教官   作:takoyaki

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外伝92です


BURN THE WHICHを見ました。

相変わらずあの作者はセンスの塊ですね。


凄く良かったです。


てなわけでどうぞ


「まさかの無茶ぶり」

 「ドヴォールにも公園ってあるんだな」

 「ドヴォールをなんだと思っているんだ」

 二人は、夜の公園に来ていた。

 二人掛けのベンチにそれぞれ一人で座りながらそんなやりとりをする。

 「それで?話って?」

 「んー…………」

 ベイカーの質問にスカーレットは、そう答えながら缶コーヒーを渡す。

 「お前の制服の話」

 スカーレットの回答にベイカーは、プルタブを開ける手を少しだけ止める。

 「何で盗んだか言ってなかっただろ?だから……な………」

 そういって缶コーヒーのプルタブを開けて、一口飲む。

 「言わないとか言ってなかった?」

 「言うつもりなかったんだけどな」

 スカーレットは、そういって一口缶コーヒーをあおる。

 缶から立ち上る湯気を見ながらスカーレットは、何から話せばいいか考える。

 少しだけ流れる沈黙。

 「まず、最初に言っておくんだけどよ、全部あたしの逆恨みなんだ」

 「逆恨み?」

 「ああ。逆恨み。それも割と最低な部類の」

 ベイカーは、その単語に困惑した。

 何せ逆恨みされるほど一緒にいないのだ。

 一体、何処に逆恨みされるほどの接点があったというのだろうと考える。

 「あたしは、さ」

 そんなベイカーに構わずスカーレットは、続ける。

 「家では本当に居場所がないんだ。跡取りは、弟がいるし、何より母親の不倫騒動を幼かったとは言え、それなりに覚えてる」

 一口缶コーヒーをあおる。

 「『お前なんて』なあんて言葉を日常的に両親から聞かされてた。正直、幸せとはほど遠い家庭だった」

 暴力を振るわれたことはなかった。

 だが、それでも居心地のいいところではなかったのだ。

 「学校生活も上手く行かなくてなぁ…………何せ、家がさっき言った調子なんだ。学校だけでもって、気を張ってたんだけどよ…………」

 缶コーヒーを握り締める。

 「嫌われないように、怒られないようにって事ばかり気をつけていたんだけど、まあ、結局、それが気に障ったんだろうなぁ、クラスメイトから嫌われた。というより、半分ぐらいイジメだなぁ………」

 学級長を押し付けられたり、文化祭の出し物の責任全てを押し付けられたりと、少し嫌われているというのでは、収まらない。

 「まあ、そんなわけで、家にも学校にも居場所と言える場所なんて何処にもなくて、とても幸せとは言えなかった」

 そこまで言ってスカーレットは、大きく息を吐き出す。

 「でも、何とか耐えてきた。正確に言えば、二つ心の支えがあった」

 「心の支え?」

 「あぁ。一つは、自分で作った弁当。もう一つは………」

 そこで言葉を切ってベイカーを見る。

 「お前だ」

 「俺?」

 言いたくない。

 こんな事は言いたくない。

 己の一番醜い所を言わなければならないのだ。

 でも、言わなければならない。

 「あたしは、ずっと思っていたんだ」

 背中を押してもらっておいて、それに応えないなど、スカーレットのポリシーが許せない。

 

 

 

 「『あいつは、母親の不倫によって生まれた子ども。そして、母親に捨てられた子ども。あいつに比べればあたしはまだ幸せだ』ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 どんなに辛いことがあっても思ってきた。

 自分は、ちゃんと両親の子どもだ。

 だから、あいつよりマシだ。

 自分は両親に育てて貰った。

 だから、あいつよりマシだ。

 あいつは、親に捨てられた。

 だから、あたしの方がマシだ。

 あいつは、父親に憎まれているに違いない。

 だから、あたしの方がマシだ。

 マシだ、マシだ、マシだ、マシだ、マシだ、

 ……………まだ、幸せだ。

 そう思ってきた。

 自分より下がいる。これ以上の安心感は、ない。

 「…………ずっと、そんな風に思いながら生きてきた………そんな時だよ、お前を見たのは」

 切り裂きジャックの元に入ってすぐだった、ベイカー達を見たのは。

 「……………一目見たときに分かった。あの時の、あたしの兄だって。あたしより、不幸な奴だって。でも、でも、どう見ても違った」

 スカーレットは、ギュッと手を握り締める。

 ベイカーは、クイーンやエラリィ、そしてルイーズに囲まれていた。

 あれを不幸だと言い切るような事などスカーレットには、どう頑張っても出来なかった。

 親に愛されず、周りに愛されず、幸せを貰えなかった自分がするはずのない笑顔で町を歩いている。

 必死に誤魔化していた日々が音を立てて崩れていくのを感じた。

 「それに気が付いた時、我慢できなくなった。だから、お前の制服を盗んで困らせようとした。まあ、つまり、嫌がらせだ」

 たったそれだけのためにスカーレットは、プラートの連中に仕事を依頼し、盗ませた。

 くだらない理由だ。

 策略も陰謀も何もない。

 あるのは、本当に幼稚な悪意と嫉妬と少しだけの羨望だ。

 「……………すまなかった。あたしのくだらない気持ちに付き合わせて」

 ベイカーは、黙ってスカーレットの謝罪を聞いていた。

 「そっか、分かった。いいよ、許してあげる」

 「………いや、それだけかよ」

 「『それだけ』?」

 「もっとあるだろ!!あたしは、お前の制服を盗んだ!」

 「うーん…………別に制服盗まれた事は特に何とも思ってないんだよね。切り裂きジャックが盗んだらどうしようって思ってたから問い詰めただけだし」

 「でも、あたしは、自分を慰めるだけのためにテメーのことを見下していたんだ!!怒ったって、怒鳴ったって、蔑んだっていいんだ!!」

 「つっても、なぁ…………お前からちゃんと聞かされたうえにちゃんと謝られちゃえば、正直、怒るタイミングを逃しちゃうんだよなぁ」

 困ったようにそう言った後、ポンと手を叩く。

 「じゃあ、俺もお前が心の底からキレそうな事を言ってあげる。それでチャラで」

 「は?」

 戸惑うスカーレットに構わずベイカーは、スカーレットの隣に座り直す。

 「俺は、お前が羨んだ幸せが後ろめたい」

 そのセリフにスカーレットは、息をのんだ。

 「ハハハ。凄い顔だ」

 「理由を……………聞かせろ」

 拳を握りしめ、震える声でスカーレットは、問いかける。

 「俺を育てるために父さんは、ピアニストの夢を捨てたんだ」

 ベイカーは、そう言うと俯く。

 「今、この時、この場所で俺が感じている幸せが父さんの夢の犠牲の果てのモノだと思うと後ろめたくて仕方ない」

 「……………お前の父親がそんなこと言ったのか?」

 「いいや。匿名の郵便物に書かれていた」

 眉をひそめるスカーレットにベイカーは、顎に手を当てて考え込む。

 「……………その言い方だと、お前が送ってきた訳じゃないんだね」

 「送らねーよ、そんなもの。そもそも今日この場所を知ったんだぞ」

 「それもそうだね」

 まだ少しだけ温かい缶コーヒーの温度を感じながら、スカーレットは唇を一文字に引き結ぶ。

 ベイカーのこと、

 自分のこと、

 ピーターのこと、

 そして、それら全ての生い立ち。

 スカーレットは、それら全てを飲み込むように残りの缶コーヒーを飲み干した。

 「薄ぼんやりとしか思ってなかったが、決めた!」

 スカーレットは、立ち上がり空になった缶を潰しゴミ箱に向かって全力投球する。

 縁にぶつかり大きく舞い上がり、缶はゴミ箱の中に入った。

 「あたしは、幸せになってやる!誰かの不幸を願わなくてすむくらいの幸せを摑んでやる!」

 言い切ると隣のベイカーを見る。

 「なんかないのかよ?」

 「いや、素敵な夢だと思うよ?」

 「ちげえよ。なんか宣言しろよ」

 「まさかの無茶ぶり」

 ベイカーは、頰を引きつらせながら立ち上がる。

 「んじゃあ、俺は」

 そういってコーヒー飲み干し、缶を潰す。

 「強くなる!!」

 そういって缶コーヒーをゴミ箱に向かって投げた。

 金属同士がぶつかり合う音と共に缶はゴミ箱の外に落ちた。

 「……………ダセェ」

 「お前、無茶ぶりしといてそりゃないでしょ」

 ベイカーは、ぶつくさと言いながら缶を拾いゴミ箱に入れた。

 ゴミ箱に捨てるとベイカーは、スカーレットの方を振り返る。

 「まあ、夜も更けてきたしそろそろ戻ろうよ」

 「…………そうだな」

 スカーレットは、そう答えるとベイカーの隣を歩く。

 十数年越しの兄妹の背中を街の光が静かに照らしていた。

 

 

 








スカーレットの宣言が叶う日を夢見て!
ではまた、外伝93で
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