Fate/trinity chalice -The Fictitious Hero-   作:琴浪新(水)

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英霊召喚の一歩手前まで。
他のルートと同じ文章ですので読まれた方は飛ばしてください。


prologue 召喚の儀 1

「忘れ無い、忘れないよ」

 暗い部屋の片隅で青年は呟く。

 青年はその部屋で灯りもつけずに安楽椅子に座って天井を見上げていた。

 部屋に窓はない。

 外の灯りも入ら無い。

 この部屋と外を繋ぐのは僅かに聞こえる風の音と波の音だけだ。

「もうすぐ約束を果たせる。もうすぐ君のもとに行けるよ」

 彼は右手で一通の黒い封筒を持っていた。

 既に封は切られており、中の手紙は灰皿で燃えている。

 灰皿はこの部屋についているだけであって、彼自身は喫煙者ではない。

「この手が魔法に届くまであと一歩だ。でも、最近怖いんだよ。あの時の君の気持ちがよく分かる」

 青年の手は少し震えていた。

 彼を慰めるように部屋は揺れる。

「あと一歩が踏み出せないんだ。けど、ウジウジするのはこれでもう終わりだ。戦争、いや大戦が始まってしまえば僕も魔術を使わざるを得ない。そうすれば君のもとまで走って行ける」

 そして青年は椅子から立ち上がった。

 傍の机の上では手紙が燃え尽きようとしている。

 そして、その微かな灯りに照らされた机上には黒く細長いアタッシュケースが置かれている。

 青年は最後の躊躇いを振り切ってそのケースの鍵に手をかけた。

 全て四を指す十二ものダイヤルをそれぞれ悩む風なくに合わせていく。

 机の引き出しを開けて中から金色の鍵を取り出し、重ねてかけられた南京錠を解く。

 そしてケースを持ち上げると部屋の中央まで歩いた。

 青年は呟く。

「『継ぐ四つは姿を消した』か、上手く言ったものだ……。存在するが誰も知り得ない魔法。なんてったってこんな魔法を目指してしまったんだろう……。もっといいのが他にあっただろうに」

 問いの答えは常に彼の中にあった。

 今更迷うことでもないのだ。

 彼にはそれが最適で、他の方法は取れなかっただけなのだから。

 青年は部屋の中央よりやや手前側の方に置かれている小さな台にケースを置き、机の方へ戻って引き出しからリモコンを取り出す。

 そして天井の方にリモコンを向けてボタンを押す。

 暗い部屋に赤い光が灯った。

 灰皿の火はほぼつきかけている。

 赤い光は始めぼやけていたが、青年がリモコンを操作するたびに鮮明な文様へと近づいていく。

 そして、十回ほどボタンが押された時、その赤光は木製の床に見事な魔法陣を描いていた。

 そして青年は再び机に戻りリモコンを机の上に置いて代わりに灰皿を取り上げた。

 そしてその中身を放る。

 灰が舞う。

 灰は宙に舞って光を薄く遮り、空中に光のラインを浮かび上がらせる。

 そして最後にほんの少し残った火が床に落下した。

 途端に床が炎上する。

 光に示されたラインの上を……。

 青年はケースの側まで戻ってケースを開いた。

 床を燃やす炎の光に負けないほどの金色の輝きがケースの中から迸る。

 その光の中心に在るのは一振りの直剣。

 黄金色に輝き、荘厳な装飾を施された鞘は千年以上のも間海底にあったとは思えない輝きを放っている。

 青年はその剣を左手に取りその手を真っ直ぐ前に突き出した。

 剣を握る青年の左手の内側からは眩い光が放射している。

 それでも、その手にはその光を通さない部分があった。

 手の甲に刻まれた血のような赤色(クリムゾンレッド)の文様、令呪である。

 それは魔法の行使をも可能とする絶対命令権。

 それは消え去ったはずの戦争の参加者の印。

 それは聖杯を求め、英霊の現し身を駆る者の証。

 それは、今、このマンハッタンの地新たな聖杯が出現したことを意味する。

 青年はその令呪を持ってこの戦いに挑む魔術師の一人なのである。

 振り子時計から響いた音が十二時を告げる。

「始めよう」

 青年は宣言する。

 儀式の開始を、大戦への参加を……。

 

 




英霊の名前がここでわかった人は僕のヘボさを笑ってください……。
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