皆さん、おはようございます。愛染朝陽です。今日も晴れらしいですよ。
時刻は6:30:45。いつもこの時間帯に起きます。
顔を濡らしたタオルで拭き、一息ついてから布仏さんを起こす。
『布仏さん、布仏さん。朝だよ、起きて』
身体を揺ることは出来ないので声で起こそうとする。しかし、なかなか起きない。
『うーん……しょうがない』
このまま起きてくれないのも、置いていくのも罪悪感があるので頑張って起こそうとする。まだうまく動かせない筋肉を使い、腕を伸ばして布団の中にいる布仏さんの身体を揺すって起こしにかかる。しかし――
『う、わ――』
身体を浮かしていたことが災いし、ガクンと力が抜けた。僕は何の抵抗も出来ずに布仏のベッドと布仏さんに倒れ伏してしまった。
「ぐえ〜」
布団の中からは潰れたカエルのような音が聞こえた。
「――ふーん、起こしてくれたんだね。ありがとー」
『いえ、ベッドに、突っ伏して、しまいましたし。あと、ありがとう、ございます』
気にしない気にしないと布仏さんはにへらと笑って身体を車椅子に戻してくれた。ありがたいです。
『ご飯、食べにいきましょう』
「うん、いいよー」
カラカラと車椅子を押してくれて僕たちは食堂に向かった。
食堂では織斑君と出会ったので、思い切って一緒に食べることにした。布仏さんもいるので誘わないのもアレであろう。
織斑君の横には凜としたイメージがぴったりのポニーテールの女の子がいた。
『ずいぶん、朝から、食べるね』
「おう、朝食は1日の原動力だからな」
ちなみに横の女の子も織斑君と同じものを食べていた。
僕はお粥、布仏さんはお茶漬けだった。
「――何? ISの使い方を教えて欲しい?」
僕は授業終わりに織斑先生に教えを乞いに行っていた。
織斑先生は少し悩んだあと、口を開く。
「――教えてやりたいが、そういったことは山田先生の方が適任だな。私では少々やりすぎてしまう癖がある」
最後に怖いことを言いながら山田先生を呼んでアリーナへと案内された。
「――はい、では初めていきましょうか」
『はい』
訓練機である打鉄に乗せてもらい、山田先生による訓練が始まった。
「――跳ぶ際には最初はイメージや感覚、妄想なんてのも大事です。まずは少しだけ浮いてみましょう。
浮く際には脚部スラスターの動力を抑えながら姿勢制御でバランスをとる……姿勢制御は最初は難しいかもしれません」
言われたとおりに打鉄を浮遊させようとして脚部スラスターの圧力を調節しながら浮かし、姿勢制御でバランスを取ろうとして8回、失敗した。9回目で成功し、そこで山田先生から次のステップに進む。
「ここから今の状態を維持しながら上に上昇してみましょう。今度はちゃんと補助しますね」
そう言って僕のISの手を取って最低限のバランスを取ってくれた。
ISによる飛行上下訓練という初歩中の初歩は無事に成功した。
「――では先ほどの感覚を忘れてない今から飛行訓練にいきますよ、良いですね愛染君?」
『ばっちこい、です』
にっこりと微笑んだ山田先生は僕の手を取り、自分の肩にまわした。
「最初に飛ぶイメージを焼き付けます。私の肩につかまってください。私が飛行するのでその感覚を、感じてみてくださいね」
僕は肩にまわした手に力を入れた段階で山田先生が飛んだ。僕も拙いながらスラスターを働かせてバランスを取りながら、授業の時よりも少し遅いスピードで飛行してくれていたので慌てることがなかった。
飛ぶ、という行為は人なら一度は憧れたことがあるのではないだろうか?
空を自由に飛ぶ――何と自由で苦もなく、素晴らしいことだろうか。
「――どうでしたか? 何か掴めましたか?」
ゆっくりと降りた山田先生は僕にそう聞いてきた。僕はできる限りの笑顔で言った。
『――はい。おかげで掴める気がします』
「では、無理のない範囲でやってみましょうか!」
それから30分、僕は補助なしの飛行に成功した。それでもまだ他と比べると遅かったが僕は涙が出そうになるくらい嬉しかった。
「――今日はここまでですね……愛染君、すごくよく頑張りましたね」
『……いえ、先生の教え方が、上手だから、ですよ。それに僕は、遅れているので、練習あるのみ、ですから』
「…………頑張っていきましょうね、愛染君。私たち教師も力を貸しますから」
余談だが、愛染朝陽がIS学園に来るまでのことは調査済みである。行方不明になった期間を除き、隅まで調べているため、愛染朝陽の学力や周辺調査なども知られているため、そこに待ったをかけた教師は多数いた。
曲がりなりにもIS学園はエリート校と呼ばれるだけの倍率と高学歴の集まりである。そんな中に小学生で学歴が止まっている子を入学させて良いのかと。先生たちは何も入学を拒んでいるわけではない。だが、入学して、ISについても、普通の授業だってする。進んでいく授業に自身の取り巻く環境についてこられるか、潰れてしまわないか、危惧していた。
だが、それを押し通したのはIS学園上層部と政府であったため、教師陣も理事長も従うしかなかった。そんなために、教師陣は彼のことを自分たちの出来る範囲でバックアップしていこうと話し合ったのだった。
『ありがとう、ございます。頑張ります』
そう山田先生に言って頭を下げた。
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時間が過ぎ去るのは楽しく、頑張っている時ほど早く過ぎていくものである。
あっという間に一週間が過ぎ、僕と織斑君はアリーナに呼ばれていた。
『――そういえば、一夏君の、専用機? が来る日だったね』
思い出したように僕が告げると、織斑君はあぁ〜、とこちらもまた思い出したかのように呟いていた。
「そういえば千冬姉――じゃなかった織斑先生がそんなこと言ってたっけな。箒と何故かこの一週間、剣道しかしてなくて忘れてた」
『…………。それって、大丈夫なの?』
「…………。ダメかも分からん」
そんな話をしていると織斑先生と山田先生がやってきた。
「来ていたな。ではまず織斑からだ。愛染のほうは到着に少し遅れるらしい」
ガコン! と上空からコンテナのようなものが落とされ、衝撃で蓋が外れたように見えた。
「――これは」
中から現れたのは『白』を基調とした機体だった。
「織斑、お前の専用機になるのはこれだ。名前は――『白式』」
「――白式」
早速登場した織斑君はISを自分のカタチに合わせる
そして
「――よし、待機状態にして戻ってこい織斑!」
織斑先生に促され、こちらに帰ってきた織斑君。どうやら待機状態状態は腕輪のようだ。
「――いやいや、待たせてすまないね」
後ろから聞き覚えのある声とともにぬっ、と横から顔が伸びてきた。その顔は篝火ヒカルノ本人の顔だった。
『うわ――』
急な登場に驚いて思わず状態が仰け反り、車椅子から滑り落ちそうになる。しかし、倒れることはなく、両肩をしっかりと掴まれ、後頭部に暖かい感触が伝わってきた。
「篝火博士……オイタが過ぎますよ」
ため息を吐きながら僕を支えている木山夏生先生がいた。
「そうですねぇ、あまり過ぎるのは同じ博士として関心しませんね〜」
後ろからギリシャのIS研究者スチェスタ・ニーヴァルト博士。
「医者としてはもうやめてほしいのだがね」
ロシアのユーリスカヤ・ビルマ・リトビャク医師が揃い踏みであった。
「なぁに、これは挨拶がわりさ。では早速始めていこう」
全員が揃ってから僕のISの
前まで、車椅子の座席底部に設置したISコアを首元の
今回はその座席底部にあるISを専用機として使用するための調整である。
底部にはISコアを剥き出しのまま乗せているためヒカルノ、スチェスタ博士がISコア基準に組み上げていく。
ユーリスカヤ医師、木山先生は僕のバイタルチェックと首元のチョーカーの点検を行っていた。
ISを組み立てるのは博士と呼ばれている二人――スチェスタ博士はギリシャ支部を、ヒカルノ博士は日本支部に自分の技研を持っている――なら簡単らしく普通ならばコアと装備、設計図があれば十時間で作ってしまうらしい。本来ならば設計技師五人で1日かかるようなものなので異例である。
だが、今回は少し違う。ISを組み立てるのと同時に首元のチョーカーを計算しながら設計しなければならないのだが、それでも二人は苦もなく組み立てていた。
――五時間。ISをこの場で組み立て始め五時間が経った。
織斑君は先生によって帰らされ、山田先生は業務のため戻っていった。
この場にいるのは僕と織斑先生、木山先生、スチェスタ博士、ユーリスカヤ医師、ヒカルノ博士の六人。
「――出来た」
「――出来たわぁ」
それから数分、二人が完成の声を上げた。
「こいつを一から組み立てたのは久しぶりだよ。こいつの名前は――」
ヒカルノ博士が言わなくてもわかるこれは僕も使ったことがあるから。
これは打鉄だ――
「――打鉄だよ」
日本産の訓練機としても実用化されている打鉄。それが僕の専用機のようだ。
「――さて、それじゃあ出来たことだし早速乗ってみてくれ。装備は打鉄と変わりないから安心したまえ?」
ヒカルノ博士に促され、早速僕は今日やった訓練の復習を兼ねて飛行した。
上下に動いたりバランスを取りながら飛行したり、感覚を確かめるように歩いているときにフィッティングが完了した。
「――
「…………これは、『酷い』。まるで天に仕組まれていたかのようだわ」
「…………アレは本当にISか」
ユーリスカヤ医師が、スチェスタ博士が織斑千冬がポツリと何かを呟いていたが僕には聞こえなかった。
無事に
えぇっと……待機状態にするには自分の姿をイメージしてISを着けていない自分を想像すればいいんだったような。
むむむっ、と唸りながらイメージを固める。数秒後に僕はISから解放され、待機状態にすることができた。
「――うん、成功だ。よく出来ました!」
ヒカルノ博士が晴れ晴れとした顔で言葉を発する。しかし他の三人は口を噤んでいた。
「……あれは、あれじゃあ――」
……あれじゃ、まるで首輪じゃないか――
愛染の首元のチョーカーの下に黒くゴツゴツとした無機質な待機状態の姿を見て木山夏生は口元を押さえ出そうになった言葉を飲み込んだ。