――夜、消灯時間である23時ギリギリに同居人が帰ってきてベッドに座り、端末を使って何かをし始め、時折ベッドに置いた機械を使いながらカタカタと何かを打っていた。
寝る時間は僕より少し早いくらい。授業を受け、訓練をし、夜に追いつくために勉強をして寝る前に日記を書く。ここ最近書き始めたがはまってしまった。
あの後、山田先生が持ってきた僕の荷物を入れ終えてから、先ほどのこと、気になったことを聞いてみる。
『あの、僕の同居人の方なんですが……』
「はい? 更識簪さんのことですか?」
『はい。あの人は代表候補生なのですか?』
「良く知っていますね、そうですよ。簪さんは日本の代表候補生なんですよ」
すると、山田先生はですがと付け加えて話し始める。
「実は最近、彼女のISを製作している倉持技研という場所からストップがかかりまして中止になってしまったんですよ。それを彼女自身、ショックだったようで一時期引きこもっていました」
ということは僕にも関係があるということなのかな。
『倉持技研というのは?』
「はい。倉持技研というのは日本に存在するIS開発で最も有名なところでして打鉄の製作に大きく関わった企業でもあります。……最近では織斑君のIS製作に力を入れているらしくそのために更識簪さんの製作がストップしたらしいんですよね。
――そうそう、そこの中でも開発担当の『篝火ヒカルノ』という人は有名で、その人が全て担当していたとか」
……なるほど。覚えのある名前が出てきて思わず聞き返したが、間違いではなかった。
篝火ヒカルノ、僕のIS製作にいた一人だ。
『……なるほど、だからですか』
「はい?」
『いえ、何でもありません』
会話も終え、山田先生に感謝を告げてから机に向かい、勉強を始める。
まだまだやることは多い、少しでもみんなに追いつかねば。
消灯時間ギリギリに帰ってきて、こちらに見向きもせずベッドに座り、カタカタと端末を動かす簪さん。
……少なからず僕にも関係があるなら何とかしたいな。でも、とても僕一人だけじゃ力になれない、僕はISのことは学んでいるとはいえ、周りから遅れている、それこそ織斑君とかにも手伝ってもらわないと力になれないだろうが、あの反応を見るに多分無理だろうな。
…………駄目だ、良い案が浮かばないし、勉強が全然捗らない。気晴らしに体を動かそう。
そうと決めた僕は横に置いておいた5kgのダンベルを取り出して筋トレを始める。脚にも同じ重さの砂を巻きつけて伸ばしたり縮めたり、あげたり下げたりして続ける。
最近、嬉しいことに壁伝いになら歩けるようになった。と言ってもまだまだ拙く、数分が限界だったが着実に筋肉は付いているようで安心した。
疲労で手足が上がらなくなり、休んでいると規則正しい寝息が聞こえた。見れば簪さんがすでに寝ていた。だが今は午前0:45。女性なら遅いのではないだろうか? 布仏さんは22時には寝ていたのだから遅いと思う。
寝落ちするようにベッドの上で何もかけずに寝ていた簪さんにどうにか布団をかけてから、僕は再び机に向かって勉強と日記を書き始める。
いくら夏に近いからといってもまだまだ寒いときがあるから油断してはいけません、すぐに風邪をひいてしまいますからね。
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「おはよう……」
今日、箒さんが登校してきた。どうりでここ最近見かけないと思っていたが、あとから聞いたところ、部屋にこもっていたらしい。だが以前のような覇気はなく、顔色も優れておらず、とても心配になった。
「お、おい箒……大丈夫か? 腹の調子が悪いのか」
「……一夏か……大丈夫だ、心配するな」
見かねた織斑君は心配そうに聞くが、大丈夫だと言って、着席。そのままうずくまってしまった。
「おい朝陽、箒の様子がおかしい」
『大丈夫でしょうか、今にも倒れてしまいそうで、心配です』
何故箒さんがああなっているか、僕らは分からず考えていると織斑君が思いついたように声を上げた。
「……もしかして、最近の部屋割りが原因か? 箒のやつ、何でか前にも部屋を変えるの渋ってたからな」
『そうなんですか? でしたら今は誰に?』
あぁ、それは――と織斑君がそこまで言って、後ろから声がかかる。
「――それは僕だよ」
耳に残るハスキーボイス。身体の向きを変えて見るとそこには案の定、三人目の男性IS操縦者、シャルル・デュノアがいた。
「おう。おはようシャルル。
あぁ、急に部屋割りが変更になって、男性同士が一緒の方が良いだろうって言われてな」
一夏の挨拶にデュノアさんも返し、会話に入ってくる。
「何の話をしているのかな?」
デュノアさんにかいつまんで説明した後、僕らと同じように唸り始め、回答を出す。
「うーん……それは何とも言えないね、確実なのは本人に聞くことだけど、その本人があぁじゃ、聞けないし」
チラリ、と箒さんを見るデュノアさん。
いよいよもって声をかけかけるべきか、そんな時先生が入ってきて授業が始まった。箒さんは顔を上げていたが依然として顔色は優れなかった。
昼食の時も織斑君が話しかけたりしていたが上の空で、結局今日一日中だったがわからずじまいだった。
「――昨日はお話しできなかったから、良かったら部屋で色々と話さないかい?」
帰り際、デュノアさんからそんな提案を出された。断る理由もないので頷くと早速僕の部屋に移動になった。
『あまり、相部屋の人に迷惑にならない、程度にお願いしますね。色々と彼女のものがいっぱい、ありますので』
部屋に着いてから僕からデュノアさんに言っておく。変に触ったりはしないだろうが一応。
「うん、分かったよ、無闇には触らない」
そういったものの、気になるようだ。チラチラと視線を送っている。
僕が見ていることに気付いたんだろう、一回咳払いをしてから誤魔化すように話し始める。
「昨日は急いで話したから改めて。
僕はシャルル・デュノア、16歳。国籍はフランスで一応代表候補生ということになっているんだ。好きな食べ物はガレット、嫌いな食べ物は特にないかな。よろしくね」
改めて僕も名乗り、よろしくお願いしますと言って握手を交わす。
「しかし、愛染君は大変じゃない? 女性に囲まれて、車椅子での移動だし」
『もう慣れましたよ。いやはや慣れとは怖いものですね』
そんなものかな、とデュノアさんは呟く。
大丈夫ですよ、僕よりあたふたしていたはずの織斑君があそこまでクラスに溶け込めているんです、デュノアさんだってそう長くはかからないですって。
『そういえば、デュノアさんは代表候補生、ですよね?』
ならばこの際ちょうど良い、聞いてみよう。
「うん、そうだけどそれがどうかしたかな?」
『専用機とかは、持っていたりしますか?』
ピリッと空気が張り詰めた気がした。
「……あるよ。でも僕のはコアを
『すごいですね、どうやって改造したんですか?』
そう言うとデュノアさんは肩をすくめた。
「……ゴメンね、僕もそれなりに詳しくなったつもりだけど、流石にそのやり方は見てないから分からないんだ」
『いえ、わざわざありがとうございます』
数日後にISとチョーカーのメンテナンスにくる先生、博士たちに聞いてみよう。そう心に決めた。
「でも――」
と一度言葉を区切り、再び告げる。
「改造はわからないけど、一つだけ方法はあるよ。何をするのかは分からないけどね」
と、考えていた事態を収束できるのではないかという言葉にぱっと顔を上げてデュノアさんを見る。
「それほど難しいわけじゃないよ――
稼働データ……搭乗者の全ての操作記録と使用武器、スラスターの出力からダメージまで、文字通り全ての記録が詰まったもの。
専用機はこの稼働データの流出に気をつけなければならないと織斑先生が言っていた。
「稼働データはISからしたら重要な情報が詰まっているからね、これからでもいちからISが作れるほどにすごいんだ」
いちから……それなら簪さんの機体にもイケるかもしれない。
『すごく為になりました。ありがとうございます!』
「うん? や、役に立って良かったよ」
デュノアさんの手を握ってブンブンと振るう。感謝の気持ちを表しているのだが、よくわからないといった風に首をかしげていた。
それからはデュノアさんには色々な話を聞いた。フランスや旅行に行った海外の風景、食べ物……自分がISの操縦者と知った時、知られた時の環境の変化など、いろいろ聞いた。
「――そんな感じかなぁ……っと、話し込みすぎちゃったね、もうこんな時間だ」
すっかり聞き入ってしまい、時刻は午後19:35。すでに夕食の時間である。
「愛染君、話はまた今度ということになっちゃうな……この後も良かったら一緒にご飯に行かない? いち、織斑君も誘ってさ」
『いいですよ』
僕は二つ返事でそれを了承した。
その後、織斑君と合流して食堂に行き、ご飯を食べながら今度はISの話で盛り上がった。
二人と別れたあと、いつも通り勉強と筋トレをしながら、先生に何を聞いてどうするか考えていた。