矛盾点や何言ってんだこいつ等の場所があるかもしれません、もしよろしければご指摘いただけると幸いです。
「――愛染、次の休みに職員室に来るように」
授業終わり、織斑先生にそんなことを言われた。
多分、来たのだろう篝火博士から。
織斑君に何かあったのかと聞かれたがなんでもないと答えておいた。織斑君1人ならばまだしもここには皆がいる、さすがに言えない。
織斑先生の元に行くとたしかに渡した旨を伝えられた。
牧部先輩に会いに整備室に行くがおらず、簪さんもいなかった。
放課後にまた来ようと内心で思いながら授業は滞りなく進み、昼食となり織斑君、デュノアさんとそして彼が誘ったオルコットさん、凰さんと渋りながら来た箒さんだった。
織斑君の会話に合わせたり、笑ったりする三人と違い、箒さんだけは俯き加減に黙々と昼食を食べていた。
『……箒さん? 大丈夫ですか、どこか具合が悪いのですか?』
僕が安否を尋ねると箒さんはビクリと肩を跳ねさせて驚き、こちらを強張った表情で見たかと思えばすぐに顔をそらしてしまった。
「あ、いや、問題無い……」
『ですが――』
「すまないが、織斑先生に呼ばれていてな、先に失礼させてもらう」
二の句を告げる前にまだ残っていたトレーを持ち上げ去ってしまった。
「箒のやつ最近どうしたんだろうな。ここんところいつもああだし」
「…………」
織斑君の呟きには何も答える者はいなかった。
放課後になり、整備室に顔を覗かせるが簪さんはいたが牧部先輩はいなかった。
先輩にも色々とあるのだろう、と考え自分が先走り過ぎてたなと思い改める。今日でなくても良いのだ。それに簪さんが受け取ってくれないかもしれない、上手く言葉にできないかもしれないのだ。そのことを考えておこう。
――コンコン。
『はい? どなたですか?』
消灯時間である23時になる手前、簪さんが帰って来てから誰かがやって来た。
出てみるとデュノアさんだった。
「――あぁ。良かったまだ寝ていなかったね、ちょっと良いかな?」
『……どうしたんですかこんな時間に』
「実はね、整備室にいた人から呼ばれているんだ。ちょっと来てくれってさ」
牧部先輩が? でもこんな時間に?
『分かりました、ちょっと待っていてください』
だが無下にはできない、デュノアさんに少々待ってもらい、軽く勉強道具や筋トレの器具を片付けてから、すでに寝ている簪さんに毛布をかけて部屋を出た。
「わざわざごめんね、こんな時間に」
『いえいえ、良いですよ。呼ばれたなら仕方がないことです』
カラカラと車椅子が引かれる音と僕とデュノアさんの声だけが誰もいない廊下に響く。
あとは会話らしい会話はなく、黙々と整備室を目指していた。
『牧部先輩ー、いますかー……』
そこに着くと、中にいるであろう牧部先輩へと向かって呼びかける。
しかし、呼びかけた声は中の暗闇に吸収されたかのように何も反応がない、中に入って確認してみるとそもそも明かりがついていなかった。これでは人がいるかも怪しい。
「――ありがとね、わざわざきてくれて」
電子音がしたかと思えば、扉が閉まる音がした。驚いて車椅子ごと振り向くと電子ロックをしているデュノアさんと、確かに扉は閉められていた。
明かりはつけられてなく、唯一の光源ある電子ロック画面と扉上部の蛍光板に照らされてデュノアさんの金髪が妖しくきらめいていた。
『デュ、デュノアさ……――』
言い切る前にデュノアさんは素早く僕の口を塞いだ。そして顔を近づけ、囁くような声で呟く。
「手短に、答えろ。手に入れた機体の稼働データを渡してもらおう」
今までの温かみのあるハスキーボイスからは想像もつかないような冷たい声色でデュノアさんは囁く。
『稼働……データ』
そうだよ、と呟く。
『……僕は、持って、いません』
「…………」
数十秒の沈黙の後僕が持っていないことを伝えるとデュノアさんは黙ってしまった。かわりに口を抑える手の力が強くなった。
「――もう一度だけ言うよ? 稼働データは?」
『……僕は持って、いないです』
デュノアさんはため息を吐くと僕の口元を押さえていない手を下から上に大きく振り上げる。すると僕の身体は車椅子ごと浮き上がり、整備室の奥へと吹き飛ばされた。
『ゴホッ、ごほっ』
大きくむせ返る。落ち着くのを待たずにデュノアさんに無理矢理起こされる。
『あ、ISを使って……』
「ご明察だよ、流石に暗くても分かっちゃうか」
キリキリと首が絞まっていく感じがする。抵抗しようにも僕の力ではビクともしない。
「せぇっかく協力しようっていったのに台無しになったしさ、水色の髪の奴にはバレそうで毎日怖いしさ。こっちがどんなに苦労してるかも知らないで……
性別も偽ることになったのはしょうがないさ、僕が普通に学園に入っても得られる情報は普通止まりだからね。でもさ、日に日に自分が誰だかわからなくなる感覚に苛まれなきゃならないのはなんでなのさ。僕? 俺? 私? そんなのも分からなくなるのは恐怖だったよ。
ねぇ、知ってる? 私の声、今でこそこんなハスキーな声だけどね、ほんとはもっと高かったんだよ、ソプラノボイスってやつ? でもここに行くことになって喉を潰さなきゃいけなかったんだよ。
綺麗な声をだよ? せっかく
だいたい君もあの何やっても反応しない朴念仁も何で発見されちゃったのさ、見つからなければ
君たちが発見されたから僕がここにいるんだ。あの! 男の! 命令でさぁ!
本当に腹がたつ、あの男に命令されたことに! それを受けるしかない自分自身に‼︎
――じゃぁどうしろってのさ!
今の今まで貯めていた、溜まっていた感情が吹き出したのか声を荒げ、唾を飛ばしながら感情の赴くままに言う。
一人称がコロコロ変わり、口調もそれに伴って変わるが気にせずに続けられ、そして怒りの矛先は僕に向けられた。
投げられ、殴り、蹴られる。僕はなすすべなくやられるしかなかった。
『ゔっ! ごほっゴホッ、うえ゛っ⁉︎』
無造作に投げられ、無防備な腹部を何度もけられた。衝撃が身体中を駆け巡り、何かが逆流してくる感覚。気づかないうちに嘔吐していた。それでも蹴られるのは止まない。
「――はぁ、はぁ、はぁ……」
それが止んだのはデュノアさんが肩で息をするようになってからだった。僕はというと床に胃の中身を全てぶちまけて転がっていた。
『ごほっ……………………』
喋れない。身体中が痛い、お腹が痛い、視界が霞む。
朦朧とする意識をどうにかつなぎとめる。
「はぁっ……これで最後だよおとなしく渡してくれればこれ以上は手を出さない。渡してくれないなら殺す」
『…………何故、もっと早く……言わないんですか…………』
しばらくして僕がデュノアさんに言った言葉はそれだった。
「何……?」
『そう、談されれば、僕は話を聞きました。力にだって……微力かもしれないけど、力を貸します……でもこれは、間違って、いますよ……自分のためになら、他の人を傷つけていいことには、なりませんよ』
あの時自分がされたように、自分のために人を巻き込めば、その人が不幸になる。それはいけないことだ、僕のような人を見たくない。
「……何さ、それ。自分が欲しいもの全て手に入れてるみたいな発言じゃない、善人にでもなったつもりか⁉︎」
『違いますよ……違う。全てを無くしたから、失わされたから、奪われたから、僕みたいな人を見たくないんですよ』
「――良い子ちゃんぶんなよ偽善者が! たった一人の人間に変えられる数なんてたかが知れてんだよ!」
憤怒の形相を浮かべ、僕のことを女性とは思えない脚力で蹴った。身体が浮くほどの威力が僕の胴体を蹂躙し、パキッと何かが折れる音が聞こえた。
激痛で身動きできない身体、ひゅーひゅーと息をするごとに鳴る喉、それでも意識を繋ぎ止め、指一本もうごかせなくても視線はデュノアさんを確かに捉えていた。
『………………知って、いますよ。僕に、救える、ひとなんて、普通の人よりも、少ないでしょう……でも、だからなんですか。言ったはずです、僕みたいな人を、見たくないと。少しでも救えるのなら僕は救うし、助けになるなら協力するし、支えになるなら力になります。それで少しでも助けられたなら、改善できたら、支えになれたら、どんなに楽になれるか…………偽善でもいいさ、それで裏切られても……やらないで見捨てて後悔するより、やって君のやっていることは偽善だって罵られた方が良いさ!』
力を振り絞り、デュノアさんに向かって叫ぶ。言い切った後に吐血したが関係ない、今はそれどころじゃない。
「――――ッ」
デュノアは思わず息を飲んだ。こんなにボロボロになり、虫の息に近い状態だというのに真っ直ぐにこちらを見てくる。
何よりも真っ直ぐな力の篭った目、真っ直ぐであろうとする言葉に圧倒された。
くそ、くそくそくそくそっ認めない。何がやらないよりもやって後悔だ……お前一人支えになったところで大して変わらないだろう。ムカつく。いつまでもガキのような甘い言葉を吐きやがって。
――もし、こんな奴が近くにいたらどうだっただろう?
いつまでも成長しないガキのような言葉で私を惑わすな。そんな希望なんてないんだ、捨てたんだよ。
――誰かが支えになってくれたらどうだっただろう?
ふざけるな、そんなものまやかしだ、ないんだよ。だから……
――私をそんな目で見るな………見んじゃねぇ……見ないでよ…………
「――ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
そのどうしようもないほどの叫びは今を否定するためのものだったのか、何がが壊れてしまった慟哭なのかはこの場にいる愛染も、そしてシャルル・デュノアでさえ分からなかった。
叫び、ISの脚部を
――それを止めたのは果たして誰だったのか。
『……………あ』
しかし確認する前に愛染は、今まで保っていた意識が切れてしまい、確認することは出来なかった。
「…………誰だよ」
「あいにくだが、この少年がやられるのをただ黙って見ているわけにはいかないのでね」
いつの間にか入口から光が差し込んでいることに気づく。
そして確認するまでもなく乱入して来た人物はISに乗っていた。立ちはだかるような位置にいるため見えづらくシルエットでしか分からないがデュノアには十分だった。
「あぁっうざったいなぁっ!」
「――残念だよ一年一組、シャルル・デュノア」
デュノアもISを展開させる。視界をナイトビジョンに切り替えると、一学年では見たことのない顔の女性がISに乗っていた。
瞬時に手に武器を持ち、相手を屈服させるために引き金を引く。
対する人物はどこか失望したような口調で呟くと、それは起こった。
デュノアの手に握られていたアサルトカノン『ガルム』、パイルバンカー『
「ッ⁉︎」
突然起きた現象に目を白黒させて驚愕する。一瞬のうちに武器がバラバラにされたのだ、デュノアは警戒値を跳ね上げさせる。
「とは言っても、今は生徒だ。殺すことは出来ないとはいえ、十分だろう君には」
「っ、ほざけ!」
バカにされた、と思ったデュノアは頭に血を昇らせながらも再び眼の前に立ちはだかる敵を排除するべく武器を換装する。
二挺のパイルバンカー『
銃器は全て分解され、刃物は根元から折られた。一体どうやっているのかデュノアには分からなかった。
「くそっ、くそ…………」
そして最後には
「こんな終わり方か…………結局」
「さて、シャルル・デュノア君。君を拘束させてもらうよ、抵抗はなるべくしないでほしい」
「しないよ…………勝手に拘束でもなんでもすればいい」
諦めたように座り込むデュノアに金属の枷をはめていく。そしてすぐにデュノアを立ち上がらせる。
その後に気を失い、ぐったりとしている愛染を優しく抱きかかえ、整備室出入り口に向かって乱雑に声を投げかける。
「――生徒会長、お前の仕事の時間だ出てこい」
影からぬっと出てきた人物はやはり生徒会長更識楯無であった。
「あら? バレちゃった」
「白々しいぞ猫かぶりが」
おどける楯無に氷点下の視線を浴びせる牧部理澄。
「ここからは生徒会長の仕事だ、さっさと生徒会室に連れて行け。わたしも後から行く」
あらそう? 分かったわ。とだけ言ってデュノアを連れて整備室を出て行った。
「さて、まずは保健室に寄らなくてはな。アイツは……まぁ呼べば来るか」
牧部理澄も愛染を抱えて整備室を出た。後に残ったのはISの残骸だけだった。