ける。

 『で、まだ答えて貰ってないけど、元気?』

 「………………………正直にいうと、少しだけ違う」

 スカーレットは、ベッドの上で胡座をかく。

 別に言うつもりなどなかった。だが、自然とそう答えていた。

 『どうしてって聞いても大丈夫?答えられる?』 

 「…………あぁ。情報は伏せながら話す」

 一般人に言える事は軍の人間として限られる場合がある。

 特にスカーレットは、経緯が経緯だ。更に限られる。

 「…………あたしのせいでよ、迷惑をかけちまった奴がいるんだ。オマケに迷惑かけた原因は、完全にあたしの逆恨み」

 スカーレットは、ため息を吐く。

 『…………………』

 「しかも、あたしは、その逆恨みってのがどんなものなのか言ってない。本来なら隠してたこともちゃんと話して、謝らないといけないってのにな」

 スカーレットは、ぐっと手を握る。

 「でも、それをすると溝が深くなるかもしれない。少なくともあたしだったら、許さない」

 『……………………』

 「溝は深くしたくねーし、かと言って自分の逆恨みが罪悪感となってのしかかってきて、どうしようって感じだ」

 『………………』

 「…………………なんか言えよ」

 『…………え?』

 「『え?』じゃねーよ。ずっと黙ってるだけじゃねーか。テメーから質問しときといて、そんなのいいわけねーだろ」

 『アレ?女の人ってこういう時、アドバイスとかしないで、黙って聞いていて欲しいんじゃないの?』

 アレだけしっかりフラれているくせにどうしてそう言う知識だけはあるんだと、スカーレットは呆れる。

 まあ、その知識の大本は、どう考えでもあのちょっと変わった母親だろう。

 「説教なしのアドバイスが欲しい」

 『…………ワガママだね』

 「女の子のワガママぐらい答えてやる度量を見せろよ、男の子」

 大して期待せずにそんなことを口にするスカーレット。

 『スカーレット』

 スピーカーからスカーレットの名を優しく呼ぶ。

 

 

 

 『どっちを選んでもロクな目に合わないと思ったときはするべきことをやった方がいいよ』 

 

 

 

 

 

 そんな何の期待もしていなかったスカーレットにリッパーがそう答えた。

 『どっちにしろロクな目に合わないなら、せめてするべきことをやっておくと、責任を(ヽヽヽ)果たした(ヽヽヽヽ)いう結果が自分の心をいくらか軽くしてくれるからね』

 リッパーの言葉にスカーレットは、少しだけ言葉に詰まる。

 「…………それ、やろうと思って出来なかったらどうなんだよ」

 『変わんないよ。責任を(ヽヽヽ)果たそう(ヽヽヽヽ)と頑張ったっていうことがいくらか気を紛らわせてくれる』

 スカーレットは、思わず苦笑いを浮かべる。

 「随分、後ろ向きだな………普通は、やりたいことをやれとかいうところじゃねーの?」

 『そのやりたいことだけをやってきた結果が、あの生徒会とクラスメイトなんじゃないの?』

 リッパーの言葉にスカーレットは、きゅっと口を結ぶ。

 あの後、スカーレットは学園を去った。

 だから、何があったかは想像するしかない。

 「なるほどなぁ…………」

 スカーレットは、そう呟きながら考える。

 自分がすべきこと、果たすべき責任、そして、つけなければならないケリ。

 分かっている。分かってはいる。

 だからこそ、踏ん切りがつかなかったのだ。

 『がんばれ、スカーレット、根性見せなよ、スカーレット』

 リッパーの言葉に少しだけ目を丸くするスカーレット。

 『君が一生懸命なのは、僕が誰よりも知ってる。だから、大丈夫だよ。君なら必ずケリを付けられる』

 リッパーのエールにスカーレットは、少しだけ微笑む。

 「…………何処かで聞いたセリフだな」

 『奇遇だね。僕もだよ』

 二人はそう言うとどちらともなく小さく笑い合った。

 

 

 

 

 

 「ありがとな」

 

 

 

 

 スカーレットは、短いその言葉に込められるだけの感謝を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 コンコンとベイカーの部屋をノックする音が響く。

 「はーい」

 返事と同時に扉が勢いよく開かれる。

 そこには、スカーレットが腕を組んで佇んでいた。

 「な、何どうしたの?」

 スカーレットの顔は真剣そのものだ。

 それはそうだろう。

 これから、スカーレットはケリをつけに行くのだ。

 正直に言えば逃げ出したい。

 だが、リッパーにあそこまで背中を押してもらってそんな情けないことを言うわけにいかない。

(よし!!)

 そんな決意と共にスカーレットは、ケリをつけるべく重い口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「……………ちょっとツラかせ」

 「カツアゲ!?」

 






まさかのリッパー登場です。
電話のみですが………
そして、セリフはとある小説から(少し変えてます)


ではまた、外伝92で( ̄∀ ̄)
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