Fate/trinity chalice -The Fictitious Hero- 作:琴浪新(水)
バーサーカーって二次創作で扱いづらいですよね?
そう思いませんか?
そんなわけで今回の大戦に参加するバーサーカーは変則的な奴らが多いです。
STAYNIGHTのように完全に喋れないバーサーカーって少ないですよね?
ストレンジフェイクのジャックしかり
プロトタイプ過去編のジギルしかり
やっぱり喋れない英霊ってストーリー展開しづらいですし……。
ではNYのバーサーカーは……
嵐の瞳の男はそのまま通りを歩き続けて、一際高いビルの下までやってきた。
エンパイアステートビル。
マンハッタンの象徴的な建物であり、かつて世界で最も高い建造物だったビル。
彼の友人のマスターに届いた「王女」なる者からの手紙には聖杯大戦の概要とそのルールが記されていた。
彼はそれに従うべく男をここに行くように指示したのだ。
「王女」に指定されたニューヨークに現れた聖杯に選ばれたマスター達の集合場所はここ、マンハッタンのエンパイアステートビルだったのだ。
時間は午後十一時過ぎ、しかしここに観光客の姿はない。
ビルの営業時間は午前八時から午前二時なので通常ならば多くの観光客がいるはずなのだが、今日ばかりはガラガラだった。
ビル全体を対象とした人払いの結界が張られているためだ。
どうやら、ニューヨークの聖杯に選ばれたマスター達を呼び出した「王女」とやらは魔術の腕もなかなかのもなようだった。
男はビルに入りエレベーターのボタンを押そうとする。
しかし、彼が押す前に下から伸びてきた手にボタンが押された。
男が下を見下ろすと彼の肩くらいの身長の女の子が立っていた。
彼女の傍には車椅子に座った青髪の美人がいる。
男はその車椅子の女性に見入っていた。
不思議と視線が外せなくなる。
『自我を強く持て』
と、そんな声が彼の心の中から響いた。
それは彼をここに来させた友人の声だった。
それで男は正気を取り戻す。
目の前の女性を見てももう惑うことはない。
その車椅子の女性はおそらくは魔眼持ちなのだろう。
精神に重大な欠落を抱えている男を魅了するなど、よほど強い暗示が必要だ。
漂っている妖気から察するに半妖なのかもしれない。
人と人ならざるモノとの混血は特異な力を持つと男は仲間の特性から知っていた。
それにしても偶然にこの時間に高校生と思しき女の子がこの場所にいるとは考え難い。
男が彼女に魔術について質問するか思案していると、その女の子の方から男に話しかけてきた。
「おじさん。あなたマスターですか?」
急な質問ではあったが男は慌てずに答える。
そもそも、この男の感情を引き出すことはそうそうできることではないだろう。
なにせ、感情を生み出す心が塗りつぶされてしまっているのだから。
「いや、私はマスターではないよ。
その協力者というのが正しいな。
マスター権を持っているのは私の友人でね、私は彼をここまで連れてくる役割なのさ」
尤も、少女の方も別段驚かせてやろうとして放った言葉ではなかったようだったが。
万が一、男が一般人だった時のことは考えなかったのだろうか、と男は思った。
少女としては、もし男が大戦の関係者でなければ記憶を奪うだけだったのだが……。
「お嬢ちゃんは幾つなんだい?
見た所十六くらいに見えるけど」
「十七よ」
「失礼。
では尋ねるが、傍のその美人さんはあなたの仲間か?
それとも別のマスターか?」
ぶっきらぼうに自身の年齢を明かした少女は代わりに男の年齢を尋ねたりはしなかった。
車椅子の女性は男の質問を聞いてクックック、と忍笑いをした。
「気になるなら私に聞けばいいだろう?
それとも大人の女性と話すのは苦手かな? セイバーのマスターの友人とやら」
その言葉を聞いて男の女性に対する警戒度は一気に引き上げられた。
彼の仲間の動向はほぼ完璧に秘匿していたはずだった。
そもそも、彼らの動向を掴むには男の中を見なくてはならない。
そんなことが可能な人物などこの世に存在するかどうかも怪しい。
それほどに彼らの隠れ蓑は完璧なのだ。
にもかかわらず、目の前の女性は彼をセイバーのマスターの友人と言った。
つまりは彼の友人が召喚した英霊のことを知られている可能性があるということに他ならない。
「どうして、どうしてそれを知っている?」
それでも男の顔に動揺はなかった。
ただ、彼の顔には隠しきれない賞賛と興味の色が浮かんでいた。
尤も、男は感嘆を隠そうとしていなかったが……。
「なに、簡単なことさ。
君たち以外のすべてのマスターの動向とサーヴァントのクラスを調べることができたからね、結果として君の友人のサーヴァントのクラスもわかっただけだよ。
安心してくれ、真名の見当はおろか、姿すら見ていないから。
あと、私の正体については君の予想の通りだ。
私はナタリア、彼女、ウェンディの魔術の師にして、その後見人でもある。
念のために見せておくが、私は令呪など待ってはいないよ」
そう言って青髪の女性、ナタリアは車椅子の車輪から両手を持ち上げてその甲を男の方に向けてきた。
「なるほど、あなたの腕が良いのか、他のマスターが間抜けなのかはまだ測りかねますが、一本取られたようだ。
あなたの立ち位置については理解した。
私と同じ、といったところですね」
「おや? ナンパかな?」
男は無言でその言葉を無視した。
ナタリアは苦笑する。
「付き合いがいいのか悪いのか、不思議な男だな」
やはり男は答えなかった。
エレベーターが到着する。
三人はそのエレベーターに乗り込んだ。
そして扉が閉じる。
少女が代表して最上階の百二階のボタンを押す。
三人の体に一瞬過剰なGがかかった。
そして、エレベーターの中に乗っている人間が四人になっていた。
「フィフス・ブレス・カース」
第四の影はそう呟いて手にした短剣を男の脇腹に突き立てた。
その影は幼い少年。
緑の葉を重ねてできた服を身にまとい。
見ているこちらが苦しくなるような過呼吸を繰り返す。
否、男は刺された傷から何かが体に侵食していくのを感じた。
呪い。
少年が五度呼吸するごとにその呪いは広がり男を蝕んでいく。
薄れゆく意識の中で男は少女、ウェンディの影から現れたその少年を見つめる。
男はロビンフッドという英雄をそのまま子供にしたらこのような子供になるのではないか、と何の脈絡もことを考えたまま意識を閉ざした。
「もう大丈夫よ、ピーター」
ウェンディはそう言って少年の肩を叩いた。
狂ったように過呼吸を繰り返していた少年はそれで落ち着いたように深呼吸した。
しかし、その目に宿った狂気は全く薄れていなかった。
バーサーカー。
その少年はただでさえ歪な心を持っていたが、それが狂化によって一層加速していた。
「ウェンディお姉ちゃん? 大人は皆殺しだよね?
コレはまだ死んでないんじゃない?」
少年は無邪気に、その目を狂気に曇らせて少女を見上げる。
「ええ、でもソレはじきに死ぬわ。
あなたの呪いは大人には効果覿面ですもんね」
「エヘヘ。すごいでしょう!
もちろん
これから大人をいっぱい殺したら一緒に僕の国で暮らすんだもんね!」
「ええ、だからピーター。少しの間頑張ってね」
「うん。僕は大人を殺すくらいお姉ちゃんに言われなくてもやるよ!」
少年はそう言って笑う。
無邪気に、暗く、暗く。
それを見て少女は笑う。
邪悪に、暗く、暗く。
ただ、ナタリアだけが悲しそうにその光景を一歩引いて眺めていた。
バーサーカーでした。
後編に続きます。