――そこはきっと、『天国』にも『地獄』にも近い場所。
※pixivでも同じ作品を投稿しました。タイトルは違いますが、中身に違いはありません。
きっと私が艦これを書くとしたら、こんな感じの設定になる。
※pixivでも同じ作品を投稿しました。タイトルは違いますが、中身に違いはありません。
「……あ? おい、今何つった?」
開かれた窓を伝い、フンワリと柔らかい麗らかな風が、執務室に籠もってカリカリと書類を片付ける俺たちの髪を心地良く凪いでくれていた。
爽やかな一時に満たされ、そろそろ人心地ついて一服入れようかとすら思っていたというのに、それを全て台無しにする報告が無情に落とされる。
「ですから、本日ヒトフタマルマルに艦娘が着任する予定なのですが…」
「何だそれ、聞いてないぞ?」
「そんなこと私が知るわけないじゃないですか」
眼鏡のブリッジに指を当て、クイッと位置を直すように押し上げる霧島。
チラリと左右に散らばる事務員たちに視線を送るが、誰一人としてこちらに意識を向けるものはいなかった。
これは要するに、自分は何も関わっていないと言外に主張しているのだ。自分のミスは素直に認める、その辺の分別はしっかり弁えているから、信用はしていいだろう。
つまり、新規艦の着任という重要事項が現状、誰の耳にも入っていないということになる。
だからこそ、ますます面倒なことになった。これが霧島のおちゃめな嘘であることを期待して、手元に持っていた資料をふんだくって目を通す。しかし悲しきかな、書類には確かに本日付けで艦娘が異動してくる旨が詳細に記されていた。
「うわ、マジだ。…しかも3隻も来るのかよ。何の手続きもしてねぇぞ?」
来ること自体は全然OKだ。労働力はどれだけあっても困らない。
ただ新規艦が着任すると、たとえそれが異動であったとしても、多量の手続きを踏まなければならない。それに加え、その手続きは当日までに済ませなければ、さらに追加の遅延手続きの処理も命じられる。
今回、手続きは何もしておらず、異動艦は3隻。合計して、優に5日は潰さなければ入港の手続きは終わらないだろう。
何たる落ち度、これは許せん。この手の資料は秘書艦にまとめさせているから――。
資料の右端に書かれた発行日を確認する。記載されている日付は3日前。
「3日前……は、確か…」
「鈴谷ですね」
「……またアイツか。そろそろ一回、念入りに灸を据える必要があるな」
ため息と共に深く椅子に沈み込む。
とはいえ沈んでいても事態は好転しない。取り敢えず鈴谷は減給決定として、今の時刻はヒトヒトヨンゴー。急いで片付けさせれば、夕刻には何とか寮部屋の用意は済ませられそうだ。
机の縁に設置してあるマイクを取り、スピーカーのスイッチを入れる。
『あー、あー。提督より火急の指令を通達。本日よりこの鎮守府に新たな同志が加わる。そこで雷、鳳翔、漣、榛名の4隻はこれより寮内の空き部屋を清掃し、内装を整えよ。繰り返す、雷、鳳翔、漣、榛名の4隻は寮内の空き部屋を清掃し、内装を整えよ。以上だ』
スピーカーの電源を消す。さて、多分こっちはこれで間に合うだろう。さて、次は――。
「おい、そこの我関せずを貫いてる一航戦の2Pカラー」
「張り倒します」
「お前ちょっとこいつら迎えに行ってこい。褒美にオヤツに取っといたハーゲ○やるから」
「仕方ありませんね」
なんてチョロいことでしょう。
風切り音が聞こえるほどに鋭く張り手を振り回していたのに、食べ物をチラつかせればいとも容易く手のひらをひっくり返す。そんなんだから一航戦の誇り(笑)と馬鹿にされるんだ。
「歓迎会とかなさいますか?」
「お前がここに来たとき、そんなもんやったか?」
「愚問でしたね」
それだけ言い残して、霧島は自分の仕事に戻った。
「それにしても――」
手元に残された資料に目を落とす。そこに記されている3隻の艦名は、他鎮守府との交流の少ない俺でも聞いたことがあった。
当然、『悪名』の方でだが…。聞く話によれば、多くの鎮守府で問題児扱いされているのだとか。
まだ挨拶も済んでいないというのに、肩にドッと疲れが溜まってきた。
「…またクセの強そうな奴らが来たなぁ」
「連れてきました」
「はいご苦労さん。ハー○ンは休憩室の冷凍庫に入ってるから」
「やりました」
無表情でスキップするダメ空母を見送って、連れてこられた3隻に視線を向ける。
全艦が全艦、上官の前だというのに仏頂面でそっぽ向いていて、問題児らしい不敬な態度が目立った。
「まずは長旅ご苦労だった。私がこの鎮守府で指揮を取っている提督だ。以後、よろしく」
その間、誰もこちらに一瞥すらくれることはなかった。
まぁ、こういった反応ならここでは
「んじゃ、そこの右端の薄紫サイドポニーから順に名乗っていけ」
いきなり指名させた少女は肩をビクつかせたが、すぐに腰に手を当てて威嚇するように名乗った。
「特型駆逐艦『曙』よ。…って、こっち見んな!! このクソ提督!!」
「安心しろ。こちとらお前みたいな小童みちゃ眼中に無ぇから。バインバインになって出直してきな。次」
なっ!? と声を上げる曙を無視して、次の自己紹介を催促。
その隣に立っていた、髪をフレンチクルーラーみたいに結んだ少女は、己の不幸を呪うかのようにため息を漏らして名乗った。
「朝潮型駆逐艦『満潮』よ。私、なんでこんな部隊に配属されたのかしら?」
「それは君が、隣の2隻と一緒に新任提督をイジメ抜いて、ノイローゼに追い込んだ困ったちゃんだからだよ。次」
うっ…、と声に詰まった満潮から横にずらし、最後に曙と同じようにサイドポニーに結んでいるネズミ色の髪の少女を見る。
「同じく朝潮型『霞』よ。ガンガン行くわよ。ついてらっしゃい」
「多少、上からなのが気になるけど、ほか二人に比べればマトモだな」
フンッ、と鼻を鳴らしてまたそっぽを向く霞。
何とも気の強そうな奴らばかり集まったもんだ。大人しくいうこと聞いてくれそうにないな、本当。
まぁ、それで絞まるのは
「さて、では今後の予定を軽く話しておこう。まず君たちには3日後から研修を受けてもらう」
「研修?」
「そうだ。ここは位置的に最は付かないまでも前線に近いから、よく戦場に駆り出される。これは、その時が来るまでに戦場での勘を養う大切な研修だ。しっかり取り組め」
「はっ!! 馬鹿馬鹿しい…」
おいおい、人が珍しく提督らしいことしてんのに水を指すなよ…。
つっけんどんにそう吐き捨てたのは――。
「文句あんのか? ――曙」
こいついきなり喧嘩売ってくるな。
「当たり前でしょ? そこの新しく改二が来た霞はともかく、私たちみたいな性能の低い駆逐艦はどうせ遠征要員に回されるに決まってるじゃない!!」
「それに私たち前科あるしね…。もしくは解体処分ってところかな?」
曙の意見に満潮も同調する。そこに潜むのは敵意と諦観、そしてほんの少しの落胆の色。
ほむほむ、こいつらの態度で引っかかってたけど、今の発言でようやく確信したわ。これはアレだな、この鎮守府の噂とか聞かなかったタイプのやつだな。だから、他の鎮守府みたいに軽んじられると思ってるんだろう。
なんだよ、ちょっとは可愛いとこあるじゃないか。
「いや、お前たちにもバリバリ前線に出てもらう。それこそ、鬼や姫なんかが出てくる海域にもな」
「「「……え?」」」
これには会話に参加してなかった霞もびっくり。
確かに俺だって曙の言った通り、遠征要員とかに回したいよ? 資材はどれだけあっても困ることはないからね。
でもさ出来ないんだよ。だってウチ、オールウェイズ人手不足なんだもん。
「うちの鎮守府な、『捨て艦上等』思想の三流軍人が提督してた元ブラック鎮守府なんだよ。結果は出してたみたいだけど、それに比例して轟沈数もかなりのもんだったぜ」
とくに駆逐艦の轟沈数がヤバかった。
最低値回しまくって使い潰しまくりましたと、データが有り有りと物語っていた程だ。
「それで、せっかく建造した艦娘が次々と沈ませられちまうってんで、ついに妖精さんたちがブチ切れてボイコットしたんだ」
「当然ね。命を軽んじるクズに相応しい手段じゃない」
「そこは俺もそう思う。けど、そいつが軍法会議で処された今となっても、まだ建造ラインが回復してないんだよ」
ブラ鎮時代の艦娘たちのほとんどが解体を望んだこともあって、素早い人員補充は必須事項だった。それなのに、その最も手っ取り早い手段が使えず、未だに手をこまねいている状態が続いている。
交渉に交渉を重ね、最後に脅迫までして武器開発は再開させたけど、建造だけはどうしても首を縦に振ってくれない。
おかげで新しい艦娘の建造が出来なくて困ってるんだよね。俺が着任してからずっと。
「仕方ないからって、他所から艦娘を転属してもらうんだけど、それがまたヤバいのなんの…」
送られてくる艦娘が全艦、漏れなく曰く付きなのだ。残念なことに、まともな艦娘が送られてきたことはない。
まぁ、それは俺が大本営に蛇蝎のごとく嫌われているからなのだけどね。
いちおう関係はあるけど、そこは置いておこう。
「目の前で何度も仲間が沈んで海に出れなくなった、度重なるセクハラで男性不信になった、回復もままならない強制的な出撃を繰り返して精神に支障を来した。あとは提督に反旗を翻したりとかな、そんなそこそこ大きな問題を抱えた、もしくは起こした奴らしかこの鎮守府には割り振られないんだよ」
そういった連中は無理に出撃させず、鎮守府内で書類事務をさせたり、食堂で働かせたり、掃除や洗濯などの雑務を任せたりと、抱えた問題に触れなさそうな仕事を各自割り振っている。
そのため、鎮守府内の仕事は円滑に回るんだがしかし、そうなってくると本当に海に出て戦う艦娘がいない。今の所属で海に出ていける頭数は、両手の指で足りてしまう程度と実に心許ない。
「おかげでこっちは、激戦を少数精鋭で戦い抜くしかないわけだ。戦艦も空母もいない、最高火力が重巡の駆逐艦メインの編成で」
「戦艦や…空母無しで?」
「さっきの加賀さんや、霧島さんは?」
「あいつらは事務員だ。海に出ず、俺と一緒に書類のお片付けしてる」
あの二人が戦えたのなら、どれだけ楽になることか…。
マジ使えねぇ、と思いたいけれど書類整理かなり助かってます。
「で、研修は少しでも生存率を上げ、かつ敵を屠るための術と感覚を養うためのものだ。真面目にやらないと――――死ぬぞ?」
ちなみにこれは脅しでも何でもない。
事実、俺の言うことに反抗して新人研修をサボりにサボって初出撃、何もできずに轟沈した艦娘も1隻や2隻じゃない。
「作戦次第だが、それでも駆逐艦で戦艦と戦り合ってもらうこともザラにある。お前たちにも……ん?」
おっと、目に見えて3隻の表情が固くなってしまった。怖がらせるつもりはあったから、大成功と言っておこう。
「なに、怖がらなくてもいい。ちゃんと受けさせすれば生き残れる」
そのための研修なのだから。
肩を震わせる彼女たちの前に立ち、ほくそ笑んでいる内心をおくびにも出さず、心の底から着港を歓迎するように両手を広げた。
そろそろ、いつもの挨拶いっとくか。
「ここは海軍から見捨てられたに等しい『はぐれ者』が集まる場所だ」
――だから、最高戦力として重宝される大和や武蔵はいない。
「利用価値も薄くて、邪魔でしかない輩がここに送られてくる」
――もはや狂ったとしか思えない性能を誇るため、大事に大事にされる島風や雪風もいない。
「そういったはみ出し者たちが、傷をなめ合って暮らしていく場所――」
――練度が高まれば、駆逐艦の域を超えて活躍する夕立や時雨もいない。
「ようこそ、『人材の墓場』へ」
頭のおかしい連中や、クセの強くて屈折した連中ばかりだけど――。
「俺たちは君たちを歓迎しよう」
――資材も食糧も供給が少ないんだ。手を取り合ってやっていこうじゃないか。
なお、この後の飛ばされてきた各艦娘たちの心境。
曙(とんでもないところに飛ばされてしまった感)
満潮(土下座したら前の鎮守府に帰してもらえるかしら?)
霞(『元』っていうか、進行形でブラックよね絶対)
書いてて思ったけど、艦これ作品は難しいですね。書けませんわ。