IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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とりあえずこれで連日投稿は終了です。


Normal End 『篠ノ之束』

 

 

 

ーーこれは何もかもが間に合わなかった世界線。

 

 

 

 「あーー」

 

 千冬は目の前の現象に思考が追いついてこなかった。束と愛染が目の前にいる、束を愛染から離さなくてはーー

 ーーしかし、愛染の手足がないのはどうしてだ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 なぜそこら辺に無造作に散らばっている?

 何故何故、なぜーー?

 

 身体は無意識に行動していた。束を、目の前にいるモノ(・・)を生かして置けぬとばかりに持ち込んだ刀で斬り込む。

 袈裟斬りから右切上げ、左薙から唐竹へとシームレスに。

 この時の千冬の連撃は音速とほぼ同じ速度で斬り込まれていた。

 

 「ーーあっぶなーい、何するのさちーちゃん! ちょっと掠ったじゃん!」

 

 しかしそんな恐ろしい斬撃をなんて事のないような態度で避けるのだーー天災と呼ばれる篠ノ之束は。

 防いだであろう手首にはざっくりと切れ込みが奔り、血が滴っているがそれを構うことなく千冬に話しかけていた。

 

 「な、にを……何をしてるーー束ぇっ‼︎」

 

絶叫しながらかつての(・・・・)友に告げる千冬。そこで一夏達生徒がなだれ込むように部屋にやってきた。

 

 「千冬姉どうしたんーーうわっ! なんだこれ!?」

 

 「愛染君っ!?」

 

 目の前の出来事に絶句する面々、だが事態はそれだけでは終わらない。

 突如として窓ガラスを突き破り、壁を破壊して侵入してきたIS四機、それは学園から持ってきた『打鉄』二機と『ラファール・リバイブ』二機がこちらにーー正確には()に向かって襲いかかってきた。

 その僅かな時間で地に倒れ伏している愛染が光に包まれたかと思えばISを纏い、外部アタッチメントのブースターを使い外に飛び出してーー行こうとした。

 しかしそれは他ならぬ束によって阻まれる。どういう原理か向かってきたIS四機を瞬く間に分解し、愛染の外部アタッチメントブースター(手足となった移動手段)分解して(捥いで)再び愛染を地に堕とす。

 千冬たちはその光景をただただ見ていることしか出来なかった。

 

 「な、何してるんだよっ束さん! 千冬姉、一体何なんだよこれ!?」

 

 絶叫するかのような一夏の声で我に帰る千冬。そしてやっと一夏がいることに気づいたような顔を向けて、愛染を乱暴に掴み上げるとこちらに向かってきた。

 

 「あ、いっくんじゃん! 箒ちゃんもいる! いやー久しぶりに会えて束さんは嬉しいぞー!」

 

 ニコニコと笑う束。その顔に、その惨状に誰しもが戦慄の表情を浮かべていた。

 

 「愛染を離せ、この愚物が」

 

 千冬は鋒を束に突きつけ、睨み付けながら言う。束はニコニコとした相貌を崩さずに口を開く。

 

 「え? ダメだよ、コイツは私が持って帰えるんだ。ちょーどコイツを見て新しいインスピレーションが湧いて出たんだ! しかも他に類を見ないやつ! いやーいっくんやちーちゃん、箒ちゃんに逢いに来ただけだったけど良い拾い物だよ!」

 

 「っ、ね、姉さん」

 

 箒は何か言葉を紡ごうと口を開いだが何も出てこなかった。何よりこの目の前の存在に何を言ってもダメだと、今まで生きてきて両の手で足りるほどの少ない会話で悟ってしまった。

 

 次に動いたのはやはり千冬だった。愛染が盾にされても行動できるように気を張り詰めさせ斬りかかる。一刀で亡き者にしようという気概がその一撃には篭っていた。

 

 「ーーダメだよちーちゃん。言ったでしょ前にも、私の身体は細胞単位でオーバースペックなんだよ? さっきはちーちゃんがそんなことするはずないって思ったから避けられなかったけど人類の速さは私にとっては遅すぎるんだ」

 

 「ーーごふっ!?」

 

 何をしたのか全く見えなかった。千冬は血を吐きながら後方に飛んでいき壁に激突していた。いつのまにか束は千冬の刀を飴細工のように折り、両腕の骨を砕き、腹部に一撃見舞っていたのだ、それも束基準で言えば軽くであったが。

 

 「さてさて束さんはもう行くよ、やることが出来たからね。いっくん、箒ちゃんそしてちーちゃん。またね〜良いことを期待しておいてよ!」

 

 「ーーーーたぁばねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 咆哮と轟音を響かせながら、腕を砕かれたなら脚でとばかりに蹴りを放つ。しかしそれが届くことは無かった。

 

 「ばいばーいちーちゃん」

 

 それは束と愛染を包み込むように周囲から燐光(・・)が溢れ出したかと思えば、二人を包み込み、掻き消えてしまった。いつのまにか愛染の手足も、痕跡も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一年と少し、一夏達が三年生になる頃まで束と愛染は見つかることは無かった。

 

 千冬や山田麻耶達教師陣はもちろんのこと、一夏や箒などの交流があった生徒たちも自国の情報網等を使い探索に協力してくれた。しかしそれでも見つからなかった。

 

 それ(・・)が起こったのは三年生になった春の初頭だった。

 

 「ーーあれ? ISが動かない」

 

 「え、本当に? ーーいや動くじゃん」

 

 「あれーなんでだろ?」

 

 人によるがISが起動出来なくなる人たちが続出したのだ、それもまばらに。

 IS適性が変わらずに動かせない者もいれば、急に低くなり動かせなくなった者。適性が高いのに動かせない者、低いのに動かせた者ーー

 

 一夏や箒は問題なく動かせていたが代表候補生達にも異常は起きていた。セシリアと鈴音、ウォルト達、楯無がISを動かせなくなり、簪、ラウラは適性が下がり前よりも訓練を積まねば十分には動かせなくなった。

 この問題はIS学園のみならず世界中で起きていたため各国が問題の解決にてんてこ舞いになっていた。

 

 「一体何が起こってるんだ……」

 

 「分からん、ただ……嫌な予感がするんだ一夏。とてつもなく嫌な予感が」

 

 二人が世界中で起きている事に戸惑っていると突然IS問わずテレビ、スクリーンに()が映り込んだ。それは意気揚々と、興奮しながら話を始めた。

 

 「ーーやあやあレディース&ジェントルマン? 見てるかい束さんだよー?」

 

 あの日から姿形もなかった篠ノ之束がそこにいた。

 

 「今日はなんと! 革新的なISを造ったからそれのお披露目も込めてるんだ。まぁ世界の皆はもう見てると思うんだけどねー、まぁいいや。早速最新のISを見てくれ給えよ諸君!」

 

 急に映像が切り替わるとそこは宇宙を背景に地球が映っている映像だった。

 

 そこにはーー

 

 

一機のISが、

 

 

 見覚えのある顔が、

 

 あの時を最後に見つからなかった人が、

 

 ISを纏った銅像や剥製のように、宇宙空間を漂っていた。

 

 表情なんて変わらずにただそこに漂うだけの物と化した友人がーー

 

 ーーそこに、いた。

 

 「ーーぅおえ゛っ」

 

 一夏と箒は見た瞬間に吐いた。脳が理解してしまったから、目の前に映ったのが愛染であると理解してしまったから。

 他の者たちはみな呆然と映ったものを見ていた。

 

 「これこそが現行最新のIS、名付けて『エスス』。これはねー名付けるのに苦労したよ。このISはElect Sibylla Systemの頭文字から取っているんだ、まぁケルト神話から名前はあやかってるけどね。革新的なのはここからだよ? なんとこのISは現行全てのISと操縦者をリアルタイムで認識して観測、管理することもできるんだ。そして適正の有無、そして全人口の適正管理(・・・・・・・・)ーーいやぁこれが難しかったよ、何せ有象無象ほど多い人口をどうやってって思ったさ、でも流石は束さんだよ、世界に散らばったISと操縦者を手足に、そんでもってこの『エスス』も手足として使い、指向性を作って収束させる……いわばアンテナと電波の役割をさせてるってわけ! さらに! その集めた情報を更新し進化(・・)し続けるようにしてるんだ! すごいでしょ!? この『エスス』がある限りこの世界の平穏は保たれる(・・・・・・・・・・・・)んだ、素晴らしいよね!」

 

 なかば耳から抜けていく情報にそこで腰から崩れ落ちてしまった箒。

 

 「箒っ!?」

 

 「……大丈夫だ一夏。すこし腰が抜けてしまっただけだ」

 

 それでも一夏は箒に肩を貸し、近くの椅子に座らせる。すると箒は沈鬱げに口を開いた。その言葉はこれからの世界の行く末を語るかのように重く震えていた。

 

 「…………私たちはどこで間違ったんだろうな一夏、私や束姉さんが生まれた時からだろうか……? いや、きっとそうなんだろうな……

 あのIS、愛染を殺して生まれたあれのせいで世界はまた荒れるだろうよ。皆、IS操縦者なら思うだろうさ、日々適性が変わるならば次は私が乗れなくなるのかもしれない、一夏のように、愛染のように男がまた乗れるかもしれない、そんな期待を。

 不安と期待の応酬、世界はその二つで大きく揺れ動くだろうよ……ISが核抑止を上回った時から世界は束姉さんに握られていたんだ……」

 

 箒の言葉に、ごくりと一夏は生唾を飲み込んだ。ふとまだ映っている『エスス』とやらのISが目に入った。そこには姿形は愛染だがやはり愛染の面影を感じることはどうしても出来なかった。

 

 

 

 

 ーー世界は揺れる、全ては天災と呼ばれた一人の人物の掌の上で。

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