IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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大変遅れました。
2,000文字程度、短くて申し訳ない。


二十五話『臨海学校、だそうですよ』

 

 

 

 

 あれから僕は失った数ヶ月を取り戻すようにISの動かし方、授業の勉強に明け暮れた。しかし、やってもやっても僕の体力と知力ではたいしたものにはならず、むしろ差は広がるばかりだった。

 それを見かねて織斑先生はISを使った訓練に付き合ってくれたり、山田先生も要点をまとめたプリントを作ってくれたのでほんの少しずつではあるが追いついているのが嬉しいです。

 あ、あとこの前に更識簪という人からお礼を言われました。どうやら記憶を失う前の僕は彼女にISのデータを渡していたらしく、それを使ってかなり完成に近づいてそのまま稼働可能までいったらしいです。

 

 ーーそうそう、そういえば先日にアリシア・ウォルトさん、ハイネ・ウォルトさん、サミュエル・ウォルトさんの三姉妹とお友達になったんですよ。最初に多少ぎくしゃくはしましたが、今ではたまに勉強も教えてくれるのでとても助かっていたりします。

 この前に何かお礼をさせて、と言った時に「あなたのISのデータを頂戴」と言われたので「僕みたいなのでよかったら」と端末を手渡すと「変わらないのね……」と呟かれたのはちょっと面食らいました。

 

 ボーデヴィッヒさんたちとは昼食の時によく一緒に食べながらとりとめのない話を聞いたりするようになりましたね。でも僕に対して負い目のようなものがあるようで態度がよそよそしいのが悲しいです。

 

 ーーそういえば先日、あのお医者さんから義手を取り付けてもらいました。ちょっと痛かったけどまた動かせるようになって良かったです。左眼の方は今日、なにやら四人の先生が来て僕の目のことを話していた。難しくてよく分からなかったけど再び使うのは禁止で、機能は外してしまうらしい。

 気だるげな印象を見受けられる……えーっと、木山先生は『無理なことしないと約束したじゃないか……』悲しげに呟いていた。ごめんなさい。

 でも先生たちの中で一番悲しそうに顔を歪めていたのは篝火、ヒカルノ? 先生だった。すぐに何処かへ行ってしまったので何でかは聞けなかったけどどうしたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ーーへぇ。そんなものまであるんですか、とっても楽しそうですね』

 

 季節はすでに初夏へとさしかかり、じわじわと暑さが顔を出し始めた頃、ウォルトさんたちと何気ない会話をしていると、ふと思い出したかのようにサミュエルさんが話し始めた。それはIS学園を離れて臨海へ赴き、ISの訓練をする行事があるとのこと。

 

 最近は何をするにしても新しい出来事で楽しいし、楽しみだ。海も言ったことも見たこともないのでどんなものなのかワクワクするーーーーでも。

 

 『……僕も、いけるかな?』

 

 この身体である、体調を理由に行けなくなっても不思議じゃない。

 

 「ーーま、大丈夫よ。一人になるような自由時間は無理だろうけどこの行事は生徒の基礎技術の向上と各自能力向上、さらに高難度の特化訓練の為のものだもの。貴方が参加できなかったらおかしいわよ」

 

 もし不参加だったら抗議してやるわとアリシアさんが優しげに告げる。

 僕は嬉しくなって笑った。僕の記憶がなくなっても誰かは僕のことを覚えていてくれる、そのことに。

 

 

 

 「――朝陽(・・)、少しいいか?」

 

 授業と次の授業の休み時間、お手洗いに行った帰りに箒さんに声をかけられる。

 

 『はい? どうしました?』

 

 「いや、今度の臨海学校という行事の件なんだが――」

 

 『あぁ。あの海にいくやつですね』

 

 『そうだ。それで当日初日は各数人ごとにまとまって個人戦、そのグループごとに団体戦を行うらしいんだが、もし朝陽(・・)さえ良ければ――って何故笑う?』

 

 『あ、いえ。箒さんを笑ったわけじゃないんです。ただ、嬉しくて』

 

「……そうか」

 

 ただ、名前を呼ばれただけ。それだけでも僕は、嬉しく思う。

 

 

 

 

 ――だからだろうか。

 

 

 「――――あ、いたいた――」

 

 

 ――臨海学校なんて楽しそうな行事があり、名前を呼んでくれるなんてことがあったから、浮かれていたから、緩んでいたんだろう。

 多分、記憶を失っているのも致命的な原因の一つだったのだろう。

 

 「――――『篠ノ之』さん! ちょっと手伝って欲しいことが――」

 

 パタパタと山田先生がやってくる。

 

 僕はその名前が聞こえた瞬間、鼓膜が音を拾うのを止め、視界から色が消え、感覚全てを手放す。

 

 

 篠ノ之? 篠ノ之ってあの(・・)篠ノ之? テレビで見たあの篠ノ之? ISを開発したと言ったあの篠ノ之? 僕の身体を弄くり回したあの篠ノ之? 篠ノ之、篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之篠ノ之――――

 

 

 思考を、放棄する。

 

 

 ブツリ。と回線を断ち切った音とともに全てが黒に塗りつぶされた。

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