とある過去の未元物質《ダークマター》多分 一時凍結   作:吉田さん

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導入部分なので短めです。
思った通りに書けないのはスランプなのでしょうかね……。


終章 虚数学区 Dark_Matter.
九話


「……どれだけ暗い世界にいようが、必ずそこから連れ戻す、だと……」

 

 血の色に染まった世界の中。彼は起き上がるべく全身に力を入れる。

 身体が軋んで悲鳴をあげるが、そんな事を気にする余裕はなかった。

 気にすることなど、できなかった。

 その言葉は、その言葉だけは、断じて認めることが出来なかった。

 

「ふざ、けんなよ……」

 

 そしてその言葉で、そんなもので自分の手を止めた一方通行(アクセラレータ)も、彼は認めることができない。

 全てが、全てが邪魔だった。

 この不条理な世界の全てが、憎かった。

 

「出来る訳ねぇだろうが!!」

 

 吼える。

 

「これが俺たちの世界だ!!」

 

 感情のままに、理性を解き放って、獣のように彼は吼える。

 

「闇と絶望が全てを呑み込むクソみてえな世界だ!!」

 

 整合性の取れない。支離滅裂な言葉だった。

 

「結局テメェは俺と同じだ! 誰も守れやしない!!」

 

 八つ当たりでしかないことを理解する思考すら放棄して、怒りと悪意だけが先行して、彼は無自覚に言葉の暴力を振るう。

 言葉の刃が、目の前の男を叩き潰す。

 

「これからもたくさんの人が死ぬ! 俺みたいなやつに殺される!」

 

 そしてゆっくりと、彼は身体を引きずりながら目的の場所へと歩む。

 即ち血の海に沈む黄泉川愛穂の元へと。

 そして―――

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ツバメという鳥は、神話においてある役割を担っていたとされている。

 

 世界には、神々の住まう世界と人間達の住まう世界が存在する。

 これらは全く異なるものだが、しかし交差していた時代も確かに存在したのだ。

 そしてその影響は、現在でも宗教あるいは神話として、フィルターを通して根付いている。

 

 例えば、ギリシャ神話のオリンポス。

 例えば、北欧神話のアースガルズ。

 例えば、

 例えば、

 例えば、

 例えば―――学園都市の虚数学区・五行機関。

 

 繰り返すがこうした神々の世界と、人間達の住まう世界は異なる。

 

 そしてこれらを、ある道に携わる者達はこう定義していた。

 

 ―――『位相』。

 

 即ち、現実世界に影響を及ぼす異世界。

 本来ならばこれら位相と現実世界は交わることなどないのだが、何事にも例外は存在する。

 

 そんな例外のひとつが―――ツバメという鳥だった。

 ツバメという鳥は、現実世界の異世界を行き来できる神秘的な存在とされていた。

 つまり、ツバメは学園都市風に言うならば『神ならざる身にて、天上の意思に至る』その可能性を秘めているのだ。

 

 世迷言だと、余人は嘲笑うだろう。

 だが、とある『人間』はこれに着目した。

 あらゆる事態を想定し、あらゆる事態に対応できるよう幾つもの計画を並列に進行させる『人間』は、僅かであろうと可能性が存在するならばと。

 それを切り捨てる事なく掬い上げたのだ。

 

 

 

―――科学(虚数学区)魔術(ツバメ)が交差するとき、物語は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 あれから時は流れ、かつては小学生だった少年もついには中学の終わりを迎える時期が近づいていた。

 

 時間が経つのは早いものだ、などと少年―――垣根帝督は薄く笑いながら校舎を出た、

 

(あっという間だったなあ)

 

 制服を軽く着崩して、正門前に設置されているベンチに腰掛ける。

 そうして懐から携帯電話を取り出すと、電話帳から『長谷川燕』の名前を選択し、コールを鳴らした。

 

「……」

 

 電子音がしてから暫く、垣根の耳朶を少女の優しい声音が叩く。

 

「おーっす燕ー。久しぶりだな」

 

『お久しぶりです! ていとくんっ!』

 

 まだ『ていとくん』か、と思わず呆れながらも悪い気はしない。

 むしろこの少女はこうでなくては、と思っている自分がいる。

 小学校卒業後、燕と垣根は別々の中学に入学した。

 垣根はコミュニケーション能力もとい社会適合スキルを磨くために、燕は自身の能力を向上させるために。

 彼らは自分たちのことを考えて、敢えて異なる中学に入学したのだ。

 勿論その後も度々会ってはいたのたが、この一年は高校受験のこともあって疎遠になっていた。主に燕が頭を抱える的な問題で。

 一度垣根が教えようと提案したのだが、燕に断られて割と本気でヘコんだのは余談である。

 

「んで、受験はどうだったんだ?」

 

 今日は学園都市において、高校の合格通知が届く日である。

 今日垣根が久しぶりに燕と連絡を取ったのも、その事について尋ねたいからだったのだが。

 

『……え?』

 

 燕の口から告げられるは、想定外ですといった風な言葉。

 これには思わず、笑いながら尋ねた垣根の口も閉ざされる。

 

(……まさか、落ちたのか?)

 

 たらり、と冷や汗が額を伝った。

 

 万が一燕が不合格で、触れて欲しくない部分だったとして、それをダイレクトに尋ねた自分は果たしてどれだけ畜生なのだろうか。

 ていうかそもそも、その手の話題を振るのはNGなのではないのだろうか。

 中学三年間で培ったと自負していたコミュニケーション能力は一体なんだったのか、と垣根は天を仰いだ。

 所詮、コミュ障はどこまでいってもコミュ障なのだろうか。

 

『えっと……合格発表はまだなのでは?』

 

 燕の心を傷つけた以上、俺は自決も辞さない―――という仰々しい覚悟を決めかけていた垣根であったが、続けて告げられた言葉になんとか復活する。

 

「……いや、今日が合格通知の届く日じゃねえのか? なんか特殊な学校だったりすんの?」

 

 霧ヶ丘女学院あたりなら、他の学校と日程をずらしててもまあおかしくはねえのか? なんてぼんやり考えていると。

 電話の向こう側から、慌ただしい物音が聞こえ始める。

 

(―――ああ、これ今日が発表だって忘れてただけだな)

 

 電話の向こう側の様子が、鮮明に脳裏に浮かぶ。

 多分今頃転びながら学生寮のドアを開け、ポストに猛ダッシュしているところだろう。

 かくして燕の口から再び言葉が発せられた時。その結果に垣根は心の底から安堵し、そして喜んだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 第七学区のファミレスのテーブルのひとつで、垣根は頬杖を付きながら目の前の光景に唖然としていた。

 

「いやお前、お子様ランチって……」

 

 垣根の言葉通り。

 彼の眼前に広がるのは旗の立ったオムライスを中心に添えたお子様ランチと、それを美味しそうに頬張る少女の姿だった。

 垣根は勿論目の前の少女も、あと二ヶ月もすれば華の高校生になる。

 子供というよりかは大人に近い年齢になるというのに、お子様ランチは如何なものなのだろうか?

 目の前の少女の事となると寛容になる垣根でさえ、疑問に思わずにはいられない。

 対して、垣根の目の前の席に着いている少女。即ちお子様ランチを食している本人である長谷川燕は、不思議そうな顔で言う。

 

「……? 中学生はセーフって書いてますよ?」

 

「いや、まあ、そうだが……」

 

 歯切れ悪く肯定する垣根に、ますます不思議そうな瞳をする燕。

 疑いようもなく、彼女は純真無垢な瞳をしていた。

 そしてそんな燕の瞳を真正面から見た垣根は思わず戦慄する。

 この少女は、未だに穢れを知らぬ純白の天使だと言うのか。そんな奇跡の存在がこの世の中にいていいのか。こんな腐りきった世界にこのような天然記念物がいるなどそれはこの身を賭してでも守らなければならない―――などと思考がズレ始める。

 

「……まあ、いっか」

 

 本人が幸せそうにお子様ランチを食しているのだ、偏見で諌めようなど無粋である。

 自分のように中二病になっていないだけ全然マシなのだ。うん。きっと。

 

『―――ていとくん。流石に毎日三食コーヒーは体に悪いですよ?』

 

 あの一過性の悪夢に終止符を打った燕のセリフは、今でも鮮明に思い出せる。

 同時にどこぞの白髪の少年が吐血した光景が何故か目に浮かんだが、まあ気のせいだろうと捨て置く。

 

「にしても、まさか燕が長点上機学園か」

 

 まさか自分と同じ学園に進学するとは、正直かなり予想外であった。

 そう言うと、燕は薄く微笑みを浮かべて。

 

「ふふふ。ていとくんの横に並び立ちたいですからね」

 

「…………そっか」

 

 そこでその笑顔は反則だろ、と思いながら思わず顔を逸らす。

 

 燕がこんなことを言い出したのは、とある能力者が『超能力者(レベル5)』に至ったと言う電撃ニュースを目にしてからだ。

 垣根や他の『超能力者(レベル5)』のように最初から高位の能力者だったのではなく、『低能力者(レベル1)』から『超能力者(レベル5)』に上り詰めたというのは、学園都市始まって以来の異例だ。

 そのニュースによって、どれだけの能力強度の低い学生達が励まされたことだろう。

 

 才能がなくとも努力次第でなんとかなるという実例が、ついにその目に現れのだから当然の帰結ではあるのだが。

 燕は勿論のこと、自分こそが学園都市最強だと思っている垣根でさえも、そのまだ見ぬ少女には敬意を示していた。

 

「私も今では大能力者(レベル4)ですし、もっともっと頑張れば、ていとくんに届きます!」

 

 そうにこやかに笑う少女に、垣根も不敵な笑みをもって答えた。

 

「ま、期待しないで待ってやるよ」

 

「むう。ていとくんはイジワルですっ」

 

「……くくっ」

 

「……ふふっ」

 

 なんでもない有り触れた日常。

 

 それを、二人は心の底から楽しんでいた。

 

 




禁書三期……三期はまだですかね……


あとモチベ維持のために他の原作キャラ出したい……ということで結末はそのままに……ちょっと流れを……

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