Fate/trinity chalice -The Fictitious Hero- 作:琴浪新(水)
その男は歩いている。
空虚な瞳に嵐の海と、その嵐の海にたった一隻で翻弄されている木造帆船を見ている男が……。
彼は魔術師、それもかなり特殊な魔術師だ。
魔法に最も近い魔術と呼ばれる魔術「固有結界」を持つフリーの魔術師。
彼は数年前に命を救われた青年に力を貸している。
彼には最初から目的なんてものはなかった。
ただただ義務だけがあったのだ。
彼はそのために今も街を彷徨している。
青年の指示で……。
彼の手に令呪はない。
そして今、彼は新たな英霊の現界を確認した。
彼が見つめているのは遠くのビルの最上階のオフィスだった……。
高い、高いビルの最上階で部下を帰らせた男は自身の右手に刻まれた文様を眺めていた。
紅い痣のようなその文様が彼の手に現れたのは二週間ほど前。
彼は慌てて医者に行ったが原因不明でどうしようもなかった。
彼は動揺した。
たかが痣、と周りには言われたが、彼は自分がどういう人間か知っているがために恐れた。
彼はとてつもなく幸運なのだ。
それはもう、天文学的な数字レベルの確率の幸運をいともたやすく引き当てる程に……。
彼は生まれてからただの一度も病気や風邪になったことはなかったし、怪我をしたことさえなかった。
青年はそんな自分の人生に飽きていた。
何をしても上手くいく。
ほんの少しの失敗も敗北も起こらないという自分の人生に。
そう、彼は病気にかかったことがないためにいきなりできた痣を恐れたのではなく、その痣に感謝したのだ。
喜びに震えて動揺したのだ。
そうして彼は自分に呪いをかけた両親の遺した書籍を読み漁った。
彼が魔術師であった両親から魔術を継承するのはこれで十分だった。
何故なら、彼がすることはすべて成功が約束されているから。
魔術師の両親が彼に遺した呪いとは、即ち「祝福」であった。
両親が手を抜かず完全な「祝福」を彼に遺してしまったがために、彼は異常なほどまでの幸運に愛されてしまっているのだった。
そして男は聖杯戦争に行き着く。
令呪を宿した右手を眺めて男は満足げにつぶやく。
「強い魔術師に英霊、これだけ揃えば流石に『祝福』も私を生かすことはできないだろう。
これならもしかしたら……」
魔術師になって一週間にもならない男は笑う。
そして魔術書の通りに詠唱する。
「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公、祖には我を呪いし我が両親
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で
王国に至る三叉路は循環せよ
繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する
----------
-------告げる
-----告げる
汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば答えよ
誓いを此処に、我は常世総ての善となる者、我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ…………‼︎‼︎‼︎‼︎」
ごく普通より少し豪華な社長室に魔術的な光が満ちる。
あまりの眩さに目を細めた男が再び目を開いたとき、それは彼の前に顕現していた。
サーヴァントというには強そうには見えない。
その体も細く、四肢にも常人を大きく上回る筋肉は見えない。
マスターである男、アラン・ウィリアム自身とよく似た髪型ので同色の金髪の男が彼の前に立っている。
彼には肉体的な威圧感が全く無い代わりに圧倒的なまでの魅力があった。
アランは社長をしていることもあり他人を引きつける力も持っていると自負していたが、目の前の男はそういった次元を超えている、と思った。
彼の眼前の男の放つ集団のトップとしての魅力、カリスマ性は異常だった。
彼ならばこのマンハッタンの会社を一声かけるだけで統合できるかもしれない、とアランはどうでもいいことを考え惚けていた。
金髪の英霊はしばらく手を握ってみたりオフィスの窓で自身の姿を確認したりして自分の体を堪能するように自身の体を眺めている。
そして、アランの方に向き直って問う。
「君がオレのマスターか?」
紐育アーチャーと同じくFGOではデビューしている彼ですが、アーチャーと違ってカードにはなってません。
能力とかはオリジナル。
て言っても想像つきそうなものですが……。